社会に浸透する新たなコンピュータ/ネットワークの世界:16.ネットワークシミュレータの車車間通信システムモデルの機能と実行性能の比較
5
0
0
全文
(2) ネットワークシミュレータの車車間通信システムモデルの機能と実行性能の比較 16. デルとなっている.そのため,同一チャネルに干渉信号. ◉CSMA/CA モデル IEEE 802.11 に て 定 義 さ れ て い る CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access / Collision Avoidance)によるアク. が複数存在する場合や雑音の影響については考慮されて. セス制御では,送信キューにパケットがあり,かつ,他. いない.. の端末の送信によりチャネルが占有されていた場合に. 一方,ns-2ext では,複数の干渉信号や雑音を考慮し. は,そのパケット送信終了時から DIFS(11p の場合に. た SINR(Signal to Interference and Noise Ratio)を計算. は AIFS)とランダムバックオフ時間後に送信イベントを. し,SINR がある閾値を下回った時点で受信フレームを. スケジュールし,送信イベント発生時にチャネルが空き. 破棄するようモデル化されている.干渉の影響を考慮し. の場合に送信を開始する,といった処理が行われる.た. た受信モデルとなっているが,フレームに含まれるビッ. だし,送信キューにパケットが入れられた時点で,すで. ト誤りまでは考慮されていない.. にチャネルが DIFS 時間以上使用されていない状態だっ. 存在する他端末から送信された一干渉信号との受信電力 差に基づいて受信/損失を判断する簡略化された受信モ. QualNet や Scenargie の受信モデルはビット誤りも考. た場合には,DIFS +ランダムなバックオフ時間を待つ. 慮した受信モデルとなっている.フレーム受信中に新た. ことなく,即座に送信を開始することができる.. な信号が入ってくると,その時点で SINR を算出し,そ. ns-2std や QualNet では,パケット送信時に必ず DIFS. の SINR に対応するビット誤り率を BER テーブルから参. とランダムバックオフ時間を待つようにモデル化されて. 照する.SINR が変化するたびごとに,その SINR で受信. おり,標準に準拠した動作をさせるためにはこれらを修. していたフレームのビット数と BER よりフレームにエ. 正する必要がある.ns-2ext や Scenargie では,チャネ. ラーが含まれているかどうかをチェックし,最終的にフ. ルが空きであれば DIFS 後にバックオフすることなく送. レーム受信完了時にフレームにエラーが含まれていれば. 信できるようにモデル化がなされている.. フレームを破棄する.. ◉フレーム長・送信時間 ◉パケットキャプチャ. フレーム長は,フレームの送信時間(チャネルを占有. パケットキャプチャとは,ある信号を受信中に,より. する時間)に影響し,フレーム長が異なると衝突の発生. 強い電力で信号が受信機に到来した際に,その信号に受. 頻度やスループットなど通信の性能に大きく影響する.. 信を乗り換える機能のことである.これにより,車車間. ここでは,ペイロード長 100 バイトの UDP パケットを. 通信のように 100ms ごとにそれぞれの車が車両の位置. 送信する際の標準仕様のフレーム長を図 -1 に示し,そ. 情報をブロードキャストし,かつ渋滞時などの輻輳状態. れぞれのシミュレータがどのようにフレーム長を計算し. においても,パケットキャプチャによるフレーム受信率. ているかを述べる.. の向上が期待できる.. ns-2ext では,フレーム長を計算する際に,UDP ヘッ. ns-2std,および QualNet には,パケットキャプチャ. ダ(8 バイト) ,IP ヘッダ(20 バイト) ,LLC ヘッダ(8 バ. の機能は実装されていないが,ns-2ext および Scenargie. イト)を考慮せず,MAC ヘッダ(24 バイト)と FCS(4 バ. にはすでに実装されているため,そのまま利用可能で. イト)をデータ長に加え,さらに PLCP サービスビット,. ある.. PLCP tail ビット,OFDM シンボル長に合わせるパディン グを考慮し送信時間を計算する.ns-2std では,ns-2ext. ◉EDCA サポート. と同様に UDP ヘッダ,IP ヘッダ,LLC を考慮していな. 11p には,IEEE 802.11e で定義された EDCA(Enhanced. いのに加え,PLCP tail ビット,パディング bit も考慮し. Distributed Channel Access)によるアクセス制御が含ま. ていなく,また MAC ヘッダを 30 バイトとして計算し. れている.EDCA では,優先度ごとに送信キューを定義. ている.以降のシミュレータごとの比較評価を行うにあ. しているほか,Distributed Interframe Space:DIFS の代. たり,本稿では ns-2std,ns-2ext に共通して考慮されて. わりに Arbitration Interframe Space:AIFS(優先度ごと. いない UDP ヘッダ,IP ヘッダ,LLC の 36 バイトをデー. に定義されたフレーム間隔)が用いられる.ns-2std には. タ長にあらかじめ加えたうえで評価を行っている.. 標準で EDCA は含まれていないが,EDCA 拡張のユーザ. QualNet の標準設定では,LLC を考慮せずにフレー. コード. 8). が公開されており,それにより対応可能であ. ム長を計算するため,明示的に設定ファイルに LLC-. る.また ns-2ext でも EDCA はサポートされていないた. ENABLED YES と記述する必要がある.また,QualNet. め,独自に追加する必要がある.QualNet と Scenargie. では IEEE 802.11a のモデルを IEEE 802.11p のモデルに. は標準で EDCA をサポートしている.. 合わせるために,帯域幅,ビットレート,OFDM シン ボルあたりの送信時間,PLCP ヘッダ送信時間,SIFS 時 情報処理 Vol.51 No.1 Jan. 2010. 69.
