造形教材における制作過程と創作の可能性
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第59巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.59,No.1. 平成20年8月 August,2008. 造形教材における制作過程と創作の可能性 佐 藤 昌 彦 北海道教育大学札幌枚美術教育学研究室(教員養成課程教育臨床専攻教育実践分野授業生活指導コース). AStudyoftheCreationProcessandCreationinDesignTeachingMaterials SATO Masahiko. DepartmentofArtEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本稿は,科学研究費補助金プロジェクトによる基盤研究B「先行実践における知を活用した教育実践構想 支援システムの開発」(平成17∼19年度)の一環として,造形教材における制作過程の基軸となる考え方を 提起するとともにその重要性を裏付ける根拠としての創作の可能性を示したものである。制作過程の基軸と. なる考え方としては「イメージから形へ」という一方向だけではなく「形からイメージへ」という逆方向も 認識することによって「イメージから形へ・形からイメージへ」という両者共存の視点をもつ必要性につい て述べた。造形教材の制作はイメージを形に表すことであるという見方だけでは,つくろうとするものが思 い浮かばずに図画工作科に苦手意識をもつ子供の不安を解消することはできないからである。つくろうとす. るもののイメージが思い浮かばない,制作途中でどんな形をつくっていいのかわからなくなった,そうした 状況ではどうすればいいのか。その基本的な考え方と具体的な指導法を提示した。また創作の可能性として. は造形教材「うちわはごいた」で制作された作品を掲載した。「うちわはごいた」は「イメージから形へ・ 形からイメージへ」という双方向の視点を踏まえて提案した教材だからである。こうした基本的な考え方と. 造形教材の開発は小学校図画工作科における授業の構想・立案に貢献できるものと考える。. 1 はじめに. 科学研究費補助金プロジェクトによる基盤研究 B「先行実践における知を活用した教育実践構想. 本研究の目的は,科学研究費補助金プロジェク. 支援システムの開発」は,先行実践から新しい教. トによる基盤研究B「先行実践における知を活用. 育実践を構想・設計するための「実践の知」を抽. した教育実践構想支援システムの開発」(平成17. 出し,それらの活用を図る教育実践構想支援シス. ∼19年度)の一環として,造形教材における制作. テムの開発をねらいとしている。そのための実践. 過程の基軸となる考え方を提起するとともにその. 課題は次の三つであり,本稿は実践課題の(2)に関. 重要性を裏付ける根拠としての創作の可能性を示. 連する。. すことにある1)。. (1)教育実践の構想・授業設計の過程とそこにお. 91.
(3) 佐 藤 昌 彦. ける教師の思考・知識を明らかにする。 (2)教育実践の構想・授業の設計に有用な「実践. ろうとするもののイメージが思い浮かばずに図画 工作科に苦手意識をもつ子供たちは少なくないか. の知」を実践記録から抽出する方法を開発する。. らである。筆者自身も小学校時代つくろうとする. ※ 教授・学習過程の構造化,視覚化,資料化. ものが思い浮かばずに途方にくれた子供の一人. →授業過程の構造図。. だった。学芸会(桃太郎の鬼退治)で使用する鬼. (3)実践記録の収集・蓄積と教育実践の設計へ活. のお面をつくる際に材料となる厚紙は準備したも. 