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共同企業体を請負人とする地方公共団体との請負契約における入札談合に関する賠償金条項の解釈

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共同企業体を請負人とする地方公共団体との

請負契約における入札談合に関する賠償金条項の解釈

深 谷   格

最高裁平成₂₅年(受)₁₈₃₃号賠償金請求事件・最二小判平成₂₆年₁₂月₁₉日裁判集民₂₄₈号₁₈₉ 頁、判時₂₂₄₇号₂₇頁、判タ₁₄₁₀号₆₀頁、金判₁₄₇₁号₂₆頁、審決集₆₁巻₄₆₄頁 【事案】   ₁ .X(川崎市)は平成₂₀年 ₂ 月、下水管渠きょ工事(以下「本件工事」)を一般競争入札に 付した。A 社と Y 社は同月₂₆日、本件工事の請負を目的として AY 共同企業体(以下「本 件共同企業体」)を結成し、A をその代表者と定め、A は Y から「( ₁ )入札及び見積もり に関する件、( ₂ )契約締結に関する件、( ₃ )その他契約履行に関する一切の件」等の事項 につき委任を受けた。本件共同企業体は上記入札に応じて落札し、同年 ₃ 月₂₅日、X との間 で請負金額 ₂ 億₇₀₉₀万円(後に ₃ 億₇₅₇万₆₅₀₀円に増額)の本件工事請負契約(以下「本件 契約」)を締結した。   ₂ .本件契約書には注文者 X は「甲」、請負人である本件共同企業体は「乙」と記され、 次掲川崎市工事請負契約約款(以下「本件約款」)が添付されていた。 川崎市工事請負契約約款(抜粋) 第 1 条第 1 項 甲及び乙は、この約款(契約書を含む。以下同じ。)に基づき、設計図書(略)に従い、日 本国の法令を遵守し、この契約(この約款及び設計図書を内容とする工事の請負契約をいう。以下同じ。) を履行しなければならない。 同第12項 乙が共同企業体である場合は、その構成員は、別添の共同企業体協定書に従い共同連帯してこの 契約を履行しなければならない。 同第13項 受注者が共同企業体である場合は、甲は、この契約に基づく全ての行為を共同企業体の代表者に 対して行うものとし、甲が当該代表者に対して行ったこの契約に基づく全ての行為は、当該企業体の全ての 構成員に対して行ったものとみなし、また、受注者は、甲に対して行うこの契約に基づく全ての行為につい て当該代表者を通じて行わなければならない。 第48条第 1 項 乙が、契約の当事者となる目的でなした行為に関して、次の各号のいずれかに該当するとき は、甲は契約を解除することができる。   ₁  公正取引委員会が、乙に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和₂₂年法律第₅₄号。以 下「独占禁止法」という。)の規定に違反する行為があったとして、独占禁止法第₄₉条第 ₁ 項1に規定する排 1  平成₂₅年改正で条文番号が繰り下がり、現行₆₁条 ₁ 項。

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除措置命令若しくは独占禁止法第₅₀条第 ₁ 項2に規定する納付命令(以下「原処分」という。)又は独占禁止 法第₆₆条第 ₁ 項から第 ₃ 項までの規定による審決3(原処分の全部を取り消す審決を除く。以下「審決」とい う。)を行い、原処分又は審決が確定したとき。 第53条第 1 項 乙は、第₄₈条第 ₁ 項各号のいずれかに該当するときは、甲の解除権の行使の有無にかかわら ず、不正行為に対する賠償金として、請負金額の₁₀分の ₂ 相当額を甲の指定する期間内に支払わなければな らない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。   ₁  第₄₈条第 ₁ 項第 ₁ 号に規定する排除措置命令又は当該排除措置命令に係る審決のうち、その対象とな る行為が、独占禁止法第 ₂ 条第 ₉ 項に基づく不公正な取引方法(昭和₅₇年公正取引委員会告示第₁₅号)第 ₆ 項に規定する不当廉売であるとき。   ₂  前号に規定するもののほか、排除措置命令のうち、その対象となる行為が、甲に金銭的な損害を与え ないものであることを乙が証明し、その証明を甲が認めるとき。 同第 3 項 第 ₁ 項の規定は、甲に生じた実際の損害額が請負金額の₁₀分の ₂ に相当する額を超えると甲が認 定したときは、その超過額について不正行為に対する賠償金の請求を妨げるものではない。 同第 4 項 第 ₁ 項及び前項の場合において、乙が共同企業体であり、既に解散しているときは、その代表者 であった者及び構成員であった者は、共同連帯して不正行為に対する賠償金を甲に支払わなければならな い。 同第 5 項 (略) (注)甲が特に必要と認める契約の場合は、第 ₁ 項の不正行為に対する賠償金の額は、請負金額の₁₀分の ₂ を超え₁₀分の ₃ を超えない範囲内で定めることができる。この場合において、第 ₃ 項中「₁₀分の ₂ 」とある 部分は、当該定めた割合を記載するものとする。 第54条第 1 項 乙は、(略)前条第 ₁ 項及び第 ₃ 項の規定による不正行為に対する賠償金を甲の指定する期 間内に支払わないとき(略)は、遅延日数に応じ、年₈.₂₅パーセントの割合で計算した遅延利息を甲に支払 わなければならない。 (上記₄₈条及び₅₃条を、以下「本件賠償金条項」という。)   ₃  本件賠償金条項は不正行為による損害についての X の立証負担軽減と不正行為抑止 とを目的として X が設けたものであった。   ₄  公正取引委員会は平成₂₂年 ₄ 月 ₉ 日、川崎市内の事業者らが本件工事を含む一連の下 水管渠工事で談合をしていたとして、A 及び Y を含む₂₃社に対し排除措置命令、A 及び Y を含む₂₀社に対し課徴金納付命令を行った。この排除措置命令は、Y 及び A らが遅くとも 平成₂₀年 ₃ 月₁₂日以降、受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意 (以下「本件談合」)を行い、競争が実質的に制限されたとする。A に対する排除措置命令及 び課徴金納付命令は確定したが、Y に対する排除措置命令及び課徴金納付命令については、 Y の審判請求により確定しなかった4 2  平成₂₅年改正で条文番号が繰り下がり、現行₆₂条 ₁ 項。 3  審判制度は平成₂₅年改正で廃止された。注( ₄ )参照。 4  平成₂₅年改正前の排除措置命令、課徴金納付命令に不服のある場合には審判を請求し(平成₂₅年改正前独禁 ₄₉条 ₆ 項、₅₀条 ₄ 項)、審決を得ることとされ(平成₂₅年改正前独禁₆₆条)、かかる手続を経ずに裁判所の判断を 受けることはできなかった(平成₂₅年改正前独禁₇₇条 ₃ 項)。審判制度は平成₂₅年改正で廃止され、排除措置命 令等の名宛人は直ちに取消訴訟(行訴 ₃ 条 ₂ 項)を提起できるようになった(白石忠志『独占禁止法 第 ₃ 版』(有 斐閣、₂₀₁₆年)₆₆₆~₆₆₈頁参照)。

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  ₅  X は平成₂₂年 ₉ 月、A 及び Y に対し本件賠償金条項に基づく賠償金として₆₁₅₁万 ₅₃₀₀円(請負金額の₁₀分の ₂ )の支払を請求し、支払期限を同年₁₁月₃₀日と定めた。A は同 年₁₂月、X に対し上記賠償金の内金₉₂₂万₇₂₉₅円を支払った。   ₆  X は平成₂₃年 ₇ 月、訴えを提起し Y に対し上記賠償金の残額₅₂₂₈万₈₀₀₅円及びこれ に対する平成₂₂年₁₂月 ₁ 日から支払済みまで約定の年₈.₂₅%の割合による遅延損害金の支払 を請求した。   ₇  上記 ₄ の Y に対する排除措置命令及び課徴金納付命令は原審の口頭弁論終結時にお いていずれも確定していない。   ₈  第一審は X の請求を認容し、控訴審は Y の控訴を棄却し、Y が上告した。 【判旨】(破棄自判)  「本件賠償金条項における賠償金支払義務は、飽くまでも「乙」に対する排除措置命令の 確定を条件とするものであり、ここにいう「乙」とは、本件約款の文理上は請負人を指すも のにすぎない。」