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第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 

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Academic year: 2021

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(1)Title. 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 . Author(s). 佐竹, 道盛. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 41(2): 1-16. Issue Date. 1991-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/5163. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第41巻 第2号 Journalof Hokkaido Univers i ion(Sec ty ofEducat ionI C) Vo l t .41 .2 , No. 平成3年3月 March ,1991. 第一次小学校令下の小学校教員 学力検定試験の内容と教師像. 佐. 竹. 道. 盛. は じめ に. 筆者は先に, 森文政下の府県の 「小学校教員学力検定試験細則」 の内容を 森文相の教育観 教 , ,. 職観との関連 の観点から分析検討し, 府県の教員検定の全体的な仕組を明らかにしたの ‐. この考察から府県の小学校教員検定の仕組には, 森文相の教育観と教職観の反映が顕著であるこ. とが明らかとなっ たが, 学力検定試験 の内容に立ち入っ た考察は割 愛せざるを得なかっ た . そこで本稿 では, この残さ れた課題を取り上 げ, 検定試験の内容を分析 考察して教員に求めら , れていた諸能力を明 らかにし, 能力の側面からみた教師像を浮き彫 りにすることを意図 している . なお考察 の方法 は, 地域を限定 して集中的 に検討する事例研 究によることとし 埼玉 山形の2 , , 県を取り上 げる. また, 教員に求められた諸能力を明らか にして教師像を描 き出すめた の検定試験問題分析 の視点 を次の5項目に限定していきたい すなわち ①教育そ のものについて どのような知識・理解が求 . , められていたのか, ②教職について どのような理解が求められていたのか ③教育 の対象となる児 , 童 について どのような知識・理解が求められていたのか ④教える教科と教 科の指導方法 について , どのような知 識・技能が求められていたのか ⑤以上の4つの事項に一貫する統一的な教育理論 は , どういうも のだっ たのかの5項 目である ‐ 分析の視点を以上 のように限定しているため, 考察の対象となる検定学科は 教育科が中心とな , る・. また, 比較的簡潔な表現を特徴とする試験問題の出題意図 を的確に把握 するため 出題 の背景に , ある県指定 の検定試験用図書 の内容の検討を行う とともに 市販 の検定試験解説書 の内容をも参照 , して い く こ と と し た い .. 次に, 以上の考察 によっ て明らかとなる教師像と森文相の教育観の関連を検討する, ことを, 本稿 の第2の課題としたい.. 筆者は, 以上に述べた課題の考察が, 森文政の評価のみならず 森の推進した第一次小学校令期 ,. の教育の全体的な構造の把握 のための基礎作業と なることを期 待するも のである ‐. 1 小学校教員学力検定試験の仕組 埼玉, 山形の両県で実際に実施された検定試験問題 の内容を検討するため の前提として 検定試 , 験の仕組をまず検討しておきたい . 特に, 教員志願者 に どのような能力が求められていたのかを明らかにするために必要な検定の学.

(3) . 佐 竹 道 盛. 科及 び試験用図書に関する規定を中心に, 両県の細則 を検討したい. 「 明治19年4月公布の「諸学校通則」第4条の規定に基 づいて, 同年6月 に 小学校教員免許規則」 が制定され, 教員資格にかかわる統 一的な制度が発足した.. 「小学校教員免許規則」 では, 「有期ノ地方免許状ノ ・尋常師範学科卒業生若クハ小学校教員学力検. 「 定試験ニ及第 シタルモノニ之ヲ授与スルモノ」 (第11条)とされ, さらに, 小学校教員学力検 定試 6条) とされたため, 府県では次々 に細則 が制定さ ・府知事県令 之ヲ定ムヘシ」 (第1 験ニ係ル細則ノ. れ, 教員学力検 定試験の実施にかかる仕組が整えられていっ た. 「 このように教員検定の仕組 が急速に整えられていっ たのは, 各府県とも 目下教員尚欠乏ニシテ 2 ( ) 末夕一校一名ノ比例ニ至ラサ レハ務メテ完全ノ 教員ヲ養成シ需用供 給ノ均衡ヲ得シメ ントス 」 と ) 」 といわれるような教員の欠乏に直面し か, 「尋常小学校ニ充ツヘキ善良ノ 教員ノ、顔ル不足ヲ感 3 ていたためと思われる. 埼玉県でも,「小学校教員ノ・師範学科卒業ノ者及教員免許状ヲ有スル者総計八百五十一人アリ之ヲ ……生徒ニ配ス レハ一人ニシテ八十二人五分八厘ヲ教授スルノ割合ナリ然レトモ免許状ノ無効ニ帰 4 { ) シ若クハ有効満期ニ至ル ヘキ者モ亦少カラ サレハ今後尚供給ノ 足ラルサラ感ス 」 るような事情の 2月10日付埼玉県令甲第38号をもっ て細則 が制定された. 細則 は次のとおり もとで, 明治19年1 5 } で あ る( .. 小学校教員学力検定試験細則 第1条 小学校教員学力検定試験ヲ受ケント欲スルモノハ定期ノ二週間前願書ニ履歴書並試験手 数料金一円ヲ添へ郡役所ヲ経由シテ県庁ニ願出ヘシ. 但願書ニハ族籍姓名生年月日住所及試験ヲ受ケント欲スル学科履歴書ニハ学業仕官賞罰訴訟等 ニ関スル事項ヲ 詳記スヘシ 第2条. 験定試験ノ・毎年三回二月六月十月 ノ第一月曜日ヨリ始メ 県立師範学校ニ於テ施行スルモ. ノ トス. 第3条 第4条. 験定試験ノ評点ハ ー百ヲ以テ定点トシ六十以上 ヲ以テ合格トス 験定試験用ノ 図書ノ・県立師範学 校用図書ニ拠ル. 他の府県の細則に比べて簡略なものである. 本稿の検討課題である学力検定試験の内容に関係の ある検定の学科や試験用図書につい ては別に規定 が設けられている.学科について は明治20年3月 5号によっ て倫理, 教育, 国語, 漢文, 英語, 筆算, 珠算, 代数, 幾何, 簿記, 8 日付埼玉県告示第2 地理, 歴史, 動物, 植物, 鉱物, 物理, 化学, 農業, 手工, 家事, 習字, 図画, 音楽, 兵式体操, 普通体操の諸学科が指示さ れている‐ また試験用図書 は, 細則第4条により埼玉県尋常師範学校 教 9年12月17日付埼玉県告示第59号による尋常師範学校 科用図書によることとされている. 明治1 教科用図書 は表1に示す とおりである.. 埼玉県の検定学科及び試験用図書一覧から, 本稿の課題の解明に必要な事項を摘記すると次のと. 9年6月21日付の文部省令第12号 「小学校教員免許規則」 に規 おりとなる. ①検定学科は, 明治1 定されている とおりに, 「尋常師範学校ノ学科及其程度」 (文部省令) に準拠したものであり, 全国 的な基準に合致していること‐ ②検定試験用図書 は, 県の尋常師範 学校教科用図書を用いることと 6 ( ) されている が, その師範学校教 科用図書 は, 英語を除け ば, 明治19年に文部省 訓令第7号 によっ て全国の師範学校に指示され た教科書の中から選 ばれたものである. したがっ て, 検定試験用図書. も完全に全国的な基準に一致していること. ③試験用図書のうち, 本稿で問題に している教育観・ 教職観・児童観な どに対する影響 が大きいと思われる教育学, 学校管理法, 教授法な どの図書 は, 米国系のものであること. なかでも, イ ギリス・カナ ダを経由してアメリカに伝えられ, ニ ュ ーヨー 2.

