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保育者養成における造形表現の遠隔授業の実践と課題

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保育者養成における造形表現の遠隔授業の実践と課題

樽井 美波

Remote Teaching of Expressive Art by Institutions Training Childcare Workers:

Implementation and Relevant Challenges

Minami TARUI 要旨 本論は、保育者養成校における造形表現に関する科目「図画工作」の遠隔授業の実践から、成果と 今後の課題について考察するものである。これまでは多くの場合、対面の形態で授業がおこなわれて きたが、検証の結果、遠隔での授業であっても、一定の学修成果を得ることが可能であった。一方 で、教員と学生、学生と学生が同じ場所・時間を共有する対面での授業でしか獲得できない学びがあ ることも明らかとなった。今後も多様な授業方法の実践・検討を重ね、どのような状況にあっても、 学生の学びの質を保障することが必要である。 キーワード:造形表現/領域「表現」/図画工作/遠隔授業 1.はじめに 今年(2020)度、新型コロナウィルスの感染拡大により、大学における授業の在り方は一変し た。筆者が担当する、短期大学の保育者養成の学科における造形表現に関する科目は、実技・演習を ともなう科目でもあり、コロナ禍以前は、教室で学生と教員が対面して授業がおこなわれることが当 然であるように考えてきた。保育における子どもの造形表現活動でも、子どもたちがものや人と直接 関わることは必然であるため、教員と学生、学生と学生が直に接することができない遠隔方式の授業 では、保育と造形表現についての本質的な学びを深めることは困難であると思われたからである。し かしながら、今回の事態により、予期せず遠隔での授業を実践することとなった。 本稿では、筆者がおこなった、保育者養成学科での造形表現に関する科目「図画工作」の遠隔授 業の実践を通して得た成果と課題について、受講学生のアンケート結果等を基に考察する。対面以外 の造形表現の授業方法について検証をおこなうことにより、コロナ禍のような非常事態のみならず、 今後の美術・造形に関する教育方法の可能性を広げる一助とすることを目的としたい。 2.保育者養成における造形表現の科目の意義と科目「図画工作」の目的 保育者養成における造形表現の授業方法について検証するにあたり、その土台となる保育・幼児 教育においての造形表現の意義について簡潔に確認したい。 人がおこなう造形活動の根幹的な意義に関しては、多くの研究者が論じている1)。ベルクソン (1859-1941)の「ホモ・ファーベル」という言葉には、人間の本質が「物を作りだすこと」にある という考え方があらわされているが、事実として、現代に至るまで人々がそれまでにない物を創造し 作りだしてきたことによって、文明、文化が発展し、社会が形成されてきた歴史がある。こうしたこ

