〈論文〉学習言語能力(CALP)の重要性
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(2) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 成 果 が 得 られ る」 とい う法外 な到 達 目標 まで 示 さ る よ うに な った 。 日本 の 外 国 語 学 習 の 目標 は今 日、 「 バ イ リ ン ガ ル」 さ らに は 「マ ル チ リ ンガ ル 」 に な る こ とへ と推 移 して い る。 一 方 で 母 語 だ け しか 使 用 で きない モ ノ リ ンガ ル 話 者 の社 会 的 地 位 は相 対 的 に下 が り続 け る。 日本 は 言 語 能 力 格 差 社 会 へ 移 行 してい る。 そ して 読 書 や 一 般 教 養 の 酒 養 に必 要 な 「 母 語 を使 って の 思 考力 」 の重 要 性 は軽 視 され て い る 。 教 育 現 場 で は ど うか。 バ イ リン ガ ルが 目標 で あ れ ば、 英 語 を例 に とれ ば、 英 語 科 目の 授 業 だ け で な く、 全 て の授 業 を、 英 語 を使 っ て 行 う こ とが ゴー ル と な る。 企 業 の場 合 な ら、 社 内公 用 語 が 英 語 に な る こ とが ゴ ー ル とな る。 そ うな れ ば 企 業 内 で 、 参 加 者 が 全 て 日本 人 の会 議 で も英 語 で コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを とる こ とに な る。 しか し企 業 の場 合 な ら、 バ イ リ ンガ ル さ ら にマ ル チ リ ン ガル 環 境 を実 現 す る に は、 莫 大 な投 資 を要 し、 一 時 的 に は業 績 の 低 下 な どの リス ク を負 わ なけ れ ば 実 現 は不 可 能 で あ る。 日本 の 外 資 系 企 業 を見 れ ば、 社 内 バ イ リ ン ガル 化 に必 要 な巨 額 の投 資 と業務 負 担 を避 け 、外 国 語 の 通 訳 や 翻 訳 が 必 要 な場 合 に は、 積 極 的 に通 訳 翻 訳 の専 門家 を雇 用 し、 全 社 員 が 外 国語 を使 用 す る の よう な無 意 味 な 負 担 は 避 け る。EUで. も通 訳 、 翻 訳 業 務 は専 門 家 に 委 託 す る 。 そ れ に よ り意 思 疎 通 上 や 、. 書 類 契 約 上 の ミス を一 掃 で きる利 点 もあ る。 で は 日本 で 、 企 業 や 教 育 現 場 が 目指 す バ イ リ ン ガ リズ ム に潜 むマ イナ ス の 諸 問 題 は どの よ う に処 理 され るの か 。 日本 で は 高 度 化 す る外 国語 運 用 能 力 へ の要 求 と負 担 の 問題 を 隠 蔽す る。 つ ま り 「日常 的 な会 話 な どの 単 純 な意 思 疎 通 が 外 国語 で で きる こ と」 を 「一 時 的 に達 成 可 能 な 目標 」 に置 き換 え て、 トー タル の負 担 や 矛 盾 を 隠蔽 す る。 しか し隠蔽 の 口実 た る 「段 階 的 なバ イ リ ン ガル 化 」 は、 言 語 教 育 問 題 と して 大 きな欺 隔 と誤 謬 を含 ん で い る。 そ こで まず バ イ リン ガ リズ ム を巡 る諸 問 題 を研 究 の 面 か ら考察 し よう。 真 の バ イ リン ガ リズ ム に は どの よ うな 問題 が あ るの か 。. 2.CummingsのCUPモ. デル. バ イ リ ン ガ リ ズ ム と認 知 機 能 の 研 究 の 経 緯 は ど う か 。Cummings(1980)1に. よれ ば、 そ. の 研 究 の 初 期 に は バ イ リ ン ガ リ ズ ム に 関 し て 、 分 離 基 底 言 語 能 力(SUP)モ (SeparateUnderlyingPro且ciencymodel)が. 提 唱 さ れ た 。 第2言. デ ル. 語 の 能 力 が 増 え れ ば 第1. 言 語 の 能 力 は 減 少 す る 、 し た が っ て バ イ リ ン ガ ル は モ ノ リ ン ガ ル に 劣 る と考 え ら れ た 。 こ の 仮 説 の 基 礎 に は 、2つ(以. 上)の. 言 語 は 転 移 す る こ と な く別 々 に 機 能 し 、 言 語 能 力 に は. 限 られ た 容 量 し か な い と の 考 え が あ っ た 。 し か し後 に 、 子 供 が バ イ リ ン ガ ル に な る と、 認 知 的 不 利 益 よ り も利 益 が 大 きい こ と が 指 摘 さ れ 始 め た 。 早 期 に 外 国 語 教 育 を 導 入 し、 学 習 者 の 母 語 と外 国 語 を併 せ て 学 習 す る こ と が 、 モ ノ リ ン ガ ル 教 育 よ り優 れ て い る とい う事 例 が 報 告 され 始 め た 。 日本 の バ イ リ ン ガ リ ズ ム へ の 現 代 の 過 剰 な 評 価 は こ の レベ ル で 停 止 し て い る 。 こ れ 以 降. 一112一.
(3) 学習言語能力の重要性. の 学 術 研 究 の 成 果 に は ふ れ ず 、 バ イ リ ン ガ リ ズ ム を 「憧 憬 的 目標 」 と し な が ら、 短 期 に 達 成 可 能 な 目標 は 「日常 会 話 能 力 」 と し て い る 。 し か し そ の 後 、 共 有 基 底 言 語 能 力(CUP)モ model)が. 提 唱 さ れ た 。 第1言. デ ル(CommonUnderlyingPro且ciency. 語 で 学 ん だ 内 容 や 獲 得 し た 能 力 は 、 速 や か に 転 移 し 、 第2. 言 語 の 運 用 能 力 と相 互 に 影 響 し合 う 、 と い う もの で あ る 。Cummings(1981a)2に 基 底 言 語 能 力 モ デ ル の 重 要 な 点 は 次 の 通 りで あ る 。 第1言. よる共 有. 語 の 表 面 的 運 用 能 力 と第2言. 語. の そ れ は 、 表 面 的 に は 、 流 暢 さ や 獲 得 語 彙 数 に よ り判 断 さ れ 、 別 々 の 言 語 運 用 能 力 に 見 え る 。 しか しそ れ ら は 例 え れ ば 、 氷 山 に水 面 上 に 見 え る2つ. の 頂 にす ぎない 。水 面 下 の 氷 山. の本 体 で は一 体 で あ る。水 面 下 の部 分 が 、 共 有 基 底 言 語 能力 中央 作 動 シ ス テ ム で あ る。 そ れ がCUPモ. デ ル の 仮 説 の 中核 で あ る 。. JimCummins(1981a)p.163の. 『共 有 基 底 言 語 能 力 モ デ ル 』. そ の 要 点 を要約 し列 挙 す る と: ①. 書 く ・読 む ・話 す ・聞 く、 とい う言 語 の 基 本4技 能 を支 え る 思 考 は、 「一 つ の 同 じ中. 央 装 置 」 か ら発 して い る。 ② 情 報 処 理 機 能 や教 育 の 成 果(学 校 の 成 績)は 、 モ ノ リ ン ガ ル で も十 分 向 上 させ られ る し、 よ く訓 練 られ た バ イ リ ンガ ルで も同様 の 向上 はみ られ る。 こ れ を、 最 近 の 大 学 教 育 の実 情 とそ の原 因 を例 に と り、 上 記 理 論 を具 体 的 に考 え て み よ う。 「 分 数 の 分 か らない 大 学 生 」 「きわ め て 語 彙 の 貧 弱 な大 学 生 」 を前 に、 学 士 力 の向 上 を 目指 した リメ デ ィア ル教 育 が真 剣 に議 論 され て い る。 大 学 生 の 基礎 学 力 の低 下 が 原 因 とさ れ る。 しか しこれ は上 記 モ デ ル で 言 え ば 、CUP能. 力 の低 下 であ る。 そ れ は② と逆 の状 態 で. あ る。 現 代 日本 の 大 学 生 は、 数 学 な どの 論 理 的 思 考 能 力 の 低 下 が 表 面 上 に現 れ て い る。 そ れ は母 語 で あ る 日本 語 を使 っ ての 読 解 、 表 現 の学 力 の著 しい 低 下 が 原 因 で あ ろ う。 表 面 的 に も第1言 語 運 用 能 力 の 低 下 が み られ る。 当 然 、 英 語 な ど第2言 語 運 用 能 力 の低 下 もみ ら れ る。 こ れ を科 目別 の 問 題 と考 え て は い け な い 。 第1言 語 運用 能 力 が 不 十 分 な ま ま、 第2 言 語 運 用 能 力 の 向上 は期 待 で きない 。 加 えて 第1言 語 か ら派 生 した 共 有 基 底 言 語 能 力 中央. 一113一.
