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新たな国際課税ルールを策定特集 BEPS プロジェクト の取組と概要 G20 財務大臣会合で BEPS プロジェクト最終報告書について報告 11 月開催の G20 サミットでも報告予定 BEPSプロジェクトとは 多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって 税負担を軽減している問

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新たな国際課税ルールを策定

「BEPS プロジェクト」の

取組と概要

多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した 租税回避により、税負担を軽減している問題、いわゆる 「BEPS」が顕著になっている。これに対応するため、 OECD租税委員会が「BEPSプロジェクト」を発足。10 月8日に開催されたG20財務大臣会合に最終報告書が 報告された。G20財務大臣会合での様子やBEPSプロ ジェクトの概要を紹介する。 取材・文/風間立信(株式会社表参道総合研究所)

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新たな国際課税ルールを策定 「BEPS プロジェクト」の取組と概要 特集  BEPSプロジェクトとは、多国籍企業が国際的 な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によっ て、税負担を軽減している問題「税源浸食と利益 移 転 」(BEPS:Base Erosion and Profit Shift-ing)に対処するために立ち上げられたプロジェ クトである。  2013年7月にOECD租税委員会(議長:浅川 財務省財務官)が作成した「税源浸食と利益移転 (BEPS)行動計画」に基づき作業が進められ、 2014年9月には第一弾報告書が公表された。  そして今回、本年9月のOECD租税委員会にお いて最終報告書がとりまとめられ、10月5日に 公表された後、10月8日にペルー・リマで開催 されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議(以下、 G20財務大臣会合)に報告された。  BEPS最終報告書の公表を受け、麻生大臣は10 月5日に談話を発表した(次ページ参照)。また、 G20財務大臣会合のワーキング・ディナーにおい て「BEPSプロジェクトの真価は、この合意がグ ローバルに協調して実施され、実際に公正な競争 条件が確保されてはじめて発揮される。今後は、 G20各国が自ら範を示し、税制を堕落させて底辺 への競争に参加することなく、BEPSプロジェク トの合意を着実に、高い質を維持したままで実施 することが必要」と発言。共同記者会見では、「企 業課税の歴史における明らかな転換点。我々は、 底辺への競争から、協力と協調へと移行している。 協調のない一方的な措置は、問題を解決するので はなく、より多くの問題を生むことを我々はとて も良く理解している」と強調した。  同報告書は、11月開催のG20サミット(トルコ・ アンタルヤ)で最終的に報告される予定。なお、 同 報 告 書 はOECDホ ー ム ペ ー ジ(http://www. oecd.org/tax/beps-2015-final-reports.htm:英語) で閲覧できる。

G20財務大臣会合で

BEPSプロジェクト最終報告書について報告

日   本:麻生太郎 米   国:ジェイコブ・ルー 英   国:ジョージ・オズボーン ド イ ツ:ヴォルフガング・ショイブレ フ ラ ン ス:ミッシェル・サパン イ タ リ ア:ピエル・カルロ・パドアン オーストラリア:スコット・モリソン 中   国:楼継偉 メ キ シ コ:ルイス・ビデガライ・カソ ト ル コ:ジュヴデト・ユルマズ ペ ル ー:アロンソ・セグラ EU議長国 (ルクセンブルク):ピエール・グラメーニャ E   C:ピエール・モスコヴィッシ OECD事務総長:アンヘル・グリア 共同記者会見に出席した財務大臣等