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とから、乳幼児期に手を動かし、自分で何かを作り出す体験をおこなうことは、人として生きていく ために極めて重要なことであり、ものをつくりだすことによって「創造的な思考を促すことは、子ど もたちの日々の問題解決を助けるだけでなく、将来社会の中で生きていくうえで出会うであろうさま ざまな課題を克服するのに役立ち」2)「このような意義をもつ造形表現は、保育における現代的な 課題に対しても有益な教育効果をもつ」3)と言えるだろう。 子どもたちに造形による表現の機会を提供する保育者には、乳幼児の生活の多くを占める「遊 び」としての造形活動を提案し、子どもたちの豊かな表現が生み出される環境を保障する役割があ る。保育・幼児教育の現場での実際の指導にあたっては、「幼稚園教育要領」4)、「保育所保育指針」 5)「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」6)を踏まえて、その内容を構築していくことが求めら れる。これらの要領・指針では、子どもの発達の側面から、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表 現」の五つの視点が示され、それぞれの領域ごとに教育・保育のねらい及び内容がまとめられてい る。この中でも、領域「表現」は「感性と表現に関する領域」とされており、造形活動と特に深く関 係する内容が示されている。領域「表現」の目的は、「感じたことや考えたことを自分なりに表現す ることを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする」ことであり、この目的のも とに、ねらいと詳細な内容が提示されている。保育における子どもの造形活動では、領域「表現」の 内容を軸としながら、ほか四領域との関連を含めて組み立てられていくことが望ましいと言える。以 上を踏まえると、保育者養成における造形表現に関する科目の役割は、「学生が将来、保育の現場に おいて、子どもたちの様々な力が豊かに育まれるような造形表現の体験を支援するために、造形技 法・材料・用具に関する知識、技能を修得し、子どもの姿やねらいに応じた活動として実践できる力 を育てること」であると考える。 造形表現に関する科目の中で、本稿で考察をおこなう科目「図画工作」は、短期大学における保 育者養成の学科1年次対象の必修科目であることから、保育における造形表現の基礎を学ぶ科目であ ると捉えられる。このため、科目の主とする学修到達目標を「造形的基礎力の獲得」としている。具 体的には、「学生自身が造形表現を楽しむ体験を通して、基礎技能(造形技法)や、保育現場で造形 表現に用いられる材料・素材・用具について学ぶこと」に主眼を置いている。また、各回の授業での 造形に関する学習を通して、学生が、前述した五領域と関連する、次のような観点での経験や気づき を得ることができる内容を意識している。「意欲的に授業に取り組む(領域 健康)」、「様々な表現の しかたや考え方に気が付く(領域 人間関係)」、「制作のための用具・場所を整える(領域 環 境)」、「考えたことや感じたことを伝え合う(領域 言葉)」、「発想力・創造力を豊かにする(領域 表現)」といった観点である。遠隔での授業であっても、こうした科目の本来の目的、ねらいを見失 うことなく、授業内容・方法を検討することが必要となる。 3.科目「図画工作」の遠隔授業の方法の検討 実際の遠隔授業の方法としては、大きく分けて、①オンデマンド型、②オンライン(同時双方 向)型の二つの方法が挙げられる。7)どちらの方法においても、文部科学省より、平成十三年文部科 学省告示第五十一号に基づき、遠隔授業においては「当該授業に関する学生の意見交換の機会の確 保」、「設問回答、添削指導、質疑応答による十分な指導を併せて行うこと」等が要件として示されて いる。8) 二つの授業形態の概要と特徴については、次のようなことが挙げられる。 ①オンデマンド型授業は、教員が予め準備した映像等の教材を学生が視聴して学ぶ授業形態である。

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多くの場合、学生が任意の時間に学習することができる点に大きな利点がある一方で、教員からの一 方向的な授業になりやすく、前述した、文部科学省からの通知に示されているような、双方向性の確 保に工夫が必要であると言える。 ②オンライン(同時双方向)型授業は、Zoom 等のオンライン会議システムを利用しておこなわれ る。教員と受講者がオンライン上でリアルタイムに対話しながら授業を進められるが、その実施には インターネット環境、機器が必須であり、教員と、学生一人ひとりの環境整備や、通信に問題が生じ た際の代替手段の検討が不可欠となる。 本稿で取り上げる科目「図画工作」においては、前章で述べた、保育者養成における造形表現科 目の役割、当該科目の学修到達目標を踏まえて、遠隔授業であってもできる限りその目的を達成でき 得る方法を検討した。その結果、Zoom によるオンライン(同時双方向)型を主な授業方法としなが ら、通信環境の不具合への対応や、不足する授業時間分の学修時間の確保等を、オンデマンド型の方 法で補うこととした。当該科目の目的のひとつである「基礎技能の習得」の達成には、学生が好きな 時間に取り組むことができ、必要な箇所を繰り返し確認できるという点から、オンデマンド型が適し ているとも考えられるが、当該科目においては、これまでの授業経験から、造形活動を通して発生す る学生同士のコミュニケーションから生まれる学びも非常に重要であると思われた。そのため、学生 同士が同じ時間を共有し、対話しながら学び合うことができ得るオンライン(同時双方向)型を主な 授業方法とした。教員と学生の双方向性の手段としては、Zoom での授業内での対話、質問を受ける 時間の設定、提出された課題に対するコメント等のフィードバックにより、その確保を図った。課題 の提出・管理には、主に、当該短期大学が採用しているクラウド型教育支援システム「manaba(マ ナバ)」(株式会社朝日ネット)を活用することとした。 4.実践の内容 「図画工作」の授業は、1学年(100 名程度)を 25 名程度ずつの4つの講座に分け、実施してい る。筆者は、4回分(×4講座で計 16 回)の授業を主に Zoom を用いたオンライン(同時双方向)型 でおこない、不足する前期の授業回数を補うための課題についての説明をオンデマンド型で提示し た。なお、当該短期大学の1回の授業時間は90 分であるが、この遠隔授業を実践した時期は、まだ 教員も学生もオンラインでの授業に不慣れであったことから、次限の授業の準備時間の確保や、画面 を見続けることで生じる疲労感への対策として、各回の授業をおよそ70~80 分間程度でまとめるこ ととした。以下より、実践した各回の授業の概要を記し、その成果と課題について考察する。 第1回 授業内容 時間配分 内容 概要 使用ツール及び機能 40 分 オリエンテー ション 授業内容等に関する説明をおこなう。 資料プリント Zoom(PP 資料の画面共有) 20 分 自己紹介 グループごとに自己紹介をする。 Zoom (ブレイクアウトルーム) 課題 自己紹介 スケッチブックに自分らしさが伝わる よう自己紹介を記入する。写真撮影 し、画像を提出する。 manaba(ファイル送信)

