源氏物語の人物造型
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(2) 森. 一. 2j2. 郎. 文学ミ と したが って また,源 氏物語 の ` 文学ミ が,た また ま近代小説 の ` 通 ず るにおいて は,小 説 的な視 点か ら,文 学 と しての評価 を加 える方法 が. ,. 必ず しも源氏物語 の世界 の解 明 に役 立 たないわ けでは な いので ある。 い わゆ るモ デ ル論 に して も,私 小説風 な視 点 で はあ った けれ ど,源 氏物語 の世界 の解 明 に役 立 たなか った とは言 えな い。 作者 の 自画像 ,理 想像 を,作 中人物 にさ ぐる方法 も真実性 を持 たないわ け で はない。 源氏物語 で あろ うと近代小説 で あろ うと,そ れを制作 した もののねがいや いの ちが こめ られた こ とにかわ りは ない。 人物論 に限 って 言 えば,近 代小説 の造型方法 に近似 す る もの,つ ま り,人 物 の性格 の必然 をそ の運命 の上 にた ど りうる もの,た とえば,宇 治 の女君 た ち につ いてな ら,人 物 が 作品 の主題 を にな う近代小説 の視 点か らの考察 もか な りのみの りを期待 しえよ う。 性格悲劇 と呼 ばれ る第三 部 の世界 の進 め方 が,人 物 の運 命 の必然 を促 した のだが,そ れが,近 代小説 の必然性 を重んず る世界 ・方法 に通 じたの で ある。. ノ しか ヒ ,源 氏物語 も近代小説 も,作 者 のねがいやいの ちが こめ られ た もの に相違 はな い と して も,そ の 間 の事情 は無差 別 に同 じで はない。 近代 の 自我 ・ 個我 の意 識 ・ 主 体 の発 し形成す る主題 は,作 者 自身 の思想・ 観念 の直接 的な発現 と見 な しうるが,源 氏物語 のば あい,主 題 の 問題 を制作 主体一個 に結 びつ ける こ とには疑 間 が ある こ と既 に反省 されて い ると ころで あ る。 作者 の 自画像 ・ 理 想像 とい うこ と, つ ま りは作者 の思想. 0観 念 と作中人. 物 の結 び つ きを単純 には行 ないえな い こ とも反省 されて い る。 モ デ ル論 も同 断。私小 説 のよ うには作 中人物 と実在人物 とは結 びつ かない。 小説 的 な視 点 は,物 語 の世界 と小説 の世界 が共 通す る接点 で 効果 をあげ つ つ も,限 界 を露呈 したわ けで あ った。.
(3) 22. 源 氏物 語 の人物 造型. ,た とえば浮舟 の性格 の必然 をその連命 に 宇治十帖 の姫君 た ちにつ いて も′ た ど りうると して も,そ の登 場 が,大 君 の形代 と して要 請 され るまで は,全 然 見 られ なか った こ とな ど,小 説 にお ける構想 と人. /42の. 連 関 とは異質 と言わ. な くてはな らな い。主 題 に随伴 して人物 の登 場 せ しめ られ る,原 氏 1勿 語 の方法 的特 徴を見 のが す ことはで きな い。 、 」 説 の 1世 界 と近 小 説的な視点か らす る考察 は,た また ま源氏物語 の世界 が ノ 似 す る部面 では,何 な く効果 を あげる。 が,そ れ は,た また ま にす ぎな いの で あ る こ とを知 らね ばな らな い。 恐 ろ しいのは,源 氏物語 の方法 へ の意識 の欠如 によ って,源 氏物語 の世界 が小説の 生 [界 と大 い に異質 な部面 に目をふ さ ぐこ とで あ る。 人 物 の造 型 が,現 代 の小説 の視 点か らではその脈絡 のた どれ ぬ こ とあ ると き も,何 とか意味 の必然性 を つ け よ うとす る こ とは,作 者 のお し進 め,お し ひろ げてい く物語 の世界 の方法 に忠実 な態 度 で はない。 物語 の研究 は,物 語 の世界 ・ 方法 に即 さねばな らぬ。 た またま小説 的 な世界 と合致す るもので も,物 語 と しての絶l点 の 中 につつ み こまねばな らぬ。何故 な ら源氏物語 は物語 で あ って小説 で はないか らで あ る。方法 は対 象 か ら導 き出 され る。 小説 的な視 点 は,源 氏物語 とい う作品へ の異質 な修1点 で あ る こ とは,小 説 対 物語 とい う大 きな対比 において 言 え る。 が,源 氏物語 を物語 と してみ ると い う修1点 においては,た とえば物語 をお とぎ話 と規定す る一定 的な観点をリト 除 す る こ とは可能 で な くて はな らな い。 物語 はお とぎ話 だ,と い う規定 は,源 氏以前 のいわゆ る昔 1勿 語 に対 す る観 )1点 とはな ら 点 で な くてはな らぬで あろ う。 それ は,そ の まま源氏物語 へ のな な い。源氏物語 は,昔 物語 か ら脱 した ` 文学ミ としての物語 だ と考 え られ る. か らで ある。 か くて,源 氏物語 は物語 だ,と ,そ れ だ けの言葉 では,へ んて つ もな い言 い 方 なが ら,源 氏物語独 自の文学世界を開発す る志 向を こめて,主 張 した い の で あ る。.