(3) 特 集 社会に浸透する新たなコンピュータ/ネットワークの世界 適応変調部(BPSK 3Mbps R=1/2 ) PLCP Preamble 32 ㎲. 802.11 PLCP Padding FCS Tail bit bit 24bit 8bytes 20bytes 100bytes + UDP 8byte 4bytes 6bit OFDM シンボル の整数倍になるように PLCP サービスビット:16bit 10FDM シンボルあたりのビット数:24bit 調整 802.11MAC ヘッダ: 伝送レート:6Mbps:1シンボルあたり4 ㎲ 24bytes : 3Mbps :1シンボルあたり 8 ㎲. PLCP Header. 802.11 LLC IP Header Header Header. IP Payload data. 図 -1 IEEE 802.11p のフレーム構成. Data Rate. 標準仕様. ns-2std. ns-2ext. QualNet LLC:off. QualNet LLC:on. Scenargie. 3Mbps. 488㎲. 493.33㎲. 488㎲. 464㎲. 488㎲. 488㎲. 3Mbps 修正前. -. 397.33㎲. 392㎲. -. -. -. 6Mbps. 264㎲. 266.66㎲. 264㎲. 256㎲. 264㎲. 1 264㎲. 6Mbps 修正前. -. 218.66㎲. 216㎲. 232㎲. 244㎲. -. 表 -1 100 バイトの UDP パケット送信にかかる時間の修正前後における比較. アプリケーション. Rx. Interferer (IF) dIR. Tx dTR. 図 -2 シミュレーションのノード配置. CBR UDP ブロードキャスト (100 バイト 0.1 秒間隔). IEEE 802.11p データレート. 3Mbps. 送信電力. 100mW. Rx Sensitivity. -85dBm. アンテナ利得. 0dBi. パケットキャプチャ閾値. 10dB. 周波数. 5.8GHz. 電波伝搬. 自由空間(近傍)+ 2 波モデル(遠方). AIFS. SIFS + 2 SLOT TIME(= DIFS) 表 -2 シミュレーションパラメータ. 間,SLOT あたりの時間等の修正が必要となる.表 -1 に,. シミュレータごとの比較を行うにあたり,ns-2std,ns-. 100 バイトの UDP パケットを送信したときの各シミュ. 2ext ともに,キャリアセンス距離+1000m までの範囲. レータの修正前,修正後のフレーム送信時間を示す.. に存在するノードに対して受信イベントをスケジュール するようにソースコードを修正している.. ◉干渉信号の影響 ns-2std,ns-2ext ともに,デフォルトの設定では,あ るノードが送信を行った場合に,その信号の受信イベン. ■■ シミュレーション結果の比較と実行. 性能. トはキャリアセンス距離 +5m の範囲に存在するノード にしかスケジュールされないようハードコーディング. それぞれのシミュレータのモデル修正後において,シ. されている.一方,Scenargie や QualNet では,受信信. ミュレーション結果が一致するかどうかを検証するた. 号がある閾値(今回の設定では両方のシミュレータとも. めに,3 ノードにおける隠れ端末が発生するシナリオ. に -111dBm と設定している)以上のすべての信号を受信. (図 -2) ,および,十字路交差点の 4 方向の道路上に 8 ~. イベントとしてスケジュールするようにモデル化されて. 400 ノードを並べて配置したシナリオを作成し,それぞ. おり,キャリアセンス閾値以下の微弱な信号であっても,. れシミュレーションを行った.シミュレーションに用い. この閾値以上であれば干渉として考慮している.後の. たパラメータを表 -2 に示す.詳しいシミュレーション条. 70. 情報処理 Vol.51 No.1 Jan. 2010.
