後発でも勝てる適切な標的市場の選定と戦略
No problem, if you can win even later, getting of most
attractively target and how to plan the strategy
今 井 秀 之(作新学院大学経営学部)はじめに
先発企業の参入後、新たな技術変化が発生した場合、先発企業はなかなか新たな技術変 化を認識し、充分な対策を取る事は難しい。特に、消費者によるニーズの変化への対応に も警戒できなければ、ニーズに対応した後発企業のチャンスが大きくなる。そこで、後発 企業であっても的確なターゲットを見出し、そのニーズの変化に対応したマーケティング 戦略が展開できればチャンスがないわけではない。その為には、参入しようとしている市 場がどんな市場構造になっているか、どのような顧客をターゲットにすべきか、差別化で きる基軸はどんなものからアプローチすればよいか等を見極められれば、効率的な市場参 入が確約できるのである(8)。以下に、その施策検討について記述する。1. 標的市場の消費者構造
市場成長期の顧客層の中心は、下記の図 1 にあるロジャーズ理論が示しているように、 参入初期の消費者はイノベーターやマニア層が中心で、彼らは社交的というより独立性の 高い人たちであるのに対し、次の層がオピニオン・リーダーと呼ばれるや比較的新し物好 きな消費者が大半を占め、彼らは社交性があり周囲の人々の購買行動に影響を与える人が 多く存在します(7)。一方で、新規市場が大きく成長している段階では、競合企業もどん どん参入してきます。市場成長期のマーケティング戦略上の課題は、競争対応となり、い かに自社ブランドを選んでもらうかを形成することが重要となります。従って、今までに 無い、目新しい製品や周辺市場をいかに取り込んでいくか、既存の市場では飽き足らない 欲求や不満をどのように取り込むかが重要な参入起点であり視点となります。図 1 イノベーター理論(エベレット・M・ロジャース 1962年)
2. どのような「軸」で消費者を捉えて参入するか
顧客が求めるものを提供しようにも、すべての顧客が求めるものを提供することは困難 なことです。そこで、自社が切り開く「基盤となる市場は何か?」を設定します。ある属 性をもつ顧客をグループ化し、市場を細分化(セグメンテーション)をした後、それを絞 込み(ターゲッティング)、自社商品にあわせて差別化(ポジショニング)をすることで、 市場を設定し顧客を特定化することになります。既存のもの、細分化したもの、新たに創 出するものがある。想定市場を決めることで想定競合も明確になり、競争戦略策定に繋 がっていきます(4)。ではどのような視点切り口で参入すればよいのでしょうか? 次の 節から、参入にあたっての切り口を考えてみましょう。 2.1. セグメンテーション(Segmentation) ある類似した属性・欲求をもつ顧客をグループ化し、顧客を細かなグループ単位で捉 え、そのグループごとにマーケティング活動を適合させ、効率的なマーケティング活動が 行えるように絞り込むという考え方が、マーケット ・ セグメンテーション(市場細分化) です。細分化されたセグメントは、当該マーケティング活動から見ると「類似した顧客特 性を持つ部分市場」 と捉えることができます。その細分化された市場参入の「軸」って何であろうか? それは、消費者同士の「何らかの共通点」を見出すことに他ならない。 ここでいう特性とは、一般的には、下記(図 3)に示すような 4 つの基軸が考えられて いる(6)。別の言い方をすると、これらの特性を基準にして顧客を細かなグループ単位で 捉える事になります。 図 2 市場細分化機軸 上記にあるように、地理的特性、人口統計特性、心理特性、ライフスタイル・価値観と いった一般的な特性だけでなく、ブランドへの忠誠心、製品使用場面・使用頻度、属性間 相対重視度、選好順位、購買意図、価格弾力性、といった製品特定的な特性があります。 この差別化市場を決定する際に、留意しなければならない点を書きに整理しておきます。 ①セグメント内が同質であること。(効率的なマーケティング活動を行うためには、分散 投資にならないように何らかの共通欲求項目で同質で無ければならない) ②セグメント間が異質であること。(効率的なマーケティング活動が集中的に効果を発揮 するには、他の市場と混同されないようには明確に区分されていなければならない) ③セグメントに対して操作できること。(企業がターゲットとした顧客に、アプローチで き操作できる可能性を見込めなければ、偶発性になり意図した効果を発揮することがで きないからである) ④セグメントの規模が一定以上であること。(営利企業である以上適切な利益が確保でき る、一定以上の市場規模が見込めなければならない) これらの点に注意を払いながら、幅広い顧客ではなく限られた間口の中で、継続購買を する奥行きある市場としてマネジメントしていくようにしなくてはなりません。