(4) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 表- 小学校教員学力検定試験用図書一覧 (埼玉県) 学. 科. 検. 倫. 理. 道義学 ベイ ン著 福富孝季訳 論語 朱寮集註 小学. 教. 育. 教育学 伊沢修二著 訳註如氏教育学 有賀長雄訳 学校管理法 伊沢修二著 日本教育史略 大 槻修二編 那珂通高訂 巴氏教育史 平山成信訳 改正教授術 若林虎三郎 白井毅編纂. 国. 語. 語桑別記 文部省編輯寮編纂 語桑活用指掌 文部省編輯寮編纂 和文教科書 下田歌子著 和文 読本 稲垣千頴編輯 日本文典 中根淑著. 漢. 文. 正文章軌範 謝祐得批撰 謝選拾遣 頼嚢選 孟子 朱寮集註. 数. 学. 算術教科書 田中矢徳編 代数教科書 田中矢徳編輯 幾何教科書 田中矢徳編 新撰珠算精法目 一至三三冊 駒野正和著. 簿. 記. 簿記学階梯 森下岩楠 森島修太郎著. 定. 試. 験. 用. 図. 書. 朱寮編. 地理歴史. 改正日本地誌要略 大槻修二著 新撰中地理書 山田行元編述 芸氏地文学 富士谷孝雄訳 皇朝 史路 青山延干編輯 十八史略 曽先之編次 明治新刻元明清史略 石村貞一編次 校正万国史略 西村茂樹編纂. 博. 植物通解 矢田部良吉訳 植物解明図 ヘンスロー 動物通解 岩川友太郎 佐々木忠次郎編 弗 氏生理学 坪井為春訳 博物解明図 ジョ ンストン 金石学 和田維四郎訳 金石一覧図 和田維. 物. 四郎訳 物理化学. 改正物理全誌 宇田川準一訳 羅斯珂氏化学 茂木春太訳. 農業手工. 農理学初歩 久原期弦訳 植物生育論 高山甚太郎 磯野徳三郎訳 農用家畜論 大内健 今井秀 之助訳 工場用具論 ショ レー著 山田要吉訳 勧業理財学 高橋是清訳. 習字図画. 小学習字画帖 文部省編輯局編 用器画法並図式 平瀬作五郎纂訳. 立. 楽. 小学唱歌集 文部省音楽取調掛編 唱歌掛図 文部省音楽取調掛編. 体. 操. 新撰体操法 文部省体操伝習所編 新撰体操書 文部省体操伝習所編 体操教範 陸軍省編 歩兵 操典 陸軍省編 普通隊列運動法 松石安治編述 射的教程 陸軍省編 野外演習軌典 陸軍省編. 英. 語. 綴字書 ウェブストル 国民読本 ベルン会社 文法書 コーレー ミルトンマコーレー 習字帖 スペンサー. コックス. クライ ブ. ヘスチング マ. (注) 埼玉県令甲第3 8号 例・学校教員学力検定試験細則」(明治1 9年1 2月1 0日) 及び埼, 玉県告示第5 9号 (明治1 9年1 2月1 7日) によって作成. クのオスウィ ー ゴー師範学校を中心に一大運動 に発展したペスタロ ッ チ一主義 の開発主義 に拠る書 籍が中心をなしていること. 具体的にいうと 「開発主義 の教育原理に基づ いて 教授の方法を完成 , , 7 ) し た( inc ipl 」 と さ れ る ジ ョ ホ ノ ッ ト の Pr esand PracticeofTe i ach ng を翻訳した有賀長雄訳 『訳 註如氏教 育学』 が選定されていることろに ペスタロ ッチ一主義 の開発主義 の盛況がうかがえるこ , と. ④教員検定試験が, 東京師範学校卒業生や教員講習会な どととも に 米国伝来 のペスタロ チ一 ッ , 主義 の開発主義教授法 を教育界 へ伝達するルー トの機能を果たしていたこと ⑤検定学科の中に兵 . 式体操が掲 げられ, 検定試験用図書 の中にも兵式体操に関するも のが明示されて いる点に , 森文相 の教育論の反映がみられることなどの点が確認できる . 次に, 山形県の小 学校教員学力検定 試験の仕組を概観しておきたい 同県では 明治19年1 2月 . , 28 日付県令甲第2 8 )が定めら れている 6号によっ て, 以下に示す細則( ..

(5) . 佐 竹 道 盛. 小学校教員学力検定試験細則 第1条. 小学校教員学力検定試験ノ、毎年四月十月 トシ試験期日場所及出願日限ノ、其都度予メ告示. シ ス ヘ\・. 但時宜ニ依り 臨時施行 丁スルコ トアルヘシ 第2条 小学校全学科ノ教員タラ ント欲スル者ノ、山形県尋常 師範学校全学科ノ 試験ヲ受クヘキモ ノ トス. 、山形県尋常師範 学校ノ ー学科若 小学校ノ ー学科若クハ数学科ノ教員タラ ント欲スル者ノ ・国語漢文ヲ算術科ノ、筆算代数幾何ヲ理科ノ、博物 クハ数学科ノ試験ヲ受クヘシト雌トモ読書料ノ. 第3条. 物理化学ヲ併セテ受クヘキモノ トス 但本文ノ試験ニハ必ス教育学科ヲ附帯セシム ・山形県尋常師範学科ノ教科用図書ニ依ル 第4条 各学科ノ試験用図書ノ. 、毎学科ニ五分以上諸学科合計ニ六 、各学科ノ最上評点ラー百ト定メ全学科ノ試験ノ 第5条 試験ノ 分以上一学科若クハ数学科ノ試験ノ、毎学科ニ六分以上ノ評点ヲ得タル者ヲ及第トス 第6条 試験ヲ受ケント欲スル者ノ、左ノ書式ノ願書履歴書ニ手数料金五拾銭ヲ添ヘテ願出ツヘシ 但-旦納付シタル手数料ノ、仮令試験ヲ受ケサルモ返付セス(願書式, 履歴書式省略一引用者) 試験及第者ノ族籍氏名ノ、其都度公告スヘ シ 山形県の細則の規定のうち, 教員に求められた諸能力を明らかにするための手 がかりを与えると. 第7条. 考えられる検定学科及び検定試験用図書に関連する規定を概括すると, ①受検者は, 尋常師範学校 の学科の受検が必要なこと, ②そのうちで, 小学校の全学科の教員を志願する者 は, 師範学校の全 学科の受検 が必要であり, ③小学校の-学科もしく は数学科の教員 を志望する者 は, 尋常師範学校 の-学科もしく は数学科の受検が必要なこと, ④試験用図書 は尋常師範学校の教科用図書によるこ ととされている ことな どが注目される‐ 以上のよう な検定学科及 び検定試験用図書に拠っ て実施された検定試験の実際の内容はどうであ ろうか. 次にこの問題を取り上 げて検討していきたい.. 1 1 小学校教員学力検定試験の内容 1. 小学校 父教員学力検定試験の実況 ここでまず, 埼玉・山形の2県で実施された学力検 定試験の実況を概括しておきたい. 表2は,両県で実際に実施された検定試験 の学科目を表示したものである.「小学校教員免許規則」 (文部省令) では, 検定学科は「尋常師範学校ノ学科及其程度」 に拠る こととされている が, 埼玉・ 山形の2県 では, 検定学科を, この「小学校教員免許規則」 に完全に一致するように規定している. しかも, 実際に実施された学 科もほぼ規定 どおりであること がわかる. 埼玉・山形の2県で実際に出題された検定試験の問題を表示したのが表3である. 特に, 教員に 対して求められていた能力を明 らかにするという, 本稿の課題に関係の深い教育科の問題をとりあ げ, 問題分析の視点 として先に提示した4項目に従っ て区分して 掲示したものである. それぞれの 区分ごとに内容を概観していきたい. まず, 教育に関する知識・理解を問う問題として は, 「教育トノ、何ソヤ」 と, 教育の本質を直裁 的 「 に問う形 をとっ た山形県の事例 が代表的である. さらに, 教育をより具体的な活動に区分 して, 三 育 (知・徳・体) ノ目的及方便ヲ概論セヨ」 という問題を提 起した埼玉県の事例も典型的といえる‐.

