Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Evaluation of a Japanese “Prevention of Long-term
Care” project for the improvement in oral function
in the high-risk elderly
Author(s)
酒寄, 孝治
Journal
歯科学報, 113(1): 96-97
URL
http://hdl.handle.net/10130/3008
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 2006年に『要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと,そして要介護状態にあってもその悪化をで きる限り防ぐこと』を目的とした介護予防事業が始まった。その内の地域支援事業では市町村行政が生活機能 の低下が認められた者を特定高齢者として選定し介護予防プログラムを実施している。介護予防事業の評価に 関する研究報告は,事業の開始から4年経過後の現時点では多くはないが,口腔機能の向上プログラム実施後 の評価として,嚥下機能,構音機能,口唇閉鎖力,舌の可動性などに改善が認められたとする報告がある。そ の一方で改善効果に対する問題点や,事業への参加者数やプログラムの実施期間についての課題も挙げられて いる。しかし,これらの研究報告は全て事業の直前・直後の比較のみであり,事業後の経時的評価や事業に参 加した特定高齢者と一般高齢者との比較については検討がなされていない。本研究では,介護予防特定高齢者 施策における口腔機能の向上プログラムを研究対象として,①特定高齢者と一般高齢者の口腔機能および口腔 環境の比較,②プログラム介入による特定高齢者の口腔機能改善効果とそれに伴う口腔環境の変化の分析,③ 特定高齢者の口腔機能の経時的変化に関する評価を行った。 2.研 究 方 法 2007年から2010年にかけて千葉県鴨川市で行われた介護予防特定高齢者施策で口腔機能の向上プログラムに 参加した一般高齢者11名と特定高齢者36名を研究対象とした。対象者には口腔機能の評価として,反復唾液嚥 下テスト(RSST),オーラルディアドコキネシス,フードテスト,摂食・嚥下障害の質問紙,口腔環境の評価 として安静唾液分泌量,刺激唾液分泌量,唾液中総細菌数,唾液中 Lactobacilli 菌数,唾液中 S. mutans 菌数, 唾液中 Candida 培養検査,および口腔内検診を行った。口腔機能の向上プログラムは3ヶ月間に約2∼3週 間おきに5回または6回行った。評価は①参加した特定高齢者と一般高齢者の比較,②特定高齢者のプログラ ム介入による口腔機能の向上効果,③介入終了から1年後の口腔機能の経時的変化について行った。本研究 は,東京歯科大学倫理委員会の承認を得て行われた(受付番号187)。 3.研究成績および考察 特定高齢者と一般高齢者の比較評価では,口腔機能検査3項目,15項目の摂食・嚥下障害の質問紙調査,口 氏 名(本 籍) さか より たか はる
酒
寄
孝
治
(茨城県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1906 号(甲第1158号) 学 位 授 与 の 日 付 平成23年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Evaluation of a Japanese Prevention of Long-term Care pro-ject for the improvement in oral function in the high-risk eld-erly
掲 載 雑 誌 名 Geriatrics & gerontology international doi:10.1111/j.14470594. 2012.00930.x 2013年9月 論 文 審 査 委 員 (主査) 石井 拓男教授 (副査) 井出 吉信教授 石原 和幸教授 山根 源之教授 歯科学報 Vol.113,No.1(2013) 96 ― 96 ―
腔環境検査6項目およびう蝕,歯周疾患の有無を含む口腔内状況について検討したところ,口腔機能検査の全 項目と口腔環境のほとんどの項目において両者に違いは認められなかった。特定高齢者を選定する際の評価の 信頼性,また,生活機能評価のうち口腔機能の選定方法と基準および選定担当者に問題があった可能性も否定 できない。 口腔機能訓練により高齢者の RSST に改善が認められたとの報告は以前にもなされているが,本研究では 介入前の値が低い者ほど大きな改善傾向を示した。今回の口腔機能の向上プログラムで行った健口体操による 舌や頚部の運動や唾液腺マッサージが RSST の回数増加に反映されたことが推測される。さらに,音節反復 運動を評価したオーラルディアドコキネシスについては,これまでの報告と同様に介入による明らかな効果が 認められた。特に本研究では,介入前の発音回数が低い者ほど口腔機能のトレーニング効果が高いことが示さ れた。これらの機能の向上に対するプログラムが有効であったと考えられる。本研究では,口腔機能の向上に 伴って口腔環境の改善も副次的に認められると推測して評価を行ったが,唾液中 S. mutans や Lactobacilli な どのう蝕原因菌数と総細菌数や Candida 菌の検出者数にはほとんど変化が認められなかった。 さらに,介入前後の口腔機能が向上傾向は認められたが,1年後には全ての項目が低下していた。この要因 として口腔機能の向上トレーニングの習慣化の困難性が挙げられるが,本事業においては健口体操や発音訓練 のような口腔機能の維持・向上のためのトレーニングを習慣化するような施策が望まれる。 4.結 論 口腔機能の評価において一般高齢者と特定高齢者の間に明確な差は認められなかった。介入によって特定高 齢者の口腔機能の向上に効果が認められ,特に介入前の値が低い者ほど大きな改善傾向を示した。しかし,プ ログラム介入前後に口腔機能の改善または維持が認められた特定高齢者は,事業終了1年後の機能低下が明ら かとなった。 論 文 審 査 の 要 旨 2006年に開始された介護予防事業の評価に関する研究報告は,事業の開始から4年経過後の現時点では多く はない。本研究は,その内の地域支援事業における口腔機能の向上を目的とした介護予防特定高齢者施策の効 果について評価を行ったものである。 事業に参加した特定高齢者と一般高齢者の比較では,両群に明確な差は認められず,特定高齢者を選定する 際の評価基準および方法に問題点があることの考察がなされた。口腔機能の向上プログラムによる特定高齢者 への介入効果については,特に介入前の評価において口腔機能が低下しているとされた者ほど介入後の改善率 が高いことが示され,プログラムの有効性が認められた。しかし,プログラム終了から1年経過後に行った評 価では,口腔機能が介入前よりも低下しており,プログラムで指導されたトレーニングの習慣化も困難であっ た。 本審査委員会では,1)一般高齢者と特定高齢者に差がみられなかった理由,2)プログラムによる口腔機 能の改善効果について,3)口腔機能および口腔環境の評価項目の妥当性,4)地域支援事業についてなどの 質疑が行われ,概ね妥当な解答が得られた。また,研究目的および方法をより具体的に記述することや英文表 記についての指摘がなされた。 本研究で得られた結果は,今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大であり,学位授与に値するものと判 定した。 歯科学報 Vol.113,No.1(2013) 97 ― 97 ―