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成人障害者に対する育児援助システム : 軽度知的障害をもつ母親への支援のあり方を中心に

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Academic year: 2021

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(1)修士論文主題. 成人障害者に対する育児援助システム 軽度知的障害をもつ母親への支援のあり方を中心に. 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 1993年度入学 障害児教育専攻. M93320B. 松尾 佳一.

(2) 【目 次】. 序 章:研究の目的と方法 第一節 問題の所在と研究の目的 第二節 研究の方法 第三節 論文の構成. Pl. 第一章:障害者の育児に関しての実態について 第一節 親に障害があり援助を必要とされる育児 第二節 学校現場からの実態報告 第三節 各調査からの実態報告 第四節 障害者の育児の実態にみられる課題. P6. 第二章:知的障害がある場合の母親の育児について 第一節 事例の提示 第二節 各種問題点の発見 第三節 課題設定. P35. 第三章:聞き取り調査に見られる一般の人たちの意識について 第一節 障害者観および障害者を取り巻く社会観 第二節 課題に対する意識 第三節 問題解決の方向性 第四節 民間の立場からの援助. P44. 第四章:援助のあり方について 第一節 子育て支援の土台 第二節 療育事業を通じての母親援助 第三節 教育面からの対応 第四節 発見から就学まで一連の流れの中で. P64. 終 章:充実した援助システムの構築に向けて 第一節 今後にむかっての課題 第二節 まとめ. P80. 資料:A 事前調査アンケート. B 具体的資料 要旨. 謝辞. pl p3 p5 p6 p 14. p19 p33. p35 p38 p 43. p 45. p50 p55 p58. p 64. p70 p74 p78. p80 p 84. 資1−18 資19−28.

(3) 序章:研究の目的と方法. 第一節 問題の所在と研究の目的. (1)問題の所在. ノーマライゼーションの概念は、日本にも広く知られるようになっている。また1975年 の米国の全障害児教育法、およびその後の一連の国際障害者年をめぐる活動等によりメイ ンストリーミングの考えも紹介されるに至った。この考えは「ごくありふれた姿として、. 障害者がそこにいる」というものである。確かにわが国においても以前よりはずっと障害 者も身近な存在になってきた。また法律面や制度面でも整備が進み、障害者の生活レベル に視点をあてた研究や対応が広がりつつある。. しかしながら心身にハンディがあるため、すべて健常者と同じ生活レベルというわけに はいかない。問題によってはまだ多くの援助やシステムの整備が必要になってくる。たと えば障害者にとっては独力で家庭生活を営むことや、社会活動に参加することは多くの困 難がともなう。ましてや障害者が結婚をし、子供が生まれた場合など障害をもつ親だけで の子育てはかなり難しいことである。当然何らかの形で対策を講ずる必要がある。障害が あるという事実は事実として受けとめっっも「子供の健全な成長」は保障されていかねば ならない。. 成人障害者の育児に関してはこれまで個々の事例紹介といった形がほとんどで、まとま った形での研究はあまりみられなかった。しかし実態はふえつつあり、問題点の指摘も各 方面からなされている。中でも知的障害者の育児に関しては、表面にあらわれにくいだけ にその対策の立て方も難しいとされる。松本(1994)らは医療的な立場から「知的あるい は精神障害を有する親は、育児意欲があっても能力的に育児が困難なことがあるため、通 常の指導では改善させにくい。したがって単なる啓蒙的な指導をこえた個々の例に添った 指導が必要であるし、それが親子愛をそこなわないことにも配慮される必要がある」と述 べている。福祉面からは大橋(1994)がソーシャルワークの必要性を「住民はどこで、誰. 1.

(4) に相談していいのかわからないので悩んでいるのが実態であろう。最も大切なのは、問題. を抱えている個人や家族のr必要性と求め』に応じて制度を活用しながら問題解決に直接 関わる活動を展開することである」という観点から述べている。. このように問題に対する意識は各領域においても高いものがある。しかしながらそれら の接点や連携も「個々の対応」や「必要性と求め」に応じていかなければならないがゆえ に難しいのが現状である。. (2)研究の目的. 本研究では教育と福祉を軸として解決策を模索する。しかし両分野ともそれぞれ管轄が 異なり、個別に対策を立てているのが現状である。したがって当然そこには一人の子供を 通して、教育と福祉の連携が要求されていくであろう。まずは障害者の子育てにはどのよ うな課題があるか。それを障害者の立場からみた具体的事例と障害者自立に関しての健常 者の意識のもち方から探り、それらを育児を中心とした家庭生活から検討していく。そし て課題を明らかにしていく中で、現状の公的機関のはたらきや制度とタイアップさせてい きつつ、既存のシステムの中で具体的な対応策が果たして可能かどうか検討する。そして 地域を母体とし、教育と福祉を軸にした育児援助システムのモデル構築を行い、その解決 策を考察する。. やがてはこのようなシステムが完備していくことで「子供の健全な成長」はもちろん、 ノー一一Lマライゼーションの理念にも近づいていくことになることを確信して研究を進めてい くことにする。. 《参考文献》. 松本真理子 他(1994):育児の困難な母親への援助.小児保健研究.第53巻第2号. pp183−184.. 大橋謙策(1994):くらしと社会福祉.社会福祉セミナー「社会福祉の基礎知識」. 日本放送出版協会.pp18−33.. 2.

(5) 第二節 研究の方法. 本研究は、主に関係文献の検討・聞き取り調査・アンケート調査の3っの方法で行なっ た。対象も障害者の家庭・健常者・公的機関と多岐にわたっている。詳細は下記の表のと おりである。なお聞き取り調査による不明瞭な点はこれを補う形で適宜、電話や郵送、も う一度直接会ったりといった方法で確認をした。. 表1−1 本研究における具体的手段. 関係文献の検討. 障害者の家庭. 第一章第一節,斯章第三節. 聞き取り調査. アンケート調査. 第一章第三節,第二章第一、二節. 健常者. 第三章. 公的機関. 第四章. 第璋第二節,第三章. (1)関係文献・資料の検討. 障害者の育児の問題は、自立生活の問題や結婚、性生活の問題の中で同じ視点の問題と して語られていたものが多く、それらを中心にできるだけ具体的事例に即した資料を多く 集めるようにした。. 第一章第一節では先人の研究から「障害者の育児」の観点は主にどんなところにおいて いかねばならないかということを学び、第一章第三節では先人の具体的な事例を通じて自 分自身が実際に聞き取り調査をするにあたっての大いなる参考にしていった。. また最近、特に昨年から今年にかけては新聞やテレビなどのマスコミも数多くこの問題 が取り上げられ、本研究においても一部を資料とした。. 3.

(6) (2)聞き取り調査. 本研究における最も中心的な方法であり、障害者自身・健常者・公的機関に携わってい る人たち等あらゆる領域の人たちに接触し、それぞれの目的に応じた聞き取り調査を実施 した。. 障害者に対しては信頼関係を大切にしつつ、研究のために必要なことだけを聞いていっ た。. 健常者に対しては「課題の普遍性」を確認していってもらうことを主目的として聞いて いった。アンケート調査と平行して実施していった形になったが、これも聞き取り自体を アンケートにそって行なっていったからであり、何人かの人に仲介者になってもらった都 合上、集計の段階ではアンケート調査と同じスタイルになった。 公的機関に携わっている人たちからの聞き取りは、課題克服のために協力を依頼する、. ということを基本理念として実施していった。スタッフの一員として長期的に関わり、か なり奥行きまでわかったところもあるが、あくまでそこ独自のことである可能性もあるの で、基本的には一度の聞き取り調査から判断できる客観的資料を中心に研究を進めていっ た。. (3)アンケート調査. 健常者に対してのみ実施した。まず小・中学校の教員という限られた職種の人たちでは あるが、 「事前調査アンケート」という形で143名を対象に協力をお願いした。目的とし. ては「事例発掘」と「公の立場でも私の立場でも障害者に対して接している」ことが多い こと、それとやはり「集めやすさ」等の点から実施したわけである。. 「課題の普遍性」を確認することを目的としたアンケートについても聞き取り調査の基 礎資料的な要素が強く、むしろアンケートからは得られない表面的でない実施していくう えでは困難な点や問題点を指摘してもらうことを主目的として取り組んでいった。ただ論 文の中での記載事項については、アンケートにでてきた結果をもとに書き進めていく。筆 者が12名の人たちに聞き取り調査を実施し、その人たちに仲介者になっていってもらうこ とで68名の回答を得ることができた。. 一4.