(4) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 作 動 シス テ ム の能 力 低 下 に問 題 が あ る と考 え られ る。 Cummingsは. 、発 達 の不 十 分 な 第2言 語 で 学 習 活 動 を強 要 され た 、 ス ウ ェ ー デ ンの2言. 語 併 用 ク ラス(サ ブマ ー ジ ョン教 室:ス ウ ェ ーデ ン語 を学 校 で使 う こ とを強 要 され た フ ィ ン ラ ン ド人 生 徒 は、 第1、 第2言 語 と も不 十 分 な た め学 習 成 果 が 低 下 した)の 例 を挙 げ て い る 。 重 要 な こ とは、 表 面 上 の、 第1言 語 か 第2言 語 か の 選 択 や 優 劣 の 問 題 で は な く、 CUPの. 低 下 が 言 語 運 用 を含 め 、認 知 ・思 考 能 力 全 般 の 低 下 が 言 語 運 用 能 力 を低 下 させ る. 下 向循 環 が 発 生 す る の で あ る。 も し第1言 語 で あ る学 習 者 の 母 語 でCUPの. 養成 向上が十. 分 に行 わ れ て い た ら、 不 幸 な学 力 低 下 は起 こ らな か っ た ので あ る。 日本 の 状 況 に 当 て はめ れ ば 、全 国 民 バ イ リ ンガ ル 化 の言 語 政 策=社. 内英 語 公 用 語 論=グ. の、 「 全 学全 科 目で の英 語 に よ る授 業 実施 」 はCUP理. 3.Cummingsの Cummings他. ロー バ ル 化 を見 据 え て. 論 か ら見 れ ば誤 りだ と言 え る。. 「し き い 理 論 」(ThresholdsTheory) の 研 究3で. は 、 い わ ゆ る 「し き い 理 論 」(ThresholdsTheory)と. して、 認. 知 とバ イ リ ン ガ リ ズ ム の 変 化 の 過 程 に つ い て の 理 論 が 提 示 さ れ る 。 そ れ はCUP向 程 を3層. 構 造 に 例 え て い る 。1層. 学 習 者 は2つ. 上の過. 目 は 限 定 的 バ イ リ ン ガ ル レベ ル で あ る 。 こ の レ ベ ル で は 、. の 言 語 で の 学 習 に お い て 、 両 言 語 の 能 力 が 低 く、 認 知 的 に は こ の レベ ル で 学. 習 を 課 し て も マ イ ナ ス の 影 響 が あ る 。2層 ル で は 、 学 習 者 は 片 方 の(主. 目 は 弱 い 均 衡 の バ イ リ ン ガ ル で あ る 。 こ の レベ. に 母 語 た る 第1)言. 語 で 年 齢 相 当 の 能 力 を も つ が 、 第2言. 語. で は そ の 能 力 を 持 た な い 。 認 知 的 な 影 響 は マ イ ナ ス で は な い 。 しか し学 習 に 正 比 例 し た 第 2言 語 で の 認 知 能 力 向 上 は 望 め な い 。3層. 目 に な っ て均 衡 バ イ リ ンガ ル とな る。 この レベ. ル で 学 習 者 は 、 年 齢 相 当 の 能 力 つ ま り認 知 的 優 位 さ を もつ 。 言 語 方 略(国 内 公 用 語 、 全 科 目 英 語 授 業 な ど)の. バ イ リ ン ガ リ ズ ム は 、3層. 家教 育 政 策 、 社. 目の段 階 で の み 、 実 現 され. るの で あ る。 更 に 詳 し く 日本 の 英 語 教 育 の 状 況 を こ の 仮 説 か ら読 み 解 こ う。1層. 目 と関連 す るの が 早. 期 英 語 教 育 の議 論 で あ る。 保 護 者 や 教 育 者 は学 習 者 の見 か け の流 暢 さか ら早 期 外 国語 教 育 の 有 効 性 を 期 待 す る 。 し か し、 学 習 の 基 礎 と な る 認 知 思 考 力 が ま だ 基 礎 レ ベ ル で あ る た め 、 バ イ リ ン ガ リ ズ ム の 真 の 効 果 で あ る 、 複 数 の 言 語 能 力 がCUPを きて い な い 。CUP自. 体 の 容 量 が 、 ま だ 不 十 分 で あ る 。1層. 引 き上 げ る 構 造 が で. 目 は 主 に低 年 齢 の 児 童 と仮 定 す. れ ば 、 外 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 な ど が 、 移 民 や 長 期 滞 在 で 母 語 と外 国 語 の バ イ リ ン ガ ル 状 況 に 置 か れ た 場 合 、 学 習 に 困 難 を き た す 状 況 とい え よ う 。 学 習 困 難 が 直 接 、 学 習 者 の 学 習 能 力 の 問 題 に 置 き換 え る こ とが で き な い ほ ど、CUPが て 普 通 な ら 母 語(国. 語)で. あ る 第1言. 語 でCUPが. 未 熟 だ と もい え る 。2層. 鍛 え られ る。 そ れ を基 礎 に 、教 室 で 用. い ら れ る 高 度 で 抽 象 的 な 学 習 言 語 を つ か っ た 情 報 処 理 や 推 論 な ど のCUPが. 一114一. 目にい た っ. 形 成 され る。.
(5) 学習言語能力の重要性. 年 齢 的 に は義 務 教 育 か ら高 等 教 育 へ の 時期 で あ る 。 同時 に 日本 で は こ の時 期 か ら科 目別 教 育 が 導 入 され る。 さ らに外 国語 科 目(主 に英 語)が 加 わ る。 これ は ま だ弱 い 均 衡 バ イ リ ン ガ リズ ムで あ り、 バ イ リ ン ガ リズ ム が 認 知 的 に プ ラス 効 果 を生 む こ とは期 待 で きない 。 む しろ第1言 語 を通 じてCUPを. 形 成 し、 それ が 英 語 学 習 へ 波 及 効 果 を及 ぼ す よ うに した い。. しか し成 果 を性 急 に求 め る 日本 の外 国 語 教 育 で は、 日常 会 話 が で きる程 度 の外 国 語 の 運 用 を もって 、外 国 語 教 育 の 成 果 と見 倣 そ う とす る。 しか しこの レベ ル で は第2言 語 た る外 国 語 で 第1言 語(母 語)と 同等 の学 習 理 解 を も とめ る こ とは未 だ 出来 ない し期 待 す べ きで は ない 。3層 目に至 っ て2つ(以. 上)の 言 語 で年 齢 相 当 の 能 力 を2つ(以. 上)の 言 語 で 発 揮. で きる。 この レベ ル で は じめ てバ イ リ ン ガ リズ ム が 意 味 を持 つ 。 この レベ ル に至 っ て、 バ イ リン ガ リズ ム に よる プ ラ ス の 影響 が 出 る。2つ の言 語 の 能 力 が 増 す につ れ 、 た と え ば数 学 の演 繹 的推 論 能力 も増 す の で あ る。 この レベ ル に至 っ て、 バ イ リ ンガ ルが モ ノ リ ンガ ル よ り認 知 的 に優 位 と言 え るの で あ る。 現 代 日本 の大 学 生 の 「 基 礎 学 力 」 の低 下 を読 み 解 こ う。彼 らは2つ どこ ろか1つ の 言 語 (つ ま り母 語 、 国 語)で の 年 齢 相 当 の 言 語 能 力 も不 十 分 で、 学 習 認 知 能 力 が 欠落 した まま、 少 子 化 や 、 選 択 解 答 中心 の入 試 形 式 の お か げ で 、大 学 に進学 す る。 さ らに大 学 で も3層 目 の均 衡 バ イ リ ンガ ル に は到 底 及 ば な い まま、 企 業 で3層 目の レベ ル を前 提 に したバ イ リ ン ガ リズ ム を求 め られ る。 例 え ばTOEICと. い う外 国語 運 用 能 力 テス トで は、 英 語 以 前 に、. 母 語 で情 報 を読 解 し、 整 理 し理 解 す る能 力 た るCUPが そ れ を無視 してTOEICス. 養 成 され て い る こ とが 前 提 で あ る。. コ アの 数値 が独 り歩 きす る状 況 は、 「し きい理 論 」 か ら見 れ ば明. らか な誤 りな ので あ る。 カ ナ ダ の英 語 ・フ ラ ンス 語2言 語教 育 で あ る イマー ジ ョン教 育 で は、 教 科 内 容 が 第2言 語(フ ラ ンス 語)で 教 え られ 始 め る と通 常 、 遅 れ を生 じる学 習 者 が 現 れ る。 しか し第2言 語 の能 力 が 、 日常 会 話 で は な く、教 室 で の 学 習 言 語 を理 解 し、 概 念 的 な作 業 が で きる レベ ル に な る と、 学 習 全 体 の 遅 れ が 解 消 す る。 しか る に一 方 、 ア メ リカへ の 移 住 者 で 、 日常 会 話 は 出 来 て も、 概 念 的 な作 業 を第2言 語(英 語)で で きな い場 合 は、1層 目、2層 目の レ ベ ル に とど ま り、言 語 能力 が進 学 や就 職 の 障 害 に な る。Cummingsは. 子供が家庭で母語 に. よ る学 習 支 援 教 育 を行 う方 が 、移 行 型 バ イ リ ンガ ル教 育 よ り効 果 が望 め る とい う。 これ は 後 に述 べ る今 回 の韓 国 語母 語 学 習者 の来 日後 の学 習支 援 と して、 母 語 で あ る韓 国語 を使 っ た 支 援 を、 家庭 を含 め て行 った結 果 、 高 い学 習成 果 の伸 びが 見 られた こ とと同 じ事 象 で あ る。. 4.CummingsのCULP/BICS Cummings(1978)4は 関係 を. さ ら に 理 論 を 発 展 さ せ 、 バ イ リ ン ガ リ ズ ム に お け る2つ. 「発 展 的 相 互 依 存 関 係(developmentalindependencehypothesis)」. 一115一. の 言 語 の. と して ま とめ.
