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新型コロナウイルスパンデミックと家族 家庭内コミュニケーションにおける困難と可能性をめぐって

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Academic year: 2021

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1.コロナ禍における家族の状況

 埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県及び福岡県の7都府県を 対象に政府が緊急事態宣言を発令したのは2020年4月7日のことであった。16日 にはその対象が全国に拡大され,都道府県知事による外出自粛の要請や施設の休 業要請・指示が可能となった。法的拘束力が伴わないため「自粛を要請する」と いう奇妙な言葉づかいが飛び交うようになったのは記憶に新しい。  家族という観点から興味深いのは,4月25日から5月6日まで,東京都,埼玉 県,千葉県,神奈川県の1都3県で発表された「いのちを守る STAYHOME 週 間」であろう。これは企業・住民に連続休暇の取得等を要請するものであり,通 勤の徹底的な抑制による「自粛」協力のさらなる呼びかけでもあった。かくして, STAYHOME,すなわち基本的に「家族とずっと一緒にいる」状況が常態化する という,近年まれに見る生活の変化が行政主導によって国内にもたらされたので ある。  こうした生活の急変について,正当な社会調査の結果が出そろうまでにはもう 少し時間がかかるだろう。しかし,身動きの早いネットリサーチにおいては,続々 と興味深い結果が示されている。20~69歳の男女2,500人を対象に「新型コロナ ウイルス生活影響度調査」を定期的に実施しているクロスマーケティングによれ

永 田 夏 来

(兵庫教育大学) 

新型コロナウイルスパンデミックと家族

  家庭内コミュニケーションにおける

  困難と可能性をめぐって

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ば,今年8月の消費生活においては「家で過ごした」が約6割で最も高く,昨年 の夏と比べると2倍以上にも上ったという(クロスマーケティング 2020)。また, 約220万人の登録モニタ-から全国に住む20代~60代の男女3,183人を対象に「ど のような人生を歩みたいのか」という価値観(人生価値観)を調査している楽天 リサーチも興味深い結果を報告している。それによれば,新型コロナウイルス拡 大以前(2019年12月)と比して『家庭重視』の価値観を持つ層が1.4ポイント増加し, 「妥協をしたくない」といった『欲求充足重視』の価値観を持つ層が2.0ポイント 減少したことが報告されている。特に20代女性において『家庭重視』は5.2ポイ ント増加しており,STAYHOME が若い女性に価値観の変化を迫った様子をう かがうことができる(楽天リサーチ 2020)。  家で過ごす時間が長くなり,家族は大切だとの考えを持つ人が増加したのであ れば,若い女性を中心に生活や価値観の変化をもたらした STAYHOME は,結 果として大過なきを得たといえるかもしれない。ここに家族の「可能性」を見出 すこともできるだろう。しかし,厚生労働省によれば,2020年8月の自殺者数は 前年同月に比べ男性で5%増,女性は40%増となっている。また,30代以下女性 において74%増であった(厚生労働省 2020)。コロナ禍による生活や価値観の変 化は決して生易しいものではなく,新型コロナウイルスパンデミックで浮き彫り になった家族における「困難」の提示ともいえる。

2.公領域が私領域に侵入することで開かれる,家族の「可能性」

 本シンポジウムにおける柴野報告では,出版における現状分析の論点として「ア クター間における本質的な差異の前景化(ジレンマ)」が示された。もともとあっ た問題が前景化するという類似の状況は家族においても生じていて,それは「夫 は外で働き妻は家庭を守る」という性別役割分業をめぐる論考として記述するこ とができるように思われる。  性別役割分業に基づいた核家族は,戦後の日本において産業構造の変化と共に 増加してきた家族形態の一種である。家族手当や住宅手当といった給料制度にも みられるように「男性稼ぎ主モデル」は社会で広く共有されており,それがサラ リーマン+専業主婦世帯の普及という形で性別役割分業の一般化を後押ししてき た。  今日では様々な角度から批判される性別役割分業だが,これが成立するために