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オリエンテーションについては、対面での授業であっても教員から一方的に話をする時間が主であ るため、遠隔での情報伝達であっても内容の理解にはそれほど支障はなかったと思われる。今後の授 業がオンラインによるものであっても、「同じ時間を共有して学び合っている」ということを意識して もらう意図から、例年の教室での授業の様子の紹介を交えながら話をした。【図 1】問題点としては、 対面での授業では学生の表情や反応から理解の度合いを確認しながら話を進めることができるが、オ ンライン授業では、カメラをオンにして顔を映している学生があまりおらず、カメラオンにしている 数名の学生の反応を頼りに話を進めることとなり、話の内容が受講生全員に伝わっているのか不安が 残った。オンライン授業の際に学生が自身の顔を映すことについては、学生の心情や通信量などの観 点から、カメラオンを必須にしないということが学科の方針となったため、当該科目においては、必 要がある時のみカメラオンを求めることとしたが、障壁となる問題がクリアされるならば、やはり受 講生全員の表情を見ることができる状態での授業が望ましいと思われた。 オリエンテーション後、今後の授業の中で学生同士がお互いに考えたことや表現したことを共有 できる関係を築いてもらう目的で、対面授業で想定していた教室の席順による3~4名のグループご とに、ブレイクアウトルームを設定し、お互いに自己紹介をする時間を設定した。ブレイクアウトル ームは、Zoom ミーティングの中で、任意またはランダムに参加者をグループ分けする機能である。 学生にはカメラオンを求め、全員が応じてくれた。学生間で会話をしてもらう目的であったため、自 己紹介をする人が一方的に話すだけではなく、「自己紹介を聞いたグループの人は、その人に質問を する」という条件を提示した。この間、教員は各ルームを巡回し、円滑に進んでいないグループにつ いては会話に入るなどした。入学したばかりの1学年であるため、学生間の交流はほぼ初めてであっ たと思われるが、比較的どのグループも和やかに話が弾み、授業に関係すること以外にも、学校生活 で不安なことなどを共有している姿があった。しかしながら、前述したように、会話がとぎれがちな グループもあった。自己紹介だけではなく、画面上でグループごとに一緒に取り組むことができるワ ーク等があれば、会話の糸口につながったのではないかと考える。 課題は、スケッチブックに記入した自己紹介を撮影し、その画像を manaba にアップロードし提出 してもらう方法とした。manaba のシステムを使った課題提出方法には大きく分けて二つの方法があ り、ひとつは、設定された項目に文章を記入する「フォーム入力」で、もうひとつは今回の課題で求 めたような、画像等のファイルをアップロードする「ファイル送信」方法である。提出された課題を 見ると、それぞれが工夫し、スケッチブックに自分なりの自己紹介を表していた。文章の記入でなく、 画像による提出にしたことで、表現の幅が広がり、学生の個性が感じられた。【図2】 【図 1】使用したパワーポイント資料(対面での授業の様子) 【図2】提出された課題(自己紹介)の画像