(6) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. て い る 。 こ の 仮 説 に よ れ ば 学 習 者 の 第2言. 語 に お け る 能 力 は 、 第1言. 得 し た 言 語 能 力 の レベ ル に 依 存 し て い る 。 第1言. 語(主. に 母 語)で. 語 が 発 達 し て い る ほ ど、 第2言. 獲. 語 も発 達. しや す い 。 さ ら に 重 要 な こ と は 、 日常 会 話 な ど の 「表 面 的 な 流 暢 さ 」 と 「教 育 か ら恩 恵 を 受 け る の に 必 要 な 学 習 言 語 能 力 」 は 区 別 さ れ ね ば な ら な い こ と で あ る 。 「店 員 と簡 単 な 会 話 が で き る 」 な ど 単 純 な 伝 達 機 能 を 学 習 者 が 習 得 し た よ う に 見 え て も、 教 室 で 認 知 的 ・学 力 的 に 必 要 と さ れ る 学 習 言 語 能 力 が 相 対 的 に 欠 け て い る 場 合 が あ る 。 そ れ を 混 同 し見 逃 し て は な ら な い 。 こ の こ と か らCummings(1984a)5の InterpersonalCommunicativeSkills以. 下BICSと. AcademicLanguagePro且ciency以 Cummingsの. 下CALPと. 理 論 に 基 づ き、 前 述 のCUP(共. ま れ た もの と 考 え 、CUPを CALPとBICSの CALPの. 伝 達 言 語 能 力(BICSBasic. 表 記)と. 学 習 言 語 能 力(CALPCognitive. 表 記))の. 区 別 が 生 ま れ た 。(本 論 で は. 有 基 底 能 力)を. 含 め た 能 力 をCULPと. 出 発 点 と しCULPの. 概念が生. し て 表 記 し使 用 した い 。). 区 別 は 外 国 語 教 育 が う ま くい っ て い な い こ と を 説 明 す る の に 役 立 つ 。. 不 足 に も か か わ ら ずBICSに. よっ て 学 習 者 が 評 価 され るべ きで は な い の で あ る。. 現 在 、 日本 の 大 学 で は 英 語 を 母 語 とす る 教 員 が 担 当 す る 「ネ イ テ ィ ブ 会 話 ク ラ ス 」 を 設 け て い る 。 こ の 科 目 で は 日常 会 話 的 総 合 教 材 が 使 用 さ れ る 。BICSと. して の 表 面 的 な 流 暢 さ. や 、 外 国語 を使 お うとす る熱 意 や 態 度 で 、 学 習 者 の 成 績 評 価 が な され る。 また 大 学 生 の 聴 解 力 や 読 解 力 、 語 彙 力 が 十 分 で な い た め 、 内 容 を整 理 し 、 吟 味 し、 さ ら に 自 分 の 意 見 を 作 成 し発 表 す る な ど のCALPを. 問 わ れ る こ とが 少 な い。. バ イ リ ン ガ リズ ム を 目標 と し た 外 国 語 教 育 で は 、Cummingsに 語 能 力)が. よ れ ばCUP(共. 有基底言. 十 分 に 発 達 す る こ とが 効 果 的 な 外 国 語 教 育 に不 可 欠 で あ る と い う。 そ れ を も と. に 「2つ の 座 標 軸 」 が 提 唱 さ れ る 。 CognitivelyUdding (認 知 的 な 要 求 度 が 低 い コミュニ ケ ー シ ョン). A. B. BICS Conte)(tEmbedded ContextReduced (文 脈 に 埋 め こ ま れ た コ ミュニ ケ ー シ ョン). (制 限 (制 限さ され れ た た文 文 脈 の 下 で な され る コミュニ ケ ー シ ョン). C. D CALP. CognitivelyDem己ndin呂 (認 知 的 な 要 求 度 が 高 い コミュ ニケ ー シ ョン). 言 語 能 力 の 発 達 モ デ ルCummings.1981b:p.68. 一116一.
(7) 学習言語能力の重要性. 横 軸 は コ ン テ ク ス トに 関 す る 軸 で あ り、 縦 軸 は 認 知 的 負 担 の 軸 で あ る 。 横 軸 に 沿 っ た 範 囲 で は 、 学 習 者 の 内 容 の 理 解 に 利 用 で き る 身 振 りや 具 体 的 手 が か り、 ヒ ン トの 量 に 学 習 が 関 係 す る 。 図 の 左 側 の 高 コ ン テ ク ス ト コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン(ContextEmbedded communication)で. は 、 ボ デ ィ ー ラ ン ゲ ー ジ や 非 言 語 的 ヒ ン トが 豊 富 に あ り具 体 的 で あ る 。. 図 の 右 側 の 低 コ ン テ ク ス トコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン(ContextReducedcommunication)の. 領. 域 は、 教 室 で の 講 義 で 、 教 師 の 説 明 や 本 の 語 彙 の 厳 密 な定 義 を理 解 しな けれ ば学 習 作 業 が で き な い 状 態 を 示 して い る 。 縦 軸 に 沿 っ た 範 囲 は 、 図 の 下 側 の 認 知 的 負 担 の 大 きい 、 抽 象 的 な 思 考 や 論 理 的 思 考 を 要 求 す る もの か ら 、 図 の 上 側 の 、 街 中 や 店 で の 認 知 的 負 担 が 少 な く、 情 報 処 理 が 比 較 的 単 純 明 快 な 思 考 で 済 む 領 域 に 及 ぶ 。Cummings(1981b)6に 区 切 られ た4つ. よ れ ば 、 学 習 は2つ. の 象 限 の う ち で 、 効 果 あ る 学 習 と は 第1象. 認 知 負 担 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン か ら第4象 か わ な け れ ば な ら な い 。 第4象. 限(右. 下)の. 限(左. 上)の. の軸 に よって. 高 コ ン テ ク ス ト低. 低 コ ン テ ク ス ト高 認 知 負 担 へ と向. 限 とは授 業 にお け る統 合 、 討 論 、 分 析 、 評 価 、 解 釈 とい っ. た 高 度 な 認 知 処 理 の 部 分 に 学 習 者 が う ま く対 応 で き な け れ ば な ら な い 領 域 で あ る 。 大 学 教 育 の よ う な 高 等 教 育 と は 第4象 Cummings(1983)7の. 限 的 授 業 で あ る こ と が 求 め られ よ う 。. 報 告 に、 バ イ リ ン ガ リズ ム を教 育 シ ス テ ム や カ リキ ュ ラム に導 入. す る 際 の 成 功 と失 敗 の 事 例 が 挙 げ ら れ て い る 。 バ イ リ ン ガ リ ズ ム 教 育 が 成 功 す る か 、 失 敗 す る か は 第1象. 限 か ら始 ま っ た 外 国 語 学 習 が 第4象. 限 に 移 行 で き る か ど うか に か か っ て い. る 。 報 告 に よ れ ば 、 ア メ リ カ 、 カ ナ ダ 、 ヨ ー ロ ッパ の 教 育 に お い て 、 自 分 の 言 語(母. 語). を使 う こ と を許 され て い る少 数 派 言 語 の 学 習 者 を調 査 した とこ ろ、 学校 の 成 績 や 多 数 派 言 語(彼. ら に と っ て の 第2言. 場 合 、 外 国 語 教 育 は 第1象. 語)の. 能 力 に遅 れ は見 られ な い との所 見 が あ っ た。 そ の よ うな. 限 か ら の 再 ス タ ー トで あ る が 、 学 習 者 は 母 語 で は す で に 第4象. 限 で の 高 い 能 力 を有 す る場 合 が あ る。 そ の よ うな 場 合 、 外 国語 の 使 用 ば か りを強 制 せ ず 、 少 数 派 言 語 で あ る 彼 ら の 母 語 を 使 え ば 、 教 室 と い う高 認 知 負 担 ・低 コ ン テ ク ス ト環 境 で 学 習 能 力 を さ ら に 高 く伸 ば せ る 可 能 性 が あ る 。 母 語 を 活 用 した 学 習 に よ り共 有 基 底 言 語 能 力 中 央 作 動 シ ス テ ム が 発 達 す れ ば 、 そ れ は 第2言. 語 環 境 の 中 で の 高 い レベ ル の 認 知 的 言 語 能. 力 に 「転 移 」 す る 。 そ れ ら と比 較 す れ ば 、 現 代 日本 の バ イ リ ン ガ リ ズ ム 至 上 的 な 言 語 政 策 や 、 外 国 語 は 外 国 語 で 教 育 せ よ、 と い う教 育 理 念 に は 大 い に再 検 討 の 余 地 が あ る 。. 5.外. 国 語 学 習 に と っ て 重 要 な も の と は何 かBICSで. は な くCALP. 日本 の 学 習 者 の 学 力 低 下 が 心 配 さ れ る 現 在 、 学 習 者 に と っ て 必 要 な 言 語 能 力 と はBICS な の かCALPな. の か 。 言 う ま で も な く、 小 学 校 の 就 学 以 降 、 小 学 校 高 学 年 、 さ ら に 中 学 校. 以 上 の 高 等 教 育 に お い て も、 必 要 な の はCALPで. 一117一. あ る 。 一 方BICS的. な能 力 を、 幼 少 期 の.
