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日中大学生の自我同一性地位に関する比較研究

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Academic year: 2021

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日中大学生の自我同一性地位に関する比較研究

―文化的自己観からのアプローチ―

許英美・田中雄三

要 約 本研究では日本H 大学教育学部の学部生 254 名(男子 122 名,女子 132 名)と,中国 B 大 学教育学部の学部生276 名(男子 93 名,女子 183 名)を調査対象とし,文化的自己観の視点 から日中大学生の自我同一性地位に関する比較研究を行った。日本人と中国人の自我同一性地 位の比較を行った結果,日本人の「同一性達成」,「D−M 中間」が中国人より有意に多く,中 国人の「A−F 中間」,「積極的モラトリアム」が日本人より有意に多かった。また,文化的自 己観においては,日本人は相互依存的自己観の得点が相互独立的自己観の得点より有意に高か った。中国人は相互独立的自己観の得点が相互依存的自己観の得点より有意に高かった。 キーワード:日中大学生,自我同一性地位,文化的自己観 Ⅰ.問題と目的 人 間 が 人 間 と し て 成 熟 し て い く た め に 取 り 組 ま な け れ ば な ら な い 課 題 と し て Erikson,E.H(1959)2)はアイデンティティという概念を提唱した。その後,今までアイデンティ ティについては数多くの研究がなされてきた。中でも1990 年前後より 自己認識方式 の視 点から,アイデンティティ形成に関する研究がなされるようになってきた。だが,この分野の 実証研究はまだ少なく,国際化が進んでいる現在,文化の多様性を理解するためにも,文化的 自己認識方式と自我同一性との研究をもう一歩進める必要があると思われる。 1. 自我同一性について 青年期心理を研究する上でもっと重要な概念としてErikson.E.H(1959)2)の自我同一性「ego identity」が挙げられる。この概念はEriksonがそれぞれの発達段階に特有な発達課題の解決, 未解決の両極を記述することによって自我の心理社会的な発達を概念づけたものである。 Erikson(1959)2)は,自我同一性は「自我が確実な集団の中での未来に向って有効な歩みを学 ぶ途上にあるという確信」であり,主観的側面から見ると,「自我のさまざまな統合方法に与え られた自己の同一と連続性が存在するという事実と,これらの総合方法が同時に他者に対して 自己が持つ意味の同一と連続性を保証しているという事実の自覚である」としている。これ以 来,自我同一性は青年期を理解するうえで重要な概念として幅広い分野で受け入れられるよう になった。遠藤(1981)3)は,アイデンティティは自己価値についての確信であるから自尊感情 と呼んでもよいと指摘している。鑪(1988)29)は,自我同一性とは,自分が自分であることを 確信する心的過程であり,自分と集団とのヨコの関係と,「自分はこれまで一体何をしていたの

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だろう」という問いに示される歴史的なタテの関係であると指摘している。 自我同一性の次元のとらえかたには,2 種類がある。そのひとつは自我同一性を,同一性達 成―同一性拡散の一次元上に位置付けるものとしてとられたものである。この一次元上の測定 法を用いた代表的な研究として,Rasmussen(1964)24),Dignan(1965)1),古沢(1968)15),砂田 (1976)28),石井(1980)7)などの研究がある。これらは,Eriksonの提出した「対」の考え方を反 映しているようである。

もう一つのとらえ方は,Marcia J.E. (1966)16) に始まる自我同一性ステイタス面接法(ego

identity status interview)であり,この流れに沿って,同一性の状態を類型化しょうとする研

究として,無藤(1974)18),Dignan(1965)1),古択(1968)15),福冨(1981)5),加藤(1983)9),下山 (1992)27)などの研究が代表的である。これらは,自我同一性地位という形で,自我同一性の状 態の質的な違いを明確にしている。 2.文化的自己観について 異なった文化では,「人はどうあるべきか」という定義には,ある程度の差異があり,その文 化特有の定義をもっているであろう。 近年,文化と心理的過程との動態的相互関係を研究対象とする文化心理学が勃興している。 その中でも 1990 年前後から 自己認識方式 の視点から,アイデンティティ形成の中での社 会的行動の文化差を検討する理論が提唱されるようになってきた。 共通の枠組みで彼我の自己のあり方をとらえ,相互の関係,あるいは,各人の中での個人差

や形成の過程について考察する観点から,北山(1995)13)は文化的自己観(cultural view of self)