用するための検索カテゴリーシステムを検討す. ののどんな鬼のお面をつくったらいいのかそのイ. る。. メージがわかずにとうとうつくり始めることがで. 今回の研究は上記の科学研究費補助金プロジェ. きなかった。泣き出しそうになっている様子を見. クトに関する継続研究の5番目のものとなる。1. かねた父が結局は筆者にかわって鬼のお面をつ. 番目は「造形教材を対象とした授業過程の構造図. くってくれた。つくり始めることができなかった. と基本的作成プロセスの提起」(北海道教育大学. 背景には初めにつくろうとするもののイメージが. 紀要第57巻第2号)として造形教材にかかわる授. なければ制作することができないという強い思い. 業過程の構造図とその基本的作成プロセスを明ら. 込みがあったのである。現行の小学校学習指導要. かにした2)。2番目は「授業過程の構造図におけ. 領解説図画工作編(文部省/平成11年5月)にも. る基本的作成プロセスの有効性」(北海道教育大学. 「初めに表したいことやつくりたいもののイメー. 実践総合センター紀要第8号)として1番目で碇. ジや構想があって,それらをもとに材料や方法を. 起した基本的作成プロセスの有効性を考察しが)。. 選び,かいたりつくったりする活動がある」(p16). 3番目は「創作プロセスの図式化による造形教材. として,その活動を「絵や立体に表したり,つく. の碇案」(北海道教育大学紀要第58巻第1号)と. りたいものをつくることや工作に表すこと」と規. して創作過程を図式化した造形教材の提案を行っ. 定している6)。もちろん初めにつくろうとするも. た4)。4番目は「創作プロセスの探究と造形教材. ののイメージがあって制作する場合もある。しか. の提案」(北海道教育大学紀要第58巻第2号)と. し指導者がその一方向だけしか認識していないの. して3番目の創作過程の観点にさらにもう一つの. であれば,つくろうとするものが思い浮かばずに. 観点を加え新たな造形教材の提案を行っが)。授. 自信をなくしている子供の身になってその解決方. 業の分析と提案という視点から分類すれば,1番. 法を示すことはできにくい。本稿ではつくろうと. 目と2番目は授業過程の構造図によって先行実践. するもののイメージが思い浮かんだ場合も,たと. を分析し,3番目と4番目は授業過程の構造図に. え初めに思い浮かばない場合であっても,さらに. よって子供の造形力を高めるための授業の碇案を. 言えば,制作途中でどんな形をつくっていいのか. 行ったものである。5番目となる本研究では,こ. わからなくなった場合においても,創作に結びつ. れら4つの継続研究の成果を生かしながら,「イ. くような考え方と具体的な方法を提案した。また. メージから形へ」という一方向だけを創作の手立. その重要性を裏付けるものとして造形教材「うち. てとして認識するのではなく「形からイメージへ」. わはごいた」で制作された作品をできるだけ多く. という逆方向の手立ても認識することによって. 掲載した。. 「イメージから形へ・形からイメージへ」という 制作過程における両者共存の考え方を提起した。 このことは教育現場での切実な課題を解決する. なお科学研究費補助金プロジェクト(授業過程 の構造図)に関する先行研究には,これまでにも 示してきたが三橋功一(研究代表者)「授業論を. ための方策の一つを示すことになるとともに小学. 基盤とした授業設計支援システムの開発」(平成10. 校学習指導要領解説図画工作編を改訂する際の観. ∼12年度科学研究費補助金プロジェクト)や大橋. 点の一つとしても貢献できるものと考える。つく. 暗也著『創作おりがみ』(美術出版社)などがあり,. 92.