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は公の領域である「職場」と私的な領域である「家庭」が分断されている職住分 離が背景として不可欠だ。しかしコロナ禍による STAYHOME は,リモートワ ークという形で公的な「職場」が私的な「家庭」に侵食し,これまでにない形で 職住分離を解体させることになった。  2020年の4月8~15日という早い段階で「自分もしくは同居家族が新型コロナ の影響により,在宅勤務を経験した人」を対象にネット調査を実施した落合恵美 子によれば,在宅勤務になって「よかったこと」として「感染不安」と「通勤時 間」の削減があるという。また,「家族関係」については「家族と過ごす時間が 増えた」「家族との会話の時間が増えた」といった事柄が「よかったこと」とし て挙げられている(落合・鈴木 2020a)。落合による調査結果は,先述した後続の WEB 調査とも符合している。家族研究において性別役割分業が維持され続けて いる理由として通勤時間の長さや長時間労働はしばしば指摘されるところであり, 在宅時間が短いために男性が家事を抑制するという議論もこれまでなされてきた。 STAYHOME によってこうした問題が解決し,家族関係にもポジティブな影響 を与えたといえる。  テクノロジーの発達が空間的な分断を架橋し,新しいコミュニケーションの回 路を開くという議論は,メディア研究においてこれまでも繰り返し行われてきた ものであろう。例えば,スマートフォンによって行われる SNS を用いたコミュ ニケーションは現実空間に無数の「孔(あな)」を開けており,物理的な移動を 伴うことなく異なる複数の空間にいる相手と双方向で繋がることを可能にしてい ると鈴木謙介は論じている(鈴木 2013)。実際,仕事の合間に確認する家族との LINE などを通じて買い物の依頼や休日のやりくりなどが行われることは近年で はごく普通のものであり,それによって家事・育児の分担がいくらか改善された 夫婦も少なくはないと思われる。鈴木の言葉を借りるならば,インターネットに よる「多孔化」の帰結として,「職場」と「家庭」が空間を超えてつながりを持 つという自体はコロナ前からすでに始まっており,その意味ではテクノロジーに よって職住分離は部分的に綻び始めていたのである。  ここで注目したいのは,家族 SNS による「孔(あな)」は「トイレットペーパ ーの買い置きが切れた」「子の寝かしつけと重なるから帰宅時間を遅らせて欲しい」 といった夫婦間のささやかな情報交換に留まっていたが,STAYHOME は夫の 仕事ぶりだけでなく職場の人間関係まで家族に筒抜けにし,また,妻の家事・育 児の実情を夫に目撃させたという点である。先述の落合の調査では「配偶者は子

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どもを大切にしているが,仕事で夜遅くなることが多かったため,平日の子ども たちの様子を把握しきれていなかった。今回の事件を通じ,子どもたちを良く知 ることができるようになったと思う」「妻が日頃やっている家事の中味がわかった」 といった自由記述が紹介されており(落合・鈴木 2020b:4),空間的な垣根がな くなったことによって性別役割分業のあり方に変化の兆しがもたらされたと見る こともできるだろう。  鈴木はインターネットによる「多孔化」のもたらす効果として,物理的に空間 を共有することの優越性が相対的に失われると論じている。しかし,性別役割分 業に注目した場合,STAYHOME によって物理的空間を共有したことがこれま でと異なるコミュニケーションを促し,結果として家事分担に影響をもたらした ものと考えられるだろう。ただしこれは物理的な空間の共有が「孔(あな)」を 通じたバーチャルな関係に勝るという訳ではなく,空間的状況が変化したことを 受け,僅かながら家族が変容した帰結とみるべきだ。その変容とは,居心地の良 い家庭とは家族が協力して作るものだとの前提の共有であり,その形成や維持の ために夫婦が交渉のテーブルについたという,夫婦間の人間関係の変容である。  家庭とは Home の訳語であり,そこには「居心地の良い空間」「生活の場とし ての我が家」といった意味が織り込まれている。これはサラリーマン+専業主婦 からなる核家族世帯が愛情に基づいた理想的な繋がりとして戦後共有されてきた ことと結びついていて,抑圧的なイエ制度からの脱却をも意味するシンボルとし ての位置づけをも持つものであった。戦後日本の喜劇王として知られるエノケン こと榎本健一が歌う大ヒット曲「私の青空」に「狭いながらも楽しい我が家 愛 の火影のさすところ」とあるように,良き家族とは居心地の良い家庭であり,そ れは愛情の場であると考えられてきたのである。  戦後に共有されたこうした家族観は,居心地の良い家庭環境の形成に失敗した 場合,その理由を「愛情の不足」に求めるほど現在でも強固なものである。しか し新型コロナウイルスパンデミックにより,性別役割分業に関する問題は時間と ネゴシエーションの不足に起因するものであることが明らかになった。話し合い に基づいた健全な人間関係を作ることが居心地の良い環境をもたらすというのは チームや集団をマネジメントする上でごく当たり前のことであり,家族も例外で はないのだ。