2.2. ターゲティング(Target)「狙うべき生活者は誰か?」 セグメンテーションを行い、いくつかのセグメントが作られたとき、そのすべてのセグ メントに対応するためには、費用の増大を伴ってきます。ここで重要なのは、商品の見込 み客をキチント規定することです。なぜならば、製品の種類がそのセグメントの数だけ必 要になるため、製造費用や在庫が増大し、宣伝をする活動の効率が悪くなります。販売に も余計な手間がかかってきます。従って、幅広い顧客への適合を考えて、むやみにセグメ ンテーションを行い、それへの対応を行うことは得策ではありません。つまり、製品や商 品の顧客ニーズ適合と効率追求とはトレードオフの関係にあるということです。この様な 視点を持ちながらどのセグメンテーションをマーケティング活動の対象とするかを意思決 定します。これをターゲティング(標的市場の選定)といいます。 この場合には、年齢、性別(デモグラフィック)的なものだけでなく、商品の情報の入 手方法、商品の使い方、購入の思考、なども表わす。ターゲットの人物像とオケージョン まで想定します(4)。そうすることで、商品を発売する場合、顧客像が明らかになることで、 顧客に伝えるべきメッセージやキーワードが明らかになりコミュニケーション方法を明確 にすることができるからです。 2.3. ポジショニング(Positioning)「購入動機は何か?」 差別化の達成のために必要となってくるのが、ポジショニングの考え方です。ポジショ ニングとは、顧客の心、頭の中で自社の製品がユニークで明快なコンセプトと結びつくよ うにすることです。いわば、顧客にどう思われたいか、というテンを明快に設定することで す。ここで、重要な視点は実際の製品がどうであれ、顧客がどう感じるかという点にあり ます。従って、下記のような事柄を明確にする必要があります。 ①商品を購入する理由を規定する。その内容は、「狙うべき消費者は誰か」の項目から引 き出されるべきものとなる。 ②ユーザーベネフィット、競合比較で差別化ポイントを明確にする。 つまり、類似商品と比較されながらも、顧客に自社の製品を購入してもらえるように製 品特徴や品質 ・ 価格 ・ 付帯サービスなどで識別できるようにする。セグメンテーションと ターゲティングを行い魅力的なセグメントができたとしましょう。それでも往々にして、 そのような魅力的な市場セグメントは競合他社も気がついている場合が多くあります。 従って、次に検討しなければならないことは、ターゲットとして定めたセグメントに対し て、どのように販売・接触するかということになります。この戦術には、他社と同じよう なものを安く売る方法(低価格化)と他者等は違うものを売る方法(差別化)の 2 つがあ ります。一般的には、差別化のほうが大きな利益を獲得できるといわれていますが、どち らの戦略を採用するかは競争局面におかれた企業の状況に依拠します。
以下に、これまでのSTP概念の要素項目と具体的な活動を整理した図を掲載する(図 4)(5)。 図 3 市場細分化機軸 (出典:廣田幸光・石井淳蔵(2004)「 1 からのマーケティング<第 2 版>」を筆者が修正)
3. 最適なマーケティング ・ ミックスの策定
STPが決定されたら、次に検討するのが、マーケティング ・ ミックスです。STPが 「誰に」「何を」提供するのかという価値創造を策定するものだとするとマーケティング ・ ミックスでは「どのように提供するか」を策定するものだということになります。マーケ ティング・ミックスは、顧客との関係の価値創造と維持にあたって、企業が用いる手法や 活動の総称、もしくは集合と考えることができます。マーケティング ・ ミックスでは、製 品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)の 4 つのことを言い ます。製品では消費者に対して提供される価値を具現化していきますので、「価値形成」 をしているといえます。価格では価格を通じた「価値表示」が行われ、流通では実際に消 費者に対して価値を送り届けるという意味で「価値実現」がなされ、プロモーションでは 「価値伝達」が行われると考えることができます。