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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 日米英の科学技術イノベーション政策形成プロセスの 比較 Author(s) 北場, 林; 林, 幸秀 Citation 年次学術大会講演要旨集, 25: 219-224 Issue Date 2010-10-09Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/9282
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1G05
日米英の科学技術イノベーション政策形成プロセスの比較
○北場 林、林 幸秀(科学技術振興機構) 1.はじめに 「科学技術イノベーション政策の科学」への取り組みは、マーバーガー元米大統領科学顧問の要請か ら注目を集めるようになった事実が示す通りすぐれて実践的な課題であり、その成果は現実の政策形成 プロセスに導入されることを含意している。このことは、イノベーションの測定方法の開発や科学技術 関連統計データの整備等、エビデンスを「つくる」作業が求められる一方で、実際にエビデンスが「つ たえられ」、「つかわれる」ための準備が必要なことを意味している。 その準備作業の中では、「科学技術イノベーション政策の形成過程において、どのようなエビデンス を誰がいつどこで必要としているのか、必要とすべきなのか」が問われなければならないが、その前提 として現行の政策形成プロセスを確認しておく必要がある。エビデンスは、一般的に意思決定者に対す る助言・提言や調査分析に基づいた支援を通じて提供されると想定できることから、本稿では、米英日 の三か国について、科学技術イノベーション政策の形成プロセスにおける政策決定主体と助言・支援主 体の関係を中心に比較・概観し、エビデンスベースの政策システム導入論議の一助としたい1。 2.米国の政策形成プロセス 行政権と立法権の厳格な権力分立に基づく大統領制を採っている米国では、政策形成にあたって、大 統領府と連邦議会がともに中心的役割を果たす。また、積極的な提言活動と人材の供給を通じて科学技 術コミュニティが与える影響が非常に大きい。(図1) 大統領府においては、科学技術担当大統領補佐官(APST)が局長を兼務する科学技術政策局(OSTP) が中心となり、大統領への助言と政府部内の利害調整を担当し、科学技術政策の推進役を担っている。 予算案作成については、行政管理予算局(OMB)が、OSTP と共同で各省庁に散らばる研究開発関連 予算要求に指針を与え大統領の予算教書としてとりまとめる。OSTP と OMB が大統領を補佐すると共 に、大統領への助言機関として大統領科学技術諮問委員会(PCAST)が置かれており、科学界と産業 界の代表的な意見を吸い上げる仕組みとなっている。また、OSTP の傘下には、一定の独立性を持った シンクタンクである科学技術政策研究所(STPI)があり、行政府の調査・分析ニーズにこたえる体制が 敷かれている。 国防総省や厚生省、NASA など行政府内の各省庁は、それぞれの所管分野の研究開発予算を通じて科 学技術イノベーション政策の実施過程で深く関与するが、研究開発戦略の基本的な方向性と優先順位付 けを決定するのはOSTP と OMB を中心とする大統領府である。また、大統領府と各省庁間の政策調整 は、大統領、副大統領、各省の長官などから構成される国家科学技術会議(NSTC)が担っており、行 政府一体となって政策を推進する体制がとられている。 他方、連邦議会は、上院商務科学運輸委員会と下院科学技術委員会を主な舞台として、大統領府の政 策の立法化を通じて政策形成過程において多大な影響を及ぼす。特に予算作成権は議会が有しているこ とから、各省庁別の予算歳出法の審議を通じて科学技術関係予算の内容を追加修正する力を持っている。 