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<論説>刑事手続における取引(1)--ドイツにおける判決合意手続

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Academic year: 2021

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(1)刑 事 手 続 にお け る取 引(1). 刑 事 手 続 に お け る取 引(1) ドイ ツ に お け る 判 決 合 意 手 続. 典. 辻. =は. じめ に. _Abspracheの. 意義. 2.判. 例実務. 3.立. 法 の動 向. 4.小. 括(以. 上 本 号) 関 す る法 的 問題 点. 四. 我 が 国 の 刑 事 訴 訟 にお け る取 引 的 要 素. 五. お わ りに. 一. 央. 概観. 1.Abspracheの. 三Abspracheに. 本. は じめ に. 刑 事 手 続 は,「事 案 の真 相 を 明 らか に し,刑 罰 法 令 を 適 正 且 つ 迅 速 に適 用 実 現 す る こ とを 目的 とす る」(刑 訴 法1条)。. この 実 体 的 真 実 の 解 明 及 び犯. 罪 者 の 適 切 な 処 罰 と い う 目的 は,刑 事 手 続 の 普 遍 的 な 理 念 と して,時 代 や 国 を 超 え て 妥 当す るべ き もの で あ る。 それ ゆえ,刑 事 手 続 に関 与 す る者, と りわ け裁 判 所 及 び検 察 官 と い っ た国 家 機 関 は,こ の 理 念 の 実 現 に向 けて 最 大 限 の 努 力 を 図 るべ き義 務 を 負 い,安 易 な 妥 協 は許 され な い。 も っ と も,そ も そ も実 体 的 真 実 の 解 明 と い って も,そ れ は人 智 の 及 ぶ 限 りの もの に と ど ま り,絶 対 的 真 実 の 解 明 まで 求 め る こ と はで きな い。 例 え ば最 判 昭 和48年12月13日 判 時725号104頁 に よ る と,「 裁 判 上 の事 実 認 定 は, 自然 科 学 の 世 界 に お け る それ と は異 な り,相 対 的 な 歴 史 的 真 実 を 探 究 す る 1.

(2) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 作 業 」 で あ る(1)。ま た,犯 罪 者 の 適 切 な処 罰 に つ いて も,相 対 的応 報 主 義 を前 提 とす る と,行 為 者 の 責 任 の 範 囲 で 一般 予 防/特 別 予 防 の 観 点 を 取 り 入 れ て 個 別 事 例 ご と に柔 軟 な 対 応 が 要 求 され る。 さ らに,「修 復 的 司法 」の 観 点 か らは,刑 事 手 続 も,犯 罪 に よ り撹 乱 され た行 為 者 と被 害 者(さ. らに. 社 会)と の 関 係 を 修 復 し,法 的 平 穏 の 再 確 立 に向 け た手 段 と して 観 念 され る。 この よ う に,真 実 の 概 念 が 相 対 化 され,処 罰 の 適 切 性 も多 様 で あ る とす る と,そ の 実 現 に向 け た過 程 も,単 純 に一一 つ の もの に と ど ま る もの で はな い。 憲 法 及 び刑 訴 法 は,検 察 官 と被 告 人 との 対 立 的 な 構 造 を 軸 に,各 々 に 十 分 な 手 続 権 利 を 保 障 した上 で,最 終 的 に裁 判 官 が 客 観 的/中 立 的 立 場 か ら事 実 を 認 定 し,適 切 な 処 罰 を 宣 告 す る と い っ た手 続 を 原 則 と して お り, そ こ に は,基 本 的 に,取 引 の 要 素 は認 め られ な い。 も っ と も,刑 訴 法 は, 簡 略 的 な 手 続 と して,「 略式 手 続 」 や 「即 決 裁 判 手 続 」 を規 定 して い る が, そ の手 続 を採 る た め に は,検 察 官 と被 疑 者 と の 合 意 が 条 件 と され て い る (刑訴 法461条 の2,350条. の2第2項)。. ま た,起 訴 便 宜 主 義 に よ る検 察 官. の 広 範 な 訴 追 裁 量(刑 訴 法247条,248条)は,被. 疑 者 の 側 か ら不 起 訴 獲 得. に 向 け た様 々 な 働 きか けが な さ れ る こ とを 導 き う る(2)。こ の よ うな 簡 略 的 手 続 や,検 察 官 の訴 追 裁量 は,被 疑 者 ・被 告 人 の 改 善 更 生 に関 して デ ィバ ー ジ ョ ン効 果 を 持 つ だ けで な く,限 られ た司 法 資 源 を 重 大/重 要 事 件 に集 中 させ る こ とが 可 能 とな る な ど,刑 事 政 策 的 観 点 か ら必 要 不 可 欠 の 制 度 と (1)最 決 平 成19年10月16日. 刑 集61巻7号677頁. は,「 刑 事 裁 判 に お け る 有 罪 の 認 定. に当 た って は,合 理 的 な疑 い を差 し挟 む余 地 の な い 程度 の 立 証 が 必 要 で あ る。 こ こ に合 理 的 な 疑 い を差 し挟 む余 地 が な い とい うの は,反 対 事 実 が 存 在 す る疑 いを 全 く残 さな い場 合 を い う もの で は な く,抽 象 的 な可 能性 と して は 反 対 事 実 が 存 在 す る との 疑 い を いれ る余 地 が あ って も,健 全 な社 会常 識 に 照 ら して,そ の 疑 い に合 理 性 が な い と一 般 的 に判 断 さ れ る場 合 に は,有 罪 認 定 を 可 能 とす る 趣 旨で あ る。」 と判 示 して い る。 (2)上. 口裕 『刑 事 訴 訟 法 」170頁(2009年. ・成 文 堂)。. 2.

(3) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). な って い る。 こ の よ う に して,刑 事 手 続 に は 取 引 的 要 素 が 必 然 的 に 内在 して い る と い って よ い。 も っ と も,刑 事 手 続 に お いて 取 引 が 無 制 約 に行 わ れ る こ と に な る と,手 続 関 係 人(特. に被 疑 者 ・被 告 人)の 権 利 利 益 が 脅 か され る虞 が. 生 じる。 ま た,実 体 的 真 実 の 解 明 や,そ れ を 前 提 とす る適 切 な 処 罰 と い う 目的 も,そ の 実 現 が お よ そ困 難 な もの とな って しま うで あ ろ う。 この よ う な 危 惧 は,例 え ば無 実 者 が 長 期 間 の 勾 留 の 末 に検 察 官 か ら略 式 手 続 や 即 決 裁 判 手 続 の 可 能 性 を 示 唆 され,自. 由 と引 き換 え に虚 偽 自 白を 行 う(そ れ に. 基 づ いて 有 罪 判 決 が 下 され る)と い っ た事 態 を 想 定 す る と,十 分 現 実 的 な もの で あ る。 以 上 の と お り,刑 事 手 続 に お け る取 引 は,公 式 統 計 が な いた めそ の 実 体 を 把 握 す る こ と は困 難 で あ るが,我 が 国 の 刑 事 手 続 にお いて もす で に何 ら か の 形 で 行 わ れ て い る こ とが 推 測 され る。 ま た,そ の よ うな 措 置 は,刑 訴 法 の 本 質 的 な 原 理/原 則 に適 合 す る限 り,そ の 有 益 性 ゆえ に,よ. り活 用 さ. れ る こ と も考 え られ て よ い。 しか し,そ れ が,非 公 然 か つ 不 当 な 形 で 行 わ れ る と き,前 述 の よ うな 危 険 が 生 じう る。 それ ゆえ,取 引 的 措 置 が 公 然 か つ 適 切 に行 わ れ う る よ う,一 一 定 の 法 的 規 律 が 要 請 され る こ と にな る。 この 問 題 につ いて,ド. イ ツで は,他 の 重 要 問 題 に比 べ て 議 論 の 歴 史 こそ まだ 浅. い もの の,現 在 の 刑 事 手 続 に お け る顕 著 な 現 象 と認 知 され,そ の 法 的 規 律 に向 け た議 論 が 活 発 に行 わ れ て い る。 本 稿 は,ド イ ツ にお け る刑 事 手 続 上 の 取 引 に関 す る議 論 の 動 向 を 概 観 し,法 的 問 題 点 を 析 出す る と と も に,一 ・ 定 の 解 決 に向 け た試 み を 検 討 す る。 それ に よ って,我 が 国 で まだ 潜 在 的 で あ る この 問 題 につ いて,一 一 定 の 問 題 提 起 を 行 う(3)。. (3)ド イ ツ刑 事 手 続 にお け るAbspracheの. 問題 に つ い て,我 が 国 で は,す で に. 次 の 論 稿 に お いて 研 究/紹 介 が さ れ て い る。 山 名京 子 「 刑 事 訴 訟 にお け る 『事 前 の 合 意 」」 関 法41巻1号74頁(1991年),同. 3. 「ドイ ツ刑 事 訴 訟 に お け る事 前 の/.

(4) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 二Abspracheの. 1.Abspracheの (一)合. 概観. 意義. 意の定義. ドイ ツ刑 事 手 続 で は,随 所 で 手 続 関 係 人 相 互 に よ る 申合 せ が 行 わ れ,そ の 結 果 に基 づ いて 手 続 が 処 理 され て い る。 中で も,被 疑 者 ・被 告 人 の 自 白 と 引 き 換 え に,裁 判 所 が 減 刑 を 約 束 す る と い っ た例 が 典 型 で あ る。 そ の 他,被 疑 者 ・被 告 人 側 か らは,以 後 の 証 拠 提 出や 各 種 申立,上 訴 の 放 棄 な ど,検 察 官/裁 判 所 側 か らは,他 事 件 の 手 続 打 切,未 決 勾 留 の 取 消 な どが 約 束 され る こ と も あ る。 この よ う に,ド イ ツ刑 事 手 続 で は,各 手 続 関 係 人 が,互 譲 に よ る 申合 せ か ら,手 続 進 行 及 び手 続 結 果 に関 す る一一 定の合意を 形 成 し,そ れ に よ って,対 立 的 な 手 続 よ りも簡 易 か つ 迅 速 に処 理 す る と い う手 続 態 様 が,近 時 の 顕 著 な 傾 向 とな って い る。 ドイ ツ刑 訴 法 も,例 え ば起 訴 便 宜 的 理 由か らの 手 続 打 切 に際 し,そ れ に 対 す る 被 疑 者 ・被 告 人 の 同 意 を 条 件 と す る 規 定 を 有 して い る こ と か ら (StpO153a条. 以 下),取. 引 的要 素 が 一 定 程 度 内在 して い る とい え る。 も っ. と も,前 述 の よ うな,主. と して 自 白 に対 す る量 刑 上 の 利 益 供 与 と い っ た取. \ 合 意 」 奈 良 産13巻3=4号139頁(2001年),松. 尾浩也 「 刑 事 手 続 に お け る訴 訟. 関 係 人 の 非 公 式 協 議 一 ドイ ツ刑 事 訴 訟 法 に関 す る第 二 のBericht-」 希 祝 賀 『刑 事 法 学 の 現 代 的 状 況 」563頁(1994年 訟 の 目的 」286頁(2007年. ・成 文 堂)(初. 内 藤i謙古. ・有 斐 閣),」 田 口守 一 『刑 事 訴. 出 「ドイ ツ刑 事 訴 訟 に お け る合 意 手 続. の 法 的 構 成 」 『光 藤 景 咬先 生 古 希 祝 賀 論 文 集 ・上 巻 」(2001年 ・成 文 堂)),赤. 松. 亨 太 「ドイ ツ刑 事 裁 判 に お け る 合意 の 実 情」 判 タ1264号110頁(2008年),ト. ー. マ ス ・ヴ ァ イ ゲ ン ト(井 上 正 仁 訳)「 ドイ ツ に お け る取 引 刑 事 司 法 」 法 協109巻 9号1頁(1992年),ハ. ンス ・リー リエ(日 高 義 博 訳)「 答 弁 の取 引 一 ドイ ツ刑. 事 訴 訟 にお いて は 「合 意 」 か?」. 専 法69号51頁(1997年),ヨ. ア ヒム ・ヘ ル マ. ン(加 藤i克佳 訳)「 ドイ ツ刑 事 手 続 にお け る合 意 」 愛 大156号1頁(2001年)。. 4.