(4) 森. ―― 虫Б. 23. 源氏物語 独 自の文学世 界 とい って も,小 説 的世界 ・方法 と通 ず る部面 は多 々 あろ う。 しか し,だ か らとい って ,小 説 的視 点 で よいのだ と思 わな いよ う につ とめた いので あ る6 くどい よ うだが,小 説 的視 点か らの考 察 で も源氏物語 の文学世界 は解 明 し うる面 を持 ってい る。それを否定 す るわ けではないので あ る。 だが,そ れは,対 象 に即 した方法論 と して全 的 ではない こ とを反 省 したい ので あ る。 また,一 方 ,物 語 はお とぎ話 だ とか ,物 語 は所詮物語 にす ぎな い,と い った ふ うに,価 値 的 に低 く見 て,あ るイ メージの 中 に とじ こめ る こ ともした くな い。 源氏物語 の もつ 多様 な性 格 を一定 的 に限定す ることな く,多 様 に開発す る こ と こそ,源 氏物語研究 の志 向す べ き こ とで あ るにちがいないか らで あ る。 源氏物語 の有す る文学性 は,小 説 に通 ず る点で いの ちの光 をはなつ だけで な く,物 語 の特殊性 において も輝 くで あろ う。 とい うよ り,特 殊性 のいの ち を享受 してい くこ とが,源 氏物語研究 の進 む べ き道で あろ う。 そ もそ も人物論 が成立 った文学性 とい うのが小説的で あ ったか ら,人 /1n論 と い うと,小 説 的世界 と通 ず る部面 で な され ,そ こに文学 と してのいの ちを 見 出す方 向 が主 流 で あ る。 その こ との意義を没却 す るので は さ らさらな いが,物 語 を 物 語 と してみ る ことがたいせ つ な以上 ,人 物論 ,人 物 の リア リテ ィの 発見 ,把 握 も,今 まで や って きた路線 の方 向途上 ばか りで ない道を探求 しな くてはな るまい。 つ ま り,以 上で お分 りいただ け るよ うに,源 氏 物 語を物語 と してみ るとい うこ とは,源 氏物語 を文学 と しての観点か らみな い ことを意 味す るのではな く,小 説 と しての文学世界 をみ る視 点を もつつ み こんで,源 氏物語 の有 す る 多様 な文学性 を,な かん ず く物語 としての特殊 な文学世界 を探求 す る こ とを 志 向す る ものなので あ る。 だか らまた,人 物論 だけが志 向 と して あるので はない。 ただ,今 は問題 を人物論 に限 って 述 べ るわ けで あ る。. ′.
