溶解法により作つた合金薄膜中における
析出相の電子顕微鏡的研究
高橋昇
小口せつ代
Electron Microscopic Study on the Precipitated Phase in the
Alloy Film Prepared by a Melting Method
TakahashiNoboru OguchiSethuyo
Abstract. Thin films of the AL25 wt% Ag alloy were prepared by a melting method and examined by electron microscopy. The metallographic process correspond ng to this method is not aquenching but a slow cooling. This fact was demonstrated clearly by the precipitation of the second phase Al2Ag from the ma− trix. The electron mlcroscopic picture showed a beautiful Widmanst註tten figure. The stage of de− velopment of the precipitated phase was different from place to Place in the same specimen・1緒
論 電子顯微鏡の合金試料としては、従来のレプリカに 代つて、合金自体を薄膜化したものが近来広く用いら れる様になり、種々の薄膜法が考案されている。直接 法に依る時は電顯像により形態学的研究を実施すると 同時に、之に対応する電子回折像を検討して結晶学的 知見を得、合金試料に就て適確な研究が遂行出来る。 今やレプリカ法は次第に従来の主流から外れ、之に代 つて薄膜自体が主役の位置を占めるに至り、世界各国 に於て薄膜法に対する関心が非常に高まつている。 薄膜法には種々あるが、最も簡便な蒸着法は金相学 的研究で衆知の種・々の合金組織に対応する電顯像を得 る事が難しく、特殊の場合を除いては好結果が得られ ないので、現在は合金の薄板を電解研摩により溶解し て殆ど透明になつた部分を利用する方法が広く行われ ている。 筆者は独自の方法として溶解法を考案し、之を第一 回アジア大洋洲電子顯微鏡会議に発表して以来、国際 的に相当の反響を得た(1)。方法の詳細は内外の雑誌に 既に発表したので之を省略するが、要するに細い針金 のノレープに溶解した合金の膜をシヤボン玉の様に張る のである。斯る簡単な操作で見事な金相学的組織が得 られる事は驚くべき事で、状態図に忠実に実験を行え ば電子顯微鏡の高性能を利用して詳細な知見が得られ るのである。 今回は応用例として過飽和の固溶体から第二柑が折 出する合金を選び、最も美しい組織を現出するA1−2556
wt.%Ag合金を例にとつた。この合金は溶解状態か ら徐冷する時、又は高温度(例えば500°C)から急冷 後、焼戻し(例えば250°Cで3hr)を行う時は美しい Widmansttitten像を表わす。我々として先ず確かめた い事は薄膜法により作つた合金膜が如何なる状態既ち 急冷、徐冷、何れの状態に対応するかという事で、該 薄膜を電子顕微鏡により検討して見た。 薄膜は製作後、光学顕微鏡により検べて適当な薄さ の所を切り取り、電子顕微鏡の試料保持器にとりつけ る。電子線の透過力を増す為電子加速電圧は成る可く 高い方がよく、我々は常に100kVを用いた。2 結果と考察
Al−25wt%Ag合金は約630°Cで溶解するが、溶 解法ではこの状態から薄膜となつて1∼2秒の間で固 化する。従つて常識的には恐らく急冷の過程を辿るで あろう事が予想される。然し現在迄の数多くの実験結 果では予想に反して、少くともAl合金に対しては急 冷効果はない様である。急冷の場合には第二相たる Al2Agの折出は見られない筈であるが、溶解法によ り作つた薄膜では殆どA12Agの針状(実は板状)結 晶が見られ、之に対応する回折像も明瞭に認められ る。急冷、徐冷の問題の外に、溶解法の過程は、蒸着 法が気相から固相への変化であるのに対して、液相か ら固相への変化である為、工業上現在広く用いられて いる金属合金の製造過程(鋳造)に対応している事は 注目すべき事で、衆知の金相学的組織を現わす薄膜製溶解法により作つた合金薄膜中における折出相の電子顕微鏡的研究 法である点を重視し度い。
第一一図は溶解法により作つたAL25wt%Ag合金
