大学生における過剰適応と居場所感の関連
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第45号(平成25年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.45(2013):9-16. 大学生における過剰適応と居場所感の関連 後 藤 明 梨1・伊 田 勝 憲2 1 2. 釧路市立新陽小学校. 北海道教育大学釧路校教育心理学研究室. Over-adaptation and sense of interpersonal rootedness in undergraduates. Akari GOTO1 and Katsunori IDA2 1 2. Shin-yo Elementary School, Kushiro City. Department of Educational Psychology, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要旨 本研究では,大学生を対象として,学校と家庭での過剰適応と居場所感との関連を検討した。児童期から青年期にかけ ての先行研究を概観し, 青年期後期である大学生の発達段階および生活状況を考慮し,居場所感を測定する場面として「友 人」ではなく「学校」を設定し,過剰適応との関連において「家庭」との違いが見られるかどうかに注目した。質問紙法 による調査の結果,過剰適応の自己抑制と自己不全感については,居場所感のすべての下位尺度との間に有意な負の相関 が認められ,特に自己不全感と学校での自己有用感および本来感との間に中程度の負の相関が見られた。期待に沿う努力 は学校での本来感と弱い負の相関,人からよく思われたい欲求は学校での本来感と弱い負の相関,家庭の自己有用感とは 弱い正の相関,そして他者配慮については家庭での自己有用感および本来感との間に弱い正の相関が見られた。学校での 居場所感は,家庭よりも平均値が低めであり,特に外的側面での過剰適応をもたらす要因として学校での居場所感に注目 する必要がある。学校と家庭の交互作用に注目した居場所感と過剰適応の質的検討が今後の課題である。. について,各概念の諸側面の捉え方を含めて概観する。そ. 問題と目的 1.はじめに. の上で,教員養成課程に学ぶ大学生を対象として,学校と. 近年,学校適応をめぐって「過剰適応」や「居場所感」. 家庭それぞれにおける居場所感に着目し,過剰適応の諸側. に注目した研究が見られる。過剰適応と学校適応に注目し. 面との関連について実証的に検討したい。. ている石津・安保(2008,2009)によると,中学生におい ては, 過剰適応の内的側面である 「自己抑制」 「自己不全感」. 2.過剰適応に関する研究の概観. が学校適応(居心地の良さの感覚)と負の相関を示すのに. 桑山(2003)によると,適応は内的適応と外的適応に分. 対して,外的側面である「他者配慮」 「人からよく思われ. けられる。前者は心理的適応とも言われ,幸福感・満足感. たい欲求」は学校適応と正の相関を示し,後者に注目する. を経験し,心的状態が安定していることを意味する。それ. ならば過剰適応が必ずしも非適応的とはみなすことができ. に対して,後者は,社会的・文化的適応と言われ,個人が. ないと指摘している。一方,石本(2010)は,居場所感と. 生きている社会的・文化的環境に対する適応を意味する。. 学校適応(学校生活享受感)の関連を検討し,中学生では. 適応におけるこの両側面は協調的に行われることが多く,. 家族関係での居場所感が適応を促進する傾向にあるが,大. 一般的に適応がよいと言われるときには,外的適応も内的. 学生では友人等の居場所感が学校適応にほとんど影響を与. 適応もともによいことを意味する。しかしまた,一方の適. えていないことを指摘している。. 応のために他方が犠牲となる場合もある。外的適応が効果. このように,過剰適応については内的側面と外的側面が. 的に行われていても内的適応がよくない場合や,外的適応. あり学校適応との関係に違いがあること,居場所感につい. は不良なのに内的には不満や苦悩を持っていない場合が考. ても家庭と友人といった場面の違いがあること,加えて発. えられる。適応をこのように分けて考えた場合,過剰適応. 達段階によってそうした変数間の関係性に違いが見られる. の“適応”とは外的適応の面に相当し,過剰適応的な状態. という側面にも注目する必要があると考えられる。そこ. とは,外的適応が過剰なために内的適応が困難に陥ってい. で,本研究では,過剰適応と居場所感に関係する先行研究. る状況なのではないかと述べている。益子(2010)も同. -9-.