11月開催のG20サミットでも

報告予定

G20財務大臣会合の会場入口

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<ワーキング・ディナー> ○本日、G20財務大臣としてBEPSプロジェクト の最終報告書を受け取ったことは、大変、感慨 深い。様々な意見の違いを乗り越え、税制にお いて積極的に協調行動を採ることに合意できた ことは、我々のグローバルなリーダーシップを より強固なものとするであろう。 ○今回の合意は画期的だが、BEPSプロジェクト の真価は、この合意がグローバルに協調して実 施され、実際に公正な競争条件が確保されては じめて発揮される。今後は、G20各国が自ら範 を示し、税制を堕落させて底辺への競争に参加 することなく、BEPSプロジェクトの合意を着 実に、高い質を維持したままで実施することが 必要。そのために日本は、既に実施のための法 改正を始めている。G20としても各国の実施状 況をしっかりモニタリングしていくことが重要。 多くの国でBEPSプロジェクトで培われた制度 や解釈の調和と統合が進むことを期待する。こ の際、途上国が直面する課題や優先順位は大き く異なることに配慮し、各国の実情に合った支 援を併せて実施していくことも重要。このため に関係国際機関が協力していくことを期待する とともに、日本としても、途上国に対する技術 支援を一層充実させていきたい。 <BEPS共同記者会見> ○この場で、同僚大臣達と共に、歴史的偉業を記 念できることを光栄に思う。 ○我々は、この2年間懸命に作業し、国際課税分 野においてグローバルな問題にグローバルな解 決策を提示できることを示した。 ○これは企業課税の歴史における明らかな転換点。 我々は、底辺への競争から、協力と協調へと移 行している。協調のない一方的な措置は、問題 を解決するのではなく、より多くの問題を生む ことを我々はとても良く理解している。 ○列席の大臣達やプロジェクトに参加する大臣達 と、協調を深めていくことを期待。 1.平成25年7月にOECD租税委員会(議長:浅 川財務省財務官)がとりまとめた「税源浸食 と利益移転(BEPS:BaseErosionandProfit Shifting)行動計画」を受け、昨年9月の第一 弾報告書に続き、本日、最終報告書が公表され、 G20財務大臣・中央銀行総裁会議に提出され た。このBEPSプロジェクトは、私自身G7や G20などの場で議論を積極的に主導し、日本 政府も強く支持し、OECDなどの場で議論を 先導してきた。国際課税に関する国際的な協 力の歴史において転機となるBEPSプロジェク トの成果が、各国の協力の下、結実の第一歩 となったことを歓迎する。 2.近年、グローバルな経済活動の構造変化に各 国の税制や既存の国際課税ルールが追いつか ず、多国籍企業の活動実態とルールの間にず れが生じている。こうした中、多国籍企業が このようなずれを利用することで、課税所得 を 人 為 的 に 操 作 し、 課 税 逃 れ を 行 う こ と (BEPS)がないよう、各国の税制の調和を図 ると共に、国際課税ルールを経済活動の実態 に即したものとする必要がある。BEPSプロジ ェクトの最終報告書は、その実現のため、実 体面及び企業の透明性の向上や不確実性の排 除といった手続面も含めた15の行動計画の下、 包括的にBEPSに対応する諸措置を勧告してい る。日本は、本プロジェクトのこのような問 題意識に強く共感し、また、とりまとめられ た対応策を高く評価している。これらの対応 策により、企業間において公正な競争条件が 整い、納税者の公平感や税制に対する信頼が 確固たるものとなるであろう。 3.この最終報告書を受け、今後は実施段階(「ポ ストBEPS」)に入っていくが、BEPSプロジ ェクトの真価は、グローバルに協調して実施 されてはじめて発揮される。各国が、税制を 堕落させることなく、BEPSプロジェクトの合 意を着実に実施することを期待する。日本と しても、引き続き、実施に向け適切な対応を していく。また、BEPSプロジェクトの成果が 広く国際社会で共有されるよう、引き続き国 際的な議論を先導し、途上国を含む幅広い国 とOECDや関係する国際機関が協調するポス トBEPS枠組みの構築に貢献していきたい。 【参考】BEPS行動計画に関する最終報告書の公表についての麻生大臣談話(10月5日付)