(4) 造形教材における制作過程と創作の可能性. 今回もそれらの研究成果を踏まえている7)。. の提案にかかわって. 本稿ではまず造形教材における制作過程の基軸. 試作したものである. となる考え方を提起し(「2制作過程の基軸とな. が,その制作過程は. る基本的な考え方),次にその考え方の重要性を. 次のような経過をた. 裏付けるものとして造形教材「うちわはごいた」. どった。①初めの段. の具体的な制作過程と作品について論述した(「3. 階で完成した形は思. 造形教材「うちわはごいた」の制作過程と創作の. い浮かばなかった。. 可能性」)。. とりあえず赤の折り 紙を選び半分に折り. 2 制作過程の基軸となる基本的な考え方 制作する際には,初めにイメージがあってそれ. 図2 うちわはごいた(1). 重ねて切った。② 切った形を開いてみ. たが顔にはまだ見えにくかったので残った赤の折. を形にするという方向だけを考えがちである。し. り紙を使って耳のように見える形を二つつくり左. かしその道に形からイメージをつくっていくとい. 右に配置した。潮づけはせず,二つ日の耳を様々. う方向もある(動き,音,色,材質などからの発. な場所に動かした。①でつくった顔の土台となる. 想も含めて)。そうした双方向性を認識し「イメー. 形を上下逆にもしてみた。土台や耳の向きを変え. ジから形へ・形からイメージへ」という両者共存. たり配置を変えたりした後に現段階で一番よいと. の考え方をもつことが大切である(図1)。. 思う形を選んだ。その際耳が際立つようにオレン ジ色の折り紙を切って耳の近くに配置した。③土 台と耳はできたがその後どう進んでいくかすぐに は思い浮かばなかった。顔に見えるための最低限 の条件として日と口はつくることを頭の中で確認 し次は日をつくることとした。だがここでもどん な目をつくったらいいのかはっきりしたイメージ. 図1 制作過程の基軸となる基本的な考え方 (一方向だけではなく,逆方向も踏まえて). が浮かんでこなかった。黄色の折り紙を選び折り 重ねてとりあえず日のような細長い形に切った。 土台の上に置きさらに黒の折り紙を丸く切り抜い. たとえば,最初の段階でつくろうとするものが. て瞳をつけ加えた。④日を土台の中央においたり. 思い浮かんだときにはその形をつくってみる。し. 上部や下部に置いたりしてみた。傾きも変えた。. かし,つくろうとするものが思い浮かばないとき. 最終的には日を上部に置くこととした。⑤その形. には,また制作途中でどんな形をつくっていいの. を見て次はどうするかを考えた。しばらくして日. かわからなくなってしまったときには,「とりあ. のインパクトをより強くするための長くて鋭い眉. えず」あるいは「おもいきって」,一つの形をつくっ. 毛の形が思い浮かんだ。しかしその色をどうする. てみる。そしてその形をじっと見て次の形を連想. か確信がもてなかったのでいくつかの色を選び日. するのである。この繰り返しが少しずつつくろう. に近づけてみてどの色が黄色の日と合うのかを検. とするものの形を明確にしていく(時には劇的な. 討した。ネクタイを選ぶ際にどの柄がシャツや背. ひらめきを生かして)。また初めには思ってもみ. 広に合うのかを実際に胸に当てて決めるという状. なかったような形を目の前につくり出すことにも. 況と同じである。結果として紺色の折り紙を選び. なる。. イメージした形の眉毛をつくった。そして迫力が. 図2の作品は筆者が造形教材「うちわはごいた」. 出るように眉毛の半分を顔からはみだすようにも. 93.
