Title
集合動産譲渡担保権に基づく物上代位 ―損害保険金への効力―
Author(s)
千手崇史
Citation
福岡工業大学研究論集 第48巻 第1号(通巻74号)P1-P9
Issue Date
2015-10
URI
http://hdl.handle.net/11478/445
Right
Type
Research Paper
Textversion publisher
福岡工業大学 機関リポジトリ
FITREPO
基本判例研究
集合動産譲渡担保権に基づく物上代位
―損害保険金への効力―
千
手
崇
(社会環境学科)Cas
e
St
udy:Real
s
ubr
ogat
i
on
bas
ed
pr
ef
er
ent
i
al
r
i
ght
s
over
movabl
es
―Ef
f
i
ci
ency
on
damage
i
ns
ur
ance―
Takas
hi
S
ENZU(
De
par
t
me
nt
of
Soc
i
o-
Envi
r
onme
nt
al
St
udi
e
s
)
Abstract
This paper reviews the judgment of the Supreme Court dated December 2,2010. On this case,the plaintiffs fishes on which real subrogation based preferential rights over movables had set,died on account of red tide and the plaintiff received damage insurance. The plaintiff claimed that the security interest has no effect on insurance.
The Supreme Court described thatReal subrogation based preferential rights over movables is effective on damage insurance. But,the mortgagee can not exercise that right as long as mortgagor continues normal business. This paper reveals the meaning and positioning of this decision,taking into account the common belief,other popular theories,and other decisions.
Key words:real subrogation,preferential rights over movables,security interest,damage insurance,abolition of business 構成部 の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担 保権の効力は,譲渡担保の目的である集合動産を構成する に至った動産が滅失した場合にその損害をてん補するため に譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る 請求権に及ぶとした事例 最高裁平成22年12月2日決定 抗告棄却 民集64巻8号1990頁,裁時1521号52頁,金判1356号10頁, 判時2102号8頁,判タ1339号52頁,金法1917号102頁,裁判 集民64巻8号1990頁 [事実概要] 本件抗告人(Xという)は,魚の養殖業を営む者である。 本件相手方(Yという)は農林中金である。Yは平成14年 以降Xに対して数度にわたり貸付(以下,本件貸付という) を行った。この取引によりXが負った債務及び将来負う債 務を包括的に担保するために,Xの所有する複数の生簀の 設備(以下,本件養殖施設という)とそれぞれの中にいる 養殖魚につき,Yを譲渡担保権者,Xを譲渡担保権設定者 として譲渡担保権(以下,本件譲渡担保権という)設定契 約(以下,本件契約という)を結んだ。本件契約において は,Xが養殖魚を通常の営業方法にしたがって販売できる こと,その場合Xが同価値以上の養殖魚を補充することな どが定められていた。 また,Xは本件契約に先立って,訴外Z(熊本県漁業共 済組合)との間で漁業共済契約(以下,本件共済契約とい う)を締結していたが,平成21年8月頃に,本件養殖魚2510 匹が赤潮により死滅した折に,本件共済契約に基づき漁業 共済金請求権を取得した。その後,平成20年9月にYより 貸付を受けられなかったためXは廃業した。 続いて,Yは同年10月23日に本件譲渡担保権を実行しX の所有していた養殖魚を売却して本件貸付の貸金債権に充 当するとともに,平成22年1月29日に,熊本地裁に対して, 残存債権を被担保債権として,本件契約に基づく物上代位 権の行 として,本件共済金請求権の差押えの申立てをな し,熊本地裁(熊本地決平成22年2月3日金法1917号107頁) はこれに基づいて債権差押命令(以下,本件命令という) を発布した。 Xがこれに対して,本件共済金請求権に本件譲渡担保権 の効力が及ばないとして,本件命令の取消しを求めて執行 抗告をなした。 抗告審(福岡高決平成22年3月17日民集64巻8号1997頁) 平成27年5月7日受付
は,「集合物譲渡担保においては,集合物を構成する個々の 動産につき,設定者によって通常の営業の範囲内で処 が なされている限りにおいては,設定者には新たな動産の補 充が義務付けられ,新たに補充された動産に対して譲渡担 保権の効力が及ぶため,譲渡担保権者は,担保価値の維持 を図ることができるから,通常の営業の範囲内において処 された動産に対しては,譲渡担保権の効力は及ばなくな ると解すべきであり,処 にかる売買代金債権等につき, 物上代位を認めることはできない。 しかしながら,集合物を構成する個々の動産について, 通常の営業の範囲を超える処 が行われた場合には,当然 に新たな動産が補充されるとは限らず,担保価値の維持を 図るためには,個々の動産の代替物ないし派生物に対して 譲渡担保権の効力を及ぼす必要があり,また,物上代位権 の行 を認めても,譲渡担保権者の把握する担保価値が拡 大しなければ,第三者に不測の損害を与えることにもなら ないというべきである。」と述べ,原則として「通常の営業 の範囲」内において処 された動産については譲渡担保権 が及ばないこと,例外として「通常の営業の範囲」を超え る処 に対しては譲渡担保権の効力を及ぼす余地があるこ とを示した。 