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新たな国際課税ルールを策定 「BEPS プロジェクト」の取組と概要 特集  BEPSプロジェクトは、中国等のOECD非加盟 国がルールメーキングの段階から参加するなど、 多くの国の関与を得て進められてきたが、それだ けでなく、産業界・学会等の意見も幅広く取り入 れながら進められてきた。グローバル社会におい て重要な地位を占める日本の産業界・学会も、 BEPSプロジェクトの進展に大きく貢献してきた。  例えば、BEPSプロジェクトには、真面目に納 税する日本企業に過度な事務負担を与え、国際競 争上の不利な立場に追いやることがないことを確 保するという意義もあるところ、このような観点 から、経団連等の経済団体は、BEPSプロジェク トに積極的に関与してきた。  また、BEPSプロジェクトは、既存の国際課税 ルールを全体的に見直し、新たに策定されるルー ルに合わせて各国国内法の改正を勧告するもので あることから、日本の学会も、あるべき国際税制 という観点から貴重なインプットを与えてきた。  そして、財務省主税局は、田中琢二主税局参事 官の有害税制フォーラム共同議長就任を筆頭に、 各種作業部会の運営委員会のメンバーを務めるな ど、BEPSプロジェクトの議論の進行に主導的役 割を担うとともに、日本の産業界・学会と累次の ヒアリング・意見交換を行い、産業界・学会の意 見をBEPSプロジェクトの成果物に最大限反映さ せるべく努めてきた。  加えて、BEPSプロジェクトは、与党・政府の 税制調査会でも取り上げられ、活発な議論が行わ れており、国境を越えた役務提供への消費税課税 等については、最終報告書の内容を先取りする形 で、既に法制化が行われている。  このように、BEPSプロジェクトに対し、日本は、 産学官が緊密に連携して、いわばオールジャパン として精力的に取り組んできた。  このようなBEPSプロジェクトの成功に向けた 日本の積極的な関与の中でも特に重要な存在であ る の が、 ア ジ ア か ら 初 め てOECD租 税 委 員 会 (CFA:Committee on Fiscal Affairs) の 議 長

に選出された浅川雅嗣財務官である。 浅川議長の活躍  2011年6月のCFA議長就任以来、浅川議長は、 CFAでの議論を牽引し続けてきた。  財務省幹部として多忙を極める立場にありなが ら、浅川議長は、CFA議長への就任早々、CFAの 業務改革を行った。各作業部会での議論の結果を 承認するというボトムアップ方式であった従来の CFAの業務のあり方を、CFAビューロー(CFAの 今後の作業の方向性を議論する運営委員会)が各 作業部会に積極的に指示を与えるトップダウン方 式へと大きく改革した。その結果、議長就任前は 年3~4回程度の開催であったCFAビューロー は、昨年は6回も開催された。  BEPSプロジェクトの最終報告書のとりまとめ に至る過程での、浅川議長の貢献度は計り知れな い。しかし、前述の麻生大臣の発言にもあるとおり、 BEPSプロジェクトの真価は、最終報告書の内容 がグローバルに協調して実施され、実際に公正な 競争条件が確保されてはじめて発揮されるもので ある。  引き続き浅川議長のリーダーシップの下、最終報 告書の内容が着実に実施されることを期待したい。 今後のBEPSプロジェクト  上述のとおり、BEPSプロジェクトは、OECD 加盟国のみならず、OECD非加盟のG20メンバー 8か国もOECD加盟国と同様に意見を述べ、意思 決定に参加するものである。OECD加盟国以外に も門戸を開放することによって、より意義のある 議論が可能となる一方、参加国が増えるにつれ、 各国の利害対立が大きくなり、議論が複雑化する こととなる。とりわけ、新興国がBEPSプロジェ クトの議論を通じて自国の課税権の拡大に利用す る傾向にあることが、議論の複雑さの大きな要因 となっている。  今後の実施段階においても、様々な困難が生じ ることが予想されるが、日本の積極的な先導によ り、円滑にプロジェクトが進められていくものと 期待する。

オールジャパンとしての BEPS プロジェクトへの取組

■P r o f i l e 浅川 雅嗣(あさかわ まさつぐ) 1981年大蔵省入省。85年プリンストン大学修士。アジ ア開発銀行総裁補佐官、IMF財政局審議役、主税局国際 租税課長、国際局総務課長、内閣総理大臣秘書官、国際 局次長、総括審議官、国際局長を経て、2015年7月よ り現職。2011年6月よりOECD租税委員会議長。 著書、論文に「コンメンタール改訂日米租税条約」(大 蔵財務協会、05年)、‘Baseerosionandprofitshifting’ (WorldCommerceReview,June2012)等多数。 OECD租税委員会議長