(5) 源 氏 物 語 の 人 物 造 型. 24. (イ ). 最近 ,源 氏物語 の人 物造 型 に関す る研究 へ の反 省 や展望 がな され,源 氏物語 研究 の一 分野 と して豊かな展望 を得 るにいた った ことは ま こ とに喜 ば しい。 38年 8月. 「 源氏物 語作 中人物論集大 成 」 とい う特集 が「 解釈 と鑑賞」 昭和 につい 号 で な された り したが,最 近 ,清 水好子氏 の「 物語作 中人物論 の動 向 て 」 (筑 摩書房刊「 国語 通信」 昭和40年 8月 号 ・ 特集 ・物語文学 )や ,秋 山 12月 号所載 ・ 虔氏 の「 源氏物 語 の人間造 型」 (学 燈社刊「 国文学」 昭和 40年. ,国 文学 講演会 ,講 演要 約)に お いて ,そ れぞれ異 な る立場 に立 ち つつ も,人 物論 を,作 品論 の領域 におけ る重要 な一分野 と して意義 づ け られ. 10月 9日. た こ とは,わ た くした ち後学 に とって有 難 く有益 で あ った。 秋 山氏 は,近 時 その業績 を まとめて 出版 された「 源氏物 語 の世界」 (東 大 出版会刊 )所 収 の「 源氏物 語 におけ る人間造 型 の方法 」 の 諸論文 が示す ごと へ く,戦 後 の源氏物 語人物論 の一歴史を つ くられ た方 で あ り, 自 らの御研究 の省察 を も こめて ,人 物論 とい う作業 の未来 によ こた わ る「 沃野」 を指 し示 され ,後 学 を励 まされ る こ と多大 で あ った。 清水氏 は,戦 後 の源氏物 語人物論 の分野 において 自らもす ぐれ た業績 を う ち立 て られ た方 で あ るが,戦 後 の源氏物語 人物論の動 向 を ,今 井源衛氏 ,秋 山虔氏 ,益 田勝実氏 の諸論文 を中心 と して考察 され ,批 半」された。 両氏 が言 われ てい るごと く,源 氏物語 の 作 中人物論 が源氏物語研究 の重要 な一分野 と して ,作 品研究 と して の市民権 を獲得 したのは戦後 で あ る。 さて ,戦 後 の人 間性 回復 へ のねが い,民 主主義精神 のほ うは い と波 うつ 中 で情熱を こめてな された新 しい研究 意 図 や方法 は,当 の今 井氏 や秋 山氏 の反 省 が つ とにな され てい るごと く,作 品 の有 す る方法 に即 さねばな らぬ, とい う作品研究 の方法論 上 の 自己批判 を生む にいた った。 近江君 や末摘花 とい うよ うなみ じめなイ メージを持 つ人物 が,と りわ け照 明を あて られ た こと,明 石上 や玉 質 ,浮 舟 を身分 階層 の上で受領 層 出身 の身分 の低 さに苦 しむ者 と して とらえ られ た こ とは,確 か に戦後 の源氏研究 の新 し.
(6) 一 郎. 森. 25. い 開拓 として認 め られね ばな らな い。 が,清 水氏 が言 われ るごと く,問 題 はその書 き方 へ の 認識 で あ る。 これ らの 人 物 へ の 同情 が,そ の理解 と認識 を高 め る一方 ,民 主 的同情 の投入 がそのまま ― 個 のイ メージを形 づ くり,作 品 にお け る人物 の書 かれ方 と相容れ ぬ傾 き に まで つ っ走 って しま った こ とは,何 と して も根本的 に反 省 されねばな るまい c い けな いのは,民 主 的同情 なのではない。自らの主観 に発 した一 個 のイ メー ジ を ,作 品 の世界 に投入 して しま うこ とが,い けな いので あ る。 小説 的視 点 が つ よ く反省 され るべ きだ とす るのは,こ うした傾 き におちい り が ちな方法上 の欠 陥を具有す るか らで あ る。 激情的 な民主 的感情 の,作 品へ のその ままの投入 は,戦 後 二 十年 の 時代 思潮 の 推移 も相 ま って冷静 とな ったが,近 代小説 的心情 の投入 は,小 説 が文学 の 主 軸 で あ る こ とを つづ け る限 り,今 後 も続 きやす い。 しか し,そ れでは,作 品研究 と して の前 進 はな く,作 品論 と して の高 ま り へ の志 向 の無 自覚 が批判 ・ 反省 されねばな らな いのは言 うまで もなか ろ う。 源氏物語 は近代小説 とは ちが う,と い う当 り前 の ことを 強調 せ ず にい られ な いゆ えん で あ る。 もっとも,秋 山氏 が言わ れ るよ うに「 近代文学 の小説 に接す る態度 で接 す る こ とによ って ,か え って小説 的観念 をはねかえす物語 の特性 がは っき りし て くる」1)と 言 え る。 が,た いせ つ な こ とは,「 物語 の特性」,物 語 の独 自性 をは っき りさせ よ う とい う目的意識 で あろ う。 「 わた くした ちの人 間 につ いて文学 についての 関 心をぶ っつ け ると ころか 2)の で あ るが,物 語 の特性 を あき らか に しよ うとい う ら,す べ てが 開始 す る」. 念 願 がやは り前提 とな るのだ と思 う。 そ うした点で誰 しも異論 はないはず だ と思 うし,従 来 も この 目的意識 の必 要 は強調 されて きた。 わた くしが, 拙稿 「 源氏物語 におけ る人物造 型 の方法 と主題 との連 関」. 1),2)秋 山虔氏「源氏物語 の世界」. (東 京大学 出版会刊)5頁 参照。.
