土壌中の粘土量の簡易推定法による土壌調査―小学校・中学校における環境教育・防災教育での活用を目指して―
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(2) 44. 三好・肥田・喜多:土壌中の粘土量の簡易推定法による土壌調査. 容を組み合わせて,小学校・中学校で防災・減災の認. ここでカオリナイト(はくとう土),メチレンブルー. 識を深めるための理科教材を検討した.. は和光純薬製,モンモリロナイトはクニミネ工業のク. 我々は先に土壌の色と含まれる成分(腐植などの有. ニピア F を用いた.粘土鉱物として SiO2層と Al2O3層. 機物,鉄などの有色の無機イオン)に関する調査を. が,1:1構造でイオン交換能や保水性が乏しいカオ. 行った(三好・喜多,2016).土壌に含まれる粘土鉱. リナイトと2:1構造で保水性と陽イオン交換能に優. 物は,保水機能,陽イオン交換能,pH 緩衝能など有. れるモンモリロナイトは,土壌中に含まれる代表的な. 用な様々な性質を持つが,一方,化学的風化の進んだ. 粘土鉱物である.粘土鉱物の粉末中に含まれる空気を. 土壌中の粘土は,粘土層を形成し,雨水が粘土層上に. 除き,速やかに沈降させるために1%濃度に希釈した. たまると浮力により地すべりを起こすことが知られて. 家庭用台所洗剤100 mL を1000 ppm メチレンブルー水. いる(渡・小橋,1987).また六甲山系の天然水中の. 溶液100 mL に加えた.このメチレンブルーの量は予. Ca2+,Mg2+ 濃度測定から粘土生産量の多い場所を推. 備実験でモンモリロナイトの上澄みがかすかに青色に. 定し,山崩れを予知するという報告がある(北野,. 着色するが,無視できる量であることから決めた.そ. 2006).以上のように,地すべりと土壌中の粘土量に. れぞれの粘土鉱物1.00 g をこの洗剤を含むメチレンブ. は強い関係性がある.. ル ー 水 溶 液 200 mL に 加 え て よ く 振 り, 上 澄 み の. 本研究では土壌の陽イオン交換能(松中,2003). 663 nm における吸光度を測定した.吸着しないで上澄. に着目し,有色の陽イオンであるメチレンブルー(図. みに残ったメチレンブルーの量は,663 nm における上. 1)を用いて粘土層に着色することで,土壌中の粘土. 澄みの吸光度がメチレンブルーによるものとして,メ. 量を推定する方法を提案した.この方法は,小・中学. チレンブルーのモル吸光係数 ε =7.41×104 mol −1Lcm −1,. 校の地層のでき方を調べる実験に応用することができ. メチレンブルーのモル質量319.85 g/mol,溶液の体積. る.2018年7月に西日本豪雨で地すべりが起こった. 0.200 L から求めた.もともと1000 ppm メチレンブ. 岡山市北区半田山で表層の土壌を24箇所から採取し,. ルー100 mL はメチレンブルーを0.100 g 含んでいるの. 本研究で開発した方法で,その粘土量を推定した.良. で,これから上澄み中の残存メチレンブルー量を引い. 好な結果が得られたので小・中学校の環境教育・防災. て,粘土層に吸着したメチレンブルー量を求めた.ま. 教育の教材化を行った.. た,このプラスチックパイプを一晩放置し,パイプ中 の粘土層の高さを物差しで測定した. 表1の実験結果はモンモリロナイトがカオリナイト の約20倍陽イオン交換能が高いことを示しており,粘 土層1 cm 当たりでは約10倍となった.日本粘土学会 (2009)によれば,陽イオン交換容量(粘土1 kg 当た. 図1 メチレンブルー(青色). りのイオンのモル数にその価数を掛けたイオンの電荷 のモル数)は,カオリナイトで2–15,モンモリロナ. Ⅱ.粘土量推定法の検討 小学校6年生の理科で扱う「大地のつくり」の単元 にある地層ができる仕組みの実験(毛利ほか,2015) ならびに中学校1年生の理科の長い筒を用いて同様の 実験を行う教具を粘土量推定の方法として使用した. 小学校では空き瓶を使っているが,中学校のプラス チックの長い筒の方が粘土層の高さを測りやすいので, 長い筒を採用した.まず,純品として手に入る粘土鉱 物 を 用 い て, 透 明 な プ ラ ス チ ッ ク の パ イ プ( 内 径. イトで80–150となっており,本研究の結果とメチレ ンブルー吸着量の比が一致している. 表1 粘土鉱物1 g 当たりのメチレンブルー(MB)吸着量 とパイプ中の青色着色層の高さ メチレンブルー 青色着色の 粘土層1cm (MB) 粘土層の 当たりの 吸着量 (g) 高さ (cm) MB 吸着量 (g) カオリナイト 0.0049 1.6 0.0031 モンモリロナイト 0.1000 2.1 0.048. 20 mm,外径24 mm,長さ1 m,ケニス製 もののと け方実験用パイプ)中に粘土とメチレンブルーを入れ, 着色した粘土層の高さがどれだけになるかを検討した.. Ⅲ.岡山市北区半田山の土壌調査 2018年7月に起こった西日本豪雨の際に大規模な.