(8) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 子 供 以 外 で 必 要 と す る の は 、 移 民 ・長 期 滞 在 者 型ESL教. 育 を 必 要 とす る 人 間 に 限 られ る 。. 彼 ら は 日常 生 活 で 最 低 限 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を外 国 語 で 行 わ ね ば な ら な い 。 海 外 か らの 移 民 や 長 期 滞 在 外 国 人 を 除 い て は 、BICSが の 現 場 に お い て 、BICS的 一 方 、CALP能. 「学 習 の ゴ ー ル 」 と は な り え な い 。 学 校 教 育. な 能 力 の 習 得 を 教 育 目標 とす る こ と 自体 、 誤 り で あ る 。. 力 養 成 の た め に は 、 「読 み 、 聞 き 、 考 え る 」 学 習 訓 練 こ そ 必 要 で あ る 。. 流 暢 に 話 す た め の 学 習 訓 練 、 つ ま り 「日常 の 出 来 事 を 楽 し く会 話 して 、 使 え る 外 国 語 学 習 」 の よ う な 移 民 型ESL教. 育 つ ま りBICS教. 育 を外 国語 教 育 の 中心 に据 えて は な らな い。. 現 代 日本 の 外 国 語 教 育 あ る い は 英 語 教 育 の 誤 りや 矛 盾 が 、 そ こ に あ る 。 批 判 を 受 け た 受 験 英 語 は し か し、 「熟 読 ・読 解 し 内 容 を 考 え る 」 と い う 点 で 、CALP教 育 に 大 い に 貢 献 す る 学 習 で もあ っ た 。 と こ ろ が そ の 「受 験 英 語 」 で は 「英 語 を 使 え な い 」 との 稚 拙 な 非 難 が 出 た 。 日本 の 外 国 語 教 育 は 、 「読 み 、 聞 き、 考 え る 」 と い うCALP教. 育. の 基 本 ま で も捨 て て し ま っ た 。 こ れ で は 教 育 の 大 衆 化 と相 ま っ て 、 学 習 者 の 学 力 低 下 が 起 こ るの は 当然 の帰 結 で あ る。 以 上 の 問 題 を 具 体 的 に 考 察 し 、 さ ら に 今 日 の グ ロ ー バ ル 化 あ る い は ボ ー ダ ー レス 化 し た 国際 社 会 にお け る言 語 教 育 の 問題 を多 面 的 に考 え るの に絶 好 の素 材 が あ る。 そ れ が 外 国人 ニ ュ ー カ マ ー の 児 童 生 徒 の 言 語 学 習 を め ぐる問 題 で あ る。 そ の 問 題 を上 記 の外 国 語 学 習 、 と くにBICSとCALPの. 枠 組 み を もと に考 え る。. 6.日 本 に滞 在 す る韓 国人 ニ ュ ー カマ ー児 童 生徒 に対 す る調 査 日本 で は、 日本 人 の 外 国語 学 習 者 は、 母 語 に満 た され た時 間 と空 間 の 中で 外 国 語 を学 習 す る とい う こ とが 前提 で あ る。 学 習 者 の 生 活 の時 間 と空 間の ほ とん どで 外 国語 と接 す る よ う な移 民 型 第2言 語 環 境 は、 留 学 や 語 学 研 修 以 外 で は 日本 人 学 習 者 に は あ りえ ない 言 語 状 況 で あ る。 しか し移 民 型 第2言 語 環 境 的 で は、BICS的 CALP的. 能 力 の 習 得 が 優 先 す る とは い え、. 能 力 の 問 題 は無 視 され て よい はず は な い。 日本 にお け る外 国人 ニ ュ ー カマ ーの 児. 童 生 徒 に とって は、 日本 語 が 外 国語 で あ り、外 国 語 言 語 環 境 に 中 で生 活 し、 原 則 と して外 国語 に よ る全 科 目の 受 講 を余 儀 な くされ る。 ニ ュー カマ ー 子 弟 の移 民 型 第2言 語 環 境 にお け る教 育 問 題 は、 日本 にお け る 日本 人 学 習 者 の 外 国語 教 育 と正 反 対 の状 況 に見 え る。 しか し本 当 に全 て が 正 反 対 で あ ろ うか。 また 彼 らに と っ て 第2言 語 で あ る 「外 国語 」 の 習 得 が 、ESL教 育 的 な意 味 で、 最 優 先 され るべ きで あ ろ うか 。就 学 年 齢 以 上 の人 間 に とっ て は、 外 国 在 住 以 前 に、 思 考 し学 習 し理 解 し習 得 し た 内 容 や 知 識 は ゼ ロ で は な い 。 この 点 を ニ ュ ー カマ ー 児 童 生 徒 の 教 育 で は見 落 と しが ちで あ る。 学 習 者 の 知 識 、 既 知 既 習 の 学 習 内 容 は、 学 習 者 の さ らな る学 習 の動 機 づ け や意 欲 を作 る こ とは 間違 い ない 。 移 民 型 第2言 語 学 習 環 境 に あ っ て、 学 習 者 はBICSを. 一118一. 習 得 す べ く第2言 語 た る外 国 語 の.
(9) 学習言語能力の重要性. 学 習 支 援 を受 け る こ とが よいの か 、 す で に学 習者 自身 にCALP能 極 的 に学 習 者 の母 語 を使 っ た学 習 支 援 を行 い 、CALP能. 力 の発 生 が あ る以 上 、 積. 力 を養 成 す る のが よい の か、 を検. 証 す る こ とは重 要 であ る。 そ う考 えれ ば 同時 に、 日本 人 学 習 者 は英 語 圏 の 国 で、 まず 英 語 の習 得 か ら入 る とい う従 来 の 英 語 教 育 論 の見 直 し も重 要 で あ り、 日韓外 国 語 教 育 論 は、 表 裏 一 体 の問 題 で あ る。 英 語 教 育研 究 者 以 外 の 、 マ ス メ デ ィ アや 大 衆 に 支 持 され る 「英 語 漬 け こそ 英 語 習 得 の 方 法 」 とい った 議 論 を再 考 す る ため に も、 立 場 を逆 に した 「 外 国 語 と して の 日本 語 」 教 育 の 研 究 は必 要 で あ る。 日本 語 が 外 国語 で あ り、 第2言 語 で あ る よ う な言 語 環 境 の なか で 、 学 習 者 に と って 、移 民 型ESL教. 育 の よ うに、 まず 外 国 語 た る 日本 語 の習 得 が 最 優 先 され るべ きな. の だ ろ うか 。 学 習 者 の 母 語 に よ る支援 こそ が 、 学 習 者 の 学 習 内 容 の 理 解 、 学 習 者 のCALP 能 力 の養 成 、 さ ら に は学 習 者 の 自信 や 学 習 意 欲 の 向上 に役 立 つ とい う結 果 が 得 られ る可 能 性 は な い の か。 日本 にお け る英 語 は、BICSの にあ る。 またESL教. 養 成 を主 眼 とす るESL教. 育 を重 視 す る傾 向. 育 で 重視 され る ネ イ テ ィブ 英語 教 員へ の依 存 もまた 、CALP養. 成 の観. 点 か らみ れ ば問 題 で あ ろ う。 そ の 裏 返 しが 、 ニ ュー カマ ー外 国 人 生 徒 児 童 へ の 「日本 語 教 育 」 とい う、 彼 ら に と って の 「第2言 語 教 育 」 の 過 剰 な押 し付 け で あ る。 そ して 英 語 ネ イ テ ィ ブ教 員 に よ る 日常 会 話 教 育 を重 視 す る よ うに、 日本 にお い て は まず 日本 語 を習 得 す べ し とい う 「日本 人=日 本 語 ネ イテ ィブ ス ピー カー 重 視 」 が 現 出す る。 つ ま り日本 人 自 身が 外 国人 学 習 者 に対 して、 日本 の誤 っ た外 国語 教 育 観 を押 し付 け よ う と して い る。 日本 人 自 身が 盲 信 して い る 「英 語 最 優 先 習 得 主 義 」 を、 外 国 人 児 童 生 徒 に 「日本 語 最 優 先 習 得 主 義 」 に置 き換 え て押 し付 けて い るの で は ない か 。 日本 に滞 在 す る ニ ュ ー カマ ー児 童 ・生徒 に対 す る学 習 支 援 と教 育 行 政 にお い て、 第2言 語 と して の 日本 語 学 習 を 中心 と した 学 習 支 援(JapaneseasSecondLanguage以. 下JSL. 型 学 習 支 援 と記 す)と 、 母 語(韓 国 語)を 介 した 学 習 支 援 が 混 在 す る状 況 の 中で 、 二 つ の 学 習 支 援 が 外 国 人 ニ ュ ー カ マ ー児 童 ・生 徒 の学 習 や学 校 適応 に対 して 、 どの よ うな影 響 を 与 え るの か 。 また 、 来 日す る前 に 母語 で得 た 学 習 力(知 識)が 日本 で の 学 校 学 習 と言 語 習 得 に どの よ うな影 響 を与 えて い る か、 の 二 点 を主 な課 題 と して李 英姫 は調 査 を進 め た8。 就 労 目的や 就 労 者 に伴 い 日本 に入 国 し、 長 期 滞 在 す る外 国 人 に とっ て は、 日本 語 が 外 国 語 で あ り、 第2言 語 で あ る。特 に外 国 人 子 女 、 児 童 ・生徒 に求 め られ る外 国 語 運 用 能 力 と はBICSの. み な らず 、学 校 教 育 にお い て はCALPも. 必 要 で あ る 。 しか し 日本 で はCALPの. 存 在 を認 識 し、重 要 性 を意 識 した言 語教 育支 援 が行 わ れ てい るだ ろ うか。 李 英 姫 の理 論 的 基 盤 はCummingsのCALP・BICSの. 仮 説 に基 づ き、類 似 して い るが 異. 文 化 圏 の学 習 者 を対 象 と した外 国語 学 習 支 援 と母 語 学 習 支 援 の 問題 と して、 調 査 を行 っ た 点 が 独 特 で あ る。 李 の研 究 調 査 に よれ ば 、次 の よ うな 「 外 国 語 と して の 日本 語 教 育 」 を含. 一119一.
