飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡を用いた
エラーマンボムの多波長同時分光観測
学籍番号
11s1020
氏名 加藤 友梨
論文要旨
本論文では, 京都大学大学院理学研究科附属飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(Domeless Solar Telescope: DST)を用いて太陽表面の黒点近傍で発生するエラーマンボムの多波長同時分光観測を行い, そ の分光学的特性について解析を行った結果について報告する. 本観測は2012年7月及び2013年7月に行われた. 2012年の観測ではDSTの水平分光器を用いてHα線 (6562.8˚A)とCa II K線(3933.7˚A)の2つのラインについて分光観測を行い, エラーマンボムのスペクトル データを取得した. 得られたスペクトルデータからエラーマンボムの同定を行い, Hα線とCa II K線の 分光プロファイルの時間的発展を追った. その結果, Hα線のウィング部(±0.8˚A)とCa II K線コア近傍部 (±0.3˚A: K2)の光度曲線はほぼ同じタイミングで増光を示すことが明らかとなった. この増光の時間スケー ルについて統計解析を行った結果,エラーマンボムにおけるK2コンポーネントの短時間増光現象の継続時 間の平均は4分半前後であった. またCa II K線のプロファイルから求めたK2コンポーネントのドップラー シフト量の時間変動と光度曲線のグラフからは,エラーマンボムの増光に伴ってガスが上空に放出されてい ることが示された. また, Hα線のスリットスキャンによるスペクトロへリオグラムデータからも,上空に放 出されたガスがサージとして観測された. 一方で, Ca II K線のライン中心(K3)ではエラーマンボムに伴う 顕著な増光が見られないことから,エラーマンボムは彩層上部ではなく光球から彩層下部にかけて発生していることが明らかとなった. また,太陽観測衛星Solar Dynamics Observatory (SDO)の磁場望遠鏡(HMI)
による太陽光球上部の磁場観測データからは,エラーマンボム発生の直前に,正極磁場が支配的の領域中に 負極の磁場パッチが出現していることが確認された. このことから,彩層下部において既存の正極磁場と新 たに出現した負極磁場の間で磁気リコネクションが発生し,解放された磁気エネルギーが彩層下部を加熱す ることで, Hα線ウィング部とCa II K線K2コンポーネントの増光が引き起こされたと考えられる. さらに, K2コンポーネントのブルーシフトとサージの出現も, 磁気リコネクションの結果発生したジェットによる ものと推測される. この負極磁場は50分間程度継続して観測されたが, 消滅した後もエラーマンボムとサー ジはさらに1時間近く存在しており, HMIの空間分解能以下の微小磁気要素,あるいは光球下部での磁気リ コネクションの存在を示唆する結果となった. また, K2コンポーネントの短時間変動からは,間欠的な磁気 リコネクションが示唆される. 2013年の観測ではDST水平分光器を用い, 前回の観測波長にCa IR線(8498.0˚A)を加えた3波長域にて観 測を行った. 本観測では彩層上部から遷移層へのエラーマンボムによる影響を調べるため, 太陽観測衛星
論文要旨 ii Interface Region Imaging Spectrograph (IRIS)のデータも使用した. その結果, DSTでエラーマンボムが 観測された領域上空の遷移層では, 加熱による増光は見られなかった. 一方, IRISで捉えられた黒点近傍の
輝点は, DSTのスペクトルではライン中心部の増光が顕著であったが,ウィング部の増光は見られなかった.
これより,エラーマンボムによる彩層下部の加熱は遷移層までは及んでおらず,一方遷移層の増光現象は彩
目次
論文要旨 i 第1章 イントロダクション 1 1.1 太陽. . . 1 1.2 磁気リコネクション(magnetic reconnection) . . . 6 1.3 エラーマンボム. . . 8 1.4 分光観測 . . . 9 1.5 本論文の構成 . . . 10 第2章 観測 11 2.1 観測方法 . . . 11 2.2 観測日時 . . . 13 第3章 観測結果及び解析結果 15 3.1 2012年7月31日 . . . 15 3.2 2013年7月30日 . . . 23 第4章 考察 31 4.1 2012年7月31日のエラーマンボム . . . 31 4.2 2013年7月30日のエラーマンボム . . . 33 第5章 まとめ 35 謝辞 37 引用文献 381
第
1
章
イントロダクション
1.1
太陽
太陽は地球に最も近い自ら輝く恒星であり, 表面を詳細に観測できる唯一の天体である. 太陽研究の歴 史は約400年前のガリレオの自作望遠鏡による黒点発見から始まった. 近年では観測技術が発展し観測環 境に適応した地上観測及び「ようこう」「ひので」といった数々の衛星観測により高品質なデータが取得 できるようになり, 太陽研究は飛躍的に進歩している. 太陽は直径約140万km(地球の約110倍), 質量は約 2× 1030kg(地球の約33万倍)である. しかし平均密度は水の密度の1.4倍(地球の平均密度は水の密度の5.5 倍)しかなく, 9割以上が水素から成る巨大なガス球である. 恒星としてみると太陽が属する銀河系ではあり ふれた主系列星であり,スペクトルはG2型である.1.1.1
太陽の構造
図1.1 太陽の構造*1 太陽中心から約20万kmの範囲は中心核と呼ばれ,水素の核融合反応により3.83× 1026Wのエネルギーが 生成されている(図1.1). その温度は1600万Kで気圧は2000億気圧, 密度は水の160倍であり高密度な領域で ある. 生成したエネルギーは周囲の物質と相互作用しながら, 放射エネルギーとして太陽外層に伝わってい く. この層は放射層と呼ばれ,厚さ40万km,温度は800万Kであり,中心核が放つ光子が放射層を通過し表面 に出るまで数十年はかかる. 太陽の外層では光の吸収散乱断面積が増大するため, 放射だけでエネルギーを 運ぶのは難しくなる. これに加え,水素やヘリウムが完全電離していない層にさしかかると比熱比が小さく なり断熱膨張・圧縮の際の体積変化が大きくなるため,対流不安定となりエネルギーは対流で運ばれるよう になる. この層は対流層と呼ばれ厚さ20万km温度は800万Kから7000Kである. 対流層は表面直下の層であ り,太陽表面より外側で起こる様々な活動現象と密接に関わっている. 我々が可視光で観測した際に見るこ とができる太陽表面は光球と呼ばれ,その厚さは400km程度である. 光球の温度は6000Kと比較的低温なた第1章 イントロダクション 3 め, 水素負イオン(H−)がわずかに存在している. この水素負イオンが対流により運ばれてきた放射エネル ギーをいったん吸収し,ほぼ5800Kの可視光及び赤外線を主とした電磁波を放射する. 光球には黒点や白斑 などが見られ, 1000G(ガウス)程度の磁場を持つ微細磁束管が散在している. また光球には粒状斑や超粒状 斑といった様々な対流パターンがあり, これらの相互作用により微細磁束管は生成と消滅を繰り返す. 光球 上空には彩層と呼ばれる厚さ2000km, 温度6000Kから1万Kの太陽大気層がある. 彩層では, スピキュール と呼ばれる針状の構造や磁気エネルギーの解放現象であるフレアなど,活発な活動が観測される. 彩層の上 端部には遷移層と呼ばれる厚さ推定100km以下,温度が数万Kから100万Kまで急激に変わる薄い層がある. この層は極端紫外光の輝線を放射しており,彩層同様にダイナミックな活動現象を示すが,その詳細な機構 は未解明である. 太陽大気の最上層部を構成するコロナは高温で希薄な領域で,温度が150万Kから200万K もある. このためコロナからは強いX線が放射されているが, 地球大気による散乱や吸収のため,過去では 皆既日食時や高山における観測でのみその様子を捉えることが可能であった. 現在では宇宙空間からのX線 観測により,常時太陽のコロナを観測することができるようになった. 比較的低温な彩層の上空に高温のコ ロナが存在するという問題は「コロナ加熱問題」と呼ばれ,太陽研究における大きなトピックの1つである. コロナからは太陽大気が常に惑星間空間に向かって流出しており,太陽系全体を満たしている. この太陽由 来のプラズマ流を太陽風と呼び,地球磁気圏ひいては我々の生活環境とも密接に関わっている.