の概念を提唱している。

文化的自己観,それはある文化において歴史的に共有されている人間観あるいは「自己」に

ついての前提であり,心理と文化の相互構成の過程での一つの中核である(北山,1995)13)。異

なった 文化におけ る自己の様 態を同一の 枠組みで捉 える理論的 試みの一つ として,

Markus&Kitayama(1991)17)は独立的自己観(independent construal of self)と相互依存的自

己観(interdependent construal of self)を提唱している。相互独立的自己自己観は,個人は それぞれ他者から分離しており,それ故,自己は自律的で独立しているため,個人は他者から 独立し独自性を主張することが必要であるという考えで,欧米文化に多く見られる。相互依存 的自己観は,個人はお互いに結びついていて個人的ではなく,さまざまの人間関係の一部にな りきることが大切であるとする考えで,日本をはじめアジアの文化に多くみられる。 伊藤(1993)6)は自己概念が形成される際の基準として,個人志向性(individual orientedness: 自分自身の内的基準への志向性)と社会志向性(social orientedness:他者あるいは社会の規 範への志向性)があることを指摘している。山本(1989)37)もまた,同様の観点から自己のもつ 二面性を指摘している。Singelis(1994)26は,Markus&Kitayama(1991)17)の相互独立的な自

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self)の二つの概念に基づき,二つの文化的自己観を個人差として測定する尺度であるSelf Construal Scaleを開発した。彼の調査結果によると,二種類の自己の側面は相反する形で現れ るのではなく,それぞれ独立したものとして現れるという。黒川(1994)14)はMarkus& Kitayama(1991)17)による測定尺度を改訂して,相互独立性・相互協調性各6 項目,計 12 項目 よりなる広大式自己解釈図式尺度を開発した。高田(1996)34)は相互独立性・相互協調性の 10 項目で構成された短縮版を作成した。それを用いても成人を対象に1999 年に日本,中国,ベ トナム三国の比較研究を行った35) 3.研究の目的 本研究は,日中大学生に対して自我同一性地位による自我同一性の達成の状況を調査し,さ らに日中大学生の自我同一性地位と文化的自己観の関係について検討する。 Ⅱ.研究の対象と方法 1.研究の対象 本調査は日本H 大学教育学部の学生 282 名と,中国 B 大学教育学部の学生 345 名を調査対 象にした。このうち,作為的回答や欠損値のある回答を除き日本人学生 254 名(有効回答率 90.1%),中国人学生 275 名(有効回答率 79.7%)を対象とした。 2. 研究の方法 日本人に対しては2003 年 1 月に質問紙調査を実施した。中国人に対しては 2003 年 3 月に 質問紙調査を実施した。質問紙は加藤(1983)9)の「自我同一性地位尺度」の日本語版と中国語版 を用いた。文化的自己観については,Singelis(1994)26)の「相互依存的自己観と相互独立的自 己観尺度」の日本語版と中国語版を用いた。 得られたデータをもとに,(1)自我同一性地位の日中比較,(2)文化的自己観の日中比較, (3)自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連の日中比較について分析を行った。 Ⅲ.結果 1.自我同一性地位尺度の検討 (1)自我同一性地位尺度項目の検討 始めに,天井―フロア効果を見るため,日本人用と中国人用自我同一性地位尺度の全項目 (12 項目)の平均値(M)及び標準偏差(SD)を算出した。その結果,日本人自我同一性地 位尺度の項目の中の第6 項目,中国人自我同一性尺度の項目の中の第 12 項目の M±SD が尺 度件数を超えた(1未満及び 5 を超えるもの)。しかし,加藤の自我同一性地位尺度の各地位 の人数を算出するためには全項目が必要であり,一つの項目でも除去できないので,日本人用 自我同一性地位尺度と中国人用自我同一性地位尺度ともそのまま使用した。

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(2)自我同一性地位尺度の信頼性検討 自我同一性地位尺度の信頼性を確認するため,クロンバックのα係数を算出した。その結果, 日本人自我同一性地位尺度のα係数は0.71,中国人自我同一性地位尺度のα係数は 0.69 とい う値になり,信頼性はほぼ確認できた。 3. 自我同一性地位の日中比較 (1)日本と中国人の自我同一性地位比較 日本人と中国人の自我同一性地位の比較を行うため,両国の各自我同一性地位を算出した。 結果は表1 のとおりである。 表1 日本人と中国人の自我同一性地位比較 ( )内は人数 同一性達成 A−F 中間 権威受容 積極的 D−M 中間 同一性拡散 計 モラトリアム 日本人大学生 29.9%(76) 11.4%(29) 5.7%(15) 17.7%(45) 32.3%(82) 2.8%(7) 254 中国人大学生 15.9%(44) 23.6%(65) 5.1%(14) 28.3%(78) 23.6%(65) 3.6%(10) 276 調整済み 3.7 −3.4 0.2 − 2.8 2.2 0.6 残差 ✻✻ ✻✻ n.s. ✻✻ ✻ n.s. 計 22.6%(120) 17.7%(94) 5.5% (29) 22.8%(123) 28.2% (147) 3.2%(17) 530 ✻✻p<0.01, ✻p<0.05, n.s. not significant 日本人と中国人の自我同一性地位について,x²検定を行った結果,x²は 30.341 であった(P <0.001)。さらに残差分析を行った結果,日本人の「同一性達成」(p<0.01)と「D−M 中 間」(p<0.05)が中国人より有意に多く,中国人の「A−F 中間」(p<0.01)と「積極的モラ トリアム」(p<0.01)が日本人より有意に多かった。 (2)日本人男性と中国人男性の自我同一性地位比較 日本人男性と中国人男性における,自我同一性地位の比較を行うため,両国の男性の各自我 同一性地位の出現率を算出した。結果は表2 のとおりである。 表2 日本人男性と中国人男性の同一性地位比較 ( )内は人数 同一性達成 A−F 中間 権威受容 積極的 D−M 中間 同一性拡散 計 モラトリアム 日本人男性 36.1%(44) 13.1%(16) 6.8%(9) 9.0%(14) 32%(39) 0%(0) 122 中国人男性 17.0%(16) 33.0%(31) 2.1%(2) 18.1%(17) 25.5%(24) 34.3%(3) 94 計 27.7%(60) 21.8%(47) 5.1%(11) 14.4%(31) 29.2%(63) 1.2%(3) 216 日本人男性と中国人男性の同一性地位を比較した結果,日本人男性の「同一性達成」,「権威 受容」,「D−M」が中国人男性より多く,中国人男性の「A−F 中間」「積極的モラトリアム」 「同一性拡散」が日本人男性より多かった。日本人男性の「同一性拡散」が 0%だったので, x²検定はしなかった。