(5) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). 引 類 型 は,こ れ まで 規 定 が 存 在 して いな か っ た。 そ れ ゆえ,こ れ が 無 制 約 な 形 で 行 わ れ るな らば,刑 訴 法 の 諸 原 則/諸 原 理 へ の 抵 触,手 続 関係 人(特 に被 疑 者 ・被 告 人)の 権 利 へ の 不 当な 侵 害 と い った 観 点 か ら,現 行 法 との 整 合 性 が 問 題 とな る。 従 って,判 決 合 意 手 続 に対 す る法 的 規 律 如 何 が,解 釈 論 と して だ けで な く,立 法 論 と して も重 要 な 問 題 とな って きた 。 本 稿 で は,こ の よ うな,主. と して 自 白 に対 す る量 刑 上 の 利 益 供 与 と い っ. た 法 的 に 明 示 の 根 拠 規 定 が な い 非 公 式 の 取 引 類 型 を,合 意(Vers塩ndigung)又. (二)合. は判 決 合意(Absprache)と. 定 義 し,検 討 の 対 象 とす る。. 意 が 行 わ れ る理 由. 合 意 の 中で も 中核 的 な 類 型 で あ る判 決 合 意 は,通 常,事 前 の 協 議 にお い て,被 告 人 側 が 自 白を 約 束 し,裁 判 所 側 が 予 定 され る宣 告 刑 の 上 限 を 提 示 し,検 察 官 及 び一一 定 の 場 合 に公 訴 参 加 人 な ど他 の 手 続 関 係 人 を 含 めて 関 与 者 が 合 意 を 形 成 した上 で,各. 々が 約 束 を 履 行 す る と い う形 で,手 続 を 処 理. す る。 この よ うな 措 置 は,基 本 的 に 当該 自 白以 外 の 証 拠 調 を 不 要 と し,直 ち に 判 決 を 下 す こ とが で き る た め(ド イ ツ に は補 強 法 則 はな く,自 白の み で 有 罪 判 決 す る こ とが で き る),簡 易 か つ 迅 速 な手 続 処 理 を 可 能 と させ る。 こ の よ うな 取 引 に よ る合 意 が 行 わ れ る理 由 は,各 訴 訟 関 係 人 にお け る利 益 が そ こ に認 め られ るか らで あ る。 まず,裁 判 所 及 び検 察 官 に と って,簡 易 迅 速 な 訴 訟 処 理 は,当 然 にそ の 活 動 負 担 を 軽 減 させ る。 人 的 及 び物 的 に限 られ た資 源 を 最 大 限 活 用 す るた め に は,不 必 要/不 相 当 に長 期 か つ コス トの か か る手 続(特 に証 拠 調 手 続) を 合 意 に よ って 省 略 す る こ と は,大 きな 誘 因 とな る。 合 意 は,そ の 当 初 に お いて 経 済 事 犯 や 租 税 事 犯 な ど,特 に証 拠 調 に よ る事 実 解 明 が 困 難 な 犯 罪 類 型 に多 用 され た と い う事 情 は,右 要 因 が 合 意 に よ る手 続 処 理 の 発 生/普 5.

(6) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 及 の 最 大 の 理 由で あ っ た こ とを 示 す もの で あ る。 ま た,自 白以 外 の 証 拠 調 が 省 略 され る と い う こ と は,他 の 訴 訟 関 係 人, す な わ ち被 害 者 や 目撃 証 人 の 負 担 を 軽 減 させ る こ と に もつ な が る。 例 え ば 性 犯 罪 の 被 害 者 が 公 開 公 判 で 被 告 人 と対 面 して 事 件 に関 す る再 現 を 求 め ら れ る状 況 を 想 定 す る と,合 意 に よ る手 続 処 理 は,犯 罪 被 害 者 に お け る二 次 被 害,三 次 被 害 を 阻 止 す る こ と につ な が る。 さ らに,弁 護 人 に お いて も,簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 は,経 済 的/職 業 的 利 益 を も た らせ る。 一一 見 す る と,長 期 の 対 立 的 手 続(さ. らに上 訴 審 まで 含 め. て)の 方 が,そ の 活 動 に比 例 して 収 入 が 多 くな りそ うで あ るが,合 意 手 続 に よ る簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 の 結 果,数 多 くの 事 件 を 受 任 す る こ とが 可 能 と な る た め,そ の 方 が 相 対 的 に利 益 が 増 加 す る と いわ れ る。 ま た,弁 護 人 に お いて,裁 判 所 や 検 察 官 との 合 意 を 形 成 す る こ と は,彼 が 裁 判 所 や 検 察 官 か ら交 渉 相 手 と して 適 格 な 者(話 が わ か る奴!)で につ な が り,以 後 の(特. あ る と承 認 され る こ と. に別 事 件 の)弁 護 人 と して の 活 動 に と って 大 きな. 利 益 を も た らす(自 分 は裁 判 所 や 検 察 官 に顔 が 利 くと い っ た意 味 で)。 最 後 に,被 疑 者 ・被 告 人 に と って も,簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 は,争 っ た場 合 よ りも相 対 的 に軽 く処 罰 され る と い う意 味 で,そ の 利 益 は明 白で あ る。 ま た。 手 続 自体 が も た らす ス テ ィ グ マゼ ー シ ョンの 回 避 と い う点 も,彼. ら. の 利 益 につ な が る と い って よ い。 も っ と も,被 疑 者 ・被 告 人 に関 す る右 利 益 は,彼. らが 真 犯 人 で あ る こ とを 前 提 と し,無 実 者 に該 当す る もの で はな. い。 ま た,真 犯 人 で あ る場 合 も,被 疑 者 ・被 告 人 が 合 意 の 形 成 に際 しそ こ に関 与 した上 で 自発 的 に 自 己の 命 運 に関 して 自 己決 定 した と い っ た場 合 は と もか く,合 意 に向 け た協 議 に際 し,弁 護 人 の み が 彼 を 代 理 して 交 渉 に臨 む と い う方 法 が 通 常 で あ る と され て い る こ とを 考 え る と,彼. らの 訴 訟 主 体. と して の 地 位 が 脅 か され る危 険 も含 ん で い る。 この こ と は,弁 護 人 が 被 疑 者 ・被 告 人 の 利 益 実 現 に最 大 限 努 力 す る場 合 は格 別 と して,前 述 した と お 6.

(7) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). り,弁 護 人 の 利 益 が 必 ず しも被 疑 者 ・被 告 人 の 利 益 と一 致 す る と い うわ け で は な く,弁 護 人 が被 疑 者 ・被 告 人 の 利 益 と相 反 す る(ど ち らか とい え ば,国 家 の 司 法 機 関 側 と一一 致 す る)利 益 を 追 求 す る と き,そ の 問 題 性 が 顕 在 化 す る。. 2.判. 例実務. (一う. 判例の動向. 判 決 合 意 が刑 事 手 続 に お い て 実 際 に い つ 頃 発 生 し,普 及 して い った の か,そ れ が ま さ に非 公 式 の 取 引 で あ る こ とか ら,定 か で はな い。 また,合 意 が 形 成 され,「 円満 に」(全 手 続 関 係 人 が 満 足 して)手 続 が 終 結 され る性 質 上,仮. に その 過 程 で 刑 訴 法 に反 す る行 為 が 行 わ れ て いて も,そ れ が 争 わ. れ る こ と は,通 常 あ りえ な い。 上 訴 放 棄 が 約 束 され る と い った 類 型 を 考 慮 す る と,最 高 裁 レベ ル で この 問 題 が 取 り上 げ られ る こ と は,極 めて 稀 な こ と とな るで あ ろ う。 その よ うな 事 情 か ら,最 高 裁 レベ ル の 判 例 で 合 意 の 適 法 性 が 検 討 され る よ う にな っ たの は,ま だ 最 近 の こ とで あ る。. (1)判 例 創 成 期 お そ ら く,最 高 裁 レベ ル で 初 めて 刑 事 手 続 に お け る合 意 の 適 法 性 を 検 討 したの は,憲 法 裁 判 所 第 二 部1987年1月27日. 決 定(NJW1987,2662)で. あ. ろ う。 本 件 被 告 人 は,原 判 決 は裁 判 所,検 察 官,弁 護 人 の 間 で の 合 意 に基 づ くもの で あ り,そ の よ うな 手 続 は憲 法 違 反 で あ る と主 張 し,憲 法 抗 告 を 提 起 した。 原 審 手 続 で は,被 告 人 自 ら,裁 判 所 に対 し判 決 合 意 を 提 案 し, 自 白 と引 き換 え に減 刑 を 持 ちか け た。 ま た,弁 護 人 か ら は上 訴 放 棄 が 提 案 され,検 察 官 か らは,裁 判 所 の 求 め に応 じて,他 事 件 の 訴 追 を 見 合 わ せ る こ とが 約 束 され た。 憲 法 裁 判 所 は,右 手 続 に何 ら憲 法 違 反 は認 め られ ず, ま た,通 常 裁 判 所 へ の 上 訴 の 途 も残 され て い る(憲 法 抗 告 にお け る補 充 性 7.

