経営層が
DX を理解するための
業務のモジュール化に基づく
EA の適用法について
田原祐子
1山本修一郎
21社会情報大学院大学 客員教授 2名古屋大学 名誉教授
An EA Application Approach using Business Modularization for
Management to Understand DX
Yuko Tahara
1Shuichiro Yamamoto
21
Graduate School of Information & Communication, Visiting Professor,
2Nagoya University, Professor Emeritus
概要 DX を成功させるには,経営層が DX と自社事業との関係を理解していなければならない.しかし,多くの 企業では各事業部門と IT 部門がサイロ化しているため,事業と DX の全体像の把握に基づく DX について経 営層が議論できていない. 本稿では,経営層による事業と DX の全体像の把握を容易化するため,フレーム&ワークモジュール法,エ ンタープライズアーキテクチャを用いた DX 理解を促進する方法を提案する. Abstract
For the success of DX, management must understand the relationship between DX and their corporate business. However, in many companies, each business division and IT department are siloed, so management cannot discuss DX based on an overall picture of business and IT.
In this paper, we propose a method to promote the understanding of DX using the frame & work module method and Enterprise Architecture in order to make it easier for management to grasp the overall picture of business and DX.
1.
はじめに
経済産業省は,2018 年に「DX レポート」[1]を公表 し Digital Transformation(以下,DX)を推進してき た.2019 年 7 月にはデジタル経営改革のための評価 指標(「DX 推進指標」)[2]を提示するとともに, DX の 推進に当たっては,経営の監督を担う取締役・取締役 会が果たすべき役割も極めて重要であるとして,「DX 推進における取締役会の実効性評価項目」[3]を取り まとめた.しかし,2020 年 12 月に公表された「DX レ ポート 2」[4]では,依然 95%の企業が DX にまったく 取り組んでいないか,取り組み始めた段階であり,先 行企業と平均的企業の DX 推進状況には,大きな差が 生じていると述べている.同時期にアビームコンサ ルティングは,売上高 1000 億円以上の企業に実施したアンケート[5]結果を分析し,DX の成功と失敗の分 岐点を3点あげ,その一つに,「デジタル知見を有し た経営陣による意思決定」があげられている. ここで課題となるのは,経営層は概して年齢層が 高く,充分なデジタル時代を経験していない世代が 中心であり,日本が世界の中でも IT 化・DX が遅れて いるため,デジタル知見を有していないケースが多 いことである.ただし,彼らは卓越した経営手腕を有 しており,実際に自身が経験した分野より未経験の 分野が多い状態で CEO に着任し,手腕を発揮している. すなわち,経営者が事業全体のビジネスアーキテク チャを捉え,ビジネスを構成する要素・構造を把握し, DX 化のプロセスを理解できれば,DX によるビジネス アーキテクチャの変化が理解できれば,DX 加速時代 の事業運営において手腕を発揮できると考えられる. このため,本稿では,経営層による事業と DX の全 体像の把握を容易にするため,田原が多くの企業の 現場で業務改善と実践知の形式知化に活用してきた フレーム&ワークモジュール法[6-8](以下,F&WM 法), エンタープライズアーキテクチャ(以下,EA)を用い て,DX 理解を促進する方法を提案する. 以下では,まず 2 節で先行研究・関連研究について 述べ,3 節 F&WM 法・KW1,2,3 次元モデル,4 節 DX に 資するF&WM 活用方法,5 節 F&WM を活用した新規 事業創出,6 節 F&WM と EA の関係,7 節考察,8 節で, まとめと今後の課題について述べる.