薄膜に対応する電子顕微鏡写真で、折出$H Al2Agの 小結晶が認められる。共晶薄膜の場合と同様に、折出 相の場合でも直接透過写真のコントラストは極めてよ く、レプリカに劣らない。唯何れの相が黒く出て、何 れの相が白く現われるかに就ては、少し立ち入つた議 論が必要であるが、現在の場合、電子に対する散乱能の大きなAg原子を多く含むA12Ag相の方が黒く現
われる。従つて黒く現われている結品に注日して、折 出相の検討を行えばよい事になる,結ll沽の形状、性質 に依つては回折効果が著しく影響する事があつて、薄 膜の透過写真に於けるコントラストの原因が何である かを確かめる事は重要な問題であるが、こXでは深く 触れない。 ざて第1図の過程では折出結晶の発達は未だート分で なく、之がWidmansttitten組織に迄発達するか、否か は明かでない。然し同様にして作つた他の薄膜では、 析出相の発達の種々の階程が認められて興味深い.第 2図は析出相結晶が可成発達してWidmanstatten組 織が明瞭に認められる様になつた状態を示す。膜面 に対する析出相の結晶(稠密六ガllのの方位が適当で あれば、針状結晶が互いに60°に交わる美しい模様が 現われる。図の場合は略・々之に近い。唯同じ方位、 例えば斜右上から斜左下の方向の結晶でも真黒のも のと薄墨色のとがあつて、レプリカに見る様な一一様さ はない。之は電子線σ)通過方向に於ける結晶の厚さの 差、並びに之に基ずく電r・波の回折効果、場所による 膜の膏曲の差に基ずくブラッグ反射の差等を考慮すれ }よ説巨月カミつく。 之等の析・出相結晶は熱処理によつて更に発達して整 然たる外形を示す様になる。第3図は溶解法で作つた 試料を更に2ε0°C、4hr真空中で加熱して得られた 薄膜に対する電子顕微鏡写真で針状結晶が著しく発達 して美しい幾何学的模様を現わしている。右上の不規 則な結晶は板面が膜面に平行な析出結晶であると思わ れる。 所で溶解法で作つた薄膜の各部分が全部一一様な相に あるかというと、そうでなく、電子顕微鏡で検討する 程度の微小領域(∼1μ2)の単位ご膜の各部を調べて 見ると、所により可成りの変動があり、或所は析出相 の結晶が発達しているのに、或所では結晶の発達が不 十分である。この事は更に電子回折によつて確かめら れ、合金中に於(’」る結品成長の機構を解明するものと して興味深い。 第4図は製作直後に於けるAl−25wt.%Ag膜の電 子回折像と電顕像とを示す。電顕写真に見る通り、一 様な下地(但しブラッグ反射に基ずく等傾角干渉縞が 随所に現われている)に針状のAl2Ag相が現われており、電子回折像も之に対応して、AlにAgが少量
固溶したマトリツクスの面心立方格子に基ずく強度の 大なる斑点群と強度の小さい延びのある斑点(延びの 方向は板状結晶の板面に直角な方向)とから成立つて いる。後者の一“例を(a)図矢印で示してある。析出 相結晶は既に可成発達している。 所が同様に作つた膜でも屡々第5図に示す様な複雑 な回折斑点を示す場所があり、之に対応する電顕像は 同図(b)の如くで、明らかに針状相の発達の中間過 程である事がうかがわれる。この状態が何であるかを 追究する事は甚だ興味深いが、現(Eの所尚十分な解析 を施し得る段階に至つていない。唯、電子回折で複雑 な回折模様を示す場所は、析出相の発達状態が他の場 所と著しく異つている事は事実で、第5図(b)に見 る様に小さな短形状結晶が随所に散在していて、短形 状結晶中に更に超小型のWidmanstatten組織が認め られる事は注目に値する。写真では十分明らかでない が、矢印で示す所は原阪では明瞭に以上の事実が認め られる。 以上述べた通り、溶解法により作られた合金薄膜は 急冷過程でなく、徐冷過程を経て固相になつている。 而して冷却の過程も場所により著しい変動があり、之 を適当こ利用して、過飽和固溶体から第二相が折出す る際の結晶の成長過程を系統的に追究する事が出来 る。残念乍ら予期した事実と違つて急冷過程ではない (少くともAl合金に対しては)ので、第1図に示す ,.よりも以前の状態から折出相の超微細結晶が成長して 来る所謂G.P,帯の研究を行うのには、試料をもう一・ 度高温に熱して均・化した後、急冷する過程を実施せ ねばならない。薄膜の急冷は本法に於ける如く、例i ば500°Cから室温迄、1∼2秒の間〆こ冷却するとい う程度では不十分で、小川σ1究室で実施した様に(2)、 真空中で加熱した試料を、炭酸ガスを吹き込んで一一挙 に液体窒素の温度(−210°C)位に迄冷却する事が必 要な様である。57
3結
言 溶解法に依り作られたAl−25wt.%Ag薄膜からは 電子顕微鏡こより美しいWidmansttitten組織が認め られる。薄膜は徐冷過程を経て固化するので、焼入効 果は期待出来ないが、膜厚の不均一さに基ずく結晶成 畏状態の変化を利用してWidmanstatten組織が成長 する過程を研究する事が出来る。昭和35年12月