「本件賠償金条項は、請負人が共同企業体の場合には、共同企業体だけでな く、その構成員について排除措置命令等が確定したときにも賠償金支払義務を生じさせる趣 旨である」が、「本件契約において、上記「乙」が「A 又は Y」を意味するのか、それとも「A 及び Y」を意味するのかは、文言上、一義的に明らかというわけではない。」  「X は、共同企業体の構成員のうちいずれかの者についてのみ排除措置命令が確定した場 合に、不正行為に関与せずに排除措置命令等を受けていない構成員や、排除措置命令等を受 けたが不服申立て手続をとって係争中の構成員にまで賠償金の支払義務を負わせようという のであれば、少なくとも、上記「乙」の後に例えば「(共同企業体にあっては、その構成員 のいずれかの者をも含む。)」などと記載するなどの工夫が必要であり、このような記載のな いままに、上記「乙」が共同企業体の構成員のいずれかの者をも含むと解し、結果的に、排 除措置命令等が確定していない構成員についてまで、請負金額の₁₀分の ₂ 相当額もの賠償金 の支払義務を確定的に負わせ、かつ、年₈.₂₅%の割合による遅延損害金の支払義務も負わせ るというのは、上記構成員に不測の不利益を負わせることにもなる。」  「したがって、本件賠償金条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」とは」 「本件共同企業体又は「A 及び Y」をいうものとする点で合意が成立していると解するのが 相当である。このように解しても、後に Y に対する排除措置命令が確定すれば、X として は改めて Y に対して賠償金の支払を求めることができるから、本件賠償金条項の目的が不 当に害されることにもならない。」  千葉勝美裁判官の補足意見がある。 【研究】 1 .賠償金条項の意義・法的性質  入札談合は独禁 ₂ 条 ₆ 項の「不当な取引制限」の典型例である5。入札談合に対し注文者 5  白石・前掲注( ₄ )₁₉₆~₁₉₇頁。

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がとり得る民事上の法的措置として、民法(以下、現行民法については法令名省略)₇₀₉条 又は独禁₂₅条に基づく損害賠償請求、₇₀₃条、₇₀₄条に基づく不当利得返還請求が考えられる。  損害賠償請求の前提として、入札談合による損害とは「談合の結果として形成された現実 落札価格から当該入札談合がなければ形成されたであろう想定落札価格を差し引いた金額」 だが、損害額の立証は困難かつ煩雑なので、請負契約書中に賠償金条項を設けて、入札談合 等の不正行為があったことが判明した場合に請負代金額の一定率を支払う旨定め、損害の発 生及び損害額の立証を不要とすることにより、立証上の困難や煩雑さを排除して、損害賠償 の履行を確保し、損害の回収をめぐる紛争を未然に予防し、不正行為を抑止しようとするこ とが通例である6  村田恭介は、入札による契約は地方公共団体の契約の申込みに対する入札方式の承諾がな された双務契約で、この申込みは「承諾者は他の入札者と価格を競争するという前提条件が 存在する」条件付申込で、入札談合を行った上での承諾はこの前提条件に違反した債務不履 行行為であり、賠償金条項はかかる債務不履行についての「損害賠償の予約」だとし7、当 事者間で定めた損害賠償についての合意は、裁判所によっても増減できない(₄₂₀条 ₁ 項但 書)が、予約条項で定めた損害額を超える損害が発生した場合は、それによると定めること は可能だとする8  しかし、請負契約締結前の入札談合時点では請負人と注文者との間に契約関係は存在しな いから債務不履行とは言い難い。契約締結上の過失の一態様と解するとしても、判例は、契 約締結上の過失を理由とする損害賠償責任は不法行為に基づく責任だとする(最二小判平 ₂₃・₄・₂₂民集₆₅巻 ₃ 号₁₄₀₅頁)。