(6) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 表2 尋常師範学校及び小学校教員学力検定の学科 法. 令. 尋常 師 範 学校ノ. 学科及其程度 (文 部 省 令). 教員 免許規 則 (文 部 省 令). 教員検定学科区分 (埼玉県告示). 教員 検定細 則 (山 形 県 令) (注) 1 9年5月2 6日 ‐ 明治1 2 9年6月2 1日 . 明治1 3 0年3月8日 ‐ 明治2 4 9年1 2月2 8日 . 明治1 3月3 0日出版). 学. 科. 倫理・教育・国語・漢文・英語・数学・簿記・地理歴史・博物・物理化学・ 農業手工・家事・習字図画・音楽・体操 倫理・教育・国語・漢文・英語・数学・簿記・地理歴史・博物・物理化学・ 農業手工・家事・習字図画・音楽・体操 倫理・教育・国語・漢文・英語・数学・簿記・地理歴史・博物・物理化学・ 農業手工・家事・習字図画・音楽・体操・匿翻可 、 (下線以外は実 際こ実施. [:コ は規定外の実施 ) . 倫理・教育・国語・漢文・英語・数学・簿記・地理歴史・博物・麹理化学・ 農業手工・家事・習字図画・音楽・体操 (下線以外は実際に実施. 波線は理科として実施 点線は修身として実施) ‐ 文部省令第9号 「尋常師範学校ノ学科及其程度」 文部省令第1 2号 「小学校教員免許規則」 埼玉県告示第2 5号‐ 谷口覚太郎編纂 『埼玉県教員授業生検定試験問題集全』(明治2 2年1 0月) 山形県令甲第2 6号「小学校教員学力検定試験細則」 2年 , 神谷春治編 明・学校教員学力験定試験問題集全』{明治2. 教育 の本質及び目的 に関する知識・理解を問う問題 といえる 大局を見失う ことのない教師となる . よう, 基本的な教 養を要求した 問題といえよう . このほか, 学校に関する知 識を問う問題 特に学校管理 に関する知識を問う問題もここ に含めて , あ る.. 次に教職 にかかわる問題としては, 検定試験用図書 のうちの 『学校管理法 を出典に出題さ れた 』 と思われる, 教師の心得を問う問題がほとん どである ‐ 教育の対象となる児童 に関する知識・理 解を問う問題 は比較的少ない 山形県の 「児童ノ心情ヲ . 概論セヨ」 のような問題がみられる程度である ただ この時期 の検定試験用図書 では 教授の原 . , , 則に関連 して注目す べき児童観が提 示されており 実際に教授 の原則を問う 問題も出題さ れている , ので参照する ことにしたい. 教育科 の問題のうち数の上で圧倒的多 数を占めるのは 教科の指導 に関するものである この時 , . 期の教育学の知識が, 教授法を中心とするも のであっ た事実を反映しているものといえよう . 次に, 教育科の問題の出典を表 示した表4 について概観して みたい .. 明治1 9年7月の文部省訓令第7号で尋常師範学校の教科書に指定され 埼玉県で検定試験用図書 ,. に指定されていた『訳註如氏教 育学』 (『教育新論』 )及び『改正教授術』 を典拠とする問題が 埼玉・ , 山形 の両県で多数出題されていることがまず注目される . こ れ ら 2 つの図書のうち前 者 は アメリカ における 開発主義教授 法の完成 ◎ 者 とさ れる ジョホ , ノ ッ トの著書 の訳書であり, 後者は 著者たち が ジョホノ ッ トの理論を東 京師範学校 に導入した , , 高嶺秀夫 の指導のもとで, 附属小学校 において 開発主義の教授法を実践 した成果をまとめた書 物で あること は広く知られている . こ れ ら 2つ の書物が試験問題 の有力な出典にな ていたということ は 開発主義の教 っ 育理論がこ , の時期の教育 科の問題の背景 に一貫していた ことを示しているといえる だろう ..

(7) . 佐 竹 道 盛. 表3 埼玉県及び山形県の小学校教員学力検定教育科試験問題 区. 試. 分. 験. 問. 題. 区. 試. 分. 験. 問. 題. 埼 玉 、宗教ニ依 ⑤近頃世間ニ 「小学校ノ徳育ノ ラサル可カラス」 ト云ヘル説アリ此説 ノ当否ヲ評論セヨ ⑥徳育ニ於テハ教訓ト儀範ト何レカ尤重 要ナリヤ ・ ⑦発問ノ目的 2÷÷) ヲ教授スル方法 1 ⑧分数除法 ( ⑨修身科ヲ授クル時教師ノ注意スヘキ諸. 埼 玉. ①日本古代ノ大学校ノ教育法如何 ②知力ト知識感覚ノ区別ヲ簡明ニ説明セ ヨ. ③幼稚園ト小学校ノ関係如何 ④三育 (知・徳・体) ノ目的及方便ヲ概 論セヨ ⑤定義トハ如何ナルモノソ又定義ヲ作ル ニ当りテ注意スヘキ箇条如何. 件. 教育に関 する知識. ニアリ. ⑧完全ナル教室ノ採光法ヲ問フ ⑨媛室癒ナキ学校ニ於テ厳寒中教室ヲ暖 メ及ヒ空気ヲ交換スルニハ如何ナル方 法ニ由ルヘキヤ凡テ此事ニ就キ注意ス ヘキ件ヲ記セ ⑩学校衛生ノ大要ヲ述フヘシ. 教職に関 する理解. 児童関係. 山 形 ①褒賞ヲ与フル利害ヲ述ヘヨ又如何ナル 生徒ニ褒賞ヲ与フヘキヤ又褒賞ヲ与フ ルニ付教師ノ注意如何 ②教師ニ貴フベキ習慣ヲ略述スヘシ ③競争心ノ利用ト妄用トラ論述セヨ ④教師ノ言語白声及容儀ノ最良キモノラ 記載スヘシ 山 形 ①児童ノ心情ヲ概論セヨ 埼 玉 ①図画ノ教育上ニ如何ナル効力ヲ有スル. 教科の指 導に関す る知識. ⑩河ナキ地方ニテ河ノ観念ヲ与フル発問 ノ順序 ⑩習字課ノ目的及ヒ其目的ヲ達スル教授 ノ方法 ⑩算術ノ問題ヲ選択スルニ当り教師ノ注 意スヘキ諸件. 山 形 ①教育トノ・何ソヤ ②国民教育トハ何ソヤ其要点ヲ挙ゲヨ ③知覚力ノ修練ヲ教育ノ基本トスル理由 ノ ・如何 ・如何ナル地ソ ④学校ノ位置ニ最良ノ地ノ ⑥左図ノ如キ教室アリ教師及ヒ生徒ノ位 置ヲ撰定シ且ツ撰定シタル理由ヲ説明 セヨ (図省略) ⑥論理的定義ヲ作ルニ就テノ規則ヲ問フ 且ツ此ノ規則ニ照ラシテ左ノ定義ノ正 否ヲ判セヨ 定義 貨幣トノ・金属ニテ 作りタルモノラ云フ ⑦左ノ説ヲ評論スヘシ 学校管理ノ目的 ノ・教師ノ威厳ヲ保チ教室ヲ静粛ニ保ツ. ヤ. ②生徒ノ言葉道ヒラ練習スル手段如何 ③地理学ノ初歩ニ於テ学室ヲ教ユル方法. 如何 ④比例ヲ正転ニ区別シテ授クル得失ヲ論 セヨ. 山 形 ①自然理学ノ・心意鍛錬ニ如何ナル効益ア リヤ. ②実物教授トハ如何 ③女子教育ニ必要ナル学科如何 ④徳育ノ方法如何 ⑤教科書ノ言辞ヲ其僅暗記セシムルノ利 害 ‐ヲ論スヘシ. 教科の指 導に関す る知識. ⑥帰納的授業法及演輝的授業法ノ得失如 何 ⑦教授ノ際教師ノ言ハサルラ得サルコト 生徒ラシテ言ハシメ サルヘカラサルコ トハ如何ナルコトソ 多練ノ三方便アリ ⑧徳育ニ於テ教訓模韓, ト云フ之ガ説明ヲ与へ且ツ執レカ最緊 要ナルカラ論セヨ ⑨規律正キ人ヲ養成スルニ要用ナル百般 ノ方法ヲ説ケ ⑱規律ノ・何故二人ニ必要ナリヤ ⑩授業ニ就キテ批評スヘキ諸点ヲ挙ケヨ ⑬急進ナル教授ノ不可ナル理由如何 ⑩採点ニ就キテ注意スヘキ条件口例列記 セヨ. ◎如何ナル作用ヲ教授ト云フヤ教授ノ目 的ノ・如何教育ノ目的ト如何ナル差異ア リヤ. ⑩教授ノ・己知ヨリ未知ニ進ムヘキモノナ リ其理由ヲ述フヘシ ⑩教師力生徒ニ問ヲ発スルノ・何ノ為ナルヤ ⑰問ヲ適切明瞭ナラシムルニハ如何ニセ ハ可ナリヤ ⑩不能答ノ原由ヲ知ルノ必要ナルコトラ 説ケ ⑩観念ヲ先ニシテ表出ヲ後ニスヘシ 右 教授ノ主義ヲ説明スヘシ ⑲教授・演習・約習ノ別ヲ詳説セヨ. 0日) 及び谷口覚太郎編纂『埼玉県教員授業生検定試験問題集全』(明治 2年3月3 (注) 神谷巻治編 『小学校教員学力験定試験問題集全』(明治2 0月) による 2 2年1. 6.