浅川 雅嗣

財務官

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国際的な税制の抜け穴を利用する多国籍企業に対処

近年、企業が調達・生産・販売・管理等の拠点 を国際的に展開し、電子商取引も急増するなど、 グローバルなビジネスモデルの構造変化が進む 中、この構造変化に各国の税制や国際課税ルール が追いつかず、多国籍企業の活動実態と課税ルー ルとの間にずれが生じている。多国籍企業がこう した国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税 回避を行うことにより、税負担を軽減している問 題 ―「 税 源 浸 食 と 利 益 移 転 」(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)―が顕在化してい る。 多国籍企業によるBEPSは、政府、個人、法人 のそれぞれに問題をもたらす。まず政府にとって は、納税者の不公平感の高まりによる税制に対す る信頼の揺らぎや、税収の減少等による財政の悪 化をもたらすとともに、発展途上国においては経 済成長を促進するための公共投資に必要な財源が 不足することとなる。また、個人にとっては、国 境を容易に越えられないことから、より大きな割 合の税負担を強いられることとなる。そして、企 業にとっては、BEPSを利用した節税を行ってい ない企業やBEPSを利用できない国内企業(中小 企業等)の競争条件が不利になり、公平な競争が 害されることとなる。 こうした問題に対応するためには、公正な競争 条件(Level Playing Field)を確保し、多国籍企 業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用して課税 逃れを行うことがないよう、国際課税ルールを世 界経済及び企業行動の実態に即したものとすると ともに、各国政府・多国籍企業の透明性を高める ために国際課税ルール全体を見直すことが必要で あるところ、OECD租税委員会(議長:浅川財務 省財務官)は、2012年6月より「BEPSプロジェ クト」を立ち上げた。 その後、OECDは、2013年7月に15の行動か ら成る「BEPS行動計画」を公表した。BEPS行動 計画は、G20サミット(2013年9月、サンクト ペテルブルク)に報告され、日本をはじめとする G20諸国から全面的な支持を得た。行動計画の実 施にあたっては、OECD非加盟のG20メンバー8 か国(中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブ

多国籍企業が国際的な

税制の隙間や抜け穴を利用

「BEPSプロジェクト」年表

2012年6月  ─OECD租税委員会本会合において、BEPSプロジェクトを開始  ─G20サミット(墨:ロスカボス)でBEPS防止の必要性を明記 2013年2月  ─「AddressingBEPS」公表。 2013年6月  ─G8サミット(英・ロックアーン)で、BEPSプロジェクトを支持 2013年7月19日  ─「BEPS行動計画」公表。G20サミット(露・サンクトペテルブ ルク)に報告 2014年9月  ─BEPS報告書(第一弾)を公表。11月のG20サミット(豪・ブリ スベン)に報告 2015年9月  ─BEPS最終報告書をとりまとめ、10月のG20財務大臣会合(ペ ルー・リマ)に報告。11月のG20サミット(トルコ・アンタ ルヤ)に報告予定。

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新たな国際課税ルールを策定 「BEPS プロジェクト」の取組と概要 特集 ラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフ リカ)がOECD加盟国と同様に意見を述べ、意思 決定に参加しうる枠組みが採用されている。 2014年9月のBEPSプロジェクト第一弾報告書 の公表に続き、本年9月のOECD租税委員会にお いてBEPS最終報告書がとりまとめられ、10月5 日に公表された。同最終報告書は、10月8日の G20財務大臣会合(於:ペルー・リマ)に報告さ れたところ、今後、11月15・16日のG20サミッ ト(於:トルコ・アンタルヤ)で報告される予定 となっている。 今回のBEPSプロジェクトの議論の背景にある のは、課税権は国家歳入の中核であるとともに、 最も重要な国家主権の一つであり、各国は自国の 課税主権に基づき他国の税制への影響とは独立し て国内税制を設計しているということである。グ ローバルな経済活動に対し、ローカルな税制が適 用される結果、多国籍企業の所得に対し、課税権 の重複(二重課税)あるいは隙間(二重非課税) が生じる可能性がある。 二重課税と二重非課税のうち、これまでの伝統 的な国際課税ルールは、二重課税の調整を主目的 としており、例えば、「PE(恒久的施設)なけれ ば課税なしの原則」や、「独立企業原則(ALP)」 などの原則に基づいて、二重課税が生じないよう、 各国の課税権の配分を行ってきた。企業の所在地 と価値創出の場所が概ね一致していた従来のビジ ネスモデルにおいては、伝統的な国際課税ルール は二重課税の調整のためのツールとして、適切に 機能していた。 ところが、近年、多国籍企業は、販売、知財管 理、生産の各段階、雇用、マーケティング等の機 能をグローバルなレベルで最適な国に配分(グ ローバルサプライチェーン)している。グローバ ルサプライチェーンにおいて、多国籍企業は、各 国に展開されたグループ企業に自由に機能を配分 することが可能であり、とりわけ大きな付加価値 を生み出す無形資産や資本については、容易にグ