また、入札談合についての賠償金条項(違約金条項)の性 質につき東京高判平₂₂・₁₀・₁ 審決集₅₇巻第 ₂ 分冊₃₈₅頁は、入札談合の場合には、契約締 結以前に談合が行われているから、本件違約金条項を定めた趣旨は、将来における不履行に よる損害賠償を前提としたものではなく、通常の損害賠償額の予定と同様に解すべきではな く、「損害の立証が可能な場合には更にその超過額の請求をなし得るものとして、談合参加 者への責任追及の可能性を留保していると解するのが、本件違約金条項を設けた発注者側の 合理的な意思に合致する」とする。  従って、本件のような賠償金条項は債務不履行による損害についての賠償額の予定ではな い。他方、本件第一審判決(横浜地川崎支判平₂₄・₈・₂₇金判₁₄₇₁号₃₄頁)や上告審が本判 決と同日付の別訴(最二小判平₂₆・₁₂・₁₉審決集₆₁巻₄₆₉頁。以下「別訴 a 判決」)の第一審 判決(横浜地川崎支判平₂₄・₇・₄ 審決集₅₉巻第 ₂ 分冊₃₂₃頁)は、本件賠償金条項は不正行 為に対するペナルティとして設けられたものだとする。排除措置命令等の対象行為が甲に金 銭的な損害を与えないことを乙が証明し、その証明を甲が認める場合には乙は賠償金支払債 務を負わない(本件約款₅₃条 ₁ 項但書 ₂ 号)が、同但書 ₁ 号は排除措置命令等の対象行為か ら不当廉売だけを抽出して規定しているので、入札談合のような不当な取引制限は、性質上、 甲に金銭的な損害を与える行為だと推認され9、乙は反証によってのみ賠償金支払債務を免 6  東京高判平₂₃・₉・₉ 審決集₅₈巻第 ₂ 分冊₂₉₂頁(本文の記述は₃₀₃頁)。 7  村田恭介「入札談合に対する損害賠償の予約条項についての考察」公取₆₁₆号(₂₀₀₂年)₆₈頁。 8  村田・前掲注( ₇ )₇₁頁。 9  本件工事に関する別訴での X(川崎市)主張の解釈(横浜地川崎支判平₂₄・₄・₂₆LEX/DB₂₅₄₈₃₂₉₇(別訴 b 判決)参照)。

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れる。従って、これは典型的な違約罰の特約ではなく、独禁法上の排除措置命令又は課徴金 納付命令の確定を停止条件とする賠償金支払債務を定めた契約(賠償額の予定)であり10 公序良俗に反しない限り有効だが、₄₂₀条は適用されない11  請負金額の ₂ 割という賠償額の予定は違約金条項の相場( ₅ ~₁₀%)12に比して高い。本 件工事の受注調整をした A を含む₁₂社が賠償金及び遅延損害金について提起した債務不存 在確認の訴え13に対する X(川崎市)の賠償金請求反訴では賠償金条項の公序良俗違反性が 争われたが、横浜地川崎支判平₂₄・₄・₂₆LEX/DB₂₅₄₈₃₂₉₇(以下「別訴 b 判決」)は、「賠 償金の予定の規定が公序良俗に反するか否かはあくまでも実損害額と対比した上で、予定さ れた賠償金の額が実損害を著しく上回ることが明らかである場合に限って、公序良俗に反す るものと評価するのが相当である」と述べ、「本件約款によって予定された賠償金の額が X の実損害額を著しく上回ることが明らかであるとは認め難い」し、「不正行為について、一 定の場合に請負代金額の₁₀分の ₂ 又は₁₀分の ₃ という賠償金を契約当事者間において予め定 めておくことは合理性があり、その金額も著しく不相当とまではいえないから、かかる規定 の存在自体が公序良俗に反し無効であるとはいえない」とした。本件第一審判決も「賠償金 の予定額も著しく不当に高額なものではな」いとする。 2 .本件賠償金条項における「乙」の意義  「乙」が共同企業体である場合に、本件賠償金条項中の「乙」は共同企業体の構成員「A 又は Y」、「A 及び Y」のいずれを意味するのか。A に対する排除措置命令及び課徴金納付命 令は確定したが、Y に対する排除措置命令も課徴金納付命令も、Y の審判請求により、原審 口頭弁論終結時において確定していない14  原判決(東京高判平₂₅・₄・₁₇金判₁₄₇₁号₃₁頁)は、本件賠償金条項の目的が X の立証負 担軽減と不正行為抑止にあることを理由に、「乙」は「A 又は Y」を意味するとする。  別訴 a 判決の事案は、本件談合に関して X(川崎市)が Z 社(W 社と共同企業体を構成) を被告として訴えた賠償金請求事件であり、W については排除措置命令及び課徴金納付命 令が確定したが、Z については Z の審判請求のため未確定であった15。