続けて抗告審決定は,①Xが本件赤潮を原因として漁業 共済金請求権を取得したこと,②Xは本件赤潮発生後,貸 付を受けられなかったため廃業したこと,③その後Yが養 殖施設一式と当時残存していた養殖魚を売却したこと,④ しかる後,Xは第三債務者に対し,共済事故関係書類を提 出して,漁業共済金請求手続を取ったことをそれぞれ認定 し,「Xが漁業共済金請求権を取得したのは,通常の営業の 範囲を超える処 というべきであるし,Xにおいて,前記 赤潮被害発生後,新たに養殖魚を補充した形跡がない(し たがって,その後,赤潮被害によって毀損された担保価値 が回復したとは認められず,漁業共済金請求権に対する物 上代位権の行 を認めても,担保価値の拡大によって,一 般債権者等に不測の損害を与えることはない。)ことを 慮 すると,赤潮被害が発生した時点において,Xが直ちに廃 業を決意しなかったとしても,赤潮被害発生後,通常の営 業が継続していたとは認め難いから,本件譲渡担保契約の 目的物は,赤潮被害発生時に実質的に固定化したものとい うことができる。 したがって,本件譲渡担保権の効力は,物上代位により 漁業共済金請求権の上に及ぶうえ,その行 についても上 記固定化によって当然許されると解するのが相当であるか ら,漁業共済金請求権に対する差押えを認めた原命令が違 法であるとは認められない。」としてXの抗告(執行抗告) を棄却した。Xより最高裁へ抗告許可の申立てがなされた。 [決定要旨]抗告棄却 最高裁第一小法 は以下の通り抗告棄却の決定を下し, この事件は確定した(以下,「本件決定」という)。 쓕構成部 の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡 担保権は,譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集 合動産を構成するに至った動産(以下「目的動産」という。) の価値を担保として把握するものであるから,その効力は, 目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲 渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求 権に及ぶと解するのが相当である。もっとも,構成部 の 変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲 渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続すること を前提とするものであるから,譲渡担保権設定者が通常の 営業を継続している場合には,目的動産の滅失により上記 請求権が発生したとしても,これに対して直ちに物上代位 権を行 することができる旨が合意されているなどの特段 の事情がない限り,譲渡担保権者が当該請求権に対して物 上代位権を行 することは許されないというべきである。 上記事実関係によれば,相手方が本件共済金請求権の差 押えを申し立てた時点においては,抗告人は目的動産であ る本件養殖施設及び本件養殖施設内の養殖魚を用いた営業 を廃止し,これらに対する譲渡担保権が実行されていたと いうのであって,抗告人において本件譲渡担保権の目的動 産を用いた営業を継続する余地はなかったというべきであ るから,相手方が,本件共済金請求権に対して物上代位権 を行 することができることは明らかである。」 [検討] 1.本件決定の意義 本件は,集合動産譲渡担保に基づく物上代位権が,集合 動産の滅失を原因として支払われた共済金に対して及ぶか 否かが問題とされた事案である。本件決定웋웗が問題として いる譲渡担保権は非典型担保であり,条文上の根拠を持た ないため,判例法理によりその規範が形成されてきた。そ の譲渡担保の中で,動産の集まり(特に,倉庫の中にある 在庫商品のように,内容が流動性を持つもの)を目的物と するものが集合動産譲渡担保である。以下に紹介する通り, これまでは譲渡担保権に基づく物上代位の問題,集合動産 譲渡担保の成立等に関する問題それぞれについては最高裁 による判断がなされていたが,集合動産譲渡担保権に基づ く物上代位という論点に関して正面から判断がなされてい なかったため,最高裁の判断が注目されていた。本件はま さにその論点に関する初の最高裁決定であり,注目に値す る。本稿は,過去の判例・裁判例や学説を参照しながら, 本件決定の え方や本件決定の位置づけを理論的に明らか にし,また,本件決定によっても解決されなかった問題点 を抽出することを目的とする。なお,本件で物上代位権が 及ぶか否かが問題とされている対象は,直接には共済金で あるが,これは損害保険金と同様に えて差し支えないと えられるため워웗,本稿では「保険金」という表現を用いる。 集合動産譲渡担保権に基づく物上代位(千手) 2
2.集合動産に対する譲渡担保権の成立と理論構成 2.1 譲渡担保の意義 譲渡担保とは,債権者が債務者に対して有する債権を担 保するために,物の所有者又は権利者が,物の所有権又は 権利を債権者に移転する方法により設定される担保権であ る。民法に規定されない非典型担保の一つであるが,今日 広く用いられている웍웗。譲渡担保権が設定される場合は,基 本的に,目的物の所有権が設定者から譲渡担保権者へと移 転する(所有権的構成)웎웗。 譲渡担保権を用いる利点は,第一に,動産の占有を設定 者に留保しつつ担保権を設定することができる点にある。 確かに,動産に担保権を設定する方法としては,典型担保 物権としての質権(民法342条,352条)があるが,これは 目的物の占有を質権者に移転させなければ効力を生じない (民法345条参照)。また,質権の効力要件としての「引き 渡(民法344条)」しに,占有改定は含まれない웏웗。よって, 動産質権の場合,担保の目的とした動産を設定者自身が用 いて営業活動等を行い,そこからの収益で債務を弁済する という方法を用いることができず,非効率的である。これ に対して譲渡担保権を用いれば,設定者に占有を留保し, 用収益を許したまま担保権が設定可能である。譲渡担保 権が用いられる理由は,占有担保たる動産質権に内在する 不都合を回避する点にある원웗。また,譲渡担保権を用いる利 点として,第二に,裁判所の手続を経ない簡易な方法で債 権の回収ができる点が挙げられる。不動産に関しては非占 有担保としての抵当権(民法369条1項)が存在するにも関 わらず,不動産を目的とした譲渡担保権も用いられている のはそのためであると えられる。第三に,集合動産・集 合債権・ソフトウェアのように典型担保では担保権を設定 することができない財産を担保化できる点も利点として挙 げられる웑웗。 