(8) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 要 件 が 満 た され て いな い)と. して 憲 法 抗 告 を 却 下 したが,そ の 際,公 正 か. つ 法 治 国 家 的 刑 事 手 続 の 原 則 か ら,刑 事 手 続 で は実 体 的 真 実 の 解 明 と,被 疑 者 ・被 告 人 の 手 続 主 体 と して の 地 位 の 承 認 が 要 請 され るが,こ の よ うな 原 則 を前 提 と して も,公 判 外 で 裁 判 所 と手 続 関 係 人 とが 手 続 の 進 行 及 び結 果 に つ い て 合 意 を締 結 す る こ とが 禁 止 され る わ け で は な い と判 示 して い る。 但 し,そ の よ うな 合 意 に際 して も,依 然 と して 裁 判 所 は真 実 解 明 を 義 務 付 け られ て お り,ま た,そ の よ うな 合 意 の 提 案 が 被 疑 者 ・被 告 人 に 自 白 を強 要 す る こ と にな って はな らな い と して,判 決 合 意 に関 して 一一 定の限界 が 認 め られ て い る。 他 方,BGHは,刑. 事 第 二 部1989年6月7日. 判 決(BGHSt36,210)に. お. いて 初 めて,判 決 合 意 の 問 題 につ いて 判 断 した。 本 件 は,麻 薬 密 輸 取 引 罪 等 の 罪 で 起 訴 され た被 告 人 につ いて,弁 護 人 と検 察 官 が 求 刑 につ いて 協 議 し,こ れ を 受 けて 裁 判 長 が 弁 護 人 に対 し(公 判 外 で)検 察 官 の 求 刑 を 超 え る刑 を科 さ な い と の約 束 ④ を した た め,弁 護 人 が そ れ を 信 頼 し以 後 の 証 拠 申請 及 び各 種 申立 を す べ て 差 し控 え た と こ ろ,右 約 束 に反 して 求 刑 よ り重 い刑 が 宣 告 され た と い う事 例 で あ る。 刑 事 第 二 部 は,裁 判 所 の 訴 訟 関 係 人 に対 す る約 束 は相 手 方 に お いて 信 頼 の 基 礎 を 与 え る もの で あ り,仮 に一一 定 の 事 情 ゆえ に その 約 束 を 反 故 にす る必 要 が 生 じた と き は,直 ち に その こ と (4)具 体 的 事 件 で は,以 下 の事 情 が認 定 さ れ て い る。 裁判 長 が,休 廷 中 に,弁 護 人 に対 し意 味 あ りげ な様 子 で 「検 察 官 と話 し合 い は つ い た か?」. と尋 ね た と こ. ろ,逆 に弁 護 人 が 「当裁 判 所 の慣 習 と して検 察 官 の 求刑 を超 え る こ と はな い と 考 え て よい か?」. と質 問 した た め,裁 判 長 は,「 そ う考 え て よ い」 と回 答 した 。. 審 理 が 再 開 され た後,弁 護 人 は,改 め て証 拠 申請 す る べ き か 迷 った た め,改 め て 休 廷 を 求 め た と こ ろ,裁 判 長 は,再 度 の 休 廷 を 宣 告 し,弁 護 人 に歩 み 寄 って, や は り意 味 あ りげな 様 子 で,弁 護 人 に対 し,「自分 が 検 察 官 と量 刑 につ いて 同 じ 考 え で あ る と して も,な お証 拠 申請 が必 要 か」 と尋 ね た。 これ に 対 し,弁 護 人 が 検 察 官 の示 した 求 刑 につ い て の 具 体 的 刑 量 を 明 らか に した と こ ろ,裁 判 長 は,再 び意 味 あ りげ な様 子 で 「さ あ,始 め よ う」 と声 を か け て,審 理 を 再 開 し た。. 8.

(9) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). を 各 手 続 関 係 人 に告 知 す るべ き義 務 を 負 う と判 示 した 。 この よ うな 告 知 義 務 は,弁 護 人 及 び被 告 人 らが 変 化 した手 続 状 況 に応 じて 適 切 に防 御 で き る よ う にす る た め に要 請 され,そ の 法 的 根 拠 は 「公 正 手 続 原 則 」 に求 め られ る と い うわ けで あ る。 も っ と も,本 判 決 で は,刑 事 手 続 にお け る判 決 合 意 の 適 法 性 が 正 面 か ら判 断 され て は いな い。. (2)1997年. 基本判決以前. BGHは,1997年. の刑 事 第 四部 判 決(し. ば しば基 本 判 決 とい わ れ る)に. お い て,判 決 合 意 手 続 の 適 法 性 を 正 面 か ら判 断 す る こ と に な るの で あ る が,そ. こ に至 る まで い くつ か の 裁 判 例 が 積 み 重 ね られ て い る。 そ こで の 問. 題 点 が1997年 基 本 判 決 へ つ な が っ た こ とか ら,こ の 間 の 判 例 の 流 れ を 概 観 して お くこ とが 必 要 で あ ろ う。 (i)合 意 の 拘 束 性 BGH刑. 事 第 三 部1990年4月18日. 判 決(BGHSt37,10)は,被. 告 人 に対. す る所 得 税 脱 税 等 の 公 訴 事 実 の う ち,一 一 部 は検 察 官 が 事 前 の 約 束(被 告 人 側 が 他 事 件 の 略 式 命 令 に対 す る異 議 申立 を 撤 回 す る換 わ りに,検 察 官 が 一・ 部 の 事 件 を 起 訴 しな い)に 反 して 起 訴 した もの で あ り,約 束 違 背 に よ る公 正 手 続 原 則 違 反 を 理 由 とす る手 続 障 害 の 成 否 が 問 題 とな った 事 件 で あ る。 刑 事 第 三 部 は,検 察 官 が 一一 部 の 所 為 を 訴 追 しな い と した 「約 束 」 に対 す る 被 告 人 の 信 頼 は十 分 保 護 され な けれ ばな らず,約 束 に反 して 訴 追 され る場 合,右 信 頼 が 破 られ,そ の 点 に公 正 手 続 原 則 に対 す る違 反 が 認 め られ る と した(但. し,手 続 障 害 の 主 張 は認 め られ ず,量 刑 で 考 慮 され る に と ど ま る. と され た)。 (li)一一 部 の 手 続 関 係 人 を 除 外 した場 合 一一 部 の 手 続 関 係 人 を 除 外 して 合 意 が 行 わ れ た場 合 ,除 外 され た 手 続 関 係 人 に お いて,当 該 裁 判 官 に対 す る予 断 の 懸 念 を 基 礎 づ け る(忌 避 申立 が 不 9.

(10) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 当 に却 下 され た場 合,絶 対 的上 告 理 由 とな る=StPO338条3号)。BGH刑 事 第 三 部1990年7月4日. 決 定(BGHSt37,99)は,被. 告 人 が 共 犯 者 と共 に. 脱 税 罪 で 起 訴 さ れ た が,裁 判 所 か らの 提 案 に対 し共 犯 者 は合 意 に応 じ た が,被 告 人 は それ を 拒 否 し,弁 護 人 が 裁 判 所(及. び検 察 官)と 共 犯 者 との. 間 で 締 結 され た合 意 の 内容 及 び経 緯 につ いて 質 問 した と こ ろ,裁 判 長 が こ れ に明 確 な 回 答 を しな か っ た た め予 断 を 理 由 に忌 避 を 申 し立 て たが,原 審 が これ を 却 下 し,判 決 した と い う事 件 で あ る。 刑 事 第 三 部 は,共 犯 事 件 で 被 告 人 間 に利 益 の対 立 が あ る と き,裁 判 所 は各 々 の 防 御 利 益 を 十 分 考 慮 し,一 部 の被 告 人 との み 合意 を締 結 した場 合 には,そ の他 の被 告 人 に対 し, 適 切 か つ 確 実 な 情 報 を 提 供 しな けれ ばな らず(具 体 的 に は,合 意 に向 け た 協 議 の詳 細 を 包 括 的 に示 さな けれ ば な らな い),そ れ が 行 わ れ な い と き に は予 断 の 懸 念 を 基 礎 づ け る と判 示 し,原 判 決 を 破 棄 した。BGH刑 部1991年1月23日. 判 決(BGHSt37,298)は,詐. 事 第三. 欺罪等 の被告事件 にお い. て,裁 判 長 が 公 判 準 備 段 階 で 検 察 官 及 び弁 護 人 と個 別 に協 議 し,検 察 官 は 5年 の 自 由刑 が 相 当で あ る と主 張 した に もか か わ らず,裁 判 長 が 弁 護 人 に 対 し4年 の 自 由刑 と し,そ の 一一 部 を 開 放 的 処 遇 とす る こ とを 約 束 し,最 終 的 に右 内容 の 判 決 が 下 され た と い う事 件 で あ る。 刑 事 第 三 部 は,合 意 が 行 わ れ た場 合 の 裁 判 官 に お け る予 断 の 懸 念 は,当 該 合 意 が 一一 部の手続関係人 を除 いて 行 わ れ た場 合 に基 礎 づ け られ る と し,検 察 官 の 上 告 を 認 めて,原 判 決 を破 棄 した。 ま た,一 部 の手 続 関係 人 を 除外 して 合意 が行 わ れ た場 合,StpO33条(裁 判 に重 要 な 事 項 に関 す る事 前 聴 聞 の 原 則)に. よ り,除 外 され た手 続 関 係 人. に意 見 陳 述 の機 会 を与 え な け れ ば な らな い か が 問 題 とな る。BGH刑 二 部1991年10月30日. 判 決(BGHSt38,102)は,麻. 事第. 薬不法 取引罪等 を公訴. 事 実 とす る被 告 人 につ いて,裁 判 長 と弁 護 人 が 自 白 した場 合 の 科 刑 範 囲 に つ い て 合 意 した が(右 刑 につ い て 事 前 に 裁 判 所 の 中 間 評 議 が 開 か れ て い 10.