(3) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 45. 地すべりを起こした半田山の土壌中の粘土量を推定す. 図4に表2の第4欄の粘土層1 cm 当たりのメチレ. る目的で,24地点から土壌試料を100–200 g 採取した. ンブルー吸着量を縦にプロットするとモンモリロナイ. (図2).半田山で採取した土壌試料は,同じ地点で番. ト純品とカオリナイト純品の間に位置し,深さ15 cm. 号が違うものは地表から落ち葉などを除き,地表近く. から採取した土壌中にはモンモリロナイト型(2:1. と,15 cm 掘り下げて採取したもの2種類を採取して. 型)のスメクタイトを多く含むことが示され,表層土. いる.1地点1つのものは地表近くから採取した.採. 中ではモンモリロナイトとカオリナイトが同量程度含. 取の際に土壌の電気伝導度測定(テックジャム製 土. まれていると推定されるが,計算を簡略化するため,. 壌導電率計 KN3312150)を同時に行った.表層の電. 全ての粘土層がモンモリロナイトだと仮定して,表1. 気伝導度並びに深さ15 cm での電気伝導度を測定した.. のモンモリロナイト1 g が吸着するメチレンブルー量. 半田山で採取した土壌試料50 g をプラスチックパ. 0.1000 g の値を使ってそれぞれの試料50 g 中に含まれ. イプに入れ,1%合成洗剤溶液100 mL を加えてよく. る粘土量(g)を算出し,表2の第5欄に示した.. かき混ぜる.懸濁した溶液に1000 ppm のメチレンブ ルー水溶液を5 mL 加えてさらによく振り,上澄みに 青色が残っていなければさらに5 mL 加えてさらによ く振り,上澄みに青色が出てくるまでこれを繰り返す. この時点で上澄みに残ったメチレンブルーの濃度を吸 光度から求め,50 g の土壌試料に吸着したメチレン ブルー量を求めた.この後,粘土層の沈降を早めるた めに,10%ミョウバン水溶液を10 mL 加えると,粘土 コロイドがすみやかに凝析するので(1–2時間),青 色着色の粘土層の高さを物差しで測る. 図3に表2の第2欄の青色着色の粘土層の高さと第 3欄のメチレンブルー吸着量をプロットすると,良い 直線性が見られることより,メチレンブルーのほとん どは粘土鉱物に吸着していると言える.. 図3 粘土層の高さとメチレンブルー吸着量. 図2 岡山市北区半田山の土壌採取地点(国土地理院のデジタル地図に著者が書き込み,地点13と14の間の灰色で塗りつぶし た箇所が地すべり地点).
