移動するプラズマ境界での電磁波の反射と透過
伊藤洋
(昭和48年8月31日受理)
Reflection and Transmission of an Electromagnetic
Wave at a Moving Plasma Boundary
HiroshiIto Synopsi8 The reflection and transmission of electromagnetic waves by a moving boundary of a half’space plasma are investigated theoretically. The plasma is assumed to be a cold plasma. Two cases(TE mode and TM mode incidence)are considered. It is concluded that the refiected and transmitted electromagnetic energy are greater than the energy of the incident wave, when the plasma boundary is moving toward the incident wave,
1.はじめに
電離層は地球上数10kmから数百kmにわたって
存在するプラズマよりなり,これは上層大気が太陽か らの紫外線や軟X線を吸収して電離したものであると されている。電離層電波伝搬に関する研究は,はじめ は主に短波通信の通信回線の設計・保守を目的として 行なわれ,1950年代に入ると人工衛星を用いた宇宙通 信に関連し,宇宙空間研究とも関係しながら新たな興 味をもたれてきたものである。 本論文では半無限プラズマを考え,プラズマ全体は 静止しているが,プラズマと真空の境界が光速に比較 し得るほどに高速で移動するときの,この境界による 平面電磁波の反射と透過を理論的に解析した結果を示 す。最初に述べたように電離層の生成要因が,太陽に よる紫外線などによっているとすると,太陽の活動が 時間的に変動するような場合には上層大気(主にHe, 0,Nなど)がこの紫外線などによってつぎつぎに電 離し,このため,電離層境界面が光速またはそれに十 分近い速度で移動することが考えられる。この際プラ ズマ全体をみると,もちろん拡散等による平均的なド リフトが考えられるが,これは光速に比べて十分無視 できるほど低速度であろう。よってプラズマは静止し ておパプラズマ境界だけが高速で運動しているもの とする本論文のモデルは電離層内で現実に起こりうる モデルと言えよう。 さて近年相対論的電磁界理論が多くの研究者によっ て興味をもたれ,広く研究されている。特に無限平面 境界を有する二種媒質の中一方の媒質が高速で運動し ているときの電磁波の反射・透過について多くの研究 結果が発表されている1}⇒。また藤田ら5)は媒質は静 止しているが,境界面が高速度で移動する場合を論じ 興味ある結果を導出している。これは本論文と同じモ デル設定である。しかし藤田らの設定したモデルは二 種の媒質は非分散性誘電性媒質であり,現実的な意味 に乏しい。すなわち,光速に比較しうるほどに高速で 移動する境界面はプラズマのような分散性媒質によっ てのみ可能であり,非分散性誘電体が光速に比較しう るほどの速度で運動する場合やその境界面が移動する ことなどは本質的に不可能であろう。そのうえ,後に みるように媒質の分散性がこの場合特に興味のある問 題を含んでいるのである。 本論文の結果は太陽黒点の活動期における主に短波 帯の電磁波の電離層伝搬に有益な示唆を与えるもので あると考えられる。大電力マイクロ波,ジャイアント レーザパルス等を用いて中性ガスを電離することによって実験室内における実験的検討も可能であるが,こ れについては後日検討したい。 2.理論的検討 図一1に計算モデルを示す。すなわち,同図に示すよ うに均一電子密度n。をもつ半無限プラズマがあり, このプラズマは全体として静止しているが,その境界 面は速度vで移動している。この境界に向って角周波 数鋤の平面電磁波が入射角θzで入射するものとす る。同図のように観測者に静止した座標系をS(x,y, 2,t)系とし,境界面に静止した座標系をS’(x’, y’, z’