(11) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). る),検 察 官 は そ の合 意 に関 与 して い な か っ た とい う事 件 で あ る。 刑 事 第 二 部 は,裁 判 所 が 量 刑 に関 して 一一 部 の 手 続 関 係 人 との み 合 意 を 結 ぶ 場 合, そ の よ うな事 象 は 裁 判 に と って 重 要 な もの で あ るか ら,StPO33条. によ り. 相 手 方 に事 前 に その 趣 旨を 伝 え,意 見 表 明 の 機 会 を 与 え な けれ ばな らな い と判 示 して,検 察 官 の上 告 を認 め,原 判 決 を破 棄 した。 他 方,BGH刑 五 部1996年2月20日. 判 決(BGHSt42,46)は,麻. る被 告 人 につ いて,や. 事第. 薬 取 引 等 を 公 訴 事 実 とす. は り裁 判 長 と弁 護 人 が 自 白 した 場 合 の 科 刑 範 囲 につ. いて 合 意 したが(本 件 は,右 刑 につ いて 中間 評 議 は開 か れ て お らず,裁 判 長 単 独 の判 断 で あ った),検 察 官 は そ の 合 意 に 関与 して い な か った とい う 事 件 で あ る。 刑 事 第 五 部 は,右 第 二 部1991年 判 決 の 見 解 を 前 提 と しつ つ, 本 件 は,裁 判 所 に よ る 中間 評 議 の 結 果 で はな く,単 に当 時 の 訴 訟 状 況 にお け る裁 判 長 の 見 解 が 伝 達 され た にす ぎず,事 前 の 意 見 陳 述 を 必 要 と させ る よ うな 重 要 な 訴 訟 事 項 で はな い と して,検 察 官 の 上 告 を 棄 却 した 。 ㈹. 合 意 が 中絶 した場 合 の 効 果. 自 白を 内容 とす る合 意 が 締 結 され,被 告 人 が それ に応 じて 自 白 した が, その 後 に合 意 が 一一 定 の 理 由で 中絶 した場 合,そ の 自 白 は如 何 に扱 わ れ るべ きか 。BGH刑. 事 第 五 部1996年7月17日. 判 決(BGHSt42,191)は,銀. 行襲. 撃 事 件(加 重 強 盗 的 恐 喝 罪 と恐 喝 的 人 質 罪 の 行 為 単 一)の 被 告 人 に つ い て, 公 判 の 途 中で,裁 判 長 と弁 護 人 及 び検 察 官 が 自 白 した 場 合 の 科 刑 範 囲 及 び その 余 の 所 為 に関 す る手 続 打 切 を 合 意 したが,検 察 官 が 手 続 打 切 の 対 象 を 誤 解 して い た こ とが 判 明 した た め,裁 判 長 は,右 合 意 を 無 効 と し,被 告 人 の 自 白を 証 拠 と して 使 用 しな い こ とを 決 定 した と い う事 件 で あ る(宣 告 刑 は右 合 意 で 約 束 さ れ た もの と 同 じで あ った)。 刑 事 第 五 部 は,合 意 が 中 絶 した場 合 に,自 白を 罪 責 認 定 に際 し証 拠 排 除 した措 置 は適 切 で あ った が, 量 刑 に際 して 被 告 人 に有 利 に考 慮 しな か っ た(量 刑 理 由で 言 及 され て いな か っ た)こ と は不 当で あ る と して,被 告 人 の 上 告 を 認 め,量 刑 につ いて 原 11.

(12) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 判 決 を破 棄 した。 ㊥. 上訴放棄の有効性. 合 意 に お け る約 束 に応 じて 被 告 人 が 上 訴 を 放 棄 したが,そ の 後 に,一 一 定 の 暇 疵 が あ る こ と が 判 明 した 場 合,上. 訴 放 棄 の 有 効 性 は如 何 に 解 さ れ る. か。 BGH刑. 事 第 一 部1997年1月21日. 決 定(BGHNStZ-RR1997,173)は,. 連 邦 自然 保 護 法 違 反(取 引 禁 止 鳥 獣 の 取 引 行 為)を 公 訴 事 実 とす る被 告 人 が,合 意 に応 じて 上 訴 を 放 棄 したが,合 意 の 内容 に誤 解 が あ っ た た め(被 告 人 は,捜 査 段 階 で 押 収 され た鳥 類 の 剥 製 は裁 判 後 に返 還 を 受 け る もの と 理 解 して い たが,右 物 品 は直 ち に 自然 保 護 局 に よ り行 政 手 続 に お いて 没 収 され た),上 訴 放 棄 を撤 回 し,上 訴 期 間 途 過 に対 す る原 状 回 復 を 求 めて 上 告 した と い う事 件 で あ る。 刑 事 第 一一 部 は,被 告 人 が 合 意 内容 を 誤 解 す る に あ た り,裁 判 所 側 に不 当な 行 為 はな く(右 行 政 処 分 につ いて 教 示 す る義 務 は な い),合 意 内容 に 関 す る錯 誤 は これ を 無 効 と さ せ るほ ど重 大 な もの で は な か っ た と して,被 告 人 の 上 告 を 棄 却 した。 BGH刑. 事 第 二 部1997年6月20日. 決 定(BGHNStZ1997,611)は,外. 籍 の 被 告 人(公 訴 事 実 は不 明)が,公. 国. 判 外 で 結 ばれ た合 意 に応 じて 判 決 宣. 告 直 後 に上 訴 を 放 棄 したが,被 告 人 は上 訴 に関 す る教 示 を 一切 放 棄 して い た た め,右 教 示 が 行 わ れ な か っ た と い う事 件 で あ る。 刑 事 第 二 部 は,上 訴 放 棄 を判 決 合 意 の 対 象 とす る こ と は許 され な いが,合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 は,そ れ の み で 無 効 とな るわ けで はな く,具 体 的 事 例 に お いて 上 訴 放 棄 の 法 的 無 効 を 導 く別 の 事 由が 必 要 で あ る と して,被 告 人 の 上 告 を 棄 却 した。. (3)1997年 BGH刑. 基本判決 事 第 四 部1997年8月28日. 判 決(BGHSt43,195)は,最. 高裁 と し. て 初 め て 刑 事 手 続 に お け る 合 意 の 許 容 性 に つ い て 正 面 か ら 判 断 を 下 し,. 12.

(13) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). あ わ せ て,そ. の手 続 が現 行 法 に 適 合 す るた め の 諸 条 件 を 詳 細 に 判 示 した. こ とか ら,そ の後 の 判 例 実 務 及 び学 説 に お け る議 論 に お い て,た. いて い. 検 討 の基 礎 に お か れ る。 そ れ ゆ え,本 判 決 は,基 本 判 決(Grundsatzentscheidung)と. 表 さ れ る こ と が多 い。 こ の基 本 判 決 につ い て,少 し詳 し く紹. 介 して お こ う。 【事 件 の概 要 】 本 件 被 告 人Xは,共. 犯 者Aと 実 行 した2件 の 加 重 強 盗 的 恐 喝 罪 に よ り起. 訴 され た。 原 審LGは,両. 被 告 人 を有 罪 と し,12年 の併 合 自 由刑(各8年. と9年 の 個 別 刑 を 併 合 刑 処 理)を 科 したが,そ の 際,判 決 文 にお いて,被 告 人 の 自 白を 減 刑 的 に考 慮 した こ と,及 び,「 個 別 刑 も,併 合 刑 も,そ の 量 定 に関 して,公 開 審 理 の 場 で 被 告 人,弁 護 人,検 察 官 との 間 で(他 の 観 点 に関 す る暫 定 的 手 続 打 切 と と も に)判 決 合 意 の意 味 で 申合 せ が な さ れ た」 こ とが 判 示 され て い た。 被 告 人 両 名 は上 告 したが,Aの. 上 告 はそ の 手 続 に. 王 段疵 が あ った た め,原 裁 判 所 が こ れ を棄 却 し(StpO346条),Aに 判 決 は この 時 点 で 確 定 した。 他 方,Xの を 主 張)は 受 理 され,刑 事 第 四 部 は,Xの. 対す る. 上 告(量 刑 不 当 に よ る実 体 法 違 反 主 張 を認 め て,原 判 決 を破 棄 し,. 原 審 に差 し戻 した(原 判 決 の 右 環 疵 はAに 対 す る判 決 に も妥 当 す るた め, StpO357条. に よ りAの 確 定 判 決 も破 棄 さ れ た)。. 【判 決 の 内容 】 刑 事 第 四 部 は,判 決 理 由の 中で 刑 事 手 続 に お け る合 意 の 許 容 性 及 びそ の 条 件 につ いて,詳 細 に判 示 して い る。 判 決 理 由 は長 文 にわ た るが,そ の 要 旨 は次 の と お りで あ る。 まず,本 件 の よ う に,刑 事 手 続 に お いて 裁 判 所 と手 続 関 係 人 が 自 白 した 場 合 の 量 刑 につ いて 合 意 を 結 ぶ と い う措 置 は,刑 訴 法 上 「一 般 的 に禁 止 さ れ る もの で は な い」。 この 点 に つ い て,ド イ ツ刑 事 手 続 法 が 和 解 に 向 けた 制 度 で はな く,裁 判 所 及 び手 続 関 係 人 は国 家 刑 罰 権,手 続 原 則 遵 守,法 的 13.

(14) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. あて は め,量 刑 の 基 本 原 則 につ いて 自 由 に処 分 で きな い こ と にな って い る 点 が 問題 とな る が,StPO153a条(検. 察 官 と被 告 人 の合 意 に よ り,一 一 定の. 賦 課 を条 件 と して 手 続 を 打 切 る こ とが で き る)を 見 る限 り,合 意 の 要 素 が 刑 訴 法 に全 くな じま な い とい う わ け で は な い 。 合 意 の 具 体 的 形 態 に お い て,憲 法 及 び制 定 法(実 体 法 及 び手 続 法)の 原 理/原 則 に反 しな い限 り, 基 本 的 に許 容 され るべ きで あ る。 合 意 の 適 法 性 審 査 につ いて,そ の 基 礎 とな るの は,法 治 国 家 原 理 か ら導 か れ る 「公 正 か つ 法 治 国家 的 手 続 を受 け る権 利 」(被 告 人 の 手 続 保 障 に向 け た権 利)と,こ. の 原 則 を 刑 訴 法 に具 体 化 す る規 定 で あ る。 この 観 点 か ら. は,例 え ば ア メ リカ法 の プ リ ・バ ーゲ ニ ン グの よ う に罪 責 認 定 その もの を 合 意 に よ って 形 成 す る と い う こ とは 許 さ れ ず,あ. くま で 罪 責 認 定 の根 拠. は,裁 判 所 の 真 実 に向 け た確 信 で な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,合 意 に基 づ き 自 白が な され た場 合 も,そ れ だ けで 満足 す る こ とは で きず,(仮 に 自 白 の み が 有 罪 証 拠 と され る と して も)自 白の 信 用 性 につ いて 必 要 な 証 拠 調 を 行 い,審 査 され な けれ ばな らな い。 ま た,公 正 か つ 法 治 国 家 的 刑 事 手 続 の 保 障 と い う意 味 に お いて,合 意 に よ り被 告 人 に対 して 自 白が 強 要 され る よ うな こ と にな って はな らな い(一 一 定 の 尋 問 方 法 を 禁 止 す るStpO136a条. 列. 挙 の 措 置 に該 当 して はな らな い)。 ま た,判 決 合 意 の事 後 的是 正 の機 会,す な わ ち 上 訴 の 機 会 が 不 当 に制 限 され て は な らな い。 そ れ ゆ え,合 意 に 際 し,被 告 人 に上 訴 を 放 棄 す る約 束 を させ る こ と は禁 止 され る。 合 意 は,し ば しば公 判 外 で その 締 結 に向 け た協 議 が 行 わ れ る点 が,公 開 主 義(GVG169条)の. 観 点 で 問題 とな る。 この原 則 は,裁 判 手 続 が 公 衆 に. よ る監 視 の 下 に置 か れ る こ とで,い わ ゆ る秘 密 裁 判 の 弊 害 を 排 除 す る こ と を 目的 とす る。 社 会 が この 原 則 を 通 じて 裁 判 に関 す る情 報 を 獲 得 し,司 法 へ の コ ン トロ ール が 保 障 され る こ と に よ り,司 法 へ の 信 頼 も確 保 され る。 その た め に は,判 決 に至 る本 質 的 な 手 続 経 過 はす べ て 公 開 の 場 で 行 わ れ な 14.

