学校における食育の推進と栄養教諭の役割
The Role of Nutrition Teacher for Promotion of Dietary Education in Schools
大森 玲子
OHMORI Reiko1.はじめに
平成17年7月15日に「食育基本法」が施行され、同法に基づき平成18年度から向こう5年間を対象 とした「食育推進基本計画」が決定(平成18年3月31日)された。この計画において、小学校をはじ めとする学校等においても食育の推進に取り込むよう明記され、今あらためて学校現場における「食 に関する指導」が重視されている。これまで、学校の教育活動として「食に関する指導」は文部科学 省が示した平成4年の「学校給食指導の手引」、平成12年の「食に関する指導参考資料」などをもと に行われてきた。平成17年度には、学校における食育を推進するために、教育的資質と栄養に関する 専門性を兼ね備えた「栄養教諭」の配置が開始された。しかしながら、「栄養教諭」とは何か、なぜ 設置するに至ったのか等、よく理解されていない部分も多い。本論文では、子どもを取り巻く食環境 の変化、栄養教諭誕生の経緯と求められる役割、学校給食の意義、中学校で実施したアンケート調査 について述べたい。2.子どもを取り巻く食環境等の変化
(1)朝食欠食状況
日本スポーツ振興センターが 実施した「平成17年度児童生徒 の食生活等実態調査」1)の結果 を図1に示す。朝食をほとんど 食べないと回答した子どもは小 学校男子4.1%、小学校女子2.8%、 中学校男子5.8%、中学校女子4.5%であった。同センターの調査は平成7年度、平成12年度と行われて きたが、小学校全体では2.7%→4.1%→3.5%、中学校全体では4.5%→5.2%→5.2%と、朝食抜きは改善さ れつつある。厚生労働省が実施した「平成17年国民健康・栄養調査」の結果2)からも同様の変化が 認められた。食育推進基本計画では、朝食を欠食する子どもの割合を平成22年度までに0%とする目 標を掲げており、継続的な取り組み運動を期待したい。 朝食は、英語のbreakfastにも表されるように「空腹を断つ」という生理的欲求を満たすだけでな く、生体リズムを整え、望ましい生活習慣を作り出すことにも影響を与える。毎日朝食を摂る子ども 図1 児童生徒の朝食摂取状況 平成18年1月 小学5年生6205名、中学2年生5971名を対象に実施ほど「成績が良い」という調査結果が報告されている3)が、これはしっかり朝食を摂ることのでき るような望ましい生活習慣が身に付いている結果であることを忘れてはならない。
(2)孤食の状況
「孤食」とは、家族が共に暮らしている 環境下であっても一人で食事を摂るような 状態をさす。「平成17年国民健康栄養調査」 の結果2)をはじめ、様々な調査から、家 族で食卓を囲む機会が漸減している。内閣 府がまとめた食育白書4)のなかでも家族 揃った食事の機会が減少していると示され ている(図2)。我々が行った調査5)では、朝食を一人で摂っている子どもほど嫌いなものがある割 合が高かった。食卓はコミュニケーションの場であるとされるが、食事の大切さや食べ物のありがた さを食卓での会話を通じて説くことにより、いわゆる偏食という食の問題を解決するきっかけにも繋 がるのではなかろうか。(3)肥満および痩身傾向児の割合
「国民健康・栄養調査」2)や「学校保健統計調査」6)から、体型が「ふつう」の子どもの割合が 減少し、「ふとっている(肥満・ふとりぎみ)」か「やせている(やせぎみ・やせすぎ)」両極端の子 どもが多くなっていることが示された。児童生徒の頃に培われた食習慣は成人後の食習慣に反映され ることがわかっている。誤った食行動によって生活習慣病等の健康被害がもたらされることのないよ う、食や健康に関する正しい知識と情報を子ども達に示すことが大切である。(4)食の外部化率
食材料を購入し、家庭で調理し食事を摂ることを「内食」というのに対し、家の外で食事を済ます ことを「外食」という。「食の外部化率」とは、食料消費支出に占める外食の割合(外食率)と惣 菜・調理食品の割合を合わせたものをさす。近年、お惣菜や調理済み食品をスーパーやコンビニ等で 購入し、自宅や職場で食事する人もみられるが、このような形態を「中食」(なかしょく)という。 食育白書4)および外食産業総合調査研究センターの資料7)によれば、昭和50年の食の外部化率は 28.4%(外食率27.8%)であったが、平成15年には44.5%(35.9%)と増加が著しい。外食はバブル期に 発展し急増したものの、平成2、3年以降、増加はみられない。それにも関わらず、食の外部化率が 増加し続けている理由は、「中食」が家庭等に定着し利用されていることに他ならない。3.栄養教諭誕生の経緯と配置状況