また、連邦議員を支援する機関として、各委員会スタッフの他に議会調査局(CRS)、議会予算局(CBO)、 政府説明責任局(GAO)が置かれており、議会独自の調査分析機能が充実している。CRS は政策分野 毎に独自の調査・分析情報を提供し、CBO は OMB に対抗する形で自前の予算・経済情報を提供・分 析する。GAO は組織の旧名であった「会計検査」ミッションに加えて近年では各省庁の事業評価も担 当している。 1 政策過程は一般に①課題設定②政策立案③政策決定④政策実施⑤政策評価の各段階から成り立つが、エビデンスは政策 過程のあらゆるステージで利用されることが理想である。米国の公共政策形成における著しい特徴は、時に「利益集団自由主義」2とも評されるように、政治社 会の多元性と多様な主体による競争的な政治参加にある。科学技術分野においても、学術・研究者団体 やシンクタンク、職能・業界団体、非営利団体、労働組合等が科学技術コミュニティを形成しており、 ロビイスト等の米国特有の機能も手伝って行政府・議会に多様な利益表出が行われている。 とりわけ全米科学アカデミー(NAS)に代表されるナショナルアカデミーズや競争力評議会(COC) の科学技術・イノベーション政策に関する意見や報告書は、それぞれ学術界・産業界を代表する見解と して尊重されており、行政府や議会の政策立案に大きな影響を与えている3。また、米国科学振興協会 (AAAS)やブルッキングス研究所等の非営利団体やシンクタンクの調査提言活動も極めて積極的であ る。米国特有の官民の活発な人材交流も手伝って、これら科学技術コミュニティの政策過程における存 在感は大変大きいものがある。 図1米国の科学技術政策形成
研究者
大統領府・省庁
国家科学技術 会議(NSTC) 行政管理予算局 (OMB) 大統領(President) 厚生省(HHS) (国立衛生研究所) 国立科学財団 (NSF) 国防総省(DOD) (国防高等研究計画庁・DARPA) 航空宇宙局 (NASA) 国土安全保障省(DHS) ( 国土安全保障高等研究計画庁・HSARPA) 農務省 (USDA) エネルギー省(DOE) (エネルギー高等研究計画庁・ARPA-E) ロビー活動 プロパガンダ Copyright ©2010 JST/CRDS NAM NAA NASULGC AEI CSIS 商務省(DOC) (海洋大気局NOAA・国立標準技術研究所NIST) 国家調整局 (NCO) 科学技術政策 研究所(STPI) 大統領科学技術補佐官 (APST) 国立科学審議会 (NSB) Ver.2010.9 ロビイスト Lobbyists CRDF BIO省庁
非営利団体 大学 Universities 企業研究所 Industrial Laboratories 国立研究所 National Laboratories 州立研究所 State Laboratories Slone Foundation Gates Foundation AAAS HHMI NVCA議会
下院(House) 上院(Senate) 委員会Committee ・商務・科学・運輸 ・エネルギー・資源 ・健康・教育・労働・年金 ・国土安全保障・政府問 題 ・中小企業・起業 委員会Committee ・教育・労働 ・科学技術 ・資源 ・エネルギー・商務 ・運輸・インフラ ・国土安全保障 ・中小企業 他 他シンクタンク
議会調査局 (CRS) IDA Research America COC IEEE★USA 助成 科学技術Brookings SPPI WTEC
SRI 利害関係団体 コミュニティ
市民