(7) 第三節 論文の構成. 本研究は次のような構成で展開する。. 序章:研究の目的と方法 第一章:障害者の育児に関しての実態について 第二章:知的障害がある場合の母親の育児について 第三章:聞き取り調査に見られる一般の人たちの意識について 第四章:援助のあり方について 終 章:充実した援助システムの構築に向けて. 本論文は広い範囲のところがら、だんだん範囲を狭めている。これは対象を焦点化して いったり、課題を明らかにしていく中で次第に結論づけていくというボトムアップ形式で 研究を進めていったからである。. 第一章では「障害者の育児」に関してまず先行文献からその実態を明らかにし、また同 時に健常者から事前調査アンケートをとったり、数多くの事例にあたっていったりした中 でいろいろな角度から分析を行なった。 「種別」 「親」 「子供の年令や障害の有無」をみ. ていく中で本研究の対象を絞っていった。. 第二章では対象として絞った「知的障害をもつ母親の育児」について一事例から課題を 探っていった。縦断的な経過を追っていったり、身体障害者の育児などと比較していく中 で明らかにしていった。. 第三章では健常者からの聞き取り調査を行ない、課題の普遍性を確認しそれに向けての 公的機関の役割、方向性を示していった。また意識を問うことで民間の人たちの援助の可 能性も示唆していった。. 第四章では援助のあり方について、既成の公的機関や組織、人材をどのように活用して いくかを第三章で明らかになった課題を解決していく方向性で探っていった。. そして終章ではより理想的な援助システムについて言及し、あわせて今後の課題も検討 していった。. それぞれの章が独立したような形態を示しているが、はじめにも述べたように「浅く広 く」から「焦点化し深く」という流れで論を進めていくので、各章は相互に関連し合って いる。. 5.

(8) 第一章:障害者の育児に関しての実態について. 第一節 親に障害があり援助を必要とされる育児. この第一節では育児にあたって、親の存在はあり同時に親としての気持ちも充分に持ち 合わせてはいるものの「止むを得ない理由」により育児が著しく制限されるケースについ て考えていく。この「止むを得ない理由」とは、親自身に何らかの「ハンディキャップ」. があるということである。いかにこれを克服し、またどのように環境を整備していくかで 子供を育てることに関しての援助の可能性を探っていく。. (1)障害者の育児の実態. ①親が知的障害をもつケース. 櫻井(1985)によると「知的障害者が、両親・地域住民や保健・医療・教育・福祉の領 域における関係者などの善意と愛情に支えられて、安定した家庭生活を営んでいるものは 多い。しかし反面彼らの結婚生活、家庭生活を阻害する多くの心理的・社会的要因が認め られ、周囲の人々の理解と協力、ならびに知的障害者に対する治療教育的接近の必要性が 感じられる。」ωということを述べている。 中村(1985)が記載した事例を通して知的障害者の育児における実態と問題点を明らか にしていくと「知的障害をもつ夫婦には身近で親身になって支えてくれる人たちの存在が 必要である。もう大丈夫であろうと彼らの主体性に委ねてしまうと、当人たちが周囲の雑 音に惑わされてしまい家族がぎくしゃくなってしまう。当然子育てにも影響はでてくる。. この事例では最終的に夫婦別居になってしまったにもかかわらず、彼らの理解ある両親の おかげで子供はことなきをえた。だが決してそれでよいとはいえないであろう。これでは. 6.

(9) 結婚、子育てができる夫婦も限られてしまう。実際こういつた問題は一部の関係者にのみ 託され、公的には放任されている実情である。家庭は社会生活の基盤であり、結婚はその 第一歩で子育てはそれをさらに磐石にするものであることを再認識し、障害の質にふさわ しい対策を樹立することが急務であると思われる。」(2)と述べている。. また申川(1990)は「知的障害をもつ夫婦の場合には、病気やけがについての知識が乏 しく、事態に対応できないものが多い。さらに遺伝的には異常がなくとも、育児方法の不 適切により、子供の能力を伸ばせないケースもある。知的障害の両親に育てられた子供は 親のはたらきかけが不充分であることから、言語発達や身辺処理の自立の遅れが目立って いる。」(3>と述べている。. 梅田(1985)も「知恵遅れの子供を持ったこと自体を悩み、健常児の親の何倍もの重荷 を背負い、時には崩れそうになる自分をやっとの思いで支えている知的障害児(者)の親 にとって、自分が世話をしなければならないであろう孫の誕生の可能性を考えることは、. 最も辛く困難な課題であろう。」と述べている。しかし「人間はIQからは予測できない 潜在能力をもつもので、わが子にはその能力がないという親の心配ゆえの独断によるので なく、知的障害者の潜在的能力を信じ、彼らの人間性の高揚を念頭に置いたものでなけれ ばならない。」(4)というポジティブな視点からも述べている。. また大場(1985)が全国通勤寮を対象に行なった「精神薄弱者の結婚」(5)の一項目で 子供に関してのデータとして、全体の34.5%(145世帯中で子供の総数73名)が実態とし. て出産、育児を経験したと述べている。これが多いか少ないかは一言では言えないが、や はり一般的な家庭と比較して子供のない家庭の占める割合は大きい。これは環境的な要因 もあり、遺伝的な要因もあると考えられる。. 小野(1985)は知的障害者が家庭生活を維持し、子育てまでしていくにはいくっもの条 件が必要と述べている。「第一は双方がそれぞれの役割分担ができ、いたわり合える関係 を維持できること。家庭の最終的に大切な機能である情緒的安定に双方が貢献できること である。第二は家事能力の必要性である。お金の管理、食事・栄養のバランス、近所付き 合い、健康管理、必要なときは援助を求めることなどである。第三は経済的安定の保障。. できるだけ就労すること。第四は遺伝的リスクと育児上のリスクを回避すること。子供も 知的に遅れる可能性は一般に比べてかなり高いとされる。第五は避妊。そして第六は支援. 7.

(10) 体制であって、特に子育ての初めの2∼3年はまわりも子供への目配りを忘れてはならな い。」(6>としている。. 遺伝的な要因では日暮(1985)がダウン症女子を対象に「本症状女子が妊娠・出産した 報告が100例近くある。その半数は正常児で半数はダウン症児である。」(7)という報告を. している。一方別の調査(日本精神薄弱者協会)では100名結婚している者のうち25名の 子供が生まれているが、知的障害児は出現していなくて、過半数が安定した家庭生活を営 んでいると報告している。. いずれにしても現状では知的障害者の結婚生活、そして育児にはかなり大きな部分での 援助を要する。それは主として家族を中心とする近親者で担っていくか、あるいは群馬・ はるな郷(8>北海道・おしまコロニー(9}滋賀・信楽青年寮(10)にみられるような社会的自. 立をめざした精神薄弱者施設で補っていくかのどちらかしかないであろう。. しかし生活のすべての部分を援助してもらうということでなく、子育てにおいても知的 障害をもつ親自身も主体性をもって取り組んでいかねばならない。それが実現されるため にも行政側の何らかのサービスが必要になってくる。それが知的障害者が子育てをするこ とを通してのノーマライゼーションの実現になってくるのではないだろうか。. これから後の各節、章においてどんな問題点をもちながら、実態が展開されているのか をこの節であげられたことを土台として考えていき、知的障害者の子育てにおける課題を 集約されたかたちで提示していく必要がある。この節で出してきた事例は国際障害者年が スタートしてすぐまとめられた事例も多く、およそ10年ほど経過した現代と比べ、今がど の程度進んできたか確かめることも大切であろう。. ②親が身体障害をもつケース. 一口に身体障害といっても肢体不自由の人もいれば視覚障害の人もいる。また聴覚障害 も内部障害の人もいる。この中でも先天的なケースもあれば、事故や病気などの突発的な ことで障害をもったケースの人もあるだろう。板山(1994)によると日本の障害者の中で 身体障害者はその数:294万8千人で障害者全体のおよそ60.4%に相当する。(11)当然結婚し. ている人たちも多く、子育てもハンディをもちながらも個々で工夫しながらがんばってい る。. 8.