(10) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. め た 言 語 教 育 問 題 が あ る こ とが わ か っ た 。 現 在 、 日本 の 学 校 で は 、 就 労 等 の 目的 で 親 な ど に 伴 わ れ て 来 日 した 韓 国 人 児 童 ・生 徒 が 、 日本 人 の 児 童 ・生 徒 と一 緒 に 勉 強 し て い る 。 学 校 で は 韓 国 人 児 童 ・生 徒 へ の 日本 語 指 導 を 含 む 特 別 な 指 導 が 必 要 に な っ て い る 。 彼 らが 日 本 の 学 校 で の 学 習 に 適 応 し、 学 力 を 向 上 させ て い く た め に は 、 彼 ら が 母 国 で 学 習 した 各 教 科 の 知 識 と 日本 の 学 校 で の 知 識 との 連 続 が 重 要 で あ る 。 しか し 日本 語 が 授 業 で 使 用 さ れ る 唯 一 の 言 語 で あ る よ う な授 業 環 境 の 中 で 、 教 科 学 習 に 必 要 な 言 語 能 力 の 習 得 が 、 外 国 語 と して の 日本 語 教 育 で 分 断 さ れ て し ま い 、 そ の 結 果 と して 、 年 齢 相 応 の 学 習 機 会 を 与 え られ な い こ と も起 こ っ て い る 。 Cummingsの. 理 論 と研 究 に よ り、 母 語 に よ る 学 習 能 力 とそ の 保 持 が 、 第2言. 語 の習 得 と. 知 的 発 達 に と っ て 不 可 欠 な 要 因 で あ る こ とが 明 ら か に さ れ て い る 。 母 語 に よ っ て 習 得 さ れ た 学 習 能 力 は 第2言. 語 の 学 習 能 力 へ と移 行 し う る 、 とい うの が こ れ ら の 研 究 に よ っ て 得 ら. れ る 知 見 で あ る 。 しか し な が ら 、 日 本 の ニ ュ ー カ マ ー 児 童 ・生 徒 に 対 し て 、 教 育 行 政 は 、 日本 語 支 援 教 育(JapaneselanguageSupPortLearning:以. 下JSLと. 記 す)の. 実 施 を推 奨. し、 上 記 の よ う な 知 見 に基 づ い た 母 語 支 援 は 推 奨 し て な い 。 一 方 、 教 育 現 場 で は 、 行 政 か らの 要 請 に 対 応 し な が ら も、 母 語 支 援 の 必 要 性 を 認 め 、 例 外 的 な 措 置 と して 限 定 的 に 、 母 語 支 援 を 実 施 して い る 。 現 在 、 行 政 の 主 張 に 基 づ くJSL型. 支 援 と 、 学 校 現 場 の 要 請 に 基 づ く母 語 支 援 が 混 在 し て. 実 施 さ れ て お り、 地 方 自 治 体 の 対 応 も様 々 で あ る 。 外 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 ・生 徒 支 援 を 対 象 とす る 研 究 領 域 に お い て も、 上 記 の 二 つ の 支 援 方 法 の ど ち らが 適 切 で あ る か に つ い て は議 論 が あ る。 李 の 調 査 は 、 日本 の 公 立 小 ・中 学 校 で 学 校 生 活 ・学 習 を し て い る 韓 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 ・生 徒 と保 護 者 を 対 象 と し た ア ン ケ ー ト調 査 で あ る 。 学 校 現 場 で 行 な わ れ て い る 各 支 援 体 制 に 関 して 、 ①even1(学. 校 の 都 合 、 あ る い は 児 童 生 徒 の 都 合 で 、 日 本 語 教 育 と母 語 の 、. 両 方 の 支 援 が 行 な わ れ て な い 子 ど も)、 ②even2(日 て い る 子 ど も)、 ③JSL(「 も)、 ④mt(母. 本 語 教 育 と母 語 支 援 が 両 方 行 な われ. か な」 や 漢 字 学 習 を 中心 に した 日本 語 指 導 を受 け て い る 子 ど. 語 を 介 した 学 習 支 援 を 受 け て い る 子 ど も)と. い う4つ. の 分 類 を用 い て、 各. 支 援 の 有 効 性 の 比 較 を行 な っ た 。 そ の 結 果 、 定 期 試 験 の 平 均 点 はevenl、even2、JSLよ な わ ち 、 母 語 介 入 学 習 者mtの. りmtの. 方 が 有 意 に高 か っ た。 す. 場 合 は 、 学 校 の 授 業 を 通 常 通 り に 受 け 、 授 業 の 日 本 語 と授. 業 内 容 の 理 解 が 困 難 な 部 分 は 、 学 校 学 習 を 理 解 す る た め に 必 要 な 言 語 的 支 援 で あ る 「母 語 を 介 し た 学 習 支 援 」 を 受 け て い る 。 そ れ が 教 科 の 学 習 知 識 の 習 得 力 を高 め 、 テ ス トの 点 数 に も影 響 を 与 え て い る 。 した が っ て 、 ニ ュ ー カ マ ー 韓 国 人 児 童 ・生 徒 が 日 本 の 学 校 で の 学 習 に う ま く対 応 し、 学 習 を 向 上 さ せ る た め に 、 第2言. 一120一. 語 の 支 援 に も ま して 、 母 国 韓 国 で 得.
(11) 学習言語能力の重要性. た学 力 を 日本 の 学 校 で の学 習 に連 続 させ る こ とが 必 要 で あ り、 そ の た め に は、 日本 語 力 を 高 め る指 導 よ り も、 母 語 を介 した 学 習 指 導 と支 援 が 重 要 で あ る とい うこ とが 明 らか に な っ た。 この 李 の 調査 か ら、CALP・BICSの. 観 点 を軸 に して、 日本 の(留 学 生 以 外 の一 般)大 学. 生 の 外 国語 学 習 との 関連 あ る い は示 唆 を得 る こ とが で きる。 韓 国人 ニ ュ ー カマ ー 学 習 者 に お け るCALP・BICSか. らみ た学 習 支 援 の効 果 の考 察 と、 同 じ くCALP・BICSを. 軸 に考 え. た大 学 英 語 教 育 の在 り方 の考 察 は、 一 見 正 反 対 に見 え て、 表 裏 一 体 で あ り、 相 似 形 を示 す 問 題 で あ る と思 わ れ る。 小 学 校 教 育 と大 学 教 育 、 また 外 国 人 小 学 生 と 日本 人 大 学 生 とい う、 一 見 無 関 係 で あ り、 正 反 対 の 存 在 が 、 実 は 関係 深 く、 同 じ教 育 問題 を示 して い る こ と が わか る。 これ らの李 の 調 査 結 果 に、大 学 英 語 教 育 問 題 を関 連付 け る形 で考 察 を進 め る。 李 の ア ンケ ー ト分 析 で 注 目す べ きグ ル ー プ は、 まず は グ ル ー プ② ③ ④ で あ る。JSLグ ル ー プ③ は、 学 習 の 主 眼 を 目標 言 語 で あ る外 国語 の習 得 に置 き、 しか も習 得 内容 は 日常 の 最 低 限度 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョンが 運 用 で きる こ と と して い る。 これ はBICS的. 言 語能力 に. 焦 点 を あ て た教 育 とい え る。 一 方 グル ー プ② お よ び④ は母 語 に よ る学 習 支 援 を重 視 してい る。 これ はBICSを. 無 視 す る わ け で は な い が 、学 校 教 育 で あ る以 上 、 小 学 校 教 育 で も学 習. 言 語 能 力 は 必 要 な の で あ る。 ② ④ は、 教 育 に お い て 、 ま た 「 仕 事 で使 え る外 国 語 運 用 能 力 」 を考 え る な ら ば、 日常 言 語 能 力 で は な く学 習 言 語 能 力 の 重 視 こ そ重 要 で あ る とい う認 識 を代 表 す るグ ル ー プ とい える 。 2か 国語 支 援 で あ る グル ー プ② は理 想 的 で あ る反 面 、外 国語 と して の 日本 語 教 育 も与 え、 さ らに母 語 に よ る支援 で 学 習 内容 の 習 得 を 目指 す とす れ ば、 児 童 へ の負 担 の み な らず 、 学 校 の教 員 や児 童 の保 護 者 の負 担 も大 きい こ とが 想 定 で きる。 言 語 教 育 支 援 を行 わ な い(行 え な い)グ ル ー プ① は 、教 育 環 境 や教 育 支 援 と して 明 らか に 問題 が あ り、CALPとBICS を軸 に した 比 較 ・考 察 を曖 昧 にす る。従 って 注 目す る対 象 を外 国語 教 育 支 援 の ③ と母 語 教 育 支 援 の④ に置 こ う。③ はBICSの 表 し、④ は教 育現 場 で はCALPの. 習 得 を 第1と し、CALPの. 存 在 を重 視 しな い 考 え を代. 育 成 な くして は教 育 が 成 り立 た ない との考 え を代 表 す る. グル ー プ と考 え られ る。 これ を 日本 の 大 学 生 と比 較 す る と、 多 くの 大 学 で は、 外 国 語 教 育 に お い て 、 「読 み 、 解 釈 し、 書 く」 とい う授 業 形 式 は時代 遅 れ で あ り、 英 語 母 語 話 者 を相 手 に 「聞 き話 す 」 教 育 が 重 要 で あ る と考 えて い る。外 国 語 運 用 の 見 か けの 流 暢 さが 外 国 語 運 用 能 力 の証 明で あ る とい う考 え が 普 及 して い る。BICSの. 習 得 を 目指 し、CALPの. 育 成 に つ い て は不 問 に付 さ. れ て い る。 大 学 教 育 につ い て は、 ④ に よ う に学 習 者 の 母 語 を十 分 に活 用 した教 育 が 模 索 され る様 子 は ない 。 学 習 素 材 の 内容 を吟 味 し、 学 習 内容 にふ さわ し く、 時 に は抽 象 度 の 高 い 言 語(日. 一121一.
