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<調査・研究>児童養護施設における心理的援助の現状と課題--施設心理職員の視点から

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(1)BU11etin of center for clinical psych010gy Kinki university v01.フ:79. 92 (2014). 79. 調査・研究. 児童養護施設における心理的援助の現状と課題 一施設心理職員の視点から 士屋麻矢子(TSUCHIYA,Mayako) 近畿大学臨床心理センター日本橋カウンセリングルーム 児童養護施設泉ケ丘学院. 1.はじめに. 現在、社会的養護を必要とされる児童は4万6千人に上るという。国は児童に「あたりま えの生活」を保障していくため「家庭的養護」を推進すべく、①里親委託等を推進していく と共に、②児童養護施設を小規模化していく、という方針であるが、その中にあっても依然 として児童養護施設の果たす役割は大きい。しかし児童養護施設内の心理的援助につぃては まだ課題が残されている。本論文では、小規模化ヘの移行にあたっての懸念についてもふれ ながら、児童養護施設における心理的援助の現状と課題について述ベたい。. 2.歴史的流れ. 小林(2007)によると、わが国の「子ども虐待の社会的発見」は、 1990-91年に大阪・ 東京の民間団体により開設された専用電話相談によるものだったという。その後15年間、 前線でこの問題に向き合ってきた人々は「初めは知識や技術を習得する機会もなく、制度や 体制も未整備ななかで、次々に直面する子どもや親に、職域を越えて試行錯誤しながら最善 を尽くして取り組ん」できた。そして、関係者が科学的理解を深め専門性を向上させ、エビ デンスに基づく実践が求められることを実感し、1996年、多職種が一堂に会する「日本子. ども虐待防止研究会(JaspcAN)」が発足されるに至ったという。 その後、 2000年にル巳童虐待防止法」がようやく制定された。これによりわが国でも、 早期発見・通告・初期対応が全国隅々まで広がり、活動が一気に加速した。しかし「この急 激な変化に、関係者だけでなく、親も子どもも困惑している。その理由は、対象者が予想以. 上に多かったこと、親や子どもの状況が予想以上に過酷なために対応が難しいこと、次々に 出される施策に現場が追いつかないこと、そして今まで『支援』をしてきた職種や機関は『法 的介入』になかなか馴染めないでいること等」(小林、 2007)であったという。 筆者が某児童養護施設に心理職員(非常勤)として勤務し始めたのは1999年だったが、.

(2) 80. 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. それは「1999年4月1日より、虐待、ひきこもりなどの理由により、心理療法が必要と児 童相談所長が認めた児童が10名以上入所している児童養護施設に、心理療法を行う職員を. 配置することとなった」(全国児童養護問題研究会、 2002)経緯の中でのことだった。当時、 筆者は児童養護施設とはどんな所かを知らず、また施設側も心理療法担当の職員(以下、心 理職員)とは何をするのか分からない状態からのスタートだった。各家庭にそれぞれ独自の 文化があるように、各施設によって違う文化やしきたりがある。筆者だけでなく当時先陣を 切って施設に勤務した心理職員たちは、各施設に単身で入りこみ、ケアワーカーと共に試行 錯誤しながら、子どもを援助するための器を作っていった。あれから15年たった今、様々. な心理職員の話を聞くと、施設によって進捗状況は様々だが、心理的援助の充実に向けて今 もそれぞれに奮闘し続けているようである。. 3.児童養護施設について まず児童養護施設について、少し説明しておこう。 「児童福祉法」に基づき設置されている児童福祉施設は、大きく4つに分けることができ る。養護系施設、障害系施設、育成系施設、その他の施設である。. この養護系施設の中に、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療 施設、児童自立支援施設(昔は教護院と言われていた施設)等がある。つまり「児童養護施 設」は児童福祉施設の養護系の中の1つということである。 児童養護施設は、養護施設と虚弱児施設が統合された新しい施設で、乳児を除いて、保護 者のない子ども、虐待されている子ども、その他環境上養護を要する子どもを入所させて養. 護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設で、子どもたちは「児童相談所」 に措置されて入所してくる(「児童相談所」は都道府県と政令指定都市に設置されている行 政機関で、大阪府内では大阪府が「子ども家庭センター」という名称で6か所、大阪市が「子 ども相談センター」、堺市が「子ども相談所」という名称で1か所ずつ設置している)。. 【表1】からも分かるように、児童の措置理由はかなり変化してきている。養護問題発生 理由が虐待であるケースは、 1977年(S52)には 2,590人(82%)だったのが、 1998年(HI0) には 5,192 人(192%)、 2008年(H20)には 10,447 人(33.1%)にまで急増している。 また児童養護施設入所児童の被虐待経験の有無を調査した結果では、2008年時点で. 53.4%、半数以上が被虐待を受けた経験があること分かる(図1)。さらには障害等のある児 童の割合が23.4%になっていることも見過ごすことはできない(表2)。このように、児童. 養護施設の児童は虐待を受けてきたり、何らかの障害を抱えている率が高く、児童一人一人 の状態に合わせた心理的援助が必須であることは明白であろう。.