1.1.2
太陽黒点
図1.2 太陽リム近くの黒点*2 太陽の光球面を観測したときに見える周囲よりも暗い領域を黒点と呼ぶ(図1.2). 黒点の典型的な大きさ は数万kmであり, 地球数個分に相当する. Hale (1908) が黒点におけるゼーマン効果を観測したことによ り,黒点に強い磁場が存在することが明らかとなった. 黒点は太陽対流層にある磁束管が光球面上に浮上し てきた際の断面部分にあたり, 強い磁場が存在するため太陽内部からの熱輸送が遮られ,周囲の光球よりも 温度が低くなることで暗く見える. その色は一様ではなく真中に暗部(umbra)と呼ばれる暗い部分, それを 取り囲むように半暗部(penumbra)と呼ばれるやや暗い部分からなる. 半暗部には暗部から放射状に伸びる 筋模様が存在するが, これは合暗部から広がる磁力線を表している. 多くの黒点は2つあるいはそれ以上の 黒点群として出現する. 黒点群は太陽面上に東西方向に並んで現れ, このうち地球から観測して西側(太陽 の自転方向)の黒点を先行黒点, 東側の黒点を後行黒点と呼ぶ. 先行黒点と後行黒点は互いに反対の磁場極 性を持つ. このような典型的な黒点群を双極黒点群と呼ぶ. 黒点の磁場の強さは2000Gから3000Gにものぼ る(地球磁場の1000倍以上の強さ). 同じ場所に複数の双極黒点群が現れる場合には両磁極が複雑に配置され たδ型黒点群に発達し,しばしば大規模なフレアを引き起こす. また太陽の縁近くにある黒点を観察すると 暗部領域が窪んでいるように見える. この深さは400から1000kmであり,このような黒点の窪みのことを発 見者にちなみウィルソン効果(Wilson & Maskelyne 1774)という. ウィルソン効果は強い磁場が存在する第1章 イントロダクション 5 暗部でガス圧が減少し, 光学的厚みが小さくなることにより,より太陽内部まで見通すことができることに よるものと考えられている.
1.1.3
浮上磁場による黒点形成
図1.3 浮上磁場による黒点形成の過程 太陽対流層には磁束管(磁力線の束)が存在している. 磁束管からは磁場強度の二乗に比例した磁気圧が働 く. 磁束管内部では磁気圧の分だけ周囲に比べてガス圧が低いため,ガス密度が減少することで浮力が生じ て磁束管は太陽光球面まで浮上する. このような浮上直後の磁束管を浮上磁場(emerging flux)という. 光球 面に浮上してきた磁束管は,周囲のガス圧が急激に減少するため膨張しながら上昇する. この時, 磁束管中 のプラズマがアーチフィラメント(arch filament)として観測される. 磁束管の光球面での足元付近には小さ な黒点(ポア)が形成され, 次第に大きく成長して黒点となる(図1.3). 一方, 浮上した磁束管は内部のプラズ マを磁力線に沿って流れ落とすことで軽くなり,更に上昇を続けることによって最終的にはコロナまで到達 する. コロナまで上昇した磁束管はコロナループと呼ばれ, X線を放射して明るく輝く.1.2
磁気リコネクション
(magnetic reconnection)
図1.4 磁気リコネクション過程 磁気リコネクションは磁気再結合とも呼ばれ,反平行の磁力線がつなぎかわる現象のことである. プラズ マ中で逆向きの磁力線がプラズマの運動により互いに押し付けられると磁気中性面と呼ばれる境界で強い 電流が流れる. これを電流シート(current sheet)という. 電流が流れている限り逆向きの磁力線はつながら ないが,何らかの原因で抵抗が発生して電流が散逸すると磁力線はつなぎかわる(図1.4). このつなぎ変わる 点はXポイントと呼ばれる. その結果曲がった磁力線に強い磁気張力が発生し,プラズマが激しく加速され 同時にジュール加熱, 衝撃波加熱が起きプラズマが高温に加熱される. このように磁気リコネクションは蓄 えられた磁気エネルギーを短時間にプラズマの運動および熱エネルギーに変換するメカニズムである.第1章 イントロダクション 7
1.2.1
リコネクションモデル
太陽フレア等の爆発現象が磁気エネルギーの解放によって発生していることが明らかになり,単純な磁気 拡散(ジュール散逸)が考えられるようになった. しかし太陽フレアの典型的な大きさから単純な磁気拡散の 計算をしたところ, 実際観測されている太陽フレアの時間スケールが一致しない. フレア領域の大きさを小 さくすることで, 時間スケールは一致させられるが今度は全エネルギーが説明できなくなる. つまり太陽フ レアを説明するためには時間スケールとエネルギーの観点双方の矛盾した要求を満たさなければならない. ゆえに以下のモデルが考えられた(図1.5及び図1.6). 図1.5 スイートパーカーモデル(Parker 1957). エネルギー変換後, Xポイントのプラズマが排出 されることで圧力が低くなりプラズマをともなっ た磁力線がXポイントに近づき,さらに磁力線の つなぎかえを起こす. このプラズマの流れ(インフ ロー)を考慮し,矛盾した要求を満たした. しかし このモデルを導入してもフレアの時間スケールは 長い. 図1.6 ペチェックモデル(Petschek 1964). 磁気流体衝撃波(スローショック)を考慮すること により矛盾した要求を満たした. 図3のXポイント からのびる破線が磁気流体衝撃波を示しており, 磁気流体衝撃波が外側にひらくことによりアウト フローの幅が広がる.結果インフローの速度が速く なり,このモデルはフレアの時間スケール(数分か ら数時間)を満たす.1.3
エラーマンボム
図1.7 リム近くのエラーマンボム. 2013年8月19 日に飛騨天文台DSTにて観測されたリム付近の黒 点で発生したエラーマンボム. 赤い矢印の先にあ る輝点がエラーマンボムである. 図1.8 エラーマンボムのHα線スペクトル. 矢印 の先に見える白い部分がエラーマンボムを示す. ウィング部分にて増光がみられるが, ライン中心 では顕著な増光は観測されない. エラーマンボムまたはムスターシュ(図1.7)はEllerman (1917)により発見された彩層中の小規模な爆発 現象である. Hα線による分光観測結果からは, ライン中心では周囲と同じ吸収が見られ, ウィング部で増 光が見られるという特徴的なスペクトルを持つことが明らかになった(図1.8). 典型的なサイズは1秒角程 度(数百km), 寿命は10‐ 14分と短い. 一般的に浮上磁場領域や黒点半暗部の縁, 上昇中のアーチフィラメ ントの真下に生じる. 高空間分解能観測では細長いジェット状をしており,しばしばサージを伴う. エラー マンボム形成についての解釈はこれまでにいくつか提唱されている. Kitai (1983)は彩層のnon-LTE計算 によりエラーマンボムに特徴的なHα線プロファイルの再現を行う一方で, Henoux et al. (1998)はエネル ギー粒子ビームによる大気加熱を考えHα線プロファイル再現を試みた. 2つの研究は共に太陽大気中の低 い領域(彩層下部)による加熱がエラーマンボムに特徴的なHα線プロファイルを形成することを示唆して いる. Pariat et al. (2004)は対流層中の磁束管が周囲のプラズマ運動で波打つように変形し,パーカー不 安定性(Parker 1966) によって変位が増大することでΩ型のループが連なった形で磁束管が浮上した結果,隣り合うΩ型ループの間(bald patch)での磁気リコネクションによってエラーマンボムが発生するresistive emerging flux tubeモデル(図1.9)を提唱した. Pariat et al. (2004)による浮上磁場領域のエラーマンボム の統計解析からは,発生したエラーマンボムの半数近くが浮上磁束管のbald patchに局在することが明らか
となった. Matsumoto et al. (2008)はエラーマンボムから伸びる双方向のプラズマ流を発見し, このこと
がエラーマンボム中における磁気リコネクションの証拠になると主張している. Isobe et al. (2007)は二次 元のMHDシミュレーションを行いresistive emerging flux tubeモデルの再現を行い,磁気リコネクション
の結果彩層が加熱されジェットが発生する様子を再現した. このような研究から磁気リコネクションがエ
ラーマンボムを引き起こすという考えが有力であるが,エラーマンボムの発生メカニズムと熱変化の詳細な
情報はまだ明らかにはなっていない.