国家経済会議(NEC) 国家安全保障会議(NSC) 環境諮問委員会(CEQ) 内政委員会(DPC) 大統領科学技術諮問 委員会(PCAST) 科学技術政策局 (OSTP) STI Policy Making in USA CAP RAND ナショナルアカデミーズ NAS・NAE・IOM・NRC 連邦政府出資研究開発機関 FFRDC 政府説明責任局 (GAO) 議会予算局 (CBO) 3.英国の政策形成プロセス 議会の多数派が首相を支える議院内閣制では行政権力と立法権力は事実上融合するため、政策形成過 程においては、行政府主導型となりやすい。英国でも例外ではないが、競争的な政党システムと議会の 拡充された調査機能のため、政策形成においても議会は一定の役割を果たしている。また、米国同様、 社会で尊敬される学術団体や非営利団体が提言や声明を通して政策過程に活発に参入している。(図2) 2 政治学者ロウィの概念。米国では利益集団が行政府・議会と閉鎖的な政策形成を行っているとして批判的に分析した。 3「パルミサーノ・レポート」(04 年、競争力評議会)、「オーガスティン・レポート」(05 年、ナショナルアカデミ ーズ)は07年の「米国競争力法」の形成に大きな影響を与えたといわれている。行政府の中で科学技術イノベーション政策形成に中心的役割を果たすのは、ビジネス・イノベーショ ン・技能省(BIS)である。BIS には政府科学庁(GO-Science)が置かれ、政府主席科学顧問(GCSA) でもある長官を支援する役割を担っている。同庁内のフォーサイト局は、長期的技術予測のための研究 プロジェクトである「フォーサイト・プログラム」と、より広範囲の未来予測プロジェクトを実施する 「ホライゾン・スキャニング・センター(HSC)」を統括・運営し、長期的な研究開発投資のプライオ リティ・セッティングに関する政府の意思決定を調査・分析面から支援する体制がとられている。 政府科学庁はまた、科学技術に関する政府最高レベルの諮問機関である科学技術会議(CST)の事務 局も務めている。CST は、学界と産業界の代表から構成され、首相に対して中長期の戦略的課題を助言 するが、米国のPCAST と同様、助言機関としての役割に徹している。CST の共同議長を務める政府主 席科学顧問は、首相やBIS 大臣への科学的助言を主任務とすると共に、各省庁に置かれた主席科学顧問 (CSA)の集まりである主席科学顧問会議(CSAC)を主催し、政府の科学技術政策が科学的証拠に基 づいて立案・執行されるように、政府を支援する役割を担っている4。 英国議会では下院の科学技術委員会と貴族院の科学技術特別委員会が、政府予算案の審議過程を通じ てというよりは、独自の調査による報告書を発表することにより、一定の影響力を保持している。それ らの調査を支えるのは議員に対して科学技術政策に関する中立的助言を行う議会科学局(POST)と、 特に科学と政治の接点に関わる問題に焦点を当てて情報提供を行う議会科学委員会(PSC)である。 図2 英国の科学技術政策形成
研究者
連合王国政府
首相 Ver.2010.9 科学技術 利害関係団体 コミュニティ市民
Copyright ©2010 JST/CRDS連合王国議会
議会科学技術局 POST 議会科学委員会 PSC s BIS ビジネス・イノベーション・技能省 大学・科学担当大臣 SICs 科学産業委員会 BIS大臣 主席科学顧問会議 CSAC HMTreasury 財務省インディペンデント レビュー 科学イノベーション ネットワーク SIN 研究資金助成機関 芸術・人文科学研究会議 AHRC 工学・自然科学研究会議 EPSRC 経済社会研究会議 ESRC 医学研究会議 MRC 自然環境研究会議 NERC 科学技術施設 STFC BT・生物科学研究会議 BBSRC 英国研究会議 RCUK 研究会議 経済開発閣僚委員会ED Sub Committee on SI 科学・イノベーション小委員会 イングランド高等教育 資金会議 HEFCE スコットランド政府 CSA ウェールズ政府 CSA 北アイルランド政府 スコットランド高等教育 資金会議 SHEFC ウエールズ高等教育 資金会議 HEFCEW 北アイルランド雇用 学習省 DEL NI 貴族院(Lords) 科学技術委員会 下院(Commons) 科学技術委員会 キャンサーリサーチ UK 非営利団体 ウエルカムトラスト 科学基盤支援者フォーラム 国際戦略研究所 IISS CBI 英国産業連盟 王立工学アカデミー RAE 王立国際問題研究所 RIIA AURIL 産学連携協会 CaSE 科学工学運動 王立協会 UUK 英国大学協会 科学政策センター 科学技術基金 FST 科学評議会 SPRU PRESTシンク
