〈論説〉著作権侵害訴訟における差止請求の範囲
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(2) 著作権 侵害訴訟におけ る差止 請求の範囲. 方 式 は,わ が 国 の 知 的 財 産 法 に共 通 す る もの で あ る(特 許 法100条,実 法27条,意. 匠 法37条,商. 著 作 権 法112条2項. 標 法36条,不. 用新 案. 正 競争 防止 法3条)。. で命 じ られ る 内容 は広 い範 囲 に及 ぶ こ とが 考 え られ るが,. どの よ うな 基 準 に基 づ いて 定 め られ るの で あ ろ うか。 特許 に関 す る事 件 で あ る が,最 高 裁 は この 点 に関 し,「特 許 法100条2項. が,特 許 権 者 が 差止 請 求権 を行. 使 す る に際 し請 求 す る こ とが で き る侵害 の 予 防 に必 要 な 行為 と して,侵 害 の行 為 を 組成 した物(物. を生 産 す る方 法 の特 許 発 明 にあ って は,侵 害 の行 為 に よ り. 生 じた物 を含 む。)の 廃 棄 と侵害 の 行 為 に供 した 設 備 の 除却 を 例 示 して い る と こ ろか らす れ ば,同 項 にい う 『侵 害 の 予 防 に必 要 な行 為 』 とは,特 許 発 明 の 内 容,現 に行 わ れ又 は将 来 行 わ れ るお そ れ が あ る侵 害 行 為 の態 様 及 び特 許 権 者 が 行 使 す る差 止 請 求 権 の具 体 的 内容 等 に照 ら し,差 止 請 求 権 の行 使 を実 効 あ ら し め る もの で あ って,か つ,そ れ が差 止 請 求 権 の実 現 の た め に必 要 な範 囲 内 の も の で あ る こ とを 要 す る もの と解 す るの が 相 当 で あ る。」1)と 述 べ て い る。 そ し て この法 理 は,著 作 権 法 等 に も該 当す る と され て い る2)。 実 際 の事 件 に お い て は,具 体 的 な差 止 請 求 の 内容 を請 求 の趣 旨や判 決 主 文 に 記 載 す る こ とは不 可 欠 で あ り,場 合 に よ って は必 ず し も容 易 な作 業 で は な い こ と も少 な か らず あ る よ うに思 わ れ る。 しか し多 くの事 件 で は,請 求 の趣 旨 や判 決 主 文 の あ り方 につ い て慎 重 に検 討 さ れ る こ とは な く,慣 例 や前 例 に した が っ て記 載 され て い る の で は な い で あ ろ うか 。 本 稿 は,著 作 権 法 を対 象 と して,差 止 請 求 を どの よ うに請 求 の趣 旨 や判 決 主 文 に表 示 す るべ きか につ い て,い か の事 例 を通 じて 考 察 を行 う もので あ る。. 1)最. 判 平 成11年7月16日. 2)高. 部 眞 規 子 「最 高 裁 判 所 民 事 判 例 解 説 平 成11年 度(下)」518頁. 民 集53巻6号957頁,963頁[生. 一54一. 理 活 性 物 質 測 定 法 事 件 コ。 。. くつ.
(3) 法科大学院論集. 2差. 第10号. 止請求の範囲. 以 下 で は,具 体 的 な 事 件 を 通 じて 差止 請 求 の 範 囲 に つ い て 考 察 を 加 え る。請 求 の 趣 旨 と判 決主 文 は 本 来 対 応 す る もの で あ るが,実 際 の事 件 に お い て は請 求 の趣 旨は 判決 主 文 よ り広 い もの を 求 め る場 合 も多 く見 受 け られ るた め,判 決主 文 を 中心 とす る こ とに な る。 典 型 的 な事 例,た. とえ ばDVDに. 収 録 さ れ た 映画 の著 作 物 を無 断 で複 製 販 売. した よ うな場 合 に は,判 決 主 文 は以 下 の よ うな もの とな る: 1被. 告 は,別 紙 被 告 商 品 目録 記 載 のDVD商. 品 を複 製 し,頒 布 して は な ら. な い。 2被. 告 は,前 項 記 載 の商 品 の在 庫 品及 び そ の原 版 を廃 棄 せ よ。. 主 文1が 不 作 為 請 求,主 文2が 廃 棄 請 求 で あ る。. (D不. 作為請求の範囲. 書 籍 の 一 部 が 他 人 の 著 作 物 の 著 作 権 を侵 害 す る場 合 は多 く生 じる。 ① 東 京 高 判 平 成12年4月25日[ゴ. ー マ ニ ズ ム宣 言 事 件]3)は,原. 告 の書i籍. (政治 的 問題 等 に対 す る主 張 な どを含 む漫 画)に 対 す る反 論 と して 作 成 され た 被 告 書 籍 に対 す る差 止 請 求 と損 害 賠 償 請 求 が され た 事 例 で あ る。 被 告 書 籍 は,原 告 書 籍 か ら多 くの カ ッ ト(コ マ 割 り)を 複 製 した ほ か,(人 物 の 特 定 を 防 ぐ 目 的 で)登 場 人物 の 目に黒 線 を 入 れ るな どの 修正 を加 え た た め,原 告 は 複 製権 や 同一 性 保 持 権 の 侵害 を主 張 した。 原 審 は原 告 の請 求 を棄 却 した が,控 訴 審 で あ る本 件 は,カ. ッ トの配 置 が一 箇所 変 更 され て い る点 に つ い て 同一 性 保 持権 の侵. 害 を認 め,被 告 書 籍の 出版 の 差 止 を 認 めた 。 判 決 主 文 は,「被 控 訴 人 らは,原 判. 3)判. 例 時 報!724号124頁. 。. 一55一.