第1章 イントロダクション 9
図1.9 エラーマンボムの磁場構造(resistive emerging flux tubeモデル)*3. 波打った形状で浮上してき た磁束管の隣り合うΩ型ループ間で磁気リコネクションが発生した結果,彩層の深い領域で加熱が起こ る. その結果スペクトル線のウィング部での増光が起こる. 赤い四角の部分がエラーマンボムの発生す るbald patchと呼ばれる領域である.
1.4
分光観測
太陽から放射される光(電磁波)には様々な波長の成分が含まれる. 分光観測ではプリズムや回折格子など の分光素子を用いて光を波長ごとに分けることで,どのような波長の光がどの程度含まれているかを調べる ことができる. 分光観測は太陽のみならず, 天文学において最も基本的かつ重要な光学観測手法の1つであ る. 分光観測からは恒星の自転速度,温度,圧力,銀河の後退速度などが求められる. しかし多くの恒星や銀 河は地球から非常に遠い距離にあるためスリット幅に対し視直径が非常に小さく,個々の現象を空間的に分 解して物理量を求めることが困難である. 一方太陽は我々に最も近い恒星であり, スリット幅に対し十分な 視直径を持ち詳細な観測ができる. たとえば速度の情報に限ってみても, 光球の5分振動や超粒状斑の運動 速度,彩層の固有構造の速度などを分光観測から得ることが可能である. また太陽上のスリット位置を少し ずつずらしながら観測し, 得られたスペクトルからある特定の波長の線だけを取り出して並べることで, そ の波長で見た太陽単色像(スペクトロへリオグラフ)を取得することができる. これは各種フィルターを用い た撮像観測で得られる太陽単色像よりも, 波長分解能の面で優れている. また1回の観測で様々な波長を観 測することができ,撮像観測よりも幅広いテーマに適用できる観測データの取得が可能である.1.4.1
Hα
線と
Ca II K
線による彩層分光観測
太陽の彩層の観測には吸収係数の大きいHα線(6562.8˚A)とCa II K線(3933.7˚A)がよく用いられてきた. これらの吸収線は基本的に, 光学的厚みの大きいライン中心部では彩層上部が観測され,中心から離れるに 従い光学的に薄くなり太陽大気のより深い層が見通せるようになる. このため,単一の吸収線でもライン中 心からの波長によって観測される高度が変化する. Ca II K線は温度に敏感な吸収線であるため, 彩層の加. Ca II K
は異なり,中心波長の両脇に局所的な2つのピーク(Ca II K線の場合, K2v及びK2rコンポーネント)が存在す
る(VはViolet=短波長, RはRed=長波長側)(図1.10). スペクトルから彩層上部に向けて温度が低くなるこ とが分かる. 中心部分(K3コンポーネント)が2つのピークより落ち込む理由は, K3コンポーネントの生成高
度ではガスの密度が非常に低く,電子衝突による光子散乱が減少するためである.
図1.10 Ca II K線プロファイル及び線生成高度(line formation height)
1.5
本論文の構成
第2章では本論文で解析されるデータの観測手法等について述べる. 観測結果及び解析結果は第3章に記述 し,第4章で得られた結果についての考察を行う. 最後に第5章にて本論文のまとめを行う.
11
第
2
章
観測
2.1
観測方法
2.1.1
飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡
京都大学大学院理学研究科附属飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡(Domeless Solar Telescope: DST, Nakai & Hattori 1985 )は1979年から運用されており,地上観測では最高級の空間分解能と波長分解能を備
えた観測により太陽活動のメカニズム及び宇宙電磁プラズマ現象の謎を解明してきている. DSTには真空 垂直分光器と水平分光器の2つの分光器系が設置されている. 真空垂直分光器は高い波長分解能観測に特化 しており,水平分光器は波長分解能では垂直分光器に及ばないものの, 任意の複数波長域を同時分光観測す ることが可能である. 今回観測対象となるエラーマンボムは太陽活動現象の中では規模が小さく,その立体 構造について検証するには広範囲にわたる波長域のデータを取得することが不可欠であるため,高空間分解 能を持ち多波長同時観測可能である水平分光器を使用した. 現在, 水平分光器では3波長(2012年時点では2 波長)の同時観測が可能である. 表2.1と表2.2にDSTと水平分光器についての機器詳細を示す. 表2.1 ドームレス太陽望遠鏡 型式 ドームレス型真空式塔望遠鏡 光学形式 グレゴリー式反射望遠鏡 有効口径 600 mm 主鏡焦点距離 3,150 mm 副鏡との合成焦点距離 32.19 m 副鏡との組合せによる明るさ F/53.7 分解能 0.′′18 二次太陽像直径 299.95 mm= 1922′′ (1′′= 0.1561 mm) 日周追尾方式 コンピュータ制御光電案内装置付 望遠鏡鏡筒内真空度 2∼ 5 mmHg 架台 高度方位式 望遠鏡総重量 21トン
2.2 水平分光器 光学形式 ツェルニー・ターナ型 焦点距離 10 m 分散能 0.33 ˚A/mm (2次スペクトル) 有効波長域 3600˚A∼11000˚A 総重量 3 トン 特徴 全波長同時撮影可能
2.1.2
観測手法
望遠鏡に入射した光は焦点面に設置されたスリット(entrance-slit)に送られる. スリットは鏡面となって おり,分光器に入射する光以外の太陽光は反射されて別の光学系に送られ, スリットジョー画像として取得 される(第1章の図1.7). また,太陽面上の一定の領域のスペクトロへリオグラムを取得するために,スリット の前方の回転モータ上にガラスブロックが配置される. これを一定速度で回転させてスリット面上の太陽像 をシフトさせることによりスリットスキャンを行う. スリットから分光室内に入射した太陽光はコリメータ 鏡(collimator)で反射されたのち回折格子(grating)にて分光される. 分散光は6つの波長域ごとに別々のカ メラミラー(camera mirrors)に送られる. このカメラミラーはそれぞれ反射方向が変えられており, 分散光 は最終的に分光質の壁面に設置された6つの観測用ポートに波長域ごと分けて結像される. 今回はHα線, Ca II K線, Ca IR線の3つのラインの分光データを取得するため,観測用ポートの3箇所にCCDカメラを取り付 けた. 各CCDカメラは別々の観測用パソコンに接続したうえでデータ取得を行う. 観測データはパソコン のハードディスク内に一時保存され. 観測終了後にデータサーバーに転送される. 観測はスリットスキャン を最大100回繰り返すことを1日に複数回行い,エラーマンボムの時間発展を追えるようにした. 図2.1 水平分光器の構造*1第2章 観測 13
2.2
観測日時
