第 661 回健康教育講座
「もしも前立腺癌が疑われたら!」
開催日 平成19年5月24日(木) 講 師 藤田保健衛生大学坂文種報德會病院 泌尿器科 准教授 石 川 清 仁 皆さんは前立腺がんって、どんな病気かご存知でしょうか?最近は著名人の罹患報道が世間を 騒がせるようになったので、名前くらいは知っているとお答えになる方は多いでしょうが、実は 意外と知られていない、でも身近な病気なんです。今回の愛知県医師会健康教育講座では、その 前立腺がんを取り上げて、病気の特徴から治療法にいたるまで広くご理解いただきたいと思いま す。 前立腺は男性の膀胱の下にあり、尿道を取り囲むように存在する栗の実大の器官(腺組織)で す。詳しい役割は解明されていませんが、前立腺液を分泌して、精子の運動や保護に関与すると いわれています。また、その発生から成長までの過程は男性ホルモンに依存していることも分っ ています。 前立腺が大きくなって、尿が出にくくなる病気に前立腺肥大症がありますが、前立腺肥大症と 前立腺がんは異なった病気であり、肥大状態にある前立腺が必ずしもがんに進行することはあり ません。ただ、進行した前立腺がんは肥大症と似た臨床症状を伴うことが多いので、肥大症が疑 われたり、診断されたりした患者さんは必ず泌尿器科専門医を受診して、前立腺がんでないこと を確認しておきましょう。 前立腺がんの特徴は、①高齢男性(50 歳以上)の病気であり、年齢が高くなるほど罹患率は段 階的に上昇します(人口 10 万人に対して 60~64 歳では 40 人、80~84 歳では 300 人)、②病気は 比較的ゆっくり進行します(5 年生存率は、他の検査で偶然見つかった偶発がんの場合は 89.2%、 前立腺に限局したがんの場合は 72.7%、転移をした進行がんの場合でも 28.0%です)、③初期には 無症状のことが多いなどがあげられます。無症状のうちに前立腺がんを発見する(早期発見)た めには、定期的な検診で前立腺がんの腫瘍マーカーである PSA(前立腺特異抗原)を測定する方 法が最も効果的と言えます。一般的には、4ng/ml 以下が正常範囲内と言われていますが、4 以下 でも 6%の患者さんに前立腺がんが見つかったとの報告もあります。また、この数値は高くなれ ばなるほど前立腺がんの可能性が高く、進行癌である可能性も高くなります。50 歳代を迎えられ た男性は、検診の項目にぜひ PSA を加えてください。そして、もし PSA が 4ng/ml 以上という結 果がでたら、迷わず泌尿器科専門医を受診してください。 泌尿器科では、さらに直腸指診や超音波検査によって前立腺がんの可能性を調べます。そして、 多くの泌尿器科医はその可能性が低い場合でも PSA が 4ng/ml 以上の患者さんには早期診断を目的 に、前立腺の組織を針で採取して、がん細胞の有無を確認します。がん細胞が見つからなかった 場合には、6 ヵ月から 1 年後に PSA の再検査をお勧めします。もし、がん細胞が見つかった場合 には、さらに病気の進行具合を調べるために(病期診断)、CT や MRI などの画像診断や骨のラジ オアイソトープ検査を行います。その結果、前立腺がんは大きく 4 つの段階に区別されます。そ の段階によって、治療方法が異なってきます。前立腺がんの治療法は大きく分けて 3 つに分類されます。多くの偶発がんの場合は、定期的に PSA 値の検査をおこない、無治療のまま経過を観察します。そして PSA 値が上昇してきた時に、 治療を開始する方法です。がん細胞が前立腺に留まっている比較的早期の前立腺がんの場合は、 局所療法を選択します。具体的には、手術によって前立腺を周囲の組織と一緒に摘出する方法や 前立腺が存在する骨盤に焦点を合わせて、エックス線をかける放射線療法などです。さらに進行 した前立腺がんの患者さんには、全身的療法が施されます。その一つは内分泌療法(ホルモン療 法)で、注射や内服薬による薬物療法や睾丸を除去する手術療法が該当します。他の一つは抗が ん剤の点滴による化学療法です。このように治療の選択肢はたくさんあり、患者さんの年齢や全 身状態、合併症の有無、がんの進展具合やタイプ(悪性度)、さらに患者さんの希望を踏まえた上 で決定されます。また、複数の治療を同時に行うこともあります。 前立腺がんの危険因子は、①年齢(高齢化)、②遺伝、③人種、④食生活(脂肪の多い食事、 大豆たんぱくの不足など)といわれています。①、②、③の項目については患者さんの努力で変 更はできませんが、④については前立腺がんの予防につながる可能性が十分にあります。高齢化 社会や食生活の欧米化で増加しつつ前立腺がんをいま一度見つめなおし、もし前立腺がんが疑わ れても正しい知識を持つことで、余分な心配や過度な恐怖心にさいなまれることのないようにし ましょう。この教育講座がそのお役に立てるように、患者さんの視線に立ってお話したいと思い ます。 愛知県医師会 〒460-0008 名古屋市中区栄 4-14-28 TEL 052-241-4143