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葉圏微生物の持つ可能性を活かす

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Academic year: 2021

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145 生物工学 第96巻 第3号(2018) 著者紹介 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター 病害研究領域 E-mail: [email protected] 葉圏(=植物体の地上部)には,さまざまな微生物が 生息することが知られているが,それらは農作物の生産 性や品質,病害抑止に重要な役割を果たし,今後さらに 解明を進めるべき研究対象であることがNatureなどの 科学誌で述べられている.実際に,葉圏を意味する単語 「Phyllosphere」でPubmed検索を行うと,ヒットする 論文数は近年指数的に増加しており,これらの論文の大 半は微生物に関するものである.こうした急速な研究報 告の増加は,葉圏に生息する微生物「葉圏微生物」が持 つ秘められた各種有用機能の利用可能性を世界の研究者 が認識しはじめ,実際の研究開発も加速度的に動き出し ている状況を表しているのかもしれない. 葉圏は,紫外線,乾燥,温湿度の急激な変化,利用可 能な栄養成分の制限,植物由来の抗菌成分の存在など, 微生物にとってはさまざまなストレスに曝される環境で あるが,裏を返せば,葉圏微生物はこれらのストレスに 打ち勝つ能力を保持・発揮しながら葉圏で生息している といえる.こうした微生物の持つストレス対抗能力など を活用することで,さまざまな産業や我々の生活に役立 つ技術開発が行える可能性が考えられる. こうした観点から,旧・農業環境技術研究所(現・農 研機構)では,葉圏微生物を活用した新たな技術開発に つなげるために,各種植物の葉圏に生息する微生物が2 万菌株以上収集・保存され,収集微生物およびそれらの 代謝産物の機能を解明する研究が行われており,これま でにさまざまな興味深い知見が得られてきている.たと えば,Enyaら1)は,健全なトマトに生息する細菌群集 の中から,葉面に定着性の高い細菌種を明らかにし,さ らにその中からトマト茎葉を加害する植物病害の防除効 果を示す菌株を見いだしている.また,Itoら2)および Satoら3)は,ムギ類赤かび病菌などが産生し,コムギや オオムギの穀粒などが汚染されるカビ毒のデオキシニバ レノールの分解細菌をコムギの穂などから見いだしてい る.以上のような微生物は,ターゲットとする植物体上 に高い定着能を持っており,植物体上で安定的な働きを することが可能であることから,効果の高い微生物農薬 や新規カビ毒分解微生物資材の開発など,農作物の病害 防除分野の技術開発に貢献することが期待される. また,病害防除以外の農業分野への活用を目指す研究 例も知られている.Kitamotoら4)は,植物の葉の表面 成分の化学構造が生分解性プラチック(生プラ)の化学 構造と似ていることから,生プラ分解能の高い微生物が 葉圏微生物の中にいると考え微生物を探索した結果, Pseudozyma antarcticaをはじめとする分解能力の高い酵 母や糸状菌をイネの葉面などから見いだしている.さら に,これらの微生物は強力な生プラ分解酵素を生産し, 生プラ分解酵素によって生分解性の農業用マルチフィル ム(生プラマルチ)が効率よく分解されることなども解 明されている.こうした生プラ分解酵素を活用すること で,栽培終了後の畑で生プラマルチの分解を促し,次作 の栽培を容易にする技術などの開発が期待され,その実 現に向けた研究が現在精力的に行われている. さらに,葉圏微生物の農業以外の産業への利用可能性 を見いだした研究例もある.Kamoら5)のグループは, 葉圏微生物が紫外線に対して各種対抗手段をとって生息 していることに着目し,既成剤の種類が少なく,新たな 開発のニーズが高い紫外線A波(UVA)の吸収成分の 新規開発に役立つ微生物を葉圏微生物の中から探索し た.その結果,Methylobacterium属細菌がUVAの新規 吸収成分を持つことを見いだすとともに,その化学構造 を決定し,「メチロバミン」と命名した.メチロバミン は,既成のUVA吸収成分ではみられない水に溶けやす い特徴があり,天然由来のユニークな新規UVA吸収成 分として,日焼け止め剤の原料などの用途に活用できる 可能性がある. 以上の事例の他にも,葉圏微生物の持つさまざまな有 用機能や働きがこれまでに解明されてきており,今後も 葉圏微生物を活用した技術開発につながる新たな発見が あると考えられる.すなわち,葉圏は我々の身近なとこ ろに存在する微生物にまつわる「宝の山」であり,その 更なる探究によって新たな産業利用だけでなく,我々の 身近な生活にも役立つ新技術が開発されるかもしれな い.葉圏微生物を対象とした研究の今後の一層の進展に 期待したい.

1) Enya, J. et al.: Microb. Ecol., 53, 524 (2007).

2) Ito, M. et al.: Appl. Microbiol. Biotechnol., 96, 1059 (2012).

3) Sato, I. et al.: FEMS Microbiol. Lett., 327, 110 (2012). 4) Kitamoto, H. et al.: AMB Express, 2, 40 (2011). 5) Kamo, T. et al.: Nat. Prod. Commun., in press (2017).

葉圏微生物の持つ可能性を活かす

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