2. 先行研究・関連研究
2.1 DX 課題への TOGAF 適用法 山本[9]によれば,DX 課題に EA フレームワークであ る TOGAF を適用できる.(表 1) 表1 DX 課題への TOGAF 適用法の概要 DX 課題 対処策 活用するEA 手法 役 員 が 理 解 で き る ア ー キ テ ク チ ャ 課 題の説明 ビジネスと IT の整合性を 説明するために,ビジネス ゴール,デジタルビジネス モデル,デジタルビジネス プロセスとDX 要求を対応 付ける手法としてDX 戦略 マップを定義 ビジネスゴール ビュウポイント ビジネスプロセス モチベーションモ デル アセスメント デ ジ タ ル 化 と ビ ジ ネ ス の 優 先 順 位 の 定義 デ ジタ ルケイ パビ リティ マ ップ に基づいて ビジネ ス価値 を創出 する デジタ ル化対 象ビジ ネス を定義 し優先順位を判断 ケイパビリティマ ップ ビジネスプロセス CBP(Capability Based Planning), CI(Capability Increment) DX 戦略の 策定 将来ア ーキテ クチ ャと現 行アー キテク チャ のギャ ップ分析によりDX ビジョ ンとDX ロードマップを定 義 アーキテクチャビ ジョン 参照アーキテクチ ャ ギャップ分析 変革ロードマップ 業 務 部 門 とIT 部門 の 連 携 の 構築 ビジネ スとデ ジタ ル技術 を整合さ せるデ ジ タ ルビ ジ ネス エコ システ ム を定 義し,DX 原則と DX 委員 会 によって 業務と デジタ ル技術を統制するDX ガバ ナンスを遂行 EA 階層 モチベーションモ デル EA 原則,EA 委員 会 EA ガバナンス 2.2 DX への EA の適用法 山本[9]によれば,DX への EA 適用機会は,以下の 通りである. ①役員が理解できるアーキテクチャ課題の説明をど うするか? ②デジタルビジネスの優先順位をどうするか? ③DX 戦略をどう策定するか? ④部門連携を実現する DX ガバナンスをどうする か? ・それぞれ,以下のように対応する必要がある. ①上級役員がDX の議論に参画できるように,EA に よりビジネスとIT の整合性を事業系役員に説明 ②DX 先進企業の 80%がケイパビリティマップを活 用して優先順位を明確化することによりビジネス プロセスを変革 ③DX 先進企業は将来計画の策定に時間を割いてい る.EA チームでは長期計画と日々のビジネス要求 の両立が必要 ④ビジネス部門にEA スキルとしてコミュニケーシ ション,コーチング,問題解決などの研修を提供す ることにより業務部門とDX のための強力な連携 を実現 2.3 ArchiMate による,F&WM 法の適応法 F&WM 法では,業務をモジュールに分解して業務 フレームとして統合することができる.田原,山本 [10]は,DX の前提として,F&WM 法により明確化した 業務と IT 化を連携するための手法として,F&WM 法と EA の図式言語である ArchiMate[11]を統合する方法 を提案している. 2.4 デジタル変革 デジタル変革(DX)が,現行企業をデジタル企業に 変革する手段として注目されている[1].DXでは,経 営層,ビジネス層,IT層が互いに連携する必要がある. DX推進指標[2]では,経営視点とIT視点からDX成熟 度を評価する35質問に基づく指標を提示している. しかし,DX推進指標では,これらの質問に答えるた めのDX戦略や,デジタル技術を活用した業務プロセ スを構築する知識が欠落している. このため,山本によるDBSC[12]では,経営ゴール, 顧客と社員のゴール,業務プロセス,DX要求をデジ タル戦略マップによって関連付ける手法を提案した. 2.5 業務革新 田原ら[6-8]が提案したF&WM法は,現場の実務者 にとって直感的で分かりやすく実践的であるが,曖 昧性を含むため,アルゴリズムとして厳密な定義が 必要なデジタル化に即応できないという問題がある.こ れ に 対 し て BPMN(Business Process Modeling Notation)などの厳密性の強い図式言語は,ソフトウ ェア開発者には適しているが,論理的な議論を苦手 とする現場担当者には難易度が高く普及していない という問題がある.業務の全体像を把握できなけれ ば,どの業務をどう変えればいいか分からない.業務 を変えたらどうなるかもわからないから責任も取れ ないということになり,業務の見える化ができない と業務革新ができないことになる.