(8) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 表4 埼玉県及び山形県の小学校教員学力検定教育科試験問題出典 出. 典. 教. 検定用図書 日本教育史略. 教育新論 (訳 註如氏 教育 学). 目. 他編纂). 験. 問. 図画 教育ノ大旨. ◎図画ノ教育上ニ如何ナル効力ヲ有スルヤ ◎三育 (知・徳・体) ノ目的及方便ヲ概論セヨ 0実物教授トハ如何. 実物教授 教育ノ大旨. 徳育 知覚力ノ修練 書籍ノ研究 客観教授法, 主観教授法. 同 上 同 上. 題. 0教育トハ何ソヤ 0徳育ノ方法如何 0知覚力ノ修練ヲ教育ノ基本トスル理由ノ・如何 0教科書ノ言辞ヲ其盤暗記セシムルノ利害ヲ論スヘシ. 0帰納的授業法及演耀的授業法ノ得失如何 ◎地理学ノ初歩ニ於テ学室ヲ教ユル方法如何 ◎修身科ヲ授クル時教師ノ注意スヘキ諸件 0徳育ニ於テハ教訓ト儀範ト何レカ尤重要ナリヤ. 方法書ノ必須. 0徳育ニ於テ教訓模範修練ノ三方便アリト云フ之ガ説明ヲ与へ且 ツ執レカ最緊要ナルカラ論セヨ 0授業ニ就キテ批評スヘキ諸点ヲ挙ケヨ 0教授ノ・己知ヨリ未知ニ進ムヘキモノナリ其理由ヲ述フヘシ 0観念ヲ先ニシテ表出ヲ後ニスヘシ 右教授ノ主義ヲ説明スヘシ 0教授・演習・約習ノ別ヲ詳説セヨ. 概念ノ定義. ◎定義トハ如何ナルモノソ又定義ヲ作ルニ当りテ注意スヘキ箇条. 同 上. 0論理的定義ヲ作ルニ就テノ規則ヲ問フ且ツ此ノ規則ニ照ラシテ 左ノ定義ノ正否ヲ判セヨ 定義 貨幣トハ金属ニテ作りタルモ. 批評ノ諸点 同 上. 修二著). 試. ◎日本古代ノ大学校の教育法如何. 教授ノ主義. 教育学 (伊沢. 科. 教科教則並生徒ノ進退. 学室 修身課 改正教授 術 (若林虎三郎. 育. 次. 如何. ノラ云フ. 学校管理法 (伊沢修二著). 平民学校論略 (村岡範為弛 訳). 教師ノ習慣. 光線 競争心. 0教師ニ貴フベキ習慣ヲ略述スヘシ 0完全ナル教室ノ採光ヲ問フ 0競争心ノ利用ト妄用 トラ論述セヨ. 習字教授 算術 教授. ◎習字課ノ目的及ヒ其目的ヲ達スル教授ノ方法 ◎算術ノ問題ヲ選択スルニ当り教師ノ注意ス ヘキ諸件 0急進ナル教授ノ不可ナル理由如何. (注) 1 川纂 『埼玉県教員授業生検定試験問題集全』(明治2 ‐ 谷]良太郎顧 2年1 0月)及び神谷春治編 制・学校教員学力験定試験問題集全 (昭和 』 2 2年3月3 0日) による 『 2 精論略』は 9年7月7日文部省訓令による尋常師範学校の教科書に指定されたが 埼玉県の検定用図書にはな . 平民学校 ,明治1 っていない , 3 . ◎印は埼玉県の試験問題である. 以上で概観した点について 次節以下 で詳細に考察してい きたい , .. 7.

(9) . 佐 竹 道 盛. 2‐ 教育に関する 知識・理解 ・ i l i nc e sand Practiceof p 埼玉県の教育科の検定試 験用図書に指定されている ジョ ホノ ッ トの Pr )の冒頭に は, 教師が教育の本質及 び原則を熟知してお i Teach ng″ (『訳註如氏教育 学』 『教育新論』 くべきことを説 いた次のような一節がある. ルニ 教師タルモノ ・己ノ業務ニ従 事シテ能ク通明 ナルコ トラ得且其ノ成功ヲ必 期ス ルコ トラ得 ハ, 先 ズ其ノ術ノ細節 ニ通達ス ベキノミナラ ズ, 須ラク教育ノ大旨及是ノ大旨ヲ成就スベキ方便 教 , 第一ニ教育ノ義ニ通暁シ ニ関シテ潤大ノ学識ヲ有セザルベカラズ. ……真正ノ教師タル者ノ、 育ノ性質ト原則トラ悟り, 此ノ智識ア ルガ為メ ニ浅雁ノ教育説ニ陥ラ ズ, 必僻見ヨリ 生ズベキ多 l o }… … 少ノ 過 失 ヲ 免 レ ン コ ト ラ 要 ス ル ナ リ{. 技術の細部に拘泥しす ぎて教育の大局を見 失い, 方向を誤る ことのないよう, 教育の意義, 本質 及び原則に通 暁するこ とを, 教師の基本 的な教養として説いたものといえる. 「 次いでジョホノ ッ トは教育の定義を述べている. かれによ れば, 教育はも ともと 引き出す」 の 意を有するものである が, それは心意に蓄 蔵されて いる諸能力 をそのまま引 き出すこ とを意味する ものではなく, あたかも植物 が種子から発芽して完全な形態に達する ように, 内部から発する自発 的な活動力によっ て, 事物との接触を通じて発展完成させることを意味するのである. ◆対等ニ其諸 したがっ て教育の目 的も, 「教育ノ目的ハ, 人生ノ為メ ニ正シキ生育ヲ増進シ, 統 一, カラ発達シ, 以テ思想及 行為ニ最大ノカラ与フルニ在り, 又其ノ 諸カノ作用ラシテ相調和セシメ」 ることにあるとされるの である. 人間の諸能力 を調和的に完 成させることを教育の目 的としている と い える.. このような教育の本質及 び目的にかかわる 知識・理解を, 教師に不可欠な教養 とみるジョ ホノ ッ が埼玉 トの主張に沿いな がら, ジョ ホノ ッ ト自身の教育観についての受検者の知識を問うているの う 県の検定試 験問題 「三育 (知・徳・体) ノ目的及方便ヲ概論セ ヨ」 に ほかならない, といえよ . 「 セ 1 1 ( ) 方便ヲ概論 三育ノ目的及 埼玉の問題 埼玉県で明治23年に出版された検定試験の解説書 は, ヨ」 に類似の 「知育ノ目的如何」 を掲 げ, ジョホノ ッ トの教育観と同趣 旨の答案を提 示している. よ 埼玉県の問題で問われている 知識 がジョホノ ッ トの著書の内容である ことを間接的に証している うに思われる. 知育ノ目 的如何 ニ 知育ノ目的トスル所ノ、吾人天賦ノ 知力ラシテ充分ニ規則 正シク発達セシメ以テ身外諸般ノ事情 接シ之ヲ処置スルニ妥当ヲ得セ シメ兼テ他種 教育ノ目 的ヲ完成セシメ ントスルニアリト云ヒ得ヘ シ. 天賦の能力を発 達させ, 外部諸般の事情に対処できるよう にする ことを知育の 目的とする ところ 「 ノ に, 開発主義の教育観 が現れている. 因みに, ジョホノ ッ トは知育の目的に関して, 智育ニ於テ 、 ……其ノ事業ノ・悉皆直接ニ心意ヲ観察シテ 得タル所ノ 心力開発ノ 定法ニ一致シ, 其ノ教授ス ル所ノ 1 2 { } と述 生徒ラシテ将来従事ス ベキ各種ノ業務 上ニ有用ノカラ増加セシムルコ トラ以テ目的トナス 」 べ て い る.. げられてい また, 前述の検定試験解説書に は, 教育の目的に関する問題と答案が次のとおりに掲. る.. 教育ノ目 的如何 教育ノ目的タ ル左ノ数語ヲ以テ是ヲ 表シ得ヘシ即 チ教育ノ目 的タルヤ適宜ノ教育ヲ以テ許多ノ経 トシ之レラ平等円満ニ啓発シ 験ヲ受ケシメ児童ガ天然ニ有スル 幽微薄弱ナル諸能力ノ 萌芽ヲ基礎, 道徳ニ則りテ己レラ制シ神身ノ自由ヲ保持 シ適宜ニ外界ノ事情ニ応 シ以テ完全ナル生活ヲ 遂ケシ 8.

