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企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析 : 理論枠組みの検討

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(1)企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析 ──理論枠組みの検討── 韓 松 花. はじめに. ワーク・ライフ・バランスの推進が呼びかけら れている.. 近年,日本では少子高齢化の進展,労働者の. ところで,女性はもちろん男性の育児参加を. ライフスタイルの多様化,共働き世帯の増加な. めぐる問題は,子育ての問題だけではなく,働. どを背景にワーク・ライフ・バランスの促進が. き方の見直しを必要とするなど,広がりのある. 呼びかけられている.振り返ってみると,日本. 課題として考えなければならない.政府の取り. の社会政策としての福祉サービスは,戦後社会. 組みだけでは限界がある.仕事と家庭(あるい. の構築から高度経済成長を達成するまでの間,. は生活)のバランスを取るための政府の政策の. 企業による福利厚生あるいは企業福祉の提供が. 目標数値が掲げられても,企業あるいは職場で. 中心 で あった.そ の 後,1970 年代 に は 石油危. その実現に向けた働き方の見直しなどの環境整. 機を契機としてスタグフレーションを経験し,. 備への取り組みが伴わなければ,単なる目標で. 社会保障制度の成立・発展を遂げ,福祉国家的. 終わることもありうる.企業が働き方などの環. 社会政策 が 中心 に なった.そ し て,1980 年代. 境整備にどれほど主体的に取り組むかが,目標. 後半から 90 年代初めにかけて,バブル経済の. 実現の重要な鍵となっている.. 発生と崩壊を経験する一方,人口構造面では少. そのため,特に 2000 年代後半から企業の主. 子・高齢化の進展が加速化しており,21 世紀. 体的取り組みが求められるようになってきた.. に世界でいち早く超少子・高齢社会に直面する. 2005 年 4 月 に 施行 さ れ た「次世代育成支援対. ようになった.そのゆえ,日本は安定成長を維. 策推進法」では,「男女を含めた仕事と家庭の. 持し,福祉も充実した社会経済システムを築く. 両立支援と働き方の見直し」について,特に企. ための社会政策が望まれるようになった.. 業として主体的に取り組むことの必要性や行動. 日本政府は,ワーク・ライフ・バランスの推. 計画の策定について明文化された.. 進を少子化対策,子育て支援策の一環として位. 日本企業は,経済成長の過程で多様な企業福. 置づける傾向が強い.1989 年の 1.57 ショック. 祉を提供してきた.社会保障制度が成立する以. により少子化問題が顕在化した 1990 年代以降,. 前は,企業福祉がその「代替」役割を担ってお. 政府はいわゆる「少子化対策」を実施してきた. り,社会保障制度が成立・充実されることに伴. が,それはどちらかといえば女性を念頭に置い. い,企業福祉は「代替」役割から「補完」役割. て進められてきた傾向が強かった.しかし,政. へと変容してきた.そして,現在,企業福祉は. 策の効果は思うように上がらず,更なる取り組. 福祉国家の法定規制のもとで,企業独自に提供. みが必要との認識から最近では男性の育児参加. してきた福利厚生(あるいは企業福祉)は低下. の促進が求められるようになってきて,広範な. しつつあり,その内実も以前と比べ大きな変容.

(2) 48. (756). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). を辿り,制度の見直しが迫られている.. て考慮しなければならない広範なワーク・ライ. このような状況を踏まえ,本論文では,日本. フ・バランス制度を分析するには十分でないと. のワーク・ライフ・バランス推進における企業. 考えられる.. の役割について企業保障の観点からアプローチ. そこで,本論文では先行研究のサーベイを行. して概観する.本論に移る前に,近年の企業福. い,これらの先行研究から得られた知見に基づ. 祉論およびワーク・ライフ・バランスに関する. いて,日本のワーク・ライフ・バランス制度1). 先行研究を簡単に整理し,本論文の分析視角を. 分析 の 理論枠組 み を「柔軟性」と「安定性」の. 提示したい.. 2 軸で検討するという分析視角を提示する.. まず,企業福祉に関する先行研究のなかで,. 本論文の構成は以下のとおりである.第 1 章. 代表的 な も の は 佐口(1972) ,藤田・塩野谷編. (Ⅰ)では,ワーク・ライフ・バランスの定義. (1997) ,武川・佐藤編(2000) ,西久保(2007,. お よ び 国際的動向 に つ い て 概観 す る.第 2 章. 2009a,2009b) ,橘木(2005)な ど が あ る.こ. (Ⅱ)では,日本で福祉国家2)が企業の取り組. れらの研究は,企業福祉と社会保障制度との関. みを促進する理由および福祉国家がどのように. 係を問うアプローチを採用している.そして,. 企業に規制をかけながらワーク・ライフ・バラ. 社会保障制度における法定福利厚生負担と非法. ンス制度に取り組んできたのかについて考察す. 定福利厚生負担の変化から今後の企業福祉の行. る.第 3 章(Ⅲ)では,企業で取り組んでいる. 方を考察している.企業の両立支援策にかかわ. ワーク・ライフ・バランス制度は一種の企業保. る個別の福利厚生施策に関して議論されている. 障であるという認識から,日本における企業福. が,ワーク・ライフ・バランス制度そのものに. 祉の質的変容からみる企業の役割の変化につい. 関する分析はあまりなされていない.. て考察する.最後の第 4 章(Ⅳ)では,企業保. また,近年のワーク・ライフ・バランス論の. 障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析. な か で は,阿部・黒澤(2006) ,武石(2007) ,. に向けて,その分析枠組みを検討する.. 脇 坂( 2008a,2008b) ,佐 藤 編( 2009) ,小 室. なお,本論文では,先行研究の各文献で取り. (2009)などが挙げられる.これらの研究は企. 扱っている「福利厚生」,「企業内福祉」,「企業. 業経営の人事戦略としての視点からのアプロー チが主たるもので,分析対象も女性を念頭に置 いたケースが多い.他に,坂本(2002) ,松田 (2002) ,佐藤・武石(2004) ,大沢(2006)な どが挙げられる.これらの研究では,男性の育 児参加を促進するための施策として,男性も含 めてワーク・ライフ・バランスを推進すること を提案している.以上の先行研究の分析枠組み に共通しているのは,女性を主な対象としてい る点である.その点は先行研究が扱う指標に現 れているが,具体的には「ファミリー・フレン ドリー」度(家族にやさしい仕事と家庭の両立 支援制度が整っていること)と 「男女均等推進」 度(男女が同等に活躍できるような組織風土が 整っていること)の組み合わせがよく用いられ る指標である.しかし,この指標は男性も含め. . 1)こ こ で,ワーク・ラ イ フ・バ ラ ン ス 問題 に 関する筆者の視点について簡単に説明したい.ま ず, 「ワーク・ライフ・バランス」とは,仕事と生 活のバランスができている状態やあり方のことで ある. 「ワーク・ライフ・バランス施策」あるいは 「ワーク・ライフ・バランスの取り組み」 , 「ワーク・ ラ イ フ・バ ラ ン ス 支援策」と い う の は,ワーク・ ライフ・バランスのための個別のプログラムのこ とをいう.そして,本論文では, 「ワーク・ライフ・ バランス制度」についてより幅広い意味で用いる. それは,単に個別のプログラムがある・なしのレ ベルではなく,従業員に対して効果・機能しうる かということも含まれている. 2)武川(2010)は,福祉国家の規定について, 社会保障制度を福祉国家の中核に据え, 「規制国家 としての福祉国家」の側面を重視していると述べ ている.本論文では,日本政府の政策行動として, 福祉国家的な機能を有効に発揮できる取り組みな どに関連して, 「福祉国家」と表現している..