そして、その 4 つのカテゴリーを分け て把握し、それぞれをどのように組み合せるかが具体的に策定されます。 マーケティング・マネジメントにおいて重要なものは、2 つの意味での適合性といわれ る。其のうち 1 つは「標的市場(顧客)ニーズや行動」と「マーケティング・ミックスの諸要素」との適合性です(6)。後発企業にとって重要なのは、もうひとつの適合性といわ れるマーケティング・ミックスの諸要素間の整合性です。その為には、後発企業の強みを 発揮するために、現在の市場に潜在的な不満や未充足の部分が存在していないかを顧客の 立場から見直す必要が出てきます。そのアプローチ視点が 4C(Customer solution、Cost、 Convenience、 Communication)といわれる概念である(図 5)。以下で、4Pそれぞれにつ いて説明をし、その 4Pに 4Cを加味した特徴を説明しながら、成功のための留意点を解 説していく。 図 4 マーケティング・ミックス 4P-4C概念図 3.1. 製品(Product) マーケティング・ミックスにおける顧客との関係の価値創造と維持にあたって、消費者 が求めるものを具現化したものが製品(Product)になります。従って、製品は提供すべ き顧客価値を製品 ・ サービスとして具現化したものであり、顧客にとっての価値を具現化 形成させるもので「便益の束」と捉えることができます。ひとつの製品が、消費者に提供 する便益は 1 つとは限りません。例えば、自動車のユーザーは「スピーディな移動」「快 適な空間」「駆け抜けるような爽快感」「自分らしさの実現」といった複数の便益を自動車 に期待しているかもしれないのです。この様な意味で製品とは便益の束といえるのです。 製品の基本価値を構成する要素には、機能 ・ 特性、性能 ・ 品質、デザイン、サイズ、パッ ケージ、ネーミング、ロゴマーク、シンボル、スローガン、ジングル(音楽)など、様々 なものがあります。更に無形なものでも製品に付帯している保証やサービス、また製品イ
メージなども製品要素の一部となります。製品に対する後発企業における見直し視点とし てのC(Customer solution)は、消費者にとっての製品の魅力を単純な機能だけにとどめず、 その製品を使用・保管・廃棄したりする際の利便性を高めたりした便宜的価値機能を高め て参入する差別化戦略となります(2)。更に、補助的(感性的)価値での差別化においては、 触ったときの感覚やデザイン性の魅力度を向上させ感性に訴えることによりその価値を向 上させたり、製品を所有していることの達成感や楽しさ、日常のライフスタイル内での充 実感や高揚感を刺激した観念的価値を高めたりすることにより、先発企業にはない魅力を 付加していくことが可能となります。 その製品の価値は有用性×希少性によって構成されます。従って、後発での製品開発の 成功要因は、徹底した差別化が基本となります。顧客の欲求は、徐々に多様化し自分らし さや自分にとっての使いやすさの欲求が大きく且つ、様々な欲求が顕在化してきますの で、これらの欲求を先発企業より早くとらえ、満足度を高める製品構造を形成することが 重要となります。後発者での製品マネジメントでは、消費者が製品に求める価値を下記の ような製品価値構造を大きく本質的(機能的)価値と補助的(感性的)価値とに分けます (図 6)。そして、その内訳を、各々2 つに分けて且つ、階層化して消費者にとっての製品 の魅力を幅広い視点から検討します(9)。 この場合に重要なアプローチが、製品のライン拡大への考え方です。個々の製品だけで なく、自社の製品攻勢に、目を向けることも重要です。互いに関連性の高い製品グループ を製品ラインといい、製品ラインを構成する個別の製品のことをアイテムと言います。そ して、あいてむの集合全体を製品アソートメントと言います。新製品の開発にあたっては、 自社のアソートメントにおいて新製品はどのように位置づけられるか、新製品は単一アイ テムで市場参入するのか、複数のアイテムからなるラインとして市場参入するのかという 問題を検討しなければなりません。 製品アソートメントに目を向けることで、個別の製品開発だけでは解決できない問題へ の対応が可能となります。例えば、自動車メーカーは、価格帯の異なる多様なモデルを生 産することで多様な顧客に対応できるだけでなく、買い替え時においても顧客をそのライ フステージの段階に応じた別の製品へ誘導することができます。また、幅広く奥行きのあ る製品アソートメントは、人件費や生産設備の固定費を吸収したり、共通の原材料の大量 購入が可能になることから、自社に規模の経済性をもたらし、流通業者は販売業者との取 引を有利にする可能性があります。このように、巧みなアソートメントの構成がビジネス チャンスを作り出す要因なることがあります。