(7) 2δ. (「. 国語国文」 昭和40年 4月 号」)に おいて ささやかな考 察 を試みた の も,そ. のねがいによ る。 清水氏 ,秋 山氏 と もに拙稿 を と りあげて下 さったが ,両 氏 が と りあげて下 さ った過大 なお扱 いに比 して,拙 稿 の まとめ方 は ささやかで あ った こ とにll■ JFLた. る思 いで あ る。 まとめは十分 でな く,論 も過渡的 で ある。第 一 部 ・ 第 二. 部 ・ 第 二 部 の 相違 ・進展 につ いて もふれていない。そ の意 味 で,題 の大 げ さ なわ りには 内容 は全 体 にわた っていない。 (根 本的 には変 りはな い が。 ) これ は,実 は拙稿 の 執筆事情 に もよ るので ある。 拙稿 の 執筆事情 な ど書 いて もは じま らぬ ことだが, しば ら くおゆ る しをね がいたい。 わた くしは,先 に拙稿「 源氏物語第 二 部 の主題性 につ いて一― 女三 の宮降 嫁 の 事件―― 」 (「 国文学致」昭和35年 5月 号 )お よび拙稿「 女三 の宮事件 の 主題性 につ いて一― 柏木 との事件 に関す る一 考察一一 」 (「 国語 国文」 昭和 35年 11月 号 )に おいて,若 菜巻 の主題 につ いて』ゝれ るところが あ った。す な わ ち,若 菜巻 は,二 つ の主題 に三 分 され ること,若 菜上巻 の終 り近 くか ら. ,. それ までの (若 菜上巻以来 の)主 題 とは異質 な,新 たな主題 が継起 的 に書 き 起 こされた こ と,両 者 は もちろん無 関 係で はな く主題 の進展 に連 関を有す る が ,そ れぞれ別個 に主題 をみ とむ べ き こ とを言 い,そ れぞれ の主題 につ いて 考察 を加 え るところがあ った。 と ころが,女 三 の宮 と柏木 との 密通事件 が若菜上巻以降 の主構想 で あ ると す る見方 は,依 然 として多 くの論者 の有 す るところで あ るらしい。女三 の宮 降嫁 もそのための布石 で あ ると し,第 一 部 の藤 壺事件 の 因果応報 ,` 罪 と罰ミ に主題 をみ とめ るのが一 般 のよ うで あ る。 柏木 の人 物造型 も,つ とにそのための造型 が用意 されてい ると見 るむ き も 少 な くな いで あろ う。 わた くしは,そ れ に対 し,前 述 の主 張を,柏 木 の人 物造 型 の面か ら論証 しよ うと し,人 物造 型 と主題 との密接 な連 関を もつ この物語 の方法 に即 して解 明 す る こ とにつ とめたわ けな ので あ る。.
