2 人 工 知 能 31 巻 1 号(2016 年 1 月) 本特集では,平成 26 年度に採択された,新学術領域 研究(研究領域提案型)「認知的インタラクションデザ イン学∼意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応 用∼」(代表:植田一博)の研究目的,研究計画,およ び現在の研究の状況を紹介する.本領域では,他者モデ ルによるユーザの心的状態推定という認知科学的手法を ベースに,ユーザに自然に適応する人工物を設計するた めのデザイン原理ならびに基礎技術の総称を,認知的イ ンタラクションデザイン学と定義する. 本領域研究を提案するにあたって,人と人とがコミュ ニケーションする際には,対話相手が,どのような状況 下だと,どのように発言・行動するはずだという,対話 相手の行動を理解・予測するための心的モデル,すなわ ち他者モデルが重要な役目を果たしていると考えた.初 対面同士の会話であれば,お互いに対話相手に対する他 者モデルをもっていないため,会話がかみ合わないこと もあり得る.他者モデルによるこのようなインタラク ションの円滑化という現象は,人同士のコミュニケー ションのみならず,人と伴侶動物,あるいは人と人工物 との間のインタラクションにも見られると考えている. 本領域研究では,他者の行動を理解・予測するため に必要で,状況に応じて変化する他者モデルを認知科学 的に検討し,それを人に自然かつ持続的に適応できる人 工物の設計と構築に応用することで,認知的インタラク ションデザイン学の構築を目指す.特に,人対人,人対 動物,人対人工物に共通する認知プロセスを解明し,他 者モデルをアルゴリズムレベルで実現することを目指し ていく. 本特集では,本領域研究の研究内容を紹介することを 目的に,6 件の解説論文が掲載されている.すでに述べ たように,本領域研究では「人対人」,「人対動物」,「人 対人工物」に共通するプロセスの解明を目指しており, 現時点ではそれぞれの研究の立場からアプローチを試み ている.まず読者の方々が興味をお持ちの「アプローチ」 に基づく解説論文から読み始めていただき,最終的に, 本領域研究の全体像をご理解いただければ幸いである. 以下に,各解説論文の「アプローチ」とその概要を簡 潔に紹介する.最初の論文は,植田ら総括班のメンバに よる本領域研究の概要と,五つの研究計画班が共通に用 いることができる共通実験ツールについて紹介を行って いる.まず本論文をお読みいただければ,本領域研究の 概要をご理解いただけると考える. 次に,「人対人」のアプローチに基づく 2 件の論文が 掲載されている.まず植田らによる「成人間インタラク ションの認知科学的分析とモデル化」では,成人間のイ ンタラクションにおける非言語情報に注目し,他者との 関係性の形成や他者の意図や欲求の推定に関する研究を 積極的に進めている.一方,長井らによる「子供─大人 インタラクションの認知科学的分析とモデル化」では, 子供のインタラクションに焦点を当て,他者モデルやそ の相互適応およびその発達過程の解明を目指し,実際に 保育所などのフィールドでロボットなども用いながら精 力的に分析とモデル化を進めている. さらに,「人対動物」のアプローチに基づく,鮫島ら による「人─動物間における社会的シグナル」の論文が 掲載されている.本論文は,本領域研究の特徴でもある, 人と動物の間で交わされる非言語の社会的シグナルにつ いて,実際に人と犬,馬,猿のインタラクションにおけ る反応を定量的に計測し,分析および検討を行っている. これまで経験的に知られてきた人と動物の間の「絆」を, 科学的に(特にアルゴリズムとして)どのように定義でき るかを議論しており,今後の研究成果が期待されている. 最後に,「人対人工物」のアプローチに基づく 2 件の 論文が掲載されている.この 2 件の論文では,著者らが 積極的に開拓してきたヒューマンエージェントインタラ クション(HAI)研究の成果を基礎に,さらに今後の研 究の方向性について述べている.まず山田らによる「人 工物デザインのためのユーザ認知モデル構築とその応 用」では,ユーザの認知モデルを取り込んだインタラク ションデザインを目指しており,実際にエージェントや インタフェースのデザインと実装を行い,そこから得ら れた結果に認知科学的考察を加えることにより,さらな る研究の進展が期待される.また,今井らによる「人の 適応性を支える環境知能システムの構築」では,人工物 に対して人がもつ他者モデルに応じてサービスを行うシ ステムの設計論を確立することを目指している.具体的 には,人と人工物のインタラクションを,アンビエント モデル(部屋・建物が対象),身体化モデル(車椅子・ テレプレゼンスロボットなどが対象),他者モデル(自 律エージェント・ロボットが対象)の三つに分類し,そ れぞれの設計論の確立を目指している. 最初に述べたように,これらの「アプローチ」に基づ く研究成果は最終的には有機的に関連付けられ,研究目 標である「意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への 応用」が実現されることにより,新しい研究分野として の「認知的インタラクションデザイン学」が切り拓かれ ていくものと考える.
特集「認知的インタラクションデザイン学」にあたって(<特集>認知的インタラクションデザイン学)
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