春
曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介
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日本語日本文学科編
は じめに 春 曙 文 庫 所 蔵の写本中、ここに翻刻・影印して紹介するのは、藤原俊成が撰んだ七番目の勅撰和歌集﹃千載和歌 集﹄のうち、巻第十七雑歌中の冒頭から五十四首所収の断簡である。新編国歌大観番号でいうと一〇五二番歌から一 一 一 〇五番歌までに相当する。 43 ﹃千載和歌集﹄の伝本は、約一五〇を超えて現存することが知られている。それらの諸本は大局的にいって異本は 一 存在せず、すべて一系統に属すると考えられている。ただし基準歌三首の出入りによって、一応甲乙丙丁の四類に分 類され、作者表記の仕方によって、さらに甲乙と丙丁の二つに分けられている。版本は丙丁類であるが、甲乙に比較 的書写年次の古い伝本が多く、近年はこれらの系統の善本を底本にして、活字化されている。その底本のみ校合本を 略 して挙げると次のようになる。 ○笠間叢書17 乙類の静嘉堂文庫本︵伝為秀筆本。南北朝頃の筆と推定され﹁奏覧正本也俊成在判﹂の奥書がある。︶ ○ 新 編 国 歌 大観 甲類の陽明文庫本︵江戸初期写。奏覧本で校合した旨を記す応永二十六年の宋雅の本奥書がある。 なお陽明叢書3に影印がある。︶ ○ 岩 波文庫 甲類の久保田淳蔵本︵江戸写︶春 曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介 ○ 新 日本古典文学大系 乙類の龍門文庫本︵鎌倉末頃写、なお龍門文庫善本叢刊第一巻に影印がある。︶ ○ 和泉古典叢書8 乙類の龍門文庫本。 ※なお、笠間影印叢刊に乙類の書陵部蔵本︵南北朝写︶がある。 多くの伝本の大半は近世写本で、成立時期に近いものはないのであるが、その一方で、撰者である俊成自筆の断簡 ﹁ 日野切﹂が残っている。笠間叢書17巻末の﹁日野切本文集成﹂、﹃古筆学大成﹄九巻︵八十一葉二百二首を収める︶、 ﹃ 古 筆切資料集成﹄などに集成されている。日野切は巻十一から巻二十の下帖のみの断簡であるが、撰者自筆の一等 資料である。ちなみに、春曙文庫蔵断簡所収歌のうち、﹁日野切﹂に見えるのは、九葉十八首︵先掲三書による、偽 筆・模本などの認定は問わない︶である。この自筆の断簡がありながら完本の古写本が少なく、鎌倉期をさかのぼる有 力な古写本がないというのが﹃千載和歌集﹄の伝本をめぐる現状であろう。 一 以 上 の ような本文研究の現状にあって、基準歌を含まない部分なので明確な分類はできないが、春曙文庫所蔵﹃千 44 載 和 歌 集﹄断簡は、その書写年代の古さからいって、ともかく本文研究に有益かつ貴重な資料であることは間違いな 一 い。 本文について 春 曙 文庫所蔵﹃千載和歌集﹄断簡︵以下﹁本断簡﹂︶の本文については、次に歌句の異同を一、二例示するにとどめ る。後掲の影印・翻刻を活用されんことを願う次第である。︵︶内は新編国歌大観番号。 この世にはすむへきほとや蓋ぬらんよのつねならすものぞかなしき︵一〇九四︶ 右の一首の第五句は、龍門文庫本、陽明文庫本はじあ諸本では﹁もののかなしき﹂とあるが、﹁日野切﹂では本断簡 と同じく﹁ものぞかなしき﹂であり注意される。なお、次のように﹁日野切﹂と本断簡とが異なる場合も多い。例え