(3) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (757). 49. 保障」などについて「企業福祉」と同じ意味で. させられるような生活リズムを見つけられるよ. 用いており,筆者が取り扱う「企業保障」につ. うに,就業形態を調整すること」となっている.. いては第 3 章で詳しく論じる.. 一方,日本 で は 2000 年代後半 に 入って,よ. Ⅰ ワーク・ライフ・バランスとは何か. うやくワーク・ライフ・バランスの概念が周知 さ れ,具体的 な 制度・施策 が 検討 さ れ る よ う. 1.ワーク・ライフ・バランスの定義. になってきたところであるが,今日の日本でも. まず,そもそもワーク・ライフ・バランスと. ワーク・ライフ・バランスとはさまざまな意味. は何なのか.実は,ワーク・ライフ・バランス. で用いられている.例えば,以下のような政府. は,1990 年代以降の欧米諸国を中心とする世. や報告書の定義がある.. 界的潮流であるが,その定義は国によってさま. 第 1 に,内閣府男女共同参画会議仕事と生活. ざまである.. の調和に関する専門調査会の「「ワーク・ライ. ヨーロッパの文脈では,女性の社会進出,家. フ・バ ラ ン ス」推進 の 基本的方向報告」(2007. 族形態の多様化,男女労働者の意識の変化,そ. 年 7 月)でのワーク・ライフ・バランスの定義. して人口の少子高齢化などを背景に,労働市場. は,「老若男女誰 も が,仕事,家庭生活,地域. で働く女性の労働力を活用するための雇用戦略. 生活,個人の自己啓発など,さまざまな活動に. で,ファミリー・フレンドリー(子育て家庭に. ついて,自ら希望するバランスで展開できる状. やさしい)の両立支援策を実施し始めようとし. 態である」とされている.ここでは,ワーク・. た.それは,労働市場における規制緩和,つま. ライフ・バランスが老若男女区別なく「仕事の. り労働市場のフレキシビリティ及びセキュリ. 充実」と「仕事以外の生活の充実」の好循環を. ティ保障の労働政策の意味合いが強い(Lewis. もたらし,多様性に富んだ活力ある社会を創出. 2009) .. する基盤としてきわめて重要であると指摘した. し か し,近年,こ の 傾向 は ワーク・ファミ. 点がポイントである.. リー・バランスという仕事と家庭を射程に入れ. 第 2 に,経済財政諮問会議労働市場改革専門. た だ け で は な く,仕事 と 個人生活(地域活動. 調査会の「労働市場改革専門調査会第一次報告」. や趣味・学習など)の調和というワーク・ライ. (2007 年 4 月)では,「多様な働き方が確保さ. フ・バランスへと広がりを見せている.ワー. れることによって,個人のライフスタイルやラ. ク・ライフ・バランス制度はこれまでのファミ. イフサイクルに合わせた働き方の選択が可能と. リー・フレンドリー施策よりも,より広い意味. なり,性や年齢にかかわらず仕事と生活との調. 合いを包含しており,性別や年齢に関係なく,. 和を図ることができるようになる」と定義され. 労働者の仕事と生活全般のバランスを支援する. ている.ここでは,「多様な働き方が確保され. という考え方である.ワーク・ファミリー・バ. る」ということがポイントである.すなわち,. ランスはワーク・ライフ・バランスの基盤と. 柔軟な働き方が選択できることによって,男性. なっている.. も育児・介護・家事や地域活動,さらには自己. ワーク・ファミリー・バランスからワーク・. 啓発のための時間を確保できるようになり,女. ライフ・バランスへの流れのなか,欧米でもよ. 性については仕事と結婚・出産・育児との両立. うやくその定義についてまとめようとしてきて. が可能になる.. いる.英国通商産業省(DTI)のワーク・ライ. 第 3 に,ワーク・ライフ・バランス推進官民. フ・バランス定義によると,ワーク・ライフ・. トップ会議において,政労使の調印の上,決定. バランスは「年齢,人種,性別に関わらず,誰. された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・. もが仕事とそれ以外の責任,欲求をうまく調和. バ ラ ン ス)憲章」(2007 年 12 月)で は,仕事.

(4) 50. (758). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). と生活の調和が実現した社会は, 「国民一人ひ. えられる.. とりがやりがいや充実感を感じながら働き,仕 事上の責任を果たすとともに,家庭や地域生活 などにおいても,子育て期,中高年期といった. 2.ワーク・ライフ・バランス制度の国際的動向: イギリス・アメリカを中心に. 人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実. 次いで,このようなワーク・ライフ・バラン. 現できる社会」と表現している.具体的には,. ス制度は国際環境のなかでは,どのように取り. 就労による経済的自立が可能な社会,健康で豊. 組まれてきたのかについてみてみよう.. かな生活のための時間が確保できる社会,多様. 経済学では,市場メカニズムは多様なニーズ. な働き方・生き方が選択できる社会とされてい. に最も効率的に対応できると教えられることが. る. 「ワーク・ライフ・バランス憲章」は,基. 多いが,政策介入の程度は国の間で大きく異な. 本的に統括的な定義を定めるようワーク・ライ. る.市場メカニズムを重視するアメリカは,政. フ・バランスを解釈した点がポイントである.. 府の主たる役割を市場メカニズムを機能させる. ワーク・ライフ・バランスは,異なるライフ. ための市場のインフラやセーフティネットの整. スタイルを持ち,ライフサイクルの異なる段階. 備に限定してきた.これに対して,欧州のいく. にある個人の多様なワーク・ライフ・バランス. つかの国々では政府が積極的に市場への介入を. のニーズを実現する社会を目指している.した. 行ってきた(大森 2010:11).. がって, 「個人が多様な選択肢から個人の効用. 先進国におけるファミリー・フレンドリー施. を最大化する選択ができるとき個人のワーク・. 策あるいはワーク・ライフ・バランス制度への. ライフ・バランスが達成される」 (大森 2010:. スタンス3)は,大きく英米のアングロサクソン. 10)と考えられる.. 型と大陸ヨーロッパ諸国に分けられる4).. 以上のように,ワーク・ライフ・バランスの. 前者は伝統的に国家が介入せず,企業が最小. 考え方は「仕事と生活の調和を図り,相互に良. 限の整備をするゆえにファミリー・フレンド. い影響を与え合うようにする」ことである.そ. リー充実 の 議論 も 生産性向上 の 観点 が 前面 に. の特徴としては,企業と従業員が「win─win」. 押し出されている.アメリカでは企業が優秀な. の 関係(脇坂 2008a:2)で あ る べ き で,従業. 人材確保や競争力を高めることを目的に民間企. 員に対して一律的に行われる所定の労働時間の. 業の自発的な努力によってワーク・ライフ・バ. 短縮,休暇日数の増加,残業手当の割増等だけ. ランスが進められてきており,その実施責任は. でな く, 「従業員個々のニーズ」に沿った施策. 個々の企業にある.イギリスも企業主導でワー. を提供すべきだという考え方である.そのた. ク・ライフ・バランスに取り組んできた.しか. めには,従来の「ファミリー・フレンドリー」. し,1997 年のブレア政権の発足以降,政権が. と「男女均等推進」を掛け合わせ,さらにそれ. 保守党から労働党へと変わり,国が後押しする. らの取り組みの実効性を確保する「働き方の見. 形で法整備と周知啓発の両面からワーク・ライ. 直し」を加えて考えることが重要である(小. フ・バランスの推進を積極的に進めている.. 室 2009:18) .なぜなら,子育て支援の意味合. 一方,後者では公共政策として,国家の介入. いが強い「ファミリー・フレンドリー」だけで. によりファミリー・フレンドリーが充実してき. は福利厚生の一環に過ぎず,ジェンダーの意味 合 い が 強 い「男女均等推進」だ け で は 仕事面 に偏ってしまうからである.両方の視点にさら に,個々人の「働き方の見直し」の視点も加え て,バランスを生み出すことが重要であると考. . 3)先進国におけるワーク・ライフ・バランス 推進 の 経緯 に つ い て は,労働政策研究・研修機構 (2006) ,内閣府(2006) ,西岡(2008)などを参照 して整理した. 4)詳しくは西岡(2008)を参照..