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(3)日本人女性と中国人女性の自我同一性地位比較 日本人女性と中国人女性における自我同一性地位の比較を行うため,両国の女性の各自我同 一性地位の出現率を算出した。結果は表3 のとおりである。 表3 日本人女性と中国人女性の同一性地位比較 ( )内は人数 同一性達成 A−F 中間 権威受容 積極的 D−M 中間 同一性拡散 計 モラトリアム 日本人女性 24.2%(32) 9.8%(13) 4.5%(6) 23.5%(31) 32.6%(43) 5.3%(7) 132 中国人女性 15.4%(28) 18.7%(34) 6.6%(12) 33.5%(61) 22.5%(41) 3.3%(6) 182 調整済み 1.9 −2.1 −0.8 −2.0 2.0 0.9 残差 n.s. ✻ n.s. ✻ ✻ n.s. 計 19.0%(60) 13.0%(41) 5.7%(18) 28.6%(90) 27.6%(87) 4.1%(13) 314 ✻p<0.05, n.s. not significant 日本人女性と中国人女性の自我同一性地位において,x²検定を行った結果,x²は 13.530 であった(P<0.05)。残差分析の結果,日本人女性の「D―M 中間」が中国人女性より有意に 多く(p<0.05),中国人女性の「A−F 中間」と「積極的モラトリアム」が日本人女性より有 意に少なかった(p<0.05)。 3.文化的自己観尺度の検討 (1)文化的自己観尺度の項目検討 日本人における文化的自己観尺度の30 項目の平均値及び標準偏差を算出し,項目分析を行 った結果,項目10,項目 22 の平均値+標準偏差の値が 5 以上になり,高得点に偏っているこ とが確認され,削除した。中国人における文化的自己観尺度においては,日本人と同じ理由で, 項目4,項目 10,項目 22 を削除した。 (2)文化的自己観尺度の信頼性の検討 文化的自己観尺度の信頼性を確認するため,クロンバックのα係数を算出した。その結果, 日本人文化的自己観尺度の相互独立的自己観項目のα係数は0.65 であり,相互依存的自己観項 目のα係数は0.65 であった。中国人文化的自己観尺度の相互独立的自己観項目のα係数は 0.63 であり,相互依存的α係数は0.62 であった。信頼性はほぼ確認できるものと判断した。 4.文化的自己観の日中比較 (1)日本人と中国人の文化的自己観比較 日本人と中国人における相互独立的自己観と相互依存的自己観の得点の平均値に差があるか どうかを見るためにt検定を行った。結果は表4 のとおりである。

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表4 日本人と中国人の文化的自己観比較 日本人(N=254) 中国人(N=276) 平均 SD 平均 SD 自由度 t値 判定 相互独立 40.97 5.62 44.15 5.79 528 0.83 ✻✻✻ 相互依存 51.50 5.75 47.69 4.88 498 0.21 ✻✻✻ ✻✻✻p<0.001, SD standard deviation 日本人と中国人における相互独立的自己観と相互依存自己観得点の比較を行った結果,両国 の間に有意差が認められた。日本人の相互依存的自己観の得点が中国人より有意に高く(p< 0.001),中国人の相互独立的自己観の得点が日本人より有意に高かった(p<0.001)。 (2)日本人男性と中国人男性の文化的自己観比較 日本人男性と中国人男性の相互独立的自己観と相互依存的自己観の得点の平均値に差がある かどうかを見るためにt検定を行った。結果は表5 のとおりである。 表5 日本人男性と中国人男性の文化的自己観比較 日本人男性(N=122) 中国人男性(N=94) 平均 SD 平均 SD 自由度 t値 判定 相互独立 41.66 5.47 44.55 5.98 214 −3.71 ✻✻✻ 相互依存 51.72 6.00 47.45 5.48 214 5.39 ✻✻✻ ✻✻✻p<0.001, SD standard deviation 日本人男性と中国人男性の文化的自己観得点の比較を行った結果,両国の間に有意差が認め られた。日本人の相互依存的自己観の得点が中国人より有意に高く(p<0.001),中国人男性 の相互独立的自己観の得点が日本人男性より有意に高かった(p<0.001)。 (3)日本人女性と中国人女性の文化的自己観比較 日本人女性と中国人女性の相互独立的自己観と相互依存的自己観の得点の平均値に差がある かどうかを見るためにt検定を行った。結果は表6 のとおりである。 表6 日本人女性と中国人女性の文化的自己観比較 日本人女性(N=132) 中国人女性(N=182) 平均 SD 平均 SD 自由度 t値 判定 相互独立 40.34 5.70 43.94 5.70 312 −5.52 ✻✻✻ 相互依存 51.29 5.53 47.82 4.56 248.13 5.90 ✻✻✻ ✻✻✻p<0.001, SD standard deviation 日本人女性と中国人女性の文化的自己観得点の比較を行った結果,両国の間に有意差が認め られた。日本人女性の相互依存的自己観の得点が中国人女性より有意に高く(p<0.001),中 国人女性の相互独立的自己観の得点が日本人女性より有意に高かった(p<0.001)。