昭和29年に制定された「学校給食法」では当初、学校給食に関わる栄養士の職は明確にされていな かった。昭和33年には「学校給食」が「学校行事等」として学習指導要領の中に位置づけられ、主に 図2 家族揃って夕食を摂る頻度学級担任による「給食指導」が教育の一環として始まった。昭和36年「1校1名の学校栄養士の配置、 身分は栄養教諭」を活動目標とする「全国学校栄養士協議会」が設立されたが、当時は、給食に係る 栄養士であっても単に「給食を作るだけの人」という認識であり、栄養の知識を持つ専門家として見 られていなかったと思われる。昭和43年および44年の小学校・中学校学習指導要領の改訂で「学校給 食」は「特別活動」の中の「学級指導」に位置づけられ、学校給食を通じた児童・生徒への食に関す る指導が明記されるようになった。昭和49年、「学校給食の栄養に関する専門的事項をつかさどる職 員」(「学校栄養職員の職務内容の準則(案)」)として学校栄養職員が位置づけられるとともに、「公 立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」、いわゆる「標準定数法」が改正 され、全国に学校栄養職員が配置された。昭和61年には文部省体育局長より「学校栄養職員の職務内 容について」の通知があり、より明確に学校栄養職員の職務内容が記された。しかしながら、教員と しての免許状がないために、この通知では教育現場における指導、つまり学校給食指導における学校 栄養職員の位置づけは「担任教諭等を補佐する」に留まっている。 平成に入り、学習指導要領は2度改訂され、「学校給食」は「特別活動」の中の「学級活動」に位 置づけられた。2.子どもを取り巻く食環境等の変化で述べたような児童生徒の食の問題が表面化す ると同時に、心や体の健康問題も指摘されてきた。平成9年、保健体育審議会で初めて栄養教諭に関 係する答申がなされ、「食に関する指導等を行うのに必要な資質を担保するため、新たな免許制度の 導入を含め、学校栄養職員の資質向上を検討する必要がある」と提言された。平成10年、「教育職員 免許法の一部を改正する法律」及び「『食』に関する指導の充実について(通知)」を踏まえ、学校栄 養職員の専門性を教育の場に活かすことができるよう、特別非常勤講師として任用することが可能と なった。その後、子どもの食や健康に関わる中央教育審議会答申を数度経て、平成16年1月答申「食 に関する指導体制の整備について」の中で「栄養教諭制度の創設」が提言され、栄養教諭設置にむけ ての法整備が開始されるに至った。 平成17年4月1日から全国の義務教育諸学校等に栄養教諭を配置することができるよう、平成16年 5月「学校教育法等の一部を改正する 法律」が公布された。この法律は図3 に示すように、関連規則の改正を含め 10にも及ぶ法律等の改正を示唆し、学 校栄養職員に教育的資質を持たせた栄 養教諭誕生へと導くものとなった。 栄養教諭誕生の背景には、食に関す る誤った知識や情報の氾濫、家庭にお ける教育力の低下等による子ども達の 食の乱れ、それに伴う健康被害がある。 図3 学校教育法等一部改正法の全体図
児童生徒の食の問題を解決し、生涯にわたって望ましい食生活を送ることができれば、生活習慣病な どの健康問題も低下するであろう。そのためには、家庭はもとより、学校現場でも正しい知識や情報 を示し、子ども自らが食を選択する場面で正しく判断できるような「食の自己管理能力」を養うこと が必要である。 平成19年7月11日、文 科省スポーツ・青少年局 長および初等中等教育局 長からの文書(19文科ス 第156号)資料によれば、 平成17∼19年度の栄養教諭の配置状況は表1の通りである。平成19年9月3日に行ったメール調査の 回答により、平成19年度に追加配置を予定していた鳥取県で3名、石川県で7名の採用が確認された ため、現在では東京と静岡を除いた45道府県、984名の栄養教諭が活躍している。文部科学省は栄養 教諭を円滑に配置できるよう、義務教育諸学校に3年以上勤務する学校栄養職員に対し、免許状の授 与要件を軽減する措置を講じている。先の文書(19文科ス第156号)では、栄養教諭の配置促進の必 要性が示されると同時に、義務教育諸学校の学校栄養職員に限られていた軽減措置を、幼稚園や高等 学校(特別支援学校を含む)の給食に関わる職員、さらには教育委員会事務局の給食実施指導者にま で拡大することが記された。 