イオン衝撃された銅単結晶(111)の表面形態の研究
岡田勝蔵
古市博
(昭和45年10月22日受理)Studies on Etched Surface in Copper (111) Single Crystal
by Bombardment with 5 KeV Argon Ions
KatsuzoOKADA HiroshiFURUICH Synopsis Copper(111)surface bombarded with 5 KeV argon ions, was observed by means of an interference microscope and an electron microscope by replica methods. The main results obtained are as follows: 1) The depth sputtered per unit time by bombardment was the largest at first;and the longer the time, the smaller it became, then after 60 minutes it was constant. 2) Etched patterns produced in the crystal by bombardment changed with the time of bombardment;they changed from the fines to the coarses, 3) Etched Patterns varied depending on the orientation of the plane perpendicular to the incident beam. 4)When the fixed target was bombarded with argon ions, its surface was scraped away leaving a pattern like a hole. Etched patterns were coarser in the center of the beam than in the edge of the beam.1.はじめに
イオンを固体にぶつけた結果生ずる現象は複雑であ り、・イオンの種類,イオンエネルギ,イオンの入射方 向,イオン密度,真空度,ターゲットの種類,その表 面状態など多くの因子に左右される1’。しかし,その 現象は力学的効果,化学的効果,熱的効果がからみ合 って生ずるため複雑である。最近,このイオン衝撃を 加工方面に利用して工業材料の薄膜化,せん孔,みぞ 切りなどが始められてきた2)。しかし,前記のように 現象が複雑なので加工分野への応用にあたり,基礎的 に検討しなければならない点が多いように思われる。 本研究は銅単結晶(111)を5KeVのアルゴソイオ ンで衝撃し,イオンの入射方位や衝撃時間にともなう 表面形態の変化を顕微干渉計やレプリカ法による電子 顕微鏡で観察し,今後イオン衝撃を精密加工に応用す る場合の参考資料を求めてみた。 2.実験材料および方法 本実験に用いた試料は純度99.95%の銅単結晶(111) である。単結晶作成過程での機械的研摩は粗さ0/6 (20μ程度)までのエメリ紙と琢磨機を使用した。こ れらの過程中に生じた表面加工層は電解研摩で表面よ り20μ程度を除去した。イオンとして用いたアルゴ ンガスの純度は99.95%で,不純物として窒素8ppM,酸素2ppM,炭化水素1ppM以下を含んでいる。衝
撃装置は高周波放電型イオン衝撃装置である3)。イオ ンのエネルギは5KeV,ビーム電流は30∼40μA程度試料面
ON:試料面の法線
OP:入射イオンの試料面への射影方向 OP=〔abc〕 1 α 入射角(試料面の法線と入射イオ ン方向とのなす角度) 図一1 イオン入射方向の表示図 表一1 実験したイオンの入射方向 杓 §、。 凄3。 曇2・ Z iO 暴 ● 一一一一55° x −一一一35° o−一一一〇°.一゜
〆三==二
0 50 100 衝撃時間(分) 図一2衝撃で削り取られたビームの中心付近 の深さと衝撃時間の関係 単結晶の表面 (111) 〔abc〕 〔1面 〔1()i〕 α。 入射イオンに 垂直な結晶面 0 35 55 35 55 (111) (110) (100) 図一3 〔abc〕=〔112〕, cr =35°,10分間衝撃し てえられた腐食模様 (11.6.1) (7.4.3) で実験をおこなった。 イオンの入射方向を入射角αと試料面への射影方向 〔abc〕で表わした場合(図一1),実験をおこなったイ オソの入射方向を表1に示す。衝撃時間は1∼120分 の間で変え,時間と表面形態の関連を顕微干渉計,お よびレプリカ写真で検討した。また,熱的効果をでき るだけ少なくするため,15分ごとに冷却を待って衝撃 した。 3. 実験結果および考察 図一2は顕微干渉計により調べた衝撃で削り取られた ビームの中心付近の深さと衝撃時間の関係を示した曲 線である。