(11) 「重度身体障害者舟橋君の生活史から」によると子育てにおいても自分のできる範囲の ことをせいいっぱいするだけでなく、子育ての要求から生活要求を導きだし、まちづくり や安心して住みよい地域づくりの拠点とさえなりえている。しかしこれももちろん支えて くれる家族や仲間がいるからこそである。(12). 盲目の母が子育ての手記を著している「ぼくたちがお母ちゃんの杖」(岩田美津子)(13). はまわりの人たちの援助を受けながら主体性をもった子育てを母親自身が懸命にやっての けている。そしてここでの子供たちもそうであるが、こうした障害をもつ両親に育てられ た子供は「両親の手足(あるいは目、あるいは耳)になって」ということばがよく聞かれ るように、無意識に親の不自由な面を認め、補おうとしている。 1994年3月26日付けの神戸新聞にも「全盲の母への気遣い」(14》というタイトルで「小. 学3年生の女の子が自分の母のことを温かく見守り、まわりの人たちにも助けを求め、で きる限りのことを母のためにしている。」という記事が掲載されていた。われわれの身近 でもこのような例はよく耳にする。. しかしこのことはある面、子供に我慢を強いる場合も多く、子供の心理的成長に影響を 及ぼすことも少なくないとされる。また障害ゆえに子供との関わりの中で不都合な事態を 引き起こすこともある。たとえば視覚障害や肢体不自由の両親をもつ子供は、幼児期にな ると言語中心のしつけが行なわれるため、親を口うるさく感じるととがあり、また聴覚障 害夫婦の子供は、親への要求がなかなか伝わらず、イライラを感じることもある。 障害が外側からみて明らかであるため、妊娠した段階で中絶を勧められることもあり、. 中には子宮摘出といった事態にいたることも、本人の了解なしにあるという。このような ことをなくしていくためにもまだまだ努力が必要である。. 身体障害をもつ女性が出産・育児などに必要な知識を習得するための「障害婦人健康指 導教室開催事業」は、各都道府県及び各政令指定都市が実施するものとされている。(3>. しかし中川(1990)によると、うまく軌道にのっておらず、実施率も1986年度では26%に とどまっている、とされている。. 知的障害をもつ両親の場合は、根本的な問題が全く異なるので比較はできない。ただ身 体障害をもつ両親の場合、次に挙げる三つのことはいえるのではないだろうか。まず第一 に障害者自身が自ら主体性をもって生きていくことが可能であるため、その分出産や育児. 9.

(12) に関しても用意周到であることが多い。第二に障害が明らかであることは、援助する際に おいてもどこを助けていけばよいかわかる。そして第三には遺伝的リスクと育児上のリス クが低いことである。. しかしそうであってもやはり行政の援助は必要である。どんな援助が必要かは個々によ って異なるであろうが、それに対応していけるような制度なりシステムが生みださねてい かねばならない。. (2)成人障害者に対する援助. ①障害者福祉について. 本研究における主目的である「障害者への育児援助」について、この項目で何らかの対 策が立てられていることは全く見られないし、おそらくこれから先も具体的な形で、実現 は多くの困難が予想されると考えられる。したがって既存の障害者に対する福祉政策と母 子保健対策を中心とする児童福祉対策が合わさったような対応策を個々に応じて取り組ん でいかねばならないであろう。. ここでは「障害者に対する援助」といっても、その基本的な理念を述べていき、それを 土台として「障害者への育児援助」を考えていきたい。. 板山(1994)によると障害者福祉の究極の目標は「基本的人権」の保障による「完全参 加と平等」の実現にあるとしている。そしてそれは四つの理念に支えられている。第一は 「人権尊重」の理念である。第二は「ノーマライゼーション」の理念である。第三は「リ ハビリテーション」の理念であり、第四は「万人共生の社会づくり」の理念である。(11). 1993年3月、政府の障害者対策推進本部が策定した「障害者対策に関する新長期計画」 のサブタイトルは「全員参加の社会づくりをめざして」であり、これからの10年では「万 人共生」の社会づくりを目標としていることが明らかである。. 10.

(13) 最近「障害」は環境を変えることによって「障害」でなくなるという考え方が広がって いる。障害者福祉の理念も「障害者」の「ために」 (for)から障害者「の」 (of). へ、そして「とともに」 (with)からいまや「すべての人」 (a11)の共生できる 社会づくりへと、さらにすすんでいこうとしている。このような理念を多くの人がもっこ とにより、本研究における「障害者への育児援助」もこういった理念に合う形で実現して いくであろうと思われる。. ②知的障害者の福祉. 身体障害者に比べて知的障害者は目に見える障害ではなかっただけに、これまでも対策 は遅れがちであったし、課題もまだまだ山積みである。目に見えない障害を、見えるよう にしてきたのがこれまでの知的障害者への福祉への関わりであった。つまり知能指数(I Q)で障害を見えるものにし、障害の程度を判断しようとしてきた。しかしこれで知的障. 害者福祉は進むかといえば、決してそのようなことはない。IQがどのような数値であろ うと、本人の主張をどのように受け入れていくか、そしてその人たちの人権をどのように 考えていくかが、これからの知的障害者の福祉の具体化につながる。. 吉川(1994)は知的障害者援助を具体的に考えていくためにまず援助者が 1)知的障害を固定的なものと考えない。 2)知的障害を「その人の特質・個性」ととらえる。. 3)知的障害を疎まず、知的障害者を疎まない という考えに立つ必要があるとしている。(15)そして援助に際しては、 1) 「構えない」でさらりと無理なく関わる。. 2) 「衣・食・住」だけでなく「居・職・従」そしてさらに「慰・飾・什」をめざす。. 3)健康管理と老いへの準備を考えて 計画的に関わっていくことが大切であると述べている。. 制度面からみた知的障害者福祉は、保健・医療・福祉・教育・労働・税制・運輸などの 行政制度が複雑に入り組みながら行なわれている。しかしあくまで基本は上記の理念的な ことであり、実施にあたっては各自治体の柔軟性に富んだ対応がのぞまれる。. 11.

(14) ③身体障害者の福祉. 板山(1994)は身体障害者といっても一律ではなく、障害の種類・程度・年齢・生活上 の問題などもさまざまであるので、福祉対策も一律に論ずるわけにはいかないと述べてい る。基本的には18才未満の身体障害児には児童福祉法(1947)が、また18才以上の身体障 害者には身体障害者福祉法(1949)が制定され、現在にいたっている。最近の福祉施策:の. 推進ももちろんこれらの法を拠り所にしたものであるが、具体的には次に示す五つの柱か らなっている。まず第一は「身体障害者手帳」の交付。第二は障害の軽減・補完・相談・ 審査などのリハビリテーション対策。第三は在宅看護及び各種支援事業。第四は社会参加 促進事業。そして第五は施設福祉対策である。(16). こうした身体障害児・者福祉の推進は「いつでも、どこでも、だれでも、必要なサービ スを」めざして、まず市町村が実施にあたる。さらに広域的、専門的になってくると国や 都道府県が責任をもつことになっていく。. 身体障害者福祉の究極の目標は、人権を守り、自立と社会参加を実現することにある。 そのためにも「法制度」 「物理的環境」 「情報・文化」さらに「意識・こころ」の変革を 必要としている。. 《注および引用文献》. 1)櫻井芳郎(1985):精神薄弱者と家庭生活.発達障害研究.第7巻第1号.ppl−7,. 2)中村健二(1985):ある精神遅滞者の結婚生活 一その実態と問題点.発達障害研 究.第7巻第1号.pp19−25. 3)中川千鶴江(1990):生活を築く(家庭生活 一出産・育児).藤井他編著.教職科 学講座 第11巻「障害児教育学」.pp172−173.. 4)梅田 修(1985):精神遅滞児の性的成長一親の協力を中心に.発達障害研究.第 7巻第1号.pp37−41.. 5)大場茂俊(1985):精神薄弱者の結婚と家庭生活,発達障害研究.第7巻第1号. pp32−36.. 12.