(4) 著作権侵害訴訟 における差止請求 の範囲. 決 別 紙 採 録 状 況(30)に. 示 され る漫 画 の カ ッ トを含 む原 判 決 別 紙 被 控 訴 人 書 籍. 目録 記 載 の書 籍 を 出版,発 行,販 売,頒 布 して は な らな い。」 と命 じる。 これ は,書 籍 の一 部 が他 人 の著 作 物 の著 作 権 を侵 害 す る場 合 に一 般 的 な判 決 主 文 で あ る とい え る。 な お,た. とえ ば 「被 告 は,別 紙 目録 記 載 の図 を含 む別 紙. 書 籍 目録 記 載 の書 籍 を 出版 して は な らな い。」 との 表現 に 代 え て,「 被 告 は,別 紙 目録 記 載 の 図 を削 除 しな い 限 り別 紙 書 籍 目録 記 載 の書 籍 を 出版 して は な らな い。」 とい う表 現 が 用 い られ る場 合 もあ る。 ② 那 覇 地 判 平 成20年9月24日[写. 真 で見 る首 里 城 事 件]4)は,や. は り書 籍 中. の ご く一 部 の 著 作 権 侵 害 が 問 題 とな った 事 例 で あ る。 写 真 家 で あ る 原 告 は, フ ォ トラ イ ブ ラ リー を営 む被 告1に 入 社 し取 締 役 にな った が,入 社 前 に撮 影 し た写 真 を持 ち込 ん で 登 録 し,ま た入 社 後 も撮 影 を続 けた 。 原 告 の 退 職 後,被 告 1は 首 里 城 等 を写 真 と文 章 で 紹 介 す る写 真 集 を編 集 ・制 作 し,調 査 研 究 や 国 営 公 園 等 の維 持 管 理 を 目的 とす る財 団 で あ る被 告2が 監 修 ・発 行 した 。 写 真 集 に は177点 の写 真 が掲 載 さ れ て い た が,そ の うち1点 が,原 告 が 入 社 前 に撮 影 した 写 真 で あ り,職 務 著 作 が成 立 しな い もの で あ った。 原 告 は,被 告 ら に対 し,「被 告 らは,別 紙 書 籍 目録 記 載 の 書 籍 か ら別 紙 削 除 写 真 目録 記 載 の 各 写 真 を 削 除 し な い 限 り,同 書 籍 を 複 製 し又 は 販 売 して は な らな い。」 との 差 止 請 求 の ほ か, 損 害 賠 償 と謝 罪 広 告(氏 名 表 示 権 の 侵 害 を 理 由 とす る)の 掲 載 を 求 め て 訴 え を 提 起 した 。 裁 判 所 は,著 作 権 の 侵 害 を 認 定 した もの の,以 下 の よ うな理 由 の も と,差 止 請 求 につ い て は権 利 濫 用 で あ る と して 認 め な か った5): (1)本 件 に お い て著 作 権 等 の侵 害 とな る写 真 は原 告 が 撮 影 した1点 の み で, 原 告 に生 じる損 害 の 金 額 は 極 少 額 で あ る一 方,同 請 求 を認 め る とき は,被 告 ら にお い て,既. に多 額 の 資 本 を 投 下 して 発行 済 み の 本件 写 真 集 を販 売 等. 4)判. 例 時報2042号95頁. 5)本. 件 の結 論 に反 対 す る もの と して,三. 巻5号(2013)27頁,37頁. 。 山 峻 司 「侵 害 行 為 の是 正 と執 行 に 関 す る 問題 」 パ テ ン ト66. 。 フ ェア ユ ー ス の文 脈 の 中 で言 及 す る もの と して 田村 善 之 「日本 版 フ ェ. ア ユ ー ス導 入 の意 義 と 限界 」 政 策 学研 究32号(2010)1頁. 一56一. 。.
(5) 法科大学院論集. 第10号. す る こ とが で き な くな る と い う重 大 な不 利 益 が生 じる こ と。 (2)本 件 写 真 は,本 件 写 真 集 の最 終 頁 で あ る沖 縄 県 内 の他 の世 界 遺 産 を紹 介 す る頁 に掲 載 され た,9点 大 き さ は縦4cm,横5cm程 写 真 集 の 全 体 がB5版95頁,掲. の写 真 の う ち の1つ にす ぎず,そ. の掲 載 部 分 の. 度 と頁 全 体 の 大 き さ に比 して 極 小 さ く,本 件 載 した写 真 の 点 数 延 べ177点 で あ る の に比. して,極 小 さ い割 合 を 占 めて い る にす ぎな い もの で あ る こ と。 (3)本 件 写 真 集 に本 件 写 真 が 掲 載 され た の は,単 に本 件 第3版 の 内 容 を 維 持 した か ら にす ぎず,本 件 第3版 の 制 作 に は原 告 も担 当 者 と して 深 く関与 し て い た こ と。 (4)本 件 第3版. には 当 初 座 喜 味城 跡 の航 空 写 真 を 使 用 す る予 定 で あ った と こ. ろ,当 時本 件 第3版 の 制 作 作業 を 担 当 して い た 原告 が,被 告 財 団 の 担 当者 と協 議 しな が ら,掲 載 す る写 真 を本 件 写 真 に した もの で あ って,原 告 は, 本 件 第3版 の制 作 当 時 な い し退 職 前 の 時 点 に お い て,本 件 第3版 以 降 の写 真 集 「写 真 で見 る首 里 城 」 の改 訂 版 に も引 き続 き本 件 写 真 が掲 載 さ れ る こ とを意 欲 して い た と も推 認 す る こ とが で き る こ と。 (5)本 件 初 版,本 件 第2版 及 び本 件 第3版. が いず れ も増 刷 さ れ て お らず,本. 件 写 真 集 が さ らに 出版 さ れ る可 能 性 が小 さ い こ と も併 せ 考 えれ ば,原 告 の 被 告 らに対 す る差 止 め請 求 は,権 利 の濫 用 で あ っ て許 され な い と い うべ き で あ る。 特 許 法 の領 域 に お いて は,近 時,差 止 請 求 権 の 制 限 につ いて の 検 討 が 行 わ れ て い る6)。 そ こ で は,(1)い わ ゆ る 「パ テ ン ト トロー ル」7)に よ り差止 請 求 が な. 6)産. 業 構 造 審 議 会 知 的 財 産 政 策 部 会 特 許 制 度 小 委 員 会 「差 止 請 求 の在 り方 」(2010年10月)お. 同 「特 許 制度 に 関 す る法 制 的 な課 題 に つ い て」(2011年2月)。. 別 冊 パ テ ン ト10号(パ. よび. テ ン ト66巻5. 号)「 知 的 財 産 権 侵 害 に 基 づ く差 止 請 求 権 を 巡 る 諸 問 題 」 に は こ の点 に 関 す る 多 くの 論 稿 が 掲 載 さ れ て い る。 7)た. とえ ば あ る企 業 の使 用 す る技 術 に対 応 す る休 眠特 許 を探 し出 して取 得 し,そ の企 業 に対 し特 許. 権 侵 害 訴 訟 を起 こす よ う な場 合 。. 一57一.