(15) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). けれ ばな らず,判 決 合 意 も その 例 外 で はな い。 また,公 開 公 判 の 場 で 合 意 が 形 成 され るべ き と い う こ と は,手 続 関 係 人 の 手 続 関 与 権 の 保 障 に もつ な が る。 それ ゆえ,被 告 人 の 合 意 に対 し減 刑 を 約 束 す るな ど と い った 判 決 合 意 は,「公 開公 判 の場 で,手 続 関 係 人 全 て が 同席 して 行 わ れ な けれ ばな らな い」。 公 判 外 で 合 意 の具 体 的 内容 に つ い て 事 前 に協 議 を 行 う こ とは,各. 々. の 合 意 に向 け た準 備 の 必 要 か ら禁 止 され る もの で はな いが,そ の 場 合 も, 裁 判 所 よ り協 議 の 内容 及 び結 果 につ いて 公 開 公 判 の 場 で 公 表 され な けれ ば な らな い。 事 前 協 議 の 公 判 で の 公 表 は,被 告 人 本 人 や 参 審 裁 判 所 にお け る 素 人 裁 判 官 は事 前 の 協 議 に関 与 しな い(さ せ られ な い)こ とが 通 常 で あ る こ とを 考 え る と,特 に重 要 で あ る。 また,合 意 手 続 及 び そ の事 前 の協 議 は, 公 判 か ら独 立 した非 公 式 か つ 隠 密 の 手 続 とな って はな らず,事 後 審 査 も可 能 な もの で な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,合 意 の 結 果 は,公 判 の 本 質 的 要 素 と して,公 判 調 書 に記 載 され な けれ ばな らな い。 裁 判 所 は,判 決 形 成 に あ た り,公 判 の 総 体 か ら形 成 され た 自己 の 自 由な 心 証 に基 づ い て 判 断 しな けれ ば な らな い(自 由 心 証 主 義=StpO261条)。 それ ゆえ,判 決 の 前 に(通 常 は証 拠 調 に先 駆 けて)行 わ れ る判 決 合 意 に際 し,裁 判 所 を 拘 束 す る形 で 特 定 の 刑 量 が 約 束 され る と い う こ と は禁 止 され る。 その よ うな 特 定 刑 量 の 約 束 は,自 由心 証 主 義 に反 し,裁 判 を 先 取 りす る もの と して 許 され な い。 も っ と も,最 終 の 量 刑 に関 して 事 前 に一 定 の 刑 幅 が 約 束 され る こ と(例 え ば被 告 人 が 自 白 した場 合 の 刑 の 上 限 を 告 知 す る と い う方 法 で)は 許 され る。 な ぜ な ら,裁 判 所 は,被 告 人 の 自 白を 含 めて 後 の 手 続 経 過 に基 づ き,な お も事 前 に告 知 され た刑 幅 の 範 囲 内で 自 由な 心 証 形 成 に基 づ く判 断 を 行 う こ とが で き るか らで あ る。 また,こ の よ うな 形 で 事 前 に裁 判 所 の 判 断 を 伺 い知 る こ と は,手 続 関 係 人(特 に被 告 人)に と っ て も都 合 が よ い。 被 告 人 が 自 白す る意 思 を 持 って い る と き,手 続 の 争 点 は も っぱ ら量 刑 に絞 られ る こ と にな るが,被 告 人 は,自 身 の 訴 訟 行 為(自 白) 15.

(16) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. が も た らす 効 果 を 事 前 に知 る こ と は,以 後 の 行 動 を 決 定 す る た め に必 要 で あ る。 他 方,検 察 官 に お いて も,量 刑 につ いて 不 当 に低 い評 価 が な され る こ とが な い よ う,応 訴 の 手 段 が 残 され て い る。 具 体 的 量 刑 は,行 為 者 の 責 任 に 相 応 し た も の で な け れ ば な ら な い (StGB46条)。. 裁 判 所 は,被 告 人 の 自 白を 内 容 とす る合 意 が結 ば れ た 場 合. で も,量 刑 の 一般 原 則 に従 って,被 告 人 に有 利 又 は不 利 とな る一切 の 事 情 を考 慮 して 刑 量 を 決 定 しな けれ ばな らず,そ の 際,責 任 の 上 限 及 び下 限 を 逸 脱 して はな らな い。 も ち ろん,被 告 人 が も っぱ ら訴 訟 戦 略 的 に(自 白 に よ り減 刑 を 買 い取 る と い う意 味 で)自. 白す る場 合 は と もか く,自 身 の 罪 を. 認 識 し反 省 悔 悟 の 結 果 と して 自 白す る場 合 に は,自 白を 減 刑 方 向 で 考 慮 す る こ と は許 され る。 この よ うな 罪 の 認 識 及 び反 省 悔 悟 の 念 は主 観 的 事 情 で あ る た め,通 常 は その 存 在 の 判 定(純 訴 訟 戦 略 的 自 白 との 区 別)が 困 難 で あ るが,訴 訟 戦 略 目的 と罪 の 認 識 及 び反 省 悔 悟 の 念 が 併 存 す る こ と は あ り う る し,量 刑 事 情 に関 して も プ ロ レオ 原 則 が 適 用 され るべ き こ とか ら,認 定 に あ た って の 不 都 合 性 はな い。 手 続 面 及 び実 体 面 に お いて 適 法 に成 立 した合 意 は,判 決 形 成 に あ た り裁 判 所 を拘 束 す る。 公 正 手 続 原 則 は,裁 判 所 の 言 動 が 手 続 関 係 人 に お いて 信 頼 を生 じさせ る と き,裁 判 所 が み だ りに前 の 言 動 に反 す る行 動 を と る こ と を禁 止 す る。 但 し,こ の よ うな 拘 束 は絶 対 的 な もの で はな く,合 意 締 結 の 後 で 判 決 に影 響 を 与 え る重 大 な 事 情 が 新 た に判 明 した場 合(例 え ば 当初 軽 罪 と み られ て い た所 為 が実 は重 罪 で あ る こ とが 判 明 した 場 合 な ど),裁 判 所 は,事 前 の 合 意 か ら離 脱 す る こ とを 許 され る。 但 し,そ の 際 も,公 正 手 続 原 則 に基 づ く信 頼 保 護 の 要 請 か ら,裁 判 所 は,合 意 か ら離 脱 す る こ とを, 事 情 を説 明 して 告 知 しな けれ ばな らな い。 以 上 を 前 提 に,本 件 は,合 意 に際 し,個 別 刑 及 び併 合 刑 の 算 定 に関 して 特 定 の 刑 量 が 約 束 され て い た事 例 で あ り,合 意 の 内容 と して 許 され な い も 16.

(17) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). の で あ っ た。 この 結 論 は,実 際 に宣 告 され た刑 が 結 果 的 に責 任 に相 応 す る もの で あ っ た と い う理 由で 変 更 され る もの で はな い。 な ぜ な ら,裁 判 所 の 量 刑 判 断 は,合 意 に基 づ くもの で あ って,公 判 の 総 体 か ら 自 由 に判 断 され た結 果 で はな いか らで あ る。 ま た,こ の よ うな 王 段疵 あ る合 意 が な けれ ば よ り低 い 刑 が科 され た と い う可 能 性 も否 定 で き な い。 特 定 刑 量 の 合 意 に よ り,告 知 した刑 量 よ り低 い刑 を 科 さな い との 約 束(検 察 官 に対 す る)ゆ え に,被 告 人 に有 利 な 方 向 で の 判 断 が 排 除 され て しま った 。 【小. 括】. この よ う に して,BGH刑. 事 第 四部 は,従 来 か ら実務 で実 際 に行 わ れ,質. 量 と も に顕 著 に増 加 して き た判 決 合 意 につ いて,そ の 適 法 性 を 正 面 か ら肯 定 す る と と も に,合 意 手 続 が 許 容 され る た めの 条 件 を 詳 細 に示 した 。 適 法 性 条 件 を 列 挙 す る と,次 の と お りで あ る。. (合意 の手 続) 公 判 外 で 合 意 に向 け た事 前 協 議 を 開 くこ と もで き るが,そ の 内容 は,公 開 公 判 で 公 表 され な けれ ばな らな い。 合 意 自体 は,公 開 公 判 の 場 で,全 て の 手 続 関係 人 が 関 与 した 上 で 締 結 され な けれ ば な らな い(5)。 合意 の本質的 内容 につ いて,事 前 協 議 を含 め て公 判 調 書 に記 載 さ れ な け れ ば な らな い(6)。. (5)BGH刑. 事 第 二 部1999年11月17日. 判 決(BGHSt45,312)に. よ る と,裁 判 所. が 中間 評 議 を経 て 被 告 人 が 自 白 した場 合 の刑 の上 限 を告 知 す るに 際 し,事 前 に 全 て の 手 続 関 係 人(特. に検 察 官)に 意 見 表 明 の機 会 を与 え な か った 場 合,予 断. を 持 った 裁 判 の 虞 を 理 由 とす る裁 判 官 忌 避 が 認 め られ る こ と にな る。 (6)BGH刑. 事 第 四 部2003年1月21日. 決 定(NJW2003,1404)に. よ る と,事 前. の 合 意 が 一・ 定 の 理 由で 中絶 し,裁 判 所 が合 意 か ら離 脱 す る場 合,そ の 旨の 事 前 の 告 知 が 必 要 で あ るが,そ. の告 知 も法 廷 調 書 に記 載 して お か な け れ ば な らず,. そ れ が 記 載 され て い な い と き は,被 告 人 は,上 告 審 に お い て,事 前 の 合 意 が ま だ 有 効 で あ る こ とを 主 張 す る こ とが で き る。. 17.