(8) 森. 一― 良Б. 27. そのた めに,第 一 部 の諸例 を あげて考察 を加 えた。その結果 ,柏 木 の例 を もふ くめて拙稿 は,源 氏物語 の人 物造型 と主題 との連 関 につ いての一 つの方 法 を示 す幾 らか の例 が あが ることにな ったと思 えた ので ,内 容 に比 して,お おけない題 とは思 ったが,思 い き って「 源氏物語 にお け る人 物造 型 の方法 と 主題 との連 関」 とい う題 を つ けた ので あ った。 そのた め,柏 木 の人 物造型 につ いての分析 と,そ の論証 と しての諸 例 の分析 とい う点 で は,比 較 的完結的で あ るか と思 うが,こ の大 きな題 目の意 図す る論 述 と して は,拙 稿 は ささやかで あ り,例 証 もあまね くゆ きわた っていないの で あ る。 ちなみ に,石 田穣二 氏 は「 最近 の源氏物語研究 の動向」 (「 国文学」 昭和. 40年 9月 号 )に おいて,拙 稿 の 当面 の論証 の焦点 で ある柏木 の人物造型 につ いて 評価 して くだ さ った。 清水氏 ,秋 山氏 は,わ た くしが,柏 木 の こ とを論証す るために,諸 例 を あ げ て,源 氏物語 の人 物造型 と主題 との連関を考 察 したので ,柏 木 を もふ くめ て ,源 氏物語全 体 に関す る人 物造型方法 につ いての拙論 へ の御高 評を賜 わ ぅ たわ けで あ る。 拙稿 の 当面 の意 図は,柏 木 の人 物造型 の され方 に関す る もので あ った。 が ,そ れ とと もに,拙 稿 執筆 の動機 には,源 氏物語 の方法一一 人物造型 の方 法―― に即 した方法 的意識 な しに人 物 にと り くんで はな らな い とい うこ と. ,. 物語 を物語 と して見 な くてはな らな い とい うねが い,志 向 がはた らいていた こ と も事実 で ある。 そ して,よ り根 底 には,人 物造型 につ いて も,作 者 の語 った順序 を無視 してはな らな い とい う,作 品分析 の立 場 ,作 品形象 へ の と り くみの主 張が はた らいて もいた。. 7. で. た とえば,柏 木死 後 の 夕霧 の批評 に「 す こ し意志 の 弱 い所 が あ って,柔 和 す ぎた …… 」 とあ るの も,柏 木死 後 に語 られた ものだ とい うことを忘れて柏 木 の人 物造型 ・形象 を語 ってはな らな い。 伏線 的 に,た とえは,女 三 の宮 の婿 え らび の 時 な どに語 られ るばあい とは 意 味が違 うこ とを知 らねばな らな いで あろ う。.
(9) 源 氏 物 語 の 人 物 造 型. 28. 達成 された表現 と して の展開 にお いて 作品 の主題 を考 え るとき,後 者 のば あ いな ら,柏 木 の,密 通事件 のた めの人物 造型 が つ とにな され てい ることに な り,密 通事件 とい う主題 ・構 想 の生起をそ こに見 出 しうる こ とにな るので あ る。 わた くしが, ここで ,「 附着」 とい う ことを言 った の も,意 志 の 弱 さ,柔 べ 和 さとい う性格 の必然 が事件 を主導 して い るとい うふ うに読 む きでない こ と,そ う読ん で は,作 者 の語 った順序 ,文 学表現 の学率 を無 視す るもので. ,. 作者 の方法 に忠実 で な い こ とを言 う気持 がはた らいていた 。 それ は, あ とか ら加 え られ た回 想 で あ る こ とを注意 した ので あ る。 そ し て , この書 き方 は,わ れわれ の実 人生 の あ りよ うと似 てい る こ とを言 い,源 氏 物語 の方法 は,人 生 の真実 ,あ りよ うに合致 した方法 で はな いか と言及 し た。 人 間 の性格 とい うものは,与 え られ た人 生 の場 ,局 面 において同一人 物 が 違 った像 を浮彫 りす る こ と決 して まれで はな い。源氏物 語 の方法 は,そ うし た人 間 の生 のす がた に即 した方法 で あ って,む しろ,近 代小説 の人 物 の必然 の,い わば,「 が くぶ ち を重ん じた書 き方 は,作 家 の 信1作 意 図 とい うゃ の 絵 の 中 の人生風景 の必然性 の追 求」 だ と も言 った。. `中. 近代小説 は,そ. のため,作 家 の観念 ・思想 が よ り多 く人物 に盛 られ る こ と. にな る。 源氏物 語第 二 部 は性格悲 rllだ とぃゎれ ,ま た,近 代小説 的だ ともいわれ る の は,薫 や匂 ,大 君 や浮 舟 らの人 物造 型 が,当 初 よ りか な り明確 な意 図 の も とにな されて い る ことと関係が あろ う。 こ うした点 で も,第 一 部 ,第 二 部 ,第 二 部 は違 うし,人 物 によ って も違 う こ とに当然 注意 がは らわれ な くてはな らな い。(も ちろん共通す る点 もある)。 秋 山氏 は,作 中人物 が,そ の人 物 らしいいの ちを もちは じめ る こ とによ っ て ,そ の形 姿が,作 者 の観念 の 中 の筋立 てを変改 させ ,ま た新 たな る筋立 て を生 まず におか な い,と い うと ころに,源 氏物語 の人 物 造型 の独 自性 が あ る と され ,そ うした物語 の世界 の論 理 の進み方 に大 き く眼 を開 いてゆか なけれ.
