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小学校における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図

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(1)Title. 小学校における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. Author(s). 木塚, 雅貴. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 60(1): 55-68. Issue Date. 2009-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/1013. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第60巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.60,No.1. 平成21年8月 August,2009. 小学校における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図 木 塚 雅 貴. 北海道教育大学教育学部釧路枚英語教育学研究室. AConsiderationofUnderpinningMatrixofSocialNeedsand PublicDemandsforIntroducingEnglishLanguageEducationto MaintainedStatePrimarySchooIsasaRequiredCourse KIZUKA Masataka. DepartmentofInitialTeacherEducation&TeacherDevelopmentinEnglishLanguageEducation, KushiroCampus,HokkaidoUniversityofEducation,1−15−55,Shiroyama,Kushiro−Shi,Hokkaido,085−8580,JAPAN. ABSTRACT. Thepurposeofthispaperistodisclosehowsocialneedsandpublicdemandsforintroducing. EnglishLanguageEducation(ELE)tomaintainedstateprimaryschooIsasarequirednewcoursehave beenconstructedthroughtheanalysisofsomefactorswhichareregardedasbeingcloselyrelatedtoits prOCeSS.. TherecanbefoundacleardisparityabouttheintroductionofELEtoprimaryschooIsasarequired newcoursebetweenthepeoplewithaviewofnopublicconsensushavingreachedandtheMinistryof Educationwithaviewofpublicconsensushavingreached,Whichcanprovideusagoodopportunityto COnSiderunderpinningmatrixofsocialneedsandpublicdemandsforit. Therefore,inthispaper,inordertograspthebackdropsofthedisparity,thefollowingthree features,Whichhavecloserelationshipwiththem,areeXamined:(1)amainstreamofELEinoverseas countriesfromthe1970sonwards.(2)achangeofdirectioninELEinJapan,eSpeCial1yinthelate1980s.. (3)severalresearch(questionnaire)dataonsocialneedsanddemandsforELEinmaintainedstate primaryschooIsfromthe1980sonwards. Eachoutcomeofthesefeaturesaresummarisedasfollows:(1)AnewunderlyingconceptinELE,. Whichcanbecalledasacommunicativemovement,WaSeStablishedintheU.K.in197Os,Which. broughtusadrasticshiftanddevelopmentfromthetraditionaldirectionunderthenameof“Teaching EnglishasCommunication’’(putmoreemphasisonpursuingpracticalityinELE),andmanyofthe. nationsinEuropeandAsiaintroducedELEtoprimaryschooIsin1990s(systemestablishmentofELEin earlierages).(2)Above−mentionedtwoaspectshugelyaffectedELEinJapanin1980s,Whichmeansthat ithasstartedtomovetowardsthesamedirectionastheoneinoverseascountries.(3)Severaldifferent. 55.

(3) 木 塚 雅 貴. kindsofquestionnaireoutcomesshowthatsocialneedsandpublicdemandsforELEinmaintainedstate primaryschooIsbecomegradual1yhigher,eSpeCial1yfromthe1990sonwards.. Onthebasisofthesefindings,aCOnSenSuSOnintroducingELEtomaintainedstateprimaryschooIs SeemStObeestablished,althoughthereisdefinitelyaviewcontrastontheconsensus,Whichshouldlead ustoafurtherconsideration thatotherthreepointscanberelatedtothesituation:1.thepastdisputes betweentheaimsofELEinJapan(asacademicknowledgeorpracticality).2.theacademiclimitationof appliedlinguistics.3.theintroductionofELEtoIntegratedCourse.Inadditiontothelackofdispute. abouttherecentaimsofELEbecausepracticalityhasalreadybeenprioritisedasthecurrenttrendsof ELEsuggested,nOreliableacademicresearchdataonthestartingageofELEcanbepresentedandELE inIntegratedCoursehasdistorteditsoriginalaims,allofwhichhasplayedanimportantroletoleadto the question aboutafirm consensusonsocialneedsand public demandsforintroducingELEto maintainedstateprimaryschooIsasarequiredcourse.. Ⅰ.問題の所在 2008(平成20)年版『小学校学習指導要領』における関心事の一つは,「外国語活動」の導入であろう。2007年. 8月末,中央教育審議会教育課程部会初等中等教育部会による答申案が明らかにされて以降,「外国語活動」 導入に関わる報道が数多く行われてきたことに鑑みれば,当該事項が今回の『小学校学習指導要領』改訂にお ける重要な政策の一つであることについて,説明の必要はないであろう。 小学校に「外国語活動」を導入することに関しては,2007年8月末の中央教育審議会初等中等教育分科会教 育課程部会による審議経過公表直後の『毎日新聞』「社説」(1)で,「十分な説明をして必要の是非を広く議論し, 決定に反映させるべきではないか」と述べられており,新『学習指導要領』告示直後には,『毎日新聞』「論点. 新しい学習指導要領を問う」(2)の中で,苅谷が「国民的合意も条件整備もないまま導入される小学校の外国語 活動」と記述している。 一方,外国語活動が導入されるプロセスに関する重要な文書は,2007年11月7日文部科学省中央教育審議 会初等中等教育分科会教育課程部会が答申した「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」であり,こ の中で,小学校に「外国語活動」を導入する根拠として,以下の3点を挙げている。 ① 社会や経済のグローバル化の急速な進展に伴い,国際協力や国際競争の観点から外国語教育の充実が 求められていること。 ② 国際的に見て,国家戦略として小学校段階に英語教育を導入する国が増加していること。(例1996年 タイ,1997年韓国,2005年中国,2007年フランスで,小学校の英語教育が必修化されている。) ③ すでに総合的な学習の時間等において,多くの小学校で英語活動が行われているが,その内容には「相 当のばらつき」があり,「義務教育として小学校で行う場合には,教育の機会均等の確保」の観点から, 国による基準が必要であること(3)。 上記二つの考え方には,明らかに禿離が見出される。前者は小学校の「外国語活動」に対する国民的コンセ ンサスが得られていない,すなわちそのニーズや公共性が確立されていないと見る一方で,後者は「外国語 活動」導入の機は熟している,すなわち国民的ニーズや公共性が確立されていると判断し,政策の実行を求 めている。従って,上記の相反する考え方の底流を捉え,学校教育における英語教育の公共性やニーズ形成 の構図を明らかにするためには,今回の「外国語活動」導入は,絶好の機会を碇供していると考えられる。. 56.