しかしながら、栄養教諭の配置に関しては各都道府県の判断に委ねられており、配置の有無や数に 規定はない。例えば、財政が逼迫している自治体では積極的な配置を見合わせる状況も起こりうる。 また、学校給食が義務法ではない、あるいは学校栄養職員が全校に配置されていない等の理由により 配置を見合わせる場合も考えられる。上述した静岡県へのメール調査から、学校栄養職員を栄養教諭 へ配置替えすることにより、現状以上に業務が増加し、安全・安心な学校給食の提供に支障が出ると いう懸念も把握できた。また、東京都では、学校栄養職員制度と栄養教諭制度を併用していく場合、 両者の職責や業務内容等の違いを明確化する必要があり、モデル地域を設定して栄養教諭を配置し検 討を進めていく予定であることが分かった。なお、東京都では平成18年2月「公立学校における食育 に関する検討委員会」を設置し、8月には報告書を取りまとめた。その後、各校に「食育リーダー」 を設置するなど独自の取組により食育の推進を図りつつ、今後はこれらの体制に基づいた栄養教諭の 導入を行っていくとのことである。 食育推進基本計画の中でも、学校現場で食育を推進する中核的役割として栄養教諭が据えられてい るが、配置の有無に関わらず、学校現場において食に関する指導を行うことは必須の状況にある。栄 養教諭のみならず、教員全体が食や健康に関する正しい知識を有し、各方面との連携を強化して子ど も達への食教育を体系的かつ継続的に行うことが必要とされよう。 表1 栄養教諭の配置状況*1
4.栄養教諭の役割
学校栄養職員と栄養教諭の職務内容における決定的な違いは、直接、児童生徒への食に関する指導 を行えるか否かである。学校給食法によれば、学校栄養職員の職務内容は「学校給食の栄養に関する 専門的事項をつかさどること」である。一方、栄養教諭の職務内容は学校教育法で「児童の栄養の指 導及び管理をつかさどること」と規定されている。その職務内容のうち、「栄養に関する指導」には、 ①児童生徒に対する栄養に関する個別的な相談指導、②学級担任、教科担任等と連携して関連教科や 特別活動等において食に関する指導を行うこと、③食に関する指導に係る全体的な計画の策定等への 参画などが含まれること、「栄養に関する管理」には、①学校給食を教材として活用することを前提 とした給食管理、②児童生徒の栄養状態等の把握、③食に関する社会的問題等に関する情報の把握な ど、が含まれることとされている。栃木県においても平成19年度から栄養教諭を配置するにあたり、 職務が円滑に遂行されるよう「栄養教諭職務体制」が定められ、平成18年度末、学校関係者に通知が なされている。 食育推進基本計画のなかでも、「学校における食育の推進のためには、子どもが食について計画的 に学ぶことができるよう、各学校において食に関する指導に係る全体計画が策定されることが必要で あり、これを積極的に推進する。特に、その際には、学校長のリーダーシップのもとに関係教職員が 連 携 ・ 協 力 し な が ら、栄養教諭が中心 となって組織的な取 組を進めることが必 要である」と示され ている。つまり、食 に関する指導が学校 教育の場で効果的に 行えるよう、図4に 示すような「食教育 の コ ー デ ィ ネ ー タ ー」的役割が栄養教諭には期待されている。5.学校給食の意義
平成19年3月に文科省から出された「食に関する指導の手引」8)には、食育を推進するうえで、 学校給食を生きた教材として活用することが効果的であると示されている。我が国の学校給食は、明 治22年(1889年)、山形県鶴岡市の私立忠愛小学校において、貧困児童を対象に無償で給与されたの が始まりとされている。今日のように、学校給食が教育活動として位置づけられたのは、昭和21年12 図4 食に関する指導の充実と栄養教諭に期待される役割(文部科学省作成)月に発せられた「学校給食実施の普及奨励について」の文部、厚生、農林三省次官通達による。昭和 22年には全国的に拡大され、宇都宮市では、みそ汁等補食給食が小学校7校において、昭和25年には 中学校4校において実施された。昭和29年、「学校給食法」が制定され、学校給食の法的根拠が明確 になったことに伴い、完全給食が実施され始めた。宇都宮市では昭和31年に横川中央小で初めての完 全給食が始まり、昭和39年には中学校で初めて陽西中で完全給食が開始された。 学校給食は日々1単位時間程度をあて、年間にわたり180∼190回も行われている。前述したように、 現行の学習指導要領では「特別活動」の中の「学級活動」に位置づけられている。しかしながら、 「特別活動」の授業時数については、小学校で35時間(第1学年では34時間)、中学校で35時間とされ、 学校給食については特別活動の標準授業時数には含めないと示されている。このことにより、学校関 係者のなかには、給食の時間は教育課程に位置づけられた教育活動ではないかのように受け止める人 も存在するようである。給食の時間における指導は標準時数には含まれないものの、教育課程上の学 表2 食に関する指導の目標と給食の時間における食に関する指導内容との関連8)