図 5 製品価値の構造 3.2. 価格(Price) 製品に対する後発企業における見直し視点としてのC(Cost)は、消費者にとっての顧 客が支払う費用(物理的、心理的ストレスを含むコスト)として捉えなおすことです。製 品の価格は利益が出てなおかつ、需要が発生する範囲で設定しなければなりません。最適 な価格設定を行う場合の基本方針には、コスト・需要・競争という 3 つの視点から検討す る必要があります(5)。そこで、下記にその各々アプローチ視点について考え方を整理する。 (1)コストによる価格設定 ある一定の利益率をコストに上乗せして価格設定をする方法を「コスト・プラス法」と 言います。そのコスト・プラス法の構造は、以下の 4 つの算式によって表わすことができ る。 ①製造原価=製造変動費(原料費、 材料費等)+製造固定費(製造人件費、 経費等) ②販売費=物流費+販売変動費(広告費、 販売促進費、 販売リベート等) ③一般管理費=一般人件費、 経費 ④利益 ∴ 価格=①+②+③+④ このように販売価格や販売計画を考える場合、売上高と原価費用(設備投資や研究開発 投資などによる減価償却費額と材料費などの費用)に目配せしながら、販売数量を予測、 考慮した販売価格を設定しなければならないことになる。その際に、必要な手法が販売数 量の増加によって赤字から黒字へ変化する損益分岐点(BEP:Break Even Point)です。 損益分岐点とは、最低どれだけの売上高を出せば黒字になるか、その売上レベルを算出
するための定量分析の代表的なツールである。経営者は損益分岐点を把握することにより ①あるコスト構造下で売上高や費用経費が変わったときに、どれだけの利益が得られる か、②コスト構造が変わったときに売上高や費用経費が、どのようなレベルであれば利益 を維持できるか、などを予想することができます。つまり、売上高から変動費を引いたも のが限界利益額となるのである。この値は、ある時点で、追加で売上が増えたときにどれ だけの利益が手元に残るかを示している。 この計算式を図表化したのが次の図 7 になる。下の図で示すように、「売上高」と「費 用(=固定費+変動費)」を、それぞれの直線A,Cで示し、この 2 つが交わる点Bが損 益分岐点となる。ここで売上高と費用からそれぞれ変動費を差し引いくとどうなるかを見 てみる。「売上高−変動費」は、先の定義により「限界利益」となる。「費用−変動費」は、 固定費に他ならない。この 2 つの直線の差が限界利益となり、ここでも交点は損益分岐点 を示すことになる。この概念を用いて適正な利益が出るように製品価格設定を行います。 ただし、企業側の理由(コスト)で価格を決めるので、買い手に対して十分な説得が・理 由が必要なります。 新製品の市場導入にあたっては、高価格設定で早期に利益回収する上澄み吸収価格戦略 (スキミングプライス法)と低価格設定で、まずは大きく市場シェアを獲得した後に、利 益回収する市場浸透価格戦略(ペネトレーション法)の 2 つがあります。上澄み吸収価格 戦略では、価格に敏感ではない顧客層への販売を狙います。高価格であるために便益も大 きいことを示唆し、顧客にとっての付加価値を認識させます。市場の一番うま味のある部 分をすくい取り、利益を早期に回収するという意味で上澄み吸収と呼ばれています。市場 浸透価格戦略は、価格に敏感な顧客が多く、需要の弾力性が大きいとみなされるときに採 用します。低価格によって顧客に価値を認識させ利益よりも市場シェアを優先させる施策 になります。このように市場への迅速な浸透を狙うという意味で市場浸透と呼ばれていま す。 これ以外に、消費者の心理を踏まえた端数価格、威光価格、慣習価格があります。 3 万 円のものが29,800円であった場合、200円しか違わないのに消費者に与える影響は大きな ものがあります。消費者は 8 や 9 を伴った価格に対して、最大限に引き下げられていると 感じるからです。このようにして、設定された価格を端数価格設定と言います。また、消 費者は製品の品質を判断する基準として価格を考慮することがります。このため品質の高 さを消費者に伝えるために意図的に高く設定された価格を威光価格と呼びます。また、社 会慣習上ある価格帯に定まってしまっている製品カテゴリー(例えば、缶入り清涼飲料水 等)があります。このような価格を慣習価格と呼びますが、このように一度定まってし まった価格を逸脱した値付けをしても顧客の心理的には異常値に思われうまくいかないで しょう。