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第2回 授業内容 時間配分 内容 概要 使用ツール及び機能 80 分 色彩について 色彩に関する講義をおこなう。 講義内で、色彩に関する演習(約30 分)をおこなう。 資料プリント Zoom(PP 資料の画面共有、 ビデオカメラでの教員の実 演の画面共有) 課題 ・作品制作 ・振り返り 自分で設定したイメージを、折り紙 の配色構成により表現する。作品を 写真撮影し画像を提出する。 授業の振り返りを記入し提出する。 manaba(ファイル送信) manaba(フォーム入力) 図画工作を学ぶうえでの基礎知識となる、色彩についての講義をおこなった。途中、事前に送付 したプリントに、画材を使用して取り組むワークをおこなう時間をはさんだ。実技の内容はこれが初 めてであったため、学生の感想には「楽しかった」という記述が多かった。また、手を動かす時間が あったことで、講義が長時間続くよりも、学生の集中力が持続したのではないかと思われる。ワーク の説明をする際には、教員の手元をビデオカメラに映して画面共有し、実演をおこなうことで、手順 の理解を図った。【図3】、【図 4】 課題は、授業内容に関連して、「色のないもの(気持ち、におい、温度、味など)をテーマとして、 折り紙を切り貼りし配色によって表現する」という内容を示した。制作した作品と、作品についての ワークシートを撮影した画像をmanaba に提出してもらった。【図 5】提出された作品画像は、写真に よっては影で暗くなってしまっていたり、ピントがあっておらず見えづらいものもあったため、課題 内容の確実な確認のために、課題提出の説明の際に、写真撮影のアングルや光源等についても助言を おこなう必要があると思われた。ただし、問題なく撮影されている画像であっても、色の鮮やかさや、 細部の繊細な表現などは確認することが難しく、やはり作品を画像で確認する方法では、実物の作品 を実見することで得られる発見には及ばないと思われる。遠隔授業において、制作された作品の実物 を確認するためには、学生から学校へ送付してもらう必要があり、作品の大きさや形態によっては難 しい場合も想定され、また送料の負担の問題もあるため、方法の検討が必要であるだろう。一方で、 作品の内容は、例年の同様の課題と比較して丁寧に制作されているものが多いように感じられた。対 面での授業では、少なからず周りのほかの学生の表現や制作の進捗状況が視界に入り、良くも悪くも 影響を与え合うと思われるが、遠隔授業では、周りを気にせず各自のペースで、好きなだけ時間をか けて制作に取り組むことができる。この点は、遠隔授業の利点のひとつと捉えられるかもしれない。 【図3】教員がプリントのワークを実演している様子 【図4】ワークの説明を視聴する学生

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第3回 授業内容 時間配分 内容 概要 使用ツール及び機能 20 分 作品鑑賞 第2 回の課題をグループごとに相 互鑑賞し、感想等を伝え合う。 Zoom (ブレイクアウトルーム) 30 分 描画材について 描画材に関する講義をおこなう。 講義の中で、描画材(クレヨン) を用いた演習(約10 分)をおこな う。 資料プリント Zoom(PP 資料の画面共有、 ビデオカメラでの教員の実演 の画面共有) 30 分 絵の具を用いた 表現技法につい て(デカルコマ ニー) 技法についての説明と実演をおこ なう。 技法の演習(約15 分)をおこな う。 資料プリント Zoom(PP 資料の画面共有、 ビデオカメラでの教員の実演 の画面共有、学生カメラ) 課題 ・作品制作 ・振り返り デカルコマニーの技法を用いて作 品を制作する。写真撮影し画像を 提出する。 授業の振り返りを記入し提出す る。 manaba(ファイル送信) manaba(フォーム入力) 冒頭に前回の課題の相互鑑賞をブレイクアウトルームでグループごとにおこなった。「色のないも のをテーマとして、配色によって表現する」という課題内容であったため、まず、互いにテーマをふ せて作品を見せ合い、お互いの作品を鑑賞して予想したテーマを伝えあったあとに、実際に設定した テーマを発表する、という流れで鑑賞をおこなってもらった。第1回授業の際と比べると、作品を介 することにより、会話がはずみ、コミュニケーションが活発化しているように思われた。学生の感想 では、「色だけでもイメージが伝わってうれしかった」「みんなそれぞれに作品に個性が出ていておも しろかった」などの記述があった。対面での授業では、講座全員の作品を黒板上に並べ、大きなひと つの作品にしたときの見え方を実感してもらうが、今回の授業では、画面上で全員の作品を並べて構 成した画像を見せた。【図6】実際の作品のスケール感や色の美しさは感じづらいと思われるが、配色 の構成による美しさや、表現の広がりについては伝わったようであった。 続いて、絵の具、クレヨン、パスといった、保育で使用される機会の多い描画材についての講義と 演習をおこなった。第2回同様に、送付してある資料プリントにそって説明をしながら、技法演習の 部分については、教員の手元をビデオカメラで映し、実演を見てもらった。絵の具を用いる描画技法 (デカルコマニー)の演習では、比較的短時間でできる技法であるため、「できた人は画面に映して見 【図5】 提出された課題 (色彩構成)の画像