(3) 士屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 81. 表1.児童の措置理由 ③児童の措置理由(養艇問題発生理由) (父・母・父母の)死亡 (父・母・父母の)行方不明. 単位:人数(人)、[]構成割合(%). H20. HI0. 刀5[2.5】. 947[3.5]. 2.221【フ.5]. 2,1町[フ.0]. 4,020[14.9]. フ,757[26.幻. S62. S52. 父母の雜婚. 1.304【4.11. 2ユ92[8.5]. 5,941[20.1]. 父母の不和. 252[0.8】. 297[1.1]. 貼5[1.司. (父・母の)拘禁. 1,611[5.1]. 1.173[4.3]. 1.3胎[4.フ]. (父・母の)入院. 1.833[5.8]. 2.4釘ι9.1]. 3,411[11.51. H20. 3.430[10.9] (父・母の)就労 9.0釦[28.カ (父・母の)精神疾血等 6,190[19.6】. 虐待(鯨任・息惰.虚侍・ 酷使、棄児、養育拒否). 560[1.田 破産等の軽請的理由 1.170[3.フ】. 総数. 児童養護施設(旧養護施設)入所児童等調査. S62. S52. 3.0砧[9'フ]. 3,834[14.幻. 328[1.1」. 300[1.0]. 3.377ι10.カ. 乙024[フ.可. 1,533[5.幻. 1.6(冷!5.1]. 10,Uπ33.1]. 5.192[19.幻. 3.08π10.4】. 2.590[8.幻. 之390【フ.可. 1ユ釘[4釘. 1.047[3.3]. 1.450[5.4]. 3,3価[10.司. 1.996[フ.4】. 3,437111.6]. 2.560[8.1】. 児宣悶嗣による監腫困鮭. 4.080[129] その他・不詳. HI0. 31,593[100.01 26,979[1卯.01 29.5闘[1卯.0] 31,540[100. *「ネ士会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より. 図1 0%. 毘親. 被虐待体験の有無 20吼,. t'. 児童養霞施設. 40%. 60%. 80% 100%. 61.5Ψ0. 70. 40.8% 58. 乳児院. 63.4咲,. 惰緒障害児 短期治療篦設. 4. 26.7亨' 7咲,. 児童自立支授施設. 26.5畷,. 母子生活支授施設. 543咲,. 被虐待体験. なし. 口あり口なし口不明・不詳. %. 3. 咲,. 不明・不詳. 児童養護施設入所児童等調査結果(平成20年2月1鋤 *「社会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より.

(4) 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. 82. 図2.児童養護施設における障害等のある児童数と種別 児童養護施設における障害等のある児童数と種別 10,000. 23.496. 割合は児童養護施設に入所している子ども. 9,000 8000. その他の 心身障害 広汎性発 達障害 山. 7ρ00. リ鴇. 6,000 5,000. 知的障害. 4,000 9.596. 言語障害. 3,000 2,000. 視聴覚障 害. 1ρ00. 4_.ーー・.肢体不自. 0. 身体虚弱. 昭和62. 平成4. 平成10. 平成15. 平成20. ADHD(注意欠陥多動性障害)については、平成15年より、広汎性発達障害およぴLD(学習障害)については、平成20年より謂査。 それまではその他の心身陣害ヘ含まれていた可能性がある。. *「ネ士会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より. 4.現在の国の方針一児童養護施設の小規模化についてー 1)現在の国の方針. 厚生労働省は「社会的養護の課題と将来像の実現に向けて」という施策を発表している。 詳しくは厚生労働省のホームページ(厚生労働省トップページ→政策について→こども子育 て支援→施策情報→社会的養護→社会的養護の課題と将来像の取組状況(平成26年3月版) h杜P://WWW.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_02PdD を参 照して頂きたいが、. ^^. 、ー、ー. ではその一部を紹介したい。なお図表は全て同ページからの引用で. ある。. 「社会的養護」とは、「保護者のない児童、被虐待児など家庭環境上養護を必要とする児 童などに対し、公的な責任として、社会的養護を行う」ことをいう。表2 を見て頂きたい。 2012年現在、社会的養護の対象児童は概算で約4万6千人。うち、里親委託は4,578人、児 童養護施設には28,831人が措置されていることが分かる。欧米主要国では、概ね半数以上 が里親委託であることに比ベると、日本では施設養護ヘの依存が高い現状にあることは明白 である。.