機能不全になった

伝統的な国際課税ルール

BEPSプロジェクトについて

「BEPSプロジェクト」の三本柱

○ BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクトとは

・ 企業が調達・生産・販売・管理等の拠点をグローバルに展開し、電子商取引も急増するなど、グローバルなビジネスモデルの構造変化が進む中、この構造変化に各国の税制や国際課税ル ールが追いつかず、多国籍企業の活動実態とルールの間にずれが生じていた。

・ BEPSプロジェクトは、公正な競争条件(Level Playing Field)という考え方の下、多国籍企業がこのようなずれを利用することで、課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行うこと(BEPS) がないよう、国際課税ルールを世界経済並びに企業行動の実態に即したものとするとともに、各国政府・グローバル企業の透明性を高めるために国際課税ルール全体を見直すプロジェクト。 ○ 背景・経緯 ・ 各国がリーマンショック後に財政状況を悪化させ、より多くの国民負担を求める中、多国籍企業の課税逃れに対する批判が高まったことを背景に、2012年6月、OECD租税委員会(議長: 浅川財務省財務官)が本プロジェクトを立ち上げ。 ・ G20(財務大臣)からの要請も受け、2013年7月には、「BEPS行動計画」を公表。行動計画の実施にあたり、OECD非加盟のG20メンバー8か国(中国、インド、南アフリカ、ブラジル、 ロシア、アルゼンチン、サウジアラビア、インドネシア)も議論に参加。 ・ 2014年9月に「第一弾報告書」、2015年10月には「最終報告書」を公表し、G20財務大臣に報告。11月のG20サミットにも報告予定。 ○ 今後の取組み(ポストBEPS) ・今後は、「ポストBEPS」として、以下の取組を実施していく。  ①各国で必要な法整備及び租税条約の改正作業・各国の実施状況のモニタリング  ②残された課題につき、継続検討  ③開発途上国を含む幅広い国と関係機関が協調する枠組み(技術支援等を含む)の構築 ・2016年は、日本がG7議長国(中国がG20議長国)となることから、上記の取組みを重要議題の一つに掲げ、議論を推進するべく各国と協調していく。 (企業が調達・生産・販売・管理等の拠点をグローバルに展開し、グ ループ間取引を通じた租税回避のリスクが高まる中、経済活動の実態 に即した課税を重視するルールを策定) (例えば、グローバル企業の活動・納税実態の把握のための各国間の 情報共有等の協調枠組みの構築等) (租税に係る紛争について、より効果的な紛争解決手続きを構築する と共に、今回のBEPSプロジェクトの迅速な実施を確保) A. グローバル企業は払うべき(価値が創造される)ところで税金を 支払うべきとの観点から、国際課税原則を再構築 〔実質性〕 B. 各国政府・グローバル企業の活動に関する 透明性向上〔透明性〕 C. 企業の不確実性の排除 〔予見可能性〕