アカデミー
タンク
STI Policy Making in UK政府主席科学顧問 GCSA 英国アカデミー RDAs 地域開発庁 DEFRA 環境食糧農村地域省 CSA MOD 国防省 DH 保健省 CSA CSA DECC エネルギー気候変動省 CSA DFID 国際開発省 CSA 技術戦略審議会 TSB 科学技術芸術国家基金 NESTA 国立保険サービス NHS 国立衛生研究所 NIHR エネルギー技術機構 ETI 政府科学庁 Go-Science 健康研究戦略連携局 OSCHR 内閣 Cabinet 科学技術会議 CST Foresight SAC SAC
科学技術コミュニティの中では、科学者団体として350 年の歴史を持つ王立協会(The Royal Society)
が、科学政策全般に大きな影響力を持っている。王立工学アカデミー(RAE) も、政府政策に対する声
明や議会への提言活動を活発に行っている。7 つある研究会議(Research Councils)は、本来業務の研
4 政府はまた、各省庁に科学の管理と利用状況を独立的立場から見直すことを目的とする「科学助言会議(SAC)」の設
究や外部機関への研究助成だけではなく、各省庁や議会、地方公共団体等に対する政策提言や意見書の 提出活動も行っており、政策過程にも積極的に関与している。 なお、英国の政策過程の特徴として、政策評価段階におけるパブリックサービス・アグリーメントと インディペンデント・レビューが挙げられる。前者は各省庁の政策の達成度を評価するための制度で進 捗管理を行っており、後者は案件ごとに審議会を立ち上げて包括的な調査を行い改善に向けた提言が示 されるもので、政府はその提言に対応しなければならず、制度改革の契機となることが多い5。 4.日本の政策形成プロセス 日本の公共政策形成における行政府の役割は米英と比較して相対的に大きく、課題設定、政策立案、 決定、実施、評価の全プロセスで中心的役割を担っている。政策形成における国会の影響力は限定的で あり、とりわけ安定的な一党優位体制下では、与党の事前審査制により国会における審議は形骸化し、 正統性付与機関としての役割にとどまっていた。社会の諸団体は、審議会を通じて行政府との協調的関 係を築いている場合が多く、科学技術コミュニティの提言機能や政策形成過程への関与は、米英に比べ ると限定的である。(図3) 図3 日本の科学技術政策形成
研究者
内閣総理大臣 文部科学省 MEXT Ver.2010.9 国会 財務省 日本学術会議 SCJ 経済団体 学会 経済産業省 農林水産省 厚生労働省 総務省 防衛省行政機関
等 審議会 科学技術 政策研究所 NISTEP 日本化学会 日本物理学会 応用物理学会市民
大学 研究開発法人 企業研究所 新エネルギー・産業 技術総合開発機構 NEDO 日本学術 振興会 JSPS 科学技術 振興機構 JST 情報通信 研究機構 NICT 医薬基盤 研究所 NIBIO 農業・食品産業 技術総合研究所 NARO研究資金配分機関
衆議院 参議院 文部科学委員会 文教科学委員会 日本経団連 産業競争力 懇談会COCN競争的資金
日本の科学技術イノベー ション政策形成 内閣府CAO 経済社会 総合研究所 ESRI 国家戦略室NPU 内閣官房CAS 総合科学技術会議CSTP 民間 シンクタンク 等 三菱総研 MRI 日本総研 JRI 未来工研 IFTECH 野村総研 NRI 総合研究開発機構 NIRA 研究開発戦略 センターCRDS 経済産業 研究所 RIETI 審議会 審議会 審議会 審議会 国会図書館NDL 調査室 調査室 Copyright ©2010 JST/CRDS 科学技術政策 担当大臣 科学技術 コミュニティ 行政府においては、内閣総理大臣の諮問機関である総合科学技術会議(CSTP)が、科学技術基本計 画に代表される基本方針を策定すると共に関連府省間の調整機能も担っており、科学技術イノベーショ ン政策全体の総合調整を担当する司令塔として位置づけられている。