(4) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. そこで本箱では,「外国語(英語)活動」(4)が導入されるまでのプロセスに関わっていた要素を分析すること により,学校教育における英語教育の公共性とニーズ形成の構図を描き出すことを主題とする。 本稿ではまず,上記の禿離が生ずる背景を捉えるために,小学校の「外国語活動」導入に至るプロセスに関 わっている1970年代以降の「海外の外国語教育に見られる潮流」と「日本の外国語教育の転換」を回顧すること により,中央教育審議会が挙げている上記①・②に関わる事項を考察する。次に,「国民的コンセンサス」が. 得られているか否かを検証するために,小学校の英語教育に関して行われてきた各種アンケート調査結果の 推移を比較し,小学校における英語教育のニーズの実態を考察する。最後に,上記の尭離が生じる状況に関 わる要素を考察し,英語教育の公共性とニーズの構図を明らかにすることとする。. Ⅰ.海外の英語教育に見られる潮流. 1970年代以降の海外の英語教育に見られる潮流は,「コミュニケーション」という言葉で表わされる「実用 性」と,初等教育における英語教育の積極的導入という「早期化」である。. 現在「コミュニケーション重視の英語教育」と呼ばれている方法は,1970年代にイギリスで始まった外国語 教育理論のパラダイム転換に遡ることができ,「コミュニカティヴ・アプローチ」(TheCommunicative. Approach)や「コミュニカティヴ・ランゲージ・ティーチング」(CommunicativeLanguageTeaching)と呼 ばれる教授法に,その転換の糸口を見出すことができる。当時のイギリスでは,コミュニケーションの本質 に関わる要素が外国語教育で重視されるようになっており,従前の外国語教育の主流をなす方法であった オーディオ・リンガル・メソード(TheAudio−1ingualMethod)が,文型(sentencepatterns)の暗記を中心と した活動に終始する行動主義理論に依拠する習慣形成理論を基礎としていたことへの反省として捉えられ. た。Brumfit(p.1)が指摘しているように,「学習者は,基礎を形成する言語の型を確立するために基礎的 な文を学ぶのではなく,どのように意味を形成するのか(howtomean)を学ぶのであ」り,ここにはハリデー (Halliday)の考え方が投影されている。またBrumfit(同上)は,方法論において「インターアクショ ン(interaction)を重視した学習の必要性が主張されるようになっており,それはヴイゴツキーやソビエトの 心理学者の考え方に拠るところであり,またオースチンやサールのような哲学・人類学,あるいはハイムズ やラボヴの研究に拠るところである」と述べている。すなわち,コミュニカティヴ・アプローチに関わって 見出される,スピーチ・アクト(SpeechActs)理論,言語機能重視の考え方,話者の意図(intention)を状況 に合わせ適切に伝えそれを理解すること(言語の適切性や言語が表わす概念),話者同士のinformationgap を基盤とした活動等は,上記方法論に関わる事項であり,これらの理論的背景を基礎にして生まれた概念・ 機能中心のシラバス(Notional−FunctionalSyllabus)による学習内容の選定と,その具体的な活動事例は人 口に臍泉しており,コミュニケーション重視の英語教育が世界を一斉に風靡する原動力となった。. 1989(平成元)年版『学習指導要領(外国語)』に見られるコミュニケーション重視の考え方へのシフトは,コ ミュニカティヴ・アプローチの流れに沿った内容である。ただ,日本の英語教育において概念・機能中心の シラバスが明確に導入されたのは,1998(平成10)年版『中学校学習指導要領(外国語)』が最初であった。現行 の中学校・高等学校『学習指導要領(外国語)』には,「言語使用の場面の例」と「言語の働きの例」として,それ ぞれ「自己紹介」・「道案内」や「描写する」・「依頼する」・「苦情を言う」等が示され,これらはいずれも「概念・ 機能中心のシラバス」を具体化したテキスト(木塚1991,pp.43−48)として知られる4抄γ0αCゐgざで採り上げら れている各単元のタイトルと全く同じである。また,2008年版『小学校学習指導要領』の「外国語活動」並びに 2008年版『中学校学習指導要領(外国語)』においても,「概念・機能中心のシラバス」の内容は継続して盛り込 まれている。. 57.

(5) 木 塚 雅 貴. コミュニカティヴ・アプローチの流れに基づく変革は中国でも見られ,「CommunicativeLanguage Teachingの考え方も取り入れられるようになり」(神原,p.9),1988年に発表された「義務教育大綱」には, 「『コミュニケーション能力』を意識した記述」(同上)が見られるようになった。すなわち,イギリスで始まっ た「コミュニケーション」をキーワードとする「実用性」を前面に出した外国語教育の動きは,20数年のうちに 世界に広まって行ったと捉えることができるのである。 海外における外国語教育の「早期化」の潮流に関しては,1995年に久埜(p.48)が「ヨーロッパでもアジアで. も,外国語としての英語教育を行う国が増えている。中国や韓国でも小学校段階で英語教育を開始している ことが伝えられている。この傾向は,日本の英語教育のあり方を考える上で,影響を与えることにならない だろうか」と述べている。大谷(1991,pp.540−541及び1994,pp.29−31)によれば,1986年に行った主要40カ国 の外国語教育の動向調査と,1994年に行った主要38カ国のそれとを比較すると,「わずか8年の間にも,世 界では学校外国語教育における(中略)外国語学習開始年齢の低下傾向は確実に強まっていることがわかる」 (1994,p.31)のであり,EC(当時)加盟国やヨーロッパを中心に,外国語教育を小学校段階から始めている国. が大多数になっている。特に「1989年,ECは独自のLinguaProgrammeを発表し(中略),公用語を11言語 と定め,加盟各国の子どもたちに対しては,幼い段階から外国語教育を開始」(大谷,同上,p.30)する勧告を. 加盟国に行っている。1989年は,イングランドとウェールズがナショナル・カリキュラムを導入した年であ り,両地域では1992年に前期中等教育における外国語(ModernForeignLanguages)を必修化している。 アジアに関して言えば,タイでは1995年から小学校の英語教育を開始しており(竹下,p.27),韓国では1997 年から小学校の英語教育を必修化し(大谷,1997,p.14),中国でも1997年時点で「北京市ではほぼすべての小. 学校で3∼. 4年次に英語が導入されている」(神原,p.8)。いずれもほぼ同時期の変革であり,かつ現行の『学. 習指導要領』が告示される直前であることに鑑みる時,「総合的な学習の時間」における「外国語会話等」が採 り入れられた状況に影響を与えていたことは否めないであろう。 また,1996年出版のfケ扉盲/βざげ上α〃g〟αgβ且d〟Cαfわ〃グ〃25Co〟〃わ′グβざ(邦訳『世界25か国の外国語教育』). によると,25か国中22か国が小学校段階から英語教育を開始しており,外国語教育の「開始年齢を下げると いう方針」(p.164)が多くの国に共通している。しかもEU成立以降,フランスでは2007年から,イングラ ンド・ウェールズでは2010年から,いずれも小学校において外国語教育が必修化される。 以上のように,1970年代に始まるイギリスにおける外国語教育のパラダイム転換による「コミュニケーショ. ン」重視の「実用性」と,1980年代後半に始まるECを中心とするヨーロッパやアジアにおける英語教育の「早 期化」が日本に重要な影響を与え,それが2008年版『学習指導要領』において,小学校の外国語活動導入のニー. ズや公共性を形作る起爆剤となっていると捉えることができるのである。. Ⅱ.日本の英語教育の転換 1972年,OECD教育調査団による日本の教育政策視察の結果が公表され,その「第8章 第1節 外国語. 教育」(5)の中で,外国語教育の充実に関わる事項として,次の2点が指摘されている。 ① 中等教育において非常に多くの時間を外国語教育に割いているにもかかわらず,その成果は極めて不 充分である。その原因は,(中略)実用的な言葉の習得に関心が向けられていないことにある。. ② 中学校一年生からではなく,もっと早い段階で外国語教育を導入することを真剣に検討する必要があ る。 この時期から,日本でも「実用性」と「早期化」に焦点が向けられ,英語教育は新たな展開を迎えることにな る。1972年度には,千葉県の公立小学校で「英語教室」(クラブ活動)が開始され,課外活動ではあるが公立小. 58.