(5) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). たので,生産性向上というより働きやすさを働 く権利として捉えてきた.フランスでは国・地 方自治体が中心となり,子どものいる母親の仕 事と育児の両立支援のための基盤整備として. (759). 51. Ⅱ 日本におけるワーク・ライフ・バランス推進 の阻害要因と福祉国家の取り組み ―企業に焦点を当てて. ワーク・ライフ・バランスに取り組んでおり,. 一方,イギリスとアメリカと対比して,日本. 個人の選択の自由を前提としてさまざまな選択. を位置付けると,国家が先導的に介入した伝統. ができ,平等であるように工夫した施策がとら. 的な仕事と家庭の両立支援策から,福祉国家主. れている.北欧諸国では,市民の間の平等をは. 導の規制の下で,企業の取り組みの充実の推進. かる目的から福祉政策としての「子育てを軸と. も求められるように移行しつつある.そして,. したワーク・ライフ・バランス」が展開されて. 国・地方公共団体,企業(市場),個人(家族). いる.. など各主体の役割の明確化,行動指針を踏まえ. 以上のような展開のなか,前述のとおり,イ. た推進体制の構築を求めてきている.. ギリスは EU の加盟国として影響力をもつ活動. それでは,日本ではワーク・ライフ・バラン. をしはじめ,国家がワーク・ライフ・バランス. スの推進にあたって,福祉国家はなぜ企業の取. を推進するようになってきた.注目される大. り組みの充実を促進するようになってきたの. きな変化は,1980 年代末から 1990 年代にかけ. か.福祉国家は企業にどう規制をかけてきて,. て 経営理念 と し て 浸透 し,民間企業 を 中心 に. それはどのようなステップでなされてきたか.. 自発的・積極的に取組みがなされていたファミ. 以下,福祉国家が企業の取り組みを促進する理. リー・フレンドリー施策が,1997 年のブレア. 由および福祉国家の規制について見る.. 政権の登場を転機に,福祉国家主導の政策とし て,全労働者を対象とするワーク・ライフ・バ. 1.福祉国家が企業の取り組みを促進する理由. ランスという理念へと転換した点である.そ. ―ワーク・ライフ・バランス推進の阻害要因. して,ブレア政権は 2000 年に, 「ワーク・ライ. 個人のワーク・ライフ・バランスの実現を阻. フ・バランス・キャンペーン」をイギリス全土. 害 す る 要因 は,家計要因,企業要因,市場要因. に展開するなど,官民をあげての取り組みが行. に大別できる.そのひとつである企業要因とし. われるようになった.イギリスのワーク・ライ. ては,雇用・訓練・昇進・賃金における女性に. フ・バランス制度の展開は,企業先導の施策か. 対する統計的差別,年功賃金,家族単位の働き. ら国家主導の官民あげての取り組みを辿ってい. 方を前提とした雇用慣行,管理職の意識改革の. る.. 遅れなどが指摘されている6) (大森 2010:11) .. そういったイギリスの変化により,大陸ヨー. 本論文での議論の対象は,ワーク・ライフ・. ロッパ諸国もイギリスの影響を受けるように なってきており,国家が規制するだけでなく 民間企業 に よ る ファミリー・フレンドリー充 実 の 推進 を ベース に お く よ う に なって き た. アメリカでも,最近では単なる民間企業での 最小限の環境整備や支援に止まらず,国家が 少 し ず つ 規制 を 加 え な が ら 介入 す る よ う に なってきている5). 5)注 2 と同様.. . 6)家計要因 と し て は,家計内 の 男女 の 固定的 な役割分担や夫婦関係の諸問題が指摘され,市場 要因としては,労働法制を含む市場のインフラ整 備の遅れ(在宅勤務にふさわしい労働法制の遅れ, 雇用保障 を 重視 す る 労働法制,処遇・雇用保障・ 社会保険の適用における正規・非正規格差を許容 す る 労働法制,配偶者控除,第三号被保険者 な ど の 女性 の 非労働力化 に 対 す る 暗黙 の 補助金制度, サービス残業の容認,高い転職コスト)やセーフ ティネット の 未整備(多様 な 保育 サービ ス,保育 所の整備の遅れなど)が指摘されてきている(大 森 2010:11) ..

(6) 52. (760). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). バランスの推進における企業の役割を問うこと. 際の行動につながらないのはなぜだろうか.. であり,以下では企業要因に焦点をあてて,現. 男性の育児参加とワーク・ライフ・バランス. 状ではどのような要因で企業での推進に困難さ. をめぐって,企業要素と関わる男性の育児参加. があるのかを,男性のワーク・ライフ・コンフ. の規定要因をみてみると,時間的余裕,職場の. リクト(仕事と生活の衝突)の実態からその具. 環境・慣行などがある8).通常,時間的余裕は. 体的な要因を見てみよう.. 父親の就労・通勤時間や妻の就労の有無で測ら. 両立支援という側面でワーク・ライフ・バラ. れ,日本 で は 父親 の 就労時間 が 短 い ほ ど,ま. ンスのことを解釈すると,近年,政府は女性. た母親が働いている場合も父親の育児参加度が. の両立支援 の た めのワーク・ライフ・バラン. 高くなるというほぼ一貫した結果が得られて. ス推進を超えて男性の育児参加促進のための. いる(石井クンツ 2009,加藤ほか 1998,松田. ワーク・ライフ・バランスの推進にも注目して. 2002).帰宅時間でみれば,父親の帰宅時間が. いる.牧野ほか(2010)の国際比較調査によれ. 17~20 時台までの父親の育児協力度はほとん. ば,日本の父親が平日子どもと一緒に過ごす時. ど変わらないが,21 時台以降の父親の育児協. 間は 2005 年度に平均 3.08 時間であり,1994 年. 力度は減少しているという調査分析結果が出て. 度のデータ (平均 3.32 時間)より減少している.. いる(松田 2002).他に,男性の育児休業取得. また,父親と母親の子育て時間の格差もアメリ. を阻害している要因として,「多くの職場では,. カ,フ ラ ン ス,ス ウェーデ ン,韓国等 の 国 に. 男性は育児休業を取得しにくい」(坂本 2002),. 比べて 4.49 時間と一番大きくなっている.さ. 「職場の雰囲気の問題」,「昇進などへの影響の. らに,政府の目標数値として掲げられている男. 懸念」,「長時間労働」などの要因が指摘されて. 性の育児休業率も,1999 年で 0.42%,2002 年で. いる(佐藤・武石 2004).. 0.33%,2005 年で 0.5% とほぼ横ばい状態である.. 以上のことから,企業要素にかかわるワー. ところで,男性の育児参加率は上昇していな. ク・ライフ・バランスの阻害要因として,女性. いが,育児参加への意識は高まっているとい. だけではなく男性についても,職場における労. えよう.牧野ほか(2010)において,日本の約. 働時間,働き方,環境整備,日本の雇用慣行な. 4 割の父親は「子どもと接する時間が短い」こ. どの諸要因が作用していることがわかる.. とに悩んでいるという調査結果が出ており,子 ども未来財団(2001) 「平成 12 年度子育て支援. 2.企業に対する福祉国家の規制. に 関 す る 意識調査事業調査」で も,15 歳未満. 日本では,女性の社会進出とともに共働き世. の子どもを持つ父親の 51.3% が「男性も育児休. 帯が増加し,高学歴で優秀な女性が職場で活躍. 業を取得するべき」と答えている.また,UFJ. するようになったことで,女性たちが家庭で. 総合研究所 (2003) 「子育て支援等に関する調査」. 担っていた家事,育児,介護などとの両立が深. によると,子育て世帯の男性の約 7 割は,育児. 刻なジレンマとなりはじめ,政府も,労使も対. を仕事と同等に重視したいあるいはどちらかと. 策を講じなくてはならなかった.近年,男性の. いえば家事育児を優先したいという希望を持っ. 育児参加促進の要求も求められはじめ,個々人. ているが,現実には仕事専念あるいは仕事優先. のための広範なワーク・ライフ・バランスの推. という回答が約 7 割を超えているという結果が 出ている. このように希望と現実の乖離7),あるいは実 . 7)Lewis(2009),佐 藤・武 石(2004)で 現 実 と希望の乖離に関する議論がなされている.. . 8)男性 の 育児参加 を 規定 す る 要因分析 は,ア メリカをモデルにしたものが多いが,アメリカの 分類方法 を 参考 に 整理 す る と,時間的余裕,職場 の 環境・慣行,相対的資源,性別役割分業観,父 親のアイデンティティ,家庭内需要などがある(石 井クンツ 2009) ..