2.6 共特化(Co- specialization) Teece[13]は,知識を含む資源を結合して価値を創 出して組織を変革するための動的能力を構成するプ ロセスを説明している.このプロセスには,2つのケ イパビリティがある.すなわち,経営資源の効率的利 用するためのオーディナリー・ケイパビリティと,経 営環境の変化に応じて新たな価値を創造するダイナ ミック・ケイパビリティである.ダイナミック・ケイ パビリティでは,異なる資源を相補的に結合した価 値を創造するために,脅威の感知,機会の補足,組織 の変容からなる共特化が必要になる.共特化はもの づくりのDXでも注目されている[14]. Teeceによる製品の共特化をITに展開することによ り,Queiroz[15]は,業務プロセスとITの共特化概念を 以下のように定義した. [定義]ITがプロセスをサポートする程度と,プロセス が利用可能なITを活用する程度とに基づく,プロセ スとITの間の相補性の状態が業務プロセスとITの共 特化である 2.7 ArchiMate Meertens[16]らは,ビジネスモデル・オントロジー を 用 いてArchiMate と BMC( Business Model Canvas) [17]をマッピングする手法を提案している. Luo[18]らは,ArchiMateによるEAモデルにおける ビジネスプロセス進化に基づく影響分析手法を提案 している.Hinkelmann[19]らは,図式によるEAモデル からビジネスとITの整合性を確認する方法を提案し ている. ArchiMateによるビジネスモデルの表現法が評価 されている[20,21].Christensenによるジョブ理論[22] をArchiMateで可視化する手法[23,24,25]を山本らが 提案している. また,山本がArchiMateによるDXの可視化手法を提 案した[26]. 2.8 知識創造
UNDP (United Nations Development Programme)のデ
ジタル戦略は,次の2 つである[27]. (1)開発課題の解決とパートナー体験の改善に向けて 主要活動にデジタル技術を適用すること (2)業務の品質,適切性,影響を改善するとともに, オペレーションシステムと内部プロセスの効率を改 善するためにデジタル技術を活用すること このように,DXはデジタル技術だけの問題では なく,組織変革に向けたデジタル知識と,それを利 用する組織にかかわる知識の統合が必要であること が分かる. SECI モデル[28,29]では,形式知と暗黙知の相互 作用に基づく知識創造プロセスを説明している. SECI モデルの連結化は,組織内で暗黙知から表出 化された形式知を戦略的分析的に統合・結合する実 践知の体系化手段である. 2.9 ダイナミック・ケイパビリティ 菊澤[30]は,「ダイナミック・ケイパビリティ は,環境の変化に対応して,これまで競争優位を生 み出してきた既存のルーティン,ケイパビリティ, 資源,知識,資産を再構成するより高次のメタ能力 のことである.しかも,それは自社の資産や知識だ けではなく,必要とあれば他社の資産や知識も巻き 込んで再構成したり,再配置したりするオーケスト レーション能力でもある」と述べているが,これら を,再現可能な具体的なモデルで示していない.
3.
F&WM 法・KW1,2,3 次元モデル
3.1.1 F&WM 法・KW1,2,3 次元モデルの概要 業務を革新し,現場の実践知を形式知化する, F&WM法・KW1,2,3次元モデルについて説明する. [KW…Knowledge,know-how,know-who,Wise,Work,Wa] F&WM法 KW1次元モデルは,図1のように, Step0 見える化,Step1 モジュール化,Step2 フレーム化,Step3チェックリスト化,Step4ワーク &PDCA,Step5ナレッジミーティング,Step6データ 化という7つのステップで,業務フローから冗長な 無駄モジュールと実行が困難な無理モジュールを排 除した,業務全体の流れを可視化する.ここで,モ ジュールのムリ・ムラ・ムダがない業務フローを最 適な業務フレームと呼ぶ. 3.1.2 F&WM 法・KW1 次元モデル 7つのステップのうち,Step0からStep4は,KW1 次元モデルと称する. また,後述する,3.1.3,3.1.4の新規事業立ち上げや M&A等の事業改変を実施する場合には,Step0見え る化,Step1モジュール化により,自社の製品・サー ビスを1つの業務モジュールとして捉え,これらを 組み合わせて,新たなビジネスを創出する.また, 業務をモジュール化することで,モジュール毎の KPIの設定が可能となる.これにより,数値データの 取得が可能となるため,DXを実現する要素の一つ となる. 図1 F&WM ○R 法のステップ 3.1.3 F&WM 法・KW2 次元モデル
F&WM 法 2 次元モデルは,Step0 から Step4までの アプローチを,誰に対して行うかという顧客別の組 み合わせである.具体的には,Step5 のナレッジミー ティングによって,組織で顧客別のナレッジを共有 し,Step6 でデータ化し,蓄積するモデルである.新 規事業立ち上げや M&A 等の事業変革を実施する場合 には,顧客(ケース・環境等を含むケースもある)も 一つのモジュールとして捉え,数値化し,これらを変 化させ,組み合わせて,新たな事業創出,および DX を 実現する.