(5) 士屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 83. 表2.社会的養護の現状 保護者のない児童、被虐待児など家庭環境上養護を必要とする児童などに対し、公的な責任として、社会的 に養護を行う。対象児童は、約4万6千人。. 里親. 養青里 門里 養子録組里親 焦里 専. 、^. ^ 舌. ^ 鷺貞寡^. 親. 親. 1畳ι 血複'. 区分. 親親. 家庭における養育を 里親に委託. 豊録里袈数. 委託旦親敦. 9,諦2世帯. 3.紀7世帯. 委託見宜蝕 4占18人. 7艮妬世 632世 2"5世帯 471世帯. 27傍世帯 1促世帯 2佃世帯 4価世帯. 4飴人 197人. ホーム数. 218か所. 213人 670人. 委託児童数. 829人. ファミリー ホーム. 養育者の住居において家庭. 養護を行う(定員5 6名). ^i -","゛^. }よ. 乳児(特に必要な 場合は、幼児を含 む). 保唆者のない児童、 軽度の惰諸陣害 虚待されている児 を有する児童 童その他斑境上養 俊を要する児童 (特に必要な場合 は、乳児を含む). , r. 不良行為をなし、 又はなすおそれの ある児童及ぴ家 盛琢墳その他の 斑填上の理由に より生活指導等を 蔓する児童. 記偶者のない女 子又は二れ1こ串ず る事情にある女干 及ぴその者の監 綾すべき児童. 哉務敏寅を終Tし た児童であって、. 児童養纏施設等 を退所した児査等. 131か所. 5鮖か所. 聞か所. 58か所. 258か所. 113か所. 3β57人. 34,044人. 1,π9人. 3β15人. 5.121世帯. 749人. 3,0脚人. 28β31人. 1.310人. 1.544人. 3,砧4世帯 児査5βπ人. 430人. 4,0認人. 朽占15人. 948人. 1,釦1人. 1,9子2人. 372-k. 943か所 ^. 269か所. ※鳳親数、委託児童数は福祉行政報告例(平成25禦月末現在) ※施設数、ホーム数、定員、現員、小規捜グ1しープケア、地壊小規槙児童養鰹施設のか所数は 家庭福祉課簡ペ(平成25年10月1日現在) ※職員数(自立擾助ホームを除く)は、社会福祉施設等調査報告(平成23年10月IB現在) ※自立橿助ホームの職員数は家庭福祉課謡ペ(平成?4年3月1日現在) ※児童自立支授施設は、国立琉設を含む. *「ネ士会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より. そこで国は児童に「あたりまえの生活」を保障していくため「家庭的養護」を推進すべく、 ①里親委託等を推進していくと共に、②児童養護施設を小規模化していく、という方針を打 ち出したのである。. 2)児童養護施設の小規模化について 次に児童養護施設の小規模化について説明しよう。. 児童養護施設には、大舎制(1養育単位当たり定員が20名以上のもの)、中舎制(同 13 19名)、小舎制(同 12名以下)、小規模グループケア(6名程度)がある。 2008 値20) 年3月時点では大舎制が370施設(全体の75.8%)(表3)。つまり多くの児童が1フロアに 20名以上の集団生活をしている状況があった。そこで、本体施設を残しつつも、地域の中 に小規模グループケアなどを作って分散・小規模化していき、今後10数年の間に、施設の. 本体施設、グループホーム、里親等の割合を3分の1ずつにしていく、というのが国の目標 である。児童養護施設の小規模化・地域分散化のための計画のステップ(例)として、図3 のような例を示しているので参考までに紹介する。実際、 2012 (H24)年3月の時点では、.