(3) 後 藤 明 梨・伊 田 勝 憲 様に,過剰適応の概念は「外的適応の過剰さ」と「内的. と思っていることを示している。石津・安保(2009)によ. 適応の低下」という2側面から定義されるのが一般的であ. ると,過剰適応と養育態度において,養育態度の「温かさ」. ると述べており,過剰適応を「対人関係や集団社会におい. は「自己抑制」 「自己不全感」おいて負の相関, 「他者配慮」. て,他者の期待に応えようとするあまりに,自分らしくあ. 「期待に沿う努力」において正の相関があることを示して. る感覚を失ってしまいがちな傾向」と定義している。益子. いる。さらに,大河原(2012b)は本当の「よい子」と将. (2011)は,これを外的適応(社会的適応)が過剰になり. 来心配な「よい子」について述べており,本当の「よい子」. がちで,内的適応(心理的適応)を損ないやすい傾向とし. は学校でどんなにがんばっていたとしても,いやなことが. て捉えている。また,小野・宮本(2004)も,過剰適応と. あったときには,家で不機嫌に八つ当たりをしたり泣いた. は,外的適応と内的適応の不均衡状態であり,外の環境に. りできるのに対し,将来心配な「よい子」は,たとえ学校. 対して非常に適応的であるように周囲には映っても,本人. でいやなことがあったとしても,家ではいつもと変わらず. が著しい不満や不安を抱えている状態を過剰適応と定義し. に明るい顔をしていて,親を困らせるようなことはないと. ている。. いう。そして同時に,「よい子」が問題視されるのは,不. 石津(2006)は,過剰適応とは, 「両親や友人,教師と. 適応予備軍と認識されているからだと述べている。こうし. いった他者から期待されている役割,行為に対し,自分の. た知見から,家庭における居場所感のなさが学校等の対人. 気持ちは後回しにしてでもそれらに応えようとする傾向」. 関係場面における過剰適応の背景にあると考えることがで. であり,内的な欲求を無理に抑圧してでも,外的な期待や. きよう。. 要求に応える努力を行うことと定義している。小野・宮本. さて,過剰適応の測定に関しては,桑山(2003)が「対. (2005)は,過剰適応とは,社会の要求や期待に応える努. 自因子」 「対他因子」の2つの下位尺度からなる「過剰適. 力は惜しまないことから,外的適応は非常に良いが,本来. 応尺度」を作成しているが,原因が自分にあるか他者に. なら外的適応が良ければそれに伴う内的適応も良いとされ. あるかという2側面からしか見ることができない。また,. ることが多いとされる中で, 過剰適応は 「他者への不信感」. 益子(2009)は石津(2006)の「過剰適応尺度」を再構成. 「自己主張への不安」などの特徴を持つことから,内的適. した「過剰な外的適応行動尺度」を作成しており, 「よく. 応が困難な状況にあると述べた上で,外的適応が重視さ. 思われたい欲求」「自己抑制」「他者配慮」の3つの下位尺. れ,内的適応が優れないアンバランスな状態として過剰適. 度を使用している。しかし,上述したいわゆる「よい子」. 応を定義している。. の議論において指摘されているような他者からの期待に応. ちなみに,いわゆる「よい子」と過剰適応している子ど. えるという過剰適応の側面が含まれていないように思われ. もを同義語として扱っている先行研究も多い。一見,良好. る。加えて,会田(2011)は,桑山(2003)の「過剰適応. な対人関係を築き,社会に適応しているように見える人の. 尺度」で対象者を抽出し,自己抑制に着目して個人別態度. 中には,円滑な人間関係を築こうとするあまり,心理的に. 構造分析(PAC分析)をおこなっているが,石津(2006). 適応しているとは言い難い人が存在すると考えられる。自. の「青年期前期用過剰適応尺度」の5つの下位尺度に対応. 分の心は十分に満たしていないにも関わらず,表面的には. する要素が面接調査での回答に含まれており,それぞれの. 適応しているように見える人の代表として,いわゆる「よ. 要因が関わり合っていることを示している。. い子」が挙げられる(山田, 2010) 。小野・宮本(2005)は,. したがって,本研究では「他者配慮」「期待に沿う努力」. “よい子”とは表面的には素直に大人の言うことを聞き,. 「人からよく思われたい欲求」「自己抑制」「自己不全感」. 実行し,成績が良く明るく元気に振る舞う適応的な面と自. の5つの下位尺度からなる石津(2006)の青年期前期用過. 分が何を感じ,何をやりたいのかを明確にできないという. 剰適応尺度を使用する。なお,主に中学生を対象としてい. 面があると述べている。こうした「よい子」に関しては,. るが,尺度作成の際に大学生に実施して信頼性を確認して. 家庭の要因も大きいと考えられる。勝田(2009)は円滑な. いることや,山田(2010)が大学生に実施し,過剰適応の. 対人関係をつくることができる子どもになってほしいと親. 特徴を研究する際に信頼性が確認されていることから,大. から感じている方が過剰適応傾向は高く,特に他者に左右. 学生でも使用することができる尺度である。. されやすい傾向があること。よい学校や職場に進んでほし いと親から感じている方が,周囲に左右されやすく,自分. 3.居場所感に関する研究の概観. のなさを感じる傾向にあることを示している。また,大河. 「居場所」とは,物理的な意味だけでなく,近年,学校. 原(2012a)は過剰に我慢して, 自己抑制できる子どもが「よ. 現場等あらゆる場面で, 「居場所づくり」や「心の居場所」. い子」とされると述べ,同時に,親の期待に応えることで. など,心理的な意味で用いられることが増えた用語であ. 愛されるという道を選択してきた子どもたちは自分の身体. る。益川・益川(2009)は,近年の居場所という言葉の使. からあふれてくるネガティブ感情をどう抱えればいいのか. われ方は,安心や安らぎやくつろぎ,あるいは他者の受容. わからない状態にあると述べている。. や承認という意味合いが付与されて,自分のありのままを. 遠山(1999)は,小・中学生において,弱い相関ではあ. 受け入れてくれるところ,居心地のよいところ,心が落ち. るが,親子関係がよい方が子どもは親の期待にこたえよう. 着けるところ,またプライベート・スペースのようにそこ. - 10 -.
