中国における小売業態の多様化
に関する研究
―外資系小売企業の進出を中心として―
(一部公開)
2012年2月14日(火)
楊 陽(専修大学大学院博士後期課程)
1研究目的
• 本研究は、
中国の小売市場での業態動向に注
目し、とくに業態多様化の発展プロセスを解明し
ようとしている
。
• 外資系小売企業の参入が中国の小売業態にど
のような影響を与えてきたのかを明らかにする。
とりわけ外資系小売企業がもたらした新業態、
ならびに業態多様化の発展過程を考察する。
• 欧米で主張されている理論仮説をレビューし、中
国小売業態の実態を検討する。
• 行政介入と消費需要の増大という側面で中国小
中国小売業態の研究意義
• 中国においては、小売業態論についての研究の
蓄積は必ずしも十分ではなく、いっそうの研究の
蓄積と体系的な把握が期待されている。
• 1990年代から中国においては、経済改革・開放
政策を行い、外資系小売企業の進出が続き、巨
大小売企業間の競争が世界的な規模で展開さ
れるようになり、国際的な視野からの小売マーケ
ティングや小売業態の理論的な研究の必要性
が強まっている。
• また、中国市場における小売業態の研究を通し、
他の新興国の小売業態研究にヒントを与えるこ
とが期待できる。
3目 次
1.外資系小売企業の参入による小売業態へ
のインパクト
2.小売業態に関する先行研究
3.中国小売業態の発展プロセスと特徴
4.中国消費市場の変化
5.中国市場における小売企業の事例分析
外資系小売企業の参入による
小売業態へのインパクト
中国小売市場における業態の多様化
注) ※ 行政介入とは、小売流通における規制(強化)政策や業界に対する新興策を意味する。WTO加盟以降、中 国の小売市場は行政による規制緩和で、自由な参入が行なわれ、次第に市場メカニズムによる調整が働くようにな ったといわれるが、根本のところでは国と地方の政府レベルでさまざまな行政介入が行われており、管理型の市場 システムという性格を有している。このことは、中国小売市場では市場のメカニズムの働きに依存する割合が増えつ つあるが、依然として政府による規制強化と規制緩和の組み合わせで小売業態の多様化が生み出されている。 5・生鮮食品市場
・伝統的な食品店
・伝統的な百貨店
・百貨店
・総合スーパー
・スーパーマーケット
・コンビニエンスストア
・ショッピングセンター
・ウェアハウスクラブ
・専門店・専売店
・ホームセンター など
既存主要業態
(改革・開放以前)
外資参入業態
(改革・開放以降)
行政介入
※
先行研究
(これまでの主な仮説)
• McNair,M.P. 小売の輪
• Hollander,S.C. 小売アコーディオン
• Davidson,W.R. et al. 小売ライフサイクル
• Connolly, B.M. ビッグ・ミドル
まとめ
• 本研究で取り上げた諸仮説は、主要な小売
業態に対して現実との対応をカバーすること
が困難である。現実に対応しきれない事例が
いくつかも存在している。
• また、諸仮説は、小売業態の生成・発展の全
体像に焦点を当てたものではなく、一部の側
面について焦点を当てているためと考えられ
る。
7中国小売業態の発展プロセスと特徴
• 中国が
開放・改革政策
を実施して以来、政府
の
行政介入
により、小売業態が発展してきた。
• 中国の行政介入段階、あるいは改革開放政
策に基づき、テスト段階、適応・調整段階、発
展段階、拡張段階と競争段階の5段階に分け
られる。
外資系小売企業に対する規制緩和の動き
段階
年代
規制緩和の動き
テスト段階
1992~1995
1992年社会主義市場経済体制の形成が開始。主要都市に
おいて中外合併・合作による小売企業の単独店出店を実験
的に認可
適応・調整
段階
1995~2001
・
1995年中外合弁によるチェーン店企業2社の設立(外資
の出資率
50%以下)を実験的に認可
・
1999年合弁小売企業の規制緩和の範囲を拡大し、参入
地域を、主要都市・4直轄市に拡張
発展段階
2001~2004 2001
年
WTO加盟、外資に対する規制を3年以内に撤廃す
ることを約束
拡張段階
2005~2007 2004
年
12月WTO加盟3年経過、外資に対する規制(進出
先、出資率など)を全面的に撤廃
競争段階
2007~現在 2007
年
12月沿岸都市部は、外資系小売企業に対する優遇
政策を撤廃
出所: 楊 陽(2011)「グローバルリテーラーの海外進出戦略に関する研究―カルフールとイオンの
中国進出戦略の事例分析を中心として―」 『専修社会科学論集』 専修大学大学院学友会
pp.89-96より作成
2012.02.14 専修大学経営研究所 第8回定例研究会 9各開放段階における業態選択の特徴
• テスト段階:進出企業の業態は主にDPであっ
た。
• 適応・調整段階:DP、GMS、SM、CVS、MHCな
どの業態が発展するようになった。
• 発展段階: GMSとDPは主流業態であった。
• 拡張段階:HC業態の発展が著しい。
• 競争段階:SS、SCとDPが再び注目を浴びるよ
中国市場における小売業態
• 本研究で取り上げた諸仮説は、アメリカにおける
小売業態の生成・発展のプロセスに関して、市
場のメカニズムによって登場したものであるとい
える。
• ところが、中国では、業態の多様化は初期段階
において、主に政府の主導により導入されたと
いう特徴を持っていると考えられる。SM,CVSなど
の業態はすべて政府における流通近代化政策