(15) 6)小野 宏(1985):精神遅滞者の性行動.発達障害研究.第7巻第1号.PP12−17.. 7)日暮 真(1985):精神薄弱者の性の問題 一ダウン症を中心に.発達障害研究.第 7巻第1号.pp8−11.. 8)群馬県はるな郷: 前出(1)櫻井より. 9)北海道おしまコロニー: 前出(1)櫻井より,前出(5)大場より 10)信楽青年寮:. 精神薄弱者と結婚.全日本特殊教育研究連盟編.現代精神薄弱児. 講座5「社会福祉」より 11)板山賢治(1994):障害者福祉の特質と理念.社会福祉セミナー.pp38−41.. 12)佐藤 顕(1987):生活の自立と家庭生活.障害児教育実践体系7「成人期」.労働 旬報社.pp218−226.. 13)岩田美津子(1985):ぼくたちがお母ちゃんの杖.新井他編かしこく、やさしく、 たくましく.白石書店.. 14)資料19参照 15)吉川武彦(1994):知的障害者福祉の特質.社会福祉セミナー.pp46−49.. 16)板山賢治(1994):身体障害者福祉施策の現状.社会福祉セミナー.pp42−45.. 《参考文献》. 17)住谷 馨(1978):障害者の生活実態と生活構造.障害者問題研究16.. 18)江草安彦 小出進 編:精神薄弱者の性と結婚.講座 発達障害 第7巻「教育と. 福祉」 第5章「家族の問題」. 13.

(16) 第二節 学校現場からの実態報告. この節においては、障害者の育児に関して健常者から情報を得るようにした。健常者の 中でも情報をある程度持っていると思われる教員(障害児学級担任)に的を絞り、できる だけ広範囲の情報を得るようにしていった。また公的な立場でも、私的な立場でも考えを 述べてもらった。一口に障害者といってもその種別はいろいろ多岐にわたっており、おの ずと対応の仕方も変わってくる。それを多くの目を通して見てもらおうと思ったわけであ る。. 第三節も含めて、広範囲から情報を得てそれらを整理し焦点化していく。そして今最も 必要とされることは何か明確にしていき、次へのステップにしていくことがこの節の課題 でもある。. 第二節 学校現場からの実態報告(事前調査アンケートより). (1)目的:障害者の広範囲での子育ての実態を探り、同時に健常者(この調査では学 校の教員という限られた層である)が障害者の子育てにどのように関わっ ているのか、どのように考えているのか把握する。. (2)対象・方法・期間:. 「奈良市 小中学校障害児学級担任143名」 「留め置き法による質問紙法」. 「1994年3月」 (3)内容:I. フェイスシート. II. 担任した障害児の現在の状況. 皿. 担任した障害児の両親の障害の有無. 自由記述 ①障害をもっている保護者への具体的なはたらきかけ ②一市民としての立場での障害をもつ親への対応 ③結婚一子育てを中心に障害者の自立生活のあり方. 14.

(17) (4)結果:回収数. 61名(回収率42.7%). のべ障害児総数 347名(担任一人あたり平均5.7名). フェイスシート(1の質問項目)についての結果は表2−1と表2−2に示した。. 表2−1 回答者のプロフィ・一一一ル. 小学男性. 20 代. 小学女性. 中学男性. 中学女性. 合計. 1943. 11065. 1431. 0533. 3281612. 17. 22. 9. 11. 59. R0 代. S0 代 T0 代 合計. 不明2名. 表2−2 回答者の障担歴および担任した障害児数. 回回歴. 1 年. 2 年. 3∼5年. 6∼10年. 11∼15年. 人数(人). 15. 13. 12. 11. 7. ы〟i%). Q5.0. Q1.7. Q0.0. P8.3. P1.7. 16∼ 23.3. 計. 60 P00.0. 不明1名 平均担当三児数. 1.2. 1.6. 3.7. 10.5. 15. 16.3. 17.5. 5.7.

(18) この事前調査アンケートでは障害をもつ親の発掘という二次的な側面も持ち合わせてい たが、フェイスシートの結果では障担歴の浅い教員が多く、その面での効果はほとんどな かった。しかし反面より一般の人たちに近い形で回答は得られた。詳しくは後述するが教 え子が成人し、結婚して子育てをしている例はわずか一例であった。また親に障害がある 例もごく少数であった。ほとんどは経験年数の多い教員からその回答が得られた。ちなみ に親に障害があった例を経験した教員は17名で、うち11名は障担歴6年以上であった。. Hの質問項目についての結果は表2−3と表2−4に示した。. 表2−3 障害児総数の内訳. 種別. 情緒. 精薄. 人数(人). 88. 126. 割合(%). 25.4. 36.3. 病弱. 弱視. 難聴. 言語. 重度. 合計. 47 40. 9. 20. 5. 12. 347. 3.5. 100.0. 肢体. 13.5. 1L5. 2.6. 5.8. L4. 表2−4 障害児の現在の状況. 人 数. 現在の状況. 割 合. 139. 40.1. 63. 18.2. 大学・短大・専門学校生. 5. 1.4. 就業[共同作業所等も含む]していて独立して住む. 0. 0.0. 就業[上記同]していてグループホーム等に住む. 1. O.3. 小・中学生[養護学校の小・中学部も含む] 高校生[養護学校の高等部、高等専修学校も含む]. 16.

(19) 45 21 12 12 15 34. 就業[上記同]していて家族と住む 職業訓練所や授産施設に通っている 無職で家族と住んでいる 福祉施設に入所している その他 不明. 347. 計. 13.0 6.1. 3.5 3.5. 4.3 9.8. 100.0. *教え子で結婚一子育ての例は1名(身体障害をもつ母親)のみであった。. 皿の質問項目についての結果は表2−5に示した。. 表2−5 親の障害の有無およびその障害について. 当事者. 障害例. 両親とも. 7. 種 別. 割 合. 2.0. 難聴1 躰と勧1 視力1 知的1 不明3. O.3. s明1. S.3. m的11 身体1 不明3. モノ障害. @ 1. 黷ノ障害 瘧Qなし. @15 R24. X3.4. 合計. 347. 100.0. 知的13 身体2 視力3 i難i聴2 不明10. *「両親とも」の種別の数値は1だと一人でなく一組という意味である。 *母親の知的障害に限っていえば、12名(3,5%)であった。. 17.

(20) 保護者に障害があり、学校側との関わりについての質問項目については充分な回答 が得られなかった。. 自由記述の項目については資料として巻末に収録した。. (5)考察:成人に達している障害児が少なかったことや教員という立場だけでは親の 障害についても深い洞察ができにくい、などの資料を集めていく上で阻害要因がいく らかあった。しかしそういった限られた条件の中でも数のうえでは「知的障害をもつ 母親」が多く、また自由記述のところでも「知的障害をもつ母親」への指導や援助、. また対応が多くみられた。これは特に子供を通じて日常的な関わりが頻繁にあったこ とや、子供の数:も知的障害が多い、また身体障害に比べて障害がわかりにくい分だけ 公的な援助も受けにくいなどの原因が考えられる。. 第二節の障害者に対しての聞き取り調査ともあわせて研究の方向性を考えていくこ とは大切であるが、 「知的障害の母親」に対する身近な援助の必要性は感じる。. 18.