もっとも,動産譲渡担保は占有改定により設定されるの で,権利関係が 示されないという欠点がある。また,民 法に規定されない非典型担保であるため,権利の内容から 実行手続まで全て判例の積み重ねにより法形成がなされて おり,予測可能性や明確性という点では典型担保物権に劣 る。いずれにせよ,非典型担保である譲渡担保権が,経済 的に重要な役割を果たしていることは確かである。これが 世の中で広く用いられることを前提としてその理論的な位 置づけや枠組み等を明らかにすることが重要であるといえ よう。 2.2 集合動産の場合 譲渡担保権は動産を目的物とする非占有担保として見た 場合にその利用価値が高いが,複数の動産の集合体(集合 物)に担保権を設定できる点も大きなメリットである。こ れにより,例えば,中小企業が複数の工場や倉庫にある在 庫に譲渡担保権を設定するなどの方法により金融を受ける 途が開かれるし,同時に当該集合物の価値も有効活用され るようになるといえよう。集合物譲渡担保のうち,例えば 工場備え付けの機械一式など,内容が変動しない集合物の 場合には,目的物ごとに譲渡担保権が設定されていると 析的に見るか,抵当権の場合の付加一体物と同様の え方 で処理することが可能であるため웒웗,現実的にあまり問題 とされない。 問題となるのは,本件事案のように集合物の内容が変動 する場合である。ここでまず生ずる問題は,物権としての 特定性웓웗を満たすか否かということである。これに関して は,集合物譲渡担保の理論構成と関連して,争いがある。 流動しない集合物の場合と同様に,個々の物の上に譲渡担 保権が設定されており,その 和が譲渡担保であるとする え方( 析的構成という)と,集合物全体を一つの物と みて,そこに譲渡担保権が設定されているとみる え方(集 合物的構成という)とが対立している웋월웗。これらの え方の 差異は,対抗要件との関連で顕著に生じる。 析的構成に よると,個々の動産につき対抗要件(占有の移転)を備え なければならないのに対して,集合物的構成によると,当 該集合物全体に対して対抗要件が備えられていればよいこ とになる。 確かに, 析的構成によると物権の特定性への抵触の問 題は生じない。集合物の一つ一つに譲渡担保権が設定され ているとみる限りは,それぞれの譲渡担保権の目的物は特 定されているからである。しかし,工場の在庫や生簀の養 殖魚のように,数の多い集合物の内容が流動する場合もこ れを貫くと煩瑣を極める。 析的構成は対抗要件の基本的 な え方に忠実であるが,実際的ではない。このようなこ とを 慮してか,集合物譲渡担保の有効性に関するリー ディングケースは集合物的構成웋웋웗をとる。以下に代表的な ものを紹介する。 ・最判昭和62年11月10日民集41巻8号1559頁(以下,昭和 62年最判という) (事案)訴外Aに対して売買債権(鋼材)を有するYが, 右債権の回収を図るため,動産売買先取特権(民法311条, 304条)に基づき,訴外Aの倉庫に搬入済みの鋼材につき競 売を申立てた。一方,競売に先立ってXが訴外Aとの間で 「倉庫内及び同敷地・ヤード内を保管場所とし,現にこの 保管場所内に存在する普通棒鋼,異形棒鋼等一切の在庫商 品の所有権を内外ともに被上告会社に移転し,占有改定の 方法によつて被上告会社にその引渡を完了したものとす る」という内容で集合動産譲渡担保契約を結んでおり,集 合物全体につき占有改定(対抗要件具備)が行われている ことを理由として,Yが競売を申立てている競売の不許を 求める第三者異議の訴えを提起した(以下,「」部 は判旨 の引用)。 (判旨)「構成部 の変動する集合動産であつても,その種 類,所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によつて 目的物の範囲が特定される場合には,一個の集合物として 譲渡担保の目的とすることができる」
この昭和62年最判は,集合物的構成を採用していると えられる웋워(集合物的構成を採用しつつ,種類,所在場所,웗 量的範囲の三つのメルクマールを用いて,物権の特定性と の抵触を避けている)。 ・最判平成18年7月20日民集60巻6号2499頁(以下,平成 18年最判という)웋웍웗 (事案)平成12年から平成15年2月の間に,債権者A,B, Cはその債権を担保するために,養殖業を営む債務者Yの 生簀の中の養殖魚を対象とする集合動産譲渡担保権の設定 を受け,占有改定の方法により引渡し(対抗要件具備)を 受けた。なお,A,B,Cは通常の営業の範囲での養殖魚 の販売ないし無償利用をYに認めていた。Yは他方で,平 成15年4月に,本件譲渡担保権の目的物となっている養殖 魚のうち一部をXに譲渡等する契約も結んだ。この契約は, ①一部の養殖魚をYがXに対して一旦売却する,②Xがそ の一部の養殖業をYに預託し,Yが飼育する,③売却が必 要な場合は,Yが一旦Xからこの一部の養殖魚を買戻し, 加工してXに再度売却し,Xがそれを第三者に売却する, という内容である(契約内容から明らかな通り,XY間の 契約においても占有改定による引渡しがなされる)。しか し,Yに対しては間もなく民事再生手続が開始されたため, XがYに対して所有権に基づいて養殖魚の引渡しを求めた (以下,「」部 は判旨の引用)。 (判旨)「原審は,次のとおり判断して,Xの請求を認容し た。 ⑴ 本件各契約は,Yを売主,Xを買主とする売買契約 を本体とする契約であり,これを譲渡担保契約と認めるこ とはできない。 ⑵ 商品の集合動産譲渡担保契約において,譲渡担保設 定者は,独自の判断において,目的物たる商品を通常の営 業の範囲内において第三者に売却する権限を留保している と解すべきであり,YとA及びCとの間の各譲渡担保契約 においても,この事理を確認した条項が定められていると ころである。このような集合動産譲渡担保契約においては, 譲渡担保設定者に,目的物の売却によりその所有権を第三 者に確定的に移転取得させることができるという物権的地 位がとどめられていると解さざるを得ない。そうだとする と,Xは,Yが有する上記物権的地位に基づき,本件各物 件の所有権を承継取得したというべきである。本件各物件 につきA,B及びCのために本件各譲渡担保が設定されて いるとしても,Xの所有権に基づく引渡請求を妨げる抗弁 となるものではない。したがって,Xの請求は理由がある。」 「しかしながら,原審の上記判断は是認することができな い。その理由は,次のとおりである。