観測は2012年7月31日から8月2日, 2013年7月30日から8月2日の期間に行った. 解析では2012年7月31日と 2013年7月30日に得られたエラーマンボムのスペクトルを使用した. 以下に観測情報(表2.3)及び観測時間 (表2.4)を記載する. また, 図2.2と図2.3に各観測日におけるHα線と光球面磁場の全面像を示す. 表2.3 観測日時 日程 2012年7月31日 2013年7月30日 観測対象 NOAA11532 NOAA11805 観測機器 飛騨天文台DST水平分光器 観測波長 Hα線, Ca II K線 Hα線, Ca II K線, Ca IR線 視野 Hα線: 200′′× 196′′ Hα線: 80′′× 210′′ Ca II K線: 200′′× 145′′ Ca II K線: 80′′× 138′′ Ca IR線: 80′′× 220′′ 空間分解能 Hα線: スリット方向0.′′33/ピクセル Hα線: スリット方向0.′′35/ピクセル スキャン方向0.′′60/ステップ スキャン方向0.′′60/ステップ Ca II K線: スリット方向0.′′24/ピクセル Ca II K線: スリット方向0.′′23/ピクセル スキャン方向0.′′60/ステップ スキャン方向0.′′60/ステップ Ca IR線: スリット方向0.′′37/ピクセル スキャン方向0.′′60/ステップ 時間分解能 26秒/スキャン 13.4秒/スキャン 0.060秒/ステップ 0.084秒/ステップ 表2.4 観測時間とスキャン枚数 2012年7月31日 scan01 01:57:45UT–02:29:39UT 70 scan02 02:31:17UT–02:59:49UT 68 scan03 03:01:26UT–03:28:42UT 65 scan04 03:42:11UT–04:01:19UT 47 scan05 04:03:52UT–04:28:08UT 48 scan06 04:29:50UT–05:00:31UT 73 scan07 05:02:58UT–05:29:47UT 61 scan08 05:33:19UT–05:59:14UT 49 2013年7月30日 scan01 07:33:07UT–07:55:17UT 100 scan02 08:03:46UT–08:25:54UT 100 *1http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/old pages/Hida/DST/HS.htmlより引用. *2http://www.solarmonitor.org/index.php?date=20120731より引用. *3http://www.solarmonitor.org/index.php?date=20130730より引用.図2.2 2012年7月31日の太陽全面像*2. 左図はKanzelhoehe天文台で観測されたHα太陽全面像,右図は 太陽観測衛星Solar Dynamics Observatory (SDO)の磁場望遠鏡(HMI)による光球面磁場の全面像. 図 中の白線はDSTの水平分光器によるスキャン領域.
図2.3 2013年7月30日の太陽全面像*3. 左図はKanzelhoehe天文台で観測されたHα太陽全面像,右図は Tucson観測所による光球面磁場の全面像. 図中の白線はDSTの水平分光器によるスキャン領域.
15
第
3
章
観測結果及び解析結果
3.1
2012
年
7
月
31
日
3.1.1
観測結果
2012年7月31日の観測は太陽の南半球に存在した活動領域NOAA11532を対象に行った. 観測時間は01:57UT–05:59UT(日本時間10:57–14:59)であり, 合計8回の連続スキャン観測(scan01からscan08)を行っ た. その中で, scan4からscan7にあたる03:42UT–05:10UTの間にエラーマンボムが観測された. 図3.1及び
図3.2は04:30UTにスリットスキャンで取得されたHα線とCa II K線のスペクトロへリオグラムである. 図3.1 2012年7月31日04:30UTにDST水平分光器で取得されたエラーマンボムのHα線スペクトロへリ オグラム. 左図がライン中心,右図が+0.7˚A.図中の赤矢印の先の部分が今回観測されたエラーマンボム の位置. 図3.2 2012年7月31日04:30UTにDST水平分光器で取得されたエラーマンボムのCa II K線スペクトロ へリオグラム. 左図がライン中心,右図が+0.52˚A.
ジュ領域が周囲に広がっている. 図中の赤い矢印が今回観測されたエラーマンボムの位置であるが, Hα線 中心では目立った増光は見られない. 一方図3.1の右図はHα線のライン中心から+0.7˚A長波長側にシフトし た時のスペクトロへリオグラムである. 赤い矢印の先に明るい輝点が存在することが見て取れる. またその 左側に斜めに伸びる暗い筋が存在するが,これはエラーマンボムから伸びるサージと考えられる. 図3.2の左 図はCa II K線中心,右図は+0.52˚A長波長側のスペクトロへリオグラムである. やはりライン中心の画像で はエラーマンボムは確認されないが,ウィング画像ではエラーマンボムが明るい輝点として観測された. Ca II K線のウィング画像ではサージは観測されなかった. 図3.3 2012年7月31日にDST水平分光器で取得されたエラーマンボムのスペクトル. 左図がHα線,右図 がCa II K線. スリット方向の空間分解能は揃えてある. 図3.3は04:19UTに観測されたエラーマンボムのHα線(左図)及びCa II K線(右図)のスペクトルであり, 縦軸にスリット方向横軸に波長を示す. Hα線スペクトルの中央やや下寄りにある,吸収線から両側に明る い構造が伸びている部分がエラーマンボムである. Ca II K線スペクトルでも同じ場所に明るい増光部分が 見られる. 両方のスペクトルともライン中心では増光は顕著ではなく,中心部から少し離れたウィング部で 増光が確認できる.
第3章 観測結果及び解析結果 17 図3.4 2012年7月31日にDST水平分光器で取得されエラーマンボムのプロファイル. 左図がHα線,右図 がCa II K線. 黒線がエラーマンボムのプロファイル,赤線が静穏領域のプロファイル. 図3.4は図3.3のスペクトルから得られたエラーマンボムのプロファイルである. 黒線がエラーマンボム, 赤線が静穏領域のプロファイルを示しており,縦軸は光度(カウント数),横軸は吸収線中心からの波長を示 している. 静穏領域とは磁場がまばらにしか存在していない領域で,太陽の大部分を占めている. Hα線プロ ファイル(図3.3左)では±0.7˚Aのウィング部で最も増光しており,静穏領域と比較すると光度がおよそ2倍程 度に増加していることが確認できる. また静穏領域は連続光からライン中心部にかけて光度がなめらかに吸 収されていくのに対し,エラーマンボムはウィング部で一度光度が上昇し中心部にかけて急激に減少してい る. Ca II K線プロファイル(図3.3右)ではエラーマンボムの部分では静穏領域と比較してK2コンポーネン ト間の光度,距離がともに増大していることが確認できる. 図中にはCa II K線のK1, K2及びK3コンポーネ ントを図示してある. Ca II K線の中心部分をK3,最も増光している部分をそれぞれK2v及びK2r, K2の外 側で一番光度が下がった部分をK1v及びK1rと呼ぶ. K3, K2, K1とライン中心から離れるにつれ彩層中にお ける線生成高度が低下していく.