3.1.4 F&WM 法・KW3 次元モデル F&WM 法では,1 次元でどのような事業を行うか, 2次元でどのような顧客に対して行うか,3次元で どのようなビジネスモデルで行うかを組み合わせて 新規事業・サービスを創り出す.KW1 次元モデルでモ ジュール化した業務・業務フレーム,KW2 次元モデル の顧客をビジネスアーキテクチャの要素として捉え, KW3 次元モデルであるビジネスモデルと掛け合わせ て,新規事業・サービスを創り出すモデルである.KW1 次元モデル,KW2 次元モデル,KW3 次元モデルを座標 軸で表すと,図 2 となる.KW1 次元の業務フレーム は,単独で機能するが,KW2 次元の誰に対して事業を 行うかで,1次元の業務フレームは変化する.さらに, どのようなビジネスモデルで行うかによって,業務 フレーム,顧客ともに変化する.また,事業は, KW1,2,3 次元モデルの 3 要素で構成される.詳細は, 第 4 節,第 5 節で説明する. 図2 F&WM 法(1,2,3 次元モデル)概念図
4.
DX に資する F&WM 活用方法
DX に資する F&WM 活用方法について,以下の4つの ケースを紹介する. 4.1 KPI 設定→デジタルツイン→DX F&WM 法では,業務のモジュール化によって,各業 務モジュールが明確になる.また,各業務モジュール 毎に KPI を設定すれば,個人の業務のバラツキが計 測可能となる.これにより,業務の進捗や課題を数値 で把握できる.例えば,営業活動の場合,単なる過去 ログの解析ではなく,現在の各業務モジュール・プロ セスごとの進捗率,活動状況全体のパフォーマンス, 各顧客の探客・醸成活動の推移が数値で把握でき,1 ~3 カ月後の受注・失注を予測できる.マネージャー は,営業担当者毎の商談状況を把握し,データをもと に各営業担当者に対する個別指導ができ,科学的な マネジメントを実現できる.リアルタイムに数値で 業務を把握・分析・検証でき,デジタルツインが可能 となる.ここで言う,デジタルツインとは,リアルな 状況を,KPI や稼働・進捗状況の数値によってデジタ ルで表現することを指す.但し,サービス業では製造 業のようなセンサーは未だついていないため,タイ ムラグは発生するが,今後はフィジカルデータの活 用が進み,タイムラグは縮小されていくと予測する. また,担当者や組織の状況,顧客の状況を可視化でき るため,実績向上のためには何をすべきかを,可視 化・特定できる.また,これらのデータに基づき,営業 担当者の効果的な指導・教育にも活用できる. 4.2 業務プロセスデジタル化→DX F&WM 法では,図 3 のように営業の業務フレームを 区分することで,MA(Marketing Automation), SFA(Sales force Automation)などのデジタルツー ルを活用できる.MA は,顧客を受注にむけ育てるマ ーケティング活動をデジタルで全自動で行えるた め,顧客育成業務の無人化が可能となる.また,MA は単独で顧客への「アプローチ」業務自体をデジタ ルで完結できるため,新規事業として独立させるこ とも可能である.また,SFA は,営業活動を最適化 して実施する指標を示す自動化ツールである. MA,SFA を活用することで,データに基づく効率よい 営業活動,および DX が実現する. 図 3 営業活動の業務フローをデジタル化 4.3 業務プラットフォームデジタル化→DX 前述の 4.1,4.2 により,業務管理のプラットフォ ームがデジタル化できる.これにより,従来は一人の 営業担当者がアプローチからフォローまで通して行 っていた業務を,データの可視化・共有によって,時 間・空間にとらわれず,複数の担当者で分担して行う ことができる.例えば,アプローチをインサイドセー ルス(在宅・在社)で行うことができ,営業担当者と は別の人材が,分業して行うことができる.また,ア プローチのノウハウが社内に不足していれば,アプ ローチという業務モジュールだけを,外注し,ノウハ ウを補完することも可能である. 4.4 業界プラットフォームデジタル化→DX 前述の 4.1,4.2,4.3 により,顧客管理のプラット フォーム,営業ノウハウのプラットフォームなどの データプラットフォームが構築できれば,それ自体 が,「デジタル化された,データ販売」または,「ポー タルサイト開設」「ノウハウデータ販売」等の,デー タを活用した新しい DX ビジネスモデルを創出できる.5.