(5) 佐 藤 昌 彦. した。⑥眉毛を置いてみると黄色の日の下にも紺. から切り取った。⑤. 色の鋭い三日月のような形を置いたほうがいいの. 切り取った二つの形. ではないかという考えが浮かんだ。さっそく三日. をうちわの上にのせ. 月の部品を二つつくって日の下に配置した。⑦顔. てみて顔の模様とし. の土台に耳や日が配置された形をじっと見た。そ. てこれでいいかどう. の時に思い浮かんだものが口の形。丸いものでは. かを考えた。(む二つ. なく横に細長い口。赤紫の折り紙を選び半分に折. の模様が中央部分で. り重ねて切った。それを開いて顔の下部に配置し. 重なるが,ぴったり. た。⑧耳,日,口が配置された顔をじっと見てそ. と重ならずに二つに. の他に必要な部品はないか考えた。顔の中央部分 に鼻を配置することとし緑色の折り紙を選び口と. 図3 うちわはごいた(2). 分かれるのでその上 に鼻をつくり隠れて. 同じように半分に折り重ねてその形を切り取っ. 見えないようにすることとした。鼻の形は縦長の. た。⑨さらに鼻の下の髭やあご髭,髪の毛,頭の. ものにというぼんやりとしたイメージは思い浮か. 飾りを加えた。部品を一つずつつくって配置しそ. んだ。⑦縦長の形をつくるために鼻の色を選び,. の状況から次に必要な部品をイメージするという. 今度は折り紙を二つに折り重ねずにはさみで切っ. 方法を繰り返したのである。⑲顔としての部品の. た。(参切り取った鼻をうちわの上に配置した。⑨. 配置がこれでよいかあらためて見直してから糊づ. 色違いの二つの模様と鼻の配置された形を見て次. けを行った。⑪うちわの自が目立ちすぎるので青. に必要な部品は何かを考えた。⑲黄と黒の折り紙. い折り紙を一枚選び三つに分割して顔の背景に配. で楕円状日を二つつくり顔の上に置いた。二つの. 置した。顔とのバランスを調整してから背景とな. 日を離したり近づけたり,上中下いろいろな場所. る青い折り紙を潮づけした。その後に顔も貼りつ. に動かしてみて一番よい配置を検討した。⑪中央. けて完成。. に二つの日を寄せて置くこととした。⑫楕円形の. 造形教材「うちわはごいた」の碇実にあたって. 日だけでは単調なのでとげのような眉毛をつけ加. は図2以外にも様々な試作品をつくってみた。図. えた。⑬模様,鼻,目が配置された顔をじっと見. 3もその一つである。図3の作品も完成した形を. て次に必要な部品やその形を思い浮かべた。⑭小. 初めから思い浮かべて制作したのではなく制作過 程のなかで少しずつつくろうとするものの形が明 確になっていった事例である。①無地のうちわを じっと見た。その形から右と左に色違いの模様の ある犬のような顔が思い浮かんだ。最終的に犬の ような顔になるかどうかはわからないが,とりあ えず色の違う折り紙を2枚選ぶこととした。土台 が白のうちわということを踏まえてはっきりと目 立ちさらに組み合わせがよいものとして紫色と赤 紫色の折り紙を選んだ。②二枚の折り紙の表側を 内側に重ねてうちわの下に置いた。(勤うちわのへ. りを折り紙の裏側に鉛筆で写した。④はさみでそ の形を切り取った。内側の形をどのようにするか 思い浮かばなかったので顔の両側にわかれるよう. な模様を鉛筆で折り紙の裏側にとりあえず措いて. 94. 図4 制作過程の基軸と4つの観点.
(6) 造形教材における制作過程と創作の可能性. さく開いた丸い口が思い浮かんだのでオレンジ色. の意味を再認識することができる事例になりうる. の折り紙でその形をつくった。⑮すべてうちわの. ものと考える。こうした制作過程の基軸となる考. 中におさまっていては窮屈な感じがしたので左右. え方とこれまでの継続研究で碇起した制作過程に. の耳をうちわのへりからはみ出すようにしてつけ. おける4つの観点を併記して図4に示した。4つ. 加えた。最後に糊づけして完成。. の観点に関してはすでに本学紀要などで述べてい. 科学研究費補助金プロジェクトに関して筆者が. るのでその内容を繰り返して説明しないがそれら. これまでの継続研究のなかで試作した多くの作品. の観点について論述した紀要は次のとおりであ. もこうした制作過程における「イメージから形. る。「小さな紙による試作」については「創作プ. へ・形からイメージへ」という両者共存(双方向). ロセスの探究と造形教材の提案」(北海道教育大. の視点を踏まえて制作したものである。前述した. 学紀要第58巻第2号)で。「基本形からの発想」「制. 造形教材「うちわはごいた」での二つの作品はそ. 作条件の事前確認」「部品の制作と配置」につい. 図5 造形教材「うちわはごいた」の制作過程. 95.
