間質性肺炎を合併し、ステロイドパルス療法後に切除した肺扁平上皮癌の1例 市立甲府病院 呼吸器内科 山家理司 宮木順也 小澤克良 外科 宮澤正久 加藤邦隆 放射線科 南部敦史 病理 宮田和幸 【要旨】 気胸、塵肺の経過観察中の患者に、肺癌と間質性肺炎を同時に認めた。間質性肺炎は、 主に腫瘍周囲の分布であったが、ガリウムシンチで両肺に集積元進が認められ、KL 6 も高値であり、また画像上もスリガラス影が主体であるため活動性病変と判断しステロ イドパルス療法を施行している。間質性肺炎は改善が認められた。その後手術を行い術 後の経過も順調であった。間質性肺炎の病理像はNSI P(nonspecific int er st itial pneumonia)様であった。 Key word:間質性肺炎、 NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)、肺癌 【はじめに】 特発性間質性肺炎に肺癌が高頻度に合併することは今日よく知られている。合併の頻 度は報告者により異なるが5∼48%程度といわれている。しかし、NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)と肺癌の合併に関しては、 NSIPという概念が比較的最近のもの でもあり、あまり報告がない。 今回我々は、肺癌にNSIP様の間質性肺炎を合併した症例を経験したので報告する。 【症例】 症例:69才の男性 主訴:症状はなし 既往歴:30才時に虫垂炎、68才時に右気胸。 患者背景:喫煙歴 10本/日(40年間) 現病歴:1999年11月に、右気胸にて当院に入院している。胸腔ドレナージ施行に て改善している。40年来の水晶の研磨の職業歴があり、この入院の際に塵肺が認めら れている。
その後、外来通院となっていたが、2000年5月に施行した胸部erにて右下肺に
2.5cm大の結節影とスリガラス影の出現を認めたため入院となった。 入院時現症:両背側下部にてfine cracklesを聴取する以外では、異常を認めず。ばち 指なし。 検査所見:表1参照 【経過】山梨肺癌研究会会誌 14巻1号 2001 1999年11月に気胸で入院した後の経過観察中のレントゲンやerでは明らかな結節 影や、スリガラス影はなかった(図1、2)。2000年5月のレントゲンでは右下肺野 に結節影が出現し、スリガラス影も同時に認めている(図3)。CTでも右肺S9もしく は10領域に径2.5cmの結節影あり、spiculaを伴っている。結節影周囲を中心にスリガ ラス影が認められる(図4)。 肺癌が疑われたため、5月25日に気管支鏡検査を施行し、経気管支肺生検(TBLB) を行ったが、肺胞壁の肥厚と単核炎症細胞浸潤の所見のみで、悪性の所見は認められず、 6月1日に再検査を行ったが結果は同様であった。TBLBでは明らかな悪性所見は得られ なかったが、画像的に肺癌が否定できず、手術を行うこととなった。術前の病期診断で は、TINOMOのStage1Aであった。 手術に先立ち、間質性肺炎のコントロールのために、6月8日からステロイドパルス 療法を施行した。(ソルメドロール(met hyl pr ednisol one)1g/日、3日間)その後、レ ントゲン、胸部erでは、スリガラス影は、著明に改善した(図5、6)。6月16日に測 定したKL−6も2730 Ulmlと以前より低下がみられた。 外科に転科し、6月30日に手術を施行している。右下葉の部分切除を施行し、術中迅 速病理検査を行った結果、肺癌(扁平上皮癌もしくは大細胞癌)との診断にて、右下葉 切除、縦隔リンパ節廓清術を施行した。術後の経過も良好で、間質性肺炎の増悪もなく、 7月20日に退院となっている。 病理の結果は、低分化の扁平上皮癌であった(図7)。腫瘍径は20×25×20mmで、 pTINOMOのStage1Aであった。 腫瘍周囲の肺組織には、肺胞壁の肥厚と、リンパ球を中心とした細胞漫潤がび漫性に 認められた。はっきりとした線維化の所見はなく、NSIPのgr oup1様の所見であった (図8、9)。これらの病変は、腫瘍に近いほど強く、離れるにしたがい弱くなる傾向 があった。 【考察】 特発性間質性肺炎に肺癌が高頻度に合併することは、今日よく知られている。合併の 頻度は、報告者により異なるが5∼48%程度である1)2)・ 間質性肺炎に合併する肺癌の特徴としては、(1)重喫煙者が多い、(2)下葉に多い、 (3)末梢型が多い、(4)線維化巣、またはその周囲に発生することが多い、ということ が挙げられる1)∼3)・一般的には、特発性間質性肺炎合併肺癌では、術後急性増悪例 の致死率は非常に高く4)∼6)活動度の高い時期には手術をさけるべきであるという報 告もある7)・今回の症例では、間質性肺炎はスリガラス影主体でありガリウムシンチ でも両肺に集積元進が認められ、Kし6も高値であり、活動性病変と判断し術前にステ ロイドパルス療法を施行している。間質性肺炎の改蕃を認め、その後に手術を行い、術 後も経過は順調であった。 しかし、今回の症例では、間質性肺炎が肺癌とほぼ同時期に発生し、間質性肺炎のあっ