(4) 大学生における過剰適応と居場所感の関連 に居るとホッと安心していられるところというような意味. 4.本研究の目的. に用いられるようになってきたと述べている。そして,そ. 青年期における居場所感を測定する意味として,中藤. の背景として考えられるのが,不登校問題であると述べて. (2011)は,青年期は思春期から成人への移行の段階であ. おり, 現代の人々が「居場所」を求めるようになったのは,. り,個人にとって,これまで生きてきた過去と,これから. 人々の日常的な人間関係が希薄化してきたからだとも述べ. 生きようとする将来が,特に社会的な要素を伴って交錯. ている。. し,ときに自己の混乱をきたすような危険を孕んだ段階で. 教育学・社会学・心理学・教育心理学の分野の論文をま. あると述べ,このような移行の段階にあたっては,個人の. とめた藤原(2010)によると,物理的な意味だけでなく,. その過程を支える拠り所としての居場所の存在は重要であ. 心理的な定義も多い。例えば①居心地がよく,精神的に安. ると述べている。桑山(2003)は,児童期には外的適応の. 心・安定していられる場もしくは人間関係,②役割が与え. 方に重きが置かれるが,青年期には内的適応の重要性が高. られる,所属感や満足感が感じられる場,③他者や社会と. まってくるとし,児童期には過剰な適応をして「素直なよ. のつながりがある場,④自己の存在感・受容感を感じさせ. い子」 「模範生」などと言われながら一見何の問題もなく. る場,などと考えられる。また,廣井(2000)は,すなわ. 過ごしてきた子どもが,青年期に至って問題を表面化する. ち「居場所がある」とは,自分自身でいることが受け入れ. という現象があると述べている。また,豊田(2009)は,. られていると感じていることと定義している。 中藤 (2011). マズローの欲求階層構造によれば,人間は安全や生理的欲. は,居場所においては個人が「ありのまま」 , 「自分らしい. 求が満たされないと,所属欲求が生じず,さらにその上の. 自分」として居られることが重要だとしている。光元・岡. 欲求も満たされないため,孤独感を感じている人は学校に. 本(2010)は物理的居場所と区別するために心理的居場所と. おいて所属欲求を満たされていない可能性が高いと述べて. し,「心の拠り所となる関係性,および,安心感があり,. いる。. ありのままの自分を受容される場」と定義している。藤竹. そこで,本研究では,青年期後期にある大学生を対象と. (2000)は,人間がそこにいることを他人によって必要と. して,過剰適応の諸側面と学校および家庭での居場所感と. されている場所や,また,本来の自分を取り戻せる場所を. の関連を探る。なお,大学生においては,学校(大学)と. 「居場所」と据えている。. いう場が,児童期(特にギャング・エイジ)における仲間. 居場所感の測定に関しては,定義もそれぞれの捉え方が. 集団としての友人関係よりも広がりがあることを考慮し,. あるためか, 様々な尺度が開発されている。 大久保 (2000a). 居場所感の場面として,先行研究においてしばしば見られ. は「内的要因」「外的要因」の2つの下位尺度からなる心. る「友人」ではなく「学校」という表現を用いて測定し,. 理的居場所尺度を作成している。また,大久保(2000b). 「家庭」との相違について検討したい。. は「非疎外感」「被期待感」の2つの側面から,居場所が. なお,本研究の仮説は次のように設定した。. あるときを想定させたポジティブ尺度と, 「共感できない. 仮説1:過剰適応の内的側面とされる「自己抑制」 「自. 不適応感」「期待のなさ」 「劣等感」 「見知らぬ状況」の4. 己不全感」は,学校適応と負の相関が指摘されており,学. つの側面から,居場所がないときを想定させたネガティブ. 校と家庭それぞれの居場所感と負の相関がみられるだろ. 尺度を作成している。杉本・庄司(2006)は「被受容感」 「精. う。. 神的安定」 「行動の自由」 「思考・内省」 「自己肯定感」「他. 仮説2:過剰適応の外的側面のうち,学校適応と正の相. 者からの自由」の6つの下位尺度からなる「居場所」の心. 関が指摘されている「人からよく思われたい欲求」「他者. 理機能測定尺度を作成している。則定(2007)は「安心感」. 配慮」は,家庭での居場所感と正の相関がみられるだろう。. 「被受容感」 「本来感」 「役割感」の4つの下位尺度からな. 方法. る心理的居場所感尺度を作成している。こうした多次元的 な居場所の捉え方に対して,斉藤(2007)は, 「高校生版. 1.調査時期と対象者. 居場所感尺度」と「大学生版居場所感尺度」をそれぞれ一. 2012年12月に,国立の4年制大学における教員養成課程. 