(7) 佐 藤 昌 彦. ては「創作プロセスの図式化による造形教材の碇. うちわに月占ること。第二は,糊は顔全体につけな. 案」(北海道教育大学紀要第58巻第1号)で述べた。. いこと。顔のへりや大切な部分のみ。全体につけ るとうちわが反ったり骨組みが表面に浮き出たり. 3 造形教材の制作過程と創作の可能性 造形教材「うちわはごいた」は冒頭から述べて. しやすい。材料・用具は以下のとおり。○うちわ. (中サイズ/横19.5cm x縦28cm。1本50円程度。 15cm x15cmの折り紙に合わせやすい)○折り. きた「イメージから形へ・形からイメージへ」と. 紙(15cm x15cm)○ゴム風船(小さいサイズ/. いう両者共存(双方向)の視点の重要性を考慮し. 直径約7cm程度。または直径約5cmの水玉風. て提案した造形教材である8)。また図4で示した. 船など)○はさみ ○スティックのり ○セロハ. ような制作過程における4つの観点に対応したも. ンテープ(両面テープでもよい). のでもある。羽子板の板はうちわ。羽根は直径約. 5∼7cmの小さなゴム風船。羽子板の押絵のよ. (1)制作過程. うにいろいろな顔を折り紙でつくってうちわに月占. ① A4用紙に小さなうちわを4枚程度印刷する。. りつける。うちわという限られた空間にどんな顔 を創作することができるか,そこに挑戦する教材 でもある。つくる際のポイントは主に二つ。第一 は,まず折り紙を切って顔をつくる。次にそれを. 小さければ,短時間にいろいろな形をつくる ことができる。. ② 小さな折り紙(折り紙を4等分したもの)で 土台となる顔の形を試作する。土台に日や口な. 図6 創作の可能性(1) 作品(EFGHIJK)/小学校図画工作科指導法講座(札幌)参加の皆さん. 96.
(8) 造形教材における制作過程と創作の可能性. どの部品をつけ加えたり鉛筆で印刷した紙や折. える。図では耳をつけ加えた。④の段階で顔に. り紙の上に描き込んだりしてもよい。いくつか. 見えにくい場合でも,耳をつけ加えると顔の見. 試作してみて一番気に入った形を選び本格的に. えやすくなる。. つくる。参考作品を見た段階でつくろうとする. ⑥ 目の前にある形じっと見て次に必要な形を思. 顔が思い浮かんだ場合にはその顔をつくってみ. い浮かべる。図では日を加えた。顔に見えやす. る。思い浮かばない場合には「とりあえず」ま. いように日や口は原則として最低限つくる部品. たは「おもいきって」というような気持でまず. とする。その他の部品(眉毛,髭,飾りなど). 一つの形をはさみで切って目の前につくり出. は自由。. す。※「イメージから形へ・形からイメージへ」. ⑦ さらに必要な部品をつくる。図では口。. という両者共存の視点を確認する。. ⑧ その他の部品をつくる。図では鼻,髭など。. ③ A4用紙に実物大のうちわをコピーする。中 サイズのうちわ(横19.5cm x縦28cm)であれ. ⑨⑲ うちわの上で顔の背景となる形をつくる。 顔はできるだけうちわが隠れるような大きさ. ば,A4用紙に実物大のものをコピーできる。. につくるが,小さくなってしまった場合には,. ④ 折り紙を切って顔の土台となる形をつくる。. 顔の背景に新たな部品(飾り,服,たてがみ,. 顔は実物大のうちわをコピーしたA4用紙の. 手,もう一つの顔など)をつけ加える。. ⑲ 背景となる形と顔をうちわにとりつける。う. 上でつくる。. ⑤ 土台となる形を見て思い浮かんだ形をつけ加. ちわが反ったり骨組みが表面に浮き出たりしな. 図7 創作の可能性(2) 作品/小学校図画工作科指導法講座(札幌)参加の皆さん. 97.