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5.自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 (1)日本人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 日本人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連をみるため,一元配置の分散分析を 行った。結果は表7 のとおりである。 表7 日本人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度の分散分析 同一性達成 A―F 中間 権威受容 積極的 D―M 中間 同一性拡散 モラトリアム 平均値 平均値 平均値 平均値 平均値 平均値 自由度 F 値 判定 SD SD SD SD SD SD 相互独立 43.39 42.17 41.00 40.43 38.98 36.86 5/248 6.60 ✻✻✻ 5.55 4.84 7.33 5.28 4.88 5.96 相互依存 50.85 50.87 52.57 53.46 51.27 48.71 5/248 1.81 n.s. 6.75 5.27 5.85 5.57 4.81 5.68

✻✻✻p<0.001 n.s. not significant, SD standard deviation

表7 からわかるように,日本人の自我同一性地位尺度と相互独立的自己観尺度の間は有意な 関連が認められたが(p<0.001),自我同一性地位尺度と相互依存的自己観尺度の間には有意 な関連が認められなかった。日本人の自我同一性地位尺度と相互独立的自己観尺度の間の多重 比較を行ったのが表8 である。 表8 日本人自我同一性地位得点と相互独立的自己観得点との多重比較 従属変数 自我同一性 自我同一性 平均値 標準偏差 有意確立 判定 地位(1) 地位(1)−(J) の差 相互独立 同一性達成 A−F 中間 1.22 1.15 0.90 n.s. 的自己観 権威受容 2.39 1.55 0.64 n.s. モラトリアム 2.95 1.00 0.04 ✻ D−M 中間 4.41 0.85 0.00 ✻✻✻ 同一性拡散 6.53 2.11 0.03 ✻ A−F 中間 同一性達成 −1.22 1.15 0.90 n.s. 権威受容 1.17 1.73 0.98 n.s. モラトリアム 1.73 1.25 0.74 n.s. D−M 中間 3.19 1.14 0.06 † 同一性拡散 5.31 2.24 0.17 ✻ 権威受容 同一性達成 −2.39 1.55 0.64 n.s. A−F 中間 −1.17 1.73 0.98 n.s. モラトリアム 0.57 1.63 1.00 n.s. D−M 中間 2.02 1.54 0.78 n.s. 同一性拡散 4.14 2.47 0.55 n.s. モラトリアム 同一性達成 −2.95 1.00 0.04 ✻ A−F 中間 −1.73 1.25 0.74 n.s. 権威受容 −0.57 1.63 1.00 n.s. D−M 中間 1.46 0.98 0.67 n.s. 同一性拡散 3.58 2.16 0.56 n.s. D−M 中間 同一性達成 −4.41 0.85 0.00 ✻✻✻ A−F 中間 −3.19 1.14 0.06 † 権威受容 −2.02 1.54 0.78 n.s. モラトリアム −1.46 0.98 0.67 n.s. 同一性拡散 2.12 2.10 0.92 n.s. 同一性拡散 同一性達成 −6.53 2.11 0.03 ✻ A−F 中間 −5.31 2.24 0.17 ✻ 権威受容 −4.14 2.47 0.55 † モラトリアム −3.58 2.16 0.56 n.s. D−M 中間 −2.12 2.10 0.90 n.s. ✻✻✻p<0.001,✻p<0.05,†p<0.10, n.s. not significant, SD standard deviation