(6) 著作権侵害訴訟 における差止請求の範囲. さ れ る場 合,(2)標 準 技 術 に お け る ホ ー ル ドア ップ8)を 引 き起 こす 差 止 請 求 が な さ れ る場 合,(3)製 品 に対 す る寄 与 度 の低 い特 許 に基 づ い て差 止 請 求 が な され る 場 合,の3つ. が 示 さ れ て い る。 本 件 が こ の よ うな流 れ に何 らか の関 連 を有 す る. もの で あ るか は明 らか で な く,ま た写 真 の掲 載 に原 告 が関 与 して い た と い う事 情 が あ る もの の,斬 新 な判 断 で あ る こ と は確 か で あ る。 な お,著 作 権 侵 害 に お け る差 止 請 求 に関 して は,著 作 権 は物 権 的 構 成 が 取 られ て お り,侵 害 の成 立 に は主 観 的 要 件 を 必 要 とせ ず,侵 害 が あ れ ば112条1項. の差 止 請 求 が 認 め られ る. のが 当然 と考 え られ て い る こ と につ い て,「 著 作 権 の物 権 的 構 成 は物 権 法 の 借 用 概 念 で あ り,立 法 論 と して 著 作 権 は物 権 的 構 成 以 外 に あ りえ な い と い う もの で はな い。 … … つ ま り現 状 で は,物 権 的 構 成 を す る こ とが 最 も便 宜 に適 して い る と い う にす ぎず,差 止請 求 権 が な い著 作 権 が 出現 した と して も,理 論 上 は背 理 と は いえ な い。」 とい う見 解9)が 存 在 す る。 著 作 権 法 の領 域 にお いて も,差 止 請 求 権 の 制 限 に関 す る議 論 が 生 じえ な いわ けで はな く,今 後 の 動 向 に は注意 が 必 要 で あ る と思 わ れ る。 ③ 東 京地 裁 平 成15年12月17日[音. 楽 フ ァイル 交 換 事 件 第1審 判 決]10)は,不. 作 為 請 求 の 内容 に つ い て 限 定 を加 え る とい う点 に お いて 参 考 に な る事 例 で あ る。 本 件 は,被 告 が 開設 した ピア ・ツー ・ピア方 式 に よ る電 子 フ ァイ ル の交 換 に 関 す る サ ー ビス につ い て,日 本 音 楽 著 作 権 協 会 が訴 え を提 起 した もの で あ る。 本 件 に お け る ピア ・ツー ・ピア(P2P)と. は,Webの. よ うに サ ー バ ー か ら. デ ー タ を取 得 す るの で は な く,個 々の ユ ー ザ のパ ソ コ ン同士 で デ ー タ を や り取 りす る方 式 を い う。 個 々 の ユ ー ザ は被 告 の配 布 す る ソ フ トを イ ンス トー ル す る こ と に よ り,自 分 の パ ソ コ ンの 中 に あ るMP3と. 8)た. と え ば 通 信 規 格 が 定 ま っ た あ とで,当. 該 通 信 に 使 用 さ れ る 技 術 につ き そ れ まで 知 られ て いな. か っ た特 許 権 を主 張 す る よ う な場 合 。 9)中 10)判. 山信 弘 『著 作 権 法 』(2007年 例 時 報1845号36頁,判. い う形 式 に 圧 縮 した(音 楽). ・有 斐 閣)470頁. 。. 例 タ イ ム ズ1145号102頁 。. 一58一.