(9) 佐 藤 昌 彦. いように,両面テープや丸めたセロハンテープ (接着面を外側に向けて)で取り付けることも. せた。心地よいリズムをつくり出している。 M:鋭い目,二つに分かれた鼻,真一文字の口な. できる。. ど,一つひとつの部品が独特の存在感をもつ。. 遊び方…二人で向かい合い,小さなゴム風船な. 頭には孫悟空の物語に出てくるような飾りがあ. どを羽根がわりにして遊ぶ(大きな風船は動きが 遅く小さな風船は動きが速い)。. る。 N:まるみのある顔から放射状に黄緑と緑のたて. がみが広がる。大きな目,太い髭などの部品が (2)創作の可能性. 2008(平成20)年1月の小学校図画工作科指導. 堂々とした顔の表情をつくり出した。 0:つりあがった大きな二つの目。色は金。中央. 法講座(札幌.参加者58名)で制作された作品を. によった瞳。数色の折り紙を前後に重ねてつく. 二つの観点から分類した。一つは左右対称基本形. り出した毛並み。迫力ある顔になった。. から発展した作品。もう一つは左右非対称基本形. P:丸い目,尖った顔,まっすぐに伸びた飾り。. から発展した作品。これらの作品は制作過程の基. 曲線を生かした作品が多いなかで本作品は曲線. 軸とした考え方が多様な発想に結びつくかどうか. だけではなく直線のよさも生かしながら制作し. を示すものとして掲載した。作品という事実に. た。. よって制作過程の基軸となる考え方の重要性を示. Q:水牛のような鋭い角。中央部から四隅へ広が. したいと考えたからである(作品ABCDLは筆. る顔。赤と黄緑の飾り。色違いの目(左は赤,. 者が試作)。. 右は黄)。瞳は横を見るように配匿されている。. 【左右対称基本形からの発展】 A:蜘昧のように伸びた手足。鋭い二つの目。刺. 部に配置。水滴状の二つの目や二本のまつ毛が. すような赤い舌。棟のようなまつ毛。放射状に. 印象的である。/トさなつぶつぶは2色で構成し. 広がる緑と赤の筋。作品の緊張感を高めるため. た。. にそれらを配置した。. B:図3で取り上げた作品。左右に色違いの模様. 【左右非対称基本形からの発展】 G:左右の臼,顔の両脇に伸びた手,髪の毛など,. を配し中央は尖った鼻で引き締めた。うちわの. それぞれの形が作品の存在感を高めている。限. 白を生かしながら目や口などの部品の数を最小. られた空間を大胆に生かした。. 限にしぼっている。 C:カエルのような顔だけでうちわの大部分を占. めた。背景には水草のように見える緑色の部品 をつけ加えている。折り紙は二つに折り重ねて 切った。 D:うちわの面積のほぼ半分に目・鼻・開いた口. などの部品を配置した。オレンジと赤のたてが. H:ペンギンの親子。後ろからのぞいているカッ. パ。山のような形や緑の配置。うちわからお話 が聞こえてきそうな造形である。 Ⅰ:色違いの二つの顔が向かい合う。ほほの赤み. の変化を逆にした。右側にはカールした髪の毛 をうちわからはみ出すように配置している。. J:大きさの違う4つの顔を配置した。正面から. みはうちわの外側へはみだすように取り付け. は見えないが,うちわと顔との間を約1cm離. た。. して揺れるようにした。それぞれの顔の表情も. E:さかさまにしたうちわからの発想。柄はちょ. んまげに見立てた。左側には日の丸の扇子も加 えて顔のもつ雰囲気を高めている。 F:うちわを横にした形から尾びれの細長い魚を. 発想した。水中で揺れる水草と泡とを組み合わ. 98. R:イチゴに見立てた顔を制作。目や口は顔の下. 違っている。 K:頭の上の部品。燃えている目。開いた口。赤 い足。顔と翼は離れるようにしてうちわに取り. 付けた。見たこともないような鳥としての存在 感がある。.