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表8 から分かるように,日本人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度の関連を具体的に 見たところ,「同一性達成」の相互独立的自己観の得点が「D−M 中間」(p<0.001),「積極的 モラトリアム」(p<0.05),「同一性拡散」(p<0.05)より有意に高いことが認められた。「A −F 中間」の相互独立的自己観の得点が「同一性拡散」(p<0.05)より有意に高く,「D−M 中間」より有意に高い傾向が認められた(p<0.10)。 (2)中国人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 中国人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連をみるため,一元配置の分散分析を行 った。その結果は表9 のとおりである。 表9 中国人自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度の分散分析 同一性達成 A−F 中 間権威受容 積極的 D−M 中間 同一性拡散 モラトリアム 平均値 平均値 平均値 平均値 平均値 平均値 自由度 F 値 判定 SD SD SD SD SD SD 相互独立 44.39 45.05 45.64 43.77 44.00 39.10 5/270 2.15 ✻ 5.52 5.17 5.73 6.42 5.21 7.62 相互依存 45.73 47.71 49.00 47.86 48.14 50.20 5/270 2.34 † 4.76 4.71 4.64 5.10 4.43 6.20 ✻p<0.05,†p<0.10, SD standard deviation 表9 から分かるように,中国人の自我同一性地位尺度と相互独立的自己観尺度の間には,有 意な関連が認められ(P<0.05),自我同一性地位尺度と相互依存的自己観尺度の間には有意な関 連の傾向は認められた(P<0.10)。中国人の自我同一性地位尺度と相互独立的自己観尺度の間の 多重比較を行ったのが表10 と表 11 である。 表 10 中国人自我同一性地位得点と相互独立的自己観得点との多重比較 従属変数 自我同一性 自我同一性 平均値 標準偏差 有意確立 判定 地位(1) 地位(J) 相互独立 同一性達成 A−F 中間 −0.66 1.12 0.99 n.s. 的自己観 権威受容 −1.26 1.76 0.98 n.s. モラトリアム 0.62 1.08 0.99 n.s. D―M 中間 0.39 1.12 1.00 n.s. 同一性拡散 5.29 2.01 0.09 † A−F 中間 同一性達成 0.66 1.12 0.99 n.s. 権威受容 −0.60 1.69 1.00 n.s. モラトリアム 1.28 0.96 0.77 n.s. D−M 中間 1.05 1.01 0.90 n.s. 同一性拡散 5.95 1.95 0.03 ✻ 権威受容 同一性達成 1.26 1.76 0.98 n.s. A−F 中間 0.60 1.69 1.00 n.s. モラトリアム 1.87 1.67 0.87 n.s. D−M 中間 1.64 1.69 0.93 n.s. 同一性拡散 6.54 2.37 0.07 † モラトリアム 同一性達成 −0.62 1.08 1.00 n.s. A−F 中間 −1.28 0.96 0.77 n.s. 権威受容 −1.87 1.67 0.87 n.s. D−M 中間 −0.23 0.96 1.00 n.s. 同一性拡散 4.67 1.93 0.15 n.s.

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D−M 中間 同一性達成 −0.39 1.12 1.00 n.s. A−F 中間 −1.03 1.01 0.90 n.s. 権威受容 −1.64 1.69 0.93 n.s. モラトリアム 0.23 0.97 1.00 n.s. 同一性拡散 4.90 1.95 0.12 n.s. 同一性拡散 同一性達成 −5.29 2.01 0.09 † A−F 中間 −5.95 1.95 0.03 ✻ 権威受容 −6.54 2.37 0.07 † モラトリアム −4.67 1.93 0.15 n.s.. D−M 中間 −4.90 1.95 0.12 n.s. ✻p<0.05,†p<0.10,n.s. not significant, SD standard deviation

表11 中国人自我同一性地位得点と相互依存的自己観得点との多重比較 従属変数 自我同一性 自我同一性 平均値 標準偏差 有意確立 判定 地位(1) 地位(J) 相互依存 同一性達成 A−F 中間 −1.98 0.94 0.29 n.s. 的自己観 権威受容 −3.27 1.48 0.24 n.s. モラトリアム −2.13 0.91 0.18 n.s. D−M 中間 −2.41 0.94 0.11 n.s. 同一性拡散 −4.47 1.69 0.09 † A−F 中間 同一性達成 1.98 0.94 0.29 n.s. 権威受容 −1.29 1.42 0.94 n.s. モラトリアム −0.15 0.81 1.00 n.s. D−M 中間 −0.43 0.85 1.00 n.s. 同一性拡散 −2.49 1.64 0.65 n.s. 権威受容 同一性達成 3.27 1.48 0.24 n.s. A−F 中間 1.29 1.42 0.94 n.s. モラトリアム 1.14 1.40 0.97 n.s. D−M 中間 0.86 1.42 0.99 n.s. 同一性拡散 −1.20 2.00 0.99 n.s. モラトリアム 同一性達成 2.13 0.91 0.18 n.s. A−F 中間 −0.15. 0.81 1.00 n.s. 権威受容 −1.14 1.40 0.97 n.s. D−M 中間 −0.28 0.81 1.00 n.s. 同一性拡散 −2.34 1.62 0.70 n.s. D−M 中間 同一性達成 2.41 0.94 0.11 n.s. A−F 中間 0.43 0.46 1.00 n.s. 権威受容 −0.86 1.42 0.99 n.s. モラトリアム 0.28 0.81 1.00 n.s. 同一性拡散 −2.06 1.64 0.81 n.s. 同一性拡散 同一性達成 4.47 1.70 0.09 † A−F 中間 2.50 1.64 0.65 n.s. 権威受容 1.20 2.00 0.99 n.s. モラトリアム 2.34 1.62 0.70 n.s. D−M 中間 2.06 1.64 0.81 n.s.

