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パリ協定における気候資金に関する決定とその意味 (特集 「パリ協定」後の気候変動対応)

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Academic year: 2021

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(1)

パリ協定における気候資金に関する決定とその意味

(特集 「パリ協定」後の気候変動対応)

著者

清水 規子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

246

ページ

20-23

発行年

2016-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002992

(2)

  過 去 の 国 連 気 候 変 動 枠 組 条 約 ( 以 下、 条 約 ) の 締 約 国 会 議 で も そうだったように、昨年末のパリ での第二一回締約国会議(以下、 パリ会議)でも、気候変動対策の ための資金(以下、気候資金)の 供与は、各国の交渉駆け引きの材 料になった。途上国の緩和行動を 引き出したい先進国と、先進国か らの資金議題での譲歩を引き出し たい途上国のせめぎあいのなか、 二〇二〇年後の気候資金に関する 事項が決定した。以下、気候資金 に関する背景を踏まえつつ、パリ 協定において気候資金で何が決定 し、またそれは何を意味するのか を概観する。   そもそも、気候資金の議題は条 約上どのように位置づけられてい るのだろうか?   条約の第四条三 項では「先進国は、……開発途上 締約国が必要とする新規のかつ追 加 的 な 資 金 …… を 供 与 す る 」、 ま た同条四項では「先進国は……気 候変動の悪影響を特に受けやすい 開 発 途 上 国 が … : … 適 応 す る た め の費用を負担することについて、 当該開発途上国を支援する」とあ る。したがって条約の下では、途 上国の緩和および適応の取り組み への資金を供与する義務が先進国 に対して課されている。これらの 条項に基づき、過去の締約国会議 でも先進国に対する途上国から資 金の供与への声があったが、その 声は年々強くなってきている印象 を受ける。   条約締約国のうち、世界の全排 出の八五~八八%を占める計一四 六カ国は、パリ会議に先立ち、各 国国内で決定した、二〇二〇年以 降の気候変動対策に関する国の目 標、いわゆる「約束草案」を条約 事務局に提出した(提出国の数は 二〇一五年一〇月一〇日時点のも の) (参考文献①) 。資金について は、この約束草案において、途上 国のうち三九カ国が自国の緩和行 動を実際に実施するか否かは資金 供与等の条件次第とし、また四二 カ国は、条件付きで緩和行動を実 施する場合と無条件で緩和行動を 実施する場合の二つの選択肢を示 した。さらに、九一カ国は海外か らの資金供与の必要性を述べてい る。したがって先進国にとっては、 途上国による緩和目標を取り付け、 あるいは引き上げるためにも、パ リ会議での気候資金議題は非常に 重要な位置づけであった。   さて、気候資金については、近 年最も重要な目標が二〇〇九年に 合意されている。それは、先進国 から途上国に対して二〇二〇年ま でに官民合わせて年間一〇〇〇億 ドルを動員するという、いわゆる 「 長 期 資 金 」 の 目 標 で あ る。 で は、 パリ協定では二〇二〇年後の気候 資金については何が決定したのだ ろうか?   そして、それは二〇二 〇年後の気候資金に何を意味する のだろうか。   パリ会議でおそらく最も議論が 白熱した議題のひとつは、二〇二 〇年後に気候資金に関する目標を どうするか、という議論であろう。 前述のように、二〇二〇年までの 長期資金の目標は既に決まってい たが、それ以降の動員額の規模に ついてはパリ会議までは合意がな かった。そこでパリ会議では、二 つの重要な決定があった。一点目 は、先進国が現在の年間一〇〇〇 億ドル動員という長期資金の目標 を二〇二五年まで継続(を意図) すること。二点目は、二〇二五年 よりも前に、年間一〇〇〇億ドル を下限とする新たな目標をパリ協 定締約国会議で設定することが義 務化されたこと、である。途上国 はこれを(法的拘束力のある)パ リ協定に含めたかったが、先進国

特 集

「パリ協定」後の気候変動対応

 

清水

  規子

(3)