(6) 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. 84. 大舎制が50.フ%にまで減少し、中舎・小舎・小規模グループケアが増えており、この4年間 でも小規模化は進んでいると言えよう(表3)。. 図3.児童養護施設の小規模化・地域分散化のための計画ステップ(例) (平成24年11月「児童養唆施設等の小規椣化及ぴ家庭的養護の推進について」より抜粋). ①現状(定員70人大舎制の例). ③グループホームを増やす 里親支援をしながら里親委託を進める 寺本体施設の定員を更に引下げ. 本体施設(定員70人) 本体施設(定員45人)グルー プケア. 大舎制. (空いた居室は、順次、工事'^^ (空りた居室は、順次、工事地域小地域小'^^. .人.人厘翻^ 酉 、、、釜、瞰佃巨画巨画^^厘翻. 畢 ②まず1か所グループホームを作る =・小規模養育のノウハウを習得 ・本体施設の定員を5人程度引下げ. ④本体施設を全ユニット化する ファミリーホームや里親委託をさらに進める. 本体施設(定員65人) 大舎制. 辱、ふ、... 本体施設(定員24人). 引下げ廟戸\、、腰翻^ 小規模小規模^^. 圖屬翻國亜 幾笈金援饗尖^^ 繍幽畿鵬 刷一翻、、、,. 小児護. ユニット化. 域d槙養. 地規童. (定員を引き下げた分、 子どもの生活空間に余裕 が生まれる). =本体施設の定員をさら1. .人.人い1亜^. ※定員規棋の縮小は、施設の子どもの環境改善を図るものであり、過去に施設豊備費の補助を受けた焦設でも可能。 ※本体施設の改築を行う場合は、改築時に小規模グループケアの犠造とするか、あるいは容易に転換できる構造としておく. ※措電費上、定員(本体+分園型小規椣ケア)の定員が45人以下の場合が、手厚くなっている。. *「ネ士会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より 表3.大舎・中舎・小舎の現状、小規模ケアの現状 曼忙I J脚圭 、エリゞ'.U"篤鎗ι勗イ、子;,、、、、'券}1:号梦 墨'..}、yl 透篭嘉轡'十廿ヤイー小吃Ξプ"J.. 勇幸淫盆山磁郭A試除亀捗目蔦唯、' ξて{、;101之》革Xミ耳S'411i-、》IP 刷,f '、. 裟譜ミ、'ゞ笈喫1糾ヤ 鞭暖亀ξ県途ゞ糾父. ,'冨'.、暫叉 捗、舟 .W五'甚心蛭 J、. Y A]ヒ. ・啼;'瓢懸・:卦ι毛智 ゛'、'」14 リ,1'゛ー,、1゛此ち 賦"寵だ遜 堂幕i没鷺 "'ーー叉1誇ゞ 、だt夕゛'七jξ軍'二上. 矢誉欝. '、P "ル萎. 1^J、ー. エ.瓢施斌倉謹,鉾肺途吹叉澄゛亀 N 寺 1、。、、、.言i、 tlt'、、气. L _.J '言無. ""、"、・',"'血. 、゛,事モ J]ト1一ι.{1,. .」IJL.ユ,、'゛1イr^、、上」. ゛.,,'、.'之^1"" 气司i.ノ,1『゛イι、、J J T. ・万弓会、. 点獣盗美ゞ ,祉气"、^ι゛%. 刷コよ、ーゼキι、」,'"才. 経墨義笈". 麺沌処規1 1万彰=ン゛ ξ.1Σ舎題 1グjD」rブ τ'イケ戈声J 龍璽施1設琴 "ν*7太'、 IU.り'1-¥ゞン 毛../L→ 1」.ー,. 二 U、'ウ.],Z、j'ー'. ι、"" 1」一「ノ,、. ,.゛、. ゞN・552、'製卸瓢. 腰 縛寺、翁X. 280. 147. 226. 312. 136. 32. 507. 266. 40.9. 56.5. 24.6. 5.8. 370. 95. 114. 212. 111. 55. 75.8. 195. 23.4. 43.4. 227. T13. r 、¥、耶ノ11〒%. t'、,条慢汽顎妻ξ誕. 亀 1『.0力j"1ゞ]. J]、t.、A﹃:ノ.゛"﹂肌゛、. "."."丁1゛、、t,、.ιiJ^門. 錢"、、J蛮':七ヌゞ. ミ保有施設靈郵為卜財. .似訟親町璽1難'心 3、上;釜4ザ、.女゛,ゞj認1」;1Pゞこ气1、',、武」. 一,,. k一筬齢写β葺)黙 '・'小門賢3tl゛、.き卿{."、,".'. ※社会的養護の施設整備状況調査、諭査回答施設数552 (平成24年3月1日現在)、 調査回答施設數489 (平成20年3月1日現在). *「ネ士会的養護の課題と将来像の実現に向けて」(厚生労働省,2014)より.