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せてください」という声かけをしたところ、順に学生が作品を画面に映してみせてくれた。【図7】見 せてくれた作品に対してその場でコメントを伝えることで、対面授業同様にリアルタイムのやりとり ができるとともに、作品に対する気づきや視点が受講者全体に伝わることとなり、意味のある手段で あったと考える。また、学生の制作の進捗状況を確認することにも有効であったが、画面上で全員の 進度を確認することは難しく、この点も今後の課題として挙げられる。 課題は、演習したデカルコマニーの技法を用いた作品の制作で、提出方法はこれまでと同様である。 第2回授業と同様に、学生によっては、工夫をこらした作品があり、第2回授業の部分で述べたとお り、各自が好きなように時間をかけて制作できるという点で、遠隔授業の利点が感じられた。【図 8】 一方で、絵の具を使用する制作においては、汚れが生じやすいという点から、制作環境の準備が必要 となるが、事後のアンケートでは、この点に難しさを感じる学生が多いことがわかった。 第4回 授業内容 時間配分 内容 概要 使用ツール及び機能 20 分 作品鑑賞 第3回の課題のなかで、工夫がある 作品を紹介する。 Zoom(作品画像の画面共 有) 60 分 イラストレーシ ョンについて イラストに関する講義をおこなう。 講義の中で、イラスト描画の演習 (約30 分)をおこなう。 資料プリント Zoom(PP 資料の画面共 有、ビデオカメラでの教員 の実演の画面共有) 【図6】 講座全員の作品を並べた画像 【図7】制作した作品を見せる学生 【図8】提出された課題(デ カルコマニーの作品制作)の 画像