次元的な尺度として作成している。. の学生を対象として,調査用紙を450部配布し,302部が回. このように多数の尺度がある中で,居場所となる場を家. 収された。そのうち,回答に不備があるものを除き, 279 (男. 庭および友人といった形で明確に教示して回答を求める石. 子123,女子156)名を分析対象とした。学年は,第1学年. 本(2008)の「居場所感尺度」に注目したい。この尺度は,. 166名,第2学年31名,第3学年32名,第4学年50名であっ. 「自己有用感」「本来感」の2つの下位尺度からなり,他. た。平均年齢は19.76(SD =1.41)歳であった。. の尺度における多様な下位尺度に見られる概念をこの2つ に集約して捉えていると考えられる。また,大学生への調. 2.調査内容. 査で信頼性を得ていること,学校と家庭の両方で調査する. ①過剰適応尺度. ことができる項目の構成である点を含め,本研究ではこの. 石津(2006)による「青年期前期用過剰適応尺度」33項. 居場所感尺度を用いることにしたい。. 目を使用した。 「他者配慮」 「期待に沿う努力」 「人からよ く思われたい欲求」「自己抑制」「自己不全感」の5下位尺. - 11 -.
(5) 後 藤 明 梨・伊 田 勝 憲 度から構成される。 「以下のことがらは,あなた自身にど. に○をつけてください。 」という教示文により,各項目が. の程度あてはまりますか。例にならってあてはまるものに. どの程度あてはまるか, 「1:あてはまらない」 ~「5:あ. ○をつけてください。 」という教示文により,各項目の内. てはまる」の5件法で回答を求めた。. 容がどの程度あてはまるか, 「1:あてはまらない」~「5: 結果. あてはまる」の5件法で回答を求めた。 ②居場所感尺度. 1.尺度の構成. 石本(2008)による「居場所感尺度」13項目をもとに,. 以下に各尺度の平均値と標準偏差,α係数,内部相関に. 場面として「学校」と「家庭」を設定し, 「友人」を設定. ついて示す。. した場合の尺度項目表現の一部を「学校」という場面に. ①過剰適応尺度. 合わせて修正して用いた。学校と家庭のそれぞれにおいて. 主因子法による因子分析により5因子を抽出した。プロ. 「自己有用感」と「本来感」の2下位尺度から構成される。. マックス回転後の因子パターンの値.400以上を基準に尺度. 「学校にいるときの自分を思い浮かべてください。 」「家庭. 構成を試みた。その際,他の因子において因子パターンの. にいるときの自分を思い浮かべてください。 」という文章. 値が.340以上となっている7項目を削除した。各下位尺度. を提示し,それらの場にいる自分を想起するように促した. の名称は石津(2006)が先行研究で使用しているものを用. あと,「以下の文が,学校〔家庭〕にいるときのあなたに. いた。項目数は「自己抑制」が5項目,「自己不全感」が6. どの程度あてはまりますか。例にならってあてはまるもの. 項目,「期待に沿う努力」が6項目,「人からよく思われ. Table 1 過剰適応尺度の因子分析結果 F1 F2 第1因子 自己抑制 α =.897 自分自身が思っていることは外に出さない .876 -.156 心に思っていることを人に伝えない .816 .017 自分の気持ちを抑えてしまうほうだ .750 -.026 考えていることをすぐには言わない .739 -.031 相手と違うことを思っていてもそれを相手に伝えない .718 .070 思っていることを口に出せない .713 .190 自分の意見を通そうとしない .598 .125 第2因子 自己不全感 α =.842 自分にはあまりよいところがない気がする -.040 .863 自分には自信がない .053 .823 自分のあまり良くないところばかりが気になる -.029 .711 自分の評価はあまりよくないと思う -.025 .681 自分らしさがないと思う .210 .506 自分は一人ぼっちと感じることがある .128 .408 第3因子 期待に沿う努力 α =.800 期待にこたえなくてはいけないと思う -.085 .070 期待にこたえるために、成績をあげるように努力する -.132 -.007 自分の価値がなくなってしまうのではないかと心配に なり、がむしゃらに頑張る 他者からの期待を敏感に感じている 人からほめてもらえることを考えて行動する 期待にこたえないと、しかられそうで心配になる 第4因子 人からよく思われたい欲求 α =.814 人から気に入られたいと思う 人から認めてもらいたいと思う 自分をよくみせたいと思う 相手に嫌われないように行動する 第5因子 他者配慮 α =.702 人がしてほしいことは何かと考える 