(7) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (761). 53. 進が求められてきている.. 生活における活動とほかの活動の両立という項. 海外の取り組みは,前述のとおり,ヨーロッ. 目は,男女がお互いに協力し,社会の支援の下. パ で は 福祉国家 が 主体 と なって ワーク・ラ イ. に,家族の一員としての役割を円滑に果たし,. フ・バランス制度に取り組んでおり,民間企業. 家庭と仕事,地域活動などとの両立ができるよ. で自発的にワーク・ライフ・バランスのための. うにすることを示している.「男女共同参画社. 施策を実施してきたアメリカにおいても近年で. 会基本法」は,ワーク・ライフ・バランスの大. は政府が規制を加えながら少しずつ介入するよ. きなきっかけとなった画期的な法律である.. うになった.一方,日本では福祉国家の主導で. ⑵ 両立支援に関する法定化. 展開されてきたワーク・ライフ・バランス制度. 男女均等推進の流れと平行して,両立支援の. は,企業にもワーク・ライフ・バランスの推進. 流れは 1991 年の育児・介護休業法から本格化. において主体的な役割を求めるようになってき. した.これがワーク・ライフ・バランスにつな. て,個々の企業にワーク・ライフ・バランス制. がる政府の取り組みの第二の流れである.出産. 度を導入することを義務または努力義務として. 育児や介護を理由に雇用終了することを防ぐた. 課している.. めに 1999 年に「育児・介護休業法」(正式名称. それでは,日本では,福祉国家がどのような. は「育児休業,介護休業等育児または家族介護. ステップで企業に規制をかけてワーク・ライ. を行う労働者の福祉に関する法律」)が成立し,. フ・バランス制度を推進してきたのか.その点. 母親だけではなく父親も育児休業が可能になっ. について以下のような 3 段階に分けることがで. た.この法は 2005 年に改正され,正社員だけ. きる.. ではなく,同一の事業主に引き続き雇用された. ⑴ 男女雇用均等に関する法定化. 期間が 1 年を超える契約社員等の期間労働者に. 日本でワーク・ライフ・バランスにつながる. も対象が広げられ,育児休業期間も 1 年から事. 政府の取り組みの第一の流れは,1986 年の「男. 由により 1 年 6 カ月まで延長可能となった.そ. 女雇用機会均等法」の施行である.この法律が 生まれたのは,女性の社会進出が進み,女性労. して,2010 年 6 月 30 日に改正された施策では, 「父親休暇」を 導入 し て 母親・父親合 わ せ て 1. 働者が大幅に増えたことを背景に, 「雇用の分. 年 2 ヶ月の休暇取得が可能になった.. 野における男女の均等な機会及び待遇の確保等. その後,大きな転機となったのは,2003 年. 女子労働者の福祉の増進に関する法律」 として,. に 成立,2005 年 か ら 施行 さ れ た「次世代育成. 男女の差別をなくすために制定された. その後,. 支援対策推進法」である.政府は,出産・育児. 1999 年に改正され,事業主に対して教育訓練,. 環境の整備を進めるにあたり,特に企業による. 福利厚生,定年退職・解雇についての女性差別. 自主的な取り組みが求められている.次世代法. を禁止しただけではなく,募集,配置,昇進に. では,「301 人以上の従業員を雇用する事業主. ついても女性差別が禁止された.さらに,2006. は,「一般事業主行動計画」を 策定 し,2005 年. 年に女性に対する差別の禁止から男女双方に対. 4 月 1 日以降,速やかに各労働局雇用均等室に. する差別禁止,間接差別禁止などを盛り込んだ. 届け出なければならない」と義務付けられて. 改正が行われた.. いる(従業員 300 人以下の事業主は努力義務).. 「男女均等推進」の流れのなか,1999 年に 「男. 「一般事業主行動計画」の内容に関する雇用環. 女共同参画社会基本法」が成立し,男女がお互. 境整備に関する事項で,子ども出生時における. いに人権を尊重しつつ,能力を十分に発揮でき. 父親休暇の取得の促進を図ること,男性が育児. る共同参画社会の実現が求められてきている.. 休業取得中における待遇及び育児休業後におけ. その基本理念のなか,男女の人権の尊重,家庭. る賃金,配置その他の労働条件について労働者.

(8) 54. (762). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). に周知することなどが含まれている.. で働き方を見直し,業務の進め方・内容の見直. ⑶「ワーク・ライフ・バランス憲章」の策定. しや個人の能力向上等によって,時間当たりの. ワーク・ライフ・バランスにつながる政府の. 生産性の向上に努めることなどが定められてい. 取り組みの第三の流れとして, 「男女共同参画」. る.さらに,社会全体としての数値目標や実現. と「ファミリー・フレンドリー」理念に基づい. 度指標を活用して進捗状況を把握・評価し,政. て,2007 年 に「ワーク・ラ イ フ・バ ラ ン ス 憲. 策への反映をはかることとしている.. 章」が 策定 さ れ た.2006 年 4 月,経済財政諮. このように,ワーク・ライフ・バランスの推. 問会議・労働市場改革専門調査会は,第一次報. 進は男女均等推進とファミリー・フレンドリー. 告にて「ワーク・ライフ・バランス憲章」の策. の流れに沿って展開されてきた.そして,日本. 定を提起し,これを受けて「経済財政改革の基. では福祉国家が中心になって取り組まれている. 本方針 2007(骨太方針) 」で は,労働市場改革. なか,企業としての自主的な役割もより一層求. 及び少子化対策の推進・再チャレンジ支援への. められている.以下,第 3 章ではワーク・ライ. 取り組みとして,仕事と家庭・地域生活の両立. フ・バランス推進における企業の役割の変化に. が可能なワーク・ライフ・バランスの実現に向. ついて見てみよう.. けて, 「仕事と生活の調和憲章(ワーク・ライ フ・バランス憲章) 」及び「働き方を変える・ 日本を変える行動指針」の策定方針が発表され. Ⅲ 日本における企業の役割の変化 ―企業福祉論を中心に . た.そして,2007 年 12 月にその骨格が固めら. 今まで,ワーク・ライフ・バランスの定義お. れた.. よびワーク・ライフ・バランスの推進過程につ. 「ワーク・ライフ・バランス憲章」では,働. いて,企業要素に関連しつつ見てきたが,企業. くことを美徳としてきた日本の産業界では,仕. で実施されているワーク・ライフ・バランス制. 事と生活を両立しにくい現実があり,今日の社. 度は一種の企業保障9)ともいえるだろう.. 会を見渡せば, 「仕事と子育てや介護との両立. まず,これまでの企業福祉論では,企業の福. に悩む」 , 「安定した仕事に就けず,経済的に自. 利厚生制度について,どういう枠組みで何が議. 立することができない」 , 「仕事に追われ心身の. 論されてきたのかを見てみよう.. 疲労から健康を害しかねない」などの仕事と生. 結論を先取りしていえば,ここ数十年の企業. 活の間で問題を抱える人が多くいると書かれて. 福祉論のなかでは,後にみるように個別の手当. いる.. や休暇などに関する議論は企業での両立支援と. 「ワーク・ライフ・バランス憲章」は,こう. 関わって論じられたが,ワーク・ライフ・バラ. した現状を踏まえ,政労使による国民運動を展. ンス制度そのものに関する議論はあまりなされ. 開して意識改革をはかるとともに,仕事との両. て こ な かった.企業福祉 と い う も の は,時代. 立に向けた具体的な取り組みを進めるために,. ごとにその役割は変わってきたと思われるが,. 各主体が取り組むべき施策等を憲章と行動指針 としてまとめている.行動指針の中から企業に 関連する項目を抜粋してみれば,①経営トップ は職場風土改革のための意識改革,柔軟な働き 方の実現に取り組む,②育児・介護休業,短時 間勤務,短時間正社員制度,テ レ ワーク な ど, 個人に置かれた状況に応じた柔軟な働き方を支 え る 制度 の 整備,風土作 り を 進 め る,③労使. . 9)企業 の 福利厚生 と し て の ワーク・ラ イ フ・ バランス制度について,佐藤(2009:4─5)は, 「ワー ク・ライフ・バランスやワーク・ライフ・バラン ス支援に関する誤解として,ワーク・ライフ・バ ランス支援策を福利厚生施策と捉えている企業が あることだ」と指摘している.この問題に対して, 本論文 で は「企業福祉」で は な く「企業保障」と いう概念を用いているが,その点については後に 説明する..