(7) 法科大学院論 集. 第10号. デ ー タ の フ ァ イ ル 名 を 被 告 の サ ー バ ー に送 信 す る。 被 告 の サ ー バ ー は,ど. のパ. ソ コ ン に ど の よ う な フ ァ イ ル 名 の デ ー タ が あ る か を 取 得 ・蓄 積 し て お り,ユ. ー. ザ が 検 索 し て 希 望 す る(楽 曲 名 の)フ. ー. ァイ ル を 持 つ パ ソ コ ン を 知 っ た 後 は,ユ. ザ 同 士 で フ ァ イ ル の 交 換 を 行 う も の で あ る。 被 告 自身 は 音 楽 フ ァ イ ル の 送 受 信 に 直 接 関 与 し な い の で,被. 告 が 著 作 権 侵 害 の 主 体 と な る か が 争 わ れ た が,中. 判 決11)に よ っ て こ れ が 認 め ら れ た 。 本 件 は,そ あ る。 不 作 為 請 求 に つ い て,原. (MPEG1オ. れ を踏 ま え て され た終 局 判 決 で. 告 は 「被 告 有 限 会 社 日 本 エ ム ・エ ム ・オ ー は,. 別 紙 楽 曲 リ ス ト記 載 の 各 音 楽 著 作 物 に つ き,自 グ 』(FileRogue)と. 間. 己 が 運 営 す る 「フ ァ イ ル ロ ー. い う 名 称 の 電 子 フ ァ イ ル 交 換 サ ー ビ ス に お い て,MP3. ー デ ィ オ レ イ ヤ ー3)形. 式 に よ って 複 製 さ れ た 電 子 フ ァイ ル を送. 受 信 の 対 象 と し て は な ら な い 。」 と の 判 決 を 求 め た 。 こ れ に 対 し て 判 決 主 文 は 「被 告 有 限 会 社 日 本 エ ム ・エ ム ・オ ー は,被 が. 『フ ァ イ ル ロ ー グ 』(FileRogue)と. サ ー ビ ス に お い て,送 を 示 す,利. 告 有 限 会 社 日本 エ ム ・エ ム ・オ ー. い う名 称 で 運 営 す る 電 子 フ ァ イ ル 交 換. 受 信 可 能 の 状 態 に され た 電 子 フ ァイル の 存 在 及 び内 容 等. 用 者 の た め の フ ァイ ル 情 報 の う ち,フ. ァイ ル 名 及 び フ ォル ダ名 の い. ず れ か に 別 紙 楽 曲 リス トの 『原 題 名 』 欄 記 載 の 文 字(漢. 字,ひ. らが な,片. 仮名. 並 び に ア ル フ ァ ベ ッ トの 大 文 字 及 び 小 文 字 等 の 表 記 方 法 を 問 わ な い。)及 び 『ア ー テ ィ ス ト』 欄 記 載 の 文 字(漢. 字,ひ. ら が な,片. 仮 名 並 び に アル フ ァベ ッ. トの 大 文 字 及 び 小 文 字 等 の 表 記 方 法 を 問 わ な い 。 姓 又 は 名 の い ず れ か 一 方 の み の 表 記 を 含 む 。)の 双 方 が 表 記 さ れ た フ ァ イ ル 情 報 に 係 る,MP3(MPEG1 オ ー デ ィ オ レ イ ヤ ー3)形. 式 に よ って 複製 され た 電子 フ ァイ ル を送 受 信 の対 象. と し て は な ら な い 。」 と い う も の で あ っ た 。 難 解 な 主 文 で あ る が,簡 え ば,別. 略化 して言. 紙 楽 曲 リ ス トに 基 づ い て 音 楽 フ ァ イ ル ら し い と思 わ れ る フ ァ イ ル 名 の. もの に対 象 を 限定 した とい う こ とで あ る。 裁 判 所 が主 文 を この よ うな 内容 にす. 11)東. 京 地 判 平 成15年1月29日[音. 楽 フ ァ イル 交 換 事 件 中 間判 決]判. ズ1113号113頁 。. 一59一. 例 時 報1810号29頁,判. 例 タイム.
(8) 著作権侵害訴訟における差止請求の範囲 るに あ た って,ま ず原 告 の請 求 の趣 旨を 「単 に,原 告 が著 作 権 を有 す る本 件 各 管理 著 作 物 を複 製 した電 子 フ ァイ ル を送 受 信 の対 象 とす る行 為 につ い て,そ の 不 作 為 を 求 め る もの で あ って,法 律 が一 般 的,抽 象 的 に禁 止 して い る行 為 そ の もの に つ い て,そ の不 作 為 を求 め る こ と と何 ら変 わ らな い結 果 とな る こ と,上 記 請 求 を そ の ま ま認 め る と執 行 手 続 き に お け る差 止 め の対 象 に な るか 否 か の実 体 的 な判 断 を執 行 機 関 に ゆ だ ね る結 果 に な る こ と等 の理 由か ら,相 当 と いえ な い」 こ とを理 由 と して否 定 した。 ま た本 件 の よ うな事 例 で は,送 信 可 能 化 され て い る個 々 の フ ァイ ル は 時 々刻 々 と変 更 され る こ と等 を理 由 に,差 止 め の対 象 とな る被 告 エ ム ・エ ム ・オ ー の行 為 を厳 格 に特 定 す る こ と は不 可 能 で あ る と し た。 そ こで,本 件 サ ー ビス の利 用 者(送 信 者)がMP3フ を付 す 場 合,他. ァイ ル に フ ァイ ル 名. の利 用 者(受 信 者)が 電 子 フ ァイル の 内容 を認 識 し得 る よ うな. フ ァイル 名 を付 す る こ とが一 般 的で あ る と認 め られ る こ とか ら,主 文 に記 載 し た よ うな標 記 を行 うこ とが 推 認 され,そ の よ うな 名 称 の フ ァイ ル を 用 いた もの を送 受 信 行 為 と して 特 定 す る のが 最 も実 効 性 が 高 い方 法 で あ る と いえ る と して 採 用 した。. (2)廃 棄 請 求 の 範 囲 不 作 為 請 求 の 主 文 は,支 分 権 を 基 礎 とす るた め 一 定 の 範 囲 内 にお さ ま るの に 対 して,廃 棄 請 求 は 自 由 度 が 高 い た め,そ の 内 容 に は い っそ う の注 意 を要 す る12)。 ④ 東 京 地 判 平 成13年1月23日[ふ. い一 る どわ 一 く多 摩 事 件]13)は,原. 告 の著. 作 物 で あ る書 籍 お よび 原 稿 の 一 部 を,被 告 らが そ の 発行 す る書籍 に無 断 で使 用 した と主 張 し,原 告 が 複 製 権,氏 名 表 示権,同. 12)こ. 一 性 保持 権 の 侵害 を主 張 して被. の分 野 に お け る 先駆 的 な業 績 と して,田 村 善 之 「知 的財 産 権 侵 害 訴 訟 に お け る過 剰 差 止 め と抽. 象 的差 止 め(上)・(下)」 13)判 例 時報1756号139頁. ジ ュ リス ト1224号(1997)89頁 。. 一60一. ・1225号(1997)129頁. 。.