の反対によって、パリ協定には盛 り込まれず、締約国会議の決定事 項として合意された。   このように、二〇二五年までは 一〇〇〇億ドル、その後は一〇〇 〇億ドルを下限とすることが決ま ったが、そもそも、この年間一〇 〇〇億ドルという数字は何を根拠 としているのだろうか?   実は、 年間一〇〇〇億ドルは科学的根拠 に基づいて計算されたのではなく、 条約の交渉で政治的に決定した数 字である。では、実際には、一体 今後いくらの気候資金が必要にな るのだろうか?   これについては、様々な研究機 関や国際機関が試算している。た とえば、国際エネルギー機関(I EA)は、二度目標を達成するた めのエネルギー供給およびエネル ギーの効率化に必要な投資額は、 二〇一四~三五年に計五三兆米ド ルが必要であると見積もっている ( た だ し、 こ の 見 積 も り に は、 二 〇三五年までに非効率な化石燃料 への投資を段階的に廃止すること を想定しているため、非効率な化 石燃料への投資額六九〇〇億ドル も含まれている) (参考文献②) 。 つまり、年間約五兆ドルである。 一方、二〇一一年から一三年の間 に世界のエネルギー供給分野へ投 資された額は年間一兆六〇〇〇億 ドル超であり、二度目標を達成す るための資金の需給ギャップは大 きい(参考文献②) 。   ただし、緩和コストの見積もり は、各研究によって大きな幅があ る。気候変動に関する政府間パネ ル(IPCC)の第五次報告書で も、緩和の経済コストの見積もり は各研究によって大きく異なり、 それは計算時のモデル設計、前提 条件、将来の気候変動の予測シナ リオに大きく左右されることが指 摘 さ れ て い る( 参 考 文 献 ③ )。 さ らに、気候変動対策による効果や、 適応と緩和の相互作用による影響 等、実際には経済費用に何らかの 形で影響を与えるものの、計算上 は考慮されていない点も多い。   適応については、主要な研究と しては、スターンレビューの四~ 三 七 億 ド ル / 年( 参 考 文 献 ④ )、 国際開発計画の八六~一〇九億ド ル / 年( 参 考 文 献 ⑤ )、 条 約 事 務 局の二八~六七億ドル/年(参考 文 献 ⑥ )、 世 界 銀 行 の 七 〇 ~ 一 〇 〇億ドル/年などがある(参考文 献 ⑦ )。 そ し て 適 応 に つ い て も、 IPCCは、前述した試算の計算 方法はそれぞれ限定的な資金ソー スのみを元に計算されているため、 確信度は低いとされている(参考 文献⑧) 。   一〇〇〇億ドルは、先進国から 途上国への資金のみを対象にして いるが、これらの見積りは国内資 金や途上国間等、他の資金フロー も含んでいるため、単純な比較は できない。ただし、欧州の研究機 関による試算を参考に気候資金の うち、先進国から途上国への資金 フローが約一割を占めている(参 考文献⑨)とすると、IEAが二 度目標のために必要としている額 の一割は年間五〇〇〇億ドルであ る。この数字と比較すると年間一 〇〇〇億ドルという数字は十分と はいえないだろう。これらの見積 もり額は、気候資金の必要額を検 討するうえでの参考にはなり得る が、前述の様々な計算上の限界を 鑑みても、また以下に論じるよう にその資金をどのように使うかと いう観点の重要性からも、これら の数字をもってそのまま目標額と することは妥当ではないだろう。   条約の交渉で議論されている資 金額の中身をもう少し考えたい。 前述したように既に二〇二〇年ま でに一〇〇〇億ドルを動員するこ とは決定している。コペンハーゲ ン合意は、この一〇〇〇億ドルに は代替資金源を含む、公的資金、 民間資金、二国間資金、多国間資 金という様々な種類の資金源から 成るとされているが、具体的にど のような資金を含めるのか、また、 どのように一〇〇〇億ドルを計上 し、積み上げていくのかに関する 国際的な合意がない。   さらに、何をもってして「緩和 対策」や「適応対策」とするのか についても、国際的な合意がない。 この一〇〇〇億ドルという気候資 金の定義については、条約の下に 設立された資金に関する常設委員 会 に お い て、 「 気 候 資 金 は、 温 室 効果ガス排出を削減しまたその吸 収源を強化すること、また気候変 動による負の影響への、人および 環境システムの強化を維持および 増大することを目的としたもので ある」と二〇一四年に意見集約し ているが、未だ曖昧である。   この定義の曖昧さから生じてい る議論で最も顕著な例としては、 石炭火力発電所への支援の是非で ある。国際的には、数年前から石 炭への海外支援に規制をかける動

(4)