F&WM を活用した新規事業創出と DX
5.1 F&WM 法 KW1,2,3 次元モデルによる新規事業創 出 F&WM 法は,前述のように,KW1,2,3 次元モデルの 組み合わせにより,新規事業を創出することが可能 である.具体的な手順は,StepⅠモジュール化,Step ⅡKPI・データ取得,StepⅢバラツキ・強み・弱みの 発見,StepⅣ改善,StepⅤ新規事業である. 表 2 は,ハウスメーカーの F&WM 法による新規事業 創出事例である.現状,1次元のモジュールとして住 宅(製品),営業(サービス),設計(技術),工場(技 術,資材)を,2次元のモジュールとして顧客を,3 次元のモジュールとして,BtoC のビジネスモデルを 行っている.しかし,需要の減少により工場の稼働率 が下がっていることが課題であった.そのため,工場 (技術・資材)という余剰したリソースを活用して, 他の建設会社の商品向けにアレンジした,建築パーツの製造を手掛け始めた.競合他社にないオリジナ ルの技術・資材は剛性にすぐれ,受注は 200%以上の 伸びを見せた.約1年間の試行期間を経て,新たな事 業を担う新会社を設立した.これらは,自社業務の KW1 次元モデルによる,モジュール化(StepⅠ)と KPI の設定(StepⅡ)により,工場の稼働率低下という課 題を発見し(StepⅢ),KW2次元モデルの顧客を社内 から社外へと変え,KW3 次元モデルを,社内業務を担 うというビジネスモデルから,他社の新商品構築を 担うビジネスモデルへと転換した,新規事業創出事 例である.(1次元工場×2 次元新顧客×3次元新 BtoB ビジネスへの転換の掛け合わせ) さらに,新規事業で蓄積した技術・データをかけ合 わせれば,建設以外の分野にも進出可能であると考 えられる. 表 2 F&WM を活用した新規事業創出 5.2 F&WM による事業創出と共特化 5.1 の F&WM による事業創出の事例は,業務モジュ ールや顧客を単純に掛け合わせるだけでは,成立し ない.事業創出の機会となるのは,事業上の課題であ り,競合・環境変化等の驚異である.先行研究 2.6 で 述べた,Teece[13]の提唱する共特化は,脅威の感知, 機会の補足,組織の変容の 3 つの視点を,さらに細か く 12 に分類している. 表 3 は,前述のハウスメーカーの事例を,共特化 の観点から分析したものである.表中の△が課題で あり,〇が従来からある強みであり,◎が F&WM 法と 共特化によって生み出された,新たな強みである.業 務を F&WM 法でモジュール化し,StepⅠ-Ⅴまでのプロ セスを経て,弱みをカバーし,強みを活かし,モジュ ール掛け合わせることで,課題解決と新規事業創出 を実現する. 表 3 F&WM 法と共特化による活用新規事業創出分析 5.3 F&WM によるデジタルツインと DX 4.1 で述べたように,業務のモジュール化は,自社 事業の可視化,KPI の設定による業務の変動・傾向(拡 大・縮小,増加・減少)が可視化できる.こうして可 視化されたデータにより形成されるデジタルツイン は,事業・組織・製品の課題を 1,2,3 次元で数値化 し,見直すべきモジュールが可視化される.また,工 場における DX については,既に製造業で実践されて いるデジタルツインによる DX「プロセスごとの縦の デジタル化」「全プロセスを繋いだ横のデジタル化」 「 複 数 の 工 場 を 繋 い だ 奥 の デ ジ タ ル 化 」( 参 考,KOMATSU SMART CONSTRUCTION)による,スマート マニュファクチャリングが実現する.さらに,営業担 当者のスキルやモチベーションを,テキストマイニ ング技術によって可視化・数値化する HR テックも進 化しており,今後は,人事のデジタル化も含めた,経 営戦略・人事戦略を含む,戦略的な DX が期待できる. さらに,可視化されたデータは,それ自体が新たな製 品・サービス,またはプラットフォームになり得る.