(7) 土屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 85. しかしこれには心理的援助という視点で見た時に、気をつけなければならない点がある。 児童養護施設の現状を多少知っている心理職員として、施設の小規模化の際の心理的援助に ついて思うことを述ベたい。. 5.小規模化に当たっての懸念 1)小規模化の意義と課題 小規模化の意義と課題については、2012年10月に社会保障審議会児童部会社会的養護専 門委員会(以下、「社会的養護専門委員会」)で取りまとめられた「児童養護施設等の小規模 化及び家庭的養護の推進のために」(厚生労働省、 2012)という報告書に、端的にまとめら れているので、ここで紹介したい。. 巨亟^ 一般家庭に近い生活体験を持ちゃすい。 子どもの生活に目が届きゃすく、個別の状況にあわせた対応をとりゃすい。 生活の中で子どもたちに家事や身の回りの暮らし方を普通に教えやすぃ。 調理することにより、食を通じたかかわりが豊かに持てる。 近所とのコミュニケーションのとりかたを自然に学ベる。 集団生活によるストレスが少なく、子どもの生活が落ち着きゃすい。 日課や規則など管理的になりゃすい大舎制と異なり、柔軟に運営できる。 安心感のある場所で、大切にされる体験を提供し、自己肯定感を育める。. 子どもたちが我が家という意識で生活でき、それが生活の主体性につながり、自立の力 が日常生活を通じて身についていく。 家庭や我が家のイメージを持ち、将来家庭を持ったときのイメージができる。 自立を意識し、意図的に子どもにかかわれる。 少人数のため行動しゃすい。. 地域の中にグループホームを分散配置することにより、地域での社会的養護の理解が深 まる。. 地域の子ども会、自治会、学校区の関係者との交流が深まる。 小規模化に当たっての課題と対応 <課題>. ・職員 1人での勤務が多く、また、職員が生活全般の支援、調理、対外関係、地域対応、 親や家族との対応、心理的ケア、自立支援、事務金銭管理など多様な役割をこなすため、 職員の力量が問われる。.

(8) 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. 86. ・新人の育成が難しい。. ・ホーム内のできごとが周囲に伝わりにくく、閉鎖的あるいは独善的なかかわりになる危 険性がある。. ・人間関係が濃密となり、子どもと深く関われる分、やりがいもあるが、職員の心労も多 い。. ・小規模化した当初は、集団内で押さえられていた子どもの感情が表に出やすくなり、落 ち着くまでは、衝突も増える。. ・感情の起伏が激しく、暴力、自傷、非行があるなどといった深刻な課題を持つ子どもが いる場合は、少人数の職員では対応が難しく、また、少人数の子ども集団の中で、その 集団の全体とその集団に属する他の子どもへの影響が大きい。 ・家庭的養護のため、職員に調理や家事の力が求められる。. ・従来の配置方法では、宿直回数が多くなりがちで、勤務時間が長くなりがち。 <対応>. ・小規模化・地域分散化を進めるに当たって、課題の大きい子どもについては、職員体制 の厚い本園で支援するなど、本園と分園の特徴を生かしてそれぞれの児童にふさわしい 支援を行う。. ・児童養護施設の小規模化・地域分散化は、同時並行して本体施設に多様な支援機能を拡 充・統合しながら、総合的に進めることが必要である。本体施設による総合的な支援体 制づくりが、小規模化・地域分散化の前提となる。. 2)心理学的視点からの懸念一「課題が大きい子ども」への対応一 上記の小規模化の意義はたしかにその通りである。しかし臨床心理学的な視点から見ると、 課題の大きさに懸念が残る。. 臨床心理学の世界には、「無意識」の存在を仮定して、こころの在りょうをみていく分野 がある。無意識は「意識過程だけをみていては解けない現象が少なくないために立てられた. 有意義な仮説」であり、「力動的な力をもった実在的なものとして確認されている」(前田、 1994)。その「無意識」の力動的な力(ダイナミクス)に着目して、こころの構造や機能に ついて研究していったのが精神分析であり、それが自我心理学派や様々な対象関係論学派ヘ と発展していっており、今なお"こころ"について、また治療論について盛んに研究がなさ れている。. その中で「自我や対象関係の発達程度や病識などの精神病理的な側面に基づく『病態水準 論』というとらえ方が登場」(森・桑原、 1992)した。ごく簡単にいえぱ、"こころのトラブ ルのレベル"と言えようか。精神病・ボーダーライン(境界例)・神経症という3つの水準 に分けられ、それらは人格構造のありかたも違うと考えられている(こころが健康な人たち.