CSTP の事務局は科学技術政策担 当大臣の指揮の下、内閣府に置かれ、文部科学省を中心に産学官からの出向者で構成されている。同様 5 科学技術分野では06 年の「クックシー・レビュー」、07 年の「セインズベリー・レビュー」等があり、08 年の政府白 書「イノベーション・ネーション」に反映された。の諮問機関である米英のPCAST、CST が純粋な助言機関であるのに対し、CSTP は調査審議・助言に 加え、府省間の総合調整の役割も担っているところが異なっている。 行政府内で、CSTP の基本方針策定を受けて科学技術と研究開発に関する具体的な政策を企画・立案・ 推進するのは、文部科学省(MEXT)、経済産業省(METI)等の各省庁である。各省庁内にはそれぞれ 調査分析担当部署があり、例えば MEXT には大臣の諮問機関として科学技術・学術審議会が、調査分 析機関として科学技術政策研究所(NISTEP)が設置され、省の政策立案を補佐する役割を担っている。 なお、日本には米英のような科学担当補佐官や政府科学顧問は制度化されていない。 国会における科学技術関連法案の審議は衆議院文部科学委員会と参議院文教科学委員会を舞台に行 われるが、政治問題化したイシューを除けば、政策形成プロセスで国会が果たす役割は限定的である。 科学技術関連予算についても、政府提出予算案は与党の支持によりほぼ原案通りに可決されることから、 予算政策に与える国会独自の影響力は小さい。他の政策分野と同様に、予算編成過程では査定を担当す る財務省の影響力が最も大きい。国会議員への調査支援機関としては、衆参両院の調査室等があるが、 科学技術政策についての独自の調査分析能力は米英と比較して高いとは言えない。 日本の科学技術コミュニティにおいても、日本学術会議を始めとする学術団体や、日本経団連等の経 済団体、シンクタンクや政策研究機関といった多様な主体が存在している。しかし、政策形成プロセス で積極的役割を演じる組織は多いとはいえない。日本学術会議は日本を代表する科学者組織として社会 的権威はあるものの、米英と比べて政策形成過程における役割は大きくはないように思われる。また、 民間シンクタンクについても科学技術分野は数も少なく、財政金融政策や経済産業分野に比べると、そ の活動は活発とは言えない。日本の科学技術コミュニティは、政府審議会への個別参加を中心とした行 政府への利益表出が特徴的であるといえる。 5.おわりに 米英日の三か国の政策形成プロセスを、行政府、立法府、科学技術コミュニティという三つのセクタ ーの主要組織とエビデンスの供給経路に注目して整理した(図4)。いずれの国の行政府内にもトップを 補佐し政策を推進する補佐機関と助言機関、及び調査分析を担う支援機関がある。機能と能力に差はあ るものの、立法府にも調査分析を任務とする支援組織がある。三か国とも科学技術コミュニティからの 利益表出がなされるが、その質と量には相当程度の差がある。エビデンスベースの政策立案の観点から は、行政府内の支援機関のエビデンス作成伝達機能と、コミュニティ側からのエビデンスの作成伝達能 力が特に重要と思われる。また、日本については、①科学顧問の不在②助言専門機関の不在③国会の調 査能力機能の弱さ④有力な非営利団体の不在⑤有力な民間科学技術政策研究機関の不在といった政策 形成コミュニティの特徴が、エビデンスベースの政策システムの導入を検討するにあたってどのように 影響するのかが注目される。 米英日の三か国は、公共政策形成においては政治学でいうところの多元主義6の国と考えられ、米英 日の順に多元主義度が高いというのが一般的理解である。すなわち、米国は政治構造が多元的で利益団 体に対してもオープンであり、競合的な組織間の対立と調整の中で政策が生まれると考える多元主義の 代表的な国である。英国は、米国ほど利益団体は強くないものの、国家と社会の間で競争的な利害調整 が行われていると看做されている。日本も行政府主導が特徴的ではあるものの多元主義と分類されてい る。