(9) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (763). 55. ワーク・ライフ・バランスというものも時代産. 場するようになり10),従業員がより楽しく働け. 物であり,その領域は単なる福利厚生の分野に. るように,かつ退職後の生活保障を支援する方. 収まるものではなく,労働時間管理,人事評価,. 向の福祉制度へ転換した.一方,法律によって. 異動配置,さらには企業の社会的責任(CSR:. さまざまな福祉サービスが公共部門の企画・運. Corporate Social Responsibility)にまで広がる. 営によって行われることになり11),しかも企業. 広範囲にわたっている.ワーク・ライフ・バラ. がこれらの公的な社会保険制度の運営に際し. ンス推進の近年の動きについてみると,日本で. て,保険料を労働者とともに負担する制度が確. は福祉国家が企業の自主的な取り組みを求め. 立したのである.. るようになって,企業の役割が重要で,大きく. これによって,企業が福祉に関与する方法と. なってきたと言えるが,近年の企業福祉論のな. 12) し て, 「法定福利厚生」と「非法定福利厚生」. かでは企業福祉の提供における企業の役割はど. の二つに明確に区別されるとともに,それぞれ. う変わってきたのだろうか.. の役割分担と負担の方法を労使が厳格に認識す. 実際のところ,福祉国家の変容とともに企業. るようになり,1970 年代半ばにこの法定福利. 福祉も変容しつつ変革を迫られている. かつて,. 厚生費 と 非法定福利厚生費 の 負担割合 が,企. 企業福祉には未整備の社会保障制度を代替する. 業からみるとほぼ半々の負担となったのであ. 役割が期待されてきたが,社会保障制度の充実. る.もちろん,この時点より以前は非法定福利. に伴い,現在はほぼ社会保障制度の「補完」と. 厚生費の割合の方が高かったが,法定福利厚生. いう位置づけが与えられるに至っている.. 費が徐々に増加し,比率も高くなってきたこと で,非法定福利厚生の減少がみられるようにな. 1.企業福祉論でみる企業の役割の変化. る13).社会保障の成立・充実に伴い,企業福祉. ⑴「代替」役割から「補完」役割へ. は縮小・消滅するか,社会保障の給付範囲・要. 社会保障が成立するまでは,企業福祉は社会. 件・量などに不十分な点があればその不十分さ. 保障の「代替」の役割を果たしており,社会保. を「補完」する役割に変わってきた.. 障 の 先駆的機能 を 果 た す 関係 で あった(藤田. このような変化は,まず,人口の高齢化の進. 1997:30─31) .. 展に伴い,社会保険料拠出など法定福利費の増. かつて日本では,明治時代に企業が石炭や鉱 石の採掘業で用意した「納屋制度」が存在して いた.それが企業福祉の起源であるともいえる が,時代が進むとともに重要な産業は紡績業に 移り,1905 年に設立した鐘淵紡績の共済組合等 の企業共済組合活動で,疾病や傷害,年金,死 亡給付といった保険事業や,独身寮や社宅,保 育園,体育施設といった設備を作って,社会保 障の先導役としての機能を果たしたことはよく 知られている(橘木 2005:24─25) .このよう な企業福祉の機能は高度成長期まで続けられ, 社宅などの住宅施設と退職一時金の支払いなど が企業福祉の顔であった. し か し,1970 年代初期 に 高度成長 が 終了 を 迎えると,分野の異なった企業福祉が新しく登. . 10)それは持家支援制度の導入,文化・体育施 設の新設,病院などの医療サービスの提供,退職 金制度の拡充,企業年金制度の創設などである(橘 木 2005:34) . 11)そ れ は 特 に 医療 と 年金 の 分野 で 画期的 で あって,1970 年代初期の医療保険における国民皆 保険制度 の 確立,厚生年金 な ど の 公的年金制度 の 定着である(橘木 2005:34) .日本では 1973 年が 「福祉元年」と認識されている. 12) 「法定福利厚生」とは,企業 が 公的 な 社会 保障制度(健康保険,厚生年金保険 な ど)に 対 す る負担である. 「非法定福利厚生」とは,法定福利 厚生以外に,企業が任意で独自に行う福利厚生で ある.いわゆる「企業福祉」のことである. 13)藤田(1997)は,企業福祉 と 社会保障 の 一 般関係の分析において,競合・重複の関係,トレー ドオフの関係であると述べている.詳しくは,藤 田(1997) :32─41 を参照..