(18) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. (合意 の 内容) 自 白を 条 件 に減 刑 を 約 束 す る こ とが で き る。 その 際,刑 の 上 限 を 告 知 す るな ど一一 定 の 刑 幅 を 提 示 す る こ と はで き るが,特 定 の 刑 量 を 約 束 す る こ と はで きな い(7)。 上 訴 放 棄 の 約 束 は,許 され な い。 (合意 の効 果) 裁 判 所 は,適 法 に成 立 した合 意 に拘 束 され る。 但 し,事 後 に判 決 に影 響 を与 え る重 大 事 情 が 判 明 した場 合,合 意 か ら離 脱 す る こ とが で き る(8)。そ の 場 合,手 続 関 係 人 に対 し,離 脱 す べ き事 情 を 説 明 し,離 脱 す る 旨を 告 知 しな けれ ばな らな い(9)。. (4)2005年. 大刑事部決定. (i)1997年BGH刑. 事 第 四部 基 本 判 決 に よ り,合 意 の適 法 性 及 びそ の 具 体. 的 基 準(具 体 的事 件 の判 断 に必 要 な 範 囲 を超 え て)が 明示 され た こ とか ら, 判 決 合 意 に お いて 遵 守 され るべ き手 続 及 び許 容 され る 内容 に関 して,実 務 に対 す る一一 定 の 指 針 が 確 立 した。 も っ と も,そ の数 年 後,BGHは,改. めて. 判 決 合 意 に関 す る重 要 問 題 に取 り組 まな けれ ばな らな か っ た。 基 本 判 決 で. (7)BGH刑. 事 第 五 部1999年4月20日. 判 決(NStZ1999,571)に. よ る と,被 告 人. が 自 白す る前 に 自身 の 自 白 を裁 判 所 が ど う評 価 す るか を 知 る こ とは そ の 防 御 活 動 の 保 護 に資 す る もので あ り,ま た,具 体 的刑 量 の 決定 は最 終 の 評 議 に留 保 さ れ て い るた め 判 決 を 先 取 り した こ と には な らな い。 (8)BGH刑. 事 第 五 部2004年6月9日. 決 定(NStZ2005,115)に. よ る と,自 白 に. 対 す る刑 量 が 前 の有 罪 判 決 に よ る刑 を取 り込 ん だ併 合刑 と して 算 定 され た が, 事 後 に法 律 上 の 理 由 で前 の刑 と の併 合 が許 さ れ な い こ とが判 明 した た め 合 意 が 中絶 し た と き,最 終 の刑 量 は,合 意 に 際 し算 定 さ れ た刑 量 よ り も低 く され な け れ ば な らな い。 (9)BGH刑. 事 第 一 部2001年9月26日. 対 し執 行 猶 予 無 しの2年 的 に2年6月. 決 定(NStZ2002,219)に. よ る と,自 白 に. の 自 由刑 が合 意 さ れ た が,後 に これ が 中 絶 して,最 終. の 自 由刑 を科 す と い う場 合,量 刑 に 関 す る防御 を保 障 す るた め,. 合 意 か らの 離 脱 につ いて 事 前 の 告 知 が 必 要 で あ る。. 18.

(19) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). も示 され た と お り,上 訴 審 で の 事 後 審 査 を 確 保 す るた め,判 決 合 意 に際 し 上 訴 放 棄 を 約 束 させ る こ と は禁 止 され るの で あ るが,裁 判 実 務 で は,早 期 の 事 件 処 理 や 何 らか の 王 段疵 を 覆 い隠 す と い っ た動 機 か ら,な お も上 訴 放 棄 を 内容 とす る合 意 が 締 結 され,実 際 に,被 告 人 が 判 決 宣 告 直 後 に事 前 の 合 意 に基 づ いて 上 訴 を 放 棄 す る と い っ た現 象 が,依 然 と して しば しば見 受 け られ た。 この 問 題 は,事 柄 の 性 質 上,上 告 審 で検 討 さ れ る可 能 性 に乏 し く, 実 際 に無 数 の 事 例 で この よ うな 基 本 判 決 で 示 され た 適 法 基 準 を 潜 脱 す る よ うな 取 扱 が な され て い る こ とが 推 測 され る。 それ で もな お,い 案 で 被 告 人 よ り上 告 が提 起 され,BGHの. くつ か の 事. 各 部 が,現 実 に表 明 さ れ た 上 訴. 放 棄 の 有 効 性 につ いて 判 断 して い る⑩。 (li)こ の 問 題 につ いて,BGHで 事 第 二 部1997年6月20日. 初 めて 明 示 で 判 断 したの は,前 掲BGH刑. 決 定 で あ ろ う。 刑 事 第 二 部 は,刑 事 第 四 部 に よ る. 基 本 判 決 の 約2か 月 前 に,上 訴 放 棄 約 束 を 判 決 合 意 の 対 象 とす る こ と は許 され な い と して も,そ の よ うな 王 段疵 は,被 告 人 が 合 意 に基 づ いて 判 決 宣 告 直 後 に表 明 した上 訴 放 棄 を 無 効 と させ る もの で はな い と判 示 した 。 刑 事 第 二 部 は,(違 法 な)合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 が無 効 とさ れ る の は,「 合 意 を 不 許 容 と させ る事 情 が,同 時 に,約 束 に基 づ き表 明 され た 上 訴 放 棄 の 法 的 否 認 を も導 く場 合 」 だ けで あ る と して い る。 本 件 被 告 人 は,弁 護 人 か らの 助 言 に基 づ き,合 意 締 結 か ら実 際 に上 訴 放 棄 を 表 明 す る まで 十 分 な 熟 慮 時 間 が 与 え られ て い た と して,当 該 事 件 で 上 訴 放 棄 は有 効 で あ った と結 論 付 け られ て い る。 刑 事 第 二 部 は,2001年6月11日. 決 定(StV2001,557)に. おい. て,自 身 の 前 掲1997年 決 定 を 前 提 に,実 際 に表 明 され た 上 訴 放 棄 の 有 効 性 は合 意 の 有 効 性 自体 と は異 な る評 価 に服 す る,被 告 人 が 実 際 に合 意 に基 づ いて 上 訴 放 棄 を 表 明 す るか 否 か はな お も 「彼 の 自 由な 判 断 」 に ゆだ ね られ ⑩. この 問 題 につ いて,辻 本 典 央 「 上 訴 放 棄 及 び 取下 の諸 問 題 」 近 法55巻1号47 頁(2007年)。. 19.

(20) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. て お り,上 訴 放 棄 の 有 効 性 は その よ うな 判 断 に対 す る不 当な 侵 害 が あ っ た か 否 か と い う問 題 にか か って い る と判 示 して い る。 刑 事 第 五 部 は,1999年4月21日. 判 決(BGHSt45,51)に. お い て,前 掲 刑. 事 第 二 部1997年 決 定 を 支 持 した。 刑 事 第 五 部 は,第 二 部 と 同様 の 基 準 を 定 立 した上 で,具 体 的 事 件 につ いて,合 意 は公 判 外 で2名 の 被 告 人 につ いて 個 別 的 に検 察 官 を 除 外 して 結 ばれ た もの で あ り,裁 判 所 に起 因 す る環 疵 か ら被 告 人 の 防 御 に不 利 益 を 与 え た(被 告 人 の 期 待 に反 して 未 決 勾 留 は停 止 され な か った)と. して,「 上 訴 放 棄 は合 意 成 立 に 関 す る全 体 的 事 情 か ら無. 効 」 と した。 第 五 部 は,2001年9月5日. 決 定(StfaFO2004,21)で. も,右. 見 解 を維 持 して い る(具 体 的 事 例 で,上 訴 放 棄 を 無 効 と させ る事 情 は認 め られ な か っ た)(ll)。 刑 事 第 四 部 は,自 (BGHSt45,227)で. 身 の 基 本 判 決 か ら2年. 後,1999年10月19日. 決定. この 問 題 に取 り組 ん だ 。 第 四 部 は,合 意 に基 づ いて 表. 明 され た被 告 人 の 上 訴 放 棄 を 無 効 と したが,そ の結 論 は,「上 訴 放 棄 が 判 決 に先 行 す る合 意 の 要 素 で あ っ た と い う こ とか ら導 か れ る」 と判 示 し,そ う で な けれ ば 「上 訴 放 棄 約 束 禁 止 に対 す る違 反 が 制 裁 な き もの とな って しま う」 と説 明 して い る。 も っ と も,第 四 部 は,前 掲 刑 事 第 二 部1997年 決 定 を 意 識 し,本 件 で は合 意 に基 づ き表 明 され た上 訴 放 棄 を 無 効 と させ るべ き事 情 が 合 意 に 内在 して い た こ と(被 告 人 側 と検 察 官 とで 約 束 され た他 事 件 の 手 続 打 切 の 範 囲 につ いて 各 々の 認 識 に齪 齪 が あ り,裁 判 所 に お いて 合 意 の 内容 を 明 確 にす る た め その 結 果 を 調 書 に記 載 す る と い う こ とが 怠 られ て い た)を あわ せ て 判 示 して い る。 qD刑. 事 第 五 部 は,2004年4月20日. 決 定(NJW2004,185)に. お い て,検 察 官 が. 合 意 に向 け た事 前 交 渉 及 び最 終 弁 論 に お い て,被 告 人側 が上 訴 を 放 棄 しな けれ ば,裁 判 所 が 予 定 す る未 決 勾 留 停 止 に対 し異 議 を 申 し立 て る と述 べ た こ とが, 上 訴 放 棄 の 意 思 表 示 に対 す る不 当 な圧 力 行 使 と して上 訴 放棄 と させ る と判 示 し て い る。. 20.