ば ﹁ はなさかぬ谷のそこにもすまなくにふかくも物をおもふころかな﹂︵一〇六〇︶の第五句は、﹁日野切﹂ほか諸本 ﹁おもふはるかな﹂︵書陵部蔵伝堀河具世筆八代集本は﹁おもひけるかな﹂︶であり、また、﹁心あらはにほひをそへよさ くら花後の春をはいつかみるへき﹂︵一〇五二︶の第五句は、﹁日野切﹂︵笠間叢書17﹁日野切本文集成﹂による︶、伝堀 河 具 世 筆 本は﹁たれかみるへき﹂であるが、諸本は本断簡と同じ。 花 にそむ心のいかてのこりけんすてはて\きと思我身を︵一〇六六︶ 右の一首︵﹁日野切﹂はない︶の第五句は、龍門文庫本、陽明文庫本はじめ諸本は﹁おもふ我身に﹂であり︵八代集抄 イ本が本断簡と同じ︶、本断簡の独自本文。そのほか例えば、﹁いかにせむいせのはまをきみかくれておもはぬいその 浪 にくちなは﹂︵一〇八九︶の第五句は、龍門文庫本が﹁なみにくちなん﹂とするが、﹁日野切︵模本︶﹂はじめ諸本は 本断簡と同じ。﹁いにしへもそこにしつみし身なれとも猶こひしきはしらかはの水﹂︵一〇八一︶の詞書﹁述懐の嵜よ 一 み侍けるときむかし白河の院につかうまつりける事を思てよめる﹂などは陽明文庫本では﹁述懐のうたあまたよみ侍 45 ける時むかし白川院にちかくつかうまつりけることをなどおもひていて、よみ侍ける﹂とある︵作者名﹁藤原家基﹂ 一 の 下 に ﹁法名素覚﹂の注記あり、他本も同様︶。 こうしてみると、本断簡の本文も注意して扱う必要があろう。 以 下、簡略に書誌的事項について示しておく。 ◇ 所 蔵 番 号 九一一・一三ーS 春一〇二三/◇列帖装/◇縦一六・二糎×横一六・二糎/◇残存十二丁。表十 一行、裏十二行を原則として構成。/◇巻第十七雑歌中の冒頭から五十四首所収の残葉からなる。/◇金泥横雲 下 絵 薄朽葉色表紙・料紙雁皮。/◇本書の書写年次であるが、鎌倉時代後期から南北朝頃と目される。 春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介
春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介 ︻ 翻刻本文と影印︼ はかなさをうらみもはてし桜花 ︿ 凡 例﹀ うき世はたれもこsうならねは *本文は、漢字.仮名の別、送りがな、仮名遣いなど 僧都頼実みまかりて後又の
も、全て底本の表記のままとした。 としの春禅定院のはなの
、異体.通俗の漢字は、原則として底本に従う.、とに さかりなるをみてよみ侍ける したが、一部通行の字体に改めたところがある。
*見せ消ち゜補入゜分かち書は底本に即した・ そ囎正尋範
*丁表裏ごとに一行空けて明示した。 やともとと花もむかしに\ほへとも ぬ しなき色はさひしかりけり 千 載 和嵜集巻第十七 かしらおろして後東やまの ﹁ 雑 歌 中 花みありき侍けるに 46
五 十 御 賀すきてまたのとしの 圓城寺の花おもしろかりけるを 一 春 とは殿の桜のさかりに みてよみ侍ける 御 せ ん の 花 を御らんして よませたまひける 前中納言基長 鳥羽院御製 いにしへにかはらさりけり山さくら 心 あらはにほひをそへよさくら花 花は我をは如何みるらん 後の春をはいつかみるへき 遁世の\ち花の嵜とてよめる 落花の心をよみ侍ける 皇太后宮大夫俊成 仁和寺後入道法親王覚性 雲のうゑのはるこそさらにわすられね
花 はかすにもおもひいてしを なけく事侍けるころよめる 式 いし山にたひくまうて給けるを 和泉○部 は て の たひせきのし水のも はなさかぬ谷のそこにもすまなくに とに御車と、めてこのた ふかくも物をおもふころかな ひ はかりやと心ほそく御らん 前大納言公任なかたにといふ所に ゐ こもり○けるときつかはしける してよませたまひける 法性寺入道前太政大臣 東 三 條 院 谷のとをとちやはてつるうくひすの あまた、ひ行あふさかの関水に まつにおとせて春のくれぬる 一 いまはかきりのかけそかなしき 山寺にこもりて侍けるころ 47