(9) 土屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 87. は、神経症水準に含まれる)。そして様々な問題や症状を発症するのは思春期以降ではあるが、 その基礎となる人格構造はすでに乳幼児期や学童期に形作られている。. 人格構造についての詳しいことは専門書に譲りたいが、乳幼児期における不適切な養育が 人格形成に悪い影響を与えることは、誰の目からも明らかであろう。虐待など過酷な環境の 中で育つと、ボーダーライン水準や精神病水準の人格構造になってしまうことがある。精神 病レベルで幻覚・妄想などの症状が発症した場合には精神科での投薬治療ヘとつなげること ができるだろう。しかしボーダーライン水準はある程度の現実検討能力が維持されてぃるた め、医療にはつながりにくい。しかし神経症水準とはありょうが違うため、対人関係におい. て様々な棚語が発生する。ボーダーライン水準の児童は、「原初的防衛機制」」という心のメ カニズムを使って"無意識"に、不安や苦痛に結びつく現実を否認したり、他者を理想化 したり逆にこき下ろしたりして、 a11-or・nothing の思考で周囲を振り回すこともあるだろう。 逆に強い不安から相手の気持ちを先取りして満たそうとし、支配される役回りを取ってしま うこともあるかもしれない。. 人生早期の過酷な体験の中で自分のこころが壊れてしまわないように、自分を守るべく無 意識に作られてきた特殊なありょうだが、それでは相手の立場に立って思いを馳せる能力 や、心から「ありがとう」「ごめんなさい」と思う能力が芽吹いてこない、という問題がある。 つまり当たり前の人間関係、信頼をべースにした対等な人問関係を育む士台ができていない 状態なのである。そういう子どもたちには「あたりまえの生活」を保障しても、それを当た り前に感謝して取り入れていってはくれない。一般の人が当たり前と思、う人間関係を築けな い。それ故にケアワーカーとの間で棚語が生じることも多々あるだろう。(ただし、表面的 な事象にとらわれ、間違った色眼鏡で児童を見ないよう気をつける必要がある。例えば"自 分の非を認めない"という児童がいたとしても、それは神経症水準でもボーダーライン水準 でも起こりうることであり、それだけでは判断がつかない。その行為の背景にある人格構造 のありょうを丁寧にみていく必要がある)。. そういう子ども達のことを、社会的養護専門委員会の報告書では「感情の起伏が激しく、 暴力、自傷、非行があるなどといった深刻な課題を持つ子ども」とか「課題の大きい子ども」 と認識されていると推測される。神経症水準であっても対応に苦慮することはあるし、知的 障害や発達障害などがあれば、また違った課題を抱えており、そういった子ども達も「課題 の大きい子ども」に含まれているだろう。ただ施設の中で生活を共にしていくとなると、ボー. ダーライン水準の児童との関係性の構築や、その児童が思春期に入ってから表出する様々な 行動化が一番「課題が大きい」と感じられるのではないだろうか。そしてそのような「課題 の大きい子ども」が一人でも小規模施設に入ることの危険性を一番強く感じているのは現場 にいる人間であろう。. ボーダーライン水準の「課題の大きい子ども」に対応するには、経験豊富な力量のあるケ.