図3.5 Hα線(上図)及びCa II K線(下図)によるエラーマンボムのλ− tダイアグラム. 図3.5は観測されたスペクトルからエラーマンボムの部分のみを抜き出し,静穏領域のプロファイルを差 し引いてから時間ごとに並べたλ− tダイアグラムである. 上図はHα線,下図がCa II K線によるλ− tダイ アグラムで,エラーマンボムのプロファイルの時間発展を表している. ダイアグラムの縦軸は各ライン中心 からの波長, 横軸は観測時間である. 画像が途切れている部分は1つの連続スキャンが終了して次のスキャ ンを開始するまでの間に相当する. このλ− tダイアグラムから,今回観測したエラーマンボムは03:42UT頃 から05:10UT頃までの1時間以上にわたり発生していることがわかる. さらに1時間以上の増光の中でも04: 10UT–04:20UTの10分間に関しては両ラインとも顕著に増光しており,特にCa II K線のλ− tダイアグラ ムの方はHα線よりも増光が顕著に見られる.
3.1.2
解析結果
エラーマンボム中のメカニズムを詳細に解明するために, Ca II K線のK2v及びK2rコンポーネントの時間 発展について解析を行った. K2コンポーネントの生成高度は光球から1000km程度の彩層下部であり, Hα 線のライン中心とウィング部で観測される層の中間に相当する. Hα線によるエラーマンボムの解析は先行 研究等で行われているため, 今回はこのK2コンポーネントに重点を置いて解析を行った. また, 今回のエ ラーマンボムは1時間以上観測されたが,その中でも最も顕著に増光が見られたscan05(04:03UT–04:28UT) とscan06(04:29UT–05:00UT)の2つの観測時間帯について解析を行った.第3章 観測結果及び解析結果 19 ドップラー速度の導出 エラーマンボム中の速度場を測定するために, K2コンポーネントのドップラーシフト量から視線方向速 度場の導出を行った. 以下にその方法を記載する. まず, K2v, K2r及びK3の各コンポーネントの波長位置を 求めた. 今回の解析ではK2コンポーネントはそのピーク部分, K3コンポーネントは光度最小点の位置近傍 でプロファイルに2次関数近似を行い, その頂点部分をの波長位置とすることでCCDのサブピクセルまで精 度を求めた. Ca II K線ライン中心からの波長を∆λ, 各コンポーネント周辺のプロファイルを2次関数で近 似したものをF (∆λ)とすると, F (∆λ) = C2∆λ2+ C1∆λ + C0 (3.1) = C2 ( ∆λ + C1 2C2 )2 − C12 4C2 + C0. (3.2) この式より, 2次関数で近似された各コンポーネントの波長位置は, ∆λ =−C1 2C2 , (3.3) F (∆λ) =−C 2 1 4C2 + C0 (3.4) と求まる.
scan05
λ
-
t diagram
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 Angstrom 0 5 10 15 20 minutes -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 0 5 10 15 20scan06
λ
-
t diagram
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 Angstrom 0 5 10 15 20 25 minutes -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 0 5 10 15 20 25 図3.6 Ca II K線で観測されたエラーマンボムのscan05(上図)及びscan06(下図)におけるλ− tダイア グラム. K2v, K2r及びK3コンポーネントの波長位置をそれぞれ赤,青,緑のプロットで示してある. 図3.6はscan05とscan06におけるエラーマンボムのCa II K線λ− tダイアグラムにK2v, K2r, K3コンポー ネントの波長位置をプロットしたものである. 時間経過に伴って各コンポーネントの波長が変動している ことが見て取れる. また, おおまかにK2vとK2rコンポーネントの波長は対称的な変化をしていることが分 かる. これは, K2コンポーネント間の間隔が増減することによるものである. K2コンポーネント間の間隔 はK2のピーク光度の増減と関連しており, K2コンポーネントが明るくなるとその間隔が広がる傾向が見ら れる. より詳細に図3.6を見ると, scan05(上図)では観測開始から6, 9, 13分後に顕著に増光が見られ, 特に13分 から活発に増光している. さらに観測開始から2分及び13分後にはK3コンポーネントがブルーシフトしてい図)では観測開始から2, 9, 14分後でより顕著に増光が見られ, 増光にともなってK2コンポーネントの間隔 が増大している. さらに観測開始から8分後にはK3コンポーネントが大きくレッドシフトしている. 両方の scanとも, K2コンポーネントの増光のほとんどは30秒から90秒程度の短時間で起きており,彩層下部の同じ 場所で加熱が散発的に起こっていることを示唆している. 一方でscan05の観測開始から13分後の増光に関 しては,その継続時間が180秒程度と比較的長寿命であり,より大規模な加熱が発生したと考えられる. 次に,各コンポーネントの波長からドップラー速度の導出を行った. K2コンポーネントに関しては, K2v, K2r両方の波長位置の中点からドップラー速度を求めた. K2v, K2r及びK3の各コンポーネントの波長位置 をそれぞれ∆λK2v, ∆λK2r, ∆λK3とすると,各コンポーネントのドップラー速度(VK2, VK3)は, 以下のよう にして求められる. VK2 = (∆λK2v + ∆λK2r) 2∆λ0 c, (3.5) VK3 = ∆λK3 ∆λ0 c. (3.6) ここでcは光速(299,792km/s), λ0はCa II K線の中心波長(3933.682˚A)である.
scan05 Doppler velocity
Normalised intensity
-2
-1
0
1
2
3
Doppler velocity
[km/s]
k3 velocity k2 velocity0
5
10
15
20
25
minutes
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
Normalised intensity
k3 intensity k2v intensity k2r intensityscan06 Doppler velocity
Normalised intensity
-2
0
2
4
6
Doppler velocity
[km/s]
k3 velocity k2 velocity0
10
20
30
minutes
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Normalised intensity
k3 intensity k2v intensity k2r intensity 図3.7 K2及びK3コンポーネントのドップラー速度と光度曲線. 左図はscan05,右図はscan06. 図3.7はscan05(左図)とscan06(右図)におけるK2及びK3コンポーネントのドップラー速度の時間変動(上 段)と光度曲線(下段)のグラフである. 上段の黒線はK2コンポーネントのドップラー速度であり, 下段の赤 線はK2v,青線はK2rコンポーネントのピーク光度である.両段の緑線についてはともにK3コンポーネント のドップラー速度と光度曲線を示している. ドップラー速度は正が視線上で離れる方向, 負が近付く方向第3章 観測結果及び解析結果 21 の速度を示している. また各コンポーネントの光度は, Ca II K線近傍の連続光の光度で規格化してある. scan05(左図)では観測開始から1分後に付近にK2v, K2rコンポーネントで増光がみられたあと, K2コンポー ネントで-0.8km/sの上昇速度が観測された. 同様に,観測開始から10分後及び14分後にK2コンポーネント が増光したのち, 13分と17分にK2コンポーネントでそれぞれ-0.5km/sと-0.6km/sの上昇速度が検出された. scan06(右図)では観測開始から9分後にK2コンポーネントの増光が見られた後10分付近に-1.5km/sの上昇 速度が見られ,また観測開始から14分後の増光後20分付近で-0.7km/sの上昇流が検出された. 図3.8 2012年7月31日に観測されたエラーマンボムの光度曲線. 左図がHα線のライン中心(黒線)及び ±0.8˚A(青線,赤線),右図がCa II K線のライン中心(黒線)及び±0.3˚A(青線,赤線)の光度の変動を示す. 図3.8は今回観測されたエラーマンボムの発生から消失までにおける各波長ごとの光度の変化を示してい る. 青線・赤線はウィング部, 黒線がライン中心における光度変化である. 03:42UT–05:10UTの間でHα線 とCa II K線共にウィング部(Hα線:±0.8˚A, Ca II K線:±0.3˚A)で光度が増加しており,この部分が今回観測 されたエラーマンボムを表している. Hα線とCa II K線のウィング部ではほぼ同じような時間発展を示し ており,また時間的に一様な増光現象ではなく短時間周期の光度変動が数多く見られる. 一方でライン中心 ではエラーマンボムに伴う顕著な光度変化は見て取れず, 3分程度の周期で定常的に変動している様子が見 て取れるが, これは彩層の3分振動を反映しているものと考えられる.