きが広まりつつある。二〇一三年、 アメリカでは、最貧国を除いて新 規の従来型の石炭火力発電所への 公的支援の中止を決定した。また、 二〇一五年九月には、中国も、大 気汚染をもたらす高炭素な事業へ の公的資金の注入を国内外で厳格 に規制をかけることを発表した。 世界銀行等の主要な国際金融機関 も、二〇一三年に途上国への新規 の 石 炭 火 力 発 電 所 へ の 支 援 を、 ( 代 替 案 が な く か つ 基 本 的 な エ ネ ルギーニーズを満たすという)極 めてまれなケースを除いて、取り やめることを決定している。一方、 日本は、以上の国際的な潮流に反 して、海外への石炭支援に積極的 である。実は、日本が二〇一〇~ 一二年に供与した短期資金には、 国際協力機構や国際協力銀行によ る、ウズベキスタンやインドネシ アへの支援が含まれており、二〇 一四年の締約国会議の直前には、 本件が海外メディアでも取り上げ られ、議論を呼んだ。二〇一五年 一 一 月 に は、 経 済 協 力 開 発 機 構 ( O E C D ) の 輸 出 信 用 グ ル ー プ で、輸出信用機関による石炭火力 発電所への支援について、五〇〇 メガワット以上の超臨界のユニッ トの石炭火力発電所等、一定の基 準を満たさない石炭火力発電所へ の支援はやめることになった(た だし、規制対象は「輸出金融」の みである。日本の国際協力銀行の 場合、輸出信用は支援額合計の約 一割であり、石炭火力発電所への 支援に十分に歯止めをかけたとは い え な い )。 い ず れ に し て も、 一 〇〇〇億ドル、それから二〇二五 年以降の気候資金にこのような石 炭火力発電所への支援が含まれる のか、未だわからない。   次に、どのように一〇〇〇億ド ルを計上するのか、という点につ いてだが、現在の気候資金の分野 では、先進国から途上国に無償で 一億円供与しても、また有償で一 億円の資金供与をしても、どちら も「一億円の気候資金」である。 日本の場合、二〇一〇~一二年の 三 年 間 で( 民 間 資 金 を 含 ん だ 場 合)合計一七六億ドルを供与した と発表しているが、内訳は無償資 金協力、有償資金協力、その他政 府資金、民間資金、という異なる 種類の資金供与の手段が含まれて いる。   このような状況では、何をもっ てして一〇〇〇億ドルを達成した のかもわからない。このような背 景から、パリ会議での締約国会議 決定では、公的資金および公的資 金が動員した(民間)資金の計上 方法を策定することを、条約の下 に設置されている「科学および技 術の助言に関する補助機関(SA BSTA) 」に要請している。   以上のように、単に一〇〇〇億 ドルという数字だけでは、その額 が果たしてどれだけの先進各国に よる実質的な負担を意味するのか、 そして気候変動対策にどれだけ貢 献をしていて効果があるのか、明 らかではない。二〇二〇年以降、 一〇〇〇億ドルを下限とした気候 資金が求められているが、その額 以上にその内容の検討が必要であ る。額が大きくなっても、石炭火 力発電所への支援額が大きくなっ てしまえば、その効果は減少ある いは逆効果となってしまう。   最 後 に、 「 誰 が 」 二 〇 二 〇 年 後 の気候資金を供与するのかについ て論じたい。欧州の研究機関気候 政策イニシアティブは、二〇一三 年の世界の気候資金は、官民合わ せて約三三一〇億米ドルで、この うち国内投資が約四割、また民間 資金は六割弱を占めていると見積 も っ て い る( 参 考 文 献 ⑨ )。 し た がって、気候変動分野では国内投 資や民間セクターが今後もさらに 重要な役割を担うことが期待され ることはいうまでもない。   一方、本稿では特に条約におけ る交渉で最も議論になった政府支 出による気候資金のうち公的資金 を「誰が」供与するべきか、とい う議論について焦点をあてたい。 さて、この気候資金を「誰が」供 与するかという点について、条約 で は、 「 先 進 国( 附 属 書 Ⅱ 締 約 国 )」 が「 途 上 国( 非 附 属 書 Ⅱ 国 )」 に 対 し て 資 金 供 与 す る こ と が謳われている。ただし、ここで いう先進国は、一九九二年のリオ サミットにおける条約採択時にO ECDに加盟していた二五カ国を 指している。しかし、一九九二年 時点でOECDには加盟していな くても、現在は加盟しいわゆる先 進 国 入 り を 果 た し た 国( 例 = 韓 国 )、 ま た 加 盟 し て い な い も の の 既に開発援助の分野では新興ドナ ーとして頭角をあらわしている国 ( 例 = 中 国 ) も あ り、 一 九 九 二 年 時点でのOECDの加盟・非加盟 というすみわけを、そのまま、パ リ協定の資金供与国・被供与国と いう分類に当てはめることに合理