(6) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. 学校に英語が導入され,1974年には中央教育審議会第23回答申「教育・学術・文化における国際交流」が出さ れたことを受け,「国際社会に生きる日本人の育成」が求められるようになり,これ以降,国際教育やコミュ. ニケーション能力の育成が,国の教育の重要な課題として盤上にのることになった(6)。「国際化」に関わるさ きがけは,1979年兵庫県立芦屋南高等学校に,国際理解に重点を置く類型として国際文化コースが設置され. る(7)状況等に見出される。1980年には,早期英語教育を対象とした日本初の学会「日本児童英語教育学会」が 設立され,「早期化」の流れが顕著になった。1982年には日本ユネスコ国内委員会編で「国際理解教育の手引き」 が出版され,国際理解教育への関心が高まり(8),1985年の臨時教育審議会(臨教審)第1次答申を皮切りに第. 4次答申までの中に「国際化」の概念が盛り込まれ,最終答申に「コミュニケーションに役立つ国際通用語と しての英語能力の育成」(服部,1995,p.55)が盛り込まれ「実用性」が強調されたことを受け,1987年の教育課. 程審議会答申では「国際理解の推進」が示された(9)。同時に臨教審第2次答申では,「英語教育の開始時期に っいても検討する」という文言が加えられ¢ゆ,小学校段階における英語教育開始への示唆がなされたことを 受け,1980年代後半には,全国9つの地域の公立小学校において,国際理解教育及び英語教育が課外活動と. してあるいは希望者を対象に行われたql)。1987年には中等教育の英語教育において,JTE(JapanTeaching andExchange)プログラムが開始され,AET(AssistantEnglishTeacher)が全国の公立中学校・高等学校 に配置されるようになった。これも「国際化」の一環として,1986年に発表された自治省(当時)による「国際. 交流プロジェクト構想」に端を発しているq勿。このように,1980年代に入り,「国際化」という言葉とともに, 急速に学校教育における英語教育を取り巻く環境が変化している状況が捉えられ,英語教育変革へのニーズ が日本社会に出現しつつある様を読み取ることができる。その結果,1989年版中学校・高等学校用『学習指 導要領(外国語)』に,「コミュニケーション」という文言が初めて盛り込まれ,英語の四技能(聞く・話す・読 む・書く)が『学習指導要領』上で初めて明確に区分され,これにより音声による英語教育を重視する方向性 が確立され,音声によるコミュニケーション能力の育成が中心的な課題として学校教育の英語教育に位置づ けられることとなり,「実用性」が加速することとなった。 1990年には,英語教育の学会から成る「日本英語教育改善懇談会」第19回大会において,「/ト学校における 国際理解教育について」と題するアピールを採択,1991年には文部省(当時)初等中等教育局長の私的諮問機 関として「外国語教育の改善に関する調査研究協力者会議」が設置され,「外国語教育の開始時期の検討」が行 われ,同年には臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)が小学校への英語導入の検討を碇言,1992年には日 教組第41次教育研究全国集会において,大場委員長(当時)が「生活英語としての,英語教育を小学校の早い 段階から導入すること」を碇言し,続けて同年に文部省初等中等局長が,「/ト学校段階での外国語(英語)教育 の是非に関して,教育課程審議会に諮問するなど,何らかの検討の手続きを開始する」と発表し,官民揃っ て小学校の英語教育に前向きに取り組む姿勢が鮮明になった。これを受け,同年,研究開発指定校制度によ り国際理解教育の一環として英語教育を実験的に導入する小学校に,大阪府の真田山小学校と味原小学校が. 指定されq預,小学校に授業として正式に英語が入ることとなった。1993年には,文部省の「外国語教育の改 善に関する調査研究協力者会議」答申の中に,「児童は外国語の習得に極めて適している」とする文言が盛り 込まれ,1996年の第15期中央教育審議会第1次答申の中に,「/ト学校段階からの外国語教育のメリットに言及」. がなされ㈹,研究開発校の数を次第に増やしながら徐々に小学校に英語が浸透する。そして,1998年版『中 学校学習指導要領』において外国語が必修教科となり,「一世紀にわたる義務教育での外国語学習是非論に終. 止符が打たれ」q$ることになるとともに,『小学校学習指導要領』の「総合的な学習の時間」に「国際理解に関す る学習の一環として外国語話等」が. 盛り込まれた。また,現行の『学習指導要領』が施行された2002年7月には,. 文部科学省が「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想の策定について」を淀川し,この中に「/ト学校 の英会話活動の充実」が盛り込まれた。これには,「産業界からの強い要請,一般の人々の根強い英語願望(あ. 59.