図3.9 ウィング部における短時間増光現象の継続時間のヒストグラム. 左図がHα線,右図がCa II K 線. 図中の赤線は短時間増光現象継続時間の平均値を示す.
図3.9は図3.8のウィング部の光度曲線から短時間の増光現象の同定を行い, 目視にて増光から減光までの
継続時間を個々に求めヒストグラムで表したものである. 赤線は個々の短時間増光現象の継続時間の平均値
第3章 観測結果及び解析結果 23
3.2
2013
年
7
月
30
日
3.2.1
観測結果
2013年7月30日の観測は太陽の西リム近くに存在した活動領域NOAA11805を対象に行った. 観測時間 は07:33UT–08:25UT(日本時間16:33–17:25)であり, 合計2回の連続スキャン観測(scan01, scan02)を行っ た. 図3.10はスリットスキャンにより07:39UTに取得されたHα線とCa II K線のスペクトロへリオグラム である. 図3.10 2013年7月30日07:39UTにDST水平分光器で取得されたエラーマンボムのHα線, Ca II K線及 びCa IR線スペクトロへリオグラム. 左から順にHα線中心, +2.0˚A, Ca II K線中心, -2.0˚A, Ca IR線中 心, -2.0˚Aの波長で見た様子を示す. 図中の赤矢印の先の部分が今回観測されたエラーマンボムである. 今回観測されたエラーマンボムは活動領域NOAA11805の後行黒点(画面左側)の西側に発生した. この 活動領域では活発な磁束管浮上が観測されており, Hα線中心のスペクトロへリオグラムからは浮上に伴う アーチフィラメントが確認される. 今回のエラーマンボムはこのアーチフィラメントの直下に存在し, Hα 線, Ca II K線及びCa IR線のライン中心では目立った輝点は見られないが,ウィング画像では小さな明る い輝点が観測された. ライン中心では明るい領域が先行及び後行黒点の間に広がっていることが見て取れ る. これは浮上磁場に伴う彩層加熱が発生しているものと考えられる. 浮上磁場領域のようにアーチ型の閉 じた磁力線に囲まれた領域では,磁力線に沿ったプラズマの流出が妨げられるためエネルギーが蓄積され, このように明るく輝く領域が形成される.
図3.11 2013年7月30日にDST水平分光器で取得されたエラーマンボムのスペクトル. 左から順にHα 線, Ca II K線, Ca IR線. スリット方向の空間分解能は揃えてある. 図3.11は07:38UTに観測されたエラーマンボムのHα線, Ca II K線及びCa II K線のスペクトルであり, 縦軸にスリット方向横軸に波長を示す. Hα線スペクトルのやや下寄りにある,吸収線から両側に明るい 構造が伸びている部分がエラーマンボムである. Ca II K線スペクトルでも同じ場所に明るい増光部分が見 られる. 両方のスペクトルともにライン中心では増光は顕著ではなく,中心部から少し離れたウィング部で 増光が確認できる. Ca IR線のスペクトルではライン中心近傍の増光はそこまで顕著ではないが, 連続光の 光度が増加している様子が見て取れる. 各ラインとも,エラーマンボムの部分で中心の吸収線がブルーシフ トしているが,これはエラーマンボムの上空に存在するアーチフィラメント中のプラズマの運動を反映して いると考えられる. 今回の観測領域は太陽リムに近く,投影効果により磁束管内部を太陽表面に向かって流 れ落ちる下降流が視線方向では近付く方向に運動しているため,ブルーシフトが観測される. Ca IR線のス ペクトル中の楕円形の縞模様はカメラの干渉縞である.
第3章 観測結果及び解析結果 25 図3.12 DST水平分光器で取得されたエラーマンボムのHα線, Ca II K線及びCa IR線スペクトロへリ オグラムの拡大画像. 上段は左から順にHα線-0.8˚A,ライン中心, +0.8˚A及び+2.0˚A.中段は左から順に Ca II K線-0.8˚A,ライン中心, +0.8˚A及び+2.0˚A.下段は左から順にCa IR線-0.5˚A,ライン中心, +0.5˚A 及び+2.0˚A.図中の赤矢印の先の部分が今回観測されたエラーマンボムの位置. 図3.12は各ラインのスペクトロへリオグラムからエラーマンボム近傍を拡大して示したものである.スペ クトルを合成して作成したスぺクトロへリオグラムである. 上段はHα線, 中段はCa II K線, 下段はCa IR 線であり,各段とも左から短波長画像, ライン中心画像, 長波長画像及びウィング画像の順で表示している. 短波長側の画像では, Hα線-0.8˚AとCa IR線-0.5˚Aでアーチフィラメントが暗く写っており,磁束管に沿った 下降流の存在を示している. 今回のエラーマンボムはアーチフィラメントに隠される形で発生しているが, Hα線+0.8˚Aのスペクトロへリオグラムではアーチフィラメントが観測されず, 明るい輝点として存在する ことが分かる. また, さらに離れた+2.0˚Aの画像でも輝点が観測された. Ca II K線-0.8˚A画像ではアーチ フィラメントは観測されず, ライン中心, +0.8˚A画像及び+2.0˚A画像ではいずれもエラーマンボム近傍に広 がる増光領域が見られ, エラーマンボムに特長的な輝点は存在しなかった. Ca IR線のライン中心と+0.5˚A 画像でも同様の増光領域が見られるが, +2.0˚Aでは微かな輝点が見られた.
3.2.2
解析結果
図3.13 エラーマンボムのλ− tダイアグラム. 上から順にHα線, Ca II K線, Ca IR線. 図3.13はエラーマンボムのプロファイルから静穏領域プロファイルを差し引いた差分プロファイルを各 スキャン毎に並べて作成したλ− tダイアグラムである. Hα線では定常的に短波長側で吸収,長波長側で増 光している様子が見て取れる. これはエラーマンボム上空のアーチフィラメント中のプラズマ流が継続して いたことを示している. 一方Ca II K線ではプロファイルの非対称性は顕著ではない. これはアーチフィラ メントがCa II K線ではほぼ透明で観測にかからなかったことが原因である. Ca IR線では波長中心での増 光が見られ, 静穏領域と比べて彩層上空の温度が上昇していることを示す.第3章 観測結果及び解析結果 27 今回の解析では, DSTの地上観測データに加えて太陽観測衛星IRIS (Interface Region Imaging
Spec-trograph, De Pontieu et al. 2014 )の観測データを用いて,更に多層的なエラーマンボムの分光観測を試み
た. IRISはNASAによって2013年6月28日に打ち上げられた最新の太陽観測衛星であり,地上では観測困難 な紫外領域の分光観測を行うことで彩層とコロナの境界層である遷移層の解明に挑んでいる. IRISによる 遷移層の分光データを用いることで, エラーマンボム上空の大気診断が可能となる. 表3.1にIRISの機器情 報を示す. 表3.1 IRISの分光機器情報 観測波長 空間分解能(step×slit) 観測視野 波長分解能 C II 1336˚A Si IV 1403˚A 0.05˚A O I 1356˚A 1.′′00× 1.′′66 182′′× 182′′ 2787˚A Mg II k 2796˚A 0.025˚A Mg II h 2803˚A 図3.14はIRISの観測データから得られたスペクトロへリオグラムである. C II線(1336˚A), Si IV線 (1403˚A)及びO I線(1356˚A)は遷移層のラインである. これらのスペクトロへリオグラムからは, DSTで観 測されたエラーマンボムの場所には増光部分は存在せず, 暗い領域で占められていた. C II線とSi IV線で は, DSTのHα線-0.8˚Aで観測されたアーチフィラメントと似た形状の構造が存在する. また画面の中央よ りやや上寄りの部分には, 非常に明るい増光領域が存在する. この増光領域はO I線では見られなかった. 2787˚AはMg II k線(2796˚A)近傍の連続光であり,光球面が観測される. 2787˚A画像ではエラーマンボムの部 分に輝点が存在することが分かる. またそれ以外にも多数の輝点が散在していることが明らかとなった. こ れはDSTの地上観測では大気のゆらぎ等の影響によりぼやけてしまうような小規模輝点であっても,真空 中の宇宙空間からの観測では捉えることができるためである. Mg II k線(2796˚A), Mg II h線(2803˚A)は彩 層の上部を観測しており, Hα線やCa IR線によるスペクトロへリオグラムとよく似た構造が示されている.