(21) 第三節 各調査からの実態報告. (1)目的:第二節での調査により、どちらかといえば子育てにおいては知的障害をも. っ親のほうに多くの問題を含む傾向がみられた。ここでは知的障害をもつ 親を中心に、子育てをしている例を文献・マスコミ・聞き取り調査などか らその実態を探り、共通点や問題点を見い出して対象の焦点化をはかる。. (2)対象:子育てをしている障害者(知的障害を中心にその他の障害も含む). (3)方法:①文献やテレビなどからの情報収集. ②社会的機関や知識人からの情報収集 ③本人もしくは本人に近い関係者からの情報収集. (4)結果及び個々の事例に対する感想:表2−6参照. 19.

(22) 表2−6 障害者の育児についての実態. 症例. 障害種別(親). 該当者. 子供の様子. 援助体制. 問題点. 状況. 1. 知的障害. 母. 健常(?). 夫. 2. 知的障害. 父. 健常(?). 母・叔母. 3. 知的障害. 母. 健常(?). 夫・施設. 4. 知的障害. 母. 栄養失調. 5. 知的障害. 両親. 知的障害. 6. 知的障害. 両親. 健常(?). 7. 知的障害. 両親. 健常. 綴韻・保育所. 騒での自立・子育て. ○. 8. 知的障害. 両親. 健常. 獺・保母・嫁. 子育て. ○. 9. 育児能力の欠如. 母. 情緒不安定. 児相. 児童虐待. △. 10. 育児能力の欠如. 母. 発達障害. 児相・備所. 搬入所に家灘拒否. △. 11. 精神障害. 母. 健常(?). 乳児院・児相. 家族への働き期. ○. 12. 精神障害. 母. 重度重複. 乳児院・病院. 子供の障害. ×. 13. 知的障害. 母. 知的障害. 保育所・義父. 14. 聾障害. 両親. 言語障害. ケースワーか.. 15. 難聴. 両親. 不明. 16. 知的障害. 母. 知的障害. 17. 身体障害. 母. 健常. 教員. 18. 身体障害. 母. 一般社会人. 家族. ◎. 19. 身体障害・弱視. 両親. 知的障害. 祖母・雛. ○. 20. 知的障害. 両親. 情緒障害. 親族・保母・担任. ○. 21. 知的障害. 母親. 知的障害. 家族. ◎. 22. 身体・知的障害. 両親. 情緒不安定. 養護施設. 23. 知的障害. 母親. 知的障害. 繊・友人・贈. 24. 身体障害. 両親. 健常. 母・近所の人、等. 備考その他. ◎ 鯉励近儲の存在. △. ◎. 夫に問題. ×. 成人施設無. △. 恩師. 昭和20年代. ◎. 乳幼児期臆れて蠕. ○. 手話通訳 母子寮. ボランティア. △ 学校へ勲ない. 両親不在. ○ 24時間鋤㈱必要. *◎○△×の順に生活程度の状況の良し悪しを示している。. 20. ×. ○. 夜間中学生. 障害児糖センター.

(23) 実態報告(第一章 第三節). ①論文やテレビなどからの情報. 1)櫻井芳郎(1985) 「精神薄弱者と家庭生活」.発達障害研究 第7巻第1号より引用. [症例1]H.N,女性,29歳,知能程度・軽度(IQ70) 「施設在園中は他児の世話をよくし、仲間の人望を集めていた可愛い女の子であった。施. 設退園後、家事見習いなどをしていたが、見込まれて21歳のときに結婚した。夫は42歳で. 健常者である。8歳と6歳の二児の母親として家事・育児に専念している。」. [症例2]H.A,男性,31歳,知能程度・軽度(IQ52) 「施設在園中は相当な不平家であった。家庭に引き取られた後、土木業や鉄工所の組み立. て工として働いていたが、健常者の女性と結婚し、子供も一人生まれた。母親が夫婦のよ き理解者として面倒を見てくれていたうちは家庭円満であったが、母親死亡後、姉が妻に 難くせをつけて離婚させてしまった。その後子供をかかえて浮浪しているのを叔母が見か ねて子供を預かり、本人も職を見つけ、働くようになった。」. [症例3]M.N,女性,32歳,知能程度・軽度(IQ75) 「施設在園中は粗野な言動が多かった。同施設の職員と結婚し、10歳と6歳の2児の母親 として生活している。夫は45歳、健常者である。施設内に居住しているので、母親として 子供の育児能力に欠ける面はある程度カバーされている。しかし一般社会へでた場合には いろいろ問題が生じる恐れがある。」. [症例4]Y.S,女性,27歳,知能程度・軽度(IQ60) 「施設在園中は多弁で、異性に強い関心を持っていた。退園後、就職して毛織工場で働い. ていたが、結婚して家庭に入り、子供も生まれた。しかし夫が酒飲みで、本人の稼ぐわず かな日銭も酒代にとられてしまう始末で、子供は栄養失調になってしまった。」. 21.

(24) (筆者のコメント). 症例1は健常者と結婚した女性の例であって安定した家庭生活を営んでおり、子育てに も成功しているといってよいだろう。. 症例2は知的障害者の家庭生活を温かく見守り、助言を与えてくれる理解者の必要なこ とと、また無理解な近親者の存在が彼らの生活、子育てにも大きな影響を及ぼしている。. 症例3は施設内という保護された環境のもとでの適応を示すケースである。この症例は 環境のはたす役割の重要性を考えさせてくれる。. 症例4は配偶者の生活態度や意欲に問題がある場合は、家庭生活が不幸になり、子供が 最も犠牲になっている。. 2)近藤原理(1985) 「精神遅滞者の性意識と行動」.発達障害研究 第7巻 第1号. [症例5]. 昭和20年代のことであるが、障害児学級で学んだ同士が親の勧めで結婚した。妻は買物 も炊事もほとんどできず、近所の人が買物をしてくれ、夫の老いた母が炊事をした。子供 もできたが、知恵遅れで筆者が指導した。農業をする夫は酒にひたり、アル中になって死 にいたった。残った借金のため、持っていた田畑も人手にわたった。. その後生活保護の申請をさせたが、妻は書類に自分の住所・姓名すらまともに書けなか った。今だったら「施設入所」となるところであるが、当時は成人の施設がなく、それが かえって結婚に踏み切らせたのと思われる。. [症例6]. 知恵遅れ養護学校の卒業生同士が結婚した。二人はかって教わった女の先生の近くに家 を持った。そして先生に家庭器具の使い方、買物の仕方、食事の作り方、さらに産児調節 まで指導してもらい、仲良くくらせた。掃除・整理整頓・部屋の飾り・洗濯・近所付き合 い・お金の遣い方・貯金のしかたなど家庭のもろもろの事を女の先生は二人の家に立ち寄 ったり、電話で話をしたりして教えていった。. 22.