(10) 造形教材における制作過程と創作の可能性. L:黒い部品を初めの段階では髪の毛としてつ. て,「イメージから形へ・形からイメージへ」と. くった。しかし最終的には髭として使用した。. いう両者共存(双方向)の視点をもつ必要性につ. 眉毛は迫力を出すために顔の外へはみ出すよう. いて述べた。具体的にはどのような状況を指して. に配置した。. いるのかを示すために筆者の教材試作の過程を事. S:大きく飛び出す二つの目玉。土台となった左. 例としてあげた。また,その重要性を裏付ける根. 右非対称の形,背景に配置した円形の部品,放. 拠としては,造形教材「うちわはごいた」に関す. 射状に広がる棟のような部品。力強い顔になっ. る制作過程と創作の可能性を碇示した。制作過程. た。. については先述した考え方を基軸としながら次の. T:金と銀との二つの顔を向かい合うように構成. 4つの観点もおさえた。第一は小さな紙による試. した。赤い口やシルクハットが印象的である。. 作。第二は基本形からの発想。第三は制作条件の. 目は開いたものと閉じたものとを組み合わせて. 事前確認。第四は部品の制作と配置。創作の可能. いる。. 性については二つの観点にそって分類した。一つ. U:中央に太い幹。まわりには緑の葉や赤い実を. 配置した。根元には二つの大きな部品を置き, 太い幹には小さな手を左右に取り付けた。. Ⅴ:雛人形をイメージしてつくった。顔は折り紙. は左右対称基本形から発展した作品。もう一つは 左右非対称基本形から発展した作品。 こうした制作過程の基軸となる考え方や造形教. 材の碇案は先に述べたようにこれまでの科学研究. だけではなく黒ペン(目,鼻,口)も使用して. 費補助金プロジェクトによる基盤研究B「先行実. いる。襟もとや模様,背景など丁寧に仕上げた。. 践における知を活用した教育実践構想支援システ. W:二つのねずみはペアとして制作。色は育とピ. ムの開発」の成果を踏まえたものでもある。特に. ンク。青のネズミには眉毛,ピンクのネズミに. 実践課題の一つとした「授業過程の構造図に関す. はまつ毛やリボンがついている。. る検討」は造形教材に関する制作過程を分析する. 創作の可能性を示す事例としてそれぞれの作品. こととなり具体的な手立ての背景にある基本的な. の特徴を記載した。指導法講座に参加された制作. 考え方を整理する契機となった。「/トさな紙によ. 者の感想を加えることができれば,制作過程の基. る試作」「基本形からの発想」「制作条件の事前確. 軸となる基本的な考え方と多様な発想との関係を. 認」「部品の制作と配置」という観点もそこで提. より鮮明に示すことができたのではないかと考え. 起したものである。そして今回の「イメージから. る。このことは指導法に関する有効性の検証とし. 形へ・形からイメージへ」という考え方はそれら. てあらためて考察したい。. 4つの観点を貫く軸になるものとして述べた。な お「はじめに」においてどのような鬼のお面をつ. 5 おわりに 以上,本研究では科学研究費補助金プロジェク. くったらいいのか戸惑った小学校時代の出来事に. ふれたが,科学研究費補助金プロジェクトによる 「造形教材を対象とした授業過程の構造図と基本. トによる基盤研究B「先行実践における知を活用. 作成プロセスの碇起」に掲載した造形教材「いろ. した教育実践構想支援システムの開発」の一環と. んなオニがあつまった」はその解決を図るための. して,造形教材における制作過程の基軸となる考. 教材として碇案したものである9)。. え方を提起するとともにその重要性を裏付ける根 拠としての創作の可能性を明らかにした。 制作過程の基軸となる考え方としては,「イメー. 今後の課題は主に二つ。一つは「イメージから 形へ・形からイメージへ」という両者共存の考え 方とそれに基づく具体的な方法とが,つくろうと. ジから形へ」という一方向だけではなく「イメー. するものが思い浮かばず図画工作科に苦手意識を. ジから形へ」という逆方向も認識することによっ. もつ子供たちの助けとなるかどうかという検討で. 99.