図3.14 IRISによるエラーマンボムのスぺクトロへリオグラム. 上段はC II 1336˚A, Si IV 1403˚A, 中 段はO I 1356˚A, 2787˚A,下段はMg II k 2796˚A, Mg II h 2803˚A.図中の赤矢印の先の部分がDSTで観 測されたエラーマンボムの位置.
第3章 観測結果及び解析結果 29 次にDSTとIRISで取得したエラーマンボムの発生場所のプロファイルの比較を行った. 図3.15の左側に DST, 右側にIRISで取得したエラーマンボムの分光プロファイルをプロットしてある. DSTの差分プロ ファイルからはエラーマンボムに伴う増光が見て取れるが, IRISの彩層上部–遷移層のプロファイル(C II 線, Si IV線, O I線)では静穏領域と比較して顕著な増光は見られなかった. また, IRISの彩層上部–遷移層 プロファイルがブルーシフトしているのは,彩層上部における磁束管内部のプラズマ流によるものと考えら れる. 一方, IRISの光球データ(2787˚A)からはエラーマンボムに相当する増光現象が確認された. 図3.15 DSTとIRISによるエラーマンボムの分光プロファイル. 左側はDSTのHα線(上段), Ca II K線 (中段), Ca IR線(下段). 各段の左図にはそれぞれエラーマンボムと静穏領域のプロファイルが実線と破 線でプロットされ,右図ではその差分プロファイルが示されている. 右側はIRISのC II線(左上), Si IV 線(右上), O I線(左下)及び2787˚A(右下). 図中の実線及び破線はそれぞれ, DSTでエラーマンボムが観 測された場所のプロファイル及び静穏領域のプロファイル. Mg II k線及びMg II h線のプロファイル は,該当部分でデータが欠損しているため存在しない.
比較を行った. 図3.16の左側にIRISのC II線と2787˚Aのスぺクトロへリオグラム及びプロファイル, 右側に DSTで取得したHα線, Ca II K線及びCa IR線のプロファイルを示す. IRISの観測データからは,遷移層(C II線)で顕著な増光が見られた一方で光球(2787˚A)では対応する増光は観測されなかった. またDSTの各ラ インのプロファイルは, ライン中心では増光が観測された一方で, ウィング部では増光が見られなかった. これらの結果より,この遷移層における増光領域は彩層下部や光球までは影響を及ぼしていないことが示唆 される. 図3.16 遷移層における増光領域の分光プロファイル比較. 左側はIRISのC II線(左列)及び2787˚A(右 列)で得られたスペクトロへリオグラム(上段)及び増光領域のプロファイル(下段). スペクトロへリオグ ラム中の赤矢印は解析した増光領域の場所を示す. プロファイル中の実線及び破線はそれぞれ,増光領 域のプロファイル及び静穏領域のプロファイル.右側はDSTのHα線(上段), Ca II K線(中段), Ca IR線 (下段)で,配置は図3.15のものと同様. 各段の左図にはそれぞれエラーマンボムと静穏領域のプロファイ ルが実線と破線でプロットされ,右図ではその差分プロファイルが示されている.
31
第
4
章
考察
4.1
2012
年
7
月
31
日のエラーマンボム
彩層間の物理状態はHα線とCa II K線で同時に観測を行うことにより詳細に調べることが可能となる. 今回は Ca II K線に重点を置いた解析を行うことで,エラーマンボムの立体的な構造の把握を行うことを目 的とした. 図4.1は光球から彩層上部–遷移層における温度変化とHα線及びCa II K線の線生成高度を示し てある. これより, K2コンポーネントを観測することでHα線のコア部及びウィング部の生成高度の間を埋 める形となり,幅広い高度域における太陽大気層及びその中での活動現象の物理的特徴について情報を得る ことができる. 図4.1 太陽大気中における温度の高度依存性及び, Hα線及びCa II K線の線生成高度. 今回の解析結果から得られたHα線及びCa II K線の各コンポーネントの光度曲線から,エラーマンボム は時間的に一様な増光現象ではなく短時間の光度変動が存在することが明らかとなった. さらにドップラー 速度の時間発展からは,増光にともない上昇流が発生していることが確認できた. これは, 彩層下部で磁気 リコネクションによって加熱が起こった結果各ラインのウィング部で増光が起こり,また加熱に伴う圧力上 昇及び繋ぎ変わった磁力線の磁気張力によってプラズマが打ち上げられてジェットやサージとして噴出す図4.2 SDO/HMIによる2012年7月31日のエラーマンボム近傍の光球面垂直磁場成分の時間発展. HMI のマグネトグラムは光球から500km前後を観測している. 白色が正極,黒色が負極磁場に対応する. 左上 の図が今回観測した活動領域NOAA11532周辺の大局的な磁場分布. 赤い枠は拡大図の視野を示す. 右 上,左下及び右下の図はエラーマンボムが発生した領域近傍の拡大図の時間発展の様子. それぞれ,負極 磁場出現前(03:32UT),出現中(04:08UT),消失後(04:26UT)における磁場配置を示す.
磁気リコネクションが発生している裏付けとして, NASAの太陽観測衛星Solar Dynamics Observatory
(SDO)の磁場望遠鏡(HMI)から得られた太陽光球面の磁場分布の時間発展について検討を行った. 図4.2は, エラーマンボム近傍の光球面垂直磁場成分の様子を示している. エラーマンボムの発生前(03:32UT)には, この領域では正極磁場(白色)が支配的であった(図4.2右上). その後04:08UT(図4.2左下)には,青い線で囲ま れた部分に微小な負極磁場が出現した. この負極磁場は03:35UTに発生した後徐々に画面左上方向移動し, 04:23UTには消滅した(図4.2右下). この現象は,正極磁場優勢な領域に新たに小規模な磁束管の浮上現象が 発生したためと考えられる. 出現した負極のペアである正極磁場は周囲の既存の正極領域と区別できないた め,このように負極のみが単独で出現したかのように観測される. 今回観測したエラーマンボムついてまとめたもの図4.3に示す. 負極磁場が出現後5分程度経過してから Hα線のウィング部での増光が始まりエラーマンボムとして観測される. また, エラーマンボム出現後16分
第4章 考察 33 経過してからサージの噴出が始まった. 光球面での負極磁場が消失してからもエラーマンボムとサージは1 時間ほど継続した. 図4.3 2012年7月31日のイベントのタイムライン. 光球での負極磁場,エラーマンボム及びサージの継 続時間を示している. 横軸はscan04開始時の(03:42UT)からの経過時間. 光球に負極磁場が観測されてないのにも関わらず, エラーマンボムとサージが1時間近く継続したことに 関しては考察の必要がある. これは,小規模な磁束管の浮上による光球面への負極磁場の供給そのものは継 続していたが, HMIの空間分解能(∼ 0.′′5)以下の大きさであったため,またはHMIのマグネトグラムの波長 6173˚A生成高度よりも低い光球面での磁気リコネクションが発生し,負極磁場が観測にかからなかったもの と考えられる. 今回のイベントのようにどちらか一方の磁場極性が支配的な領域に反対の極性が出現してく る場合には,浮上すると間もなく磁気リコネクションによって打ち消し合ってしまい,ある程度以上の空間 サイズおよび磁束量を持つ磁束管でないと観測されないと予想される. エラーマンボムの短時間増光現象の継続時間について, 典型的な値として先行研究ではPariat et al. (2007)では210秒, Nelson et al. (2013) では120秒から180秒と求められており, 今回の解析で得た継続時 間(250秒–280秒前後)に比べると短い. これは継続時間の導出に用いたの光度曲線の波長として先行研究よ りウィング側を採用したため光球の5分振動の影響を受けたためと考えられる.