(25) 間もなく元気な赤ん坊が生まれ、妻の方は仕事をやめた。育児を教えてもらうことが多 くなり、女の先生の忙しさが増した。しかし二人は幸せであり、学校勤めをやめた後も女 の先生は二人のよき相談相手になっている。. (筆者のコメント). 「戦前わが国の農村では大家族は当たり前で、三世代も四世代もが同居して助け合って暮. らしていた。そのようなところでは、知恵遅れの人もよほど重度でないかぎり家族の支え で生きていけた。結婚し子供を育てる人も多かった。. 福祉制度が整い、精神薄弱者施設がふえてきた今はかえって入所処遇の平均化や冒険は すまいといった考え方が前面にでてきて、恋愛・結婚・子育てというのはカゲの薄いもの となる。そんな中で筆者が知っている結婚の成功例をいくつかあげていくと *施設内や施設の近くに夫婦の家があり、職員に生活の仕方を教えてもらいながら暮らし ている例。. *アパートや住宅に住み、近くに指導を受けられる人がいて面倒を見てもらっている例。 *どちらかの親から面倒を見てもらいながら夫婦で暮らしている例。. *籍には入っていないが、一緒に暮らし昼間だけ施設に通うという「同生」の例。ここで も施設の職員がいろいろ気を配っている。 *夫婦の一方が健常者で、どうにかうまくいっている例。. 結論としてはやはりどの例も誰かの支えがあってこそ、二人の生活が持続するとしてい る。子育てにおいてもこういった基盤が成り立ったうえでのことである。」. 3)NHKスペシャル「はまなすの家族一てさぐりの子育て日記」 (1994年9月放映). [症例7]H夫妻,結婚して8年,1歳男児,夫婦とも軽度知的障害をもつと考えられる 寮を出て近くのアパートに家族で住む。職員の指導を受けて、テレビで育児の方法を夫 婦で学ぶ。家族で教えてもらえる人がなく、本も読むのは苦手であるからである。夫は近. 23.

(26) くの製材所に勤務。給料日には職員が訪れて一月の家計のやりくりを指導する。子供がで きたとき親戚筋には養護施設を勧められた。子供の病気の対応に苦慮することが多い。 地域の人たちとの関わりを深めていかねばと考え、町内会の班長になる。. また子育てにおいても母親自身が保育所に通い、これまで子供に何を話し掛け、何をし て遊んでよいか見当がっかなかったことも、園長の指導などで関わり方が改善してきて親 子の結びつきが少しずつ増えていった。. [症例8]S夫妻,結婚して間がなく二人とも20代後半,10ヵ月男児, 夫婦とも軽度知的障害をもっと考えられる 施設内に夫婦で住んでいる。子供は夫の実家の両親が育てている。夫は材木の廃材置場 で働き、妻も弁当工場で働いている。実家の両親にとっては子供を夫婦のもとに戻すべき か、育てていけるか不安であったが、二人を親身に見ている職員の勧めもあって、夫婦の もとに戻すことを決断。今を逃せば息子たち夫婦を親にする時期はないと判断した結果で ある。. この夫婦の妻も保育所に通い、保母の子供への関わりを学んだ。. (番組からの示唆及び考察). はまなす寮は昭和46年に知的障害者入所施設として北海道上磯町に設立。昭和47年以来 17組のカップルが誕生。ほとんどの夫婦は寮を出て、自立して彼らだけで暮らしている。. しかし子育てという点では、家族の反対・低い収入・育児の困難などの理由であきらめて いる夫婦が多い。. そんな中で生じた事例であるのではまなす寮の方も「寮を出た人たちについては基本的 には彼らの自主性に任せる。しかし子育てについて何かあれば、すぐ報せてくるように指 示。定期的な訪問も必要。」という方針でのぞんでいる。また寮生の多くは施設との切り はなしを考えている。そのような場合も地域の人たちとうまく関わりをつけていけるよう に指導していくなど寮の職員がコーディネート的な役割も果たしている。. ここでは映像を通して改めて子育てをしている夫婦のことを深く理解してくれる人の存 在と地域との関わりの重要性を再認識した。とくに保育所を通じての母親指導などは地域 の資源の有効な活用といえるのではないだろうか。. 24.

(27) ②社会的機関や知識人からの情報. 4)児童相談所レポート(養護相談)より. [症例9]母親の育児能力の欠如(児童虐待のケース). J男は小学二年生である。小学校入学頃から母と養父で生活をするようになったが、い うことを聞かないといっては折艦を受け、だんだんひどくなっていった。警察と福祉事務. 所から通告があり、児童相談所のケースワーカーが家庭訪問。J男を病院につれていって 診察を受けたところ、骨折と胃潰瘍があった。そしてただちに入院した。. こうした事態がら母にこれまでの養育の仕方について聞いてみると「育て方がわからな. かった」と話し始めた。J男を生んだのは18歳のときで、すぐに離婚。実家に預け養育は 祖母がしていた。そのため再婚し三人で生活するようになると、J男への対応もぎくしゃ くして、しだいに手も出すようになるにいたったらしい。. ケースワーカーが両親と話し合った結果、J男を一時保護や養護施設に入所させて、両 親が面会をしていく中で、親子関係をもう一度作り直していこうという結論に達した。. [症例10]養育に熱意なく子供を省みない母. 母は6年前に結婚。M男を生んだが、家事ができず、浪費癖があって金銭管理もできな. いことからM男が2歳の時に協議離婚した。実家に帰ってからは幼いM男を祖父母に任せ きりで、祖父母も適切な育児知識に乏しく、経済的な不安定さもあって家庭の機能は大変. 弱いものであった。M男は3歳であったが行動観察からは2歳前後程度の発達しかないと 思われた。体験不足、刺激不足など環境面からの遅れもあるように感じられた。. M男の施設入所には家族が拒否的で、そこで集団生活の体験の場、基本的習慣を身につ ける場として保育所を位置付け、家族の同意を得た。送迎は祖父母が行なった。また入所 には拒否的であった母親も時々保育所に顔を見せるようになり、保母に挨拶をするように もなった。入所当初、無表情でことばもなく、おびえるような目で周囲を見ていたM男も 今では保母になつき、友達の動きにも興味をもちはじめ、自分から関わりを求めるように なってきている。. 25.

(28) (考察). 二事例とも母親の問題が大いに子供に影響していた。育児能力に欠けていても、原因を はっきりさせ、然るべき対応策をとっていくと親の方の意識も変化してくる例である。症. 例9では児童養育にとって欠かせざる時期を逸していたこと、症例10では援助の方向性の 適確さが大切であることを示唆してくれる。. 5)乳児院からの聞き取り. [症例11]母が入院(精神障害)してしまったケース. これは病院のケースワーカー、ならびに保健婦から児童相談所の方へ相談があったケー スである。出産後母親が事情があって、精神科の方に入院。祖父母・父の誰もが乳児の面 倒をみれない状況も合わせて、児童相談所から乳児院の方へ施設入所させてもらえないか という依頼があった。. 乳児院で引き受け、親との連絡も密にとるようにした。しかし親はあまり来ない。それ でも数少ない面接時をとらえて、乳児院の中の看護婦・保母・栄養士などが指導にあたっ た。とくに父親への働き掛けを努め、できるだけ両親がそろって来訪してもらうようにし た。徐々に母親も変わっていき栄養士に離乳食の与え方をたずねたりなど、よい方へと変 わっていった。その後子供も両親のもとに引き取られていった。. [症例12]親の育児能力欠如と子供も重度の障害をもったケース. 母親にもともと精神不安定なところがあった。妊娠、出産も理由があって隠していたよ うだが近所の人も事情はよく知っていた。発作が出て救急で入院させられた。某宗教団体 にも入っていて、本人はそれを心の拠り所にしていた。しかしおそらく援助になっていな かったであろうと思われる。. 子供を出産したが、この乳児が「孔脳症」という病気で専門的な検査を必要とした。母 親の育児能力は全くなしに等しく、父親も行方不明で経済的にも大変苦しかった。また子 供が障害児であったことも精神的に弱かった母親には追い打ちをかけるものとなった。. 26.