別訴 a 判決の原判決・ 東京高判平₂₄・₁₁・₂₂審決集₅₉巻第 ₂ 分冊₃₃₄頁は、「本件約款₅₃条 ₁ 項を適用する前提とな る本件約款₄₈条 ₁ 項 ₁ 号に該当する場合とは、請負人が共同企業体のときにあっては、共同 企業体を構成する各事業者について原処分又は審決が確定したときを意味する」とする(本 件における「A 及び Y」説)。 10 菊池憲久「判批」行政判例研究会編『平成₂₆年行政関係判例解説』(ぎょうせい、₂₀₁₆年)₂₇₅~₂₇₆頁。 11 奥田昌道編『新版注釈民法(₁₀)Ⅱ』(有斐閣、₂₀₁₁年)₅₉₉~₆₀₀頁(能見善久・大澤彩)。 12 伊藤憲二「入札談合事件に係る損害賠償請求の現状」公取₆₅₂号(₂₀₀₅年)₂₄頁は、契約額の ₅ ~₁₀%程度を 相当な損害と認定するものが多いとする。また、和泉澤衛「独占禁止法違反行為と損害賠償請求訴訟―近年の入 札談合事例を概観して―」東経法₁₆号(₂₀₀₈年)₂₇頁は、違約金の水準を請負契約金額の₁₀%程度とする。 13 平成₂₃年(ワ)₈₂号債務不存在確認請求事件。本訴は平成₂₃年 ₇ 月 ₇ 日、取下げにより終了した。 14 これにつき公正取引委員会は平成₂₂年 ₇ 月₂₆日、審判手続を開始し、平成₂₄年₁₁月₂₆日、審判請求棄却の審決 を行った。(平成₂₂年(判)第 ₈ 号ないし第₁₁号審決書)。その後、平成₂₇年 ₄ 月₁₆日、最高裁で上告不受理決定 され、排除措置命令及び課徴金納付命令が確定した。 15 但し、本判決の事案では賠償金は請負金額の₁₀分の ₂ 相当額だが、この事案では₁₀分の ₃ 相当額である。これ につき公正取引委員会は平成₂₂年 ₇ 月₂₆日、審判手続を開始し、平成₂₄年₁₁月₂₆日、審判請求棄却の審決を行っ た(平成₂₂年(判)第 ₈ 号ないし第₁₁号審決書)。その後、平成₂₇年 ₄ 月₁₆日、最高裁で上告不受理決定され、 排除措置命令及び課徴金納付命令が確定した。

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 本判決の法廷意見は、①「乙」が「A 又は Y」、「A 及び Y」のいずれを意味するのかは、 文言上、一義的に明らかではなく、② X が本件賠償金条項の記載の工夫をせずに、「乙」が 共同企業体の構成員のいずれかの者を含むと解し、排除措置命令等が確定していない構成員 にまで賠償金や遅延損害金の支払義務を負わせると、当該構成員に請負金額の ₂ 割相当額も の賠償金と年₈.₂₅%もの遅延損害金という不測の不利益を被らせることになることと、③ 「乙」を「A 及び Y」と解しても、後に Y に対する排除措置命令等が確定すれば、X は改め て Y に賠償金の支払を求めることができるから、本件賠償金条項の目的が不当に害される ことにもならないこととを理由に、「乙」を「A 及び Y」と解する。  千葉補足意見は、①約款の文言が明確でない場合には、約款を含む契約条項の文言を基に、 当事者の合理的意思解釈を行うべきであり、② A B のいずれか一方のみにおいて命令等が 確定した場合、命令等が確定していない B に賠償金支払義務を負わせることは賠償金条項 の趣旨に反し、自己責任の原則を超える責任を B に負わせるもので、当事者の合理的意思 解釈からすると、B はそのことを納得して了承していたとはいえず、③甲がこのような場合 にも B に責任を負わせたいのであれば、条項作成の工夫が必要で、かつそのような対応は 可能だったのに、甲はそうしなかった、として、不明確条項の作成者の責任を重視しつつ、 当事者の合理的な意思解釈によるべきだとする。 3 .契約の解釈  旧民法財産編₃₅₆条は、契約の解釈に当たっては当事者の共通の意思を探求し、その意思 に基づいて解釈すべきだとし、財産編₃₆₀条は、₃₅₆~₃₅₉条に掲げた解釈準則によっても当 事者の意思に疑いが残る場合には、諾約者(契約による債務の債務者)の有利になるように 解釈すべきだとするが、これらの規定群は現行民法には規定されなかった。  