図 6 損益分岐点分析図(Break Even Point) (2)需要による価格設定 買い手が製品にどれだけの価値をおいているかを出発点として価格設定を行う方法で す。買い手が受け入れられる価格が先に決定され、その後にコスト計算や利益加算が行わ れます。コストによる価格設定とちょうど真逆の発想で算定されます。後発参入の見直し のC(Cost)としては、消費者にとっての顧客が支払う費用が、製品機能としての物理的 機能便益としてのコストとして見合うほどの便益を実感できるかどうか捉え直すことにな ります。つまり、販売価格を下げた分以上に需要が喚起された数量が確保され、トータル としての売上高が望めるかどうか。また、差別化原材料を使用しているために、高価格で 参入せざるを得ない場合などを想定し、需要が減少しても高価格分の付加価値でトータル としての売上高が望めるかどうかを検討しなければなりません。 この様に顧客が商品に対する期待価値が高まるような場合や、競合企業が同様な価格訴 求を行っている場合などであれば売上高傾斜角度が低くなり、単位当たり売上増難易度 (ベクトル)が変化すると捉えるべきなのである。いずれの場合も、損益分点売上高の必 要額が増加しリスクの高い事案になることがわかる。この場合、後発企業における分析 ツールとしては、価格弾力分析があります。事前調査により、市場規模拡大や売上予測が 想定されるので、最適な価格差を持って自社により有利な販売計画を策定することができ ます。
(3)競争による価格設定 競合製品に付けられている価格に価格設定の基準を置く方法です。いわば実勢価格を重 視する方針と言えます。市場での力関係やブランド・イメージなどが加味されて価格設定 されるので、競合価格より高く設定ることもあれば低く設定することもあります。競争企 業が提示してきそうな価格を想定して自社製品の価格を設定する、最近ネットオークショ ンと言われる入札価格制度もこのような価格設定の一部と言えます。 既に先発企業により設定された価格浸透がどの程度まで進んでいるかによりますが、一 般に消費者は先発企業の製品に対して、後発製品価格が高いか安かを判断することになり ます。その心の中にある価格を参照価格と言います。例えば、消費者の参照価格に合わせ た下位価格製品を投入することにより、既存製品の高価格を演出することもできますし、 本体+リフール商品を抱き合わせにして販売価格を設定するキャプティブ価格(本体の価 格を安く設定し、詰め替え用の製品価格を相対的に高く設定)で参入することも可能とな ります。この場合、後発企業は、消費者にとって競合製品からブランドスイッチしてもな お価値ある製品であるかどうかを検討せねばなりません。この場合の分析ツールとして は、価格交差弾力分析があります。もし、顧客が支払う費用(心理的ストレスを含むコス ト)が、購入後にバランスが取れなければ、再度元の競合製品へと戻ってしまいます。 3.3. 流通(Place) マーケティング・ミックスにおける顧客との関係の価値創造と維持にあたって、消費者 に提供すべき顧客価値を顧客の手元に適切に届ける方法が流通(Place)になります。つ まり、消費者が求めるものを手元に届けることで、価値の実現化が図れることになります。 従って、流通とは、製造業者(メーカー)からターゲットとなる最終ユーザー(消費者) に製品が渡るまでの場所(経路(チャネル))のことを言います。その機能は、生産者と 消費者の懸隔を埋めることを意味します。生産者と消費者の懸隔を埋めるには、①場所 (空間)、②時間、③所有、④形態を検討する必要があります。各流通段階の機能としては、 ①メーカー:商品流通の促進により顧客満足の充足、②卸売業:流通コスト、時間などの 投資資源の効率化、③小売業:購入の機会損失の最小化が挙げられます。 流通を検討するうえでは、商取引の流れとしての経路(商流)、製品の輸送 ・ 保管に関 する経路(物流)という 2 つの視点があります。物流機能とは、①配送(商品・品 え・ 誤置き(場所 ・ 人))、②配達時間(配車・ピッキング)、③保管場所(ロケーション管理 FT コード、 先入先出し、日付管理)、④商流補完(納品 ・ 検品・伝票)に分けられます。商流機能とは、 ①受発注(受注・発注)、②代金回収(納品受領伝票、振込)、③顧客管理(名簿、与信管 理)、④金融リスク分担(流通に必要な資金の調達と融資)に分けられます。 そこで、生産者と消費者の懸隔を埋めるための方法として直接流通か間接流通の 2 つの