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課題 ・カードの制作 ・振り返り イラストを用いて、しかけカードの 制作をおこなう。写真撮影し画像を 提出する。 授業の振り返りを記入し提出する。 manaba(ファイル送信) manaba(フォーム入力) 始めに、提出された第3回の課題のなかから、工夫がある作品について、紹介をおこなった。 この回は、当初の予定では、第3回に続いて描画材をつかった表現技法の演習を予定していた が、次の回(第5回)から、大学での対面授業がおこなわれることが決まっていたため、これを変更 し、比較的オンラインでもおこないやすいと思われるイラストレーションについての講義・演習を前 倒しでおこなうこととした。進め方については、これまで同様に、送付した資料プリントそって説明 をおこないながら、描画するワークを交えた。 課題は、イラストを用いた しかけカードの制作とした。画面上の説明でもわかりやすく、自宅で も手軽に取り組みやすい課題であったと思われ、提出も問題なくおこなわれた。【図9】一方で、こ れまでの授業にも共通することであるが、学生一人ひとりへ事前に送付する材料の準備に膨大な時間 を要した。【図10】様々ある教材の中では、簡易な材料を用いる課題であるが、受講生全員分の準備 となると、通常の授業準備に加えての時間の確保が難しいところであった。1人分ずつの材料のカッ トや必要数に分けて整えることに加えて、送付に際しては、材料が折れたり痛まないようにすること が必要であるため、梱包の配慮も必要となった。こうした、遠隔授業での教材の準備については、教 員の事前準備の負担というほかにも、対面での授業であれば、複数の選択肢の中から、その場で学生 が好きな色を選択したり、自分が必要な大きさ・量を使用する、ということなどができるが、遠隔で の授業では、家庭で用意することが難しいと思われる材料については予め教員が用意して送付したも のを使用することとなり、表現や発想の幅を狭めてしまうことが危惧される。 課題についての説明(オンデマンド型) 時間配分 内容 概要 使用ツール 30 分 描画表現技法について (スタンピング、フロタ ッージュ) 技法についての説明と実演をおこな う。 資料プリント 収録した動画 課題 作品制作 技法を用いて作品を制作する。 スケッチブック 前述の通り、前期の授業開始時期が遅れたことにより、授業回数が1コマ分不足した。これを補 うため、夏季休業中に取り組んでもらう課題を設定したが、この課題についての解説を、予め撮影し た動画をオンラインストレージサービスで学生に共有する、オンデマンド型の形式で提示した。動画 【図9】提出された課題(イラストを用いたしかけカード) 【図10】カード制作の課題で送付した材料

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の内容については、これまでの授業と同様に、学生に配布した資料にそって説明をおこない、技法に 関する説明は、実演を手元カメラで映して示した。学生の理解の程度について、提出された課題の取 り組みや事後のアンケートからは、一定程度の成果があったと言える。オンデマンド型では、学生が 自分の好きな時間に取り組むことができる点や、わからない点については繰り返し再生し確認するこ とが可能である点、教員側は映像を確認しながら編集し完成度のある動画を提示できる点に有用性が あると思われる。一方で、学生から課題提出などの行動があるまでは、どのくらい理解できているの かの確認が難しいと感じられた。 5.実践の成果と課題の分析 当該科目を受講した学生99 名を対象にアンケートをとり、実践の成果と課題について分析をおこ なった。対象となる学生たちは、前期の前半は、これまで述べてきたようなオンラインによる授業、 後半は対面による授業を受けたため、それぞれの授業形態を比較する質問と、当該授業が科目の学修 到達目標の達成に役立ったかどうか等について尋ねる質問を設定した。 【図11】は、第2章で述べた、当科目の学修到達目標と、授業を通して学生に経験してほしい、 五領域に則した学びを挙げ、それぞれの観点について、対面授業と遠隔授業でどちらの授業形態が学 びやすく感じたかという質問に回答してもらった結果のグラフである。 このアンケートの結果からは、いずれの観点からも、8~9割の学生が「対面授業のほうが学び やすい」と感じていることが明らかとなった。 特に結果が顕著であった項目について見ていくと、「制作のための用具・場所を整える」ことにつ いては、95%の学生が「対面授業のほうが学びやすい」と感じているようだった。材料の準備という 点からは、第4回授業の実践内容で述べた通り、学生が自宅で造形活動をおこなうためには、学生自 身で材料を調達することや、家庭で準備することが難しいものについては事前の送付等の対応が必要 となり、学生・教員双方に負担が生じると言える。また、事前に送付された材料を使用する場合に は、学生が材料を選択する余地が狭まり、作品の自由度の低下につながることが指摘できる。 一方で、「様々な表現のしかたや考え方に気が付く」という観点では、15%程度の学生が「どちら 【図11】オンライン授業と対面授業を比較して、どちらの授業形態がより学びやすいと感じるか、それぞれの観点について、回答 してください。(回答数98)