(10) 一. 森 1ゴ. 29. 郎. な らな い, と,強 調 された。 浮舟 が,入 水 ・ 出家後 ,薫 を拒 否す る新 しい形 姿 は,薫 の今 後 に新 しい変. 換 を もた らす可能 性 を予想 ・ 暗示 してい ると言 えよ う。 そ うい った こ とがわ た くしに も思 い 浮かん で くる。 そ うした人物造型 と構想 ・主題 との連 関 の しかたを実証 的 に浮彫 りしてい く こ とが,今 後 の人 物論 とい う作 業 の課題 で あ り,開 拓 さるべ き沃野は そ こ に ひ らかれ てい る,と 指針 を示 された こ とに,わ た くした ち後学 は深 く感謝 しなければな らな い 。. (口 ). ただ しか し,拙 稿 の志 向 した こ とは,主 題 ・ 構想 に応 じて人 3造 型 がな され 4‐. る,と い う,あ た りまえみた いな こ とに注 目 した にとど ま るのではなか った。 この,源 氏物語 の人 物造型方法 に注 目す る こ とによ って,人 物 の造型 上 の 変化 が ,主 題 の進 展 ・ 変化を示す信号 の よ うな もの に目され る可能性 を追求 す るにあ った。 拙稿要 旨 に「 人物 の造 型方法 に着 目す る こ とによ って物語 の構想 ・主題 の 解 明 も可能 であ る こ とを論証 しよ うとつ とめた ので あ る」 と しる したゆえん で あ る。 もっとも,主 題 ・構想 の変化 に注 目 しつつ人物 の造 型 の変化 を追求す るの に対 し,そ のいわば逆 が成 り立 つ か ど うかは,今 後実証 的 に浮彫 りす る こと が要 請 され る。柏木 につ いて試 みた拙稿 の意 図は,今 後生 か して ゆ き た い と,考 え てい る。 短 篇的諸巻 で は ,誰 も主題 を 見 あ や ま るものはな い。 しか し,長 篇 的 巻 々,た とえば,第 二 部 の若菜上下両巻 あた りで は,主 題 につ いての論 も分 れ てい る こ と前述 の ごと くで あ る。 主題 の変化 や新 たな発生を確実 に言説 で き るため に,人 物 の造型 方法 を細か く追 うこ との有効性 を追尋す る こと,そ れ が 拙稿 の当面 の主 た る意 図で あ った。.