(29) 乳児院の方で全面的に面倒をみざるを得ない状況になり、症状も重いゆえにこの乳児に ほとんど専属で誰かがついていなければならなかった。離乳食を与えるにも40分以上かか っていた。. この子供が2歳半になったとき、身体障害児の養護施設でもあるrT学園」に預けられ ることとなった。. (考察). 症例11はうまくいった例である。家族を取り巻く状況が厳しいものであっても、発見か ら継続指導にいたるまで各機関が相互に連絡を取り合い、また乳児院のなかでもそれぞれ の役割を機能させていくことで成功に至った。症例12は援助の限界を超えた例である。こ ういつた子供たちのためにもさらなる公的機関の充実が望まれる。. 6)就学相談より(教育委員会指導主事からの聞き取り). [症例13]母親が軽い知的障害をもっていたケース. 就学に係る教育相談の案内を市教委より幼稚園・保育園に送付し、また市民だよりで広 報もしているので、保育所の保母が保護者をともなって教育相談にやってきた。. 母親の婚家の義父が同席し、主に義父が子供の生活や様子を話し、就学についての話も 聞いてもらった。. [症例14]母親に聾障害があり、手話による会話しかできなかったケース. 市のケースワーカーが母親と同伴し、通訳をしてくれた。これは母親からケースワーカ ーに依頼したもので、子供は言語障害であった。父親も聾障害があったそうである。. (考察). 指導主事にとっては相談に訪れた時にしか児童や保護者の様子がわからない。そのため ここでは事実の把握のみ記載した。しかし家庭の教育力が不足しているケースや障害が先 天性か環境性か、判断に困るときなどは幼稚園などの他機関との連携も重要視している。. 27一.

(30) 7)小中学校教員からの聞き取り. [症例15]. 両親ともに難聴の親がいたが、学校に通信用のFAXを設置した。保護者会の時などは 市から手話通訳者を派遣してもらった。. [症例16]. 母子寮に入っている母子で親子とも知的な遅れが見られる。甘やかすことが愛情と思っ ており、寮の職員や教師に対しては気ままで嘘も多い。それでも時間をかけて長い目で福 祉サイドも教育サイドも見守っている。. [症例17]. 母親が下半身マヒで授業参観など学校へは来れなかった。月一回程度家庭訪問するなり 電話連絡するなりで、学校と家庭との連絡に努めた。子供は健常。. [症例18]54歳女性,夜間中学在学中,肢体不自由(左股関節機能障害). 幼少時に病気により障害が残ってしまった。家の事情に加え、女性ゆえ就学もさせても らえなかった。手術の結果、歩行可能となり、苦労した末結婚。長男(結婚し孫も誕生) と同居。とくに日常生活に支障はない。現在老人施設へ勤務。. [症例19]. 父親は事故にあい左手足がマヒ。母親は小児マヒで目も見えにくく、難しい字は読めな い。祖母も同居しているので学校からの連絡は読んでくれる。わからないことがあると隣 人に相談に乗ってもらう。担任も何回も家庭訪問をし、宿題を一緒にしたり、準備物を作 ったりした。子供が大きくなるにつれ、自分だけの力で充分やっていけるようになった。. 28.

(31) [症例20]. 子供は軽度の情緒障害。両親も学校に通っていた頃はすわっていただけという状態だっ たり、特殊学級に入っていたりだった。仕事やお金の管理は近くの親族に助けてもらって いた。子供が生まれたすぐは実家に帰っていたが、今はお金を借りるための実家になって いる。子供が幼い頃はテレビに子守をさせ、寝かせっぱなしだった。健診にいって保育所 を勧められ、保母に子育てを教えてもらいつつ、料理や身の回りのことも少しずつ学んで いった。. 小学校入学後は母親も少しずつ前向きになって身辺のことや子供に対する接し方もよく なってきた。・これも担任が家庭訪問・連絡帳・電話連絡などで母親に安心して話ができる. ような雰囲気を作っていった結果であろう。実際子供の指導よりも母親の指導に時間を費 やすことが多いそうである。. 障害児教育センターにも年1∼2回行き、教育相談を受けている。. (考察). 保母や学校の教師というのは、何らかの形でほとんど毎日親と接している。それだけに お互いを理解し、信頼関係も結んでいきやすい。反面乳幼児期のことはあまりわからない でいることが多い。親子関係が一つの形としてある程度出来上がってしまってからの関わ りであるため、限界もある。. 29.

(32) ③本人あるいは身近な情報. 8)本人または本人に近い人からの聞き取り. [症例21]近所の人からの聞き取り. 旧村に住む古くからの家で、祖父母・両親・長男(高3)・長女(小4)という家族構 成である。母が通学していた頃、当時でいう特殊学級に在籍。この母の両親(祖父母)の しっかりした教育方針と温かい愛情のもと、母も何の問題もなく過ごせてこれた。. 母の夫(父)が婿養子としてこの家に入り、現在は一家の柱として家族をしっかり守っ ている。長男は中学卒業時、軽度知的障害ということで高校も就職自立を目指した養護学 校に入学。親子とも目標にむかって頑張っている。. [症例22]子供の親権者の人からの聞き取り. 父に身体の、母には知的な障害があったそうであるが定かではない。子供も何人かいた が、両親が蒸発してしまったためずっと養護施設で過ごした。そのうちのひとりは大変情 緒不安定でよく問題を起こした。こういつた子たちは施設を出たあとの一般社会での暮ら しが鄭iしい。. [症例23]本人たちからの聞き取り. 母は軽度の知的障害。父もやや世間の常識に少し欠ける。財産管理は主に母方の両親が 担っている。子供は現在小三で女子である。軽度の知的障害がある。第二章で詳述する。. [症例24]本人たちからの聞き取り. 両親とも重度の肢体不自由障害者。とくに母は全く動けない状態で、ほとんど寝たきり である。椅子にあげてもらうこともあるが、かなり不自然な姿勢で椅子にくくりつけて、. 介助者に移動してもらっている。身辺のことはすべて介助が必要である。父は身体を引き ずりながらも移動は可能。食事も自分でできる。言葉も二人とも慣れれば充分聞き取れる ことができ、知的レベルは一般の人以上であると思われる。. 30.

(33) 子供は現在2歳、保育所に入所。24時間必ず誰かがこの一家のボランティアで入ってい るので、子供の面倒も数多くの大人が関わり、一般の親に育てられたのと全く同じような 成長過程をたどっている。定期的にヘルパーが訪問したり、保健婦が子育てに関して相談 に訪れたりする。しかしこの一家の場合は自分たちでボランティアを確保し、子育てに関 しても自分たちが主導権をとって、介助者には主に物理的な面での援助を中心にしてもら っている。. (考察). 本人たちを前にその実態を目のあたりにすると、切実感が伝わってくる。根本的に知的 障害者とその他の障害者は援助の方法が全く異なる。前者が精神的(ソフト)な部分の援 助を必要とするならば、後者は物理的(ハード)な部分の援助であろう。また当然のこと ながら個々に応じた援助のしかたが必要である。. (5)総合考察(全体的な視点からの対象の焦点化). ∼口に障害者の障害者の子育て、そしてその援助システムといっても個々シングルケ ースの集合で一定の方向性はなかなか見出だせない。それだけに障害種別に応じた、 また援助する対象に応じた、また子供の実態に対応した援助のあり方が必要である。. 24症例をまとめた表はすでに掲載したが、ここの章では研究対象の絞り込みを第一目 的としているので、第二節の結果と合わせて第二章以降の研究に方向性を定めていく 研究対象を決定していかねばならない。単に多い少ないの問題からだけでなく、「障 害者」であるがゆえ「児童養育」に支障をきたしている部分を明らかにしっっ、今最 も必要とされるニーズが一般性をもった援助でまかなえるということを前提に対象を 考えていく必要があろう。. 31.

(34) 《引用・参考文献》. 櫻井芳郎(ig85):精神薄弱者と家庭生活.発達障害研究.第7巻第1号. pp1−7.. 近藤原理(1985):精神遅滞者の性意識と行動一共同生活を通して思うこと.発達障 害研究.第7巻第1号.pp26−31, 児童相談所レポートNo.4. 「すこやかな成長を願って」 一養護相談. いこま乳児院(宝山寺福祉事業団)報告レポート.. 藤本隆二(1993):愛は障害者を救うか一いっしょにくらせるように.. 32.