(7) 木 塚 雅 貴. こがれ),英語産業の強い後押し,英語教育関連の学会の動向」を「巧みに連携させることによって英語教育 行政に確固たる指導力を発揮しようとする文部科学省の思惑などが複合的に作用して形成された」qゆという 背景を見出すことができる。. 以上のように,日本においては,1970年代に英語教育変革への潮流が捉えられ,その後行政主導による「国 際化」に押されながら,英語教育の「実用性」をコミュニケーションというキーワードに置き換えながら,英 語教育の「早期化」を進め,結果として2008年版『小学校学習指導要領』において,公共性とニーズを確立する. 意味から,「外国語活動」を導入するという全体構造が捉えられるのである。. Ⅳ.アンケート調査結果に見る小学校の英語教育へのニーズ. 1983年9月に,樋口・守屋(pp.36−44)が保護者386名に行った調査では,半数以上が「外国語によるコミュ ニケーションの経験」がないことを示しており,「外国語学習の価値」については,「外国人と相互理解を深め るため」(61.5%),「外国人とコミュニケーションを行うため」(51.3%)が目立つ回答である一方,「外国語学 習は価値がない」と考える回答者全員が,「外国語を使用する機会がない」ことを理由に挙げている。また,「外. 国語は小学校で選択または必修教科としてあるべきだと思いますか」という問いに対しては,肯定的意見が 44.5%,否定的意見が43%と,ほぼ半々であった。 大谷(1989,p.47)が1986年5月に全国の私立の小学校118校を対象に行った「/ト学校における外国語教育の. 実施」に関する調査では,77%の私立の小学校が「英語を正課として教えて」おり,1992年に日本私立小学校 連合会外国語研究部会が行った調査では,全国の約80%の私立小学校が英語を正課の授業として設置してい る仏力 。. 1987年9月に日本児童英語教育学会qゆが行った早期英語教育学習者に関する調査では,中学校1年生1,170 名の51∼53%が中学校入学以前に何らかの早期英語教育を受けていることが示されている。 1986∼1987年にかけて,大学英語教育学会の英語教育実態調査研究会が中学校の教員930名,高等学校の 教員1,415名に行った「英語教育全国実態調査」では,「英語教育の開始時期を中学校より早めること」につい. て,肯定的回答は中学校教員43.6%,高等学校教員44.2%であっが功。 1990年,清水・伊藤が幼稚園児・小学生を持つ親960名を対象に行った調査では,全体の76.7%が「/ト学校 から英語を学ばせた方がよい」と回答し,全体の56.6%が「正規の授業で英語を学ぶこと」が望ましいと考え, 「国際理解教育の一端としての英語教育」についても79.2%が「習わせたいと思っている」ことが示されてい た。 1993年7∼8月に日本児童英語教育学会中部地区¢ゆが行った「小学校への英語教育導入」に関する公立小学. 校教員1,404名への意識調査では,導入に肯定的な教員は46.8%,否定的な教員は32.6%,どちらとも言え ないが20.6%であった。肯定的回答者のうち,32.9%は教科としての導入を,46.0%は課外活動としての導 入を求めている。一方否定的回答者のうち52.2%は,課外活動であれば良いとしている。肯定的回答者が導 入する利点として挙げている事項は,「英語のリズム感」と「聞く・話す力を自然に身につける」がいずれも 50.6%で最も多く,「発音習得は若い方がよい」という回答が44.8%であった。教える内容については, 語の歌」が65.6%,「英語での挨拶や自己紹介」が63.7%,「身近なことを英語で話す」が49.2%,「英語のゲー ムをして遊ぶ」が45.4%であった。. 日本児童英語教育学会関西支部¢1)が,「総合的な学習の時間」が施行される2年前の2000年に行った小学校 1,066校に対する「公立小学校における英語学習の実施状況」によると,すでに実施している学校の成果は,「英 語に触れることで,英語を学ぶ楽しさを体験している」(80.6%),「外国の人と違和感なく接することができ. 60. 「英.

(8) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. る」(60.8%),「外国の生活,文化などに慣れ親しんでいる」(53.7%)等となっている。. 2002年2月∼4月に,財団法人中央教育研究所が行った公立小学校の3∼6年生818名を対象とした「/ト学 生の英語の学習状況と理解力の調査研究」では,6年生の78.9%が英語の学習を行っており,塾が45.8%, 学校が43.0%であった。学習内容は,「教科書やワークブック」が55.4%,「ゲーム」が53.5%,「英語の歌を うたう」が35.9%であった。. 現行の『学習指導要領』施行後の2003年9∼10月,ベネッセ未来教育センターが幼稚園・保育園児を持つ母. 親3,477名に行った調査では,「小学校に期待する指導」の中で,「英会話」は26.5%と低率であっが勿。 2004年6月に文部科学省が行った調査結果では,「/ト学校で英語活動を行うこと」について,保護者の91.1% が肯定し,教員の76.4%も肯定している一方で,「/ト学校英語を必修化すべきか」については,保護者の70.7%. が必修化を望んでいるのに対して,教員は36.6%が望んでいるに過ぎない。また,小学校で英語が必修化さ れることによる「子供の負担」について,保護者の60.4%は「やむを得ない」としているのに対して,教師の 70.0%は「よくない」と考えている。. 2008年版『小学校学習指導要領』が告示される約2年前の2006年7∼8月(教員)と9∼10月(保護者)に,ベ ネッセ教育研究開発センターが行った「第1回小学校英語に関する基本調査」では,「/ト学校英語の必修化」に ついて,保護者の肯定的回答は76.4%であり,「英語はできるだけ早い時期から学ぶのがよいと思うか」とい. う問いに対しては,肯定的回答が75%であった。しかし,「学校に重視してほしいと思う指導や教育は何で すか」という問いに,「英語や国際理解に関わる教育」を回答した保護者は35.2%であった。教員では,「/ト学 校で英語教育を行うことについて」,肯定的回答は67.1%である一方で,「/ト学校で英語教育を必修化するこ と」については,否定的回答が56.9%であり,また「/ト学校で英語を教科として扱うことについて」も,否定 的回答が69%であった。また,「/ト学校英語に期待できる効果」について,「外国に対して興味を持つように なる」・「中学校での英語学習がスムーズになる」・. 「発音や聞き取りがうまくなる」は,いずれも70%以上ま. たはそれ近くの保護者が肯定的回答を示している半面,「英語を話せる日本人が増える」は,49.2%の保護者. が否定的回答を示しており,肯定的回答を5%近く上回っている。さらに,「今後の国際環境を考えると, 英語が話せるようになることは必要だ」に対して肯定的回答を示している保護者は87.1%,「英語はできるだ け早い時期から学ぶのがよい」は75%が肯定的に捉えている一方で,「子供に期待する英語力」では,「日常会 話で困らない程度の英語力」が45.1%と最も多く,次に「今,楽しく取り組めれば,特に役に立たなくてもよ い」が21.7%,「英語でよい成績がとれる英語力」が5.9%,「今,英語を学ばせる必要性は感じない」は4.9% であった。「英語教育の内容」については,「英語の音やリズムに触れたり,慣れたりする活動」や「英語を聞 いたり話したりする活動」を行っている学校が80%以上あり,前者については教員の63.2%が英語教育で「と ても重要なこと」と捉えており,後者についても49.0%の教員が「とても重要なこと」と考えている。また,「今. 後の国際環境を考えると,英語が話せるようになることは必要だ」に対して肯定的回答を示している教員は 89.9%,「英語はできるだけ早い時期から学ぶのがよい」は64.6%の教員が肯定的に捉えており,「すべての 子どもが大人になるまでに身につける必要がある英語力は」という問いに対しては,教員の49.6%が「挨拶や 簡単なやりとりなどの平易なコミュニケーションができる程度の英語力」を挙げ,37.3%が「日常生活におい て通常のコミュニケーションができる程度の英語力」とし,8.8%が「必ずしもすべての子どもが英語を身に つける必要はない」を選んでいた。. 以上の調査結果をまとめると,1980年代に行われた調査では,小学校の英語教育に対する肯定的見解と否 定的見解は保護者・教師ともに括抗し,これは,ほぼ総ての私立の小学校で英語教育が行われている状況と,. 中学校入学以前に何らかの英語教育を受けている子供がある程度存在している状況として並存している。と ころが1990年代に入ると,小学校の英語教育に肯定的見解を示す保護者が急速に増加し,教師のそれとの禿. 61.