(11) θ θ. 源 氏 物 語 の 人 物造 型. 主題 ・構想 に応 じて人物造 型 がな され るとい う源氏物語 の人物 造 型 の方法 的特性 の理 解 は,そ の他種 々の 問題 の解 明 に資す ることがで きると考 え る。 最近 ,大 林 潤氏 が,国 文学孜第 三 十八号 で,匂 宮 の 出産記事 に関 して論 じ られ た こ とは啓発 され もし,意 を強 くもした。 匂宮 の 出産 記事が懐 llI後 十八 カ月 日に しるされてい ることを指摘 され ,匂 宮 の出産の こ とは,柏 木 と女三 の 宮 の密通事件 を眼 の あた りにす る時 で ,密 通事件 の主 構想 の陰 にか くれ て,そ の 出産記事 がのば された ものだ と言 われ た。 そ して,そ の 出産 が じるされ た とき も,母 宮明石 中宮 の 姿を のべ るつ いで に,簡 単 に しるされたて いの もので あ る こ とに も注 意 された。 か くて,こ の よ うな匂宮 の描 かれ方か ら,こ うした時点 の匂宮 に対 し,わ た くした ちは,あ の,の ちの 宇治十帖 で 活躍す る主人公 のイ メージを さか のぼ らせ る ことはで きな い とい うこ とにな る。匂宮 の,あ の主人公 と してのイ メ ージは,作 品形象 の上で生起 していないので あ る。 匂宮 が主題 に参与 す る役割を にな って物語 に登 場 し,物 語 の主人公 と して の役 割を作者 によ って与 え られた と考 え られ る時点 ,す なわ ち,匂 宮 によ っ て形象 化され る主纏性 の生起 は,横 笛巻. (日. 本 古典全書 四巻 ・二 七 九 頁 ). で ,紫 上 が格別 かわいが るとい う記事 あた りに さかのぼ らせ るべ きか ,と い った こ とに もなろ うか。 ちなみ に,薫 の誕生 は柏木 と女三 の宮 の密通事件 とい う構想 の 中か ら生 ま れ 出ただけに,そ の 出産記事 は克 明 で あ り,源 氏 が薫 に冷淡 とい うこ と もし るされてい る。. (日. 本古典 全書 四巻 ・二 三 〇頁 ∼二三 二 頁 )。. の ちの, 宇治. 十帖 の薫 の人 物像 の暗 いイ メージは,つ とに この 出産 の記 事 に さかのぼ らせ る こ とがで きよ う。 したが って また,主 題 の生 起 もこの 時点 に求 め ることが で きるのでは あ るまいか 。 す なわ ち,薫 の求 道生活 とい う,た しか に作者 が追 求 を試 み よ うと した と おぼ しき主題 は,こ の 出生 の 時点 において つ とに胚胎 してい ると考 え る こ と がゆ るされ るのではなか ろ うか。.
(12) 森. 一. 郎. θ. =. もとよ り,こ の 限 りで論 が終 って よいのではない。宇治十帖 にお け る主題 の 中 で,薫 が にな う役割,薫 が にな う主題性 を解析す るための「 始発」 にす ぎない 。匂宮 も同 じ。 今 はただ,主 題 が どのよ うに進 め られ てい るかを微 細 に見 つ めてい くた め に,拙 稿 の示 した解 明法 が,何 ほどかの有効性 を もつ ので はないか とい うこ と を述 べ るため に,そ の見通 しを つ けよ うと した にす ぎな い 。論証 を期 したい。. (ハ ). 清水好子氏 は,拙 稿 の ポイ ン トを,源 氏物語 の方法 が作為的 だ とい うにあ ると解 されたよ うで,氏 の論述 はそ うした方 向 で展 開 され てい る。 わた くしの意 図は前述 した とお りで あ′ るが,氏 の論 述 は これ また多大 のみ ちび きと示唆 を与 え る もので あ った。 作者 の意 図す る大 きな筋 のため に人 物 の描 き方 はあ る限度 内で 変 る。そ し て, その大 きな筋 は, 光源氏 とい う主人公 を特別視す る, 主 人公 中心 の精 神 ,描 き方 によ って規定 されてい る。そ こに作為 の根源 はあ る。 この大 きな ワクづ けの もた らす ものは誰 しも否定 しえな いので はな いか 。 人物 がその人 物 らしいいの ちを もちは じめ ,作 者 の筋立 てを 変改 させず に おか ない,と い う局面 は,け だ し,こ の大 きな ワクの 中 での こ とで あ る。 だか ら,秋 山氏 の言 われ る こ ととの間 に別 に矛 盾 はな い。 また,前 に,小 説 は作家 の観念 0思 想 とい う ワク内で の人生 風景 とい うこ とを言 ったが,物 語 には,主 人公 を中心 に特別 視す るとい う,英 雄 の観念 に よ る ワクがあ ったわ けで あ る。 清水氏 の秋 山氏 ,今 井氏 ,益 田氏 らに対 す る批判 は,主 と して戦後間 もな い 頃 の諸論文 に向 け られ てい る。人物論 の 動向 の根源 をそ こに見 られたか ら で あ るが,そ のため,近 時 の秋 山氏 らの主 張 や実践 ・ 論文 とは さ してその間 に違 いが あ ると も思 われ ない点 も見 られ る。 わた くしが, 人物 の造 型 は主題 ・ 構 想 に随 伴 して変化す ると申 した こ と も,秋 山氏 が「 けだ し人物造 型を追 求す る こ とは,そ れを動かす物語 ,こ こ.