(10) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 1 3 ) ム ルノ 準 備 ヲ 与 フ ル ニ ア リ トス(. 先に触れたジョ ホノ ッ トの教育目的観と同趣 旨のものといえる 同書は他に徳 育や体育の目的に . ついても問いと答えを掲載 しているが, 紙幅の都合上引用は差し控えたい . 要するに埼玉 県では,検定試験用図書として指定されたジョホノ ッ トの著書に拠って ペスタロッ , チ一主義の開発主義の知識を問う試験 問題の出題が行われていたとい えよう 検定試験へ向けての . 対策を説く市販の図書も同趣 旨の問題と答案を掲載している . 個人の内部に秘 められた可能性と しての能力 を 啓発誘導 し完成させる ことを意図 する ジョ ホ , ノ ッ トの著書を典拠 に出題された, この時期 の検定試験の内容から当 時の文政 の担当者であ た森 っ 有礼の国家主義 の教育観は読み取ることはできない 個人 の天賦の諸能力を完成 することによっ て . 有為な市民を育成することを期 待するジョ ホノ ッ トの教育観 の反映が認められるだけである 学校 . 管理法 に関する知識を問う 問題の場合にも 森の国家主義 の影響は認めら れない 森の教育観 と検 , . 定試験 の関係については後で触れることとする . 3. 教職に関する知識・理解 教職に関する知識を問う問題と して は,教師の心得ともいうべき事項 の出題が特色にな. っている‐ たとえば, 山形県では, 教師 の心得に含めることのできる「教師ニ 貴フベキ習慣ヲ略述スヘシ 「競 」 争心ノ利用 ト妄用トラ論述セヨ」 「教師ノ言語音声及容儀ノ最良キモノラ記載ス ヘシ などの問題が 」 出題されている.. これらの問題は, 文部省訓令によって尋常師範学校教科書に指定され 埼玉県の検定試験用図書 ,. の中に掲 げられている伊沢修二 の 『学校管理法』 が出典 になっ ているものと思われる という のは . , 同書 は学校管理法 の一環として, 教師が身 に付けるべき習慣や子 どもたち の競争 もの取り扱いや教 師自身の言語容貌 のあり方な どを説 いているから である ‐ 山形県の試験問題 の出題意図を明らかにするために 伊沢の 『学校管理法 の内容を検討して み 』 , よう‐ 伊沢の 『学校管理法』 には, 学校管理 の定義が次のように述 べられている .. 管理トハ確然制定セル所ノ規律ニ依テ他ノ動作及行為ヲ指揮制御スルノ謂ニシテ殊ニ学校ニ於テ ハ校官若クハ教師ノ生徒ニ対シテ規律ヲ設ケ其各個若クハ全体 ヲ統御スルノ法ヲ謂フナリ{ 1 4 }. 管理という のは, 規律に基づき他の動作 行為を指揮統御することであり 学校では教 師の生徒 , , に対する統御を意 味するものとされている . 何故, このような統御が生徒に必 要とされるのか 伊沢は 管理 の目的について次 のように述べ . , て いる.. 学校管理ノ目的トスル所ノ、生徒ノ勤勉善行ヲ興起保全 シテ他日学成り業遂クルノ後 其身ヲ制シ其 1 5 ) 行ヲ規スルノ方向ニ導クニ 在ルナリ{ 未熟なため, 自己の行為を自ら規制することができず 感情に従っ て行動する児童を指導し 後 , , 日自律的な行為をな し得るよう にするのが管理の目的なの である . そこで次には, 管理の方法が取り上 げられることになる 伊沢は管 理の方法として3つの事項を . あ げている. 「生徒ノ信服ヲ得ル法」 「賞罰」 「学校ノ整粛ヲ保ツノ法 の3つである 」 . これらの方法 のうち, 「生徒ノ 信服ヲ得ル法」については いくつかの要素をあ げて説明がなされ , ている. 教育課程 の適切な編成 を意味する「課業其当ヲ得ヘキ事 」 , 物事の処 理を的確な判 断と臨機 応変の処 置によっ て行うべきことを説く「処事其宜 キラ得ベキ事 」 , そして子供の側 のさまざまな動 機を活用することをすすめる 「諸種ノ動機 ヲ適用スル事」 などが具体 的な内容とな ている っ . なお, 最後にあ げられて いる諸種 の動機の活用については さらに細かな項目が列挙 説明され , , 9.

(11) . 佐 竹 道 盛. 「儀 ている. 子供の求知 心を活用する「学識ヲ求ムルノ願望」 , 教師や児童の模範の大切なことを説く 「 「 範ノ感化力」 のほか, 「競争心」 「称善ノ願望」 「阿責ノ 恐濯」 な どである. 競争心」 称善ノ願望」 などは, 山形県の試 験問題で取り上 げられている事項 である. これらのほかに, 伊沢の 『学校管理法』 の中には, 教師が身に付ける べき諸習慣 や諸注意が掲 げ られているのも特色のひとつである. 特に, 「教師ノ精神」の項 で説かれている教育愛や子弟愛な ど の項目は, 教師の資質に関係する事柄であり, 注目される. 学力検定の試験用図書の中に資 質にか かわる項目が説かれ, それが検定受検 者に伝えられて いたとみられる からである. 『 以下さらに, 山形県の試 験問題との関連に留意しな がら, 伊沢の 学校管理法』 の所説をみてい く こ と とす る.. 山形県の試験問題には, 「教師ニ貴フベキ習慣ヲ略述スヘ シ」という設問 がみられる が, この問題 について伊沢は, 「教師ノ習慣」の項で5項目の内容を掲 げて説明を行っ ている. この時期に教 師に 「 期待されて いた習慣を知るのに参考になるもの といえる. 「諸事清潔ヲ旨トスヘキ事」 礼譲ヲ重ス ベキ事」 「自修ノ学科ヲ勤勉ス ベキ事」 などの項目である. 「諸事清潔ヲ旨トスヘキ事」では, 生徒の模範となる ことを考慮して清潔の習慣を身に付ける べき ことが説かれている.. 教師ノ・生徒ノ模範タルベキモノナレバ最モ是等ノ習慣ヲ重ス ベキカ故ニ宜ク左ノ諸項 ニ留意ス ベ シ毎朝農起ノ後 必ス盟啄硫髪ヲ終へ衣服ヲ更へ特ニ其汚塵ヲ掃 ヒ去ルニ意ヲ用フベシ……歯ト爪 トハ亦宜ク清潔ヲ保ツベキモノナリ……衣服ノ・強チ善美ナルラ要セス ト雌モ其風態粗野ニ失セス 1 6 ) 軽薄ニ陥ラス 且清潔ニシテ汚稼ニ染マザルモノラ撰用スベシ(. 「秩序ヲ規正スヘキ 事」 の項では, 「教師ノ、先ツ自己ノ卓上ニ在ル所ノ物件ヨリ学 室内ニ置ク所ノ 器什ニ 至ルマデ整斉 一日ノ如ク曽テ乱雑ノ 状ヲ現ハサザ ルラ務ムベシ」 と説かれている. 特に児童 に模範 を示すために必 要な事柄として 整理整頓が説かれる. 「時間ヲ守ルヘキ事」 については, 「特ニ教師ニ在り テハ最モ然リトス何トナレハ 教師目ラ其時間 ヲ守ラザルトキハ 生徒就業時間ノ不規 ナルモ之ヲ匡正スル能ノ、ス随テ全校ノ事業ヲ害スルニ至ルラ 以 テ ナ リ」 と さ れ て い る.. 「礼譲ヲ重ス ベキ事」の中で説 かれていることは特に注目される. というのは, 山形県の試 験問題 「教師ノ言語音声及容儀ノ最良キモ ノラ記載スヘシ」 で問われていることと同趣 旨の内容を説明 し. て い る と み ら れる か ら で あ る‐ 次 の と お り で あ る.. 語ニ日ク言語ノ・徳ノ音ニシテ 容貌ノ・徳ノ形ナリト教 師タルモノ 宜ク此餓言ヲ服虐シテ言語ヲ慎 ミ 容貌ヲ正シ以テ礼譲ノ実ヲ表スヘキナリ萄モ部野ノ言語ヲ吐キ汚繊ノ談話ラナシ其徳ヲ損スル如 1 7 ) キ 所 行 ア ル 可 ラ ズ(. 「教師ノ習慣」 の最後に掲 げられている 「自修ノ学科ヲ勤勉スベキ事」 は, 教師の自己研 修の不可 欠なことを説くものである. 注目される ところである. 凡ソ教師タルモノ 如何ニ該博ノ学識ヲ蓄フルモ久ク 之ヲ用ヒ ザレハ皆遣忘消却シテ殆ト其用ヲ為 サザルニ至ルベク又世ノ開明 進歩ニ随テ日新ノ 知識ヲ求ムルニ非レバ既ニ学ヒ得タル所ノ学術ノ、 数年ノ後 陳腐ニ属シテ亦用フ可ラザルニ至ルベシ故ニ教 師タルモノハ 正ク課程ヲ定メ 毎日自修ノ 1 8 ) 学 科 ヲ 怠 ル 可 ラ ス(. 山形県の試験問題で取り上 げられた教師の習慣というの は, このように広範 な事柄に関連するも の で あ っ た と い え よ う.. 山形県の試 験問題に子供の競争心の取り扱いを問う 問題 があるが, このことに関して, 伊沢の説. くところは次の とおりである. 10.

