氏 名 山田 益 博 士 の 専 攻 分 野 の 名 称 博士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第381号 学 位 授 与 年 月 日 平成28年9月27日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻 学 位 論 文 題 目 タービンブレード切削加工時に発生する変形に関する研究 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 園 家 啓 嗣 教 授 秋 津 哲 也 准教授 石 田 和 義 准教授 小 川 和 也 教 授 中 山 栄 浩 准教授 加 藤 初 弘
学位論文内容の要旨
本論文は,筆者らの自社工場の主要業務であるタービンブレードの切削加工時に発生す る変形について論じている.以下,各章の概要を述べる. 「序論」では,主に蒸気タービンのブレード材料として12Cr 鋼が多用されるようになっ た歴史的経緯と,世界的に見たらまだ不足している発電量を賄うため,タービンブレード の生産量が増えている現状が本研究の背景であることを述べている.また,従来の研究で は,原因を探りたくても,文献は高温クリープ強度などの材料面に関するものばかりが多 く,加工時の変形などを扱ったものは皆無であることを述べている. 「鍛造素材の製作方法と加工時変形の実態」では,タービンブレード素材としてフェラ イト系耐熱鋼である12Cr 鋼が主流となった経緯を述べ,これらが日本で開発された鋼種で あることを説明している.これら12Cr 鋼のタービンブレード素材の多くが加工代をある程 度残した形で鍛造されて,機械加工業者に納入されているので,その製作方法や品質管理 方法を調べ,その後の加工変形の原因がないかどうか調査した.次に,機械加工における 変形の実体を調べ,この変形量を修正に際しては熟練工の手による勘と経験に基づく修正が,タービンブレード加工の生産性を大きく低下させていることが,本研究の背景にある ことを説明している. 「試験片による材料試験と切削実験」では,12Cr 鋼の基本的な特性を調べるため,先ず, 材料分析をはじめ,引張・圧縮・衝撃からなる機械的特性を調べて,応力とひずみの間の 実験式を得ている.また,鍛造材と圧延材の特性比較を行い,鍛造材は圧延材に比べて機 械的特性は低いが,伸びや衝撃値が格段に高まることを把握している.続いて試験片を用 いた切削加工における抵抗値と変形量の関係を取得し,切削にまつわる変形の傾向を掴も うとしている.その調査に当たっては,できるだけ実物の状況に近づける意味もあり,熱 処理の影響も見込めるよう配慮し,純粋に切削による変形量を求めている.さらに,切り くずから得られた情報を加えており,本材が非常に粘り強い材料である兆候を捉えている. 「切削加工部の温度」では,加工時の変形に直接影響すると考えられる加工部の温度に ついて調べている.加工時に切れ刃が被削物を削り取る際,当該部の温度測定法としてい ろいろな測定法が提案されているが,筆者らは最も基本的とも言える,当該部に熱電対を 溶接する方法を採用し,少々工夫を施して実験した.さらに実験で得られた数値を,文献 上利用できる2次元切削の理論解析や実験式を用いて検証している.この検証に際しては, 実験では分離することのできない,切りくずが作られるとき刃先近辺の塑性変形による熱, 工具すくい面で切りくずが滑るときの摩擦熱,および工具逃げ面で工具と被削材の摩擦に よる熱の発生割合を求めている. その結果,計算による出力値を実験で得た500℃以下に収まるようにするには,切削速度 V を調整する必要があり,フライス加工においては値の大きい切れ刃の回転速度より,値の 小さいテーブルの送り速度を用いるほうが近い値になることがわかった. 「加工変質層と残留応力」では,当初から上述した加工部の温度とともに変形の原因の 一つと目算を付けていた加工変質層の厚さと残留応力の大きさを調べた.加工変質層に関 して一般的な鋼材に対する文献は見受けられるが,12Cr 鋼そのものについての発表は見当 たらなかったので,自分で調べてみることにした.ここでは先ず,硬度法と切削理論に基 づく計算を行って層の厚みの推定をした.さらにESBD を含む顕微鏡観察を行った.また, 残留応力の調査においては,加工条件を種々変化させ,エッチングにより順次加工面を剥 ぎ取り,X 線応力測定装置によりその応力を測定した. 結果的に,加工硬化を起こした層が仕上げ表面から数µm と結論せざるを得ない状況にあ っては,硬度法による加工変質層の厚み測定では,厚みを断定できなかった.電子線後方
散乱回折法による写真撮影から切削表面から2 µm 付近で結晶粒が微細化しており,その下 方では塑性流動により流れたような組織形状になっているのが確認できた.