(中略) 構成部 の変動する集合動産を目的とする譲渡担保にお いては,集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じ て当然に変動することが予定されているのであるから,譲 渡担保設定者には,その通常の営業の範囲内で,譲渡担保 の目的を構成する動産を処 する権限が付与されており, この権限内でされた処 の相手方は,当該動産について, 譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得す ることができると解するのが相当である。上告人とA及び Cとの間の各譲渡担保契約の前記条項(中略)は,以上の 趣旨を確認的に規定したものと解される。他方,対抗要件 を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動 産につき通常の営業の範囲を超える売却処 をした場合, 当該処 は上記権限に基づかないものである以上,譲渡担 保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該 譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場 合でない限り,当該処 の相手方は目的物の所有権を承継 取得することはできないというべきである。」 最高裁はこのような一般論を提示した上で,養殖魚の一 部が「本件各譲渡担保の目的である集合物から離脱したと 解すべき事情はない」ことから,Xが所有権を取得したと 言えるためには,XY間で行われた養殖魚の売却処 が「通 常の営業の範囲内」のものかどうかを確定する必要がある と指摘し,その点を審理判断しなかった原審の判断を一部 破棄し,当該一部につき差戻した(本稿執筆時,差戻審の 判断はまだ出されていない)。 この平成18年最判も集合物的構成を採用している。平成 18年最判の調査官解説(判タ1220号91頁)は,「流動集合動 産譲渡担保の目的物は,集合物としての同一性を維持しつ つも,その構成部 は変動し,新陳代謝していくことが予 定されているものである。そのような性質上,設定者には, 通常の営業の範囲内において,個別の動産を集合物から 離して処 する権限が当然に与えられていると解されてお り,その権限内で行われた処 の相手方は目的物につき完 全な所有権を取得することができ,譲渡担保権の追及力は これに及ばないことになる。」と述べている。特に,当該解 説の「集合物から 離して処 する」という表現などから, 集合物的構成を採用していることが窺える웋웎웗。 本件決定も,「構成部 の変動する集合動産を目的とする 集合物譲渡担保権は,譲渡担保権者において譲渡担保の目 的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目的動 産」という。)の価値を担保として把握するものである」と 判示していることから,前掲昭和62年最判,平成18年最判 同様,集合物的構成を採用しており,従来の判例の流れの 中に位置づけられる웋웏웗。本件のように,内容が流動する集合 動産を集合物的構成から 察する場合は,どの時点でどの ような範囲にその担保の効力が及ぶか,またどのようにし て実行するかが問題となるが,これについては「通常の営 業」との関連で後述する。 3.集合動産譲渡担保権に基づく物上代位と保険金請求権 3.1 物上代位の意義 物上代位とは,担保物権の効力が目的物に代わるものや 金銭等価値代替物にも及ぶことであり,目的物の 換価値 を把握してそこから優先弁済を受けることを本質的効力と 4 集合動産譲渡担保権に基づく物上代位(千手)
する先取特権(民法304条),質権(民法304条,350条),抵 当権(民法304条,372条)等において明文上認められる웋원웗。 そして,集合動産譲渡担保に関しても物上代位が可能であ る判示した事例(下記平成11年最決)がある。 ・最決平成11年5月17日民集53巻5号863頁(以下,平成11 年最決という)웋웑웗 (事案)Y株式会社(Yという)は,信用状発行銀行(X という)との間で,信用状取引についての基本約定を締結 し,同取引によって負担する債務を担保するため,Xに対 し輸入商品等に譲渡担保権を設定する旨を合意した。Xは, Yが後記債権差押命令添付の商品目録記載の各商品(以下, 本件商品という。)を輸入するについて信用状を発行し,平 成9年10月24日から同月30日までの間に,Yに対し,米ド ル て約束手形三通(邦貨換算による手形金額合計1092万 4371円)の振出しを受ける方法により,輸入代金決済資金 相当額を貸し付けた。Xは,右各貸付けをするのに伴い, Yから,右約束手形金債権の担保として,各対応する本件 商品に譲渡担保権の設定を受けた上,Yに対し,本件商品 の貸渡しを行い,その処 権限を与えた。 その後,Yは,平成9年10月24日から同年11月11日まで の間に,訴外M社に対し,本件商品を売り渡した。Yは, 平成9年10月30日,破産の申立てをし,同年11月12日,破 産宣告を受け,Yはそれを原因として,Xとの銀行取引約 定に基づき,前記約束手形金債務について期限の利益を 失った。 Xは,平成9年12月9日,前記約束手形金債権を被担保 債権とし,譲渡担保権に基づく物上代位権の行 として, Yの訴外M社に対する本件商品の売買代金債権の差押えを 申し立てた。大阪地方裁判所は,同月10日,Xの申立てを 認め,譲渡担保権に基づく物上代位として,債権差押命令 を発付した。 (決定要旨)「右の事実関係の下においては,信用状発行銀 行であるXは,輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上 代位権の行 として,転売された輸入商品の売買代金債権 を差し押さえることができ,(中略)このことは債務者であ るYが破産宣告を受けた後に右差押えがされる場合であっ ても異なるところはないと解するのが相当である。」 3.2 集合動産譲渡担保と物上代位 上記昭和62年最判,平成18年最判により集合物譲渡担保 権の成立,対抗要件や第三者との関係が明らかにされたが, 物上代位の場合にどのように解されるかは明らかにされて いなかった。また,平成11年最決は,結論として譲渡担保 権に基づく物上代位を認めたが,「右の事実関係の下におい ては」との文言から事例判断であると理解されていたた め웋웒웗,最高裁が譲渡担保権に基づく物上代位をいかなる要 件で認めるかという点が注目されていた。本件決定は「構 成部 の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権 は,譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産 を構成するに至った動産(以下,目的動産という。)