相手がどんな気持ちか考えることが多い 自分が少し困っても、相手のために何かをしてあげる ことが多い. - 12 -. F3. F4. F5. -.068 .022 -.034 -.223 .066 -.029 .010. .022 -.004 .003 .146 -.012 .039 -.126. -.021 -.138 .170 .054 -.130 -.039 .010. -.066 -.110 -.007 -.017 .130 .259. -.084 .018 .223 -.057 -.048 .071. .076 .105 -.051 -.074 -.118 -.327. .669 .650. .092 .137. .000 -.017. -.051. .195. .550. -.027. .057. .045 .034 -.002. -.186 -.153 .339. .522 .466 .436. .187 .312 .114. .035 .086 -.082. -.067 -.128 .121 .201. .087 .075 -.181 .032. .037 .112 .287 -.088. .770 .687 .606 .561. .013 .065 -.143 .247. -.132 -.026. -.038 .022. .188 -.133. .038 .165. .640 .630. .062. -.165. .208. -.038. .585.
(6) 大学生における過剰適応と居場所感の関連 たい欲求」が4項目, 「他者配慮」が3項目の計24項目と. はα=.846,「本来感」はα=.820,家庭の「自己有用感」は. なった(Table 1)。各下位尺度の内的整合性による信頼性. α=.896, 「本来感」はα=.901であり,高い信頼性が得ら. 係数の推定値は, 「自己抑制」がα=.897,「自己不全感」が. れた。下位尺度の平均値と標準偏差はTable 6に示した。. α=.842, 「期待に沿う努力」がα=.800, 「人からよく思わ. 内部相関については,Table 7に示した。すべてに有意な. れたい欲求」がα=.814, 「他者配慮」がα=.702であった。. 相関が見られた。. 下位尺度の平均値と標準偏差はTable 2に示した。内部相 関については,Table 3に示した。5因子間すべてに有意. 2.過剰適応と居場所感の関連. な正の相関が見られた。. まず,過剰適応と居場所感の各下位尺度間の相関係数を 算出した(Table 8) 。 「自己抑制」においては,居場所感. Table 2 過剰適応尺度の平均値と標準偏差 平均値 標準偏差 F1 自己抑制 3.25 0.88 F2 自己不全感 3.40 0.86 F3 期待に沿う努力 3.29 0.77 F4 人からよく思われたい欲求 3.96 0.77 F5 他者配慮 4.06 0.66. 尺度の全ての因子と有意な負の相関がみられた。学校での 「本来感」で中程度の有意な負の相関,学校での「自己有 用感」,家庭での「自己有用感」,家庭での「本来感」で弱 い有意な負の相関がみられた。「自己不全感」においても, 居場所感尺度の全ての因子と有意な負の相関がみられた。 学校での「自己有用感」 ,学校での「本来感」で中程度の 有意な負の相関,家庭での「自己有用感」と家庭での「本 来感」で弱い有意な負の相関がみられた。 「期待に沿う努. ②居場所感尺度. 力」においては,学校での「本来感」のみ弱い有意な負の. 主因子法による因子分析を行い,それぞれ2因子を抽出. 相関がみられた。 「人からよく思われたい欲求」において. した。プロマックス回転後の因子パターンの値が.400以上. は,学校での「本来感」で弱い有意な負の相関がみられ,. を基準として,他の因子において.300以上あるものは削除. 家庭での「自己有用感」で弱い有意な正の相関がみられた。. することとし,学校では3項目,家庭では2項目を削除し. 「他者配慮」おいては,家庭での「自己有用感」 ,家庭で. た。各下位尺度の名称は石本(2008)が先行研究で使用し. の「本来感」において,弱い有意な正の相関がみられた。. ているものを用いた。学校では「自己有用感」が6項目,. 次に,居場所感尺度の学校2因子,家庭2因子の計4因. 「本来感」が4項目の計10項目である(Table 4) 。家庭で. 子を説明変数としたクラスター分析をおこなった。各群の. は「自己有用感」が6項目, 「本来感」が5項目の計11項. 解釈が可能であることや,各群の人数に大きな偏りが出な. 目である(Table 5) 。下位尺度ごとに内的整合性による信. いことを重視し,4類型を得た。第1クラスターは,学校. 