Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類 博士 (医学) 報 告 番 号 甲第1741号 学 位 記 番 号 第1238号 氏 名 竹内 章 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 25 日 学位論文の題名
TTF-1 Expression Predicts the Merit of Additional Antiangiogenic Treatment in Non-squamous Non-small Cell Lung Cancer
(非扁平上皮非小細胞肺癌において TTF-1 発現は血管新生阻害剤の併用効 果を予測する)
Anticancer Res, 38: 5489-5495, 2018
論文審査担当者 主査: 中西 良一
論 文 内 容 の 要 旨 背景・目的
Thyroid transcription factor 1 (TTF-1)は II 型肺胞上皮に発現し、正常肺の発生・分化において 必須の因子であるとともに、肺腺癌における癌系統遺伝子として種々の役割を担っている。また、 腫瘍組織のTTF-1 による免疫染色法は、実臨床において原発性肺腺癌と扁平上皮癌あるいは転移 性腺癌との鑑別を行うマーカーとして重要である。肺癌治療において、肺腺癌は非扁平上皮非小 細胞肺癌の多くの割合を占めており、免疫療法や分子標的治療、殺細胞性抗癌剤による治療が行 われている。ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であ り、非扁平上皮非小細胞肺癌の治療において殺細胞性抗癌剤との併用や免疫療法との複合療法に おいて広く用いられている。しかし、ベバシズマブの治療効果を予測するバイオマーカーの存在 は明らかになっていない。TTF-1 は細胞内における VEGF 産生において直接関与していることが 報告されている。TTF-1 発現が、ベバシズマブの治療効果を予測するバイオマーカーとしての役 割を果たすか追究するため本研究を実施した。 対象・方法 当院の進行期非扁平上皮非小細胞肺癌の患者のうち、ペメトレキセド及び白金製剤(シスプラチ ンまたはカルボプラチン)併用化学療法にベバシズマブを加えた治療を受けた44 例、ペメトレキ セド及び白金製剤併用化学療法を受けた 74 例の病理組織検体を用いて、TTF-1 による免疫染色 を行った。腫瘍組織中のTTF-1 発現の有無を確認し、治療効果に関する臨床的アウトカムとの関 連を検討した。 結果 腫瘍組織におけるTTF-1 染色は全例実施可能であり、TTF-1 陽性が 92 例、陰性が 26 例であっ た。合計118 例を対象とした全解析において、両治療法の奏効率・病勢制御率・無増悪生存期間・ 全生存期間といった臨床的アウトカムは、既報の臨床試験と類似する結果であった。このうち、 TTF-1 陽性患者 92 例においては、白金製剤併用化学療法にベバシズマブを追加することで、奏 効率の向上(51.4%対 27.3%、 p=0.027)および無増悪生存期間の延長(中央値 216 日対 137 日、 p=0.012)を認めた。一方これらの追加効果は、TTF-1 陰性群においては認められなかった。 結論 腫瘍組織におけるTTF-1 発現の有無は、白金製剤併用化学療法にベバシズマブを追加することで 利益が得られる症例を予測するバイオマーカーとなり得ることが示唆された。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (注)和文で2,000字以内でまとめる
論文審査の結果の要旨 【発表の概略】ベバシズマブ(Bev)は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体で あり、非扁平上皮非小細胞肺癌の治療において殺細胞性抗癌剤との併用や免疫療法との複合療法にお いて広く用いられているが、臨床上有用な効果予測バイオマーカーは明らかではない。Thyroid transcription factor 1 (TTF-1)は II 型肺胞上皮細胞に発現し、正常肺の発生・分化において必須の 因子であるとともに、肺腺癌における癌系統遺伝子として種々の役割を担っている。TTF-1 は細胞内 における VEGF 産生において直接関与していることが報告されているため、TTF-1 発現が、Bev の治療 効果を予測するバイオマーカーとしての役割を果たすか追究するため本研究を実施した。当院の進行 期非扁平上皮非小細胞肺癌の患者のうち、ペメトレキセド及び白金製剤(シスプラチンまたはカルボ プラチン)併用化学療法に Bev を加えた治療を受けた 44 例、ペメトレキセド及び白金製剤併用化学 療法を受けた 74 例の病理組織検体を用いて、TTF-1 による免疫染色を行い腫瘍組織中の TTF-1 発現 の有無を確認し、奏効率、無増悪生存期間、全生存期間との関連を検討した。腫瘍組織における TTF-1 染色は全例実施可能であり、TTF-1 陽性が 92 例、陰性が 26 例であった。合計 118 例を対象と した全解析において、両治療法の奏効率・病勢制御率・無増悪生存期間・全生存期間といった臨床的 アウトカムは、既報の臨床試験と類似する結果であった。このうち、TTF-1 陽性患者 92 例において は、白金製剤併用化学療法に Bev を追加することで、奏効率の向上(51.4%対 27.3%、 p=0.027)およ び無増悪生存期間の延長(中央値 216 日対 137 日、p=0.012)を認めた。一方これらの追加効果は、 TTF-1 陰性群においては認められなかった。腫瘍組織における TTF-1 発現の有無は、白金製剤併用化 学療法に Bev を追加することで利益が得られる症例を予測するバイオマーカーとなり得ることが示唆 された。 【審議の内容】上記の論文要旨が申請者より発表された後、主査の中西教授より、1.TTF-1 を治療マ ーカーとして研究する発想に至った動機について、2.TTF-1 と肺腺癌の分化度との関係について、 3.TTF-1(+)かつ EGFR(+)の症例での後治療(EGFR-TKIs)が予後に与えた影響について、4. OS で有意差 が出なかった理由、5.血清 CYFRA と予後との関連について、など 7 項目の質問が行われた。次に第一 副査の高橋教授より、1.TTF-1 発現によりどのような変化を介して治療効果を予測できるか、2. TTF-1(+)で Bev が無効な症例の特徴について、3.TTF-1(+)と(-)で VEGF 発現に差があるかについて、 4.TTF-1 が細胞質でのみ陽性の症例の頻度、5.大細胞癌で TTF-1(+)はあっていいのか、など 13 項目 の質問が行われた。第二副査の稲垣教授からは、1.非扁平上皮非小細胞肺癌に含まれる組織型につい て、2.TTF-1(-)群の臨床背景の解釈について、3.TTF-1 陽性の判定基準について、4.Bev の薬価及び バイオマーカーとしての意義について、5.症例選択の根拠について、など 9 項目の質問が行われた。 いずれの質問に対しても概ね十分な回答が得られ、本研究領域について深く理解するとともに、専攻 分野に関する知識を深く習得しているものと判断された。本研究は Bev による抗癌剤への上乗せ効果 と免疫染色法による TTF-1 発現の有無との関連を検討した価値ある研究と考えられた。よって、本論 文の筆頭著者には博士(医学)の学位を授与するに値すると判断した。 論文審査担当者 主査 中西 良一 副査 高橋 智、稲垣 宏