(35) 第四節 障害者の育児の実態にみられる課題. (1)障害種別から考えられる方向. 知的障害とその他の障害では子育てにおいて根本的な対応が異なる。先天的な障害がな く、二次的な障害が生じないようにしていくためには、親に対するはたらきかけは重要で ある。情緒的な交流が可能であるがゆえ、その対応のしかたを指導していくことはとくに 知的障害をもつ親にとって大切になってくる。. たとえば症例24がそうであるが肢体不自由の方をはじめ盲・聾の方々で親とよばれる人 は対応の仕方の指導よりも、自分たちでイニシアチブを取りっっ、できない部分を援助者 に補っていってもらう援助の仕方が一般である。本研究では親族や施設の職員といった人 たちの援助でなく、公的な立場での援助を中心に考えている。 「子育て」という観点から. すると身体障害の親に対する子育ての援助はヘルパー的な色合がどうしても強くなってし まう。公的な立場でももちろん老人問題をはじめ、諸分野でヘルパーと呼ばれる人たちは 活躍している。身体障害がある親の子育てにもマンパワーの必要性が第一になってくるこ とは当然であろう。また手話通訳のような専門性をもった人たちの参加も考えていかねば ならない。方向性としては公的機関での援助より、むしろボランティア養成が中心になっ てきており、民間活力の導入といったところが課題になってくるであろう。 ここでは対象の焦点化ということを第一に考えている。第一節の事前調査アンケート、. 第二節の事例研究から種別の対象は知的障害に絞り、公的機関がどのように援助していく べきか考えていく。. (2)親の立場から考えられる方向. 父・母・両親と親の障害があるケースもさまざまであるが、子供にとって最も身近であ り、影響力もあり、二次的な障害をひきおこす一因とも考えられるケースもある「母親」. について研究対象を絞っていく。援助も家族援助ではあるが主として母親に対してのアプ ローチということになっていくであろう。. 33.

(36) (3)子供の年齢、及び子供の障害の有無から考えていく方向. 障害児の早期発見・早期対応が唱えられるようになって久しい。当然育児能力に欠ける. 親のもとに生まれた子供たちも早めの対応が期待される。症例9からもいえるように乳幼 児期に親との関わりが少ないとどうしても情緒的な交流ができにくくなってしまう。症例 8の決断もよい方向に結びつくのではないだろうか。. 早い時期からの関わりについての援助は子供ももちろんであろうが何より親にとって有 効である。. また基本的に子併の障害の有る無しに関わらず・親への対応は必要である。ただ先天的 な障害がなくとも、関わり方の不手際などで二次的な障害が出てくる可能性があることは 心得ていかねばならない。. (4)研究対象の焦点化と主目的. ここまでの調査から対象は「知的障害」の「母親」で子供は「乳幼児期から就学まで」. とし、基本的に「子供の障害の有無は問わない」が、子供に「二次的な障害が出ないよう に」援助していくシステムを構築することを研究の主目的としていく。. もちろんそれは公の機関の制度やはたらきを利用してわけで、新しいものを作り上げて いくというよりは、むしろ既存のシステムを使って対応していくことを旨とする。. 34.

(37) 第二章:知的障害がある場合の母親の育児について. この章では「知的障害をもつ母親」に研究対象をしぼって論をすすめる。章全体を通じ て第一章であげた症例23を問題解決型の事例研究の手法をとり、課題を明確にしていく。. まず第一節では「ケースの提示」と「事実認定」を。第二節では時間的経過を追っていく 中で「各種問題点の発見」をしていき、第三節では症例23だけでなく、どの知的障害をも つ母親にもいえる「課題」を設定していく。. 第一節 事例の提示. (1)目的:知的障害をもつ母親が自身で子供を育てるにあたって、特に二次的な障害. があると思われる子供の場合、どのように対応していけばよいかわからず に結果として援助を何も受けていない親が多い。本研究では知的障害をも つ母親が、子育てで何を問題にしているか。それらを明らかにし、その中 でも公的機関の援助が可能である課題について言及していく。. (2)対象:軽度知的障害をもつ母親(35歳)、子供は現在小三(障害児学級に在籍). (3)方法:問題解決型の事例研究. 第一段階. ケースの提示. 第二段階. 事実認定. 第三段階. 各種問題点の発見 (時間的経過を追う). 第四段階. 中心的問題の発見. *この後第五段階として「各種解決策の検討」を行い、 「最終解決策の決定」である. 第六段階とつなげていく。しかしこの章で取り扱っていくのは第一から第四までで ある。. 35.

(38) (4)結果:症例23の事例を用いた。. [:事例] (第一段階)ケースの提示. 本人(母親)を中心として、親族を含む何人かの聞き取り調査から一事例として提示し. た。現在は大阪府下に在住。公団住宅に夫婦と8才の長女と住んでいる。母親に軽度の知 的障害がありと思われている。父親は健常ではあるがやや社会性に乏しい。昭和59年に 見合い結婚。3人で生計を立てているが、経済的・精神的支援は妻方の両親がみている。. i父親、昭和29年生まUt.。会社員(工鵬務).たいへん真面目で働諸責任感もl i強い力稼事や育児に関しては母親の方力・かまわれるのを嫌うため、あまり手伝i. i母親繊細_ ____り、_く相i. 幡毒二ξ鶯瀦堅筆鰍1そ膿鷲i }つtCe(以下1さん). i. 騰1蕪鑓lll繋lllli i繊讐購驚灘欝販難毒灘灘鰻i iられた力囎形態は普騰で授業を受}備に報の教師がついて指導するi i. という形がとられた。2年に進級してからも籍は障害児学級のままで、授業は原i. i難烈譜鶏 必獣赦剛襯馳くよi. 36.

(39) 本児(Yちゃん)の観察も以前から継続して続けている。主観ではあるが、言葉数はあ まり多くなく、対入関係の乏しさも見受けられる。母方の両親の言葉を借りると、先天的 な障害の要素は見られないが、やはり親の育児能力の低さ(乳幼児期における親のはたら きかけ、言葉かけの少なさ)が大いに影響をしているのではないかと考えられる。. (第二段階)事実認定. 闘き取りに関しては、本人(母親)・夫(父親)・本人の両親・子供の通っている学校 の障害児学級に在籍する児童の親たちにありのままの声をたずねていった。また子供も定 期的に会うようにして発達の度合いを観察していった。 情報は多く、多方面から集めているので、事実の度合いは高いと思われる。. (注)この事例を書いていくにあたっては、筆者と被験者は古くからの知り合いで、. 家庭の事情にも元から詳しく知っている部分が多くあったのと、人間関係が充分に保 たれていることを前提に書き進めていった。. もちろん当人たちの許可はとっており、研究の中身として書いていくことも了承済 みである。. 37.

(40) 第二節 各種問題点の発見. 表3−1. (第三段階)各種問題点の発見について. 子育てでの問題. その他の問題. A. B. 1さん自身の問題. C. D. 知的障害であるがゆえの問題. E. F. 各種問題点. 一般の家庭でもいえる問題. 1さんの家庭でも生活をしていくうえで、さまざまな問題点があったが、それらを整理 していくと上の表のようになる。本研究ではEの項目について研究を進める。. (1)時間的経過を追う中で. ①妊娠から周産期前まで(嫁ぎ先). この間1さんは、嫁ぎ先で夫、夫の両親と暮らしていた。夫の両親はほとんど干渉する ことがなく、そのことは1さん自身にとっては自分の自由にできるということで都合が良 かったようである。しかし保健所主催の「母親教室」 「妊産婦歯科献身」 「健康相談」そ. して市役所から交付される「母子手帳」等は本人だけではよくわからなかったらしく、実 家の母が確認したことで、ようやく対応できたようである。未受検者には保健婦の家庭訪 問もあるが、特別に配慮しなければならない対象として考えていくには、行政の側もっか みづらい面もあったと思われる。. 本やテレビなども情報源もたくさんあっただけに1さんにとってはどれを選択していけ ばよいかもわからなかった。1さんは「読んで理解することが苦手なだけに決まった人に わかりやすく教えてほしかった。」とも言っていた。. 38.

参照

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