6.
F&WM と EA の関係
本稿では,前述したように,F&WM により,現行 業務のモジュール化と,新規事業としての将来業務 を設計できることが分かる.EA では,まず①現行業 務と将来業務を定義する,次いで②現行業務と将来 業務とのギャップを分析し,③ギャップを解消する 変革を計画ことにより,④変革計画を遂行する.した がって,F&WM により,EA における将来業務を明 確化でき,新規事業創出が可能になる.さらに,上級 役員が価値を創出する新規事業と整合するIT を理解 できることから,DX 投資に対する上級役員と事業系 役員との対話を促進できる.7.考察
本稿では,経営層による事業と DX の全体像の把握 を容易化するため,フレーム&ワークモジュール法, エンタープライズアーキテクチャを用いた DX 理解 を促進する方法を提案した. 7.1 共特化・ダイナミックケイパビリティ 本稿の提案では,ビジネスを構成している業務モ ジュールをF&WM 法の KW1,2,3 次元によって,可 視化した.さらに,共特化,ダイナミック・ケイパビリテ ィを鑑み,StepⅠ業務のモジュール化から,StepⅤ新規 事業創出までのプロセスを,具体的に提示した. 7.2 DX 課題への TOGAF 適用法 本稿では,前述の先行研究である,山本[9]の「DX 課 題へのTOGAF 適用法」表 1 より,「役員が理解でき るアーキテクチャ課題の説明」の項目である,ビジネ スプロセス(モジュール化),ビュウポイント(強み), モチベーションモデル(強み・弱みの発見),アセス メント(KPI 確認・改善)について,F&WM 法・KW1,2,3 次元モデルを用いたプロセスの可視化と,具体的な Step,および事例について述べた.これらに加え,企 業自体のパーパスや経営層の事業への思いによって, ビジネスゴールを定めることが可能となる.7.3 限界 本提案では,実際に,経営層の DX に対する理解 度の従前従後の分析・変化を試していない.今後,本 手法を適用して客観的に評価する必要がある.
8.まとめと今後の課題
本稿では,経営層が DX を理解するために,現状 のビジネスをF&WM 法と共特化により可視化し,業 務のモジュール化に基づく EA の適用法について述 べた. さらに,DX を推進するためには,事業を担う人的 資本の可視化が必要である.経済産業省は,2020 年 9 月に,「持続的な企業価値の向上と人的資本に関す る研究会報告書」(人材版伊藤レポート)[31]の中で, DX を含む経営戦略を担うのは人材であり,持続的企 業価値創造のためには,「経営戦略と連動した人材戦 略の策定・実行が不可欠である」と説明している. F&WM 法は,業務(ジョブ)を可視化・最適化し, その業務を遂行するための人材のスキル・コンピテ ンシーおよび,ナレッジ(暗黙知・実践知)を明らか にすることが可能である.今後は,F&WM 法を活用 した,DX 推進人材の育成・および実践知の可視化に ついて研究していく予定である.参考文献
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