頼性係数の推定値を算出したところ, 学校の 「自己有用感」. と家庭の居場所感が共に平均値より低かったため,「居場. Table 3 過剰適応尺度の内部相関 F1 F2 F3 ― .630 .365 ― .437 .597*** .420*** ― .298*** *** *** .320 .580*** .298 .167** .470*** .247***. F1 自己抑制 F2 自己不全感 F3 期待に沿う努力 F4 人からよく思われたい欲求 F5 他者配慮 ** p <.01 ***p <.001 右上:因子間相関 左下:下位尺度間相関. Table 4 居場所感尺度【学校】の因子分析結果 項 目 F1 第1因子 自己有用感 α =.846 私がいないとみんながさびしがる .850 私がいないとみんなが困る .763 関心をもたれている .759 自分が必要とされていると感じる .692 自分が役に立っていると感じる .533 自分に役割がある .420 第2因子 本来感 α =.820 いつも自分を見失わないでいられる -.134 いつでもゆるがない「自分」をもっている -.084 いつでも自分らくしいられる -.078 ありのままの自分が出せる .273. - 13 -. F4 .268 .278 .452 ― .423***. F5 -.110 -.135 -.123 .152 .175 .260 .838 .781 .779 .522. F5 .399 .311 .502 .398 ―.
(7) 後 藤 明 梨・伊 田 勝 憲 所感低群」と名付けた。第2クラスターは,学校での居場. の居場所感低群」が85名, 「学校の居場所感低群」が63名,. 所感が平均値より高く,家庭での居場所感が平均値より低. 「居場所感高群」が98名であった。得られた4つのクラス. かったため,「家庭の居場所感低群」と名付けた。第3ク. ターを独立変数,過剰適応尺度の5下位尺度を従属変数と. ラスターは,学校での居場所感が平均値より低く,家庭で. して分散分析をおこなった(Table 9) 。その結果,5下位. の居場所感が平均値より高かったため, 「学校の居場所感. 尺度それぞれに有意な群間差が認められ,TukeyのHSD. 低群」と名付けた。第4クラスターは,学校と家庭の居場. 法による多重比較(5%水準)により,それぞれの下位尺. 所感が共に平均値より高かったため, 「居場所感高群」と. 度ごとに1組以上の群間差が明らかになった。. 名付けた。各群の人数は, 「居場所感低群」が33名,「家庭 Table 5 居場所感尺度【家庭】の因子分析結果 項 目 F1 第1因子 自己有用感 α =.896 私がいないと家族がさびしがる .850 自分が必要とされていると感じる .763 私がいないと家族がさびしがる .759 自分が役に立っていると感じる .692 自分に役割がある .533 関心がもたれている .420 第2因子 本来感 α =.901 いつでも自分らしくいられる -.134 ありのままの自分が出せる -.084 自分のやりたいことをすることができる いつも自分を見失わないでいられる -.078 いつでもゆるがない「自分」をもっている .273. F5 -.110 -.135 -.123 .152 .175 .260 .838 .781 .779 .522. Table 6 居場所感尺度の平均値と標準偏差 平均値 標準偏差 自己有用感【学校】 2.65 0.70 本来感【学校】 2.94 0.88 自己有用感【家庭】 3.67 0.85 本来感【家庭】 3.84 0.90. Table 7 居場所感尺度の内部相関 自己有用感 本来感 自己有用感 【学校】 【学校】 【家庭】 ― .683 ― ― ― .588*** .352*** ― .392*** .430*** .722*** .291***. 自己有用感【学校】 本来感【学校】 自己有用感【家庭】 本来感【家庭】 *** p <.001 右上:因子間相関 左下:下位尺度間相関. 本来感 【家庭】 ― ― .755 ―. 過剰適応. Table 8 過剰適応と居場所感の相関係数(N =279) 学校での居場所感 家庭での居場所感 自己有用感 本来感 自己有用感 本来感 *** *** * -.434 -.130 -.158** 己 抑 制 -.317 内 的 自 側 面 自 己 不 全 感 -.518*** -.521*** -.323*** -.281*** *** .031 -.035 期 待 に 沿 う 努 力 -.021 -.227 外 的 .119* .084 人からよく思われたい .003 -.151* 側 面 .222** .173 他 者 配 慮 .039 -.107† † p <.10 *p <.05 **p <.01 ***p <.001. - 14 -.