山にのほりてしはしおこなひ あめふりて心ほそかりけるに 一 なとし侍ける時よみ侍ける 前大納言公任 人のまうてきて寄なとよみ いまはとて入なん後そおもほゆる 侍けるついてによめる 山ちをふかみとふ人もなし 道命法師 春ころあはたにまかりてよめる かくてたに猶あはれなるおく山に うき世をは峯の霞やへたつらむ 君こぬよ\を思しらなむ 猶山さとはすみよかりけり 除目のころつかさ給はらてなけ き侍けるときのりなか\もとに 春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介
春曙文庫蔵﹁千載和歌集﹄断簡紹介 つ か はしける 我後の世をひと、ふらは、 大江公資 世をそむきて又のとしの としことに涙のかはにうかへとも 春の花をみてよめる み はなけられぬ物にそ有ける 寂然法師 寄 霞 述 懐の心をよめる この春そおもひはかへす桜花 むなしき色にそめし心を 源仲正 題しらす 思 事 なくてや春をすくさまし 世の中をつねなきものと思はすは
うき世へた、る霞なりせは いかてか花のちる渓えまし 一
よをのかれて後白河の花を みやこうつりとかやきこえ 48み てよある ける又のとしのはる白かはの花 一 円位法師 ちるをみてかへる心やさくらはな さかりに女の手にてはなの む か しにかはるしるしなるらん したにおとしをきて侍ける はな 寄の寄あまたよみ侍けるとき よみ人しらす 花 に そ む 心 の い か て の こりけん かくはかりうき世のすゑにいかにして すてはて、きと思我身を はるはさくらの猶匂らむ 花のさかりに法成寺にまいり 佛 に は桜の花をたてまつれ て金堂の前のはなのちり
を けるをみてよみ侍ける 家に桜のうゑてよみ侍ける 皇 太后宮大夫俊成 源師教朝臣 ふりにけりむかしをしらはさくら花 おひかよにやとに桜をうつしうゑて ちりのすゑをも哀とはみよ 猶心みに花をまつかな 高倉院東宮の御時権の亮 依 花 待客といへる心をよめる に侍けるを参議にて程へける 源 定 宗 朝 臣 ころ賀茂のやしろの嵜合とて 山さくらはなをあるしとおもはすは 人々よみ侍けるに述懐の寄とて ひとをまつへきしはのいほかは よみ侍ける 一 円位法師かす∼め侍ける百首の 権中納言実守 49
嵜の中にはなの寄とてよめる 一 藤原定家 くらゐ山はなをまつこそ久けれ い つくにて風をも世をもうらみまし 春のみやこにとしはへしかと 吉野のをくも花はちるなり 崇徳院の御とき十五首の寄 花の寄とてよめる たてまつりける時述懐の心を 源季広 よみ侍ける ふ かくおもふことしかなは、こむ世にも 右兵衛督公行 か すか山まつにたのみをかくるかな 花 み るみとやならんとす覧 ふちのすゑ葉の数ならねとも 春曙文庫蔵﹁千載和歌集﹄断簡紹介
春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介 なけく事侍けるころ読侍ける 廣田社の寄合によめる 前左衛門督公光 藤原盛方朝臣 ものおもふご\ろやみにもさき立て あはれてふひともなきみをうしとても うき世をいてんしるへなるへき 我さへいか\いとひはつへき 右 大 将 実 房中将に侍ける時 に 述 懐の寄とてよめる 十五首の寄よみ侍ける時述懐 俊恵法師 の寄とてよめる かすならてとしへぬる身は今更に 中原師尚 よをうしとたに思はさりけり 数ならぬ身をうき雲のはれぬ哉 一 道 因法師 さすかに家の風はふけとも 50 い つとても身のうき事はかはらねと ︸ む か しは老を歎やはせし 学問料申侍けるを給はらす 述 懐の寄よみ侍けるとき 侍ける時人のとふらへりける返 む か し白河の院につかうまつ 事につかはしける りける事を思てよめる 大江匡範 藤 原 家基 おもひやれとよにあまれるともし火の か 、けかねたるこsろ細さを い にしへもそこにしつみし身なれとも 題不知 藤原公重朝臣 猶こひしきはしらかはの水 世のうさをおもひしのふと人もみよ