(13) 源 氏 物 語 の 人 物 造 型. 32. で は巻 々の論 理 がいか な る ものか とい う考察 と切 りはな されてはな らな い こ とを主張 した いので あ る」 と言 われた こ ととそ の 精神 において遠 ざか ると こ ろはな いので あ る。 `作 為的ミ と ` 必然 的ミ との相違 も,観 点 の と らえ ど ころか らきた もので 前 述 の英雄 の ワ クを観点 とす るとき,源 氏物語 の人 物造 型 は,お. ,. よそ `作為. 的ミ だ と言わ ざるをえな い。 そ うした大 きな ワクは さてお いて,そ の人 物 の ` 新 たな局面で の変貌 を見 るとき,そ れ は 必然 的ミ と映 じて くる。 秋 山氏 は,頭 中将 の「 澪標」以後 の 変 りかたは,作 為的 に とって つ け られ た よ うな もの と してかたづ け られ るべ きで ない, と言われた。 ` 大 きな ワクを さてお いて,頭 中将 の変貌 を見 れば,ま さ し く 必然ミ と映 る。 頭 中将 と末摘花 の造 型 の され方 が別個の 因 由をは らんで い る こ とを明 らか に され た氏 の御指摘 は鋭 く,み ちびかれ ると ころ大 きい 。 それ はそれ と して, しか し,頭 中将 も末 摘花 も,人 物造 型 が構想 ・主題 の 展 開 に対応 してそ の主題 にど うかかわ るか によ って決 ま るとい う点で は両者 と も変 りはな い。 わた くしが,頭 中将 0末 摘花 を例 として あげた のは,そ うした共通す る点 に お いてで あ って,頭 中将 も末 摘花 も,光源氏 とい う主人公 中心 ,特 別視 の大 き な筋立 て にど うかかわ るか によ って,そ の人 物造 型 は改変せ じめ られた。 `作 為的ミ と映ず るのは こ うした点 においてで あ る。光源氏 とい う主人公 中 心 の筋立 てのため に,頭 中将 も末摘花 も,同 一人 物 とは思 えな い改変を加 え られ ,は なはだ `作為的ミ で あ る こ とにおいて両者 に差異 はな い。 頭 中将 は,源 氏 の味方 か敵 か とい う筋立 てのため に改 変 させ られた。末摘 花 の蓬生巻 での描 かれ方 も,源 氏 へ の誠実 とい うこ とに因 由 があ る。 `作 為的ミ と ` 必然 的ミ ,構 想 ・ 主題 に奉仕 せ しめ られ る人物造型 とい う 見 解 と,人 物 のいの ちが,新 しい形 姿を もちは じめ ることによ って作者 の観 念 の 中 の筋立 てを変改 す るとい う見 解 とは,相 対立す るかの よ うで あ って. ,.
(14) 一. 森. 郎. 実 は そ うした 観 点 の 相 違 に よ る と言 え よ う。. お. わ. り. に. 実証 的 に論 を立 て,そ れを つ み重 ねてい くこ とが,わ た くしの 関心 ・ 志 向 にほかな らない。 したが って,か ょ ぅな文章 を つづ ることは,は じめてだ と言 え る。 ゆえ に,か え って論 をあいまい にす る うらみ な きやをおそれ る。 また,秋 山氏 ,清 水氏 は じめ諸氏 へ の ご無礼 を深 くおわ び しな くてはな らな い。 わた くしとしては,秋 山氏 ・ 清水氏 ・ 石 田氏 らの ご厚 情 ・ お導 きに対 し感 謝以外 の何 もの もないので あ るが,わ た くしな りに,人 物論 の展望 を持 と う と欲 し,拙 文 を つづ った次第 であ る。 御寛 恕を乞 うとともに,深 く感謝 申 し あげたい。. (昭 和40年 11月 23日. 稿).
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