(4) 46. 三好・肥田・喜多:土壌中の粘土量の簡易推定法による土壌調査. 表2 プラスチックパイプ中の青色着色粘土層の高さとメチ レンブルー(MB)吸着量 青色 採取地点 着色の H: 表面 粘土層の D: 深さ 高さ 15 cm (cm) 1D 6.6 2H 0.2 3D 5.5 4D 7.0 5H 3.0 6D 8.5 7D 6.5 8D 8.1 9H 2.5 10D 6.0 11D 7.0 12H 3.0 13D 8.8 14D 11.0 15D 7.5 16H 2.5 17D 3.5 18D 3.2 19D 2.2 20H 0.7 21D 1.8 22H 2.0 23D 5.0 24H 2.0. メチレン 粘土層 試料 採取地点 ブルー 1 cm 50 g 中に での (MB) 当たりの 含まれる 電気 吸着量 MB 吸着 粘土量 伝導度 (g) 量 (g) (g) (mS/m) 0.15 0.023 3.10 1.04 0.01 0.045 0.10 0.09 0.14 0.025 2.62 0.82 0.29 0.041 3.33 1.01 0.10 0.033 1.42 0.49 0.28 0.033 4.05 1.22 0.25 0.038 3.10 1.00 0.28 0.035 3.86 1.39 0.28 0.040 1.19 0.41 0.24 0.040 2.85 1.03 0.22 0.031 3.33 1.02 0.09 0.030 1.42 0.50 0.32 0.036 4.19 1.61 0.34 0.031 5.24 1.69 0.26 0.035 3.57 1.31 0.07 0.028 1.19 0.40 0.09 0.026 1.67 0.51 0.09 0.028 1.52 0.39 0.08 0.036 1.05 0.29 0.02 0.029 0.33 0.10 0.05 0.028 0.86 0.21 0.05 0.025 0.95 0.40 0.17 0.034 2.38 0.39 0.06 0.030 0.95 0.31. 図4 粘土層1 cm 当たりのメチレンブルー吸着量. 表2の第5欄の粘土量と土壌の電気伝導度(表2の 第6欄)を図5に示した.電気伝導度は,採取地点 (表層と深さ15 cm)に突き刺して簡単に測定できる. これらは R2=0.941の良い直線性を示し,土壌の電気 伝導度を測ることによって土壌中の粘土量を推定する. 図5 粘土量と電気伝導度の関係. ことができることを示唆している.例えば電気伝導度 が1 mS/m であれば,土壌試料50 g 中に約1 g の粘土鉱 物を含むと推定できる. 図6に半田山の採取地点の土壌50 g 中の粘土量(g) を棒グラフで示した.岡山市半田山での24地点の土 壌中の粘土量が最も多かった場所は2018年の西日本 豪雨で地すべりを起こした周辺(地点13と地点14の 間で灰色で塗りつぶした箇所)と一致した.地点13 と14は地すべりによって現れた土壌試料ではなく,直 接の地すべりが起こっていない周辺の表層土の深さ 15 cm の土壌試料である. 土壌導電率計があれば迅速に土壌試料中の粘土量を. 図6 半田山採取地点における50 g 中の土壌中の粘土量(g).
(5) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 47. 推定できる.導電率計がない場合でもメチレンブルー で粘土層を着色すれば,土壌試料中の粘土量を推定で き,地すべりが起きやすい地域を予測することも可能 であると考えられる.中学校では物理的風化が風化と して扱われており,化学的風化は扱われていないが, 高校地学(磯崎ほか,2013)では石灰岩の化学的風 化により,Ca2+イオンが溶出すること,花崗岩などの カリ長石(正長石)が化学的風化によりカオリンを生 成する際に,K + が生じることが記載されている.北 野(北野,2006)によれば,斜長石からモンモリロ ナイトが化学的風化で生成する際に Ca2+,Na + が溶 出することが知られている.中学校理科の「水溶液と イオン」でイオンの存在によって水溶液に電気が流れ ることが扱われており(岡村ほか,2015d),これを 関連させて,図5の結果は,粘土生成の過程(化学的 風化)で生じた Ca2+,Mg2+,K +,Na +によって,粘 土量の多い土壌が高い電気伝導度を示していると解釈. 図7 降雨による地すべりモデル. できる. Ⅳ.調査結果を活用した教材化. 続いて,粘土量の測定を防災に関連付けることがで. 1.降雨による地すべり. きる.. 斜面の表層付近では,粘土層があると水が浸みこみ にくいため,水と一緒に粘土層の上に載った表層土が,. 3.発展. 水による浮力によって流れていく.このメカニズム. 図5の測定結果を示し,土壌の電気伝導度と粘土量. (注1)を提示したあと,理解を深めるため,降雨によ. の相関について,岩石の化学的風化により粘土が生成. る地すべりモデルを使って演示実験を行った.斜度. するときに,イオンが生じることに触れ,イオン量が. 10° のプラスチックの粘土板に,中央部にくぼみを. 多いほど電気が流れやすいことから,粘土量が推定で. 作った粘土を敷き,1 cm ×1 cm ×1 cm のプラスチッ. きることを説明することも可能であろう.. クブロックを数個置く.ここに上部からゆっくり水を 流して,プラスチックブロックが流されるようすを観. Ⅴ.結論. 察できるようにした(図7).地すべりを起こす水の. 実際に西日本豪雨で地すべりが起こった地点を中心. 浮力については,中学校理科で「水中の物体にはたら. に採取した多数の土壌試料を用いて,地層形成の観察. く力」(文部科学省,2018c)として学習する.. 実験を行った.メチレンブルーを加えることにより粘 土層を可視化し,また,少量の10%ミョウバン水溶. 2.粘土量の測定 粘土量を測定するために,土壌をペットボトルに取 り,メチレンブルー水溶液を加えてよく振り混ぜ,静. 液の添加により,粘土の沈降を速くすることで,授業 時間内に粘土層の高さを物差しで測定することが可能 となった.. 置する.青色に着色した粘土層の様子を観察し,粘土. より簡便な方法としては試料採取場所で直接電気伝. 層の厚さを測定できることを確かめる教材とした.. 導度を測定することによっても,粘土量が推定できる. 2018年7月の西日本豪雨における半田山の地すべり. 2+ 2+ ことを明らかにできた.化学的風化による Ca ,Mg ,. 災害を例に示し,図2と図6から,降雨量が大きくな. K +,Na + の生成は高校地学の内容となるが,イオン. ると粘土層が多い場所で災害が発生しやすいことがわ. の量が多いほど電気が流れやすいことは中学校のイオ. かる.「1.の降雨による地滑りモデル」の活動に. ンの学習と結びつけて扱うことが可能である.短時間.