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とも言えない」や「どちらか言えばオンライン授業」の回答であった。オンライン授業の実践では、 学生同士の対話が限られる分、対面での授業時よりも、学生の作品の紹介を丁寧におこなっていたこ とや、対面での授業では、制作中の学生個人への教員からの声かけは机間巡視の際におこなうため、 同じ班の学生以外へは声かけはほとんど聞こえないが、オンライン授業では、ひとりの学生に対する 声かけが全体に届くため、受講生全員の気づきにつながることが考えられる。対面授業の際にも、こ うしたことにより配慮する必要性があることがわかった。 【図12】は、対面授業と比較して、オンライン授業において不十分さや難しさを感じた点につい て回答してもらった結果のグラフである。 この結果、「Zoom での授業内での技法実演」に難しさを感じている学生が 15%程度いた。動画に よるオンデマンド型の実演のほうが、難しさを感じた学生が少ないことから、技法の理解・習得に関 しては、繰り返し確認のできるオンデマンド型のほうが理解しやすいということが言えるだろう。 Zoom 等でのリアルタイムの授業であっても、技法の実演など、部分的に授業の動画をアーカイブ し、学生が必要な時に閲覧できる状態にしておくことが有効であると思われる。ただし、いずれの方 法にしても、対面授業で技法の実演を実見してもらう際と同等の理解を得るためには、一視点だけで はなく、多角的なアングルから実演を撮影することや、補足の資料等も必要になることが考えられ、 課題は多いと言える。 「学生同士で制作の過程を共有する時間や機会」については、およそ6割の学生が不十分さを感 じていた。対面での授業では、学生が制作に取り組む中で、周りの学生の制作の様子が自然と視界に 入ることで、自分にはない発想を得ることができたり、表現方法についての理解が深まっている様子 がある。また、視覚的な情報だけではなく、制作の中で学生間に自然と会話がうまれ、作品について 迷っているところを互いにアドバイスしあう中でより豊かな表現がうまれる場面も多いと感じる。し かしながら、遠隔での授業においてこの環境を再現するためには、学生が各自に、自分の制作の様子 を映すためのビデオやカメラ、スマートフォン等の機器と、その機器を手元を映すアングルに固定す るための三脚等の機材、さらに、同時にほかの学生の様子を見るためのパソコンやタブレット、スマ ートフォンなどの機器が別に必要になることになり、学生にとっては準備に相当な困難が生じること が予想される。この点については、遠隔での授業では克服することが難しい問題であると考える。 また、「学生同士で完成した作品を共有する時間や機会」に不十分さを感じていた学生も4割程度 いた。これについては、ブレイクアウトルームを活用し相互鑑賞の時間を確保することや、受講生が 【図12】オンライン授業で、どのような点について不十分さ、難しさを感じたか回答してください。(回答数 89)

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画像等のデータを共有できるファイルをオンライン上におき、お互いの作品を閲覧できる環境を整え ることで改善が見込まれる。今後の課題としたい。こうした、学生の作品記録をアーカイブし、相互 に鑑賞することができる環境を整えることは、対面授業においても採り入れたい内容である。 また、「制作の用具や場所を整えること」が難しいと感じた学生は45%いた。これは、前述した 【図11】の回答結果と重複する内容でもある。当該科目では、前述した通り、第5回以降の授業を 対面でおこなえることになったため、予定していた授業計画を変更し、絵の具などの周囲を汚しやす い画材での技法演習や、多くの材料を使用する題材などは対面授業の際におこなうこととし、オンラ イン授業では、家庭の環境でも比較的取り組みやすい内容を選択しておこなった。そうした内容であ っても、制作場所等の準備に難しさを感じるとということは、家庭の環境の中では、学生が自由に使 えて多少汚れても良い場所を確保することは困難であると理解される。住居環境は家族と共有するも のであることから、学生の努力によって工夫することにも限界があるだろう。一方で、保育のなかで は、子どもがのびのびと表現活動をおこなうために、必要な空間の確保は不可欠であるし、場所や衣 服、身体の汚れを気にする環境では、子どもたちは満足な活動ができない。こうしたことの理解のた めにも、造形表現の授業において環境の制約や制限があることは、学生の学びにとっては不利益であ ると言わざるを得ないだろう。 【図13】は、前期の授業終了後に、当該授業が科目の学修到達目標の達成に役立ったか等につい て尋ねたアンケートの結果である。 前述のように、前期の前半はオンラインでの遠隔授業、後半は、感染拡大防止のための制限があ ったものの対面での授業であったが、アンケート結果から、受講生全員が「授業が学修到達目標の達 成に役立った」と回答しており、この結果は例年の対面授業のみの学期末アンケートと比較しても良 い結果であった。遠隔と対面の両方の授業があったことで、対面授業のみでは行き届いていなかった 点にも学習支援が及んだとも考えられる。また、授業内容の理解や、授業の満足度の観点について も、問題のない結果であった。この結果から、必ずしも対面による授業でなくとも、一定の学修成果 を得ることが可能であることが考察された。 6.むすび コロナ禍において緊急に実践せざるを得なくなった遠隔授業であるが、様々なツールの活用や授 業内容の工夫により、ある程度の学修成果を得ることが可能であることがわかった。一方で、対面で の授業でしか成立しない、「教員と学生、学生と学生が、同じ場所・時間・ものを共有すること」か ら得られる学びや、養われる力が多いことも明らかとなった。こうした、「場・時間・ものの共有」 は、実際の保育でも必然となることであるため、やはり、保育者養成における造形表現の科目が、遠 隔での授業のみで完結することは望ましくないと言えるのではないだろうか。 【図13】前期の「図画工作」の授業全体を振り返って回答してください。(回答数 99)