この図から明らかなように,曲線は時間の 経過とともに勾配が小さくなり(上に凸な曲線部分), 60分以上になるとほぼ一定の勾配となる。 スパッタリング効率(イオン1個当り原子が壊散さ れる割合)は試料の表面状態に影響をうける。すなわ ち,表面層の取り除かれるまでは大きく,時間が経過 するにつれて小さくなり,表面層がなくなると一定で ある4)。試料にぶつかるイオンの数と衝撃面積が一定 の場合,単位時間に削り取られる深さはスパッタ率に 比例する。したがって,図一2の曲線の勾配変化はこれ より説明ができ,酸化膜などの存在によると考えられ る。 “ レプリカ写真と比べてみると,表面の凹凸は上に凸 な曲線部分で時間の経過とともに細かなもの(図一3) からあらくなり,ほぼ勾配一定の曲線部分で時間にか かわらず変化しないことが認められた。この表面の凹 凸は小さい数個の微小面からできている腐食模様が多 数集まったものである。 短時間の衝撃であらわれる細かな腐食模様は斜方向 から衝撃した場合と垂直方向から衝撃した場合とでそ の様相が異なる。斜方向からの場合,イオンの入射方 位によらずほぼ均一な細かい腐食模様(図一3)が観察 された。 垂直方向からの場合,細かい腐食模様の中に部分的 に大きな腐食模様がみられた(図一4(a))。それは種々 の形をしているが,生成する原因は不明である。Aと Bはいずれもほぼ三角形で,一方を30°回わすとその 1辺が他の三角形の1辺と平行になり,それらの各辺 は直線でなく図一4(b)に示すように短い2方向の組合せ からできている。R. H. Silsbeeによる鎖状衝撃理論 によれぽ5),固体中の運動エネルギの伝播は一様でな くて原子配列の密な方向ほど大きく,その方向が最も図一5 120分間垂直衝撃でえられた腐食模様 図一4(a)10分間の垂直衝撃でえられた腐食模様 〔10i] 80。
⑨牟
A
図一4(b) B (a)のA・B部分の解析結果 スパッタしやすい。Aの1辺は〔110〕に平行であるか ら,この辺は小さな2つの〔110〕の組合せで全体の方 向が〔110〕であり,Bの1辺は小さな2つの〔110〕 で全体の方向が〔112〕である(図一4(b))と考えられ る。K・Mihamaはイオソ化された空気で金の(111) 単結晶を衝撃した場合,Aに対応した腐食模様を報告 している6)。 60分以上垂直衝撃すると上記のような腐食模様のぼ らつきはなくなり,30∼40個/μ2程度の腐食模様から できた均一なあらさをもつ表面に変化する(図一5)。〈一(a)衝撃前の電解面
《《_(b)短時間の衝撃面
/\/\!\(,)長時間の燵面
図一6 衝撃による表面形態の時間的変化の二 次元モデル これは試料表面(111)を底面とし,側面が3つの(111) からできた正四面体である3)。 時間が短いときの腐食模様は現倍率で見わけのつか ない多数の微小面からできており,時間が長くなると 現倍率で見わけのつく微小面をもつ腐食模様に変化す ると考えられる。図一6はこの表面形態の変化を二次元 的なモデルで表わしたものである。衝撃前の電解研摩 面(a)は衝撃始めに生ずる細かい凹凸(b)から次第に大き くなり,長い時間衝撃すると一定した凹凸(c)に変化す る。 この時間による腐食模様の変化は前述の表面層の存 在のほかに力学的作用と熱的作用の結果から生ずると 図一7〔abc〕=〔101〕,α=55°で120分 図一8 〔abc〕=〔112〕,α=55°で120分 図一g衝撃により削り取られ 間衝撃してえられた腐食模様 間衝撃してえられた腐食模様 た試料断面の模型図a. 〔13,6,1〕
上方に2mmずれた付近
d. 〔7,4,1〕下方に1mmずれた付近
b. 〔2,1,0〕上方に1mmずれた付近
e.〔3,2,1〕下力に2mmずれた付近
図一10 場所による腐食模様の変化 〔abc〕=〔101〕 cr =・ 35°で120分間衝撃したもの c.〔11,6,1〕 中心付近 考えられる。力学的作用としては衝撃により生じた結 晶内部の変位原子が衝撃時間とともに表面から飛び出 しやすいように微小面の大きさを増してゆき,表面か ら最も飛び出しやすい安定した表面形状で平衡を保つ ためと考えられる。つぎに熱的作用であるが,衝撃中 の表面層の温度上昇は直接測定しなかったけれども, かなり高いと思われる。試料全体の温度は熱伝導のた めに低くなっており,15分間衝撃したあとでは50∼60 °C程度であったQしたがって,温度上昇が原因で腐 食模様に変化が生ずる可能性も考慮する必要がある。 しかし,腐食模様の変化が衝撃による試料全体の温度 上昇のみで起こったのでないことは衝撃された試料全 体が同じ大きさの腐食模様でなかったことから明らか である。これらのことより,表面層の存在や力学的作 用,ならびに熱的作用がからみあった結果,時間に依 存して腐食模様に変化が生じたと考えられる。 入射角crが同じ場合でも〔abc〕により異なる腐食 模様が観察された。α=55°を例にとれぽ,〔abc〕が原子配列の最稠密方向と一致した場合(例えぽ〔abc〕 =〔101)),この方向に沿うみぞ模様(微小面の形がこ の方向に長いものが多い)を生ずる(図一7)。P・Hay−