(10) 56. (764). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 大が避けられなくなった結果,企業の裁量性の. ⑵「任意的補完」役割から「強制的補完」役割へ . 比較的に高い法定外福利費を中心として企業福. 企業福祉におけるこのような変革または転換. 祉の費用の抑制傾向が強まっていることであ. 方向について,企業福祉が変革を図ろうとして. る.また,従業員の家族構成の多様化,女子労. いる現段階では,新しい議論として「企業内福. 働者の増加,個人のライフスタイルの変化,就. 利厚生 の 社会化」す な わ ち「企業福祉 の 社会. 業形態の多様化などにより,企業福祉も従来の. 14) 化」と い う 指摘 が あ る(西久保 2009a) .西. ように主に世帯主たる男子正規労働者を対象と. 久保は,企業福祉の提供における法定福利費と. するものでは,ニーズに応えられなくなってき. 法定外福利費の現状及び動向について分析を行. ている.そして,生活水準の向上や余暇の増大. い,少子高齢化の進行に伴って法定福利費の事. も,企業福祉に対するニーズを変化・多様化さ. 業主負担が長期的に上昇するという予算制約が. せ,従来の生活援護的なものでなく個人の選好. 強まる現状では,安定的な付加的退職給付など. を重視するものが求められるようになってきて. も含む企業福祉を前提とした恩恵的な制度が拡. いる.. 充されるとは考えづらい状況であり,また,社. そこで,企業福祉をめぐる各方面の対応をみ. 宅給付などの施設型の現物給付施策からの撤退. る と,当初,企業福祉 に つ い て 日本経営者団. 傾向が明確であり,財産形成や生活保障に対す. 体連盟(日経連)は 1965 年に「福利厚生」を,. る支援についても,重点分野とは捉えていない. 最終的には「企業の意思と判断」で行われるも. 企業が多数派となっていると指摘している.日. のとみることができると定義している.労使間. 本の企業福祉の特色のひとつであった社宅や独. には,立場の相違はあるが,近年は「協力して. 身寮,保養施設といった施設型のいわゆる「ハ. 労働者の生涯にわたる総合福祉の充実発展を図. コモノ」施策から,それに替わって健康関連や. る」とのコンセンサスがほぼ形成されている.. 自己啓発支援といった「ヒトモノ」施策へ配分. 企業福祉についての政策対応としては, 「法定. 意向が高まってきている(西久保 2007).. 福利」として退職金や非法定福利のほかの施策. そこで,企業が今後,比較的,積極的に投資. とともに,企業の福祉施策と一体として運用さ れるという特徴をもつことになる.しかし,法 定福利以外 は 実際には各種の政策目的に応じ て,義務づけ,優遇措置,奨励などのさまざま な政策対応がなされている.育児休業制度の義 務づけ,事業所内保育事業に対する助成などが その一例である. 何といっても,現在,日本において企業福祉 が見直しを迫られるのは,いうまでもなく少子 高齢化・経済停滞の下で, 社会保障費が増大し, 企業の社会保険料負担が増え,企業福祉の費用 が圧迫を受けていることに起因する.少子高齢 化・経済停滞は,日本の社会保障をはじめあら ゆる経済・社会制度の見直しを求めている.企 業福祉の再検討も直接的にはその関連である (藤田 1997:21) .. . 14)一方,橘木(2005)は,社会保障制度 の 登 場,充実とともに,企業は福祉から撤退していい と主張している.彼は,企業が社会保障財源の多 くの部分を事業主負担として拠出するようになっ て,企業の不満や抵抗に呼応する形で企業が福祉 から撤退してよいとするだけでなく,撤退を勧め る根拠として,非法定福利厚生に期待されたベネ フィットが減少していること,社会保障給付の財 源調達を保険料方式から税方式に転換することの メリットが全体としてみれば大きいので社会保険 料負担の削減ないし廃止を要請されると主張して いる.ともに非法定福利厚生費の賃金化案を提案 し,企業本来の社会的責任はビジネスの繁栄と雇 用の確保ということであり,国民への賃金・所得 の支払いを確実に行うこと,できるだけ高い賃金・ 所得の支払いをすることがもっとも重要であるこ と,そこで企業がさまざまな企業福祉を提供する よりも,賃金で支払うことによって使途を自由に することが,個人主義が尊重される時代にふさわ しいのではないかと述べている..

(11) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (765). 57. 国家福祉:現金給付   現金・現物給付へ拡大 企業福祉:現金・現物給付   企業福祉の縮小・消滅,規制による給付 出典:筆者が作成. 図1 福祉サービスの発展過程 . を拡充したいと考える分野は, 「健康」 , 「育児. 初期の段階では主に現金給付を行ってきたが,. 支援」 , 「自己啓発」など,比較的短期的に労働. 福祉国家的機能が充実していくことによって,. 生産性などへの経営的効果が期待できる分野,. 徐々に現金・現物給付へと拡大し,さまざまな. もしくは次世代育成支援推進法(2003 年 7 月) ,. 法整備や規制もかけてきた.一方,企業福祉は. 改正労働安全衛生法(2008 年 4 月) ,改正 パー. 社会保障制度の「法定福利費」負担と企業自ら. トタイム労働法(2008 年 4 月)など,法的根拠. の福利厚生の負担を併用しながら,福祉サービ. に基づく対応が迫られる分野であろうと西久保. スの提供にかかわってきて,それは企業に大き. は論じている.すなわち,さまざまな立法,法. な負担を加えるだけではなく,実際には社会保. 改正が進められるなかで,個々の企業の任意性. 障制度と重複・競合することもあって,企業は. のみに依拠した福利厚生が, 「社会的あるいは. 徐々に非法定福利厚生を減らしきた.企業自ら. 社会政策補完的面」からの要請によって「任意. が行っていた従来の現金・現物給付は,現在で. 性から緩やかな強制性を帯びるものへと変質し. は任意性で行うよりは福祉国家の強制性の下で. つつある」という, いわば「企業福祉の社会化」. 行っているといえよう.企業独自の「施設型給. が進んでいることである(西久保 2009a) .. 付」や「現金給付」は 縮小・消滅 し て き て16),. 以上の先行研究の企業福祉論では,福祉国家. 「現物給付」といっても法定で定められている. の変容に伴う企業福祉の質的変容について新た. 休暇・休業(年次有給休暇,出産休暇,育児休. な成果を得て研究が進んできたが,それはどち. 暇等)などを貫いていくことにすぎないかもし. らかといえば「社会保障との関係性」からのア. れない.. 15). プローチである .. 企業福祉は「代替」役割から「補完」役割へ. 要 す る に,福祉 サービ ス の 発展過程(図 1). 変容し,任意性で目的として行われた企業福祉. でみると,社会保障制度が成立される以前は,. は,福祉国家の強制性を帯びる福祉国家施策の. 企業福祉が社会保障制度の「代替」役割を担っ. 手段として提供されていることが増えている.. ており,労働者に現金・現物の福利厚生を提供. その役割の変化については表 1 のように整理で. してきたが,その対象は主に企業に勤める正規. きる.. 男性従業員及びその家族であって,企業の発展. 企業福祉における企業の役割の変化は,福祉. を図るための従業員の生活・家族を安定させ,. 国家的機能が強化するなか,企業が福祉国家の. 守ることが目的であった.しかし,福祉国家は. 緩やかな強制性を帯びる福利厚生制度を提供す. 全国民を対象とした社会保障制度を成立させ,. るようになってきた点である.一方,ワーク・ ライフ・バランス制度の発展段階でみると,日. . 15)近年では,東アジアの比較研究も出てきた (末廣 昭編 2010).ただ,日本の調査は含まれてお らず,また,東アジアの企業福祉における研究も, どちらかと言えば「社会保障との関係」からの分 析が多い.. 本では福祉国家が中心になって取り組んでお . 16)もしくは,橘木(2005)が提案したような 非法定福利厚生費の賃金化の可能性もありうる..