(11) 佐 藤 昌 彦. ある(工作指導における有効性の考察)。もう一. つはそうした考え方に基づいた新たな造形教材の 提案である。医学において結核や癌などを克服す るための新薬や効果的な手術方法が開発されてき. イメージヘということも含めて)という逆方向も認識す. ることによって「イメージから形へ・形からイメージヘ という両者共存の視点をもつ必要があると考える。 7)本研究に関する先行研究:(手研究代表者:三橋功一 「授業論を基盤とした授業設計支援システムの開発」(平. たように,教育学においても教育現場の切実な課. 成10∼12年度科学研究費補助金プロジェクト研究課題. 題を解決するための教材や指導法の検討が必要で. 番号:基盤研究B2,10480033)。②研究代表者:三橋. ある。そしてそのことは教員養成にかかわる筆者 自身の使命であるとも考えている。. 功一「新しい教育の創造・設計に先行実践を活用する ための授業研究方法の開発」(平成13∼15年度科学研究 費補助金プロジェクト研究課題番号:基盤研究B2, 13480040)。③大橋暗也『創作おりがみ』美術出版社, 1977。. 註. 8)佐藤昌彦「『うちわはごいた』の創作過程」。『教育トー クライン』2008年4月号,東京教育技術研究所,2008,. 1)科学研究費補助金プロジェクトによる基盤研究B「先. 行実践における知を活用した教育実践構想支援システ ムの開発」,平成17∼19年度,三橋功一,中村紘司,山 崎正吉,梅沢実,尾藤弥生,坂本紀子,姫野完治,佐. 藤昌彦。 2)佐藤昌彦「造形教材を対象とした授業過程の構造図. と基本的作成プロセスの開発」北海道教育大学紀要教. pp52−54。本稿では「『うちわはごいた』の創作過程」. の内容に基本的な考え方や具体的な方法などを加筆し た。 9)佐藤昌彦「いろんなオニがあつまった」「造形教材. を対象とした授業過程の構造図と基本的作成プロセス の開発」北海道教育大学紀要教育科学編第57巻第2号, 2007,p.190。. 育科学編第57巻第2号,2007,pp.187−196。 3)佐藤昌彦「授業過程の構造図における基本的作成プ. ロセスの有効性」北海道教育大学実践総合センター紀 要第8号,2007,pp.31−39。 4)佐藤昌彦「創作プロセスの図式化による造形教材の 碇案」北海道教育大学紀要教育科学編第58巻第1号, 2007,pp.63−72。 5)佐藤昌彦「創作プロセスの探究と造形教材の提案」 北海道教育大学紀要教育科学編第58巻第2号,2008。 6)文部省『小学校学習指導要領解説図画工作編』日本 文教出版株式会社1999,pp.15−17。記載内容を以下に 示した。「児童の造形活動には,多様な表現や作品が見 られる。一つは,身近にある自然物や人工の材料など に進んで働きかけ,その形や色などの特徴から自由に 発想し,楽しい造形活動を思い付き,持てる力を白在 に働かせながら形や色,材料を選んだり,新たな方法 を試みたりして,体全体を働かせ思いのままに進める. 表現がある。(中略)それに対して,初めに表したいこ とやつくりたいもののイメージや構想があって,それ をもとに材料や方法を選び,かいたりつくったりする 活動がある。(中略)前者は,思い付くままに試みる自 由さがあり,遊びの性格(遊び性)をもつことから, この内容を『材料などをもとにした楽しい造形活動(通. 称造形遊び)とし,後者は,『絵や立体に表したり, つくりたいものをつくることや工作に表すこと』とし. た」。初めにつくりたいもののイメージが思い浮かばず に戸惑う子供たちへの指導法を検討するためには,工. 作などにおいても「イメージから形へ」だけではなく「形 からイメージへ」(形の他にも,色,動き,音などから. 100. (札幌校教授).
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