(12) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 常 の 話 し言 葉 で は な く)に よ って 書 か れ た もの を、 大 量 に解 釈 し、 整 理 し、 結 果 を他 者 に 伝 え る、 とい う学 習 はむ しろ稀 で あ る。 日本 の大 学 教 育 は③ の外 国 語 教 育 を前 面 に押 し出 しつ つ 、④ の 母 語 活 用 を した 学 習 言 語 教 育 が 欠 落 した教 育 だ と言 え る。 そ の 問 題 点 を検 証 す る ため に、外 国 語 と して の 日本 語教 育 重 視 か 、 母 語 を使 って で も学 習 内 容 の 理 解 や 学 習 言 語 運 用 能 力 の養 成 が 重 要 と考 え る教 育 が 有 効 な の か、 を念 頭 に置 き、 分 析 結 果 を見 てい きた い 。. 7.李. 英姫調査 から. 7-1.ア. ン ケ ー ト調 査 の 対 象. 兵 庫 県 に 住 む 韓 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 ・生 徒 で あ る 。 年 齢 は7歳 生 徒 で 、 そ の 子 ど も の 保 護 者25人. か ら15歳. まで の 児 童 ・. か ら、 子 ど もの 来 日 直 前 と 、 子 ど も の 、 来 日当 初 か ら1. 年 半 が 経 過 す る ま で の 様 子 の 回 答 を得 た 。 ア ン ケ ー トの 回 答 は 選 択 式 と 自 由 式 の2種 用 意 し、 ア ン ケ ー トの 項 目 は25項. 7-2.調. 類を. 目で あ る 。(今 回 は 李 の 全 調 査 の 一 部 の み 使 用 し た 。). 査 の 目的. 日本 の 公 立 小 ・中 学 校 で 学 校 生 活 ・学 習 を し て い る 韓 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 ・生 徒 を 対 象 に して 、 学 校 学 習 の 効 果 、 成 績 の 変 化 を 比 較 す る こ とが 調 査 の 目 的 で あ る 。 ま た 、 保 護 者 が 家 庭 で ど ん な サ ポ ー トを して い る の か も調 査 し た 。. 7-3.分. 析 結 果 の概 要. ニ ュ ー カ マ ー 韓 国 人 児 童 ・生 徒 の 成 績 変 化 と4グ 表1.来. ル ー プ の成 果. 日直 前 の 半 年 ∼ 来 日後 の 一 年 半 年 間 の 成 績(100点. 教科科 目. 国語. 階級. 日本 の学 校 編 入 半年. 日本 の学 校 編 入1年. 日本 の学 校 編 入1年 半 年. even1. 90.0±0.0. 85.0±10.Ob. 86.0±8.9. 82.0±17.9. even2. 88.3±7.6. 75.0±7.1ab. 80.0±0.0. 82.5±3.5. JSL. 77.5±11.9. 53.3±17.5a. 51.7±17.2. 60.0±14.1. mt. 85.0±10.8. 70.0±12.9ab. 77.9±11.5. 85.8±4.9. 82.2±11.1. 68.4±174. 71.8±18.8. 80.7±13.7. 合計 E(P). 日本 の学 校 編入 直前. 満 点 の 平 均). lD41(.410). 4455*(D20). 一122一. 7250**(』03). 2.341(.129).
(13) 学習言語能力の重要性. 数学. even1. 20.0±0.0. 67.5±33.0. 72.0±30.3. even2. 88.3±7.6. 80.0±8.2. 90.0±.0. 85.0±.0. JSL. 76.3±15.3. 65.6±18.8. 65.6±23.5. 75.0±5.0. mt. 90.0±7.07. 82.9±9.5. 87.5±4.6. 90.7±1.9. 78.4±20.3. 73.7±19.0. 76.7±21.4. 80.6±18.0. 合計 F,(P). 社会. 8.995**(.002). 75.0±19.1. 75.0±19.1. 74.0±21.9. even2. 93.3±5.8. 78.3±7.6. 85.0±7.07. 80±0.0. JSL. 76.3±10.9. 55.0±16.9. 57.5±15.8. 70.0±10.0. mt. 85.0±9.1. 66.0±15.2. 77.1±9.51. 87.1±4.9. 80.0±13.7. 65.3±17.6. 70.0±16.7. 79.4±14.4. 5.704*(.012). 67.5±33.0. 50.0±42.4. even2. 83.3±5.8. 70.0±10.0. 80.0±.0. 85.0±0.0. JSL. 78.8±8.8. 58.8±15.5. 63.1±11.0. 70.0±10.0. mt. 91.7±2.9. 80.0±10.0. 88.8±2.5. 87.0±4.5. 78.3±18.2. 66.1±19.4. 71.7±18.9. 75.5±20.5. 23.698***(.000). .927(.453). 2.208(.132). 2.404(.153). even1. 60.0±0.0. 60.0±0.0. 60.0±0.0. 60.0±0.0. even2. 85.0±7.1. 90.0±0.0. 90.0±0.0. 90.0±0.0. JSL. 80.7±10.2. 70.0±26.5. 71.3±16.5. 75.0±7.1. mt. 87.5±3.5. 90.0±0.0. 90.0±0.0. 90.0±0.0. 80.8±10.6. 75.0±20.7. 75.0±16.1. 80.0±12.6. F,(P). 2.175(.169). .357(.794). .893(.536). 10.000(.092). evenl. 48.0±0.0. 74.5±20.0. 77.6±18.7. 74.9±19.6. even2. 87.5±4.8. 77.5±6.5. 85.0±0.0. 84.5±0.7. JSL. 77.8±11.0. 60.6±15.6. 62.4±15.3. 70.4±9.4. mt. 86.8±8.7. 75.7±11.6. 82.8±7.0. 88.1±2.7. 80.0±13.0. 70.5±15.2. 74.8±15.6. 80.7±12.9. 合計 F,(P). 5.075*(.017). 2.037(.143). 3.735*(.029). 2.208(.136). ン ケ ー トの 成 績 変 化 調 査 か ら. 母 語 、JSL、. (p=.143)状. 1.469(.272). 67.5±33.0. 合計. 年 間(生. 3.550*(.037). 20.0±0.0. F,(P). 7-3-1.ア. 2.240(.123). even1. 合計. 全体. 2.004(.163). 50.0±0.0. F,(P). 英語. 1.956(.155). evenl. 合計. 理科. 1.387(.277). 68.0±29.5. 両 支 援 あ り、 両 支 援 な しの 共 通 点 と し て 、 全 体 の 結 果 を み る と 来 日 後 、 半. 活 適 応 期 間)は. 、 成 績 の 点 数 が、 一 旦 下 が っ て 集 団 別 の平 均 の 差 が ない. 態 に な る が 、 そ の 後 、 徐 々 に 変 化 して 、1年 後 に は 集 団 間 の 平 均 の 差 が 出 て 、. 母 語 支 援 を 行 い 学 習 内 容 の 定 着 理 解 を深 め 、 学 習 言 語 能 力CALPを 最 終 的 に 好 成 績 を示 す こ とが わ か る 。. 一123一. 高 め たmtグ. ル ー プが.