C〆)系とする。以下TEモードおよびTMモード
の両方について入射波の反射と透過を求めていく。 ところで,ここではプラズマは冷たいとし,イオソ は電子に比べて十分重く,そのためイオソの運動によ る現象への寄与は無視する。そうすると,プラズマの 比誘電率は ・.一・・i1_ω2互 ω2Z) (・)
のように表わされる。ここにε。は真空の誘電率,ωρ はプラズマ振動の角周波数で ・・pa−轣^隠 (・)
ここに祝,eはそれぞれ電子の静止質量および電荷で ある。またω、は後に述べるように図一1のx’<0の領 域,つまりプラズマ中で定義される角周波数であり, 境界の運動のため,一般的には入射角周波数COiとは 異なる。 2.1 TEモード さて,TEモードについて入射波を観測者の静止座 標系S系でみるとつぎの波動方程式を満足する。 ∂纂“)+∂i窪}+le・2E,“)一・ (・) ただし,le。== to i/cで, cは光速を示す。 よって, ! 2 2 図一1座表系 克lx , Ey (i」Eoeikx(りx一ぬ(り・+ゴw・t Bx・・一旦E。、ik。・・)・一、ke・・).・…tt ω‘ B, ・iL一星二E。。、k。・・)x−、・…)z+吻 ωL ただし, le(t〕=ko cosθ、, lez(の=leo sinθi (4a) (4b) (4c) (5) 同様に反射波についてはつぎのように与えられる。 Ey(γ)=Rlle−jkx(「)x−Jkz(「)x+Jt・rt (6a) 疏ω一旦R。、一輌一方・r・x…rt (6b) ωγ 、 ゐπ(「) Bz(γ)= RHe一jkrp(「)x 」ks(りz+」t・rt (6c) ωγ ただし,ω,は反射波の角周波数で,これもDoppler 効果のために一般にはCOtとは異なる値を持つ。式(6) の添字HはH波,すなわちTE波を示す。また, Lω一坐。。、Or,島ω一」互,i。 Or, c c島伺w・一
i÷)2 (・)
ここにθ.は反射角である。 つぎに透過波について求めると以下のようになる。 Ey・ (eLTHe」kx(りx−」k・(りx+」・・tt Bx…一旦Lτ。、一一、・、・り・+μ’ ωz Bz・t一星こτみ,卵一、・。・り・+」・・、t ωz ただし,ωzは透過波の周波数である。また, 2 1ex(t」÷1一昔・…‘・ v/ lez・t」旦/1」虻、i。θ (8a) (8b) (8c) c∼ ω、2 t’k…t・W・一÷1一翻 (・)
ここにθ‘は透過角を表わす。 ところで,Lorentz変換によると図一1のS系とS’系 の間にはつぎのような関係がなりたつ7)一’9)。 , x−cβt , , x=㎡1一β2’ y==y・ 2=z・ β τ一一x〆一㎡1寺・・β一÷ ㈹
よって,プラズマの境界面はS系でみるとxt=0よ り,x・=cβtなる方程式で表わされる。この境界面に おける境界条件は移動境界条件としてつぎのように与 えられている6)。 n×(ErE2)=・v(B一み,) (11a) n×(H1_n2)=_v(Dl_1)2) (11b)ただしπは図一1のような法線ベクトルであり,添字1, 2はそれぞれxt>0およびx’<0の領域の電磁界を 示す。すなわち上式よりこの場合,x=cβtにおいて, Ev(i)十Ey(γLE“(tLv(B、ω十B、(γLB、(t)) (12a) Hx(o十Hz(γLH、(t)=v(1)y(τ)十1)v(γL1)y(t)) (12b) となる。ここでv=・Oとすると通常の静止境界(x−0) における境界条件,すなわち電磁界の接線成分の連続 性を表わすことになる。また式a2)でv−0として, x−cβtとして界を求めると,ここでのモデルとは異 なるプラズマ全体が高速で運動する場合に一致す るu。 さて式⑫に④,(6),(8)を代入すると, E。ejkx(t)cβt−jk・(t)x+J・tt+RHe−」kx(りcβ”」kz(りx+」・rt 一コ[llejkx(t)cβt−jkz(りz+jtUtt ==・v{」霊鋤砺・t)・Bt−jk・・(・)・・j・・t +旦こR万、一、kx・・)cB・一、ki・…+、・rt ωγ +”