(12) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 伊沢はまず競争心が人 間社会に広く みられることに触れ それが社会の進歩 をもたらす基 になっ , ていることを述べた後, 教育上 に競争心を用いる際に注意すべき事柄を次 のように説いている . 教師タルモノハ 常ニ生徒ヲ制御スルノ権力ヲ有スルモノナレハ競争心ノ発動ノ如キモ或ノ・之ヲ抑 制シ或ノ、之ヲ奨励シテ能ク中正ノ程度 ヲ保タシムルラ得 可シ能ク其機ヲ察シ其度ニ適シテ此心力 ヲ活用スルトキハ全校ラシテ奮然 業ニ就キ学ヲ楽マシムル地ニ進マ シムルラ得ン然しトモ若シ其 適用ヲ誤りテ唯学業ヲ激励スルノ一方ニ偏シ徳義上ノ習慣ノ如キハ措キテ間ハザルノ弊ニ陥ルト キハ此心カハ変 シテ害毒ヲ醸スノ基トナリ全校ノ 事業ノ・恰モ戦場ノ 争闘ノ如ク人々 皆惟優等者ヲ 圧倒シテ其地位ヲ 得ン事ヲ之し勉ムルニ至り競争者ヲ 目シテ進路ノ大害物トシ彼ニ向テ悪念ヲ懐 キ遂ニ不善ノ術策ヲ施スモ猶彼ノ利益 ヲ奪ハ ント課ルニ至ラ ン其害毒タ ル登恐 レザルベケ ンヤ ……是し競争心ヲ誤用スルノ弊ニシテ世人或ノ・此心力ヲ認 、メテ教育ニ益ナ シトスルモ主 トシテ此 点ニ在ルナリ然リト雌トモ其適用ノ法宜キラ得 ルトキハ却 テ善良ノ成果ヲ来スモノ ナル事亦疑フ 1 9 } ベ キ ニ 非 ズ{. 競争心の誤っ た利用に伴う 弊害を指摘した後で 要は これを活用 する教師自身 の性行が結果に , , 影響を与えるも のである, として次 のように結んでいる . 競争心ノ適用 其宜キラ得ルト否ルトハ教師其人ノ 性行ニ在りテ存スルモノナリ故ニ 若シ教師タル モノ広潤ノノムラ以テ生徒 ヲ導クトキハ皆ナ 其風ニ化シテ卑劣ノ競争ヲ事トセズ所謂君子ノ争ヲ以 テ其志トスルニ至ルベシ若シ教 師目ラ卑屈狭溢ノ精神ヲ以テ之ニ臨マハ生徒皆ナ貧欲 争利ノ風ニ 陥り所謂小人ノ 争ヲ以テ事トスルニ至ラン豊猛省セザル可ケンヤ 又此心カハ多ク智育ニ 関スルノ 諸科ニ適用ス ト雌トモ亦徳 育ノ用ニ充テ以 テ生徒ノ善行ヲ勧奨スルトキハ其功 ヲ奏スル事蓋シ鮮 ) 少 ナ ラ ズ トスは0. 立身出世主義 や富国強兵 のための競争が強調さ れていた明治期 において 教育における競争 の扱 , いに関して述 べられた伊沢の説はむしろ穏当なも のといえよう 森有礼文相の国家主義の主張とは . 隔たりがあるといえる. 褒賞の利害 を問う山形県 の試験問題の典拠と みられる所説も伊沢 の 『学校管理法 の中にみられ 』 るが, ここでは詳論 を控えたい. 「賞罰」の項で説かれているとこ ろは 要するに 褒賞は過度 にな , , ると児童を侶倣 にするので, 過度 に陥らないようにすること 優等生のみならず どの児童にも良 , , さを見 つけ次第適用すること, ありふれたことに乱発せず 特に優れた点 に用いることなどを注意 , 事項 としてあ げているのである. 最後に指摘 しておきたいことは, 伊沢が学校管理法の結びとして 「教師ノ精神 を説いている中 」 で, 「事業ヲ愛スルノ心ヲ存スヘキ事」 として教 育愛を説き 「生徒ヲ愛スルノ心ヲ存スヘキ事 と , 」 して子弟愛を説いている点である . 伊沢の著書 『学校管理法』 は, 全国の尋常師範学校の教 科書に指定されており 山形県では尋常 , 師範学校 の教科用図書を, 検定試験用図書 にあてているので 山形県でも この書は検定試験受検 , , 者に広く読まれていたと考えられるのである そのような図書 の中で 教師の人間的な資質に相当 . , する教育愛と子弟愛が説かれていることは注目してよ いことである 単に学力の検定が行われてい ‐ ただけでなく, 検定用図書を通して, 教師の資 質に属する教育愛や子弟愛が伝 えられていたと考え ら れる か ら で あ る .. 以上の考察から明らかなとお り, 伊沢修二の 『学校管理法』 を典拠として出題されたとみられる 山形県の学力検定試験問題は, 児童の管理に関する知識を問うものが中心になっ ているといえる . 児童の取り扱い にかかわる教師の心 得を問う問題であっ たといえよう ということは 森有礼の説 . , くような, 国家とのかかわ りにおける教職 の位置づけを問う問題 はみられな いということになる . 11.

(13) . 佐 竹 道 盛. 4‐ 児童に関する 知識・理解 埼玉・山形の2県の検定試験問題を見る限りでは, 児童に関する知識・理解を問う問題はきわめ 「 て少ない. ただ, 教授法の原則を問う問題, たとえ ば, 山形県の「実物教授トハ如何」 観念ヲ先ニ シテ表出ヲ後ニスヘシ」 な どの問題の背後には, 一定 の児童観が存在して いる はずである. ある児 童観が前提になっ て教授法の原則 が提示されているの である. そのよう な教授の原則 が前提として いる児童観を検 討することで, われわれの課題にせまることにしたい. 山形県の試 験問題のうち, 「教授ノ、己知ヨリ未知ニ進ムヘキモノナリ其理由ヲ述フヘ シ」というも 『 のや 「観念ヲ先ニシテ表出ヲ後ニスヘシ」 という問題は, 明らかに若林虎三郎らの 改正教授術』 「 が出典になっ ている. これらの問題 は, 同書の冒頭に掲 げられている 教授ノ主義」 に拠るもの で 「 ある. 問題の形で出題されていない部分をも補っ て, 『改正教授術』 の 教授ノ主義」 全体を取り上 げて, 児童観を明らかにする手だてとした い. 2 1 }であるとい 『改正教授術』 に掲 げられている「教授ノ主義」 は, シェ ルドンの著書に拠っ たもの( われている が, それは次のとおりである. 1. 活発ノ・児童ノ 天性ナリ 動作二慣レシメ ヨ 手ヲ習練セシメヨ 2. 自然ノ順序ニ従ヒテ諸心力ヲ開発ス ベシ 最初心ヲ作り後之ニ給セヨ 3. 五官ヨリ姶メ ヨ 児童ノ発見シ得ル所ノモノハ決シテ 之ヲ説明ス ベカラズ 4. 諸教科ノ・其元基ヨリ教フベ シ 一時一事 5. -歩一歩ニ進メ 全ク貫通ス ベシ 授業ノ目的ノ、教師ノ教へ能フ所ノ者ニ非 ズ生徒ノ学 ビ能 フ所ノ者ナリ 6. 直接ナルト間接ナルトラ間ハ ズ各課必ズ要点ナカルベカラズ 7. 観念ヲ先ニシ表出ヲ後ニス ベシ 8. 己知ヨリ未知ニ 進メ 一物ヨリ一般ニ及べ 有形ヨリ無形ニ進メ 易ヨリ難ニ及べ 近ヨリ 遠ニ及べ 簡ヨリ繁ニ 進メ 2 2 ) 9. 先ズ総合シ後分解ス ベシ( 「活発ノ・児童ノ天性ナリ」という表現の中に児童観が端的に表明されているといえる.児童は本来, その内部に発展の可能性と, その可能性を実現していく自発活動性を秘めているものなのである. 本来活動的である児童の自発活動を促 し, 自発活動を通 して諸能力の完成 をはかっ ていくのが教育 である. 自らの活動によっ て自己を完成 していく主体として児童が把握さ れている‐ さらに, 「自然ノ順序ニ従 ヒ諸心力ヲ開発スベシ」という提言の中に, 児童の心力の発達には, 自 然による一定 の順序・段階があるという見解が表明されている. 教育 は当然にこの順 序・段階に従っ てなされなければならないものである. 「観念ヲ先ニシ表出ヲ後ニスベシ」という主張には, それまでの書物中心の暗譲教育, 注入教育へ の否定が込められており, 児童自身による 実物の観察を出発点として観念の 開発法則へと進む認識 及び精神成長の筋道が示されているの である‐ 書物による知識 注入の対象としての児童ではなく, 自らの活動により知識の習得をはかり, 諸能力を発展さ せていく主体と して児童がとらえられてい る の で あ る.. ここで提示されている諸原則 は,「ペスタロヂー其他諸教育 家ノ幾多ノ理論ト経験トラ積ミテ組成 2 3 ) セルモノニシテ現今教育諸大家ノ 一般ニ是認スル所ノモノ( 」 といわれて おり, このような原理に 関する知識 を問う問題 が出題されているというこ とは, 欧米教育界共有の近代的な教育の原理 が, 教員検定試験の受検者に必須の知識 とされていたことを示している といえる.. 12.