た部位に肺癌を発生したというわけではない。また間質性肺炎も病理像では
NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)様である8)。BALFの所見では、リンパ球の増加が著明であり、ステロイドに対する反応性という点もNSIPに矛盾しない。しかし、今 回の症例においては間質性肺炎の分布は画像上、腫瘍周囲であり、ステロイド投与後で あるが病理所見でも腫瘍に近い部位に病変が強い傾向があり、肺癌とNSIPの合併という よりは腫瘍に伴ったなんらかの免疫学的な反応の結果、NSIP様の間質性肺炎を呈したも のと考えられる。 肺癌とNSI Pの合併例の報告は我々が検索した範囲では、1999年にYamador iらが1例 の報告をしているのみであった9)。 【結語】 (1)間質性肺炎を合併し、ステロイドパルス療法後に間質性肺炎の改善を認めた後に、 切除した肺扁平上皮癌の1例を経験した。 (2)肺癌と、間質性肺炎の出現時期は、ほぼ一致していたと思われた。 (3)間質性肺炎の病理像はNSIP(nonspecific interstitial pneumonia)様であった。 参考文献 1)小倉剛:間質性肺炎と肺癌の合併 臨床医 22;52∼55、1998
2)松下央:特発性間質性肺炎と肺癌 病理と臨床 11;178∼182、1993
3)松下央、田中さゆり:特発性間質性肺炎と肺癌 Mol ecul ar Medici ne 32;1150 ∼1156、 1995 4)谷村繁雄、他:特発性間質性肺炎に合併した肺癌に対する手術の検討 日本胸部臨床 51(3);208∼213、1992
5)小西晃生、他:間質性肺炎を合併した肺癌手術症例の検討 日臨麻誌 14;617∼623、 1994
6)中川勝裕、他:特発性間質性肺炎を伴った肺癌手術症例の検討 日胸外会誌 42;1933∼1939、1994
7)野本幸子、他:間質性肺炎患者の術後急性増悪例 臨床麻酔 15;1427∼ 1430、 1991 8)Katzenstein A Fiorelli RF.:Nonspecific interstitial pneumonia/fibrosis Hstologicfeat ur es and clinical significance. Am J SurgPathd 18;136∼147、1994
9)Yamador i, et al:A case of non−specific i. nt er st iti al pneumoni a ass◎ci at ed w ith .primary lung cancer. Respiratory Medicine 93;754∼756、1999山梨肺癌研究会会誌 14巻1号 2001 【表1】 検査所見: WBC S O O O1 ,a 1, RBC 497万/μ1, Hb 16.19!dl, Ht 47.7%,plt 19.8万1μ1, ALT 341U/1, BUNllmg/dl, Na140mEq/1, ORPO.6mg/dl, Alb 4.Og/dl, U⊃H2761U/1, T−BIL O.8mg/dt, CREO.8mg/dl, K4.7mEq/1, AST 471U/1, ALP 2481U!1, Cl 108mEq/1, KL−64290 U/ml, (腫瘍marker) −CEA 97 /1, 一scc 20 /1,−CYFRA 44 /1, (血液ガス分析) pH 7.412 pCO2 38.3 mmHg BE +0.6 mEq/1 (room air) (呼吸機能検査)
VC
%VC
FEVl FEVI% 2.66 1 82.3% 1.77 1 66.5% (BALF) 回収率 37/90ml総細胞数 2x106/ml
細胞分画マクロファージ31%
リンパ球 67% 好中球 好酸球 1% 0.5% CD4/CD8比 55/38=1.45 (下線は異常値)1999.12.14 (図1) (図2) 胸部CT(99/11/11) (図3) (図5) (図7) (図8) (図4) (図6) (図9) 胸部CT(00/5/25) 胸部CT(00/6/16)