(5)

特集:パリ協定における気候資金に関する決定とその意味 性があるのかは疑問である。実際、 条約の下に二〇一〇年に設立が決 定した緑の気候基金に二〇一五年 一一月までに拠出プレッジ(計一 〇二億ドル)をした三八カ国のな かには、モンゴル、メキシコ、韓 国、パナマ、ペルー、インドネシ ア、コロンビアといった、条約の 下での途上国も含まれている。ま た、中国は、二〇一五年九月、計 三一億ドルの規模の「気候変動に 関する南南協力のための基金」の 設立を発表した。このように、経 済的な側面からみると一九九二年 と状況が変化したという認識もで きるが、パリ会議では、このよう な意見に対して多くの途上国が異 を唱えた。たとえばベネズエラは、 開発が必要であるという途上国の ニーズも、また(先進国に資金供 与の義務があると謳われている) 条約も変わっていないと述べてい る。   この点、パリ協定ではどのよう な決定があったのだろうか?   パ リ協定では、その第九条第一項に おいて、先進国は条約の既存の義 務を引き続き負い、緩和と適応の 資金を途上国に供与することが義 務であり、第三項では、先進国は、 気候資金の動員をリードし続ける ことを義務とすることが書かれて いる。つまり、先進国に資金供与 の「義務」がある点では、条約お よび過去の締約国会議決定と何ら 変わりはない。一方、パリ協定第 九条第二項では「その他締約国」 に対して自発的な支援供与を奨励 しており、先進国と途上国の間の 差異を持たせつつも、先進国以外 の国にも資金支援を自発的にでも 促している。さらに、資金供与に 関する条約事務局への報告につい ても、パリ協定第九条第五項およ び七項において先進国が隔年で義 務として提出することが求められ ているが、同時に、それ以外の国 についても同様のことが奨励され ている。気候資金については、資 金の内容が重要であると前に強調 したものの、一定額は必要であり、 それには過去の歴史的排出量の大 小に関わらず「現在の」経済大国 による協力も重要であろう。   以上、パリ協定における気候資 金議題について、特に資金額、額 の中身の重要性、資金供与者に関 して概観した。本稿では、パリ協 定の第九条という資金に関する条 文について紹介したが、実はパリ 協定の第二条(目的)の条文のひ とつに資金に関する目的がある。 それは、資金フローを低炭素かつ 気候耐性のある開発への道筋と整 合性のあるものにすること、とい う も の で あ る。 条 約 の 交 渉 で は 往々にしてその額の増大が交渉の 争点となり、また注目されてしま うが、気候資金が、この目的に沿 うようになることが最も重要であ る。さらに、条約の枠を超えて、 資金の出所や形態に関わらず、国 際的な資金がいかにこのパリ協定 の目的に沿うような「クリーン」 な事業に向けられるかどうかが重 要であろう。この問題は、条約内 で の 議 論 に 留 ま ら な い、 G 20や 様々な国際機関等による幅広い取 組が必要である ( し み ず   の り こ / 公 益 財 団 法 人 地 球 環 境 戦 略 研 究 機 関〈 I G E S〉研究員) 《参考文献》 ①

UNEP, The Emissions Gap Re

-port 2015, A UNEP Synthesis Report, 2 01 5. ② IEA, World Energy Investment Outlook, 2014. ③ IPCC, Climate Change 2014, Im pa cts , A da pta tio n, an d V ul-nerability, 2014. ④ Stern, N., Stern Review: Eco -nomics of Climate Change. Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2006. ⑤ UNDP, UNDP Methodology Guidebook for the Assessment of Investment and Financial Flows to Address Climate Change. Version1. New York: UNDP. 2009. ⑥ U N F C C C , I nv est m en t a nd F i-na nc ia l F lo w s to A dd re ss C li-mate Change. Background on the analysis of existing and planned investment financial flows relevant to development of effe ctiv e an d app ropr iate in -ternational response to Climate Change, Bonn: UNFCCC Secre-tariat, 2007. ⑦ W or ld B an k, E co no m ic s of Adaptation to Climate Change: Synthesis Report, Washington, D.C.: The World Bank Group, 2010. ⑧ IPCC, Climate Change 2014, Mitigation of Climate Change, 2014. ⑨ C lim ate P oli cy In itia tiv e, T he Global Landscape of Climate Finance 2014.

参照

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