の価値 を担保として把握するものであるから,その効力は,目的 動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担 保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に 及ぶと解するのが相当である。」と述べ,集合動産における 譲渡担保権に基づく物上代位を,最高裁が初めて正面から 認めたものとして重要性を持つ。 3.3 保険金請求権の特殊性 本件事案の特殊性として,損害保険金請求権への物上代 位が問題とされている点が挙げられる。損害保険金請求権 は,厳密には,保険契約に基づいて支払われた保険料の対 価としての側面と,物が滅失してその価値を変形させたも のとしての側面とを併せ持つ。前者を強調すると,そもそ も物上代位をするのはおかしいということになる웋웓웗。もっ とも,このように える立場は少数である。物上代位は「価 値の変形物」から演繹されるだけではなく,担保権の実効 性確保から政策的に与えられた機能であるとの理解もでき るので,保険金請求権に物上代位できるという結論をとる に当たって,何ら理論的障害はない워월웗。本件決定が前者の少 数説の理解を採っていないことは明らかであろう。 4.本件決定の 析 4.1 쓕通常の営業の廃止」と「固定化」 担保権の目的物が滅失すると担保権も消滅してしまうの が原則であるが,それだけの事情で担保権が失われるとす れば担保権者に酷である。目的物は多くの場合損害保険金 や損害賠償請求権など価値代替物に変化しているので,こ れに対しても優先弁済権を行 させることにより担保権者 を保護するのが物上代位の制度趣旨である。もっとも,当 該価値代替物は債務者の一般財産と混入するため,そのま まだと債務者の一般財産全体に優先弁済権を認めることと 等しくなり,一般債権者との関係で問題を生ずる워웋웗。そこ で,物上代位の行 にあたって,「払渡し又は引渡し」前に 担保権者が「差押え」することが要件となる(民法304条参 照)。これに対して,集合動産譲渡担保権のうち,内容が流 動する動産については,差押えをするに当たり,どこまで の範囲かを特定する必要があるため,前記平成18年最判は さらに,「通常の営業の範囲」を要件とし,これを超える処 に対して物上代位権が及びうることを示している。具体 的に,「集合物」に対して譲渡担保権が及ぶが,そこから「離 脱」した動産には及ばず,「通常の営業の範囲」を超える処 がなされれば「離脱」したと認められるというのである。 もっとも,平成18年最判は生簀の中の魚の所有権自体が問 題とされた事案であり,物上代位権が問題となった事案で はない。本件事件を 察するには,それらが赤潮により滅 失し,保険金に置き換わったという事案の特殊性を 慮す る必要がある。
4.2 抗告審と本件決定とが用いた基準の意義と違い では,これに関連して,本件抗告審決定と本件(最高裁) 決定はどのような基準を用いているか。まず,違いを整理 し,それぞれの意義を明らかにする。 ・抗告審決定の基準=「通常の営業の範囲」を超える処 ・ 「固定化」 本件抗告審決定(福岡高決平成22年3月17日民集64巻8 号1997頁)を再度確認すると,「通常の営業の範囲」での処 は当然に予定されているので,そうして処 された動産 には物上代位の効力が及ばないのが原則であるが,「通常の 営業の範囲」を超える処 に対しては譲渡担保権の効力を 及ぼす余地があるという一般論を立てており,平成18年最 判と同様の立場である。本件事案における諸事情を 合 慮し,「赤潮被害が発生した時点において,Xが直ちに廃業 を決意しなかったとしても,赤潮被害発生後,通常の営業 が継続していたとは認め難いから,本件譲渡担保契約の目 的物は,赤潮被害発生時に実質的に固定化したものという ことができる。」として,保険金への物上代位を認めている。 「通常の営業の範囲」における処 か否かと,目的物が「固 定化」したか否かという二つのメルクマールを用いている ようである워워웗。 ・本件決定の基準=「通常の営業の廃止」・「直ちに物上代 位権を行 することができる旨が合意されているなどの特 段の事情」 これに対して,本件決定は「構成部 の変動する集合動 産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲渡担保権設定者 が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするも のであるから,譲渡担保権設定者が通常の営業を継続して いる場合には,目的動産の滅失により上記請求権が発生し たとしても,これに対して直ちに物上代位権を行 するこ とができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限 り,譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行 することは許されないというべきである」との一般論を述 べた後,「営業の廃止」があったことを認定して保険金への 物上代位権の行 を認めた(「固定化」の有無については言 及していない)。 以上のように,「通常の営業」関連でいうと,抗告審が「通 常の営業の範囲を超える処 」であるか否かを基準として いるのに対して本件決定が「通常の営業の廃止」を基準워웍웗と している点が異なる。よって,「通常の営業の範囲」を超え る処 がなされたが,まだ廃業をしていない場合,抗告審 の理解によると物上代位権の効力が及びうる(さらに「固 定化」が必要)のに対して,本件決定の理解によると,そ の時点ではまだ物上代位の効力は及ばない。さらに,本件 に準えて述べると,保険金を受けることは「通常の営業の 廃止」とは直接関係しないが,「通常の営業の範囲」を超え る行為となる余地が残されている워웎웗。 次に,抗告審が「固定化」概念を用いているのに対し, 本件決定はそれを用いず「通常の営業の廃止」のみを基準 としている点が異なる。抗告審を今一度確認すると,赤潮 発生により廃業し「固定化」が生じたと認定していること から,「営業の廃止(本件決定の基準)」と「固定化(抗告 審の基準)」は本件事案の結論としては同じ時点になる워웏웗。 ここで,「固定化」の要件の機能に関して,これは特に「動 産の滅失」の場合に機能すると えられる。生簀の中の魚 が赤潮で死んだ本件のような場合など「動産の滅失」は「通 常の営業の範囲」における処 と解することは困難であ る워원웗。よって,仮に「固定化」の要件がなければ,動産が滅 失して保険金など価値代替物が 付された場合,この価値 代替物に物上代位権の行 が可能となってしまう。