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果、多国籍企業は、価値創造の場ではなく軽課税 国において所得を生み出すことが可能となってお り、そのような多国籍企業の所得に対して伝統的 な国際課税ルールを機械的に適用する場合、「二 重非課税」や「価値創造の場と納税の場のかい離」 が生じるおそれがある。 このような伝統的な国際課税ルールでは対応し きれない「二重非課税」や「価値創造の場と納税 の場のかい離」に対し、各国の税務当局は、これ まで独自に対抗策を試みてきたが、一国のみでグ ローバルに展開する多国籍企業の租税回避を防止 することには限界がある。そのため、新たな国際 課税ルール(二重非課税の防止、価値創造の場に 基づく課税権の配分)の必要性が高まっていた。 BEPSプロジェクトはこのような背景のもと、 G20との共同プロジェクトとして、進められてき たものである。 BEPSプロジェクトの意義として、まず、上述 のBEPSがもたらす問題点が解決されることが挙 げられる。すなわち、BEPSプロジェクトが実施 されることにより、各国政府にとっては、多大な コストをかけることなく多国籍企業の租税回避行 為を防止することができ、BEPSによる税収の減 少を防ぐとともに、税制に対する信頼を回復する ことができる。個人にとっては、多国籍企業の租 税回避による個人納税者の相対的負担増を解消す ることができる。そして、企業にとっては、租税 回避を行う多国籍企業との競争条件の不利が是正 されることになる。 これに加え、、BEPSプロジェクトは、次の3点 において、これまでのOECD租税委員会のプロ ジェクトとは異なる画期的なものである。 ① 「二重課税の排除」から「二重非課税の排除」 に大きく重点を移すものであり、既存の国際課

BEPSプロジェクト最終報告書の概要

A. グローバル企業は払うべき(価値が創造される)ところで税金 を支払うべきとの観点から、国際課税原則を再構築〔実質性〕 B.各国政府・グローバル企業の活動に関する透明性向上 〔透明性〕 (4)透明性の向上 (1)電子経済の発展への対応  電子経済に伴う問題への対応について、海外からのB2C取引に対する消費課税のあり 方等に関するガイドラインを策定した。 ※ 電子経済を利用したBEPSについては、他の勧告を実施することで対応可能。更に、 消費課税やBEPS対抗措置で対応できない問題について、物理的概念の存在を根拠と して課税する現行の税制とは異なる課税方法の可能性等について、検討を継続。 行動1 電子経済の課税上の課題への対応 → 27年度税制改正で対応済み  多国籍企業による租税回避を防止するため、国際的な協調のもと、税務当局が多国籍企 業の活動やタックス・プランニングの実態を把握できるようにする制度の構築を図った。 行動5 ルーリング(企業と当局間の事前合意)に係る自発的情報交換 行動11 BEPS関連のデータ収集・分析方法の確立 行動12 タックス・プランニングの義務的開示 → 今後検討 行動13  多国籍企業情報の報告制度(移転価格税制に係る文書化) → 28年度税制改正で対応予定 C. 企業の不確実性の排除 〔予見可能性〕 (2)各国制度の国際的一貫性の確立  各国間の税制の隙間を利用した多国籍企業による租税回避を防止するため、各国が協 調して国内税制の国際的調和を図った。 行動2  ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化 → 27年度税制改正で対応済み 行動3 外国子会社合算税制の強化 → 今後、法改正の要否を含め検討 行動4 利子控除制限 → 今後、法改正の要否を含め検討 行動5 有害税制への対抗 → 既存の枠組みで対応 (5)法的安定性の向上  BEPS対抗措置によって予期せぬ二重課税が生じる等の不確実性を排除し、予見可能 性を確保するため、租税条約に関連する紛争を解決するための相互協議手続きをより実 効的なものとすることを図った。 行動14 より効果的な紛争解決メカニズムの構築 → 対応済み  伝統的な国際基準(モデル租税条約・移転価格ガイドライン)が近年の多国籍企業の ビジネスモデルに対応できていないことから、「価値創造の場」において適切に課税が なされるよう、国際基準の見直しを図った。 行動6 条約濫用の防止 → 租税条約の拡充(含行動⑮)の中で対応 行動7 人為的なPE認定回避 → 租税条約の拡充(含行動⑮)の中で対応 行動8-10 移転価格税制と価値創造の一致 → 今後、法改正の要否を含め検討 (3)国際基準の効果の回復  BEPS行動計画を通じて策定される各種勧告の実施のためには、各国の二国間租税条 約の改正が必要なものがあるが、世界で無数にある二国間租税条約の改定には膨大な時 間を要することから、BEPS対抗措置を効率的に実現するための多数国間協定を2016年 末までに策定する。 行動15 多国間協定の開発 → 参加予定  (6)BEPSへの迅速な対応