かつての通説(A)は、契約の解釈を、表示から客観的に評価される効果意思の探求だと した16が、その後、当事者の主観的な理解を基準とし、両当事者の理解が一致している場合 には表示の客観的意味よりも共通意思を優先するという説(B)が主流になった。両当事者 の理解が異なる場合には、B 説は①表示の客観的意味を基準とする見解17と、②両当事者が 各々表示に付与した意味のうち正当とされる意味に従って契約内容を確定すべきだとする見 解18に分かれる。B ①説は、表示の客観的意味の確定にあたっては、当事者の用いた表示手 段が、当該事情の下で慣習・取引慣行や条理に従って判断した場合に相手方又は一般社会に よってどのように理解されるかを標準とし、当該事情の下で当事者が達成しようとしたと解 される経済的・社会的目的に適合するように、かつ、なるべく有効となるように解釈すべき だとする。  また、契約の解釈には意味の発見と意味の持ち込みが含まれ、後者には補充的解釈19と修 16 我妻栄『新訂民法総則』(岩波書店、₁₉₆₅年)₂₄₉~₂₅₀頁。川島武宜『民法総則』(有斐閣、₁₉₆₅年)₁₉₅~₁₉₆頁。 幾代通『民法総則(第二版)』(青林書院、₁₉₈₄年)₂₂₃~₂₂₄頁。 17 四宮和夫・能見善久『民法総則(第八版)』(弘文堂、₂₀₁₀年)₁₈₆~₁₈₇頁。 18 磯村保「ドイツにおける法律行為解釈論について―信頼責任論への序章的考察( ₄ )」神戸₃₀巻 ₄ 号(₁₉₈₁年) ₇₂₈頁以下。河上正二『民法総則講義』(日本評論社、₂₀₀₇年)₂₅₁~₂₅₂頁。佐久間毅『民法の基礎 ₁ 総則(第 ₃ 版)』 (有斐閣、₂₀₀₈年)₇₁頁。 19 山本敬三「契約の解釈と民法改正の課題」『石川正先生古稀記念論文集 経済社会と法の役割』(商事法務、₂₀₁₃ 年)₇₁₇頁。

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正的解釈20とがある。  さらに、約款の解釈については、不明確条項解釈準則、すなわち、約款による契約の解釈 の際に疑いがある場合には、約款を作成ないし使用した当事者に不利に解釈されるべきだと いう準則を採用する見解がある21  本判決の法廷意見は、基本的に不明確条項解釈準則(約款作成(使用)者不利の原則)に 立つ22が、₂②において予定賠償額や遅延損害金の具体的な数値を挙げるのは、不利益の程 度の重大さをも要件とする趣旨のようにも読めるし、「「乙」を「A 及び Y」と解しても、後 に Y に対する排除措置命令等が確定すれば、X は改めて Y に賠償金の支払を求めることが できるから、本件賠償金条項の目的が不当に害されることにもならない」という判示部分も 要件のように読める。もし、本判決がこれらの事情を要件とする趣旨ならば、約款作成(使 用)者不利の原則を修正したといえる23  補足意見は、約款作成者の帰責事由も考慮しつつ当事者の合理的意思解釈に依拠してお り、B ①説に分類される。本判決の補足意見は、法廷意見と理由が異なると評価すれば、実 質的に「意見」に近い。 4 .不明確条項の解釈についての判例  河上正二は、制度目的への適合性や条項内容の合理的理解により約款作成者不利の原則と 同様の効果を導く場合があり24、作成者不利の原則がわが国判例に確立しているというより も、取引全体を考慮した上での「合理的解釈」という玉虫色の解釈がなされているとする25 近時の裁判例を見てみよう。  約款作成者不利の原則に親和的な裁判例として、札幌高決昭₄₅・₄・₂₀下民₂₁巻 ₃・₄ 号 ₆₀₃頁、札幌高決昭₄₅・₅・₁₁判時₆₁₉号₆₃頁、大阪地決昭₅₃・₁₁・₂₄判タ₃₇₅号₁₀₇頁(「右契 約は X によって作成印刷された定型的な契約書式に記名押印を求めて締結されたもの」だ が、「定型書式作成者は経済的な力も強く実質的には契約条項の決定権を持っているのが通 常である」し、X は「より明確な条項・・・を用いることができた筈であるのに、そうはし ていない」から、「前記七条の条項をあえて X に有利に解せねばならないとは考えられない」 とする。)