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3.公領域の閉鎖で顕在化する,家族の「限界」

 核家族化や夫の長時間労働などを背景にその深刻さが指摘されてきた論点とし てもう一つ考察しておきたいのが,社会から隔絶された状態で母親が一人で子ど もと向き合う「密室育児」である。深夜営業の飲食店などでオペレーションを一 人で行う勤務形態を指す「ワンオペ」を転用し,「ワンオペ育児」と呼ばれるこ ともあるこの状況は,虐待や産後鬱などの背景として長らく問題視されてきた。  行政は「密室育児」を回避する手立てとして,保健師または助産師による新生 児訪問指導,社会福祉協議会や民生委員による子育てサロンの運営など様々な施 策を行ってきた。しかしこれらの支援の多くは新型コロナの影響を考慮してスト ップしているのが現状だ。また,公園の閉鎖や遊具施設の周囲に規制線を張り巡 らせるなどの措置も広く行われており,外遊びの場を失った子どもの対応もまた 母親の肩にかかることになったのである。文部科学省が取りまとめたデータによ れば,0歳から2歳までの子を持つ親が選ぶ子育てに関する負担や悩みで一貫し て最も多く選ばれているのは「自分の時間が持てないこと」であり,0歳で56.5%, 1歳で64.6%,2歳で59.4%がこれに該当すると回答しているという(文部科学 省 2009)。STAYHOME は乳幼児を抱える母親がかろうじて得てきた外部との繋 がりを切断するものでもあったのだ。  ユリー・ブロンフェンブレンナーは,子供の位置づけについて,個人ではなく その子が置かれている環境から考える「エコロジカルシステムアプローチ」を提 唱している。それによれば,子どもを取り巻く環境は円状の内側からミクロシス テム(学校や家族,地域など子どもが直接関わる),メゾシステム(ミクロシステム同 士の連携や相互作用),エクソシステム(親の職場や地域の保健所など,子どもと間接 的に関わる),マクロシステム(社会の文化や慣習, 法制度)として区別されるとい う(Bronfenbrenner 1979=1996)。ブロンフェンブレンナーの言葉を借りれば,「密 室育児」とは,子どもが直接参加することができるミクロシステムの不備として 理解されうる。子どもが身を置くことができる環境は家族や学校,学童保育を除 けば塾,習い事など限られた選択肢しかなく,未就学の場合は子どもの安全確保 に加えて授乳やおむつ替えなどの設備が必要となることから,さらに限定的なも のになってしまう。子どもが身を置く場所が家庭くらいしかないため,その管理 者たる母親も子どもの面倒を見る以外の行動を選択できない結果となるのだ。

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 筆者が2020年10月から実施している zoom を用いた未就学児を持つ母親を対象 にした聞き取り調査でも,コロナ禍によって行き場を失った子持ちの不自由さが 以下のように語られている。 7か月でハイハイをするようになったら行ける場所が限られるようになって …。行ける場所(子育てひろばなど)も予約しなくてはいけないので困って います。赤ちゃんの生活リズムはその日によって違うから,予約してその時 間に行けるとは限らないんです。子育て支援センターも,毎回消毒など大変 なのに,よくしてくださっていると感じます。しかし外出のしづらさから人 に会いづらくなり,寂しさに拍車がかかりました。(末子7か月・関西地域) ショッピングモールの子どもコーナーがしまっているので困っています。買 い物ついでに子どもを遊ばせてあげられなくて,かわいそう。(末子11か月・ 関東地域)  こうした母親たちの語りは,未就学の子どもの遊びとは身体性を伴うものであ ること,だからこそ自宅以外の広くて安全な場所が必要であるという背景を持つ。 「エコロジカルシステムアプローチ」の言葉を借りるなら,メゾ/エクソ/マク ロシステムとは異なり,ミクロシステムはリモートによる代替が極めて厳しいと いう状況が見えて来るのだ。それにもかかわらず,母親たちはこの状況を「困っ ているが,仕方がない」ものとして受け入れていて,子どもの外遊びなどを控え る選択を自ら行っている。  ここで示される家族の「限界」は,対面でしかかなわないコミュニケーション とリモートで代替できるコミュニケーションという意味では澤報告と問題意識を 共有するものであり,後述する「自粛」についての考察は伊藤報告と認識を共有 できるものである。  母親たちが外遊びを「自粛」する理由の一つとして,子どもの外遊びにクレー ムをつける風潮がある点を考えておく必要があるだろう。新型インフルエンザ等 特措法に基づき発令された緊急事態宣言の下,政府や都道府県が外出の自粛や店 舗の営業自粛を呼びかけたのは先述の通りである。こうした行政の動きとは別に, 営業を続ける店舗などに対し「感染拡大を防ぐ」との触れ込みで一般市民が異議 申し立てを行ったことも記述しておきたい。その対象となったのは,子どもが参