(9) 法科大学院論集. 第10号. 告 に対 して訴 え を 提 起 した もの で あ る。 裁 判 所 は原 告 の請 求 を 認 容 し,「 被 告 らは,別 紙 書 籍 目録 記 載 の 書 籍 につ き,印 刷,製 本,販 売 及 び頒 布 を して はな らな い。」 との差 止 請 求 と並 ん で,「 被 告 ら は,同 目録 記 載 の 書 籍. 書籍の半製. 品 及 び同 書 籍 の 印 刷 の 用 に供 した 原 版 フ ィル ム を 廃 棄 し,同 書 籍 の 原 稿 の 電 磁 的 記 録 が入 力 され て い るMOデ よ。」 お よ び 「被 告 らは,同. ィス クそ の 他 の記 録 媒 体 か ら右 記 録 を消 去 せ. 目録 記 載 の書 籍 を,訴 外 株 式 会 社 地 方 ・小 出版 流. 通 セ ンタ ー か ら回収 して 廃棄 せ よ。」との 廃棄 請 求 を 認 容 した 。 一 般 に,書 籍 が 著 作権 を侵 害 す る場 合,た. とえ ば 「被 告 は,別 紙 第 一 目録 記 載 の絵 画 を撮 影 し. た フイ ル ム及 び右 絵 画 の 印刷 用 原 版 並 び に別 紙 第 二 目録 記 載 の書 籍 中 の右 絵 画 の 複 製 物 を掲 載 した 部 分 を廃 棄 せ よ。」14)とい うよ うに 侵 害 部 分 に つ いて の み 廃 棄 が命 じ られ る こ とが多 い。 しか し本 件 で は,書 籍 の半 製 品 や原 版 フ ィル ム の廃 棄 や記 録 媒 体 の消 去 を,部 分 を特 定 す る こ とな く命 じて お り,さ らに流 通 過 程 か らの 回収 と廃 棄 も命 じて い る点 も特 徴 的 で あ る と い え る。 侵 害 部 分 が 被 告 書 籍 の広 い範 囲 に渡 っ て い る こ と等 が理 由 で あ る と推 測 さ れ るが,侵 害 の認 定 が対 照 表 に よ って 行 わ れ て い る の で あ るか ら侵 害 箇 所 の特 定 は可 能 な はず で あ る こ と を考 え る と,廃 棄 請 求 をか な り広 く認 め た例 と いえ る で あ ろ う。 ⑤ 知 財 高 判 平 成24年1月31日[ロ. ク ラ ク2事 件 差 戻 控 訴 審]15)は,著. ク ラ ク2事 件 の 差 戻 控 訴 審 で あ る。 被 告 は,2台 「ロ ク ラ ク2」 の う ち1台(親. 機)を. て テ レ ビ放送 を 受信 し,他 の1台(子. 名な ロ. の ハ ー ドデ ィ ス ク レコー ダ ー. 日本 国 内 の 被 告 の管 理 す る場 所 に設 置 し 機)の 提供 を 受 けた 利用 者 は イ ンタ ー ネ ッ. ト通 信 を 通 じて 親 機 を 操 作 す る こ と に よ り,番 組 の 複 製 ・視 聴 が 可 能 と な る サ ー ビス を 提供 して い た。 テ レ ビ局10社 は,著 作 権 ・著 作 隣接 権 の侵 害 を主 張 し,差 止 等 を求 め て訴 え を提 起 した。 本 件 に お い て裁 判 所 は,廃 棄 請 求 と して. 14)東 京 地 判 昭 和59年8月31日[藤. 田 嗣治 事 件 第1審]判. 頁。 15)判. 例 時 報2141号117頁. 。. 一61一. 例 時報1127号138頁,判. 例 タ イ ム ズ532号261.