†p<0.10,n.s. not significant, SD standard deviation

表10 からわかるように,中国人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度の関連を具体的 に見たところ,「同一性達成」と「権威受容」の相互独立的自己観の得点が「同一性拡散」より 有意に高い傾向が認められ(p<0.10)。「A−F 中間」の相互独立的自己観の得点が「同一性拡 散」より有意に高かった(p<0.05)。 表11 からわかるように,中国人の自我同一性地位尺度と相互依存的自己観尺度の関連におい ては,「同一性拡散」の相互依存的自己観の得点が「同一性達成」より有意に高い傾向が認めら れた(p<0.10)。

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Ⅳ.考察 1.自我同一性地位の日中比較 日本人と中国人の自我同一性地位を比較した結果,日本人の「同一性達成」,「D―M 中間」 が中国人より多く,中国人の「A−F 中間」「積極的モラトリアム」が日本人より多かった。 日本人が中国人より「同一性達成」が多く,中国人が日本人より「A−F中間」が多かったの は,張(2000)71)と吉(2001)17)の研究結果とも一致していた。日中とも同じ現象の一つは, 「積極的モラトリアム」,「D−M中間」,「同一性拡散」の人が合わせて 50%を越えたことであ る。日本は52.8%,中国は 55.4%である。この結果は,中西・佐方(1982)22) の研究結果とも一 致している。中西・佐方はアイデンティティ拡散感の発達的変化について調査し,拡散感は高 校から大学になるにつれて次第に低くなるが,ステイタスの観点からみると,直線的に上昇す るのではなく高校3 年生まで一旦高まり,大学教養部では再びモラトリアム状態になり,学年 進行に伴いアイデンティティ達成が増加するという結果が得られている。本研究の対象は日中 とも大学の一年生と二年生が主であり,両国とも「積極的モラトリアム」「D−M中間」の学生 が多いという結果は中西・佐方の結果をもう一度裏付けるものである。 中国人の「A−F中間」と「積極的モラトリアム」が日本人より多いという結果は,中国の教 育と社会の特徴を端的に現すものではないかと思う。大学受験は全国共通試験であり,受験チ ャンスは年1度しかなく,その競争は実に熾烈なものである。また,1978 年中国政府が一人っ 子政策を打ち出して以来,一人っ子は98%8) にも上がると言われている。本研究の中国人大学 生の中でも65.9%が一人っ子である。子供を一人しか持てない状況では,一人の子供にすべて の望みを託すことになり,親たちは子供を自分が理想とする枠にはめようとする。こういうこ とで中国の子供たちは高校生あるいはもっと早い時期から自分の心理,及び生き方について考 えなくてはならない状況におかれるし,自分の進路を決める時にはまだまだ考えが幼いため, 親や周りの影響を受けるのである。こんな特徴を持っている中国の高校生たちは大学に入ると, 今まで受けた教育と違う高等教育を受けるとともに,現在の自分のことについて今までと違っ て本気で自分の心の声に耳を傾けて真剣に自分のことについて考えるようになる。「自分はいっ たい何ものか」「自分の将来はどうなるか」このように自分の現在,将来についていままでと違 って真剣に考えるようになる。したがって,中国人においては大学生になって,本格的に自分 自身のアイデンティティの確立に取りかかるプロセスに入るのではないかと考えられる。 また,中国人の「積極的モラトリアム」の人が日本人より多かったことは,現在中国は政治, 社会,経済の厳しい改革,発展の真っ直中にあり,人間の価値観,意識体系も激変しているこ とに由来すると思われる。大学を卒業しても就職は前より難しくなったし,大学を卒業後,或 いは高校卒業後,留学することがブームになって行く現在,大学生たちはこういう社会の発展 と変化に敏感に反応しており,社会と一体となって揺れている。 日中とも「積極的モラトリアム」と「D−M 中間」の人が合わせて過半数を超えているが, このようなたくさんのモラトリアム人間の登場はどういうことであるか。日本の場合,アルバ