(12) 58. (766). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 表 1 企業福祉の質的変容. 目 的 (任意性). 「代替」役割. 「代替」→「補完」役割. 「任意的補完」→ 「強制的補完」役割. 非法定福利厚生 (企業福祉). 非法定福利厚生の縮小 (企業福祉の縮小). 非法定福利厚生の 縮小・消滅. 法定福利厚生の増加. 緩やかな強制性を 帯びる企業福祉. 手 段 (強制性). 出典:藤田(1997) ,西久保(2009a)などを参考に筆者が作成 注: 「目的」である企業福祉とは,企業が任意で行う非法定福利厚生のことであり,「手段」である企業福祉とは,福祉国家の 規制により企業が行う企業福祉のことである.. り,近年には企業の自主的な役割を求めるよう. 祉(employee benefits)には,主 に 有給 の 非. になってきている.ワーク・ライフ・バランス. 就業時間(年次有給休暇,病気休暇,出産休. 制度は,文字どおり従業員の生活と仕事のバラ. 暇 な ど),医療保険,企業年金,カ フェテ リ ア. ンスをとるための制度であり,例えば育児休業. プラン18)などの内容が含まれており,社会保. 制度,フレックスタイム制度などがある.しか. 障制度の範囲がかなり限定的なので,民間の企. し,このようなワーク・ライフ・バランス制度. 業が肩代わりしているところが大きい.企業の. を構成するメニューは,企業の福利厚生制度の. ベ ネ フィット は,企業 の 恩恵的 な 福祉 と い う. メニューにあたるものでもある.そこで,ワー. よ り 労働者 の 一般的 な 労働条件 の 一部,言 い. ク・ライフ・バランスの問題は,企業保障とし. 換えれば労働者の権利の一部になってきてい. てアプローチする視点も必要だと考えられる.. る(鈴木 1997:345).EU の説明によれば,企. 以下で,企業保障としてのワーク・ライフ・バ. 業福祉費における主たる内容は,「労働協約ま. ランスについて考察しよう.. たはその他の契約,または任意による,法的 社 会 保 障( statutory social security)を 補 完. 2.企業保障としてのワーク・ライフ・バランス. (supplement)す る た め の 私的社会保障制度. 社会政策論 の な か で,R. M. Titmuss は,社. (private social security scheme) への費用拠出」. 会全体として個人の特定のニーズに応えると. である(藤田 1997:20).. 同時に,社会のより大きな利益にも適うよう. 日本において,「企業福祉」という言葉を日. に考えるか,あるいはそのどちらも志向する. 本社会に初めて送り出したのは佐口(1972)で. 集団的な施策は大きく三つの体系の福祉施策. ある.佐口は,企業福祉について以下のように. に分け,すなわち国による「社会福祉」 (social. 論じている.. welfare) , 「財 政 福 祉」 ( fiscal welfare) , 事業 17) 主による「企業福祉」 (occupational welfare). 「すなわち,従来の福利厚生そのものの在り. に分類した(Titmuss 1958:33) .. 方が今日の問題であり,それは企業の問題であ. 欧米の文脈で見ると,アメリカでは,企業福. るのみならず,主として社会保障ということに. . . 17)企業福祉は「産業福祉」 (industrial welfare) , 「従業員給付」 (employee welfare)などとも呼ばれ, それは「企業による」という意味よりは「企業(職 域,職場)における」という響きをもち,企業性 は日本ほど強くない(藤田 1997:20) .. 18)カ フェテ リ ア プ ラ ン の 代表的 な も の は い くつかのタイプのベネフィットプランのなかから もっとも最適なものを選択する方式で,とくに医 療保険と団体生命保険との組み合わせなどが主な 選択肢となる..

(13) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (767). 59. 表 2 企業内福祉制度のメニュー例 対 象. 正規従業員本人とその家族. 給付種類. 施設提供. 社宅・独身寮 余暇施設(自社所有,契約型) 企業内保育所. 現金給付. 住宅手当・家賃補助 退職金・企業年金 各種見舞金 家族・児童手当 通勤手当 財産形成援助制度. 現物給付. 健康診断 出産・育児休暇 フレックスタイム 時差通勤. 出典:藤田(1997),西久保(2009a)を参考に整理. かかわっている.企業福祉は,国が主体となり,. このような企業福祉は通常,その対象として. 企業=職場・職域 を 通 し て 強制 さ れ る 社会保. は従業員本人とその家族であり,費用分担面で. 障,ついで,労働者が労働組合を通じて自主的. 「法定福利」と「非法定福利」に 区分 さ れ て お. に行う労働者福祉を明らかにし,そのうえで企. り,給付機能で「施設提供」,「現金給付」,「現. 業自らが独自に行うものを企業福祉とあらため. 物給付」に分けられる(表 2 参照).「施設提供」. て呼んで差し支えあるまい」 (佐口 1972:3,5) .. には,社宅・独身寮,余暇施設,企業内保育所 などが含まれているが,住宅系施設は減少・撤. ここで彼は,企業福祉を社会保障とは一線を. 退傾向が確認され,企業内保育所は両立支援内. 画すものだとあえて確認し,福利厚生の社会的. 容の一つとして位置づけられている.「現金給. 位置づけを明らかにしようした.. 付」に は,各種手当 や 企業年金 な ど が 含 ま れ. 今日の産業社会は,生活リスクをヘッジする. ているが,これらの現金給付は賃金化などで現. ためのさまざまな生活保障の手段を発明してき. れている企業も発表されている20).「現物給付」. ており,これらは社会保障,個人保障,企業保. には,就労による健康管理系サービスや育児・. 障の三つに分けられる(武川・佐藤 2000) .三. 介護支援系の諸内容が含まれ,これらの制度・. つの生活保障の関連. 19). で,企業が何らかの形. 施策は今後の企業福祉が制度編成を行う方向を. で関係している生活保障の形態は,①年金や医. 提示している.. 療など被用者が加入する社会保険,②従業員も. 典型的な企業福祉に対して,本論文では,現. 拠出する企業年金等, ③労働者災害補償保険等,. 段階において,ワーク・ライフ・バランス制度. ④退職金,企業年金,福利厚生事業等 で あ る.. こそ新たな「企業保障」であると考える.なぜ. そのなかで,④が狭義の企業保障であり,いわ. なら,ワーク・ライフ・バランス制度で構成さ. ゆる「企業福祉」の典型と考えられている.そ. れる新たな「企業保障」は,第 1 に,給付対象. して,企業が何らかの形で関わっている①~④. の拡大による個人の社会的権利を保障するから. は,広義の企業福祉ということになる.. である.狭義の企業保障である典型的な「企業. . . 19)詳しくは武川・佐藤(2000)を参照.. 20)橘木(2005) ,西久保(2007)を参照..

(14) 60. (768). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 福祉」は,社会保障制度の補完として正規従業. 「企業福祉」は従業員の生活とその家族の安定. 員に現物・現金給付を行ってきた.それは,企. を保障することで,労働力を生産させ,企業の. 業福祉の提供の初期段階では,主に男性正規従. 生産性を向上させ,企業発展を図るという供給. 業員およびその家族が対象であって,施設型の. サイドからみて企業経営につながる意味合いが. 現物給付や基本的な家族手当などの現金給付で. 強い.しかし,ワーク・ライフ・バランス制度. あった.その後,女性の社会進出に伴い,女性. は,需要サイドである従業員と供給サイドであ. 労働力を支援するための福利厚生制度として企. る企業の両方に有効になるように企業が保障す. 業で取り組むようになった.企業の福利厚生と. ることである.すなわち,労働者の効用(満足. して,家族の子育てのための両立支援策21)を導. 度)最大化問題と企業の利潤最大化問題(太田. 入しているが,それは主に女性の正規従業員を. 2007)が比較的に適合的な分配がなされること. 対象としており,また実際の運用は難しいとこ. によって,企業や労働者の動機を明確に設定し,. ろが多い.近年では,少子化問題の深刻化,個. 各主体に柔軟な対応ができるよう企業が保障す. 人のライフスタイルの多様化などを背景に,女. ることである.. 性だけではなく,男性も含む個々人のワーク・. 第 3 に,給付主体(企業)が福祉国家規制に. ライフ・バランスの問題が重要な課題となって. より保障を行うからである.典型的な企業福祉. いる.しかし,典型的な企業福祉は,その給付. は,企業自らが任意で行うものがほとんどであ. 対象が正規従業員あるいは女性の正規従業員に. り,各企業の状況により制度の形成及び運用が. 限定されており, 個人の社会的権利保障として,. 決められた.そして,それはどちらかといえば,. 男女,正規・非正規の区分なく企業で働いてい. 費用面で資金的余裕がある大企業で供与され,. るすべての従業員の多様なニーズに応えること. 企業間の格差の問題が問われている.しかし,. は,今後企業福祉の課題であると考えられる.. ワーク・ライフ・バランス制度は近年,福祉国. そ こ で,本論文 で は,個々の 従業員 の 多様 な. 家政策 の 主導 の 下 で,「次世代育成支援対策推. ニーズに応えて,仕事と生活の調和ができるよ. 進法」の「一般事業主行動計画」の策定により,. うに企業が保障するという観点から,ワーク・. 2005 年 4 月 1 月以降,301 人以上の従業員を雇. 22). ライフ・バランスの「企業保障」 という概念. 用する事業主はワーク・ライフ・バランス制度. を用いる.. の導入を義務づけられており,300 人以下の従. 第 2 に,企業が従業員のリスク管理,リスク. 業員を雇用する事業主は努力義務となってい. 予防のための保障を行うからである.ワーク・. る23).. ライフ・バランスは,個人の仕事と生活のバラ. 第 4 に,福利厚生制度のメニューの進化によ. ンスがとれるように,企業がどのように職場リ. り,企業が多様な保障を行うからである.実. スク,生活リスクによる損害を最小限にとどめ. 際,ワーク・ラ イ フ・バ ラ ン ス 制度 の プ ロ グ. るための事前の準備として保障するかというこ. ラムの内容を見ると,企業ごとに異なっている. とが重要である.典型的な 「企業福祉」論では,. が,典型的な企業福祉の「ファミリー・フレン. . 21)企業福祉としての両立支援策については, 橘木・金子編(2003)で 論 じ て い る.両立支援系 の企業福祉は,主に女性労働を支援する制度とし て設計されている. 22)本論文では,「企業保障」について,「福祉」 (welfare)に「セ キュリ ティ」(security)が 含 ま れた意味で用いる.. ドリー」,「男女均等推進」を中心とした施策に 加えて,「働き方の見直し」に対する施策が増 えつつある.ワーク・ライフ・バランス制度の 主な施策としては,「経済的支援」,「休業・休 . 23)2011 年 4 月 よ り,101 人以上 300 人以下 の 事業主においても義務となっている..