、大阪高判平₁₂・₁₀・₃₁日判時₁₇₅₂号₁₄₅頁(「保険会社は、・・・具体的要件・・・ 等を約款の別表等において細則で定め、あるいは取扱基準等を定めて、これらを約款の一部 とすることにより右抽象的あるいは曖昧な約款規定の表現を補い、これらをも保険契約の合 意内容とすることは十分に可能である」と判示)、東京高判平₁₆・₇・₁₃判タ₁₁₇₄号₃₀₉頁(「本 件保険約款については、Y において・・・策定したものであるから、Y において、・・・こ の約款の内容を解釈によって変更できる性質のものではない。したがって、本件約款の解釈 に当たっては、約款の文言に忠実であるだけでなく、その約款を策定した Y の趣旨を尊重 20 加藤新太郎『民事事実認定論』(弘文堂、₂₀₁₄年)₂₄₂頁。 21 上田誠一郎『契約解釈の限界と不明確条項解釈準則』(日本評論社、₂₀₀₃年)。 22 丸山絵美子「判批」判時₂₂₆₈号₁₆₆頁。山城一真「判批」セレクト₂₀₁₅[₁]₁₇頁。滝沢昌彦「判批」民商₁₅₁巻 ₂ 号(₂₀₁₄年)₁₆₄頁。菊池・前掲注(₁₀)₂₇₇~₂₇₈頁。曽野裕夫「判批」ジュリ₁₄₉₂号₆₈頁。 23 曽野・前掲注(₂₂)は、「不利益の大小は不明確の存否とは無関係であるから、これを考慮要素とする趣旨と 解すべきではなかろう(不利益の大きさは、むしろ合理的意思解釈において意味を有しうる。)」とする。 24 河上正二『約款規制の法理』(有斐閣、₁₉₈₈年)₂₇₃頁。 25 河上・前掲注(₂₄)₂₇₇頁。同旨、上田・前掲注(₂₁)₁₆~₁₇頁。

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したものであることを要し、これから離れて解釈することによって、保険契約者に不利な結 果となることは相当ではない」と判示)がある。  より明示的なものとして、東京地判平 ₂・₁₁・₂₇金判₈₆₅号₃₂頁(「複数の解釈可能性のあ る文言が約款において使用されている場合には、当該文言を使用した当事者、すなわち約款 作成者の不利に解釈するのが当事者間の公平に適う」とする)、神戸地判平₁₁・₄・₂₈判タ ₁₀₄₁号₂₆₇頁(生活協同「組合の性質上も、・・・当事者の合理的な意思ないし期待に照ら しても、本件・・・の契約条項の解釈にあたっては、組合員に不利な類推ないし拡張解釈は すべきではない・・・Y としてはそのように二義を許さない形で明確に規定すべきであった のであり、それが明確でないことによる不利益は共済事業者であり本件規約作成者である Y が負うべきものと解するのが相当である」とする)がある。  上記裁判例は本判決登場以前に約款作成者不利の原則を採用していたが、この原則を採用 した最高裁判決は見当たらず、補足意見で言及されるにとどまる(最三小判平 ₇・₅・₃₀民 集₄₉巻 ₅ 号₁₄₀₆頁の千種秀夫補足意見。また、最判平₁₃・₄・₂₀民集₅₅巻 ₃ 号₆₈₂頁の亀山継 夫補足意見は、合理的解釈に立つことを前提としつつ約款の解釈に疑義がある場合には作成 者不利の原則によって解釈すべきだとする)。 5 .共同企業体の法的性質  共同企業体の法的性質は民法上の組合である26。組合債務についての組合員個人の責任は 分割責任だが(₆₇₅条)、共同企業体の構成員が会社の場合には「各構成員は、共同企業体が その事業のために第三者に対して負担した債務につき、商法₅₁₁条 ₁ 項により連帯債務を負 う」27  本件約款 ₁ 条₁₂項、₅₃条 ₄ 項と、A に対する排除措置命令等の確定を根拠として、X は Y も賠償金支払債務につき連帯債務を負うと主張し、この主張を本件第一審は認めた。原判決 もその判断を支持し、「談合等の不正行為の防止を図るために共同企業体のうちの ₁ 名に対 する排除措置命令等の確定により共同企業体の他の者に対し連帯債務を負わせることに合理 性がある」と実質的理由を付加した。  しかし、本件約款の「乙」を「A 及び Y」と解するならば、本件約款₄₈条 ₁ 項により、 AY 双方に対する独禁法上の排除措置命令又は課徴金納付命令の確定が賠償金支払債務の発 生要件となるから、Y に対する排除措置命令も課徴金納付命令も確定していない以上、賠償 金支払債務は生ぜず、本件約款₅₃条 ₄ 項の要件を充たさない。