(9) 木 塚 雅 貴. 離が見られるようになり,2000年以降もその傾向は継続している反面,小学校に英語を採り入れることに関 しては,保護者・教師ともに肯定的見解が多数を占めるようになった。その一方で,必修化についての見解 は保護者と教師で異なり,保護者が小学校英語を積極的に求めている姿を捉えることができるのである。. Ⅴ.「国民的コンセンサス」に見られる轟離の背景 前項までの考察に鑑みる時,海外の英語教育事情,日本の「国際化」,国内の世論の高まりにより,英語教 育の「早期化」へ向かう土壌が出来上がっているように捉えられる。すなわち,小学校に「外国語活動」を導入 するという公共性やニーズはある程度醸成していると見ることに,問題はなさそうである。しかし現実には, 本稿の冒頭で述べたように,小学校における「外国語活動」の導入に関する見解には禿離が見出される。 その背景には,次の3点が潜んでいると考えられる。 1.これまで繰り返されてきた日本の英語教育の「教養性と実用性」に関わる事項。 2.応用言語学(外国語教育)における学問的限界に関わる事項。 3.「総合的な学習の時間」における「外国語会話」の導入に関わる事項。 日本の英語教育では,その目的が「教養性と実用性」の間で揺れており,「目的論がたえずといってよいほ ど持ち出される最大の理由は,外国語教育において,求められ期待される外国語能力の水準に比べて,それ に達するのが極めて困難であるという現実」¢預と,「学校における英語とは何なのか。学校の教科としての英 語の教育には,テレビ・ラジオ・英語塾など(中略)の場合とは異なる目的があるのだろうか」糾)という問い が生まれる状況にある。一方,「ヨーロッパのような地域では外国語の目的は異言語間のコミュニケーショ. ンであり,それ以外の目的はふつう意識されない」¢$のであり,英語教育における「教養性と実用性」という 目的論自体が,日本独特の事項であると言える。そして,「実用論を突き詰めていくと,外国語を知らずと も日常生活に何らの不便も感じない一般大衆には英語は必要ないという結論に到達してしまう」¢ゆことにな. り,中学校や高等学校の英語の授業以外には英語との接点がないという現状が依然として離島やへき地以外 にも存在する中で,上記の論は一定の説得力を持つことになる。その結果,「外国語教育の目的とされるど の理由づけを用いても,それ一つだけで英語教育を正当づけるわけには行かない」¢乃という構図が生まれる ことになる。. 上記の構図は,明治初期の「第1の教育改革」と第2次世界大戦後の「第2の教育改革」,そして1984年に設 置された臨時教育審議会(臨教審)に始まる「第3の教育改革」細に特徴的に表れていると言える。「第1の教 育改革」と「第2の教育改革」においては,特に「教養性」と「実用性」を巡る議論が,ほぼ同じような経過を辿っ ている。すなわち,「一般に,高い文化圏から外国語が輸入される場合には,教養か実用かの目的議論は起 らないと言われる。教養か実用かを分析して考えるだけの余裕のない時代とも言える。その点,敗戦直後の わが国の社会情勢は,明治期のそれと極めて類似していた。延長された義務教育の中学校に英語が入ったの. は,そうした社会情勢下であった」¢功と述べられているように,開国から明治初期に欧米文化を英語ととも に吸収しようとした後に,その反動として表れた藤村作による「英語科廃止論」に始まる英語教育の「教養か 実用か」論争や,太平洋戦争後にアメリカを中心とした文化と言語が一気に押し寄せ,それを吸収した後に 訪れた加藤周一や平泉渉・渡部昇一らによる「教養か実用か」議論の流れは,酷似している。同様の指摘は, 織田(p.54)や大谷(1993,pp.30−31)にも見られ,これらに共通する事項は,明治期と太平洋戦争後に「教養 性と実用性」に関わる議論が繰り返されてきたことである。 ただ,「第1の教育改革」と「第2の教育改革」は,いわば「外的な要因」(外圧)によって政治体制が大きく変 化したことに伴う改革によりもたらされた事項であるのに対し,「第3の教育改革」は政治体制の大きな変革. 62.

(10) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. を伴うことのない「国際化」という「外的な要因」が働いているという点に,相違を見出すことができる。すな わち,日本の「国際化」にとって,英語を「コミュニケーション」(実用性)のツールとして使えることは当然の. 帰結であると捉えられ,それを後押しする英語教育内部の動きは,イギリスにおいてすでに始まっていた英 語教育のパラダイム転換により支えられることになったのである。Ⅲ.とⅢ.において既述の通り,1970年 代以降の世界と日本の英語教育の潮流においては,「実用性」が確立されており,過去のような「教養か実用か」 という議論には至らずに,最初から「実用性」の前碇が存在していたのである。このような延長線上に,今回 の小学校の「外国語活動」導入が位置づけられる時,「充分な議論を経ていない」という印象や「コンセンサス を得られていない」という反応が生まれてくることは,無理からぬことである。今回の『学習指導要領』改訂 において,小学校に「外国語活動」を導入する素地は,すでに過去の議論の中で収束していたと捉えることが できるのである。 第2については,以前より,早期英語教育の利点が正しい英語音の獲得にあるとされてきた。飯塚(p.132) の「音声言語の習得は,幼・児童期を逃すと非常にむずかしいことについては,ほとんど異論がない」という 見解に代表されるように,伊藤(p.25)や近年の唐須(pp.89−91)によってもこの点は支持されている。ただ,. 早期英語教育に賛成する研究者の間でこれまで言及されてきた研究は,レネバーグ(E.H.Lenneberg)の臨 界期説やペンフィールド(W.Penfield)の研究であり(伊藤,1989,p.22及び伊藤,1996,p.18,河合,p.20,国吉, p.20,高橋,p.187−188,唐須,pp.87−88),これらはいずれも1960年前後に行われた研究に基づいているため, 約半世紀を経ている。1970年代から盛んになり始めた応用言語学における言語習得や第2言語習得に関する おびただしい数の研究があることは,例えば欧米系の学術誌Aj坤/才gdエ才〃g〟才ざf才cざ,且エrノわ〟γ〃α/,上α〃−. g〝ageLearning,$ystem等を紐解けば一目瞭然であるし,クラッシュン(S.D.Krashen)やエリス(R.Ellis) らの研究を振り返っても明らかではあるが,依然としてレネバーグやペンフィールドの研究に依拠している 現状は,外国語教育の開始時期についての学問的な調査研究による決定的証拠が未だ提出されていないこと を物語っている。多くの研究が行われている反面,これらの研究はいずれも局所的かつ調査対象や人数が限 定的である点に,外国語教育開始年齢に関わる研究上の限界を指摘せざるを得ないのであり,換言すれば個々. 人の成育条件には大きな差異があり,一律に同じ条件の被験者を集めて長期間に渡る第2言語習得の調査研 究を行うことは事実上不可能である。従って,「『臨界期仮説』は,日本の小学校における外国語会話を行う ことの妥当性を示す根拠にはならない」(冨田,pp.154−156)という指摘がなされることにも繋がり,外国語. 教育開始時期に関する混迷の度合いを深めるという構図が出来上がるのである。すなわち,早期英語教育を 決定づける学問的証拠が提出されない現状は,小学校に外国語活動を導入することに対して,万人を納得さ せ公共性を確立するに足る国民的合意を形成することに失敗し,懐疑的様相を生み出すことに向かうのであ る。また,一方では,Ⅳ.で採り上げたアンケート調査の結果に見られるように,「英語は早くから始めた 方がよい」と考える人々が少なからずおり,これにより外国語教育の「早期化」を求めるニーズ形成も見出さ れる。まとめて述べれば,学問的に脆弱な根拠と議論から生まれた結果であると言えるのである。. 第3については,「総合的な学習の時間」に関わって例示された「国際理解に関する学習の一環としての外 国語会話等」に対し,実施前から共通する懐疑や危倶の念が示されていた。佐藤(p.450)は,現行の『学習指 導要領』が告示される2年前の1996年,「教科学習」と「総合学習」という二項対立の考え方に起因する問題点 を指摘しながら,「総合的な学習の時間」が,「答申の提唱する領域に閉じこもり,情報教育のコンピュータ の教育と国際教育の英語教育では体験主義と技能主義に終始」する危険性を指摘している。同年に木塚 (1996,p.91)は,第15期中央教育審議会第2/ト委員会が小学校の英語教育に関して明らかにした最終答申の. 方針について,「学校ごとに扱われる内容にばらつきがHることが考えられる」と述べ,さらに「総合的な学 習の時間」が導入される1年前の木塚(2001,pp.33−34)では,「総合的な学習の時間」が「格差」を生み出す危. 63.