「加工変形への対処策」では,有力と思われる 3 つの方法について検討している.それ らは,1つはヨーロッパにあるSANDVIK 社が採用している方法にヒントを得たもので, 改良型(Improved)の SANDVIK 法という意味で Improvik 法と名付けて検討している. 2つ目に「加工プログラム修正法」と呼び,CNC マシンで加工するに当って加工プログラ ムに予想される変形量を予め見込んで加え,修正の必要のない製品を作製する方法を検討 している.3つ目に,仕上げ削りをそれまでの荒削り方向とは逆方向から行う「反転仕上 げ切削法」についてその適用可能性について調べている. また,現時点で自社にて適用可能性(加工を控えているブレードの有無と素材確保の確 実性)を考えて,Improvik 法を 455 mm 長さの 4 枚のブレードに適用し,全てのブレード をプレスによる矯正なく,合格品にできた.コスト的にも,近い将来10 万枚と予想される ブレードのうち,経験的に5%が修正を要するとして,この数に修正に要する平均単価を掛 け合わせ,年間750 万円のプラスになることを推定している. 最後の「結論」では,以上各章で得られた知見をまとめ,論文全体を総括している.
論文審査結果の要旨
学位論文は,筆者らの自社工場の主要業務であるタービンブレードの切削加工時に発生 する変形について論じている.今日,タービンブレードの素材の多くは12Cr 鋼と呼ばれる フェライト系耐熱鋼が用いられてきたが,近年の大型化したブレードへの適用に当たって は,本材の鍛造製素材が多用されるようになってきた.これに比例するように,本材の加 工時の変形に悩まされることが多くなっているが,いまだにこれと言った対策案がない. このような現状に鑑み,加工業者である筆者自らが,この変形の原因や対処策を調べよう としたものである.第2章は「鍛造素材の製作方法と加工時変形の実態」,第3章は「試験 片による材料試験と切削実験」といった基礎的な研究を行った.第4章は「切削加工部の 温度」,第5章は「加工変質層と残留応力」といった変形原因の探索を行い,ここで得た知 見から,第6章では「加工変形への対処策」を考え,第7章は「結論」としている. 審査委員会では,学位論文の内容について下記の指摘を受けて修正した. 本研究結果から得られた変形防止策(SANDVIK 法,反転仕上げ加工法)を実際にター ビンブレードの切削加工に適用すると,切削時の変形量を許容範囲まで軽減でき,経費を大幅に節減できた事から研究成果は評価された.従って,学位論文は審査により合格と判 断された. (1) 学位論文のテーマ名の整合性が取れていなかったので,整合性が取れるように修正 した. (2) 応力の単位が統一されていないと指摘された.従って,単位はSI 単位に統一して表 示した. (3)切削時に発生する変形に及ぼす機械的要因である残留応力について,被切削材表面 に生じる残留応力が多数の生データで表されているので分かり難いと指摘を受けた. 従って,切り込み深さを横軸にして整理して,残留応力を表示するように修正した. 最終試験については下記の指摘を受けたが,研究成果を実際にタービンブレードの切削 加工に適用して変形量を軽減でき,経費節減にもつながったことから,本研究成果は評価 された.従って,最終試験は合格と判断された. (1)研究で用いた12%Cr 鋼は,Nb の含有された特殊の鋼であり,この材料について切 削実験等を行ったところに新規性があると最初に説明した方が良かった. (2)変形に及ぼす要因として熱的要因と機械的要因があることを明快に説明してほしか った. (3)熱的要因の切削温度について,解析値としての2 次元計算値と,実際の切削加工は 3 次元であることの関連性が若干不明瞭である. (4)機械的要因である残留応力の測定結果(多くの生データ)をもっと整理して説明し た方が分かりやすかった. (4)考案した変形防止対策法(SANDVIK 法,反転仕上げ法)の有用性は明らかである が,切削時の被切削材の表面温度及び表面に発生する残留応力の関連性が分かり難 かった. 以上