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加できるという意味でのミクロシステムも例外ではなかった。休業中にもかかわ らず「コドモアツメルナ オミセシメロ マスクノムダ」と赤い文字で書かれた 千葉県八千代市の駄菓子屋や,駅前商店街に多くの買い物客が訪れていることが 報じられたために抗議の電話や手紙が殺到した東京都武蔵野市の吉祥寺など,休 校中の学校に代わって子どもが身を置ける環境に「自粛」を要請する市民の声が 向けられたのである。  こうした風潮に対して母親が敏感になるのは,コロナ禍以前から指摘されてき た子連れに対する「風当たり」の強さと関連していると見るべきだろう。電車や 駅でのベビーカー利用や飛行機で泣いた乳幼児に対するクレームなど,子連れの 母親に対する公共の場におけるネガティブな反応は枚挙にいとまがない。2020年 7月には,スーパーの惣菜コーナーでポテトサラダを手にした子連れの女性に対 して高齢の男性が「母親ならポテトサラダぐらい作ったらどうだ」と吐き捨てて いったことが Twitter で話題となった。こうした母親に対するクレームの付け方 は,高い同調圧力を基底とした「不寛容」の現れであるという点で千葉県や武蔵 野市にみられた「自粛」を求める市民の声と類似しているように思われる。

4.「コト消費」による家族のコミュニケーション

 コロナ禍での STAYHOME は,家族で過ごす時間をもたらし,性別役割分業 や夫婦関係を見直す機運となった可能性がある。反面,子どもの居場所のなさ, 子連れに対する同調圧力など,現在の日本社会の限界を示すことにもなった。  前者の背景としては,STAYHOME に伴いリモートワークが推奨され,家の 中で仕事をするようになった点が挙げられる。これは通勤時間の削減をもたらし, 共に夕食をとるなど家族で長い時間一緒に過ごすことを可能にした。また,同じ 空間で長時間過ごすことで夫婦が互いの仕事や家事を知ることとなったのだ。後 者の背景としては,高い同調圧力を基底とした「不寛容」さはコロナ以前から子 連れに対して向けられていた点が挙げられる。現在の日本社会において子どもが 安心して身をおける環境は学校,家庭,子育て支援施設や学童保育などの一部施 設,など限られたミクロシステムしかそもそもなかった。コロナ禍によってこう した施設のほとんどが使用不可となり,母親たちは自ら子どもと共に家で過ごす ことを選択し,引き籠ったのである。  家族が関係を見直し,家庭内で共に過ごす可能性と困難を考察するにあたって

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最後に参照しておきたいのが,体験そのものの消費を意味する「コト消費」だ。 経済産業省の「コト消費空間づくり研究会」では「コト消費とは,魅力的なサー ビスや空間設計等によりデザインされた「時間」を顧客が消費すること」と定義 されている。滞在して時間を過ごすことに対してお金を払うコト消費は,消費者 が成熟してモノ自体への意識が薄れた現代において新たな楽しみを提供した消費 スタイルとして定着している。  「コト消費」が特に盛り上がったのは,インバウンドを主なターゲットにした 観光産業関連であろう。「美術館に行く」「歴史的建造物を見る」「ロックフェス やコンサートに行く」「テーマパークやショーなどのエンターテイメントを楽しむ」 といった「コト消費」は旅行と組み合わせることで強みを発揮するものであり, YouTube などを利用した魅力的なプランの提案は国内外の旅行需要を喚起した のである。  もう少し日常的な例としては,バーベキューやドライブ旅行,オートキャンプ, 温泉施設などが一般的な「コト消費」であろう。コロナ禍以前はこうした施設は 子ども連れで大いに賑わっていた。さらに小さい子どもがいる場合は,大型商業 施設のプレイルームやアンパンマンこどもミュージアムなども選択肢に入るだろ う。現在の日本社会には,子どもの環境であるミクロシステムは自宅を含むわず かなものしかないことはすでに述べた。こうした社会機能の不備をマーケットが 代替し,「コト消費」として提供していたのだ。  知っての通り,緊急事態宣言によりこうした消費活動は一気に抑制された。 GOTO トラベルキャンペーンなどで巻き返しが図られているが,感染者増加も 一方では指摘されており,依然として困難な状況が続いている。「コト消費」に 慣れ親しんだ現在の家族は,長時間ただ家にいるという状況に初めて直面し,そ の代替となるエンターテイメントを家庭内で準備せざるを得なくなったのである。 コロナの影響で売り切れたものとしては,マスクやトイレットペーパー,消毒液 といった衛生用品,WEB カメラや USB マイクといったリモートワーク関連用 品が挙げられるが,ドライイーストやホットケーキミックス,小麦粉,バターな ども品薄となった。これらは米の代替として購入されたものでは決してないだろ う。家の中でパンやクッキー等を作るという経験の手段として購入された,まさ に「コト消費」の一端として理解されるべきものである。  同じくコロナ禍で喚起された消費として,松井報告の主軸であった2020年3月 発売の任天堂『あつまれ どうぶつの森』に加えて,吾峠呼世晴(ごとうげこよは