主要組織の配置をみれば、科学技術イノベーション政策においても概ね多元主義的な政策形成が行 われることが確認できる。 科学技術イノベーション政策に関わらず、公共政策形成はすぐれて政治的営みである。政策決定者に とって科学的助言やエビデンスは、考慮しなければならない多くの要因の一つにすぎない。しかし同時 に、競争的な利害調整に参加するプレーヤーは、常に自己の権力リソースの維持拡大を迫られることに なり、自己に有利な「エビデンス」は有力なリソースの一つである。エビデンスが必要な理由も不必要 な理由も、実際の政策過程の中に存在する。その意味でも、エビデンスベースの政策システム構築にあ たっては、政治学や行政学、社会学等の社会科学的アプローチを用いて、政策過程を詳細に分析する必 要がある。とりわけエビデンスが利用されるプロセスについては、特定政策の事例分析と政策決定者へ 6公共政策が少数の個人・団体によって決定されるという「エリート主義」や政府と主要団体間の協調によって決められ ると主張する「ネオ・コーポラティズム」に対して、多元主義は、政治社会は多種多様な団体から構成されており,公共 政策はそれら組織間の競争的調整の中から生まれることを強調する。日本は官僚主導と審議会式官民協調に特徴づけられ た「日本型多元主義」とよばれることが多い。
のエリートサーベイが有効と思われる。先行する米英等諸外国のエビデンスベースの政策形成に関する ベスト・プラクティス事例を集積し、教訓を導出することも必要であろう。 図4 まとめ:米英日の科学技術政策形成
CRS, CBO, GAO
POST, PSC
国会図書館、衆参調査室
ナショナルアカデミーズ 王立協会、研究会議 日本学術会議 下院科学技術委員会、上院商務 科学運輸委員会、上下両院歳出 委員会 下院科学技術委員会、上院 衆議院文部科学委員会、参議院 文教科学委員会 COC CBI 日本経団連 AAAS, ゲイツ財団 ウェルカムトラストAAAS, RAND, AEI RIIA, SPRU, PREST 三菱、野村、日本総研
PCAST, NSB
CST
(CSTP)
STPI
Foresight, HSC
NISTEP
決定機関
助言機関
支援機関
科学技術コミュニティ
シンクタンク
非営利団体
経済団体
学術団体
行政府
立法府
支援機関
大統領
首相
首相
決定者
科学技術補佐官&
OSTP, OMB
主席科学顧問&GO-Science, BIS
CSTP&CAO,MEXT
補佐機関
6.参考文献 [1] 科学技術振興機構研究開発戦略センター(2010)「エビデンスベースの科学技術・イノベーション 政策の立案:エビデンスをどう『つくり』『つたえ』『つかう』か?」2010 年 5 月 [2] 城山英明・吉澤剛・鎗目雅・秋吉貴雄(2009)「政策及び政策分析手法研究報告書―イノベーショ ン政策策定プロセスにおける知識生産・利用・交流―」 「平成 20 年度 イノベーション政策及び 政策分析手法に関する国際共同研究」成果報告書シリーズNo. 3 [3] 文部科学省科学技術政策研究所(2009)「科学技術を巡る主要国等の政策動向分析 報告書」NISTEP レポートNo. 117、2009 年 3 月 [4] 科学技術振興機構研究開発戦略センター(2008)「科学技術・イノベーション動向報告 米国」 [5] 科学技術振興機構研究開発戦略センター(2009)「科学技術・イノベーション動向報告 英国」 [6] 森脇俊雅(2010)「政策過程」ミネルヴァ書房 2010 年 6 月[7] Deborah D. Stine, Science and Technology Policymaking: A Primer, CRS RL34454, May 27, 2009 [8] Deborah D. Stine, The President’s Office of Science and Technology Policy (OSTP): Issues for
Congress, CRS RL34736, June 3, 2009