4.2
2013
年
7
月
30
日のエラーマンボム
DSTによるエラーマンボムの分光プロファイルからは, エラーマンボムによる増光が非対称となってい る様子が見られた. これは, 観測領域が太陽の西リム近くであり, エラーマンボムの上空にはアーチフィラ メントが存在していたため,アーチフィラメント中を流れ落ちるガスのドップラーシフトにより短波長側で 大きな吸収が発生したことによると考えられる. エラーマンボムによる増光がIRISの彩層上部–遷移層の観測データからは検出されなかったことから, エ ラーマンボムによる加熱は彩層下部に局在していることが示唆される結果となった. 一方IRISのC II線と Si IV線で見られた遷移層における増光領域は, DST観測によるHα線, Ca II K線及びCa IR線のライン中 心でも増光が観測された. これは遷移層と彩層上部で共通して加熱が起こっているものと考えられる. 一方 でDSTの観測ラインのウィング部やIRISの2787˚Aでは対応する増光現象は観測されず,彩層下部や光球で35
第
5
章
まとめ
本研究では, 飛騨天文台DSTの水平分光器を用いてエラーマンボムの多波長同時分光観測を行い,その分 光学的特性について解析を行った. 2012年の観測ではHα線とCa II K線の2つのラインについて同時分光観 測を行い,エラーマンボムのスペクトルデータを取得した. Hα線とCa II K線の分光プロファイルの時間発 展からは, Hα線±0.8˚AとCa II K線のK2コンポーネントの光度曲線はほぼ同じタイミングで増光を示すこ とが明らかとなった. この増光の時間スケールについて統計解析を行った結果,エラーマンボムにおけるK2 コンポーネントの短時間増光現象の継続時間の平均値は4分半前後であった. またK2コンポーネントのドッ プラーシフト量の時間変動と光度曲線のグラフからは,エラーマンボムの増光に伴ったガスの上空への噴出 が確認された. また, Hα線のスリットスキャンによるスペクトロへリオグラムデータからも,上空に放出さ れたガスがサージとして観測された. 一方で, K3コンポーネントではエラーマンボムに伴う顕著な増光が観 測されなかった. このことよりエラーマンボムは彩層上部ではなく光球から彩層下部にかけて発生している ことが明らかとなった. また, SDO/HMIによる磁場観測データからは, エラーマンボム発生の直前に, 正極磁場が支配的の領域 中に負極の磁場パッチが出現していることが確認された. このことから今回のエラーマンボムのトリガー機 構として,浮上してきた小規模な磁束管と既存の正極磁場の彩層下部における磁気リコネクションが有力で ある. 解放された磁気エネルギーが彩層下部の加熱することで, Hα線ウィング部とCa II K線K2コンポー ネントの増光が引き起こされたと考えられる. この負極磁場が消滅した後もエラーマンボムは1時間近く継 続していたが,これはHMIの空間分解能以下の微小磁気要素,あるいは光球下部での磁気リコネクションの 存在を示唆する結果となった. 今後, HMIよりも空間分解の高い(∼ 0.′′16)太陽観測衛星ひので搭載の光学望遠鏡(Solar Optical Telescope: SOT)の分光偏光観測装置を用いた共同観測を計画しており,より詳細な研
究を行う予定である.
2013年の観測ではHα線, Ca II K線及びCa IR線の3つの波長域にて同時分光観測を行い, さらにIRISの
データも使用した. その結果,エラーマンボム上空の遷移層では加熱による増光は見られなかった. 一方,
IRISで観測された遷移層における増光領域では, DSTのスペクトルではライン中心部の増光が顕著であっ
いることが明らかとなった. 今回の解析では時間発展までは扱っていないが, DSTとIRISの共同観測による
高時間分解能観測を行うことで, エラーマンボム上空の速度場の時間変動から,彩層から噴出したガスの輸
37
謝辞
本研究を進めるにあたり,多くの方々にお世話になりましたことに感謝申し上げます. 卒業論文指導教員 の小野寺幸子先生, 井上一先生,日比野由美様にはゼミ中多くのアドバイスを頂き,自身の考えの幅が広が りました. また, 天文研究室の皆様には研究を行う上で様々なサポートをしていただきました. ここにお礼 申し上げます. 京都大学理学研究科附属飛騨天文台の職員の皆様には今回の観測で非常にお世話になり, 感謝の念に堪え ません. また,埼玉県立浦和西高等学校の坂江隆志様には飛騨天文台までの道中お世話になり, 観測につい ての色々な話もお聴かせ頂きました. 深く感謝いたします. 最後になりますが, 京都大学の北井礼三郎先生, 萩野正興様, 国立天文台の加藤成晃様, 大辻賢一様には 並々ならぬご指導とご鞭撻を賜りましたことに感謝の気持ちでいっぱいです. 本当にありがとうございま した.引用文献
De Pontieu, B., Title, A. M., Lemen, J. R., et al. 2014, Sol. Phys., 289, 2733 Ellerman, F. 1917, ApJ, 46, 298
Hale, G. E. 1908, ApJ, 28, 315
Henoux, J.-C., Fang, C., & Ding, M. D. 1998, A&A, 337, 294 Isobe, H., Tripathi, D., & Archontis, V. 2007, ApJL, 657, L53 Kitai, R. 1983, Sol. Phys., 87, 135
Matsumoto, T., Kitai, R., Shibata, K., et al. 2008, PASJ, 60, 95
Nakai, Y., & Hattori, A. 1985, Memoirs Faculty of Sciences University of Kyoto, 36, 385 Nelson, C. J., Doyle, J. G., Erd´elyi, R., et al. 2013, Sol. Phys., 283, 307
Pariat, E., Aulanier, G., Schmieder, B., et al. 2004, ApJ, 614, 1099 Pariat, E., Schmieder, B., Berlicki, A., et al. 2007, A&A, 473, 279 Parker, E. N. 1957, J. Geophys. Res., 62, 509
Parker, E. N. 1966, ApJ, 145, 811
Petschek, H. E. 1964, NASA Special Publication, 50, 425
Wilson, A., & Maskelyne, N. 1774, Royal Society of London Philosophical Transactions Series I, 64, 1 桜井隆,小島正宜,小杉健郎,柴田一成[編] 2009年 「シリーズ現代の天文学太陽」 日本評論社