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また、コロナ禍においては、保育者養成校や大学だけでなく、多くの教育機関や文化施設でオン ラインを活用した美術教育の取り組みが試行錯誤されている様子がうかがえる。9)10)保育・幼児教育 においても、新しい美術・造形教育のツールを活用した内容を取り入れることも、今後の課題として 挙げられるのかもしれない。こうした、新しい教育方法の成果や課題については、今後も実践を重 ね、他の教育機関と情報を共有しながら内容を検証していくことで、様々な可能性が広がることが予 想される。今回の筆者の実践は短期間のものではあったが、成果のあった教育方法については、対面 での授業でも採り入れ、これまでの教育方法と併用していくことで、授業の質の向上を図り、今後 も、どのような状況であっても、学生の学びの質を保障することを心に留めたい。 引用・参考文献 1) 大橋 功、新関伸也、松岡宏明、藤本陽三、佐藤賢司、鈴木光男、清田哲男『美術教育概論 (新訂版)』日本文教出版、2018 年 2) 槇 英子『保育をひらく造形表現』(第 2 版)萌文書林、2018 年、p.13 3) 槇 英子『保育をひらく造形表現』(第 2 版)萌文書林、2018 年、p.13 4) 文部科学省『幼稚園教育要領解説』フレーベル館、2018 年 5) 厚生労働省 編『保育所保育指針解説』フレーベル館、2018 年 6) 内閣府、文部科学省、厚生労働省『幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説』 フレーベル館、2018 年 7) 福村裕史、飯箸泰宏、後藤顕一 編『すぐできる!双方向オンライン授業 ―Zoom,Teams,Google ソフトを活用して、質の高い講義と科学実験を実現』化学同人、2020 年 8) 「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係る Q&A の送付について(4 月 21 日時点)」、 https://www.mext.go.jp/content/20200421-mxt_kouhou01-000004520_7.pdf、文部科学省、2020 年 9) 「美術教育におけるオンライン授業の可能性と課題」『教育美術 2020 年 9 月号』 教育美術振興会、2020 年 10) 「あれとこれでやってみた美術の授業デジタルリノベーション」『形 forme No.322』 日本文教出版、2020 年 樋口一成『幼児造形の基礎 乳幼児の造形表現と造形教材』萌文書林、2018 年 福田隆眞、福本謹一、茂木一司『美術科教育の基礎知識』建帛社、2013 年 SUMMARY

This paper discusses outcomes and future challenges arising from remote teaching of craft activities within the study of expressive art by institutions training childcare workers. Such teaching sessions have tended to be face-to-face, but this study confirmed that some learning outcomes can be delivered remotely. However, it was also shown that some learning can only be achieved in face-to-face sessions wherein the teacher and students, share the same space at the same time. Looking ahead, it will be necessary to conduct a series of practical investigations of various teaching methods to guarantee high quality learning among students in all circumstances.

参照

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