(10) 著作権侵害訴訟 における差止請求 の範囲 「控 訴 人(附. 帯 被 控 訴 人)は,別. 紙 物 件 目録 記 載 の 器 具 を 廃 棄 せ よ 。」 と 命 じて. い る 。 廃 棄 の 対 象 と な っ て い る の は,ロ は 機 器 類 の 廃 棄 は 珍 し く な い が,著. ク ラ ク2の. 親 機 で あ る。 特 許 の 事 件 で. 作 権 の領 域 で は機 器 類 につ いて 廃 棄 を 命 じ. る 例 は あ ま り 見 受 け ら れ な い 。 特 に 他 の 用 途 も あ り そ う な ハ ー ドデ ィ ス ク レ コ ー ダ ー だ け に,な. か なか 厳 しい 内容 で あ る と い う印 象 を 受 け る。. ⑥ 大 阪 高 判 平 成20年9月17日[デ. サ フ ィ ナ ー ド事 件 控 訴 審]16)は,ラ. 奏 等 が 行 わ れ る レ ス トラ ン カ フ ェ に 対 し,日 演 奏 権 侵 害 を 主 張 し て,演. 奏 の 差 止,楽. イ ブ演. 本音楽著作権協会が管理著作物の. 器 ・音 響 装 置 の 店 舗 か ら の 撤 去,楽. 器 ・音 響 装 置 の 搬 入 の 店 舗 へ の 搬 入 禁 止 を 求 め た 事 案 で あ る 。 本 件 で は,店 に お け る 演 奏 は 「ピ ア ノ 演 奏(ピ BGM)」,「 の4つ. 舗. ア ノ リク エ ス ト ・ピア ノ弾 き語 り ・ピア ノ. 本 件 店 舗 が 主 催 す る ラ イ ブ 」,「第 三 者 主 催 の ラ イ ブ 」,「貸 切 営 業 」. に 分 類 さ れ,前2者. につ いて 店 舗 側 の 責 任 が 認 め られ た 。 不 作 為請 求 も. 含 め た 判 決 主 文 は 以 下 の と お りで あ る(一 11審. 被 告 は,和 歌 山 市 所 在 のDに. 成4年8月1日. 部 名 称 を イ ニ シ ャ ル で 表 示 し た)。. お い て,原 判 決 別 添 楽 曲 リ ス ト2冊(平. 発 行 及 び 平 成17年10月20日. リ ク エ ス ト ・ ピ ア ノ 弾 き 語 り ・ ピ ア ノBGM」. 発 行)記 載 の 音 楽 著 作 物 を,「 ピ ア ノ に お け る 演 奏 及 び1審. の 入 場 料 を 徴 収 す る 「ラ イ ブ 」 に お け る 演 奏 で,次. 被告主催. の方 法 に よ り営業 の た め使. 用 して は な らな い 。 ア. 楽 器 奏 者 に ピ ア ノ,ウ. タ ー,ベ イ. ー カ ッ シ ョ ン,ギ. 歌 手 を して 歌 唱 さ せ る方 法 被 告 は,前. 31審. 被 告 は,(1)のDに,「. 16)判. ラ ム セ ッ ト,パ. ー ス 等 の 楽 器 演 奏 を さ せ る方 法. 21審. BGM」. ッ ドベ ー ス,ド. 項 のDか. に お け る 演 奏 及 び1審. 例 時 報2031号132頁. ら,ピ. ア ノ を撤 去 せ よ。. ピ ア ノ リ ク エ ス ト ・ピ ア ノ 弾 き 語 り ・ピ ア ノ 被 告 主 催 の 入 場 料 を 徴 収 す る 「ラ イ ブ」 に お け る. 。. 一62一.
(11) 法科大学院論 集. 演 奏 で,ピ. 第10号. ア ノ その 他 の 楽 器 類 を 搬 入 して はな らな い。. 本 件 で は,判 決 理 由 中 に廃 棄請 求 につ いて の 判 断 が述 べ られ て い る。 主 文2 は以 下 の 理 由か ら認 め られ た: (1)本 件店 舗 にお け る ピア ノ演 奏 で 演 奏 され た楽 曲 の ほ とん どは管 理 著 作 物 で あ った こ とが認 め られ るか ら,本 件 店 舗 に備 え置 か れ た ピア ノは,主. と して. 1審 原 告 の 演奏 権 を侵 害 す る管 理 著 作 物 の無 断演 奏 に使 用 され て い た と認 め ら れ る。 もち ろん,ピ ア ノは,本 来,管 理 著 作 物 以 外 の楽 曲 の演 奏 の用 に も供 し 得 る もの で は あ るが,現 実 の使 用 態 様 が主 と して管 理 著 作 物 の無 断 演 奏 に供 さ れ る もの で,そ の状 態 が今 後 も継 続 す る お そ れ が あ る場 合 に,1審. 原告 がその. 撤 去 を求 め る こ とは,本 件 店 舗 に お け る1審 被 告 に よ る演 奏 権 の侵 害 を停 止 又 は予 防す る た め に必 要 な行 為 に該 当す る。 (2)た. とえ1審 被 告 が現 時 点 に お い て は ピア ノ リク エ ス ト,ピ ア ノ弾 き語 り. 及 び ピア ノBGMを. 中止 して いた と して も,今 後,こ れ らの 演 奏 が 再 開 され れ. ば管 理 著 作 物 が 無 断 で 演 奏 され る お そ れ が あ る こ とは否 定 で きな い。 よ って, ピア ノ につ いて は,請 求 の趣 旨第2項 の 差 止 請 求 を 認 め る必 要 が あ る。 (3)ピ は,1審. ア ノ以 外 の 楽 器 や ミキサ ー,ア. ンプ,マ イ クな どの 音 響 装 置 につ い て. 被 告 に よ る管 理 著 作 物 の 利 用 行 為 に当 た らな い 貸 切 営 業 に も使 用 され. 得 る もの で あ るか ら,撤 去 まで 命 じる必 要 はな い とい うべ きで あ る。 また 判 決 主 文3が 認 め られ た こ と につ い て は,1審. 被 告 は,1審. 原告 が再 三. にわ た って 音 楽 著 作 物 利 用 許 諾 契 約 の 締 結 を 促 して も,こ れ に応 じな か った ば か りか,自. ら本 件店 舗 にお い て は 管理 著 作物 は 演奏 しな い とい う方 針 を 明 らか. に した 後 も,管 理 著 作 物 の 演奏 を 継続 して き た もの で あ り,こ の よ うな経 緯 に 照 らせ ば,1審. 被 告 が判 決 に よ り管理 著 作 物 の使 用 を差 し止 め られ て も,こ れ. に従 わ ず,ま た,ピ ア ノ を撤 去 さ れ て も,ピ ア ノ そ の他 の楽 器 を搬 入 して,管 理 著 作 物 の使 用 を継 続 す るお そ れ が高 い もの とい わ ざ る を得 な い こ と が理 由 と され て い る。 一63一.
