ELAN を用いた発話・動作コレクションの作成と質的分
析：オノマトペに随伴する動作研究
Making speech / gesture collection and qualitative analysis using ELAN:
a study of co-speech gestures in onomatopoeic expressions
細馬宏通
1城綾実
1Hiromichi Hosoma
1, Ayami Joh
11
滋賀県立大学人間文化学部
1University of Shiga Prefecture
Abstract: In qualitative analysis, it is often unclear to what extent the cases picked up can lead to general
discussion. In order to overcome this problem, it is necessary to create a "collection" of phenomena, overlooking it with exploratory data analysis, picking up the phenomenon from the collection as much as possible, and narrow down the phenomena to be focused. In this presentation, paying attention to the phenomenon that onomatopoeic expressions are likely to accompany body movements (Kita 1997, Hosoma 2012), we first made an exploratory data analysis and grasp the tendency of the whole data. Next, in order to investigate what kind of research subjects the data possesses, the questions of each case are classified by the KJ method. Then narrow down possible research questions from the collection. Finally, we pick up examples from the collection to solve the extracted questions and comprehensively examine them. By such round-trip of quantitative / qualitative research, it is possible to dig the possibility of the collection to grasp a new framework.
はじめに
質的分析でしばしば問題になるのは、取り上げら れる事例がはたしてどの程度、さまざまな現象に通 じるものかが不明である点である。この問題を克服 するには、まず探索的にデータを見渡したあと、注 目する現象を絞り込み、その現象をデータの中から できるだけ網羅的に拾い上げ、現象の「コレクショ ン」を作成することが必要である。 ジェスチャー研究や動作研究では、映像や音声の 扱いにくさからこうしたコレクションの作成は簡単 ではなかった。しかし最近では、ELAN をはじめ、 アノテーション・ソフトの発達により、データの内 部にコーディングを行うだけでなく、さまざまなア イディアを書き込むことによって、特定の研究テー マの下に映像・音声コレクションを作成することが 容易になりつつある。 この発表では、参与者がオノマトペを発するときに 動作を随伴させやすい（Kita 1997, 細馬 2012）とい う現象に注目し、会話データの中からオノマトペに 随伴する動作コレクションを ELAN 上に作成した上 で、コレクションにそれぞれの事例の音韻構造と動 作の時間構造との関係を記述するまでの過程を紹介 する。まずコレクション内の傾向を記述した上で、 個々の事例の微細な構造に注目して研究課題を絞り 込む。次に個々の研究課題を解くためのデータをコ 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B801-08 － 43 －レクション内から抽出し、事例分析を行う。このよ うな記述統計／質的研究の往復によって、事例の多 様性に分け入り、現象を捉える新たな枠組みを捉え ることができるだろう。
方法
2009 年、滋賀県下の大学生 3 人を 1 組にした 10 組に、アイマスクをして行う二つの課題 A、B を行 ったあと、その体験について 10 分間議論してもら い、その様子をビデオカメラによって記録した。課 題 A は 3 種類の飲料（お茶、水、サイダー）を飲む 課題、課題 B は財布から特定のコインを取り出す課 題で、3 人のうち 2 人は課題 A(または B）を、1 人 は課題 B（または A）を体験した。この実験は、共 通体験を持つ 2 人と 1 人の組み合わせ状況で、3 者 会話はどのように組織化されるかを観察する目的で 行われ、オノマトペと動作の関係に関するコレクシ ョン作成は想定していなかった。コレクションの作成
10 組の会話を ELAN によってコーディングし、オ ノマトペに動作が伴っている場面／伴っていない場 面を抽出した。10 組の会話の平均オノマトペ出現数 は 6.7 で、33 語 65 例のオノマトペを採取した。出現 数には図 1 のようなばらつきがあった。65 例中動作 を伴わなったものは 54 例で、Kita(1997), 細馬(2012b) の記述通り、 図 1: 体験会話実験で各組（10 組）から抽出されたオノマトペ場 面数の分布 オノマトペに随伴する動作が多いことがわかった。 また語の種類を見ると、「ぎざぎざ」（16 例）、「つる つる」（5 例）、「ざらざら」（5 例）のように、課題の 特性によって頻出する単語に偏りがあった。研究課題の絞り込み
このように、特定の体験に基づく実験状況の会話 からオノマトペ＝動作コレクションを作る場合、語 彙じたいは体験の種類に依存するため、偏りを伴う。 一方で、本実験には体験を共有した者（２人）とし ていない者（１人）という特徴があり、オノマトペ ＋動作をどのようなコミュニケーションとして用い るかについて多様な問題が含まれていると考えられ る。そこで、各事例に語彙種とは異なるどのような 研究課題が含まれているかを ELAN 上に書き込んで いき、KJ 法で整理した結果、次のような課題が挙が った。 1. 相互キャッチメント：相互行為における発話の 繰り返しと動作（McNeil 2000, 細馬 2012a） 2. 転用によるオノマトペ動作（ポインティングか ら、準備フェーズから） 3. 手以外のオノマトペ動作 4. 体験の有無によるオノマトペ動作の質的な差 5. 個体内／個体間でのオノマトペ繰り返しにおけ る動作付加／削除 6. 否定的表現を伴うオノマトペ（例：ぎざぎざじゃ ない）における随伴動作の有無と質 7. オノマトペ動作の機能：場所／様態 本研究では、このうち、まだ研究例の少ない 1 の 相互キャッチメント、および 7 のオノマトペと動作 の組み合わせによる場所／様態表現について論じる 予定である。参考文献
[１] McNeill D.: Growth Points, Catchments, and Contexts, 認 知科学, Vol. 7, No. 1 , pp. 22-36, (2000)
[２] Kita, Sotaro. Two-dimensional Semantic Analysis of Japanese Mimetics, Linguistics 35: 379–415, (1997) [３] 細馬宏通: 身体的解釈法 : グループホームのカンフ ァレンスにおける介護者間のマルチモーダルな相互 行 為 . 社 会 言 語 科 学 Vol. 15, No.1, pp. 102–119, (2012a). [４] 細馬宏通: オノマトペの音韻構造とジェスチャーの タイミング分析. 信学技報, 112, pp. 79–82, (2012b) － 44 －