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新たな国際課税ルールを策定 「BEPS プロジェクト」の取組と概要 特集 税ルール・国内法を所与とした上で議論を行っ てきた従来のCFAとは異なり、既存の国際課税 ルールを全体的に見直し、新ルールに合わせた 各国国内法の改正を勧告するものであること。 ② OECD加盟国のみならず、OECD非加盟のG20 メンバー8か国もOECD加盟国と同様に意見を 述べ、意思決定に参加するものであること。 ③ G8/G20で議題に上がるなど、プロジェクト推 進に向けて多大なる政治的サポートを得たもの であること。 今般とりまとめられた15の行動のうち、1つの 行動の勧告内容を実施することによって、全ての BEPSに対応できるわけではなく、BEPSプロジェ クトでは、包括的(holistic)アプローチをとる ことによって、効果的にBEPSに対応することが 期待されている。例えば、資金提供等を行うが重 要な経済活動等を行わない、いわゆる「Cash box」といわれる関連企業(図におけるX社)を 軽課税国に置き、他の関連企業に資金提供を行っ た対価として多額の超過利潤を得るというBEPS の典型例について、BEPSプロジェクトでは図の ように各行動の勧告内容が相互補完的に作用する ことにより効果的に対応されることとなる。 今後、BEPSプロジェクトは最終報告書の勧告 内容を実施する段階に移行する。すなわち、各国 は、国内法改正を伴う勧告については、勧告の内 容を踏まえ国内法改正の必要性及び改正のタイミ ングを検討し、租税条約に関する勧告については、 同勧告の内容を含む租税条約を拡充することが期 待される。財務省は、国境を越えた役務提供への 消費税課税や外国子会社配当益金不算入制度等に ついて、最終報告書の内容を先取りする形で見直 すこととし、税制調査会や国会での審議を経て、 平成27年度税制改正において既に法制化を行って いる。各国がBEPSプロジェクトの成果を協調的 に実施することによって、多国籍企業のBEPSを 防止し、各国の税源が適正かつ公平な形で確保さ れるとともに、納税者間の公正な競争条件が達成 されることに期待したい。

BEPSプロジェクトにより

期待される具体的な効果

行動⑫ 租税回避スキームの税務 当局への報告義務 行動③ X社の所得をA社の所得に合算して 課税(外国子会社合算税制) 行動⑬ 多国籍企業グループの活 動実態の報告義務(移転 価格税制に係る文書化) 行動⑭ 紛争解決手続きの効果的 実施 行動⑮ 多数国間協定による条約 改定の迅速な実施 研究開発費用の提供 無形資産の 低価格譲渡 貸付 A国 X国 (軽課税国) Y国 【軽課税の子会社を利用したBEPS全体】 【融資に伴うBEPS】 各国 税務当局 行動④ X社の所得をA社の所得に合算して課税 (外国子会社合算税制) 行動⑧ 無形資産を事後的に評価し、事前の譲渡価格とのかい離 が大きい場合には価格を調整して課税(所得相応性基準) 行動⑧−⑩ 収益をあげるだけの実体のない X 社(= Cash box ) に超過利潤を認めず(移転価格税制) 行動⑥ 租税条約の恩典(源泉課税 の減免)を認めず (租税条約の濫用防止) 親会社(A社) 関連企業B社 【無形資産を利用したBEPS】 【条約の濫用によるBEPS】 収益の分配 将来収益の蓄積 ロイヤル ティ支払 ロイ ヤルティ 支払 ライ セン ス付 ライセンス 付与 (無形資産を実質的に開発・ 維持・利用する主体) 関連企業C社 (A国及びX国との租税条約上、 源泉課税の減免) 関連企業Y社 (資本提供のみ実施) (無形資産の保有者) 関連企業X社 (=Cash box)

利子支払 (残余利益)

BEPSプロジェクトの包括的(holistic)アプローチ・Cashboxの例

参照

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