(12) 著作権侵害訴訟 にお ける差止請求の範囲. 本 件 に お い て は,「 ピ ア ノ演 奏 」,「貸 切 営 業 」 な ど被 告 店 舗 に お け る管 理 著 作 物 の利 用 を詳 細 に分 析 し,そ れ に対 応 した差 止 請 求 を認 めて い る点 に特 徴 が あ る。 ま た 廃 棄 請 求 が この よ うに 詳 細 な理 由づ けの も と に認 め られ て い るの は,カ ラオ ケ装 置 とと もに ピア ノ の撤 去 を認 め た ま は ら じゃ事 件17)に 対 す る批 判18)を 踏 まえ た もの で あ るか も しれ な い。. 3差. 止 請 求 の あ り方. (1)不 作 為 請 求 の 範 囲 差 止 請 求 は,事 件 の 内 容 が 千 差 万 別 で あ るの に対 応 して,そ の 内 容 が 異 な る の は 当 然 の こ とで あ る。 しか し,著 作 権 侵 害 事 件 にお け る差 止 請 求 は,必 要 以 上 に多 様 な 印 象 を 受 け る。 不 作 為請 求 の 判 決 に お い て 考 慮 す べ き要 素 は,判 決確 定 後 も出 版 や 営 業 を 続 けよ う とす る被 告 に と って 判 決 が 明 快 な 基 準 を 提 示 して い るか ど うか と,被 告 が 判 決 の 内 容 に従 わ な い 場 合 の 強 制執 行 で あ ろ う。 被 告 の書 籍 の一 部 分 が 原告 の著 作権 を侵 害 して い るよ うな場 合,被 告 が 当該 部 分 を 除去 あ るい は修 正 して 書 籍 の 出版 を継 続 しよ う とす る こ とは十 分 に考 え られ る。 そ の場 合,ど. の よ うな実 施 行 為 で あ れ ば不 作 為 請 求 を命 じる判 決 の効. 力 を免 れ る の か が判 決 か ら読 み取 れ る必 要 が あ る。 この場 合 に注 意 しな け れ ば な らな い の は,不 作 為 請 求 の 強 制 執 行 が 間 接 強 制 に よ って 行 わ れ る こ と で あ る19)。間接 強 制 の場 合,執 行 の現 場 に お い て執 行 官 が執 行 の対 象 物 か ど うか を 17)高 松 地 判 平 成3年1月29日. 判 例 タ イ ム ズ753号217頁 。. 18)判 決 は 「被 告 …… は,右 店 舗 に設 置 され た ピ ア ノ及 び カ ラオ ケ装 置 の 機 器 全 部 を 同店 舗 内 か ら撤 去 せ よ。」 と命 じて お り,こ の 点 に つ い て 田 村 ・前 掲(注12(上))92頁. は,ピ. ア ノ は ク ラ シ ックな. ど著 作 権 の 問 題 を生 じな い音 楽 の 演 奏 に供 す る こ とが で き る ので そ の 撤 去 まで 認 めた こ とを 批 判 す る。 19)知. 的 財 産 事 件 の 間 接 強 制 につ いて 述 べ る もの と して,三. 実 務 ノー ト」 パ テ ン ト59巻2号(2006)61頁. 。 一64一. 山峻 司 「知 財 事 件 の強 制 執 行 につ い て の.
(13) 法科大学院論集 第10号 迷 う事 態 は発 生 しな い。 ま た,被 告(債 務 者)に 現 実 の 負 担 が発 生 す るの は 強 制 金 の取 立 て の段 階 で あ るの で,そ れ ま で に 被 告 は請 求 異 議 の 訴 え 等 に よ っ て,既 判 力 の基 準 時以 降 の状 況 の変 更 を主 張 して執 行 を免 れ る機 会 も十 分 に あ る と考 え られ る。 さ らに実 務 で は,間 接 強 制 申立 の 時 点 で不 作 為 義 務 に現 に違 反 して い る こ とは 支 払 予 告 決 定 の 発 令 要 件 と され て い な い20)と い う こ と な の で,こ の点 に お い て も判 決 主 文 が詳 細 に記 載 さ れ る必 要 性 は そ れ ほ ど高 くな い とい え よ う。 した が って,判 決 全 体 か らそ の命 じる 内容 が 明 らか に な る の で あ れ ば,主 文 に は か な りの 自 由度 を認 め て差 し支 え な い こ とに な ろ う。 と は い え,実 際 に行 わ れ て い る書 き方 は様 々 で あ る。 た と え ば,日 本 音 楽 著 作 権 協 会 の許 諾 を得 ず に カ ラオ ケ を使 用 して い る こ と を理 由 に差 止 めが 行 わ れ る場 合 で も, 「別 紙 楽 曲 リス ト記 載 の音 楽 著 作 物 を,次 の方 法 に よ り演 奏 して は な らな い。 1カ. ラオ ケ 装 置 を操 作 して,伴 奏 音 楽 に合 わ せ て 自 ら歌 唱 し,顧 客 また は. 従 業 員 に歌 唱 させ る こ と。 2カ. ラオ ケ 装 置 を操 作 して,伴 奏 音 楽 を 再 生(上 映)す. る こ と」. と い う書 き方 と, 「別 紙 楽 曲 リス ト記 載 の音 楽 著 作 物 を営 業 の た め に演 奏 して は な らな い。」 と い う書 き方 が 混 在 して い る。 請 求 の趣 旨等 の書 き方 で 強 制 執 行 な ど実 際 の事 件 の処 理 に差 が 出 るの で あ れ ば21),請 求 の趣 旨 や判 決 主 文 は,侵 害 さ れ る支 分 権 や著 作 者 人 格 権 を 基 準 に, 有 効 な類 型 に集 約 され るべ きで あ ろ う。 な お,音 楽 フ ァイ ル交 換 事 件 に お い て 詳 細 な 判 決 主 文 が 示 さ れ て い るの は, 実 際 に著 作 権 の侵 害 行 為 を行 うの は被 告 で は な く被 告 の サ ー ビス の利 用 者 で あ るた め,そ れ を抑 止 す るた め に必 要 と され る内容 を 明示 す る必 要 が あ った た め. 20)三. 山 ・前 掲(注19)63頁. 。. 21)三. 山 ・前 掲(注!9)67頁. 。. 一65一.
