認知症の脳活性化リハビリテーション
山上 徹也
1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科リハビリテーション学講座 私は 1997年に本学保 学科の 1期生として理学療法専 攻に入学し,学部卒業研究,博士前期・後期課程と一貫して 山口晴保先生 (現群馬大学名誉教授,認知症介護研究・研修 東京センター長) のもとで認知症のリハビリテーション (リハ) に関する研究に従事してきました. 本稿では認知症 リハのこれまでの流れと脳活性化リハをご紹介させていた だきます. 認知症リハの流れ 従来, 認知症は進行性の疾患であり, リハを行っても効 果がない, もしくは脳血管障害や運動器疾患患者の合併症 であり, 認知症があると指示理解ができず, リハが進まな いため, リハの阻害因子」と えられていました. 実際私 が臨床現場にでたころ (2001年頃) は, 重度の認知症を合 併した患者等では, リハの処方を中止していただくことも あり, 認知症者に積極的にリハは行われていませんでした. そのため先行研究も少なく, 文献検索に苦労したことを覚 えています. その後, 高齢化が進み, 介護保険施設の入所者 では約 9 割が認知症を有し, 回復期リハ病棟の入院患者で も 3-5割が認知症を合併している状態となり, 認知症が あっても効果的なリハを行うことが求められるようになり ました. 近年では介護保険において 2006年より認知症短 期集中リハ加算が, 医療保険において 2014年より認知症 患者リハ料, 2016年より認知症ケア加算が認められるな ど,リハ・ケアで認知症者の生活障害を軽減し,QOL を高め ることが求められています. 認知症の脳活性化リハ 脳活性化リハは表 1を原則とし, 認知症者の残存機能 を引き出し, 認知症という困難を抱えながらも楽しく前向 きに暮らせるよう支援すること」です. 進行性の疾患であ る認知症では, リハによる認知機能の改善を目指すのは, 極軽度な場合を除いては効率的ではありません. また認知 症により病識が低下するため, 複雑な認知トレーニングは 目的が理解できず協力が得られにくいです. そこで脳活性 化リハでは認知症者の残存機能に注目し, 認知症者のでき ること, 好きなこと, 得意な事をテーマとして, 仲間とコ ミュニケーションをとりながら実施します. そうすること で認知症者のモチベーションが高まり, 協力が得やすくな ります. また失敗しそうになったら, さりげなくフォロー し, 成功に導き (満点主義), 活動の中で褒めたり, 感謝の気 ―361― 文献情報 投稿履歴: 受付 平成29年8月30日 修正 平成29年9月8日 採択 平成29年9月14日 論文別刷請求先: 山上徹也 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科リハビリテー ション学講座 電話:027-220-8799 E-mail: yamagami@gunma-u.ac.jp流 れ
2017;67:361∼362 表1 脳活性化リハビリテーションの 5原則 1. 快刺激で笑顔になる 2. ほめることでやる気がでる 3. コミュニケーションで安心する 4. 役割を演じることで生き甲 が生まれる 5. 失敗を防ぐ支援で成功体験を増やす持ちを伝えます. そうすると認知症により失敗・喪失体験 が積み重なり, 自己肯定感や自尊心が低下した認知症者が, 笑顔になったり, 元気になってくださいます. 脳活性化リ ハで前向きに楽しく頭と体を って, 他者と わることは, 廃用を防ぎ, ひいては認知症の進行予防にもつながります. 脳活性化リハの代表的なプログラムの 1つである, 作業 回想法は仲間と思い出を語り合う回想法に古い生活道具な どを う作業を組み合わせたものです. 作業回想法では, 対象者が体験してきた家事, 手仕事, 遊びなどをテーマに, なじみのある懐かしい道具を用い, スタッフに対して作業 の仕方を指導してもらうように進めます. 残存機能である 遠隔記憶と手続き記憶を活用するため, 認知症者でも取り 組みやすいです. 認知症者に盥や洗濯板などを見ていただ き, い方を教えてください」とお願いすると, 懐かしい ねー」「昔はよくやったよ」と目を輝かして語ってください ます (図 1). また教えていただいた洗濯板の い方を筆者 が実演すると, そんなのじゃダメだ」, もっとこうして」 と自信たっぷりに指導してくださいます. 筆者は作業回想 法を通じて, 認知症者から多くの事を教えていただきまし た. また認知症があってもわかる・できることがあること を知りました. そして認知症があっても, 常高齢者と変 わらないと感じました. つまり認知症になっても, 様々な 知識や経験は保たれており, 環境さえあればそれらが発揮 されるのです. 作業回想法を中心とする脳活性化リハの効 果を無作為化比較試験で検討し, 認知症の全般的重症度や QOL の重度化予防効果を示しました. 今後も日本, 世界で認知症者数の増加が予測されてい ます. 私自身も脳活性化リハの原則に基づいて, 大好きな 認知症リハの研究を発展させ, 認知症になってもいきいき と笑顔で生活できる社会の実現に少しでも貢献できればと 思います.最後になりましたが,これまでご指導・ご支援い ただきました, 先生方, 関係各所の皆様に感謝しておりま す.また,今後ともご指導・ご鞭撻のほど宜しくお願い申し 上げます. 文献 1. 山口晴保, 佐土根朗, 沼記代ら. 認知症の正しい理解と包 括的医療・ケアのポイント 第 3版. 東京 : 協同医書, 2016. 2. Yamagami T, Takayama Y, Maki Y, et al. A randomized controlled trial of brain-activating rehabilitation for elderly participants with dementia in residential care homes. Dement Geriatr Cogn Dis Extra 2012;2:372-380.
3. 山上徹也, 堀越亮平, 田中壮佶ら. 老 における脳活性化リ ハビリテーションの有効性に関する RCT 研究. Dementia Japan 2015;29:622-633. 認知症の脳活性化リハビリテーション 図1 認知症者が昔の洗濯のやり方 を指導している場面 ―362―