(11) 木 塚 雅 貴. 険性を指摘している。すなわち,本稿冒頭において採り上げた「審議のまとめ」の③に見られる「教育の機会 均等」に関わる事項は,すでに10年以上前に指摘されていたことになる。また柴田は,現行の『学習指導要領』 が施行される2年前の2000年に,「総合的な学習の時間」において扱われる内容に関して,「/ト学校では国際. 理解教育として外国語会話の導入まで考えられてい. ます。そのため,この時間の真のねらいは何のかという. 戸惑いも起っています」(p.223)と述べている。稲垣は,「総合的な学習の時間」が実施されるやはり2年前に, 「総合的な学習の時間」に関して出版されている著作の多くに,「新しい教育課程で『総合的学習』の例として. あげられている国際理解,情報,環境,福祉・健康が主にとりあげられ,総合学習が四つのテーマに限定さ れていく傾向が認められる」(p.186)と述べ,佐藤と同様に,「教科学習」と「総合的学習」の二項対立への懐 疑の念を表わしている(p.190)。 特に佐藤の予測を裏づけるように,2002年度から開始された「総合的な学習の時間」における「外国語話等」 を実施する学校数は上昇の一途を辿って行った。文部科学省の2003年度「/ト学校における英語活動に関する. 意識調査」の結果では,小学校6年生の70.6%が英語活動の授業を受けており輌,文部科学省の2004年度「小 学校英語活動実施状況調査」では6年生の74.1%,2005年度「/ト学校英語活動実施状況調査」では,6年生の 90.3%が英語活動の授業を受けている。すなわち,「総合的な学習の時間」が開始されて数年のうちに,全国. のほとんどの総ての小学校において,英語活動が実施されている状況が生まれていることは,佐藤や稲垣が 言う「答申の碇喝する領域に閉じこも」つていることに他ならないのである。しかも,英語活動の内容を見て みると,例えば文部科学省による2007年度の「/ト学校英語活動実施状況調査」では,小学校6年生において, 「歌やゲームなど英語に親しむ活動」の割合は97.3%,「簡単な英会話(挨拶,自己紹介)の練習」の割合は96.6% となっており,ここでも佐藤が言う「体験主義と技能主義」になっていることが捉えられる。また,Ⅳ.で採. り上げたアンケート調査の結果からも,同様の傾向を読み取ることができる。従って,柴田が述べているよ うに,「総合的な学習の時間」の真のねらいに対する「困惑」により,『学習指導要領』に記載された例示を実施. することに落ち着き,「体験主義と技能主義」による英語活動が中心を形成し,そこに木塚が言うように,学 校により扱う内容が異なるという状況が生まれ,それを受けて,今回の『学習指導要領』改訂において,「教 科と総合」という二項対立を克服し,あるテーマを追究する過程で教科の枠を越えるという本来の「総合的な 学習の時間」の主旨を達成することができず,「総合的な学習の時間」の枠組みを出て,結果として「コミュニ ケーション」という言葉で表わされる「体験主義と技能主義」による「実用性」に根ざした「外国語活動」が導入. されることになったと捉えることは,妥当であろう。換言すれば,明治以来行われてきた英語教育における 「教養性と実用性」という二項対立は,「総合的な学習の時間」における「国際理解学習の一環」であったはずの 「外国語会話等」が,「教科と総合」という二項対立により「技能主義」に収赦していったことと一脈通ずる事項 を含んでいる。すなわち,最初は「総合」という意味において「教養性」を追究しつつも,結局は独立した「領域」. として「実用性」という「技能」を追究することになったのである如)。 従って,元来属していた「総合的な学習の時間」の主旨に照らして考える時,外国語活動がそこから独立す. るに足る充分な意味づけが見出されないという点において,議論やコンセンサスが確立されていないという 見方が提出されることになるのである。すなわち,「総合的な学習の時間」に位置づけられることになった「国 際理解学習の一環としての外国語会話等」は,英語の「技能」習得を目的としていたわけでも総ての小学校が 扱うことを企図していたわけでもなかったはずであるが,結果として英語の「技能」習得にほとんど総ての小 学校が向かうことになった現状を追認し,いわば不純な動機に基づき導入に踏み切ったことが,国民的コン センサスを得られていないという印象を与えていることに繋がっていると考えられるのである。. 64.