(14) . 第一次 ・学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 5‐ 教科の指導に関する知識・技能 埼玉・山形 の両県で出題された検定試験問題 のうち 多数を占める のは教科の指導方法 にかかわ , る知識を問うも のである‐ 数多い問題 を見わたして気 付くことは それらが 教授の一般的な原則 , , にかかわる知識を問うものから, 具体的な指導 の過程や技術 に関する知識を問う問題まで 多様な , 内容を包含していること である . 多様な問題を類似する点 に着目して分類 して みると 次のような 区分が可能と なる すなわち , ‐ , ①教授 の一般 的原則にかかわ る問題 ②具体的な教 科について その教授 の目的‐意義・効用を問 , , う問題, ③教科の具体的な指導方法な いし指導にあたっ ての注意事項 を問う問題 ④指導の技術と , して の発問についての知識を問う 問題 ⑤方法書 (学習指導案) に関する知識を問う問題 ⑥授業 , , の批評の観点を問う問題の6項 目である . 教授 の原則を踏まえ, 各教科それぞれにそ の目的・意義・効 用を自覚し 予め周到な指導案を用 , 意し, 指導技術を駆使して効果 的に指導するとともに 自己 の実践を反省 吟味し 仲間の授業を , , , 参観して, 自己 の授業の改善をはかっ ていく教師像 を期待する出題意図があ らわれているように思 わ れ る‐. 以下, 各項目の代表 的な問題を取 り上 げ 出題の意 図を考察する , ‐. 教授の一般的原理・原則にかかわる問題としては 山形県の 「帰納的授業法及演輝的授業法ノ得 ,. 失如何」 「実物教授トハ如何」な どが代表 的なものといえる いずれも児童 の心ゞ性開発のため の教授 . の過程に関する基本的な知識を問うものである ‐ ジョホノ ッ トの説く客観 的教授法 (帰納的授業法) 及び主観的教授 法 (演輝的授業法) を典拠に. 出題されたのが 「帰納的授業法及演輝的授業法ノ得失如何」 である .. ジョホノ ッ トの提唱する帰納 的授業法は 近代科学の方法である帰納法にの とるも ので 児童 っ , , の心性を開発する道筋を示すも のである この教授法 は 事物の感覚 ・知覚を出発点に 比較・分 . , , 類・一般化 な どの手順 によっ て法則や定義 に到達し その過程にお いて精神 の成長をもたらすもの , とされている. 実物教授は, この教授過程の基礎をなすものである ‐ 演輝的授 業法は,帰納的授業 によっ て獲得された法則が新 しい分野 に応用され 法則が事実 によ っ , て確証される過程をた どるも のであり, 精神力を強化する働きをなすも のである 帰納・演輝の両 . 過程あいまっ て, 精神の成長と強化がもたらされるの である . 諸心力を開発する関発教授 の基礎をなす実物教授 についての知識 を問うのが「実物教授 トハ如何 」 の設問である‐. 児童の諸心力の開発に不可欠な具体的経験や事物の観察を顧慮することなく 専ら書物の素読暗 ,. 詞に終始してきた, それまでの学校教 育の欠陥を ジョホノ ッ トは次のよう に指摘している , . 初等教授ノ、近来ニ至ルマテ専ラ素読暗詞ノ 法ニ拠り 而シテ生 徒ノ就学前ニ 経験シタルコトラ採 , テ学校ノ教課ニ実用セシコ ト甚少ク 生徒ノ 既ニ梢習熟シ且 興味ヲ有ス ル事物ヲ観察スルコトハ , 学校ニ於テ之ヲ廃止シ, 強テ生徒ノ 注意ヲ転ジ字母ノ如 キ人造ノ記号 ヲ学バシメ 之ガ為メニ学 , 校ノ事業ノ、従前ノ経験ニ 対シテ著 シク関係ヲ失 フ……{ 2 4 ). つづいて, 記憶暗詞 の教育に対置される実物教授 の起源と意義が 次 のとおり要約記述される , ‐ 此ノ如ク器 機的ニシテ自然ニ戻レル教授法ノ行ハ ルル時ニ当 テ実物教授ノ 法起りタリ 此新法 ノ・ . 能ク生徒ノ注意ヲ励 シ興味ヲ与 へ 旧法ニ超 越スルコト著 シキモノ ナリ 且又新法ノ、 経験ニ訴へ , . 又観察力ヲ刺衝シテ甚快 活ナラシメ 真正ノ智識ヲ心意ニ与 ヘテ 彼ノ素読暗謡ノ旧法ヨリ生ジ , , タル不注意 ト軽操ナ ル順惰ノ汚濁 トラ脱スルコトラ得シメ タリ( 2 4L…- ついで, あらゆる知識の成立を保 証する実物 観察の意義が説 かれ 観察 は教授 のの とるべき基 っ , 13.