(8) 大学生における過剰適応と居場所感の関連. 1. 居場所 感低群 3.82(.69) 4.19(.66) 3.51(.89). 自 己 抑 制 自 己 不 全 感 期待に沿う努力 人からよく思 3.92(.91) われたい欲求 他 者 配 慮 4.00(.80) ** p <.01 ***p <.001. Table 9 居場所感類型による過剰適応の比較 2. 家庭の居 3. 学校の居 4. 居場所 全体 場所感低群 場所感低群 感高群 3.17(.78) 3.57(.78) 2.93(.93) 3.25(.88) 3.32(.73) 3.79(.72) 2.95(.82) 3.40(.86) 3.15(.74) 3.50(.79) 3.20(.70) 3.29(.77). F(3,275) **. 多重比較. 13.36 30.04*** 4.02**. 1,3>2,4 1,3>2>4 3>2. 3.78(.80). 4.23(.70). 3.97(.70). 3.96(.77). 4.25**. 3>2. 3.86(.66). 4.24(.58). 4.12(.60). 4.06(.66). 4.90**. 3>2,4>2. ろん,どちらも居場所感が低いより,どちらか一方でも居. 考察 1.過剰適応と居場所感の関連―仮説の検証―. 場所感が高い方が自己不全感は低いことが示された。その. 本研究の仮説1は,過剰適応の内的側面とされる「自己. ため,将来教員として実践する中で,家庭での居場所づく. 抑制」「自己不全感」は,学校と家庭それぞれの居場所感. りに目を向けることも必要であるが,子どもたちの学校で. と負の相関がみられるというものだった。分析の結果,. の居場所づくりに教員として直接的に取り組むことが現実. 「自己抑制」と「自己不全感」においては,学校と家庭そ. 的な選択肢として大切になると考えられる。. れぞれの下位尺度すべてと負の相関が認められ,仮説は支. しかし,本研究の課題として,居場所感が低いから「自. 持された。 「自己抑制」においては,多重比較の結果,特. 己抑制」や「自己不全感」が高くなってしまうのか, 「自. に学校での居場所感が大きく影響しており,相関係数を見. 己抑制」や「自己不全感」が高いから居場所がなく感じて. ても家庭での居場所感との関連は弱かった。また, 「自己. しまうのか,どちらが原因となるかは明らかになっていな. 不全感」においては,多重比較および相関係数により,家. い。そのため,まずは学校での居場所感を高めることを優. 庭の居場所感が低い場合よりも学校での居場所感が低い場. 先すべきなのか,それとも時には他者と意見がぶつかると. 合に自己不全感は有意に高い。ゆえに,学校での居場所感. いう形で自己抑制や自己不全感を経験する中でこそ成長で. を高められるような働きかけや学級経営のあり方が重要に. きるような働きかけを優先すべきなのか,議論の余地があ. なると考えられる。ただし,学校での居場所感と家庭での. るだろう。もしかしたら,相互に関係しており,どちらも. 居場所感には正の相関が認められており,特に本来感どう. 大切なのかもしれない。このことを検証するためには,本. しの相関が中程度となっている。家庭での本来感が学校で. 研究でおこなった質問紙法のみならず,個別具体的な発達. の本来感の土台になっている可能性も無視できないと思わ. のプロセスを捉える質的研究の展開が必要になるだろう。. れる。 仮説2は,過剰適応の外的側面のうち, 「人からよく思. 引用文献. われたい欲求」「他者配慮」は,家庭での居場所感と正の. 会田千帆 (2011). 過剰適応傾向の高い大学生の「自己抑. 相関がみられるというものだった。 「他者配慮」において. 制」に関するPAC(個人別態度構造)分析 北海道教育 大学教育学部釧路校学士論文(未公刊). は,家庭での居場所感の自己有用感・本来感ともに正の相 関が認められた。よって, 「他者配慮」については仮説が. 藤竹 暁 (2000). 居場所を考える 現代人の居場所 至 文堂. 支持された。家庭で居場所がある,つまり,必要とされて いたり,ありのままでいられたりするなど,心的に安定し. 藤原靖浩 (2010). 居場所の定義についての研究 関西学 院大学教育学会教育学研究, 2, 169-177.. ていると,自分のことだけで精いっぱいにならず,周囲の 人のことを考えて行動できるのではないかと考えられる。. 廣井いずみ (2000).「居場所」という視点からの非行事例 理解 心理臨床学研究, 18, 129-138.. 一方,「人からよく思われたい欲求」においては,家庭で の自己有用感とは弱い正相関がみられたものの,家庭での. 石津憲一郎 (2006). 過剰適応尺度作成の試み 日本カウ ンセリング学会第39回大会発表論文集, 137.. 本来感との間に有意な相関が認められず,仮説は一部支持. 石津憲一郎・安保英勇 (2008). 中学生の過剰適応傾向が. されなかった。. 学校適応感とストレス反応に与える影響 教育心理学 研究, 56, 23-31.. 2.本研究の成果と課題 本研究の成果の1つめは,仮説1で検証したように,過. 石津憲一郎・安保英勇(2009). 中学生の過剰適応と学校適. 剰適応の中で問題点だと考えられる内的側面が学校での居. 応の包括的なプロセスに関する研究―個人内要因とし. 場所感の低さに大きく関わっていることが示されたことで. ての気質と環境要因としての養育態度の影響の観点か ら― 教育心理学研究, 57, 442-453.. ある。学校での居場所感を高めることが「自己抑制」 「自. 石本雄真 (2008). 居場所感に関連する大学生の生活の一. 己不全感」の軽減につながる可能性があると言える。 2つめは,学校と家庭の居場所感がともに高い群はもち. - 15 -. 側面 神戸大学大学院人間環境科学研究科研究紀要,.