手段があります。直接流通は、生産者と消費者が直接接触し取引することです。そのメ リットは、情報伝達、商品配送などの取引が確実且つ迅速になります。一方、デメリット として、流通コストが相対的に高苦なります。その事例としては、通信販売(カタログ、 インターネット、TV 等)、訪問販売などが挙げられます。また、間接流通は、生産者(M) と消費者(C)の中間段階に流通業者(卸売業者(W)、小売業者(R))が介在すること になります。そのメリットとしては、流通コストが相対的に低くなります(図 6)。その 理由は、下図 8 にあるように製造業(M1−3)と消費者(C1−3)との間の取り引数は、 間接流業者(W)が介在することによりその取り引数は 9(3×3)から 6(3+3)に減少し ます。製造業と消費者の取り引数は直接流通では製造業数Xと消費者数Yの掛算になりま すが、間接流数では製造業数Xと消費者数Yの足算になります。従って、流通業者の数が 増加すればその効果は大きく増加します。但し、デメリットは、仲介業者が入ることによ り情報伝達、商品配送などの確実性・迅速性が低下することです。消費者の数が増え、 チャネルの数や段階が増えると、コストが増加しますので、十分な経済性分析と同時に、 商品配送などの確実性・迅速性が低下しないように、物流サービス品質等の「見える化」 が必要になります。 図 7 取引数最小化の原理 そこで、中間業者を選択する場合の重要な評価機軸は、①調査力(製品の交換を計画し、 実施する為の情報収集、②プロモーション(広告、販売促進の促進、人的販売)、③接触 力(見込み客を探し、コンタクトをとること)、④マッチング力(顧客の要求にあわせた 製品を提供する為に、包装 ・ 組み合わせを行う、メンテナンス・サービス)、⑤交渉力(価 格を含む販売に関わる諸条件の最終合意作りを行う)が挙げられます。その流通戦略の種 類には、①直販流通(通信販売)、間接流通、②オープンチャネル(開放的)政策、③セ
レクトチャネル(選択的)政策、④クローズドチェネル(排他的・代理店)政策がありま す。その流通戦略選択の意思決定は、商品特性、ターゲットとする顧客特性、競争環境、 経営資源等から十分な検討を行い意思決定する必要があります。 3.4. 販売促進(Promotion) 販売促進(Promotion)とは、消費者に対して、 商品、 購入場所 ・ 方法、 及び価格につ いて説得し、想起(思い起こさせる)情報提供活動であるといえます(10)。どんなに良い 製品を開発しても、消費者にそれを知っていただけなければ販売には結びつかないといえ ます。その具体的な活動には、広告、人的販売、販売促進(狭義のプロモーション)、パ ブリシティ等があります。これらの販売促進手法を表側に、その特性、機能、具体的方法 を表頭にして、一覧化したものが下図 8 となっている(5)。以下に、そのおのおのについ て説明を加えながら解説をしていく。 図 8 グロービス MBA マーケティング(ダイヤモンド)を参考に筆者作成 広告とは、広告主が優良の媒体を通じてメッセージを伝達する施策です。広告の特徴に は、広告主が明示される点、非人的媒体が介在している点、広告主が料金を支払っている 点、の 3 つがあります。使用される媒体にはマス媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)、 口コミ、インターネット広告、屋外広告(地域セグメンテーションが可能、再接触率が大
きい)などがあります。これらの媒体を通じた顧客へのメッセージが、本当に消費者に とって分かりやすく、納得のいく表現になっているかどうかという視点から、コミュニ ケーションを考えるよう検討が必要である。 人的販売とは、販売員や営業担当者を媒体として行われるコミュニケーションと販売の 活動です。人的販売は顧客ニーズや状態に合わせて説明活動や販売活動が行われるため、 市場導入して間もない製品や消費者に使用方法を伝える必要の在る製品などのプロモー ションに効果を発揮します。しかし、人を媒介としているために高いコストが必要になり ます。 販売促進(狭義のプロモーション)とは、消費者の製品購入を促進させる短期的な動機 付け施策です。販売促進の目的は、具体的な購買行動を促すことにあります。具体的には、 クーポン、プレミアム(おまけ)、懸賞キャンペーン、ポイント制度、キャッシュバック・ キャンペーンなどがあります。また、店内に入店する前に購入する製品を決定させること を目的にするものと、入店後の購入を促進させる目的のもの(特にこれをインストア・プ ロモーションという)とがあります。