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イトなどをやり続け,またたくさんのボランティア活動に参加するにも関わらず,いつまでも 本職に付こうとしない,社会的に役割実験的なことをやり続ける若者がこのモラトリアム人間 の典型である。中国でも昔の「铁饭碗(一回その仕事に付いたら死ぬまで首にならぬ安定な仕 事を言う)」という言葉に比べて,今は「自由択業者(本職を持たなくて,自由に仕事を変わる 人)」の言葉が広がっているが,これは日本のフリーターと本質的には同じものであると思う。 これは一種の足踏状態,準備状態に見える時期である。社会的成人としての義務や責任を一時 的に猶予するという意味で,保留の時期であり,Erikson はモラトリアムと名づけたのである。 したがってこれらの結果は,アイデンティティ達成が遅れる状態が作られていることと関連 がある。即ちその根底には,こうした現実を容認している社会があると小此木(1978)23)は指摘 している。 小此木(1978)23)は,このモラトリアム概念を発展させ,日本の社会的性格のテーマとして論 じており,また,モラトリアムを一種のライフスタイル論として展開している。現在の日本の ようにどんどん変化していく社会においては,モラトリアム自体がプロセスというより,一種 のライフスタイルとして肯定されるようになってきたのであると,小此木は見ている。その特 徴として,責任を取らない お客様意識 ,固定した価値観に帰属しないこと。ひとつのことに 忠誠的にならないで,可能性をオープンしておくこと,対象に対して距離を保っておくことな どがあげられる。このような観察から,未解決のままに変わり身の早いモラトリアム人間の方 が,よりもっと柔軟な思考と変わり身の行動を要求する現代においては適応性が高いと,小此 木は考えたのである。 しかし,ここで小此木は(1978)23)ライフスタイルとアイデンティティの違いも指摘している。 ライフスタイルというのは風俗に近い。風俗は時代によって変化する。アイデンティティはラ イフスタイルをひとつの道具として「利用」するという積極的なかかわりの姿勢であり,自我 の能動的な働きの中にある力の状態をアイデンティティの確立した状態といっているのである。 「アイデンティティ人間からモラトリアム人間へ」というのではなく,アイデンティティとモ ラトリアムはともに存在しなければならないのであり,ライフスタイルはアイデンティティに よって支えられ,初めて意味のあるもの,力のあるものとなるのである。「選択」を可能性にす る自我の前向きの力こそアイデンティティなのである。 日本人の「積極的なモラトリアム」と「D−M」が多いことを,もう一つは,鑢(1990)30) 日本人の「予定アイデンティティ」概念,即ち,あらかじめ定められた道(予定された道)と, 選択の余地のないままに受け入れていく生き方で説明を加えたいと思う。鑢は日本人は「自分」, 個性を隠して(役割に徹して),生きていくことが求められ,このような日本人的な人間関係の あり方は,アイデンティティの形成や個性の尊重,自分の根本的な経験の重視ということとち ょうど正反対であると指摘した。鑢の言う日本人のこういう葛藤を感じず,人から言われるま まに自己の歩みを進める生き方がたくさんのモラトリアムの日本人が存在する一つの原因では なかろうか。

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2.文化的自己観の日中総的比較 日本人と中国人の文化的自己観を比較した結果,日本人の相互依存的自己観の得点が中国人 より有意に高く,中国人の相互独立的自己観の得点が日本人より有意に高かった。鄭涌(2001)38) がWAIの反応を用いて,中国人大学生の自我概念を研究したところ,中国人大学生の自我概念 には社会的評価,個人的属性と他人関係などが含まれているし,その中でも個人的属性が一番 重要な部分であった。二番目は他人との関係であり,一番最後が社会的評価であったと指摘し ている。現在中国人の大学生は勢い激しい西洋の文化の影響を受けているだけではなく,改革 の波にのって猛烈に変化発展していく社会変化の影響を強く受けている。その中で,自分とい うものを考えるとき,より個性を強調するようになる。また個性と個人を強調すると同時に他 人との関係,社会的な評価も考えるようになって来た。この結果から,中国人は日本人に比べ て集団主義であると簡単にいえないということである。 ここで中国人の相互独立性が日本人より高いことについて,ひとつ付け加えたいことがある。 中国人は自分の自尊心と顔を大事にするのと同時に相手の自尊心と顔も大事にする。このよう な「面子」(メェンツ,中国語では顔を意味する)」と「関係」,「人情」などを大事にする中国 人の性格から,中国人は自己中心性格と状況依存性という,一見矛盾するように見える特徴が 生まれると園田(2001)32)は指摘している。すなわち,中国人の相互独立性はつよい相互依存性 も伴うことである。 木村(1972)12)は,人と人との間という視点から精神病理学的日本論を展開している。南 (1983)19)は,日本人の自我構造では,外的客我の意識が強く,他人から自分を意識しすぎる自 意識過剰が,自我構造全体に影響を与えていると指摘している。河合(1997)10)は「母性社会・ 場の論理」という視点から日本の自我を研究してきた。これらの概念が共通して指摘すること は,自他の区分が曖昧で,独立主体としての 個 の意識が弱く,自己意識の内容が周囲の他 者に強く規定されるという点であろう。本研究の結果は,日本人のこういう自我の特徴を裏付 けたとも言える。 日本人男女とも中国人男女より相互独立性が低かったのは,日本文化において青年期の自己 再構成の特質の一つは,相互協調性が相互独立性より一貫して優勢であると指摘した高田 (1999)35)の知見とも一致する結果であった。これは,また青年が自己を再構成してゆく際に, 相互独立性の発達はむしろ抑制され,日本文化に適合した自己のあり方が積極的に取り込まれ るという高田・松本(1995)33)の示唆とも一致している。 3.自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 (1)日本人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 日本人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との分散分析を行った結果,自我同一性地 位尺度と相互独立的自己観尺度との間には有意な関連が認められた。大体日本人は相互独立性 が高い人ほど,同一性達成地位に違い人である結果であった。しかし,自我同一性地位尺度と