(9) 後 藤 明 梨・伊 田 勝 憲 待にこたえようと思うのか? 名古屋大学教育学部紀. 2(1), 1-6.. 要, 46, 227-234.. 石本雄真 (2010). 青年期の居場所感が心理的適応,学校 適応に与える影響 発達心理学研究, 21, 278-286.. 山田有希子 (2010). 青年期における過剰適応と見捨てら れ抑うつとの関連 九州大学心理学研究, 11, 165-. 勝田萌 (2009). 青年の認知する親の期待・養育態度と過. 175.. 剰適応の関連 日本教育心理学会総会第51回大会発表 論文集, 528. 光元麻世・岡本裕子 (2010). 青年期における心理的居場. 付記. 所に関する研究―心理社会的発達の視点から― 広島. 本論文は,平成24年度北海道教育大学教育学部釧路校教. 大学心理学研究, 10, 229-243.. 員養成課程地域学校教育専攻教育心理分野において第一著. 桑山久仁子 (2003). 外界への過剰適応に関する一考察― 欲求不満場面における感情表現の仕方を手がかりにし. 者が提出した学士論文をもとに,当時の指導教員であった 第二著者の視点も含めて再構成し加筆したものである。. て― 京都大学大学院教育学研究科紀要, 49, 481492. 益川優子・益川浩一 (2009). 青年期の孤独感と「居場所」 の定義 岐阜大学総合情報メディアセンター生涯学習 システム開発研究, 8, 141-152. 益子洋人 (2009). 青年期における過剰適応傾向に関する 研究―外的適応行動と自己価値の随伴性,本来感との 関連― 明治大学文学研究論集, 30, 243-251. 益子洋人 (2010). 大学生の過剰な外的適応行動と内省 傾向が本来感に及ぼす影響 学校メンタルヘルス, 12(1), 19-26. 益子洋人 (2011). 過剰適応傾向の発達的変化 明治大学 文学研究論集, 34, 137-144. 中藤信哉 (2011). 青年期における居場所についての研究 京都大学大学院教育学研究科紀要, 57, 153-165. 則定百合子 (2007). 青年期版心理的居場所感尺度の作成 日本教育心理学会第49回総会発表論文集, 337. 大河原美以 (2012a). 親の期待と子どものストレス―「勝 ち組」価値観のあやうさ 児童心理, 66(7), 39-43. 大河原美以 (2012b). 将来心配な「よい子」と過剰適応 教育と医学, 60(7), 4-10. 大久保智生 (2000a). 心理的居場所に関する研究(1)―概 念の検討と尺度の作成― 日本性格心理学会第8回大 会論文集, 92-93. 大久保智生 (2000b). 心理的居場所に関する研究(2)―居 場所感尺度作成の試み― 日本教育心理学会第42回総 会発表論文集, 161. 小野由衣子・宮本正一 (2004). 過剰適応に関する研究― 欲求不満場面における攻撃性表出の観点から― 東海 心理学会第53回大会発表論文集, 64. 小野由衣子・宮本正一 (2005). 親・教師・友達が関わる 欲求不満場面での過剰適応と攻撃性の関連 東海心理 学研究, 1, 13-20. 杉本希映・庄司一子 (2006).「居場所」の心理的機能の構 造とその発達的変化 教育心理学研究,54, 289-299. 豊田弘司 (2009). 孤独感に及ぼす居場所( 「安心できる 人」)の効果―評定尺度による検討― 教育実践総合 センター研究紀要,18,39-43. 遠山孝司 (1999). 親子関係がよいと小・中学生は親の期. - 16 -.
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