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る)『鬼滅の刃』に触れないわけにはいかないだろう。2016年から『週刊少年ジ ャンプ』で連載されている『鬼滅の刃』は2019年にアニメ化され,人気最高潮の 2020年5月に大団円を迎え連載が終了したことでまず話題となった。オリコン上 半期コミックランキングによると2020年上半期のコミックの売り上げにおいて, 1位から19位までを『鬼滅の刃』が独占し,しかも19作すべてが200万部を突破 したという。10月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は観客動員・ 興行収入成績記録を毎週塗り替える歴史的ヒットとなり,本稿を執筆している時 点では数字をまとめることもできないほどだ。発売から6週間で1341万本(国内 外合算)を売り上げ世界的な大ヒットとなった『あつまれ どうぶつの森』の売 れ行きも凄まじいものであった。過去のシリーズの中でも最速で1000万本を超え, 6月末時点の累計世界販売は2240万本で Nintendo Switch 向けソフトの中では歴 代2位の座につけているという。  これらは家族や暮らしがテーマになった作品としても理解可能であり,親子で 楽しむことができる「コト消費」という側面を持っていることを最後に指摘して, 本稿の結びとしたい。作品として非常に優れているのに加えて,コミュニケーシ ョンのハブとして機能して家族関係を円滑にし,生きる楽しみをもたらしてくれ たからこそのヒットであろう。子どもの居場所のなさを解決できない行政の不備 や同調圧力をなくすことができないお粗末な社会状況において,家族に救いをも たらしたのはゲームと漫画/アニメであったのが令和となった本邦の現状であり, また,限界でもあるのだ。 引用・参考文献

Bronfenbrenner, Urie (1979=1996)The Ecology of Human Development: Experiments by Nature and Design, President and Fellows of Harvard College.(磯貝芳郎・福富 譲訳『人間発達の生態学(エコロジー)―発達心理学への挑戦』川島書店) クロスマーケティング(2020)「新型コロナウイルス生活影響度調査(第10回)」   https://www.cross-m.co.jp/report/health/20200831corona/(2020年11月5日閲覧) 厚生労働省自殺対策推進局(2020)「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/ jisatsu/jisatsu_new.html(2020年11月5日閲覧) 文部科学省(2009)「子供の育ちをめぐる現状等に関するデータ集」 mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2009/ 03/09/1236114_3.pdf(2020年11月5日閲覧) 落合恵美子・鈴木七海(2020a)「睡眠時間激減…在宅勤務で『子どものいる女性の負

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担増』という現実 在宅勤務緊急調査報告⑴」『現代ビジネス』講談社  https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72531(2020年11月5日閲覧) 落合恵美子・鈴木七海(2020b)「コロナ調査でわかった『家族関係が良くなった人, 悪くなった人』在宅勤務緊急調査報告⑵」『現代ビジネス』講談社  https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72551(2020年11月5日閲覧) 楽天インサイト(2020)「新型コロナウイルス影響下における『人生価値観』の変化・ 生活意識に関する調査」  https://insight.rakuten.co.jp/report/20200831/(2020年11月5日閲覧) 鈴木謙介(2013)『ウェブ社会のゆくえ 〈多孔化〉した現実のなかで』NHK ブックス ※本稿では兵庫県「ポストコロナ社会の具体化に向けた調査検討費補助事業」による調 査データを使用しています。調査協力をしてくれたインフォーマントのみなさんにお 礼を申し上げます。

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