(14) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 7-3-2.母 語介 入 支 援 者 の分 析 と特 徴 来 日半 年 後 か ら徐 々 に成 績 が 上 が っ て い く。 外 国人 児 童 生 徒 に とって 一 般 的 に学 習 が 難 しい 科 目で あ る国語 と社 会 の科 目が 、約1年 の 経 過 で、 平 均 値 が77.9ま で上 が り、1年 半 年 後 に は平 均値 が85.8に な って 、 来 日直 前 よ り点 数 が上 が り安 定 して い るのが わ か る。 概 念 の 連 続 や 、 基 礎 知 識 が 必 要 な 「数 学 」 も来 日の約 半 年 後 か ら徐 々 に成 績 が 上 が り、 約1年 が 経 過 して か らは 、 来 日直 前 の点 数 に まで上 が り、 平 均 値 が90.7に な っ て 、 よい 結 果 で 変 化 してい く。mtグ. ル ー プ が最 終 的 に最 も好 成 績 を得 る。 数 学 は論 理 的 思 考 や 推 理. 的 考 察 な ど学 習 言 語 能 力 の基 底 部 を構 成 す る部 分 で あ る。 ま た、 そ の 国 の社 会 知 識 を必 要 とす る社 会 の科 目で は 、 来 日半 年 か ら1年 の 問 は、 平 均 の 点 数 が 下 が り戸 惑 い を み せ る が 、1年 半 後 か らは 点 数 が 徐 々 に 上 が り、 来 日直 前 よ り平 均 値 の点 数 が 上 が っ て い くこ と が わか る。 この分 野 にお い て もmtグ. 7-3-3.JSL(「. ル ー プが 長 期 的 に は好 成 績 を得 て い る。. か な 」 や 漢 字 学 習 を 中 心 に した 支 援 者)の. 分 析 と特 徴. 母 語 、JSL、 両 支 援 あ り、 両 支 援 な しの 中 で 、 滞 在 期 間 が 経 過 す る に つ れ て 、 点 数 が 徐 々 に 低 く な っ て い くの は 、JSLと. 両 支 援 な し の 児 童 生 徒 で あ る 。 ま た 、JSLは. 点 数 が 、 な か な か 上 が ら な い 。JSLが. 一 度下が った. 、 教 育 成 果 が 上 が らず 、 む しろ学 力 低 下 してい る こ. と に 注 目 した い 。 教 育 行 政 ・施 行 側 が 学 習 時 間 を 多 く して 、 学 習 へ の 取 り組 み に 努 力 し て い る に も か か わ らず 、 成 果 は 出 な い 。 こ れ を 日本 の 大 学 英 語 教 育 に 当 て は め れ ば 、 カ リ キ ュ ラ ム 上 の 英 語 科 目の 学 習 時 間 や 必 修 単 位 数 を 増 や し、 い わ ゆ る 「英 語 漬 け 」 を 目指 し て も、 語 学 教 育 だ け で はCALPが. 向上. しな い た め に、 大 学 生 の 学 士 力 向 上 に英 語 教 育 は貢 献 しな い こ と を予 見 して い る。 ま た CALPを. 育 むEFL教. 育 を 行 い 、 教 育 言 語 能 力 を 高 め る べ き と こ ろ を 、ESL教. 育 を行 い、. 英 語 母 語 話 者 の 指 導 時 間 を増 加 させ る と い う見 当 違 い の 英 語 教 育 は 無 効 で あ る こ と も示 す もの で あ る 。. 7-3-4.母 語支 援 、JSL支 援 の 両 方 を受 けて い る か、 両 方 の 受 けて い な い場 合 の分 析 と特 徴 両 支 援 な しの学 習 者 の場 合 、幼 稚 園 の 時 に 来 日 した児 童 ・生 徒 で あ り、 日本 語 と 日本 社 会 に少 し慣 れ て お り、 学 校 の都 合 で 、母 語 支 援 、JSL支 援 の 両 方 を受 けて い ない か 、 受 け る こ とが で きなか った児 童生 徒 で あ る。 両 支 援 の あ る場 合 、 両 支 援 な しの場 合 と も、 児 童 生 徒 は、 学 校 編 入 学 の直 前 ま で は、 母 語 支 援 者 と同 じよ う に各教 科 の 点 数 が 高 い 。 両 支 援 が あ る児 童 生 徒 は、 編 入 学 の 約 半 年 後 か ら各 教 科 の 点 数 が 下 が っ て い く もの の、1年 を経 過 す る と、 国語 と数 学 、社 会 の 点 数 が 少 しず つ 上 が っ て い く。 理科 の 点 数 も徐 々 に上 が って い く。. 一124一.
(15) 学習言語能力の重要性. 一 方 、 母 語 支 援 を受 けて い ない 児 童 生 徒 は編 入 学 の 約 半 年 後 か ら徐 々 に 下 が って 、1年 経 過 後 で は、 国 語 と数 学 、社 会 の 点 数 が か な り低 い点 数 に まで 下 が っ て い く。 「 両 支援 な しグ ルー プ」 は、 滞在 期 間が 長 くな る につ れ て 、理 科 以外 の基 礎 教 科 科 目の 点 数 が 、 す べ て の グ ル ー プ の 中 で 一 番 低 くな る。 ま た、 一 度 下 が った 点 数 は な か な か上 が ら ない 。1年 を 「外 国語 」 で あ る 日本 語 に 囲 まれ た 「学 校 とい う 日本 語 村 」 にい れ ば、 外 国語 た る 日本 語 力 は 向上 し、 した が って 教 科 成 績 も向 上 す る、 とい う理 論 的 予 想 が あ る。 英 語 の 学 習 時 間 は 多 い ほ ど良 い とい う現 在 の大 学 英 語 教 育 の 予 想 も同 様 で あ る。 英 語 村 で 英 語 に 親 し み 、 母 語 話 者 教 員 に親 しみ 、 英 語 の 教 科 学 習 時 間 を増 や せ ば英 語 力 が 向上 し、 学 士 力 も向 上 して 大 学 教 育 の 成 果 が 表 れ る は ず で あ る。 しか しCALP養. 成 が 不 十 分 とい う条 件 下 で. は、 英 語教 育 の成 果が 上 が らない 危 険性 が あ る こ とを、 この調 査 結 果 は暗 示 して い る 。. 8.日 本 の 大 学 英 語教 育 との 関連 現 代 日本 の大 学 に お い て は、 入 学 時 にす で に、 深 刻 な学 力 不 足 を抱 え た学 生 が 入 学 して い る。 入 試 科 目の 選 択 制 を戦 略 的 に利 用 して高 校 の学 習 を行 え ば 、 当然 、 科 目間 で大 きな 習 得 の差 か 出 る し、 全 科 目の 成 績 の 問 に不 均 衡 が 生 じる。 理 系 学 部 に入 学 しなが ら、 物 理 や 化 学 の 習 得 が 不 十 分 で あ り、大 学 入 学 後 に学 習 支 援 を必 要 とす る ケ ー ス に相 当 す るの が 、 グル ー プ① で あ る。 グル ー プ① の 成 績 は、 入 学 後 、 結 局 浮 上 しない ま ま低 位 で 終 始 す る。教 室 で 授 業 に参 加 して も、 学 習 内 容 を理 解 し習 得 す るの に必 要 な学 習 言 語 の獲 得 が 不 十 分 な の で あ る。 そ れ を放 置 す れ ば学 習 上 の大 きな遅 れ につ なが る。 小 学 生 の 場 合 は、 保 護 者 の教 育 へ 関心 も、 影 響 す る と思 われ る。 また③ ④ の グル ー プ に成 績 の 向 上 が 成 立 す る とす れ ば、 保 護 者 た る外 国 人 父 母 が 教 育 に関 心 が あ る場 合 は、 小 学 校 の 学 習 内 容 で あ れ ば、 保 護 者 自身 が 母 語 支 援 し、CALPの. 問 題 に気 づ き自 身の 子 弟 に、 徒 に外 国語 を強 制 し. ない 配 慮 が 生 まれ る可 能 性 もあ る。 こ れ と対 照 的 に、 現 代 日本 の 大 学 教 育 にお い て は、 学 生 の 父 母 が 関心 を寄 せ る の は、 単 位 取 得 状 況 や、 留 年 問題 、 子 弟 の就 職 へ の不 安 で あ る。 学 生 の学 習 内容 の習 得 具 合 や 、 ま してCALPへ. の心 配 は発 生 しな い 。大 学 の教 育 力 の問 題 は、 大 学教 員 の教 育 力 の 問題 に還. 元 され る。 また 政 府 、 監 督 官 庁 も また 大 学 問 の競 争 原 理 と大 学 の 自然 淘 汰 に任 せ て、 大 学 生 の 学 力 問 題 を真 摯 に受 け止 め ない の が現 状 で あ る。. 9.結. び に か えて. CummingsのCALPとBICSを. 対 立 項 目 と し 、 ま た 文 脈 埋 め 込 み の 度 合 い と認 知 的 要 求. の 高 低 の 二 つ の 軸 に よ る 分 析 は 、 今 日 の 言 語 教 育 問 題 を 解 く重 要 な 鍵 と な る 。 外 国 人 ニ ュ ー カ マ ー 児 童 生 徒 の 学 習 支 援 に お い て は 、 外 国 語 た る 日本 語 運 用 を 過 剰 に 評 価 す る 日. 一125一.