(21) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). 刑 事 第 一 部 は,2000年3月8日. 決 定(NStZ2000,386)に. お い て,刑 事. 第 五 部 と 同様,前 掲 刑 事 第 二 部1997年 決 定 を 支 持 した 。 刑 事 第 一 部 は,や は り,合 意 締 結 に際 して の 暇 疵 は,「 当該 手 続 的 王 段疵 が 上 訴 放 棄 の 表 明 に際 し,被 告 人 の 意 思 形 成 に不 当な 侵 害 を 導 い た場 合 に限 り,合 意 に基 づ いて 実 際 に表 明 され た上 訴 放 棄 を 無 効 と させ る」 と判 示 し,本 件 で そ の よ うな 事 情 は認 め られ な い と して,合 意 に基 づ いて 表 明 され た 上 訴 放 棄 を 有 効 で あ る と した。 第 一一 部 は,2001年12月5日. 決 定(NStZ-RR2002,114)で. も,. 右 見 解 を 維 持 し,合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 が 無 効 とな りう るた めの 特 段 の 事 情 は,裁 判 長 が い っ たん(不 許 容 の 上 訴 放 棄 約 束 に対 す る)利 益 を 約 束 し つ つ それ を 遵 守 しな か っ た場 合 や,合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 が 判 決 宣 告 前 に 表 明 され た場 合 な どで は認 め られ るが,単. に上 訴 放 棄 約 束 に対 す る利 益 へ. の 期 待 を 生 じさせ た と い うだ けで は認 め られ な い と判 示 して い る。 この よ う に,BGHの. 刑 事 部 内 で は,若 干 の対 立 が見 られ た。 す な わ ち,. 刑 事 第 二 部 は,上 訴 放 棄 の 有 効 性 は事 前 に それ が 合 意 の 要 素 と され て いた こ と にか か わ る もの で はな く,上 訴 提 起 に関 す る意 思 決 定 に対 す る不 当 な 侵 害 と い っ た特 段 の 事 情 が 認 め られ る場 合 に限 られ る と し,刑 事 第 五 部 及 び刑 事 第 一一 部 も これ に賛 成 す るの に対 し,刑 事 第 四 部 は,第 二 部 の 見 解 に 一一 定 の 配 慮 を 示 しつ つ も,自 身 の1997年 基 本 判 決 の 趣 旨(上 訴 放 棄 を 合 意 の 要 素 と して 約 束 させ る こ との 禁 止)を 徹 底 させ るべ く,上 訴 放 棄 は基 本 的 に それ が 事 前 に合 意 に際 して 約 束 され て い た場 合 はそ れ の み で 無 効 を 導 くとの 見 解 を 主 張 した。 ㈹ この よ うな 状 況 に お いて,こ の 問 題 に関 して 明 確 な 態 度 決 定 を して い な か っ た刑 事 第 三 部 は,2件. の 上 告 を 機 縁 と して,事 前 の 合 意 に際 し上 訴. 放 棄 約 束 が な され た場 合 の 上 訴 放 棄 の 有 効 性 如 何 と い う問 題 に取 り組 む こ と にな っ た。 上 告 され た2件 の う ち,第 一一 のA事 件 は,被 告 人 が 裁 判 所 及 び検 察 官 との 間 で 一一 定 の 減 刑 に対 して 自 白及 び上 訴 放 棄 を 行 う こ とを 約 束 21.

(22) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. した と い う事 案 で あ り,第 二 のB事 件 は,A事. 件 と は異 な り,合 意 自体 は. 自 白 と引 き換 え に減 刑 を 約 束 す る もの で あ り,た だ 裁 判 所 が 「上 訴 放 棄 を 期 待 す る」 と述 べ た に と ど ま る と い う事 案 で あ っ た。 第 三 部 は,正 式 に上 訴 放 棄 を 約 束 す るか 又 は単 に それ を 示 唆 す るか で,判 決 合 意 に向 け た具 体 的 事 情 の 下 で は本 質 的 違 いが な く同様 に解 す るべ き と し,結 論 に お いて, いず れ も被 告 人 が 実 際 に表 明 した上 訴 放 棄 を 無 効 で あ る と判 断 した。 上 訴 放 棄 を事 前 に約 束 させ る こ との 禁 止 は,上 訴 放 棄 が 実 際 に表 明 され た場 合 に これ を 無 効 と しな けれ ば,事 後 の 是 正 機 会 が 一切 失 わ れ る こ と とな り, 先 行 の 違 反 に対 す る制 裁 が 全 く発 動 され な い こ と にな って しま う,と い う わ けで あ る。 しか し,2件. と も,上 訴 放 棄 が 合 意 の 対 象 と され 又 は裁 判 所 が それ を 示. 唆 した と い う以 外,被 告 人 の 上 訴 放 棄 を 無 効 とす るべ き特 段 の 事 情 が 認 め られ な か っ た た め,第 三 部 は,右 結 論 は他 の 刑 事 部 の 先 行 裁 判 例 と矛 盾 す る もの と考 え た。 そ こで,第 三 部 は,BGHの. 他 の 刑事 部 に宛 て て,本 件 で. 自 らが 予 定 す る結 論 と矛 盾 対 立 す る見 解 を 各 部 は それ ぞ れ 維 持 す るか ど う か,質. 問 を発 す る こ とを 決 定 した(BGH刑. NJW2003,3426=「. 事 第 三 部2003年7月24日. 決定. 質 問決 定 」)。. 第 三 部 の 質 問 に対 し,BGH各. 刑 事 部 は,次 の とお り回 答 を寄 せ た(=. 回 答 決 定)。 ま ず,刑 事 第五 部(2003年10月29日. 決 定NJW2004,1335)は,. 質 問 決 定 が 予 定 す る結 論 を 支 持 し,こ れ と対 立 す る 自身 の 見 解(特. に前 掲. 2001年 決 定 で 示 した見 解)を 改 め る と判 示 した。 第 五 部 は,そ の 理 由 と し て,不 許 容 の 合 意 に対 す る制 裁 の 確 保 の 必 要 性,及. び,こ の よ うな 合 意 に. お いて 被 告 人 は通 常 上 訴 放 棄 約 束 に拘 束 され る と考 え る もの で あ り,上 訴 提 起 に向 け た意 思 決 定 が 十 分 保 障 され る と は いえ な い こ と(特 に判 決 直 後 に上 訴 放 棄 が 表 明 され る事 情 か ら)を 挙 げて い る。 も っ と も,第 五 部 は, さ らに,質 問 の 対 象 とな っ た具 体 的 事 件 に関 係 はな い と断 っ た上 で,被 告 22.

(23) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). 人 の 上 訴 提 起 如 何 に向 け た意 思 決 定 が 十 分 保 障 され て い る場 合,つ. ま り,. 上 訴 教 示 に際 し,通 常 の 権 利 告 知 に加 え て,事 前 の 合 意 に もか か わ らず な お も被 告 人 は 自 由 に上 訴 提 起 につ いて 判 断 す る こ とが で き る と い う こ とが 加 重 的 に教 示 され た場 合(qualifiziertenBelehrung)に. は,そ の 後 に表 明. され た上 訴 放 棄 を 有 効 とす るべ き との 見 解 を 付 け加 え て い る。 また,判 決 が 合 意 に基 づ いて 約 束 ど お りの 内容 で 下 され た場 合,上 訴 に一 定 の 制 限 を 加 え るべ き必 要 が あ る と も判 示 され て い る。 刑 事 第 四 部(2003年11月25日. 決 定4ARs32/03=未. 公 刊)も,第. 五部 と. 同様,質 問 決 定 が 予 定 す る結 論 に賛 成 し,自 身 の 従 前 の 裁 判 例(前 掲1999 年10月19日 決 定)は. これ と矛 盾 す る もの で はな い と回 答 して い る。 も っ と. も,第 四 部 も,加 重 的 教 示 が な され た場 合 に は上 訴 放 棄 を 有 効 とす る見 解 を 示 し,こ の 問 題 の 判 断 を 求 めて 大 刑 事 部 へ 事 件 回 付 す る こ とを 提 案 して い る。 これ に対 し,刑 事 第一 部(2003年11月26日. 決 定NStZ2004,164)は,質. 問 決 定 で 示 され た見 解 を は っ き り批 判 し,こ れ と矛 盾 対 立 す る 自身 の 裁 判 例(前 掲2000年3月8日. 決 定 及 び2001年12月5日. 決 定)を 維 持 す る と回 答. した。 第 一一 部 は,そ の 理 由 と して,第 三 部 の 見 解 は法 的 根 拠 を 欠 いて い る こ と,上 訴 放 棄 の 意 思 表 示 は それ に よ って 直 ち に判 決 を 確 定 させ る と い っ た重 要 な 訴 訟 行 為 で あ り,意 思 形 成 に重 要 な 王 段疵 が 認 め られ る場 合 は と も か く,基 本 的 に取 消/撤 回 が 許 され な い性 質 の もの で あ る こ と,そ の よ う な 意 味 で の 訴 訟 行 為 の 効 力 は単 に その 前 提 と して 不 許 容 の 合 意 が 締 結 され た こ との み を も って 否 定 され るべ きで はな い こ と,早 期 の 判 決 確 定 に関 し て 被 告 人 に も利 益 が あ り,彼 が 弁 護 人 と十 分 に相 談 した上 で 上 訴 放 棄 を 表 明 した以 上 そ こ に保 護 され るべ き利 益 は認 め られ な い こ と,そ. して,第 三. 部 が 強 調 す る不 許 容 の 合 意 を 行 っ た裁 判 官 に対 す る 「制 裁 」とい う観 点 は, む しろ合 意 関 与 者 が その よ うな 不 許 容 の 合 意 に拘 束 され な い こ と,つ ま り 23.

(24) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. 上 訴 を提 起 す る こ と に よ って 十 分 に図 られ う る こ とを 指 摘 して い る。 そ し て,第 一一 部 も,問 題 の 重 要 性 ゆえ に,大 刑 事 部 へ の 回 付 を 提 案 して い る。 ま た,刑 事 第 二 部(2004年1月28日. 決 定NJW2004,1336)も,第. 一部. の 右 見 解 を 支 持 し,質 問 決 定 で 示 され た見 解 と矛 盾 対 立 す る 自身 の 裁 判 例 (前 掲1997年6月20日. 決 定 及 び2001年6月11日. 決 定)を 維 持 す る と回 答 し. た。 第 二 部 も,第 一一 部 と 同様 の 理 由を 挙 げ,さ. らに,第 五 部 及 び第 四 部 が. 支 持 す る加 重 的 告 知 要 件 は,た いて い被 告 人 に弁 護 人 が 付 いて い る た め不 要 で あ り,上 訴 教 示 自体 全 体 が そ も そ も放 棄 可 能 と され て い る以 上,実 務 に お け る実 質 的 な 影 響 を 持 ちえ な い と批 判 す る。 そ して,第 二 部 も,や は り問 題 の 重 要 性 ゆえ に,大 刑 事 部 へ の 回 付 を 提 案 して い る。 以 上 か ら,第 三 部 の 質 問 に対 し,第 五 部 と第 四 部 が これ を 支 持 し,第 一一 部 と第 二 部 が 反 対 す る とい う結 果 に な り,BGH刑. 事 部 内 で の 対 立 は,依. 然 と して 解 消 され な い ま ま とな っ た。 第 三 部 は,こ の 結 果 を 受 けて,2004 年6月15日. 決 定(NJW2004,2536=回. 付 決 定)に よ り,次 の 問 題 点 の 判 断. を求 めて,大 刑 事 部 に事 件 を 回 付 した(GVG132条2項,4項)。. ①. 判 決 合 意 に際 し,上 訴 放 棄 を 約 束 させ る こ と は許 され るか 。. ②. 裁 判 所 は,判 決 合 意 に際 し,上 訴 放 棄 の 表 明 に作 用 す る こ と(明 示 の 約 束 又 は示 唆 の 形 で)を 許 され るか 。. ③(①. ② が不 許 容 で あ る と して)事 前 に判 決 合 意 が締 結 さ れ,そ こで 被. 告 人 の 上 訴 放 棄 も約 束 され た場 合,又. は合 意 の 協 議 に お いて 裁 判 所 が. 上 訴 放 棄 を 示 唆 した場 合,被 告 人 が その 後 実 際 に行 っ た上 訴 放 棄 は有 効か。. な お,第 三 部 は,回 付 決 定 の 中で,第 一一 部 及 び 第二 部 の批 判 に 答 え る形 で, 判 決 合 意 に関 す るル ール 付 け は いわ ば法 律 解 釈/適 用 の 結 果 と して の 判 例 24.