(12) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図. Ⅵ.結 本稿の主題は,小学校に「外国語活動」が導入されるまでの道程に関与していた要素を分析することにより,. 学校教育における英語教育の公共性とニーズ形成の構図を描き出すことであった。. 1970年代のイギリスに遡及する「コミュニケーション重視の外国語教育」の考え方は,外国語教育理論のパ ラダイム転換をもたらし,「コミュニケーション」(「実用性」)を前面に出した外国語教育が世界に波及し,ま. た1980年代後半には,ヨーロッパヤアジア各国を中心として,英語教育「早期化」の動きが活発化した。これ らの潮流は,日本の英語教育に対しても影響を与えることとなり,1980年代末の『学習指導要領』改訂以降に 見られる「コミュニケーション重視の英語教育」の導入や1990年代に試行的に始められる小学校の英語教育と. 密接に結びつくこととなった。上記の日本の状況は,小学校の英語教育本格導入へ向けてのニーズの高まり として次第に顕著となってくることが,過去に行われたアンケート調査結果の推移から捉えられた。 上記に鑑みる時,今回小学校に「外国語活動」を導入することに踏み切った政策は,公教育のニーズや公共. 性に鑑みて安当であったと捉えられる反面,その政策は時期尚早であり充分な国民的コンセンサスが確立さ れていないという指摘を踏まえる時,両者の禿離の背後に関与している3つの要素が浮かび上がってきた。 第1は,日本の英語教育において,「教養性と実用性」という二項対立の議論が度々行われてきており,英 語という教科の特性上,「英語が使えること」,すなわち英語の技能習得に基づく「実用性」が重視され,この 「実用性」が「公共性」や「ニーズ」という言葉として置き換えられ,財界の要望や世論としてこれまでも学校教. 育の中の英語教育に求められてきた歴史を読み解くことができた。すなわちこれは,日本の英語教育の目的 に関する「教養性と実用性」という二項対立の議論であり,今回小学校に「外国語活動」が導入されたことは, 世界的な英語教育の潮流の中で,「コミュニケーション」(「実用性」)という目的が前碇として出来上がってい た結果に基づくことがらであった。. 第2は,外国語教育が属する学問的範噂である応用言語学における学問的限界であり,外国語教育の開始 年齢に関する強固な理論的証拠を提出し得ない状況である。このような状況は,「外国語活動」導入への根拠. を希薄化し,学問的に脆弱な議論に終始する結果を生み出していた。 第3は,「総合的な学習の時間」における「国際理解学習の一環としての外国語会話」導入を. 巡る問題である。. 「外国語会話」は,「総合的な学習の時間」本来の目的から逸脱し,「技能主義と体験主義」へと向かい,その結 果,充分な論理的基盤を欠いたまま「総合的な学習の時間」の枠外で独立することになり,これに対する不信 感が看取されたのである。. 本稿の考察を通して,小学校における「外国語活動」導入の視点からそのニーズや公共性確立の構図を捉え ると,政策と社会のニーズや学校教育の公共性との表面的な理解に基づく禿離を越えたところに隠された事 項があることが明らかとなった。政策が真にニーズや公共性を確立し得るためには,背後に存在する構図へ の充分な認識と,そこに関わる議論が求められていることが捉えられるのである。. 65.

(13) 木 塚 雅 貴. 注 釈 (1)2007年9月1日付朝刊。 (2)2008年4月4日付朝刊。 (3)この点に関わる問題点については,木塚(2009)を参照のこと。 (4)世界的に外国語教育の主流は英語教育であることから,本稿では特に断わらない限り,外国語は英語と置き換え可能であ. ることとして扱う。 (5)大沢(pp.286−288)。 (6)石坂(pp.3132)。 (7)川村(p.18)。 (8)石坂(p.32)。 (9)服部(p.29)及び高橋(p.194)。 (1q)松川(2004a,p.16)。 (川 松香・後藤(p.63)。 (1勿 高橋(p.179)。 (13)後藤(p.8)及び松川(2004a,pp.16−17)。 (14)高橋(p.186)。 (15)同上(p.6)。 (16)大津(p.46)。 (17)久埜(p.46)。 (鳩 目本児童英語教育学会実態調査研究プロジェクト・チーム(pp.15−37)。 (1功 英語教育実態調査研究会(pp.34−40)。 餉 日本児童英語教育学会中部地区プロジェクト・チーム(pp.109−119)。 帥 日本児童英語教育学会関西支部プロジェクト・チーム(pp.47−63)。 佃 英語教育編集部(p.33)。 餉 垣田(p.51)。 糾 大沢(p.26)。 ㈲ 高橋(p.13)。 鯛 同上(p.13)。 帥 高橋(p.17)。 (姻 麻牛・天野(p.33・p.250)。 餉 福井(p.68)。 郎)以下の文部科学省ホームページを参照のこと。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/gijiroku/015/05032201/004.htm 帥 木塚(2009)は,2008年度版『小学校学習指導要領』において「外国語活動」が導入されたことに関わり,『学習指導要領』改訂 のプロセスの観点から,「外国語活動」の導入に関わる問題点を指摘している。. 参考文献 Brumfit,C.J.1981.‘‘Languagevariationandthedeathoflanguageteaching”.The且4ALN?uJSletier,November,pp.1−6. TheBritishAssociationofAppliedLinguistics.. Dickson,P.&Cumming,A(eds.).1996.Prq711esq′LanguageEducationin25Countries.Berkshire:NationalFoundation forEducationalResearch.(竹内慶子他訳.1999.『世界25か国の外国語教育』.大修館書店.). Johnson,K.&Morrow,K.1979.4抄roaches.Cambridge:CambridgeUniversityPress. 麻生誠・天野郁夫.1999.『現代日本の教育課超=21世紀の教育を求めて=』.放送大学教育振興会. 飯塚成彦.1985.「第3節 甲一期英語教育の現状と問題点」.『新・英語科教育の研究』.pp.129−133.大修館書店. 石坂和夫.1995.「国際化に対応する教育の課題」.『新学校教育全集6 国際化と学校教育』(奥田眞丈・永剛1頁編).pp.1−50. ぎょうせい.. 66.