また、本件約款 ₁ 条₁₂項は、 工事請負契約上の債務につき乙の構成員(A と Y)が連帯債務を負担する旨規定するのに対 し、賠償金支払債務は、契約成立前の独禁法違反行為(法的性質としては不法行為)を原因 とする債務であって請負契約上の債務ではないから、本件約款 ₁ 条₁₂項の要件も充たさな い28 26 最大判昭₄₅・₁₁・₁₁民集₂₄巻₁₂号₁₈₅₄頁。最三小判平₁₀・₄・₁₄民集₅₂巻 ₃ 号₈₁₃頁。 27 最三小判平₁₀・₄・₁₄民集₅₂巻 ₃ 号₈₁₃頁。 28  山城・前掲注(₂₂)₁₇頁。丸山・前掲注(₂₂)₁₆₅頁。菊池・前掲注(₁₀)₂₇₇頁。別訴 a 判決の原判決・東京 高判平₂₄・₁₁・₂₂審決集₅₉巻第 ₂ 分冊₃₃₄頁は、「本件約款₄₈条 ₁ 項 ₁ 号及び₅₃条 ₁ 項の文言及び趣旨に鑑みれば、 本件約款₅₃条 ₁ 項は、本件請負契約締結前に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 ₃ 条等の規定に違 反する行為がされた場合にこれを取り上げ、同法 ₃ 条等の規定に違反する行為がされたことを理由とする請負人 の不法行為による損害賠償責任について定めるものであり」、「商法₅₁₁条 ₁ 項及び本件約款 ₁ 条₁₂項は請負人の

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6 .本判決の射程・意義  本判決登載の金判₁₄₇₁号₂₉頁の無署名コメントは「共同企業体の構成員のうち ₁ 社につい てのみ」「排除措置命令等が確定した場合に、当該構成員(本件でいう A)に対して本件賠 償金条項に基づく賠償金の支払義務を負わせることができるのかについては、本判決は何も 判断しておらず、その射程外である(本件賠償金条項に明示的な記載はないものの、これを 設けた趣旨等を踏まえ、当該構成員に対しては支払義務を負わせることができると解する余 地がある・・・)」とする。  上記の「これ(=賠償金条項)を設けた趣旨」とは、立証上の困難や煩雑さを排除し、紛 争を未然に予防し、不正行為を抑止することである29。この趣旨と、排除措置命令等が確定 した構成員 A は本件賠償金条項に基づき賠償義務を負担しても不測の不利益を被らないこ ととを考慮すれば、A に対しては本件賠償金条項に基づき賠償金を請求しうると解される30 別訴 b 判決の訴訟において、まさにこれが一争点となったが、別訴 b 判決は「本件共同企業 体の代表者である A については、公正取引委員会の排除措置命令及び課徴金納付命令の処 分が確定しており、本件共同企業体が不可分一体となって X と締結した契約について受注 調整行為を行った事実を認めている以上」「賠償金債務全体について、代表者として債務を 負う」として、X の A に対する賠償金支払請求を認めた。但し、共同企業体の代表者でな い構成員につき排除措置命令等が確定した場合であっても、当該構成員の帰責性に鑑み、当 該構成員に対し本件賠償金条項により賠償金を請求しうると解すべきであろう。  本判決は事例判決であり、約款の解釈一般について規範を立ててはおらず、法廷意見と補 足意見には微妙な差異があるが、国及び地方公共団体で広く用いられている工事請負契約約 款につき、高裁の判断が分かれる中で一定の解釈を示した点で意義がある。また、法廷意見 として約款作成者不利の原則(の修正型)を用いた初めての最高裁判決だという点でも重要 である。  契約解釈規定が改正民法に採用されなかった現在、本判決の先例的価値は大きい。 (同志社大学大学院司法研究科教授) 債務不履行責任に関するものと解すべきであり、・・・本件請負契約締結前の不法行為による損害賠償責任につ いて類推する根拠が不十分であるといわざるを得ない」とし、別訴 a 判決も「原審の判断は、正当として是認す ることができる。」とこの判断を支持する。 29 前掲注( ₆ )参照。 30 菊池・前掲注(₁₀)₂₇₉頁。丸山・前掲注(₂₂)₁₆₆頁。

参照

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