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相互依存的自己観尺度との間には有意な関連が認められなかった。 鑪(1991)31)はアイデンティティ形成において,日本人の自分というものが,本当の意味で独 立の責任主体として発見されないだけでなく,実現することが困難であることに留意し,「日本 人においては,人間の一人一人が他人と区別された,はっきりしないということです」とアイ デンティティ形成においての日本人の自我の特徴を指摘した。 一方,浜口(1982)4)は,日本人の場合,「人」を「人間」と書き表すように,「人」とは人の間 に位置づけられる存在であり,日本人の人間観の分析には,西洋の人間観の立脚した研究方法 論からの脱却が必要であると論じている。 田端(1986)32)は浜口の間人主義と,個人主義の尺度と,Tanetalの開発した自我同一性簡易尺 度(EIS)を用いて,大学生に調査を実行した結果,日本人は間人主義傾向が高いほど,アイ デンティティが確かである傾向が強いことを見出していた。 また森(1989)21)は,アイデンティティの概念の仕方においてカテゴリー比較を行った結果, 日本の青年がアイデンティティを集団的で,他者との関連を意識した自己表現を前提とする形 で概念化する傾向が強いことであると指摘した。 高橋(1993)36)は,自ら開発した日本的自我尺度とアイデンティティ尺度(REIS)の関連を検 討したところ,個人主義が高いほどアイデンティティが確かである結果を得た。 本研究では,高橋の結果と近い,相互独立性が高い人ほどアイデンティティの達成地位に近 い人であるという結果が得られた。 以上の異なる二つの結果については,以下の理由が考えられる。一つは,研究者間の使用尺 度の違いによると思われる点である。特に自己尺度について田端が用いた浜口の尺度は間人主 義と個人主義とがお互いに背反的であることを前提に作られた尺度である。これに対して,高 橋が用いた尺度は個人主義と間人主義,本研究で用いられた尺度は相互依存性と相互独立性, これらの二面性の両立(たとえば,いずれか一方が高い,両方とも高いあるいは低い)を前提 に作られた尺度である。これらから尺度を構成する原理的な差異が,少なからず影響を与えて いると考えられる。また本研究で自我同一性達成地位に近いほど,相互独立性が高いというこ とは,現在の日本人の大学生の相互独立性の進展が相互依存性の進展より優位であることを示 唆しているのでないかと思う。 日本においては自我同一性の達成を「個」の確立としてとらえていながらも,他者との「関 係」を重視する圧力,即ち同調性を期待する社会的な圧力を感じており,両者の葛藤を経験し やすいということである。この葛藤を克服することによって,アイデンティティが形成される という過程が,アイデンティティ形成の日本における特質であると河合(2000)11)は指摘してい る。しかし,本研究で相互独立性が強い人ほど,自我同一性達成地位に近い人である結果が得 られたことは,従前の定められていた役割や道を受身的に受け入れる早期完了(鑪,199030) よれば,予定アイデンティティ)でなく,自分の役割や道は自分で努力して発見し,発見した ものを自分で選択し,努力して獲得する同一性達成に向う学生が多くなったことを意味してい

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る。 (2)中国人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連 中国人の自我同一性地位尺度と文化的自己観尺度との関連をみたところ,自我同一性地位尺 度と文化的自己観尺度の間には,あるはっきりした傾向の持つ関連が認められなかった。 中国人の「A−F中間」の相互独立的自己観が「同一性拡散」より有意に高かったことについ ては,以下のような解釈ができるのではないかと思う。本研究の中国人の自我同一性地位にお いて,「A―F中間」の人が「同一性達成」の人より多かった。これは中国人の一人っ子の大学 生が多いこととも関係があると前にすでに触れた。一人であるがゆえに自己中心的,わがまま であり,このわがままと自己中心主義の中国人大学生の性格の特徴が,本研究ではある程度高 い相互独立性として表されたのではないかと思う。園田(2001)25)は中国人の行為は,「個人主義」 というよりも,むしろ「自我主義」という特徴をもっていると言っている。「個人主義」の場合 は,自主性を重んじるといった価値観に裏打ちされているが,「自我主義」の場合はそうでなく, そこに支配しているのは,すべて「己(自分)」を中心に考えるという価値観である。以上のよ うなことから,西洋人のいう相互独立性とは違う中国人の相互独立性の特徴を見ることができ るのではないかと思う。 以上のようなことから,相互独立性と相互依存性によっては中国人の自己概念の特徴を現し にくいのではなかろうか。 中国人,特に中国の大学生の文化的自己観を研究するべきであると思う。

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参照

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