級活動として、また今後は食育活動の時間として非常に大切な時間であることを忘れてはならない。 食に関する指導の目標は「中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程部会 健やかな体をはぐ くむ教育の在り方に関する専門部会での審議の状況」を踏まえ、次のように6つ設定されている。 ①食事の重要性、食事の喜び、楽しさを理解する、②心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄 養や食事のとり方を理解し、自ら管理していく能力を身に付ける、③正しい知識・情報に基づいて、 食物の品質及び安全性等について自ら判断できる能力を身に付ける、④食物を大事にし、食物の生産 等にかかわる人々へ感謝する心をもつ、⑤食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を身に付け る、⑥各地域の産物、食文化や食にかかわる歴史等を理解し、尊重する心をもつ。これらの目標を達 成するために、給食の時間における指導内容との関連を整理すると表2のようになる8)。 学校給食を生きた教材として活用するためには、①栄養バランスのとれた魅力あるおいしい給食で あること、②十分な衛生管理のもと安全・安心な給食であること、③教科等と関連した献立作成とな ること、④選択できる献立の工夫を行うこと、⑤個に応じた献立の工夫を行うこと、⑥地場産物や郷 土食等を活用した献立の工夫を行うこと、⑦国際理解のための献立の工夫を行うこと、これらのこと に留意するよう示されている8)。例えば、栄養教諭と学級担任・教科担任が連携し、教科で学習する 内容や時期を把握し、その情報を踏まえて、給食の時間に確認できるよう、献立計画に反映させるこ とが考えられる。また、現在の学校給食は「児童又は生徒一人一回当たりの平均栄養所要量の基準」 (「学校給食実施基準」文部省告示第90号)をもとに献立作成が行われるが、これは、性別や体格等を 無視した一律の基準となっている。栄養教諭の個別栄養指導の場として、自分の健康のためには、何 をどれだけ食べたらよいのかを実践的に把握させることも可能であろう。 栃木県における食育推進基本計画「とちぎの食育元気プラン」のなかで様々な指標が示されている が、学校に関わるものを表3にまとめて示す。 学校給食のなかで地域農産物を活用する、つまり地産地消運動が推進されている。栃木県は食糧自 給率81%(平成16年度)と全国第10位にランキングする。(ちなみに全国平均は40%と、先進諸国のな かで日本はとても低い)。この環境を是非とも活かし、生産者と繋がりが持てる充実した学校給食を 展開したい。 表3 食育の推進における主な指標(学校関連)
6.宇都宮市内中学校における調査
食育を推進した結果、将来的にどのような変化が生徒に現れるのか検出するための基礎資料とすべ く、学校給食等に関する調査を宇都宮市内の中学校にて行い、現状を把握することとした。(1)調査方法
宇都宮市の都心部にあるA中学校およびB中学 校、郊外部にあるC中学校およびD中学校の2年 生438名を対象とした(表4)。調査は平成18年10 月下旬、各校の家庭科教諭を通じて生徒に調査票 を配布し、無記名式で実施した。解析はエクセル 統計2006(SSRI社)を用い、2項目間の関連性についてはχ2 検定を行い、危険率5%未満をもって 有意とした。(2)結果と考察
回収率は100%であった。 【朝食について】 朝食の摂取状況をみると(図5)、全 体として82%近くの生徒が「毎日朝食を 食べる」と回答しており、この結果は 日本スポーツ振興センターの調査結果 1)と同程度であった。また、都心部よ りも郊外部で、男子よりも女子で朝食 の摂取率が有意に高いことが分かった。我々が小学校において行った調査5)でも、都心部に比べ郊 外部での朝食摂取率は高かった。今後、生活習慣等に関する調査を加え、朝食摂取率を高める方策へ と繋げていきたい。 【学校給食について】 学校給食については「好き」「まあま あ好き」を合わせると97%であり、多く の生徒が学校給食を好きであると回答 した。次に、学校給食の残食状況は都 心 部 よ り は 郊 外 部 に お い て 低 か っ た (図6)。