しかし, これを許容すると,設定者がその保険金で新たな動産(魚 など)を購入して営業を継続することが困難となる워웑웗。この ような結論は設定者にとって酷であるし,営業が継続する 以上担保価値が維持されると えられる워웒웗ので,滅失した からといって直ちに物上代位権の行 を認める必要はな い。抗告審は「固定化」の要件を併用することで,設定者 の営業活動の継続とのバランスを図ろうとしたと えられ る。 4.3 抗告審決定と本件決定との比較検討と私見 以上得られた結果をもとに,本件決定と抗告審決定の基 準を比較検討する。第一に,「固定化」を基準とする抗告審 と「通常の営業の廃止」を基準とする本件決定においてど のような違いが生ずるか。まず,原則として,「通常の営業 の廃止」があると営業活動が停止するのであるから,在庫 や生簀の魚の搬入,搬出活動もなくなり,「固定化」が生じ ると思われる워웓웗。一方,「固定化」は集合動産そのものに着 目しているため,「通常の営業の廃止」以前に「固定化」が 生ずる場面があることが指摘できる웍월웗。これに関して,本件 決定は明確に述べていないが,抗告審決定は「赤潮の発生」 →「営業の廃止」という時系列を想定した上で,「赤潮の発 生」時点で動産群が「固定化」していたことを丁寧に認定 し,物上代位権の行 をそこまで らせている웍웋웗。筆者は, 「営業の廃止」を基準とする本件決定が妥当であると え る。土地や 物を多く持たない零細事業者であっても,在 庫等集合動産を譲渡担保に供することで営業活動を継続し ながら融資を受けられるのであり,そこに集合動産譲渡担 保の大きな利点があると える。そして,集合動産の価値 代替物に対する物上代位はその営業活動を一定程度妨害す る効果を持つ。また,既述の通り,少なくとも保険金を用 いて設備や動産を購入することで営業を継続する以上は担 保としての価値は存続しているのであり,物上代位権を認 める必要は高くない。以上のことから,「営業の廃止」があっ て初めて物上代位権の行 を認めるべきであると えら れ웍워웗,本件決定の立場が妥当であると える웍웍웗。なお,本件 決定の立場に立った場合でも「直ちに物上代位を行 でき る旨が合意されている」場合は物上代位権が行 できる웍웎웗。 ここで「目的物の滅失時点」と合意しておくことで物上代 6 集合動産譲渡担保権に基づく物上代位(千手)
位権行 の時点を らせることが可能となるが,上記と同 様「営業の継続」を重視する観点から,この合意が設定者 (債務者)の真意によってなされているか否かの認定は慎 重になされるべきであると える웍웏웗。 ここで,私見に対しては,設定者が保険金を営業活動以 外に用いた場合に担保権者が害されるとの批判があるかも しれない。しかし,当該保険金は営業活動の継続に用いる ことが前提となっているのであるから,営業活動以外で保 険金を用いる行為は担保価値維持義務違反であると構成 し웍원웗,このような場合には例外的に物上代位権が行 でき ることを予め合意しておくことで担保権者は自衛すること が可能であり,それで足りる。なお,本件決定がいう「通 常の営業の継続」の意義が必ずしも明確ではない点が批判 されている。さしあたり,保険金を用いた集合動産のさら なる購入・搬入や,必要な設備の改修などは含まれると えられるが,後述の通りこれに関わる事例の蓄積や議論の 進展が待たれるところである。 本件決定と抗告審決定を比較検討してみると,第二に, 「通常の営業の廃止」ないし「固定化」以前に物上代位権 の行 を正面から許容するかどうかという点も問題とされ よう。抗告審は「通常の営業の範囲を超えた」処 がなさ れれば物上代位権の行 を認めるのに対して,本件決定は それに相当する判示をなしていない。ここで,廃業ないし 固定化以前に目的動産を売却した場合に物上代位が出来る か否かという違いが生じてしまうが,それでは,なぜこの ような判断の違いが生じたのか。今一度,決定文を見ると その手がかりを見つけることができる。本件決定は「その 効力は,目的動産が滅失した場合にその損害をてん補する ために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に 係る請求権に及ぶと解するのが相当である。」として,「目 的動産が滅失した場合」についてのみ決定を下しているの が かる。「目的動産の滅失」からスタートして,本件事案 を解決する限りにおいて決定を下しているため,それ以前 の時点,つまり,営業が継続して目的動産が売却された場 合にその売買代金へ物上代位権が及ぶか否かについては判 断を下していない(よって,本件決定の射程も売却代金債 権への物上代位には及ばない웍웑웗)。それに対して,抗告審は 既に紹介した従来の判例法理を前提とし,「営業活動が継 続」つまり目的動産が継続的に売却・補充等される場合に 物上代位権が及ぶか否かという問題からスタートして,そ の 長で「固定化」ないし「通常の営業の廃止」が起こっ た場合にその物上代位権がどうなるかという形で判断して いるのである。本件決定の射程は上記の通り集合動産譲渡 担保契約における物上代位との関連で「目的動産の滅失」 が起こった場合に限定して読むべきである웍웒웗。 5.残された問題と本件決定後の展望 以上,本件決定を 析してきたが,まだ残された問題は 多い。第一に,「通常の営業の廃止」の意義である。本件決 定を前提とする限り,これが損害保険金請求権への物上代 位の可否を決するメルクマールとなるが,本件決定におい てこれの意味について述べた部 は見当たらない。抗告審 が述べた「固定化」との違いも依然として不明確な部 が 残り,どのような事情があれば「通常の営業の廃止」とい えるかの予測可能性が十 ではない(この観点からも,本 件決定の射程を限定的に捉えるべきであろう)。この「通常 の営業の廃止」に関しては,今後解釈論において精緻化が 望まれるとともに,本件決定を前提とした事例の蓄積が待 たれるところである웍웓웗。 なお,これに関連して,純然たる所有権的構成を前提と した場合に「通常の営業の範囲」内で処 された個別動産 の所有権の移転を説明するのが困難であるという点も指摘 しておきたい。所有権的構成によれば,譲渡担保権者に所 有権が帰属することになるため,設定者が個別動産を売却 する行為は,他人の所有物を処 していることとなる。「通 常の営業の範囲」であれば,これが有効に相手方に移転す る結論自体に争いはないが,例えば「通常の営業の範囲」 であれば,「個別動産の所有権が設定者に復帰する」ないし 「設定者と担保権者の間に再売買がなされる黙示の合意が ある」など,法律構成を工夫しなければ,説明が難しい。 