(10) 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. 88. アワーカーであっても一人では対応が難しく、また相当なエネルギーを奪われる。ましてや 力量の乏しいケアワーカーが当たり前の人間関係が成り立たないところに一人孤立した状況 で置かれた場合、子どもたちと"あたりまえ"の信頼関係が築けないのは当然で、性や暴力 や力関係によって支配し又は支配される"濃密な"関係性に陥っていってもおかしくないの である。. また、小規模化されれば保護者対応もケアワーカーが一人でしなければならなくなる。保護 者がボーダーライン水準の場合、対応に苦慮することも当然起こるだろう。大舎制の場合は そういった保護者に対しては、生活処遇に関わっていない経験豊富な主任ケアワーカーや管 理職が根気強く対応し、現場のケアワーカーは子どものことに専念できるが、小規模化され. た場合、そのような支援体制を組めるかどうかは心晒肋巧是る点である。本体施設から離れた 立地であれば、現場の緊急性やひっ迫感は伝わらず、それに物理的な距離も加わって、支援 が行き届かない可能性も十分に考えられる。子どもへのケアが行き届かなくなるだけではな く、ケアワーカーが心身の調子を崩す可能性があることも忘れてはならない。 つまり、小規模施設に「課題の大きい」子どもが措置されたり、「課題の大きい」保護者 と対応せねばならない状況に陥ると、少人数の施設では抱えきれずに崩壊しかねない危険性. をはらんでいると言えよう。これに子どもの発達障害や知的障害などの器質的要因も勘案し なければならず、心理的視点に立つと、小規模化していくに当たってはこころの問題につい て相当よく見極め、対応しなければならないと感じさせられる。 小規模化に当たっては、「職員を孤立させない組織運営の方法などをとる必要がある」と. 厚生労働省も雇児発1130第3号の通知の中で言及している(厚生労働省、 2012)が、まさ にその通りである。社会的養護専門委員会も課題に対する対応として「児童養護施設の小規 模化・地域分散化は、同時並行して本体施設に多様な支援機能を拡充・統合しながら、総合. 的に進めることが必要である。本体施設による総合的な支援体制づくりが、小規模化・地域 分散化の前提となる」と報告書で述ベている。この点を忘れてはならないと筆者は強く感じ ている。. また「小規模化・地域分散化を進めるに当たって、課題の大きい子どもについては、職員 体制の厚い本園で支援するなど、本園と分園の特徴を生かしてそれぞれの児童にふさわしい. 支援を行う」必要があると書かれている通り、「課題の大きい子ども」を引き受ける本体施 設の方のサポートも相当強化する必要があることも強調しておきたい。. 6.心理的援助の現状と課題 1)「本当の支援」とは では次に、現在の児童養護施設の現状について報告しながら、児童養護施設、将来的には 小規模化が進んだ後の施設本体における心理的援助について少し考えてみたい。.

(11) 士屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 89. 「われわれがこの15年に成果を上げた早期発見と初期対応は、支援の入り口に子どもと親 を誘う作業であり、ここから本当の支援が始めるはずである」と小林(2007)は言ってぃた が、「本当の支援」とは何だろうか。. 社会的養護の基本理念は「子どもの最善の利益のために」「社会全体で子どもを育む」 ことであり、社会的養護の原理としては、以下の5つが挙げられている(厚生労働省、 2014):①家庭的養護と個別化、②発達の保障と自立支援、③回復をめざした支援、④家族 との連携・協働、⑤継続的支援と連携アプローチ、⑥ライフサイクルを見通した支援。これ らがまさに、支援の入り口を切り開いてくれた先陣の後に続く「本当の支援」にあたるもの と思われる。心理職員である筆者は③の「回復をめざした支援」に注目したい。 「回復をめざした支援」とは「虐待や分離体験などによる悪影響からの癒しゃ回復をめざ した専門的ケアや心理的ケアが必要。安心感を持てる場所で、大切にされる体験を積み重ね、. 信頼関係や自己肯定感旧尊心)を取り戻す」とある(厚生労働省、2014)。では実際、心 理的ケア・援助がどの程度なされているだろうか。 心理治療に関しては、治療ができるだけの安定した枠組みの中でなされる必要があり、そ. れを実施する施設として「情緒障害児短期治療施設(以下、情短施設)」がある。しかし表 2 を見てのとおり、施設数は全国たった38か所、定員は1,フ79人である(ちなみに大阪府に は「希望の杜」「あゆみの丘」「ひびき」の3か所、大阪市は「大阪市立児童院」「弘済のぞ み園」の2か所、堺市はゼロである)。児童養護施設に入所している子どものうち半数以上 が被虐待児である現状の中、治療施設はかなり不足していると言えよう。心理的援助が必要 な子どもたちが児童養護施設にあふれているのである。. 2)児童養護施設における心理的援助の現状. 児童養護施設には、前述したように 1999年に心理職員が配置されるようになり、その2 年後、 2001年から予算が増やされ常勤嘱託として週5日勤務になったことを覚えている。. しかし吉村(2010)によると、「児童養護施設に心理職員を配置する場合の事務費加算額は 常勤職員配置が約530万円、常勤的非常勤職員配置が約330万円、非常勤職員配置が約220 万円である。この額は配置後ほとんど増額されていない」とのことである。. 筆者が現在勤務している泉ケ丘学院では、常勤職員1名に加え、筆者が月に数日勤務して 数名のセラピーとケースカンファレンスを担当する形態をとっている。「常勤配置をしてぃ. る全国の児童養護施設の多くが心理職員は1人であると思われる」と吉村(2010)が述ベて いるように、筆者が知っている他施設でも1人職であることが多く、常勤と非常勤の2名配 置をしているところはめずらしいと思われる。. セラピーは学校から帰って来てから後の時問に行われるため、時間には限りがある。中高 生になるとクラブ活動やバイトもあるので、平日夜や士日に実施せざるを得ない。限られ.