(25) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). ル ール で あ り法 的 根 拠 に基 づ くもの で あ る こ と,不 許 容 の 合 意 に対 す る是 正 と い う形 で 下 級 審 裁 判 所 の 措 置 に コ ン トロ ール を 及 ぼ す こ と は ま さ に上 告 裁 判 所 と して の 任 務 で あ る こ とを,強 調 して い る。 (iv)以 上 の経 緯 を経 て,判 決 合 意 の 問題 がBGH大 れ る こ と にな っ た。BGH大 =大 法 廷 決 定)に. 刑 事 部 は,2005年3月3日. 刑事部 で初めて審理 さ 決 定(BGHSt50,40. お いて ,要 旨次 の と お り判 示 し,回 付 決 定 で 提 示 され た. 問 題 点 に判 断 を 下 した⑫。 大 刑 事 部 は,ま ず,① 及 び② につ いて,裁 判 所 が 判 決 合 意 に際 し手 続 関 係 人 との 間 で 上 訴 放 棄 を 約 束 させ る こ と,及 び,そ れ を 示 唆 す るな ど上 訴 放 棄 に作 用 す る こ と はす べ て 許 され な い と した。 そ の 理 由 と して,法 治 国 家 的 刑 事 手 続 に お いて 上 訴(上 告)審. に よ る事 実 審 裁 判 所 の 裁 判 へ の 実 効. 的 コ ン トロ ール が 維 持 され て いな けれ ばな らな い,事 実 審 裁 判 所 が そ の こ と を忘 れ て 自身 の 裁 判 を 上 訴 審 で の 審 査 か ら免 れ る よ う に仕 向 け る こ と は,事 実 の 解 明,法 律 適 用,責 任 に相 応 した刑 の 決 定 にお いて 判 決 形 成 に 際 し必 要 と され る配 慮 を 欠 いて い る こ とを 懸 念 させ る と判 示 され て い る。 も っ と も,問 題 ③ につ い て は,判 決 合 意 に 際 し上 訴 放 棄 が約 束 さ れ た こ と, 又 は裁 判 所 が それ に作 用 した こ とを も って,直. ち に,そ の 後 実 際 に表 明 さ. れ た上 訴 放 棄 を 無 効 と させ る との 第 三 部 の 見 解 に は,異 論 が 唱 え られ た 。 す な わ ち,大 刑 事 部 は,第 三 部 が 主 張 す る よ う に,「裁 判 所 が 判 決 合 意 に際 し上 訴 放 棄 を 約 束 させ る こ との 禁 止 を 実 効 的 な もの とす るた め に は,そ の よ うな 不 許 容 で あ る判 決 合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 を 無 効 とす る こ とが 必 要 で あ る」 と述 べ つ つ,上 訴 放 棄 が 確 定 力 を は じめ多 くの 法 律 効 果 を 生 じさせ. ⑰. な お,連 邦 検 事 総 長 は,大 刑 事 部 の審 理 に お け る意 見 表 明 と して,回 付 問 題 ① 及 び② と も に,被 告 人 に弁 護 人 が い る場 合 に は い ず れ も許 容 され る,そ れ ゆ え,問 題 ③ も,弁 護 人 が い る こ と を前 提 に有 効 で あ る と述 べ て い る(大 法 廷 決 定AV)。. 25.

(26) 近畿大学法学. 第57巻 第2号. る訴 訟 行 為 で あ る こ と に鑑 み,法 的 安 定 性 の 見 地 か ら,第 五 部 及 び第 四 部 が 回 答 決 定 で 指 摘 した よ う に 「加 重 的 教 示 」 が 行 わ れ,そ れ で も被 告 人 が 上 訴 放 棄 を 表 明 した場 合 に は これ を 有 効 とす る と結 論 付 けて い る。 大 刑 事 部 は,そ の 理 由 と して,判 決 合 意 自体 と それ に基 づ く上 訴 放 棄 の 表 明 は, 別 々の 訴 訟 行 為 で あ り,判 決 宣 告 を 切 れ 目 と して 手 続 的 に も異 な る段 階 で 行 わ れ る もの で あ る こ とか ら,上 訴 権 者(特. に被 告 人)は 合 意 に拘 束 され. る こ とな く自 由 に上 訴 提 起 す る こ とが で き る こ とを 挙 げて い る。 そ して, 判 決 合 意 に際 し上 訴 放 棄 が(不 許 容 的 に)約 束 され た場 合,被 告 人 は,上 訴 放 棄 を 強 制 され る もの と考 え る(弁 護 人 か らも通 常 その よ う に指 示 され る)た め,通 常 の 上 訴 教 示 だ けで は不 十 分 で あ り,合 意 に拘 束 を 受 けず に 上 訴 提 起 で き る と裁 判 所 か ら明 示 で 「加 重 的 に」 教 示 され な けれ ばな らな い と して,加 重 的教 示 要件 の必 要性 が説 明 され て い る。 な お,大 刑 事 部 は, 加 重 的 教 示 が 行 わ れ ず に上 訴 放 棄 を 表 明 した 場 合,上. 訴放棄 は無効 で あ. り,な お も上 訴 提 起 は可 能 で あ るが,そ れ は上 訴 期 間 内 に行 わ れ な けれ ば な らな い とす る。 その 理 由 と して,い. っ たん 上 訴 放 棄 を 表 明 した者 が 一一 度. も表 明 して いな い者 に比 べ て 有 利 な 地 位 に おか れ る もの で はな い と い う こ と が 指 摘 さ れ て い る。 ま た,上 訴 期 間 途 過 につ い て 上 訴 権 者 に 過 失 が な か っ た場 合,そ の請 求 に よ り原 状 回復 が 認 め られ(StPO44条1文),例. え. ば上 訴 教 示 が 行 わ れ な か った と き は 右 無 過 失 性 が 推 定 され る が(同 条2 文),上 訴 教 示 が加 重 的 に で は な く,通 常 の 形 で の み 行 わ れ た と い う場 合 に は右 推 定 規 定 は適 用 され な い と され る。 その 理 由 と して,こ の 場 合,上 訴 権 者 は上 訴 権 の 存 在 自体 は認 識 し,た だ 判 決 合 意 の 結 果 を 受 け入 れ て 上 訴 審 査 を望 まな い と い っ た もの も含 めて 多 様 な 動 機 か ら上 訴 を 放 棄 す るの が 通 例 で あ る こ とが 挙 げ られ て い る。 この よ う に,大 刑 事 部 は,回 付 決 定 で 提 起 され た問 題 点 につ いて 明 確 な 回 答 を示 し,合 意 に基 づ く上 訴 放 棄 表 明 の 有 効 性 如 何 と い う実 務 上 重 要 な 26.

(27) 刑 事 手 続 にお け る取 引(1). 問 題 点 につ いて,原 則 と して これ を 無 効 と しつ つ,加 重 的 教 示 が 行 わ れ た 場 合 に有 効 とす る との 基 準 を 提 示 した。 も っ と も,大 刑 事 部 は,判 決 合 意 に関 す る議 論 が これ で 収 束 す る もの で はな く,多 様 な 問 題 点 が 残 され て い る こ と も指 摘 して い る。 す な わ ち,大 刑 事 部 は,判 決 合 意 の そ もそ もの 許 容 性 につ いて,1997年. 刑 事 第 四 部 基 本 判 決 の 見 解 を 支 持 し,そ こで 示 され. た許 容 性 基 準 も基 本 的 に確 証 しつ つ(但. し,裁 判 所 が 判 決 合 意 か ら離 脱 す. る こ とが で き る条 件 と して,判 決 に影 響 を 与 え るべ き重 大 事 情 が 事 後 に判 明 した場 合 だ けで な く,判 決 合 意 の 時 点 で 既 に存 在 して いた 事 実 点 又 は法 律 点 が 単 に見 落 と され て い た にす ぎな い場 合 に も拡 張 して い る),な お も, 次 の 問 題 点 につ いて の 解 明 が 必 要 で あ る と指 摘 す る。. ●. 判 決 合 意 の 内容 に拘 束 を 受 け るの は,合 意 に関 与 した 事 実 審 裁 判 所 だ けか,又. ●. は上 訴 審 や 差 戻 審 も拘 束 され るか 。. 一一 定 の 事 情 に よ り判 決 合 意 へ の 拘 束 性 が 消 滅 した と き,事 前 に行 わ れ た 自 白 は,な お も証 拠 と して 使 用 で き るか 。. ●. 裁 判 所 が 判 決 合 意 で 示 した約 束 は,他 の 手 続 関 係 人 が 合 意 に不 関 与 又 は不 同意 で あ っ た場 合 も,な お拘 束 力 を 持 つ か 。. ●. 約 束 の 拘 束 力 は,判 決 合 意 の 結 果 が 公 判 で 公 表 及 び調 書 化 さ れ な か っ た場 合 も認 め られ るか 。. ●. 判 決 合 意 が 行 わ れ た と き,上 訴 は,一 一 定 の 範 囲 に制 限 され るべ きか (特 に一一 定 の手 続 違 反 や解 明義 務 違 反 の主 張 は排 斥 さ れ る べ き か)⑬。. q3)StpO344条2項2文. に よ る と,上 告 に 際 し手 続違 反 を主 張 す る場 合,暇 疵 が. あ る と され る手 続 事 象 を明 確 かつ 詳 細 に記 述 しな け れ ば な らな い が,連 邦 憲 法 裁 判 所 第 二 部2005年12月8日. 決 定(StV2006,57)に. る判 決 合 意 手 続 につ い て上 告 が提 起 さ れ た場 合,不. よ る と,刑 事 手 続 にお け 服 申 立 の 対 象 とな る 「手 続. 法 」 及 びそ の指 導 的 判 断 基 準 が十 分 確 立 さ れ て い な い た め,法 治 国 家 的 手 続 に お け る上 訴 保 障 の重 要 性 に か ん が み て,裁 判 所 が で き る限 り不 服 申 立 の 対 象 が 明 確 にな る よ う補 って 解 釈 す る こ とが 要 求 され る。. 27.

参照

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