の一環として、政府の改革政策の実施により、
一気にそして短期間のうちに中国市場に導入さ
れた。
• WTO加盟以降、政府の行政介入を行いつつ、消
費需要に牽引され、小売業態が発展している。
11中国消費市場の変化
• 経済改革・開放政策が始まる以前、強制的な
計画配給制を行っていた。
• 90年代、生産が急速に発展し、供給が需要
を上回るようになってきた。中国は「消費大国」
になりつつある。
• WTO加盟以降、所得水準が上昇し、中間所
得層が急増している。
ビッグ・ミドル市場の形成
• 政府政策の牽引により、経済が発展し、国民
の収入が増えつつある。
• このような背景において、中間所得層が急増
し、消費市場の規模が拡大し、ビックミドル市
場は形成されてきている。
• 特に、WTO加盟以降、中国市場においては、
多様な小売業態の展開が加速した。
• 現在、中国市場においては、中間所得層を
ターゲットとしたGMS業態がメイン業態である。
13中国市場における小売企業の事例分析
• 百聯集団:政府主導によってM&Aを行い、多業
態で展開、中国市場において、小売企業のトッ
プであり、国有企業の代表例でもある。
• カルフール:初めてハイパーマーケットという業
態を中国に持ち込み、中国における総合スーパ
ーのデファクトスタンダード(業界標準)となった
• 平和堂:中国政府の要請に応じ進出が始まり、
母国市場で成功したモデル(GMS業態)を中国
まとめ
• 中国小売市場の発展の特徴は、急速な経済成長と大規
模な市場拡大を背景に、短期間に多様な小売業態を同
時に受け入れるメカニズムが働いており、このことが小
売業態の多様化を生み出す結果ともなっている。
• WTO加盟以前、国の行政介入により外資系小売企業の
多様な小売業態が導入され、さらにWTO加盟以降、いっ
そう消費規模が拡大し、中間所得層が増大し、競争環
境も厳しくなり、消費需要の多様化に応じるために小売
業態の多様化が活発に進行するようになったという仮説
を立てた。
• 本研究では、従来の欧米の仮説の問題点を検証し、中
国のWTO加盟前後の行政政策を分析し、消費市場の変
化ならびに事例分析を通して、中国の小売市場に必要
な仮説について問題を提起してきた。
15注 釈
• CVS:コンビニエンスストア
• CE:家電量販店
• DP:百貨店
• GMS:総合スーパー
• HC:ホームセンター
• MHC:ウェアハウスクラブ
• SC:ショッピングセンター
参考文献
• McNair,M.P.(1958), Significant Trends and Developments in the Postwar Period, in A. B. Smith (Editor),
Competitive Distribution in a Free High Level Economy and Its Implications for the University (Pittsburg: University of Pittsburg Press), pp.1-25.
• Hollander,S.C.(1966),” Notes on The Retail Accordion” Journal of Retailing, Vol. 42(Summer), pp29-40.
• Davidson,W.R., Albert D. Bates and Stephen J. Bass (1976)“The Retail Life Cycle,” Harvard Business
Review, 54(November-December) , pp.89-96.
• Michael Levy, Dhruv Grewal, Robert A. Peterson and Bob Connolly,(2005) “The Concept of the Big
Middle,” Journal of Retailing, Vol.81(Number 2), pp.83-88.
• 青木 均 「小売業態論と小売技術の国際移転」 『産研シリーズ』 1999年 • 石井 淳蔵、向山 雅夫編著 『小売業の業態革新』 中央経済社 2009年 • 江夏 健一 [ほか]編 『グローバル企業の市場創造』 中央経済社 2008年 • 川端 基夫 『小売業の海外進出と戦略』 新評論 2000年 • 柯 麗華 『現代中国の小売業』 創成社 2007年 • 高嶋 克義、西村 順二編著『小売業革新』 千倉書房 2010年 • 田口 冬樹 「グローバルリテーラーの経営戦略:ウォルマートのグローバル戦略と日本市場での展 開」専修大学経営研究所報 第185号 2010年 • 田村 正紀 『業態の盛衰--現代流通の激流』 千倉書房 2008年 • 向山 雅夫、崔 相鐡編著 『小売企業の国際展開』 中央経済社 2009年 • 楊 陽 「グローバルリテーラーの海外進出戦略に関する研究―カルフールとイオンの中国進出戦略 の事例分析を中心として―」 『専修社会科学論集』 専修大学大学院学友会 2011年 • 矢作 敏行 『発展する中国の流通』白桃書房 2009年 • 李 飛[ほか]編 『中国零售业对外开放研究』 経済科学出版社 2009年 中国語版 • 李 飛[ほか]編 『中国零售业发展历程』 経済科学出版社 2006年 中国語版 • 李 海峰「中国の大衆消費社会の進展と消費者行動の変化――都市部における消費実態調査に基 づく分析」『經濟學研究』 2009年 17