また、男子と女子を比べると、 女子において「残すことが多い」と回 答した割合が高かった。日本スポーツ 振興センターの全国調査1)においても 表4 各校の対象者数 図5 朝食摂取状況 図6 給食残食状況都市部よりは農山漁村部で残食する割合が低く、男子に比べ女子の残食率が高かった。女子が残食す る理由として「給食時間が短いから」「量が多すぎるから」と回答する割合が男子よりも高く、「太り たくないから」という理由は低かった。研究指定校等の実績では、食べる時間を含め、準備から後片 付けまで、小学校では50分程度、中学校で45分程度の時間が設定されている8)。十分な給食時間が確 保できているか否か今後の調査課題である。また、厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基 準」9)によれば、12∼14歳の男子と女子では身体活動レベルにより推定エネルギー必要量が300∼ 350(kcal/日)も異なる。この数値をごはんに換算すると、1∼2杯に相当する。一方、先にも述べ たが、給食の栄養摂取量の標準によれば中学生は一律820kcalとされている。「太りたくないから」と 回答する割合が低いことを考慮すると、給食の栄養摂取量の一律規定が女子における残食率の高さに 繋がっている可能性が高い。 【学校給食の偏食状況】 学校給食で好きなメニ ューがあると回答した生 徒は438名中378名(86%) であった(表5)。好き なメニューは1位「揚げ パン」36%、2位「カレ ー」18%、3位「デザー ト」16%、4位「ハンバ ーグ」15%、5位「スパ ゲティ」10%の順であり、 特に「揚げパン」は男子 よりも女子における人気 が高かった。その他、女 子では「デザート」や「スパゲッティ」を好み、男子では「唐揚げ」や「ハンバーグ」「豚肉の生姜 焼き」などの肉類を好む傾向にあった。 一方、嫌いなメニューがあると回答した生徒は438名中264名(60%)であり、「しもつかれ」をあ げる生徒が3割を超えた(表6)。表5および6から、給食における子どもの嗜好が伺え、全体的に洋 食や油物を好む一方、和食や伝統食を嫌う傾向が認められた。また、嫌いな食材への回答を五訂日本 食品標準成分表による食品群別で示すと、「野菜類」をあげた生徒が65%と最も多く、「きのこ類」 13%、「魚介類」11%と続いた。野菜類のうち、トマト27%、ピーマン26%、ナス21%が嫌いな野菜の 上位3品であり、特に果菜類を嫌う傾向にあった。 表5 給食の好きなメニュー(複数回答) 表6 給食の嫌いなメニュー(複数回答)
【食への意識状況】 生徒の食・健康・栄養に関する認識を把握するために「食育基本法」「栄養教諭」「生活習慣病」 「地産地消」について調査したところ、いずれの言葉も都心部よりは郊外部における認知度が高かっ た(図7∼10)。特に「地産地消」に関しては「知っている」と回答した生徒が都心部11.8%に比し、 郊外部では24.7%と2倍以上であった(図9)。今回調査した4校とも地場産物を積極的に取り入れた 給食を提供しており、例えば「なるべく宇都宮産、栃木県産の食材の納入契約を行う」、「農産物直売 所と連携する」、「蔬菜研究会や地域生産者等の協力のもと直接納入する」等の試みが把握できた。こ れらは全国的にみて食糧自給率が第10位という栃木県の恵まれた環境ならではの取組であると評価で きよう。
7.おわりに
なぜ食育の推進、そして取り組みを学校で行わなければならなくなったか。食育は従来、家庭で主 図7 食育基本法への認識 図8 栄養教諭への認識 図9 地産地消への認識 図10 生活習慣病への認識に担われていたはずである。1980年代には既に女子栄養大学の足立巳幸らのグループによる子ども達 の食の問題が取り上げられ警鐘が鳴らされた。その後、社会の変容も著しく、子ども達はいつでもど こでも自ら食べ物を購入し食べることができるようになった。しかしながら、子ども自身が食を正し く選択する力がなければ、その便利な食環境は緩慢ではあるが確実に悪影響をもたらしかねない。事 実、健康問題を抱えた子ども達が増加している。急速なる食環境の変化の下で、子どもに食育を行っ ていくには、家庭のみ、学校のみ、地域のみで独立して行っていては効果的ではない。食育を効果的 に推進していくために設置された「栄養教諭」を中心に、3者が連携して体系的、継続的、協力的に 行っていくことが必要である。栃木県でも今年度から栄養教諭が配置され、現在9名の栄養教諭が活 躍している。5年後、10年後、どのような成果が表れてくるか期待されよう。