(15) . 佐 竹 道 盛. 本的な手続として 位置づけられていく. 理法ヲ証明 シ真理ヲ証明 シ及人類ノ福祉ヲ増進セ ンニハ, 心意ノ作用必一定ノ順序ニ拠ラ ザル可 ラズ, 而シテ思想ノ材料ノ、元来外界ノ 実物ヲ観察ス ルヨリシテ 来ルガ故ニ, 思想ノ順序モ亦外界 ノ実物ト現 象トノ原由・結果及依従ヲ観察スルヨリシテ 生ズルモノナリ. 夫事実ノ関係及其ノ形. 質ヲ示ス所ノ秩序アル実物教授ハ, 論理学及其ノ他悉皆ノ連続セル思想ニ必要ナル原由・結果及. 2 4 ( ) 依従等ノ観念ヲ最強ク表出シテ 心意ニ最深キ 印象ヲ作ルモノナリ . 実物教授は, 若林虎 三郎らの 『改正教授術』 でも紹介推賞され, 全国に流布して いっ たが, 検定 「 試験でも教師に必須の知識とさ れていたよう である‐ 山形県で出題された 観念ヲ先ニシテ表出ヲ 事 『 後ニスヘシ 右教授ノ 主義ヲ説明スヘシ」 という問題も 改正教授術』 を典拠とする 実物教授の. 例である. 教科の教授にあたっ て, その目的・意義・効用等を把握している ことは教師の基本的な資格とい 「 えよう. 検定試験でも, 「図画ノ教育 上ニ如何ナル効力 ヲ有スルヤ」 習字課ノ目的及其目的ヲ達ス ル教授ノ 方法」 などの問題 が埼玉県で出題さ れている. 埼玉県出題の図画科の問題に答えて いるような趣のある答案を載せた検 定試験解説書が, この時 期に同県 で出版されている. 教育科の問題と答案を多数掲載している. この書物に載せられている 埼 図画科の問題は 「図画科ノ効用如何」 というものである. この問題の解答は次のとおりである. 玉県の試験問題の出題意図を知る手 がかりになるもの と思われる. ザ 今吾人ノ 他人ニ事物ヲ通 ゼントスルニ当り 其事物ラシテ言語ニ表ス ルラ得 ズ又文章ニ作ルラ得 直チニ他 ルトキハ 他ニ是ヲ通ズルノ方便ヲ求メ ザルベカラ ズ即チ此時ニ際シ図画ヲ用フルトキハ 人ニ通スルラ得 ルノ便益アリ又吾人後来図画ノ助ケラ得テー身社会上ニ利益ヲ感ズルモノナリ其 他間接ヨリシテ其効用ノア ル処ヲ挙 グレハ想像力観察力注意力記臆力等ラシテ発育セシム ルラ得 2 5 ) ( ベシ又心意ラシテ綿密整粛ナ ルラ得シメ手菅ラシテ運用自在ナラ シメ …… 立つこ 以上のように, 図画科の効用は直接に は実益をも たらし, 間接には諸心力や手の修練に役 とろでもあ 説いているこ とにあるとさ れている. こう した見解 はジョホノ ッ ト がその著書の中で 2 6 } 埼玉県の検定試験 がジョホノ ッ トの著書に拠っ ていたことを推測さ せるものである‐ る( . 図画科においても心性開発主義によっ て諸心力を開発することを行政当局 が教師に求めてい たこ とがうか がえる・. 具体的な教科の具体 的教材の指 導法を問う問題は, 最も出題例の多い問題である が, この場合も 実物による心力開発の指導を要求するものとなっている. ある. たとえ ば, 埼玉県出題の 「地理学ノ初歩ニ於テ学室ヲ教ユル方 法如何」 が代表的な事例で 「 「 学室」 この 拠る出題である た 学室 に 」 . この問題は, 『改正教授術』 巻2の26丁以下に掲載され 『 は, 実物教授の原則 が具体 的な教科に適用された代表的な事例 といえる. 改正教授術』では, 教室 の観察・実測から地図 の学習へ と授業が展開 して いる‐ 経験や観察をもとに, 児童自身が観念を開発 し, 概念・法則に到達するよう効果的に指導を行う う設問 発問の技術は, 開発主義教授法にあっ ては重要 な能力とされて いた. 発問に関する理解を問 「 ルハ何ノ為ナルヤ」 もかなりの数にのぼっ ている. 「発問ノ目的」 (埼玉) , 教師力 生徒ニ問ヲ発ス (山形) などの設問 が代表的な事例 である. 『教 発問に関して, この時期の教育界でどのような理解 がなされていた か, 埼玉県で出版された 対して 育科試験問題答案全』 から引用する. この書物 は, 「発問ノ教育上ノ価値 如何」 という設問に 次のよう な答案を載せている. 、以テ良教師トナスラ得……左ニ之 レニ由り 発問ノ、教授ノ 主タル方便ニシテ此術ニ熱シタル教師ノ 4 1 ‐.

(16) . 第一次小学校令下の小学校教員学力検定試験の内容と教師像 テ生スル利益ノ重ナ ルモノラ列挙ス ヘシ ①生徒ノ学力 ヲ験スルラ得ルコト ②生徒ラシテ真理ヲ発見セシム ルラ得ルコト ③生徒ノ思考 力ヲ練磨スルラ 得ルコト ④印象ヲ強クシ得ルコト ⑤生徒ノ勇気ヲ生セ シムルコト ⑥生徒ラ シテ課業ニ注意セ シムルラ得ルコ ト. ⑦生徒ノ思想ヲ整頓スルラ得ルコト. ⑧生徒ノ見解ノ 不正 当ナルラ正スラ得ルコト ⑨生徒ノ言 語ヲ練習スルラ得ルコ ト 十分に整理さ れたものとはい えないが, 主な機能を列 挙したものとい えよう 発問の前提に真 理 ‐ を把握するのは生徒自身であるという 考えがあるよう である そのような前提のもとに 生徒 の理 . , 解の程度を確認し, 学習する事項に注意を集中させ 生徒の考えを整 理させ 思考を促して真理の , , 発見へ導くことを意 図するものといえよう . 埼玉県の問題が問うているのも, このような発問観であっ たのであろう ともあれ 『改正教授術 』 ‐ , のような書物や検定試験をとおして,発問技術の修練 に教育界の注意が喚起 された点 に注目したい . 若林虎三 郎らの『改正教授術』では, 「教師ノ方法書ニ於ケル猶舟ニ糧アルガ如シ と 方法書(学 」 , 習指導案) の必要が説かれ, 復習・教授・演 (練) 習・約習の過程をふむ方法書の形式が示されて い る.. この方法書 は, 教授の過程を予め 計画化 客観化すること で 授業の過程を周到なも のにし 同 , , , 時に自己の実践を反省・吟味することを容易にし 共同の授業研究 の可能性を保証するものであ , っ たといえよう. この方法書 に関する知識を問う出題 もみられる . 同じく 『改正教授術』 に拠っ て授業批評 の観点を問う問題が出題されているのも注目される 方 . 法書に拠っ て教師がお互 に授業の批評を行い 自己の実践を改善することが期待されていたことを , う か がわ せ る も の であ る .. m 教員検定と教師像 森文政期 の小学校教員検定は,郡区長による検定受検者の品行の実質的な検定 を制度化( 2 7 )すると ともに, 学力検定 の教育科の試験では, 受検者にペスタロッ チ一を源流とする開発主義 の教育観・ 児童観を浸透させるものであっ た . 一方 で, 実質的な品行検定ともい える郡区長による品行保証では 「荒酌暴激 等 の反体制的な行 」 , 動をチ ェックし, 他方教育科の学力検定では 児童の可能性を開発する教育 の実践の方法を問う試 , 験を課していた. 一 見矛盾する要素を抱き合わせ にした教師像が求め られていたといえるが そこに森文政期の教 , 員政策の啓蒙的な一 面が現れていたといえよう . 教師は, 体制内にとどまる限り, 欧米の近代教育の原理 による実践を容認 される可能性があ た っ といえよう. もっ とも森文 政期の教員検定 は 期間が短 かかっ たこともあり 実質的な効 果はそれ , , ほ どな か っ た よ う で あ る が .. だE. ( 1 ) 拙稿「森文政期における小学校教員学力検定試験の実態」 (北海道教育大学紀要第一部C第39巻第1号 3 , 昭和6 年) ( 2 ) 明治19年熊本県学事年報摘要 官報第1 2 25号 明治20年7月29 日. 295 頁. 15.

(17) . 佐 竹 道 盛 23 2号 明治20年8月 6 日 65頁 ) 明治19年群馬県学事年報摘要 官報第1 ( 3 7号 明治20年9月 29 日 270 頁 27 { ) 明治19年埼玉県学事年報摘要 官報第1 4 ) 広瀬通知編 ( 5. 『埼玉県小学校教員授業生学力検定試験規則全書』. 3年10月 30 日 明治2. 16 頁. ( 6 ) 明治19年7月 7日文部省訓令第7号 内閣官報局編 明治年間法令全書明治19年1 ( 7 ) 稲富栄次郎著 『明治初期教育思想の研究』 昭和19年 270頁 ( ) 山形県教育委員会 8. 『山形県教育史資料第1巻』. 昭和4 9年3月 31 日. 535一536 頁. ( 9 ) 稲富栄次郎著 前掲書 270頁 Q O D 高嶺秀夫訳 『教育新論第一』 明治18年 2ー3頁 側 牧野吉弥編著. 『教育科試験問題答案全』. 2日出版 明治23年4月1. 鰹 ) 高嶺秀夫訳 前掲書 26一27頁 9頁 ( 1 ) 牧野吉弥編著 前掲書 27一2 3 『 9日出版 続騰1頁 学校管理法』 明治15年9月2 側 伊沢修二著 ( ) 伊沢修二著 前掲書続篇3頁 1 5 Q 6 ) 伊沢修二著 前掲書続篇35頁-36頁 節 伊沢修二著 前掲書統篇39頁一40頁 1頁 鰯 ) 伊沢修二著 前掲書続騰40頁-4 回 伊沢修二著 前掲書続踊12頁-13頁 側 ) 伊沢修二著 前掲書続篇13頁-14頁 御 吉田熊次著. 6頁 吉田は, 若林らの掲げた 「教授ノ主義」 9 0版 414頁-41 昭和16年2 原文を示し, シェ ルドンの著書に拠ったものであることを証している‐. 『本邦教育史概説』. 項目のそれぞれについて, { 幼 若林虎三郎, 白井毅編纂 『改正教授術』 巻1 1~2丁 ) 若林虎三郎他 前掲書 1丁 棚. 御 高嶺秀夫訳 前掲書 ( 2 ) 牧野吉弥編著 前掲書 5 28頁 18頁~5 筋 ) 高嶺秀夫訳 『教育新論』 第3 5 1 )の拙稿を御参照願いたい‐ ( 2 7 ) 注( (本 学 教授. 16. 函 館 分 校).

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