(14) 小学枚における「外国語活動」導入から見たニーズと公共性確立の構図 伊藤克敏.1986.「『国際人』養成のために」.『現代英語教育 5月号』第23巻第2号.pp.24−26.研究社出版. 伊藤克敏.1989.「早期英語教育の必要性を考える」.『英語教育 伊藤克敏.1996.「外国語教育の開始年齢」.『英語教育. 2月号』第37巻第11号.pp.21−23.大修館書店.. 6月号』第45巻第3号.pp.17−19.大修館書店.. 稲垣忠彦.2000.『総合学習を創る』.岩波書店. 英語教育実態調査研究会.1989.「中学校・高等学校の英語教育全国実態調査(早期英語教育・海外子女教育を含む)」.『英語 教育 2月号』第37巻第11号.pp.34−40.大修館書店. 英語教育編集部.2004.「/ト学校英語をめぐって:行政の動き,地域の期待」.『英語教育. 5月号』第52巻第2号.大修館書店.. 大谷貴子.1989.「/ト学校における英語教育の実態と課題一授業参観とアンケート調査を中心に−」.『日本児童英語教育学会 研究紀要 第8号』.pp.45−54.日本児童英語教育学会. 大谷泰照.1991.「2.諸外国の外国語教育(2)」.『英語教育 現代キーワード事典』(安藤昭一編).pp.540−541.増進堂.. 8月号』第42巻第6号.pp.29−31.大修館書店.. 大谷泰照.1993.「古くて新しい『実用か』『教養か』」.『英語教育. 大谷泰照.1994.「諸外国の外国語教育」.『現代英語教育12月増大号』第31巻第9号.pp.29−31.研究社出版. 大谷泰照.1997.「韓国の外国語教育事情−なぜ第二外国語の中学導入に踏み切ったのか−」.『英語教育11月号』第46巻第9 号.pp.12−15.大修館書店. 大津由紀夫.2004.「公立小学校での英語教育一必要性なし,益なし,害あり,よって廃すべし」.『小学校での英語教育は 必要か』.pp.45−80.慶應義塾人学出版会. 神原勝昭.1997.「中国の外国語教育事情」.『英語教育11月号』第46巻第9号.pp.8−11.大修館書店. 織田稔.1985.「日本における英語教育の目的」.『新・英語科教育の研究』.pp.5160.大修館書店. 垣田直巳.1985.「教育における外国語教育の役割」.『新・英語科教育の研究』.pp.43−51.大修館書店. 河合忠仁.1998.「第2言語学習の開始時期一語外国の事情から考える−」.『英語教育. 6月号』第47巻第3号.pp.20−22.. 大修館書店. 川村淳一.1986.「国際文化科の特色」.『現代英語教育 5月号』第23巻第2号.pp.18−20.研究社出版. 木塚雅貴.1991.「コミュニカティブ・アプローチによる英語教育の理論と方法」.東京大学大学院教育学研究科修士論文. 木塚雅貴.1996.「/ト学校での英会話導入」.『英語教育. 8月号』第45巻第5号.p.91.大修館書店.. 木塚雅貴.2001.「『教育改革』とその問題点」.rゐゼ上α〃脚(聯ヲ7セαC鮎γVol.25/10.pp.33−35.全国語学教育学会. 木塚雅貴.2009.「『学習指導要領」改訂プロセスにおける文部科学行政への問題提起:小学校における『外国語活動』導入の見 地から」.rゐgエα〃脚(聯了セ〟CゐゼγVol.33/02.pp.9−12.全国語学教育学会. 久埜百合.1995.「/ト学校における英語教育」.『英語教育 9月増刊号』.pp.47−49.大修館書店. 後藤典彦.1996.「研究開発校の実践が示唆するもの−アンケート調査を踏まえて」.『現代英語教育 5月号』第33巻第2号. pp.6−10.研究社出版. 財団法人中央教育研究所.2002.『小学生の英語の学習状況と理解力の調査研究』研究報告No.61.財団法人中央教育研究所. 佐藤学.1996.『カリキュラムの批判 公共性の再構築へ』.世織書房. 清水千枝子・伊藤礼子.1990.「幼児・児童の英語教育についてのアンケート調査」.児童英語教育研究グループ『1990年特色 ある教育研究報告書:児童英語教育』.pp.77−80.日本橋女学館短期人学. 柴田義松.2000.『教育課程 カリキュラム入門』.有斐閣. 高橋正夫.2000.『英語教育学概説』.金星堂. 竹下裕子.1997.「タイの英語教育一新しいあり方を模索する」.『英語教育. 11月号』第46巻第9号.pp.26−27.大修館書店.. 唐須教光.2004.「Who’safraidofteachingEnglishtokids?」.『小学校での英語教育は必要か』.pp.81−111.慶應義塾大学 出版会. 冨田祐一.2004.「国際理解教育の一環としての外国語会話肯定論一競争原理から共生原理ヘー」.『小学校での英語教育は必 要か』.pp.149−186.慶應義塾大学出版会. 服部孝彦.1995.「異文化・国際理解教育の今後」.『英語教育. 9月増刊号』.pp.53−55.大修館書店.. 日本児童英語教育学会関西支部プロジェクト・チーム.2001.「『総合的な学習の時間』における英語学習に関する実態調査一 近畿地区内の教育委員会を対象とした質問紙調査に基づいて−」.『日本児童英語教育学会 研究紀要 第20号』.pp.47−63. 日本児童英語教育学会.. 日本児童英語教育学会実態調査研究プロジェクト・チーム.1989.「中学生の英語学習に関する態度 ExとNon−Exを対象 としたアンケート調査」.『日本児童英語教育学会 研究紀要 第8号』.pp.15−37.日本児童英語教育学会. 日本児童英語教育学会中部地区プロジェクト・チーム.1994.「『小学校への英語教育導入について』の公立小学校教員の意識. 調査一愛知県・静岡県・岐阜県の場合−」.『日本児童英語教育学会 研究紀要 第13号』.pp.109−119.日本児童英. 67.

(15) 木 塚 雅 貴 語数青学会. 樋口忠彦・守屋雅博.1984.「日本人の外国語学習についての経験及び態度に関する一考察一社会人を対象とする調査に基づ いて−」.『R本児童英語教育学会 研究紀要 第3号』.pp.36−44.R本児童英語教育学会. 福井保.1979.「戦後学制改革と英語教育」.『現代の英語教育1英語教育問題の変遷』.pp.65−90.研究社出版. ベネッセ教育開発センター.2006.「速報版 第1回小学校英語に関する基本調査 教員調査」.ベネッセコーポレーション. ベネッセ教育開発センター.2007.「速報版 第1回小学校英語に関する基本調査 保護者調査」.ベネッセコーポレーション. 松香洋子・後藤由美.1990.「公立小学校における英語教育と国際理解教育」.『日本児童英語教育学会 研究紀要 第9号』. pp.62−69.日本児童英語教育学会. 松川磯子a.2004.『明日の小学校英語教育を拓く』.アプリコット. 松川磯子b.2004.「/ト学校英語活動の現在から考える」.『小学校での英語教育は必要か』.pp.17−44.慶應義塾大学出版会. 松村幹男.1985.「日本における英語教育の変遷」.『新・英語科教育の研究』.pp.22−42.大修館書店. 森常治.1979.「『平泉試案』の社会的背景」.『現代の英語教育1英語教育問題の変遷』.pp.138−161.研究社出版. 文部省.1989.『中学校学習指導要領』.大蔵省印刷局. 文部省.1989.『高等学校学習指導要領』.大蔵省印刷局. 文部省.1998.『中学校学習指導要領』.大蔵省印刷局. 文部省.1998.『高等学校学習指導要領』.人蔵省印刷局. 文部科学省.2008.『小学校学習指導要領』.文部科学省.. (釧路校准教授). 68.

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