秩jTH・・kx・一・⇒(13・)
旦E。e、k。・・)・Bt−、kz・り・+μ・ ωz 一旦R。、一、kxのc3卜・…り・+・・rt ωγ 」』T。、繊͡・り・+J…t ω6 −一 噤oE・e・k…)・3t一繊+」・・tt 一ト1∼」?¢−jkx(「)cβt−jke(りx+JtOrt −( 21_ωP ω62)T…k・・’・)・3・一・k…)・+・・…/(13b) となる。ところで式⑬はzのすべての値に対して,か つすべての時刻で成立しなけれぽならないので,つぎ の関係が存在する。 k、 (i)=kz(r)=彪(t)=ko sinθi (⑭ feエωcβ+ωz−一・lex(「)cβ+ω,一〃x(t)cβ+ωε (旧 よって式⑬は, E・+R・−T・・−v←讐E・+㌘R・+芸τり (16・)
讐品寄R・」霊賑一昔
・{E・+R・一(・一芸)τ・} (16b) となる。 式⑮よりω,.を求める。 −k・・’・cβ+鋤一・β罐一妙・・ −a)r一βN/ωγ2一ω2z sin2θz よって, ωγ一β∼/ωr2一ωz2 sin2θz一ω‘十COiβ COS Oi 両辺を二乗して, (1一β2)ωγ2−2ω乞(1+βcosθのωr 十ωz2(1+2β cos Oi+β2)−0 よって, t・r−1竺5・{1+β…θ・±β(β+…θ1)} となる。ここで複合の中一を取るとtUr=(eiとなり, これはβに無関係な値となり,無意味であるのですて る。 よってωγは, (・r==ft.5・(1+2β…θ1+β2) (1・・ となる。 まったく同様にして式as)よりω、を求めると, ω・一、竺5・{1+β…θ・±βQ} ただし Q・V/(1+β…θ1)2一旙一・i・2・i となる。上式の複合の+を取ると,ω幻/COi == Oとして もCDtキCOiとなるが,このようなことはありえない。 よってこの場合一を取るべきである。ゆえに透過波の 角周波数は, ω・一、三5・{1+β…θ・一β(?} (e となる。 つぎに〃。ωを求めよう。式(7)と式⑰とから, Lω一 一ぴ・・−IVOf・一ω・・si・・θ・ 一、三㌔・{2β+・…i(1+β2)} (19) 同様にして, le…)一ピ;・{β(1+β…の一Q} 2・) となる。ゆえにθ。,θtはつぎの関係を満足する。 2β十(1十β2)cosθz ⑳ COS Or= 1+β2+2β cos Ot β(1+βcosθτ)−Q 22) COS Ot= 1+βcosθz一βQ つぎに式㈹よりRとTを求めると, R・一增o竃:篭::;;±i{…i≡講;鋼
T・一
│・藷箒糠皇≒駕)E・ 24
となる。 2.2 TMモード TMモードは.Ey−0のモードである。 はつぎのように与えられる。 Hv(iLH・e」kx(t)x−」k・(t)x+ゴωも彦 Dx・i一堅H。、、k。・・)x−、ka・・)・+j・・tt ωz 〃エω Dzω= H。2w(りx−jke(t)x+」・tt ωる 同様に反射波・透過波を求めると, 疏ω一REe−」k・(’)x−」k・(りx+j・rt kz(「) Dx(「)= REe一ゴkx(りx−」kg(り・+J…t ωr −kx(「) 1)a(「} = Re−J“k・(’)x−w(りx+」t・・t ωγ および 疏(t} ・・TEe・kx(りx”・k・(t)・“・‘・)tt Dx・t一堅LT。,典一、島1・)・+」…t ωε kx(t) TEejkm(りx−Jkz(り・+j・tt Dzω= ωz となる。ここで添字EはE波, まず入射波 (25a) (25b) (25c) (26a) (26b) (26c) (27a) (27b) (27c) すなわちTM波を表 わす。式囲,⑳および㈲を式0⇒に代入すると,tOi,ω、, ω6,”・ω,lea(i),”。ω, le、(’),〃。ω,ゐ、川の間の関係 は式⑭,⑬とまったく同一になり,危,TEはつぎの ようになる。危一㌃蓑il:1:㌶ξ1鶏i畿≡器砺
⑳石一晋畿:;;三裂濃i{:i≡鵠疏