かくてふるやの∼きの気色を たなかみの山さとにすみ侍ける 菅 原是忠 ころ風はけしかりける夜 ひく人も疏パ紅財てたる心つよきも妙助肱り よめる 源 俊 頼 朝臣 二 條院参河内侍 まきのとを宮まおろしにたsかれて い か て わ れ ひま行駒を引とめて とふにつけてもぬる\袖かな む か しにかへるみちをたつねん 山田のいほに煙のたちける 摂政右大臣の時の家の寄合に をみてよめる
述懐の嵜とてよめる 橘盛長 一 源師光 51 いまはた\いけらぬものに身をなして お山田のいほにたくひのありなしに 一 むまれぬのちの世にもふるかな たつ煙もや雲となるらん つ か さめしにいせになりけるを 堀河の院の御時百首の寄た し\申ける時大僧正行尊か てまつりける時山家の心をよめる 大 もとにつかはしける 二條院皇大后宮肥後 源俊重 山さとのしはおりくにたつけふり ひとまれ也とそらにしるかな い か に せ む い せ の はまをきみかくれて なか月のつごもりかたわつらふ おもはぬいその浪にくちなは 事ありてたのもしけなく 春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介
春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介 覚 けれはひさしくとはぬ人に けるころさかみかもとにつかはしける つ か はしける 藤原兼房朝臣 あはれともたれかは我を思いてむ 藤原基俊 ある世をたにもとふ人もなし ニ 秋 はつるかれの\虫のこゑたえは 前大納言公任なかたにすみ侍 ありやなしやを人のとへかし けるころ風はけしかりける 女のもとにまかりて月のあかく よのあしたにつかはしける 侍けるにそらの気色も物こ、ろ 中納言定頼
ほそく侍けれはよみ侍ける 一 藤 原道信朝臣 ふるさとのいたまの風にねさめして 52 この世にはすむへきほとや蓋ぬらん 谷のあらしを思こそやれ 一 よのつねならすものぞかなしき 返し 前大納言公任 題 不 知 泉 式 部 谷 風の身にしむことにふる里の 命あらは脚鍵疑せんむしたに秋は西簾け 木のもとをこそ思やりつれ 前大納言公任入道し侍て 紫 式 部 長たに、侍ける時僧のさう か すならて心にみをはまかせねと そくほうふくなとおくり侍とて 身にしたかふはこ、ろ成けり つかはしける つ ね よりも世の中はかなく聞 法成寺入道前太政大臣
い にしへは思かけきやとりかはし こほりを三のみこのもとに おくられて侍けれはつかはしける かくきむものとのりの衣を 輔仁のみこ か へ し 入道前大納言公任 山さとのかけひの水のこほれるは おなしとし契しあれは君かきる おときくよりもさひしかりけり のりのころもをたちをくれあや 三 条の院かくれさせたまひて 返し 聡子内親王 後 か の院のまへを過けるに 山さとのさひしきやとのすみかにも
松の梢おなしさまにてつい かけひの水のとくるをそまっ 一 かきところくくつれたるに 大納言実家もとに三十六人 53
むくらのしけりたるをみて 集をかへしつかはしけるなかにご 一 そのうちにかうし、うか侍けるに おほゐの御門の右大臣の書 つ か はしける て侍ける草子にかきて をしつけられて侍ける 弁 乳 母 大皇太后宮 むかしみし松のこすゑはそれなから このもとにかきあつめたる事の葉を むくらのかとをさしてける哉 別し秋のかたみとそみる 一品聡子内親王仁和寺に すみ侍ける冬ころかけひの 春曙文庫蔵﹃千載和歌集﹄断簡紹介
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