使用者(ユーザー)と購買者(ショッパー)は異な るという視点から、ショッパー行動の分析を行うショッパー・マーケティングという考え 方があります。後発企業にとって、これらの販売促進施策は、先発企業の足元をすくう手 段として大変有用効果的な手段で、実社会でも多く用いられています。 口コミとは、消費者同士のネットワークによるSNS情報のやり取りを利用した販売促 進方法である。近年では、この Twitter やブログ、インスタグラムといったSNSを活用 して、話題に上ったキーワードやビジュアル映像を活用し、一連の販売促進サイクルとし た活用が目立ってきている。また、企業が行った販売活動が即日、消費者反応として、手 元に届くことから双方向のコミュニケーションが可能となり、これまででは考えなれない ほど速いスピードで、販売施策評価と変更が可能な手段となっている。 パブリシティとは、自社や自社製品の情報がTV番組や新聞 ・ 雑誌などのマス媒体やイ ンターネットの記事として取り上げられることを言います。番組や記事として取り上げら れる活動のことをパブリシティ活動と言います。媒体側が情報を取り上げるかどうかを判 断するため広告料は無料となり、パブリシティに対して企業側がその内容や時期について もコントロールすることができません。但し、媒体側が公平な観点から情報を報じている と消費者が判断しているため、同じ内容を広告で伝えた場合よりも、その内容について信 憑性を持つ場合があります。その他、媒体が企業から費用を支払ってもらった上で記事風 に情報を取り上げる活動をペイド・パブリシティといったものもあります。
参考文献 (1) 阿部周造、消費者情報処理理論、中西正雄編著、消費者行動分析のニュー・フロンティア、誠 文堂新光社、1984 (2) 石井淳蔵、マーケティングの神話、岩波現代文庫、2004 (3) 井関利明、消費者行動、富永健一編、経済社会学、東京大学出版会、p45-82、1974 (4) 今井秀之・原憲子・山岡俊樹、『生活者インサイト研究活用による商品開発事例』、日本感性工 学会関西支部大会2011(2011.5.20-5.21) (5) グロービスMBAマーケティング - グロービス経営大学院, ダイヤモンド社 ; 改訂 3 版 ,2008,p43-58 (6) 嶋口光輝,顧客満足型マーケティングの構図,有斐閣,1994 (7) 廣田幸光・石井淳蔵、1 からのマーケティング<第 2 版>、碩学舎、2004 (8) フィリップ・コトラー,ケビン・レーン・ケラー著,恩蔵直人監修,月谷真紀訳,コトラー& ケラーのマーケティング・マネジメント,㈱ピアソン・エデュケーション,2008 (9) 和田充夫、ブランド・ロイヤルティ・マネジメント、同文館、 2002
(10)Howard、J.A. and Sheth、J.N.、 The Theory of Buyer Behavior、 Wiley、New York、1969
(11)Cooper,R. G. & keinschmidt E. J.,New Products, What Separates Winners from Losers?,Journal of Product Innovation Management(4),p169-184,1987
(12)Crawford C. Merle,Protocol New Tool for Product Innovation, Journal of Product Innovation Management(2),p85-91,1984
(13)Rothberg R.R.,Product Innovation in Perspective,In Corporate Strategy and Product Innovation, ed Rothberg,Free Press,1981
(14)Urban, Glen L. & John R. Hauser, Design and Marketing of New Product, Prentice-Hall Inc. ,1993 (15)Vandermerwe,Sandra,Diffusing New Ideas In-House,Journal of Product Innovation Management,4 ,
p256-264,1987
引用文献
[1] Kotler Philip,Marketing Management Eleventh Edition,Pearson Education International,p223,(村 田昭治監修,小坂恕,疋田聡,三村優美子訳,マーケティング・マネジメント,プレジデント社, 1996