ミ ゴ 200 iOO 0・9 1.0 β 図一2反射波のDoppler遷移 ミ ざ 2 29) ところで電力反射係数P。,電力透過係数P‘はつぎの ように与えられる。 n・Sr 1)r= (30a) n・Si n・8t (30b) P,= n・Si ただし, &一去E・i・×Ha}* Sr−†Em×H・・)・ &一TE…×H・t・* である。ここに*は複素共役を示す。 3. 数値計算結果 (31a) (31b) (31c) 前節で求めた各式の数値計算結果を検討してみる。 まず図一2に反射周波数のDoppler遷移を示す。式⑰ よりわかるように,この場合反射周波数はωpには無 関係で入身]角θ‘とβにのみ依存している。そして, Oi一定の場合,βが1に近づくにつれて反射周波数は 高くなる。またβを一定とするとθτが小さくなるに つれて高くなることが示される。つぎに図一3は式掲よ り求めた透過周波数の特性を示す。透過周波数も一般 に入射周波数より高くなるが,ωρ/(Oiが小さいときに は両者のずれは小さく,鋤/(Oiの大きくなるにつれて 透過周波数は高くなってくる。しかし,反射周波数と 比べて透過周波数の遷移量のβに対する依存性は小さ く,かつ入射角が小さいほど透過周波数も低くなる。 θ,=90° 60° 30D O° 0°∼90° ωバω、/10 O.9 1.0 β 図一3透過波のDoppler遷移 700 600 500 べ400 主 起 300 200 100 0 .O.9 β 図一4 反射波の波数 1.070 60 50 ミ 蓬40 30 20 10 30° 0° 30° 60° 60° 0.9 β 図一5透過波の波数 1.0 0.5 β一〇,99 θ,二〇° 1.0 1・o ωP/ω、 図一6 プラズマの等価比誘電率 103 102
蚤10
ξ1
10’1 10“2 30° 60° 一P,1「) 一一 o#’} ωP=ω,/10 0° 30° 60° 10”3 0.9 1.0 β 図一7TEモードの電力反射係数と電力 透過係数 q吉10 記 β=0.94 一一 }カリ 黹ヨ 104 P03 P02 P‘0 @1 竺 ρ=ω‘ = ωア=ω、/2゚[『
< \ A ωカ=ω、/10 10−1 ?O 2 ?O−3 0 90 ニ、(deg) 亘10 託 可三ラ1♂= θi=0° 30° 60° 一場の 一一ン∼) 30° 60° 図一8TEモードの電力反射係数と 図一9 TMモードの電力反射係数と 電力透過係数の角度依存性 電力透過係数 103 102 10 養 鯉 碑 1 10一1 10’2 10−3 90 0 θi(deg) 図一10TMモードの電力反射係数 と電力透過係数の角度依存性 君句 鼈鼬Nω ωP=ω,/2 ωP=ω, =β=0.94 』 、 一 、 、 ω声ω〃10 図一4, 5はそれぞれ反射波および透過波の波数を示す。 図一6はプラズマの等価比誘電率を示す。通常の非相対 論的プラズマの等価比誘電率は同図に比較のため示さ れているようにωp/(Oi== 1で0となるのであるが,こ こでのそれはω¢のβおよびθτ依存性のため,ω‘≧砺 となり,(Op=(Oiにおいても0にならず,かつこれが 入射角に関係しているのは興味深い。 ところで,この種の高速で移動する相対論的電波伝 搬における境界値問題によると,電磁エネルギーに関 するエネルギー保存則が成り立たないことが指摘され ている。このエネルギーに関する計算結果が図一7から 図一10に示されている。図一7はTEモードに関する電 力反射係数 Pu (’)と電力透過係数 PH (t)の特性を示し ている。(c)p/(Oiを一定としたとき,βが一定値をこえ ると電力反射係数は1以上になる。またWp/(Oiが大 きくなればなるほど,より小さなβの値に対して1)∬ωが1以上になる。この場合の入射角に対する様 子を図一8に示している。一方両図よりわかるように電 力透過係数も1以上になることがありうる。 同様な事実はTMモードの場合も同じように生じ ている。つまり,一般にこの種の電波伝搬では電力反 射係数Pω,電力透過係数1)(t)の間に, P(「)十P(ε)キ1