平成27 年度 研究経過報告書 研究者名 明神 千穂 研究課題名 関西スポーツ界で活躍できる大学生アスリートの競技力向上を目指した栄養サポートプロ グラムの開発 研究目的・内容 我が国では、2020 年オリンピック東京大会に向けて選手の育成が推進されている。その 中で競技力向上マルチサポート戦略事業のアスリート支援として、強化合宿や競技大会に おける動作分析、ゲーム分析、情報収集、コンディショニングサポート、心理サポート、そ して「栄養サポート」が挙げられている。プロやオリンピック選手などのトップアスリート とは異なり、学生アスリートはいまだ栄養サポートを受けにくい環境にあり、栄養摂取状況 は必ずしも望ましいものではない。そこで本研究では、競技歴、種目、食に関する知識レベ ルの異なる大学生アスリートに対して、食事の重要性の理解度や、食事に対する取り組み姿 勢を改善するために、「特定保健指導」の手法を応用した栄養サポートプログラムの有効性 について検討を行った。 研究の経過 特定健康診査・特定保健指導とは行動変容を促す、生活習慣病予防のための手法である。 特定健康診査によって、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善により生活習慣病 の予防効果が多く期待される者を抽出し、生活習慣を見直すサポートとして特定保健指導 を行うものである。特定保健指導にはリスクの程度に応じて「動機付け支援」と「積極的支 援」がある。多人数の対象者を、①リスクの程度別に階層化し個人に対応したサポートをし ている点、②行動変容を促す手法が用いられている点から、多人数を対照とすることが多い、 学生アスリートの食行動変容を促す栄養サポートの方法に適すると考えた。 アスリートの栄養サポートを行うにあたり、対象者の現状を把握するために介入前調査 を実施し(現状分析)、特定健康診査・特定保健指導の階層化の手法を参考に、選手を「情 報提供群」、「動機付け支援群」、「積極的支援群」の3つに分け(階層化)、各群に応じた栄 養サポートを行った。評価として介入後に介入前と同様の調査を行った。 【方法】 <アセスメント> 対象者は、本学野球部員のうち、介入前後とも調査を行うことができた59 名(1 回生 22 名、2 回生 15 名、3 回生 16 名、4 回生 6 名)とした。介入前調査は平成 27 年 3 月 30 日 に、介入後調査を平成27 年 10 月 15 日に行った。入前調査時と介入後調査時に、自記式質 問紙調査を実施した。調査内容は、日常生活と食生活における意識(食意識/20 項目)と行 動(食行動/20 項目)、行動変容段階、不定愁訴などとした。 食事調査は、寮で提供されている食事の献立から栄養価計算(7 日間)を行い、その期間中
のご飯の摂取量を、選手本人に記録表に記載してもらった。また、1 週間の提供される食事 以外の間食内容と、練習休暇日(寮食なし)の1 日の食事内容を記録してもらった。身体調 査として、体組成計(㈱TANITA,BC-118D)を用いて体重(kg)、除脂肪体重(kg)、体脂 肪率(%)を測定した。 <階層化の方法> 本研究では特定保健指導を応用していることから、介入前調査の結果から食生活・食意識 及び食行動の改善が必要な対象者を抽出し、レベル別に栄養教育を実施するための対象者 の選別を行った。これを階層化という。食意識、食行動、食事摂取量、除脂肪体重、体脂肪 率、体重の得点を用いて、6 つのステップを踏んで階層化を行った。 <栄養教育> 情報提供群、動機づけ支援群、積極的支援群のすべての群に対して、4 回の集団栄養教育 を行った。さらに、食堂のテーブルの上にスポーツ栄養に関する「卓上カード」を、トイレ の個室の扉に「栄養日めくりカレンダー」を設置した。また積極的支援群に対しては、個人 栄養指導を行い、事後フォローも行った。動機付け支援群に対しては行動目標設定とその評 価を行った。 【結果】 食意識、食行動においては、動機付け支援群、積極支援群ともに、介入後に有意な改善が みられた(p<0.01)。特に積極的支援群においては、14 項目で有意な改善がみられた。間 食および練習休暇日の食事に関しても、即席めんを選択する者が 10.8%から 3.6%に減少 し、また丼物を選択する者が0.9%から 12.8%に上昇した。一方体重や骨格筋量に関しては、 介入後調査を行った時期が秋の試合シーズン中だったことから、減少しているものが多く みられた。 行動変容段階においては、すべての群で改善傾向がみられ、動機づけ支援群、積極的支援 群において有意な改善がみられた(p<0.01,0.05)。介入後に「実行期・維持期」に移行し た者の割合が40%であり、そのうち積極的支援群では 44%みられた。 以上の結果から、特定保健指導の手法を応用した大学生アスリートへの栄養サポートは、 食事の重要性の理解や、食事に対する取り組み姿勢の改善に有効であることが示唆された。 本研究と関連した今後の研究計画 大学生アスリートに対する栄養サポートを実施するにあたって、本手法を用いることで、 食に関する知識・行動レベルの異なる大学生アスリートを、6 か月でそのチームの上位レベ ルまで改善を行うことが可能となる。また、栄養サポート実施者も、相手のレベルに合わせ た栄養教育を行うことで、多人数に対して効率的に栄養サポートを実施できる。今後、栄養 サポートを一度も受けたことがないチームに対しては、本手法を用いて導入教育を行うと ともに、食に関する知識行動レベルが揃ったチームに対しては、体力・競技力向上を目的と した栄養サポートを行っていく。その際、コーチやストレングストレーナーと綿密に打ち合 わせを行いながら、増量や減量または期分け等、チームや選手各人の目的に合わせた、自己
管理能力が高まるスポーツ栄養サポートを引き続き行っていく予定である。 成果の発表
発表機関名 種類(著書・雑誌・口頭) 発表年月日(予定を含む) 第3 回日本スポーツ栄養学会 口頭 2016 年 7 月 2 日(予定) (平成28 年 3 月 31 日現在)