所有権が担保権者に移転することを前提としつつ,何らか の権利が設定者にも保障されていると解するのが自然であ り,今後個別事案の解決のためには,この設定者に保障さ れる権利の明確化が重要であると える。 第二に,営業を廃止した場合で,集合動産譲渡担保権に 基づく物上代位権と他の権利に基づく物上代位が競合した 場合はどのように えられるか웎월웗。例えば,別の譲渡担保権 や先取特権に基づく物上代位を主張する者がいた場合,優 劣をどのように決するか。これは本件決定が判断していな い事項であるが,十 起こりうることである。さしあたり, 差押え時点の前後で決するのが現実的であると えるのが 私見である。集合動産譲渡担保権が及ぶことは 示されず これが明らかになるのが差押えの時点である点,物上代位 権が行 されるまでは担保権の対象自体が流動しているた め対象が特定されないという点が理由である。なお,先取 特権や抵当権とパラレルに えると,損害保険金が譲渡さ れた場合,債権譲受人と譲渡担保権者の物上代位との優劣 をどう えるか,この損害保険金を自働債権として相殺が なされた場合をどう えるか,といった問題も生じるため, この問題は複雑極まりない。 その他,これら問題以外にも,多様な派生論点が残され ている。例えば,集合動産の一部が滅失し,損害保険金に 置き換わることを原因として,集合動産の価値が変化した 場合(例えば,魚が以前より多く補充された場合)をどう 処理すればよいか웎웋웗。また,目的物が賃貸・転貸された場合 (例;工事用重機・設備の賃貸を業とする会社が,保有す る工事用の重機・設備類一式に譲渡担保権を設定した上で, これを業として工事業者に賃貸した場合)に,この賃料に
物上代位できるか(仮にここで一般債権者がこの賃料債権 を差押えた場合には,物上代位との優劣の問題も生じう る)。このように,本件が問題とした争点は多様な派生論点 を生む。 いずれにせよ本件決定が,平成11年最決が事例判断の形 をとっていた「集合動産譲渡担保権に基づく物上代位の可 否」の問題について正面から結論を出したことは意義深い。 今後も本件決定を契機として様々な派生論点に関する事例 の蓄積に注意を払いつつ,解釈論の活発な展開が望まれる ところである。 注 1)本件決定(最決平成22年12月2日)に関する評釈とし て,柴田義明「判例解説」ジュリ1454号77頁(2013年), 占部洋之「判批」『平成23年重判(ジュリ臨増1440号)』 72頁(2012年・有 閣),古積 三郎「判批」私法判例リ マークス No,44(2012年[上])22頁(2012年),中川敏宏 「判批」法セミ686号124頁(2012年),加瀬幸喜「判批」 ひろば65巻5号52頁(2012年),清水恵介「判批」日法78 巻2号139(311)頁(2012年),庄菊博・杉江隆司「判批」 専法113号149頁(2011年),森田修「『固定化』概念から の脱却と 析論回帰の志向―最一小決22.12.2評釈」金 法1930号54頁(2011年),小山泰 「流動動産譲渡担保に 基づく物上代位―最一決平成22・12・2金判1356号10頁 を契機として」NBL950号25頁(2011年),古積 三郎「判 批」民商145巻1号54頁(2011年),小山泰 「判批」判 時2120号162頁(判評632号16頁)(2011年),田髙寛貴「判 批」金判1372号2頁(2011年),片山直也「判批」金法1929 号29頁(2011年),若林茂雄ほか「判例紹介」商事1924号 56頁(2011年),直井義典「判批」判例セレクト2011[Ⅰ] 17頁(2011年),門口正人「判批」金法1930号46頁(2011 年),印藤弘二「判批」金法1921号4頁(2011年), 本 恒雄「判批」現代民事判例研究会編『民事判例Ⅲ―2011 年前期』144頁(日本評論社,2011年),今尾真「判批」 明学91号157頁(2011年),今尾真「判批」登記情報599号 108頁(2011年)。他に,判タ1385号378頁以下(民事執行 判例・実務フロンティア2013年度版)。 2)加瀬・前掲注(1)54頁参照。 3)金子宏ほか編『法律学小辞典(第4版補訂版)』628頁 (有 閣,2008年),内田貴『民法Ⅲ 債権 論・担保物 権(第3版)』520頁-521頁(東京大学出版会,2005年) 参照。 4)最判平成62年11月12日判時1261号71頁は,債務が弁済 され,不動産譲渡担保権が消滅した後に,譲渡担保権者 から第三者へと当該不動産の譲渡・登記の移転がなされ たという事案において,「不動産が譲渡担保の目的とさ れ,設定者から譲渡担保権者への所有権移転登記が経由 された場合において,被担保債務の弁済等により譲渡担 保権が消滅した後に目的不動産が譲渡担保権者から第三 者に譲渡されたときは,右第三者がいわゆる背信的悪意 者に当たる場合は格別,そうでない限り,譲渡担保設定 者は,登記がなければ,その所有権を右第三者に対抗す ることができないものと解するのが相当である。」と判示 した。これは,譲渡担保権者から設定者への復帰的物権 変動と第三者への物権変動の優劣を決する対抗力一般の 問題と同じであり(判タ655号106頁の調査官解説参照), 所有権的構成を採るものと理解されている(判タ655号 107頁,内田・前掲注(3)523頁参照)。もっとも,「譲渡 担保権者には完全に所有権が帰属するのではなく,その 権利は担保目的によって制約されている」(我妻栄ほか編 『民法1』503頁(一粒社,1992年))。 なお,有力説(道垣内弘人『担保物権法[第3版]』300 頁,308頁∼309頁(有 閣,2008年))は,目的物の所有 権が債権者に移転するが,設定者にも物権的な権利が留 保されるという見解を採る(内田・前掲注(3)523頁は, この道垣内説を「設定者のもとに所有権マイナス担保権 の物権的権(設定者留保権)が残ると構成する立場」と 説明する)。 5)民法345条が質物の代理占有を禁じているからである。 内田・前掲注(3)489頁参照。 6)我妻・前掲注(4)503頁,内田・前掲注(3)384頁参照。 7)我妻・前掲注(4)503頁,金子・前掲注(3)628頁参照。 8)内田・前掲注(3)539頁。 9)意義について,内田貴『民法Ⅰ 則・物権 論(第 4版)』358頁(東京大学出版会,2008年)参照。 10)内田・前掲注(3)540頁。 11)なお,集合物的構成をとった場合に,担保権自体がそ の集合物を構成する個々の動産に及ぶか否かという点が 問題となる。本件決定は,個々の動産にも及ぶとする「伝 統的集合物論」を採用していると えられる(今尾・前 掲注(1)177頁,森田修・前掲注(1)57頁,古積・前掲注 (1)民商55−56頁)。 