(15) 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制度分析(韓). (769). 61. 表 3 企業におけるワーク・ライフ・バランス制度のメニュー例 対 象. 従業員本人 育児休業・産前産後休業 介護休業 子どもの看護休暇 その他の休暇 休業中の情報提供・学習支援 休業前後の面談制度 人事評価の見直し. 休業・休暇. 働き方の見直し. 短時間勤務制度 フレックスタイム 在宅勤務(テレワーク) 長時間労働の削減 転勤配慮. 代替要員の確保. ドミノ人事制度 シフト人事制度. 経済的支援. 各種手当・補助 セミナー・研修 社内報・インフラネット コミュニティサイト メンター制度. 意識改革. 事業所内託児施設 再雇用制度. その他. 出典:小室 2009:176 より 表 4 企業保障としてのワーク・ライフ・バランスの構想 区 分 時代背景. 典型的な企業福祉 福祉国家機能の拡張~福祉国家~ポスト福祉国家. 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス ポスト福祉国家. 対 象. 従業員とその家族 (男性稼ぎ主型モデル→共働き型モデル). 従業員個人 (共働き型モデル). 目 的. 安定成長 (企業経営). 安定成長+社会的権利 (リスク管理,予防). 給付主体 範 囲 焦 点. 主に大企業 「法定外福利厚生」のメニュー 企業福祉と社会保障との関係→企業福祉の動向. 101 人以上の事業主は義務 「福利厚生」のメニュー+「労働」関連のメニュー ワーク・ライフ・バランス実現の企業保障. 出典:筆者が作成. 暇」 , 「働 き 方 の 見直 し」 , 「代替要員 の 確保」 , 「意識改革」 , 「その他の施設・サービス」等が. の向上と安定により企業構成員の統合を図り, 生産性向上を通して企業の発展を図ることを目. ある(表 3 参照) .. 的とし,その対象は男性正規従業員とその家族. 上述のワーク・ライフ・バランス制度と企業. であり,「安定保障」としての施設提供,現金・. 福祉制度を考察してみると,時代背景,対象,. 現物給付を行ってきた.しかし,男性稼ぎ主型. 目的,給付主体,範囲,焦点と 6 つの次元で整. 社会から女性の社会進出による共働き世帯の増. 理できる(表 4) .典型的 な 企業福祉 は 男性稼. 加とともに,両立のニーズが高まってきたこと. ぎ主型社会において形成され,主に従業員生活. で,従来型の企業福祉では包括的な保障が難し.

(16) 62. (770). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). くなってきた.そして,社会保障制度の充実,. 迫られている.そこで,以下では,このような. 経済停滞の状況継続により,企業自らで行って. 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス制. きた企業福祉も費用面から圧迫を受け,企業福. 度分析に向けて,その分析枠組みを「柔軟性」. 祉が縮小してくるようになった.少子高齢化が. と「安定性」を組み合わせた枠組みで検討する. 進んでいるなか,福祉国家の機能は法的根拠や. という分析視角を提示する.. 規制を伴いながら,企業福祉の提供を求めてお り,福祉国家の社会政策の実施にあたって,企 業に一層の役割を求めている.ワーク・ライ. Ⅳ 企業保障としてのワーク・ライフ・バランス 制度分析へ向けて―分析枠組みの検討. フ・バランス制度も同じ脈絡で発展してきてお. 戦後の日本社会は企業中心社会を構築してお. り,それは単なる福利厚生の提供だけではな. り,典型的な企業福祉は,会社人間というワー. く,働き方の見直しなどの従来の労働問題も. クスタイルを最大限バックアップしてきたとい. 含めて検討しようとする意識を形成するよう. える.深夜労働を可能にするため会社に近接す. になっている.. る社宅・独身寮,社員食堂などを企業に配置し. 具体的な項目でみれば,典型的な企業福祉論. ており,男性社員は会社人間として働いてお. では,労働者の働き方,休業・休暇(例えばフ. り,女性社員 は 出産,育児,介護 な ど 様々な. レックスタイム,在宅勤務,余暇休暇,出産・. ハンディキャップで職場を離れなければなら. 育児休暇) が福利厚生の内容に含まれていたが,. な かった.そ し て,少子化 で 労働力供給 が 細. それが多様なニーズに柔軟に対応してきたかは. るこれからの時代において両立支援は,企業. 明らかに説明されていない.例えば,長時間労. の体力を持続させるためにも必要不可欠なも. 働は労働政策の分野で議論されており,企業保. のとなり,企業の福利厚生には,さまざまな. 障としての観点は欠けていたと考えられる.そ. 両立支援系の制度・施策が含まれるようにな. して,従業員の生活安定のため行われた企業福. り,これらを活性化させ,実効性のあるもの. 祉の経済的支援は企業動向の議論で現金給付の. としてゆくことが求められている.. 賃金化(橘木 2005)として問われてきているが,. 近年,ワーク・ライフ・バランスを求められ. 他に職場の雰囲気や人事評価等の機会公平への. ている労働者層は,子育て・介護層から従業員. 配慮など環境整備におけることを企業保障とし. 全体へ拡大され,また女性従業員以外に,男性. てみる視点は不足している.. 従業員にも必要になっている.高度成長期の福. 上記で論じたとおり,企業の福利厚生は転換. 利厚生 が「会社人間 モード」で あった と す れ. 期に向かっており,施設型施策への投資から人. ば,そろそろシフト・チェンジする時期であ. 的資源そのものに直接投資しようというタイプ. り,新しい「ワーク・ライフ・バランス・モー. の施策への関心が高まっている.そういった動. ド」に切り替えることで,改めて企業の競争力. 向のなか,企業福祉としての両立支援のニーズ. を維持・強化する存在としての位置を示すべき. は,現金給付,現物サービス,時間などと多様. なのかもしれない(西久保 2009b:3).新たな. 化し,また両立支援のニーズ層を超えて,単身. 企業保障は,従来の「企業福祉」にワーク・ラ. 者や育児・介護のニーズがない人たちもプライ. イフ・バランスを統合し,また CSR(企業の. ベートな時間と仕事を両立することを望み,い. 社会的責任)にも配慮した今日型の福利厚生を. わゆるワーク・ライフ・バランスのニーズが. 登場させている(藤田 2007:1).. 個々人へ広がっている.. 一方,ここ数年間,議論されてきたワーク・. 現段階においては,典型的な企業福祉は転換. ライフ・バランス論のなかでは,企業経営にメ. に向いており,従来の福利厚生制度の見直しが. リットがあるからワーク・ライフ・バランスの.

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