(4) ネットワークシミュレータの車車間通信システムモデルの機能と実行性能の比較 16. dTR [m]. Total Number of Frames Successfully Delivered. ns-2std: tdiff = 200μs. 0. 0. dIR [m]. dTR [m]. ns-2ext: tdiff = 200μs. Number of Simulation Nodes 図 -4 総パケット受信数. 件,考察等は文献 1) を参照していただきたい.ここでは,. 3 ノードでのシナリオにおいて,送信機(Tx)からの受信 機(Rx)へのパケット受信率に注目して解説する.図 -3 0. にモデルごとの受信率を示す.本評価シナリオでは,干 0. dIR [m]. 渉源(IF)が Tx よりも Tdiff = 200 μs だけ先に送信を開始 するシナリオになっている.ns-2std は受信モデルの実 装がほかと違うため干渉源がある距離以上離れるとまっ. QualNet: tdiff = 200μs. たく影響を受けない結果となっているが,ns-2std 以外 のモデルについてはほぼ同様に干渉の影響も現れている ことが分かる.また,ns-2ext や Scenargie ではパケッ. dTR [m]. トキャプチャをサポートしているため,QualNet では受 信できていない,干渉源より送信源が近い領域(受信率 のグラフが V の字型になっている付近)においてもパケ ットを受信できていることが確認できた. 0. 交差点におけるシナリオにて,ノード数を 8 から 400 0. dIR [m]. まで変化させたときのパケット受信特性(図 -4)は,ns-. 2ext,QualNet,Scenargie においてはほぼ同じパケッ ト受信特性が得られることが分かった.また,シミュ. Scenargie: t diff = 200μs. レーション終了までに要したシミュレーション実行時 間(図 -5)と最大メモリ量(図 -6)の比較を見ると,ノー ド数が増えるに従ってシミュレーションに要する時間. dTR [m]. やメモリ量に大きく差が出てくることが分かる.本評 価ではメモリ使用量,シミュレーション時間において. Scenargie が最も良い結果となった.. 0. 0. dIR [m]. 図 -3 3 ノードにおけるシミュレーション結果. 情報処理 Vol.51 No.1 Jan. 2010. 71.
(5) Simulation Time (s). Memory usage (Kbytes). 特 集 社会に浸透する新たなコンピュータ/ネットワークの世界. Number of Simulation Nodes. 図 -5 シミュレーション実行時間. ■■ まとめ 本稿では,文献 1)において行った ns-2,QualNet,. Scenargie の 3 シミュレータの機能およびモデル化の比 較分析について解説し,車車間通信のシミュレーション を行う上で注意すべき点や考慮すべき点について述べた.. Number of Simulation Nodes 図 -6 メモリ使用量. 7)Chen, Q., Schmidt-Eisenlohr, F., Jiang, D., Torrent-Moreno, M., Delgrossi, L. and Hartenstein, H. : Overhaul of IEEE 802.11 Modeling and Simulation Architecture in NS-2, The 10th ACM International Workshop on Modeling Analysis and Simulation of Wireless and Mobile Systems (MSWiM), Greece, pp.159-168 (2007). 8) W i e t h ö l t e r, S . a n d H o e n e, C . : A n I E E E 802.11e E D C A a n d CFB Simulation Model for ns-2, http://www.tkn.tu-berlin.de/ research/802.11e_ns2/ (平成 21 年 11 月 2 日受付). 今後のシミュレータを用いた評価の参考にしていただけ ると幸いである. 参考文献 1)大和田,他:車車間通信シミュレーションの複数のネットワークシミ ュレータによる比較評価,情報処理学会 DICOMO2009 (July 2009). 2) ns-2, http://www.isi.edu/nsnam/ns/ 3) QualNet, http://www.scalable-networks.com/ 4) Scenargie, http://www.spacetime-eng.com/ 5) IEEE Draft Standard for Information Technology, Part 11 : Wireless LAN Medium Access Control( MAC )and Physical Layer( PHY ). Specifications, Amendment 7 : Wireless Access in Vehicular Environments, IEEE P802.11pTM/D5.01 (Jan. 2009). 6) RC-006, http://www.itsforum.gr.jp/Public/J7Database/. 72. 情報処理 Vol.51 No.1 Jan. 2010. 大和田泰伯(正会員) [email protected] 2007 年新潟大学大学院自然科学研究科修了,博士(工学) .同年 新潟大学災害復興科学センター特任助教を経て 2008 年(株)スペ ースタイムエンジニアリング設立,代表取締役に就任.現在,ネッ トワークシミュレータ「Scenargie」の開発や ITS 関連の通信システ ム評価技術に関する研究開発に従事..
(6)
図
関連したドキュメント
私たちの行動には 5W1H
しかし何かを不思議だと思うことは勉強をする最も良い動機だと思うので,興味を 持たれた方は以下の文献リストなどを参考に各自理解を深められたい.少しだけ案
① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを
駐車場 平日 昼間 少ない 平日の昼間、車輌の入れ替わりは少ないが、常に車輌が駐車している
■使い方 以下の5つのパターンから、自施設で届け出る症例に適したものについて、電子届 出票作成の参考にしてください。
注1) 本は再版にあたって新たに写本を参照してはいないが、
関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化
鉄道駅の適切な場所において、列車に設けられる車いすスペース(車いす使用者の