(14) 著作権侵害訴訟 における差止請 求の範 囲 で あ り,特. (2)廃. 殊 な 状 況 で あ る と い え よ う。. 棄請 求 の範 囲. 廃 棄 請 求 の 内容 が 差 止 請 求 以 上 に 多 種 多 様 で あ るの は,当 然 の こ とで あ る。 た だ,廃 棄 請 求 に 関 して は,執 行 に つ い て差 止 請 求 と状 況 が異 な って い る。 不 作為 請 求 の場 合 で あ れ ば,著 作 権 を侵 害 す る とい う判 断 に基 づ い て命 じ られ て い るの で あ るか ら,既 判 力 の基 準 時以 降 に法 律 関係 に変 動 が あ れ ば,請 求 異 議 の 訴 え を 提 起 して 執 行 を免 れ る こ とが 可 能 で あ る。 しか し廃 棄 請 求 に つ い て は,た. とえ ば侵 害 の行 為 に よ って作 成 され た書 籍 の廃 棄 が認 め られ た場 合,そ. れ は侵 害 の行 為 に よ って作 成 され た とい う事 実 に基 づ い て認 め られ た もの で あ るた め,当 事 者 間 で新 た な合 意 が行 わ れ る場 合 な どを 除 き,既 判 力 の基 準 時 以 降 に生 じた事 情 に よ って そ の廃 棄 を免 れ る こ とは不 可 能 で あ る。 そ して そ の 内 容 は,原 則 と して代 替 執 行 に よ って強 制 的 に実 現 さ れ る。 した が って,廃 棄 請 求 につ い て は,そ の執 行 が被 告 に与 え る影 響 は きわ あて 大 き い だ け に,必 要 な範 囲 を越 え て認 あ られ る こ とが な い よ う慎 重 な運 用 が 望 ま れ る。 この点 に 関 して,ふ. い一 る どわ 一 く多 摩 事 件 に お いて,著 作 権 を 侵 害 しな い. 部 分 を含 ん だ原 版 フ ィル ム等 の廃 棄 を求 め た点 につ いて は,認 め る範 囲 が 広 す ぎ る の で は な いか と思 われ る。 ま た,流 通 過 程 か ら書 籍 を 回 収 して 廃 棄 す る よ う命 じて い るが,通 常 これ らは発 行 部 数 と して 損 害 賠 償 請 求 の 算 定 に組 み 入 れ られ て 処 理 され る もの で あ るの で,こ の 点 に関 して も疑 問 を 感 じ ざ る を え な いo. 4む. すび. 著 作 権 侵 害 事 件 にお け る差 止 請 求 にお け る請 求 の 趣 旨や 判 決 主 文 は,不 作 為 一66一.
(15) 法科大学院論集. 第10号. 請 求 に つ い て は そ れ ほ ど厳 密 に考 え る必 要 は な い とい え る。 た だ し,現 在 の実 務 に お い て は き わ め て多 様 で あ り,そ れ らの うち に は,判 決 後 の法 律 関 係 の構 築 や執 行 に お い て差 異 を生 じる もの も含 ま れ て い る こ とが 予 想 され る。 不 作 為 請 求 は支 分 権 や著 作 者 人 格 権 の侵 害 に基 づ く もので あ り,あ る程 度 の 類 型 化 が 可 能 で あ る の で,一 定 の有 効 な形 に集 約 され る こ とが 望 ま しい。 他 方,廃 棄 請 求 は,判 決 の効 力 を免 れ る こ と は ほ とん ど不 可 能 で あ り,そ の 執 行 も代 替 執 行 で行 われ る のが 通 常 で あ るの で,被 告(債 務者)に. 与 え る影 響. は き わ めて 大 き い。 廃 棄 請 求 につ いて は,こ の よ うな特 徴 を 踏 まえ た上 で,必 要 な範 囲 を 越 え な い よ う慎 重 に運 用 され る こ とが望 まれ る。 写 真 で 見 る首 里 城 事 件 は,著 作 権 の 侵害 に対応 して差 止 請 求 権 や廃 棄 請 求 権 が 発 生 す る と い う これ まで の 関 係 を 問 い な お す もの で あ る。 著 作 権 侵 害 に対 す る救 済 の 本質 に関 わ る もの で あ り,他 の事 例 とは異 な る水 準 の 問題 を提 起 す る もの で あ るが,将 来 の知 的財 産 権 保 護 の あ り方 に 関連 す る可 能 性 もあ り,注 目 し続 け る必 要 が あ る。. 一67一.
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