(12) 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年. 90. た時間や今までの経緯の中で、年齢が上がっていく子どもたちの生活に合わせながらスケ. ジュールを組むのはなかなか難しい。ボーダーライン水準の児童の治療は最低でも週1回、 できれば週に何回も入れたいところだが、ボーダーライン水準の児童であってもセラピーを 入れることができなかったり、隔週しか実施できないことも多い。そのため生活の中に溢れ 出すさまざまな課題に対して、心理職員は生活指導員と連携し、共に向き合いながら施設全 体で子どもを抱えているのが現状である。. しかし現在のように80名以上の入所児童がいるような大舎制であっても心理職員はほぼ 1名では厳しい。1名体制だと心理職員が孤立化してしまったり、独善的な関わりになって. しまう危険性があるのは、ケアワーカーの場合と同じである。心理職員同士で話し合ったり 相談したりする機会が少なく、個人的に自腹を切って専門家のスーパーバイズを受けるしか. ない。心理職員同士でも、置かれた施設の環境も全く違えば、心理療法のアプローチの仕方 も違うので、自分なりに試行錯誤しながら進めていくしかない。また心理職員が常勤になる と、他機関で経験を積むことが難しくなってくる。様々な研修に出ることはできても、実際 に心理査定を実施する経験や、大人の心理面接をする経験を持つことはできない。逆に筆者 のように非常勤だと、様々な経験があっても現場にコミットする力が弱くなり、どうしても 現場感覚から遠くなってしまう。現在のところは常勤と非常勤の両方のメリット・デメリッ トを補い合いながら、立場に応じてできる最善の努力をしているところであるが、心理的援 助が十分に足りているとはとても言えない状況にある。. 3)現状に対する対応策. このように、児童養護施設の現場では心理的援助が必要な児童に対して必要な心理職員の 数が圧倒的に少なく、また1名配置の難しさがあるのが現状である。小規模化が推進される. 現状の中では、児童養護施設本体が情短施設ヘと移行していくか、または児童養護施設ヘの 予算を増やして心理士配置を複数にし、セラピールームを増設するなど、心理的援助を拡充 していくことがネ士会的養護の原理を守る上で必須といえよう。. また心理士の専門性の質的な向上も必要とされる。神経症水準とボーダーライン水準を見 極め、それに発達障害や知的障害に対する知見も加えて、セラピーの対象児童を決め、適切 に心理療法を実施していくと同時に、指導員ヘのコンサルテーションもしていく、というか なり高度な専門性を養っていかなければならない。「子ども虐待の社会的発見」から約24年 経った今でも、この点については、まだかなりの改善の余地がある。「本当の支援」につな. げていくために、また「子どもの最善の利益のために」は、質量共にそろった心理的援助が まだまだ不足しており、今後、より充実されることが望まれる。.

(13) 土屋麻矢子:児童養護施設における心理的援助の現状と課題. 91. 文献 ・厚生労働省(2012):「児童養護施設等の小規模化及び家庭的養護の推進のために」 http://WWW mh1工刃.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/dl/working3Pdf (2014年10月17日取得). ・厚生労働省(2014):「社会的養護の課題と将来像の実現に向けて」 h杜P://WWW.mNW.go.jp/bunya/ kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_02P遜(2014年10月17日取得) ・小林美智子・松本伊智朗(2007):「子ども虐待一介入と支援のはざまでー」明石書店 全国児童養護問題研究会(編)(2002):「子ども虐待と援助一児童福祉施設.巳童相談所のとりく みー」ミネルヴァ書房 ・馬場禮子(2008):「精神分析的人格論の基礎」岩波学術出版社 ・前田重治(1994):「続図説臨床精神分析学」誠信書房. 森省二・桑原照茂(1992):病態水準論(精神病/境界例/神経症)「心理臨床大辞典」 P.716-721.培 風館 ・山縣文治(監修)(1998):「児童相談所で出会った子どもたち」ミネルヴァ書房 吉村譲(2010):「児童養護施設における心理療法担当職員の活動の場作りについて一岐阜県内の児. 童養護施設の心理療法担当職員ヘの面接調査から考えるー」東邦学誌、第39巻第2号,P.1330.

(14) 92. 近畿大学臨床心理センター紀要第7巻 2014年.

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参照

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