(16) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 本 語 支 援 優 先 教 育 は 、必 ず し も本 質 的 な学 力 の 向上 に寄 与 す る とは 限 らない 。 む しろ母 語 を活 用 して も、 まず学 習 内 容 の 理 解 や 、抽 象 的 認 識 、 推 論 、 論 理 的 思 考 に基 づ く内 容 重 視 の コ ミュニ ケ ー シ ョンカ の 養 成 を考 え るべ きで あ る。 そ の 方 法 の 正 しさは李 英 姫 調 査 にお い て 、 母 語 支援 に よ りCALPの. 向上 を果 た したmtグ. ル ー プ の成 果 が 、外 国語 支 援 中心 の. JSLグ ル ー プ を上 回 る とい う、 学 習 成 果 に現 わ れ て い る。 外 国 人教 育 支援 にお い て 外 国語 で あ る 日本 語 の 習 得 を否 定 す る もの で は ない が 、外 国 語 教 育 が 過 剰 に評 価 され て は な らな い 。 日本 にお け る外 国 人児 童 生 徒 教 育 支 援 の誤 りは、 日本 にお け る外 国 語教 育 の 過 大 評 価 と同 じ問 題 で あ り、 原 因 も同 じで あ る。外 国 人 子 弟 へ のJSL教. 育 は 、 日本 人 学 習 者 へ の. ESL教. な くESLを. 育 と表 裏 一 体 をな す 。 そ こで 日本 人教 育 者 が なぜEFLで. 選 択 す る とい. う誤 りをお か した の か 。 そ れ は彼 ら には言 語教 育 にお け るCALPとBICSの. 区別 が 無 か っ. たか らで あ る。 そ こ で見 か け 上 、教 育 成 果 を説 明 し、 実 証 しや す いBICSの. 習 得 に重 点 を. 置 き、結 果 と して基 礎 学 力 た るCALPの. 検 討 を怠 る、 とい う結 果 を招 い て い る。. 認 知 軸 と文 脈 性 軸 で 区切 られ た4つ の象 限 の うち、 認 知 度 が 低 く文 脈 性 が 高 い(つ ま り 内容 が 具 体 的 で、 状 況 観 察 や 身振 りな どの具 体 的行 動 で解 決 で き る コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン レ ベ ル)の 象 限 はBICSで. あ り、 またESLやJSLの. 領 域 で あ る。 一 方 認 知 度 が 高 く、 文 脈 性. が 低 い(内 容 が 高 度 で 抽 象 的 で あ り、 具 体 的 な状 況 か らは 理 解 が 難 しい 高 度 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョン レベ ル)の 象 限 はCALPで. あ る。 高 文 脈低 認 知象 限 か ら低 文 脈 高 認 知 象 限へ の. 矢 印 は、 「あ るべ き移 行 のベ ク トル 」 と理 解 すべ きであ る。BICSか て の 自然 な移 行(BICSを. 養 成 す れ ばCALPは. らCALPへ. の結 果 と し. 向 上 す る)を 期 待 す べ きで は ない 。 つ ま り. ESLやJSL教. 育 を学 習 者 に強 要 して も、 結 果 と して のCALPの. 向上 は期 待 で き ない 。 そ. れ はCALP養. 成 が 不 十 分 な 時期 に、 第2言 語 を導 入 して も効 果 が 望 め なか っ た ア メ リカ、. カ ナ ダ な どの 諸 外 国 のバ イ リン ガル 教 育 の難 し さの例 をみ るべ きで あ り、今 回 の 李 調 査 の 結 果 も同様 で あ っ た こ とは注 目に値 す る。 また外 国 語 教 育 に たず さ わ る者 は、 学 習 者 の 具 体 的 運 用 の様 子 や 、 運 用 の 流 暢 さだ け を過 大 評 価 して は い け な い。 そ の意 味 でCummings の提 案 した共 通 基 底 部 分 の概 念 こそ重 要 で あ る。 た だ し、CALP重 り、 表 現 力(書 き、話 す)の 軽 視 」 で は決 して ない 。 む しろCALPの. 視 が 「思 考 力 重 視 で あ 養 成 の た め に は 「高. 度 で 論 理 的 な文 を書 き、 話 す 能 力 」 が 学 習 者 に求 め られ な け れ ば な らな い。 そ して現 代 日 本 の 大 学 教 育 や外 国語 教 育 に欠 け てい るの が 、 表現 力 や発 信 力 を含 め たCALPの る こ と は間 違 い ない 。 今 回 の 議 論 の 今 後 に残 され た問 題 は、CALPと 証 性(そ もそ もCALPと. 養成 であ. い う概 念 的存 在 の 実. い う実 体 が あ る のか)で あ るが 、 これ は2項 対 立 的 な分 析 方 法 す. べ て に と もな う問 題 で あ ろ う。 む しろ この 問 題 は、 す で に述 べ た よ う な教 育 にお け る価 値 観 あ るい は教 育 の志 向性(イ可を価 値 と し、何 を 目指 す か)の 問題 で あ る。. 一126一.
(17) 学習言語能力の重要性. 注 1 Cummings,J.1980,TheConstructoflanguageproficiencyinbilingualeducation. InJ.E.Alatis(ed.)060名96'ozo〃. σ力勿67∫ ゴ 砂Ro%%47'α. ∂160〃. 五 α〃9%㎎6∫. 侃4. 五 勿g%魏c31980.WashingtonDC:GeorgetownUniversityPress. Cummingsの. ほ か に も 、CALP/BICSに. る が 、 そ の 結 論 はCummingsの. 関連 す る学 習 と言 語 能 力 に 関 す る研 究 が あ. 示 した 見 解 と矛 盾 や 逆 の 見 解 を しめ す も の で は な. い: Oller,J.W.1982,Evaluationandtesting.InB.Hartford,A.ValdmanandC.Foster (eds)傭%6∫. 初. Baker,Foπ. 動 勿 〃α'∫oπα18ゴ1勿8襯1E伽6読oπ.NewYork:PlenumPress.Colin. π4磁. ∫oπ ∫ ρノ β 〃 加gπ. α1E4%c読. ∫oπ α%4β. 〃 ∫〃gz6α 〃 ∫〃z.(Clevedon:. MultilingualMatters,1993).. 2 Cummings,J.1981a,β. 〃 切9π. α1ガ∫辮. α〃4114助07め. 五 α〃9〃 α96C雇1476π.Ontario:. OntarioInstituteforStudiesinEducation(p.163).. 3 Cummings&Mulcahy1978,Ducan&deAvila1979,Kessler&Quinn1982,Dawe 1982,1983,Skutnabb-Kangas,T.andToukomaa,P.1976,乃 ハ4∂訪67To〃gπ6α C〃1'〃7α1S伽. 〃4訪6五 α'ガo〃q〃. α6勉 〃g超g7α. α〃gz4㎎6ρ. 乃61協g7α. ブ 疏6」 吻 ∫'Coz4π'冗yガ. 〃 ∫勲. 〃 訪6Coπ. 〃'C雇1476〃. 旋沈'ρ プ 訪 θSocガo-. 祝 め.Tampere,Finland:TukimuksiaResearch. Reports.. 4 Cummings,J.1978,Metalinguisticdevelopmentofchildreninbilingualeducation programs:DatafromIrishandCanadianUkranian-EnglishPrograms.InM. Paradis(ed.).A5ρ66お. 〔 ガB∫1勿g'%α1∫3祝.Columbia:HornbeamPress.. 5 Cummings,J.1984a,Bガ. 伽9媚1ガ. ∫規. α〃4趣)6cゴ. α1E伽c罐oπ'途3鰐. ∫ 勿.4∬6∬. 挽6〃'α. π4. -P64㎎ogy.Clevedon:MultilingualMatters(p.143).. 6 Cummings,J.1981b,Theentryandexitfallacyinbilingualeducation.八. 乙4BE. ノリz67〃 α14(3).. 7 Cummings,J.1983,Languageproficiency,biliteracyandFrenchimmersion. Cα 〃α4ゴαπ ノ∂z67〃α16ゾE4z6cα'∫o/z8(2),117-138.. 8 李 英 姫 は 来 2010年. 日 後 、2004年. よ り 甲 南 女 子 大 学 大 学 院 人 文 科 学 科 に て 、 教 育 論 を 専 攻. 、 同 大 学 院 を 満 期 単 位 修 得 退 学 す る ま で 、 「ニ ュ ー カ マ ー 韓 国 人 の 児 童. に 対 す る 母 語(韓. 国 語)を. 介. し、. と生 徒. し た 学 習 支 援 」 を テ ー マ に 研 究 調 査 を 行 っ た 。 中 国 を は. じ め 、 東 南 ア ジ ア 、 ブ ラ ジ ル な ど 国 際 的 に 多 様. な 移 民. と そ の 子 弟 が 増 加 す る 日 本 で 、. ニ ュ ー カ マ ー 児 童 生 徒 の 教 育 問 題 の 分 析 、 調 査 が 進 み 、 そ の 成 果 が 発 表 さ れ つ つ あ る. 一127一.
(18) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. が 、 それ らの研 究 の 理 論 的基 盤 は多 様 で あ る。 ま た韓 国人 ニ ュ ー カマ ー を対 象 と した 学 習 支援 問 題 の調 査 研 究 は 貴 重 で あ る。 さ らに理 論 的 基 盤 がCummingsら. の理 論 を. 基 に してい る点 で 、 李 英 姫 の 研 究 は単 な る数 量 調 査 研 究 に は ない 研 究 視 点 を持 つ 。 今 回 は そ の膨 大 な調 査 の一 部 を引 用 した。 なお この 研 究 調 査 成 果 は論 文 と して は未 発 表 で あ る。. 一128一.
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