12)今尾・前掲注(1)登記情報111頁。 13)この平成18年最判に関する評釈として,池田雅則「判 批」『民法判例百選[第7版](別冊ジュリ223号)』198頁 (有 閣,2015年),片山直也「判批」金法1812号37頁(2007 年),千葉恵美子「判批」『平成18年度重判(ジュリ臨増 1332号)』76頁(有 閣,2007年)など。 14)なお,森田修・前掲注(1)57頁も,本件決定の「集合 動産を構成するに至った」という表現(構成するに至っ た個々の動産とまでは言っていない点)から,本件決定 を集合物的構成に 類する。 15)今尾・前掲注(1)登記情報111頁,片山・前掲注(1)31 頁参照。 16)金子ほか・前掲注(4)1076頁。 17)この平成11年最決に対する評釈として,山野目章夫「判 批」『民法判例百選Ⅰ 則・物権[第五版](別冊ジュリ 8 集合動産譲渡担保権に基づく物上代位(千手)
159号)』202頁(2001年),徳田和幸「判批」判時1697号 189頁(判評493号27頁)(有 閣,2000年),近江幸治「判 批」『平成11年度重判(ジュリ臨増1179号)』77頁(有 閣,2000年)など。 18)森田修・前掲注(1)56頁。 19)この損害保険金への物上代位を否定する見解として, 加瀬・前掲注(1)56頁。なお,内田・前掲注(3)402頁も 参照。 20)内田・前掲注(3)402頁。 21)内田・前掲注(3)402頁。 22) 本・前掲注(1)144頁。なお,今尾・前掲注(1)明学 173頁は,抗告審決定が担保権的構成をとった上で伝統的 集合物論を採用しているとも 析する。 23)通常の営業が継続する限り担保価値は維持されるとい う 発 想 が 前 提 に あ る と 思 わ れ る(小 山・前 掲 注(1) NBL28頁参照)。 24)占部・前掲注(1)73頁。 25)今尾・前掲注(1)明学173頁。 26)古積 三郎「判批」TKC速報判例解説(法セミ増刊) 9号83頁(日本評論社,2011年)。 27)片山・前掲注(1)31頁も参照。 28)むしろ,集合動産そのものよりも,保険金を入手する 方が担保権者に有利であるといえるかもしれない。競売 を経る必要がなくなるからである。 29)なお,古積・前掲注(1)NBL86頁は「『営業の継続』の 解釈如何によっては,動産群の補充がなくても物上代位 権の行 が認められなくなる恐れがある反面,新たに動 産群が補充された場合であっても,その後営業が廃止さ れれば物上代位権の行 が認められる可能性も生ずる」 と指摘する。 30)例えば,赤潮被害から復旧するまで,まとまった期間 休業する場合などを えることができる。この場合は営 業の廃止はなされていないが,一時的に「固定化」して いると言えるかもしれない。もっとも,「固定化」は当該 集合動産の内容が恒久的に変動しなくなる場面を指すと えると,この限りではないが。なお,印藤・前掲注(1) 5頁は,損害保険金の取得が通常の営業の範囲内にある 場合にも違いが生ずることを指摘する(抗告審の立場で は行 時期を問わず物上代位できず,本件決定の立場で は通常の営業が停止した後に行 可能な場合が生ずる)。 31)今尾・前掲注(1)登記情報118頁。 32)片山・前掲注(1)31頁は,「通常の営業の継続」が特に 集合動産における物上代位権の行 阻止要件となってい ると解釈する。通常は担保目的物自体が滅失し,債務不 履行等を要件とせず直ちに物上代位権の行 が可能であ るが,集合動産が目的物の場合は,滅失するのが構成動 産の一部に過ぎず,しかも変動するからであるというの が理由である。なお,古積・前掲注(1)民商65−66頁は, 物上代位権保障の観点から反対。 33)なお,より直截的に「担保価値が維持できているかど うか」を基準とする見解として,今尾・前掲注(1)明学 175頁。 34)쓕赤潮発生による死滅の場合は期限の利益を喪失させ る」合意がこれに当たるとするものとして,田髙・前掲 注(1)5頁。 35)小山・前掲注(1)NBL30頁も,物上代位権の行 が営 業停止を招来する可能性を指摘し,当該特約の有効性を 限定的に解するべきであるとする。 36)小山・前掲注(1)判時164頁参照。 37)片山・前掲注(1)32頁。なお,小山・前掲注(1)判時 165頁によると,売却代金債権と損害保険金請求権では譲 渡担保の効力が及ぶか否かに相違があり,売却代金債権 の場合は当初から譲渡担保権の効力が及ぶわけではな く,個々の動産の処 によって初めて代位目的債権が発 生し,営業活動の終了により固定化が生ずることで譲渡 担保の効力が当該売却代金債権に及ぶことで物上代位が 可能となる一方,損害保険金請求権の場合は損害保険契 約締結時から譲渡担保の効力が及び,「営業活動の廃止」 という物上代位権行 の障害要件が付加されているに過 ぎないため,譲渡担保権設定者の営業活動を阻害しない 範囲でのみ行 が認められる。 38)その他,本件判決の射程は目的動産の売買代金債権な ど他の目的物の物上代位には及ばないとする見解とし て,直井・前掲注(1)17頁。本件決定の判示は集合動産 譲渡担保に関するものであり,特定動産譲渡担保の場合 には及ばないとする見解として,印藤・前掲注(1)5頁。 39)なお,本件事案において譲渡担保権をいつから行 で きるかという点が当事者間において争点とされていない ことから,最高裁は抽象的な基準を用い,その詳細は今 後の解釈論に委ねたと 察する見解として,柴田・前掲 注(1)79頁。本件決定は権利行 基準時を巡る他のどの ような学説も排斥しない最大 約数としての意義を有す るにとどまるとする見解(清水・前掲注(1)145(317) 頁)も同旨であろう。 40)この問題と,現時点で えうる解決策について,今尾・ 前掲注(1)登記情報120頁参照。なお, 本・前掲注(1) 147頁は,通常の営業が継続している場合の転売代金債権 への物上代位の可否も問題となると指摘する(本件決定 によれば,転売代金債権へも譲渡担保権の効力は及んで おり,「営業の廃止」があるまで行 できないにとどまる と解されるからである)。その他,集合動産譲渡担保自体 が重複設定された場合も大きな問題となるが,この問題 については小山・前掲注(1)NBL31頁−32頁を参照。 41)片山・前掲注(1)32頁は,たまたま余 になされた補 充が担保権者に利益を与えることは,担保権者がその逆 のリスクも負担していることから正当化され,それは構 成部 の一部が代替物(債権)に変わった場合も妥当す ると えるのが最高裁であると説明している。