(6) 48. 三好・肥田・喜多:土壌中の粘土量の簡易推定法による土壌調査. で多数のデータをとったり,地すべりの起こりやすい 場所を予測したりするには土壌導電率計が有効である. 粘土層のメチレンブルーによる可視化は,小学校では 様々な土壌試料(例えば,学校菜園の土,校庭の土, 砂場の砂,水田の土など)を空き瓶に入れてメチレン ブルーの入った色水を加えてよく振り,静置すること により,青色に着色した泥(粘土層)が最上部に堆積 することを観察することで粘土量の違いを確認できる. これが地すべりとも関係していることを伝えることが できる.中学校では,浮力とも関連させて,降雨によ り,地すべりが誘発されることも扱うことが可能で ある. 謝辞 本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金 (課題番号 JP16K00965)の助成を受けて行われたもの である. 注1:日本地すべり学会のホームページ https://japan.landslide-soc.org/for_general.html にある NHK の 動画「地すべりの現地実験」 h t t p s : / / j a p a n . l a n d s l i d e - s o c . o rg / i m a g e s / i l l u s t m ov i e / NHKExperiment.mp4ならびに「地すべりのイメージ」 h t t p s : / / j a p a n . l a n d s l i d e - s o c . o rg / i m a ge s / i l l u s t m ov i e / landslideimage.mp4(2020年6月14日参照)を提示した.. 文献 磯崎行雄・江里口良治ほか10名(2013):地学,新興出版 社啓林館,108–109. 北野康(2006) :改訂版 化学の目で見る地球の環境―空・. 水・土―,裳華房,103–109. 三好美恵,喜多雅一(2016):土の黒さ(腐植量と鉄含有 量)に関する研究とその教材性の検討,兵庫教育大学 教育実践学論集,17, 235–242. 文部科学省(2018a):小学校学習指導要領(平成29年告 示)解説理科編,学校図書,10–11. 文部科学省(2018b) :中学校学習指導要領(平成29年告 示)解説理科編,学校図書,大地の成り立ちと変化80– 81,自然の恵みと気象災害97–98,自然と人間109–113. 文部科学省(2018c):中学校学習指導要領(平成29年告 示)解説理科編,学校図書,53. 毛利衛・黒田玲子ほか32名(2015):新編新しい理科6, 東京書籍,113–114. 日本粘土学会編(2009):第三版 粘土ハンドブック,技 報堂出版,125. 岡村定矩・藤島昭ほか49名(2015a):新編新しい科学1, 東京書籍,31. 岡村定矩・藤島昭ほか49名(2015b):新編新しい科学1, 東京書籍,32. 岡村定矩・藤島昭ほか49名(2015c):新編新しい科学1, 東京書籍,257–263. 岡村定矩・藤島昭ほか49名(2015d):新編新しい科学3, 東京書籍,2–15. 渡正亮・小橋澄治(1987):地すべり・斜面崩壊の余地と 対策,山海堂,33. (受付日2020年7月12日;受理日2020年12月1日) 〔問い合わせ先〕. 〒791-3502. 愛媛県喜多郡内子町寺村557番地 内子町立小田中学校 三好 美恵 e-mail: [email protected].
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