言語教育研究 第 3 号(2012 年度)
Jespersenの冠詞の捉え方
Jespersen’
s Theories of the Articles
津波 佳典
キーワード
Jespersen , Definite Article, Indefinite Article, Zero Article, Determination,
はじめに
1586年,世にBullokar, WilliamのBref of Grammar for Englishという文法書が発表された。 これは英語で書かれた最初の英文法書とされている。当時は英文法を説明する際,ラテン語を 基に作られたため,英語にそぐわない部分が出てきた。その一つが,冠詞の取り扱いである。 ラテン語は8品詞であり,さらに冠詞は存在しない。にもかかわらず,英語はラテン語と同じ 8品詞で区分けされた。そのため,8品詞の中に冠詞は組み込まれなかった。しかし,8品詞は 広く人々に受け入れられ,今度は冠詞を8品詞の中でどう取り扱うか工夫がなされた。そして PGr. (1594) が冠詞を形容詞に分類したように,今日では形容詞の中に冠詞が属しているとい う説明もある。一方で冠詞は独立した品詞(Determiner)として扱うべきとする研究者もいる (Huddleston & Pullum 2002)。さらに,最近の考え方として,ピーターセン (2005)のように,
冠詞が名詞のアクセサリーではなく,冠詞に名詞を付けるという論を展開し,英語母語話者の 冠詞のあり方を如実に表現している。加えて,学校文法書,石黒(監)(2002)『総合英語Forest』 (4th edition)においても,品詞を10個に分類し冠詞を独立した1つの品詞と捉えるものもあ る。このように,冠詞の分類については,説明が分かれているが,さらに独特の区分をしたの が,Jespersenである。彼は,冠詞を代名詞の中に組み込んだのである。実は代名詞に含めた のは彼が初めてではなく,彼はSweetの論を基礎にしたのだが,この区分は他の研究者と相異 なる。このような区分は,冠詞をどのように捉えたからであったのか,そしてJespersen自身 は冠詞をどのように捉えていたのかによって決まってくる。 よって本論文ではJespersenにおける冠詞の取り扱いについて議論し,冠詞の役割や意味に ついて再考することを目的とする。Jespersenといえば英語学において多大なる影響を残した 人物であり,今日に至るまでその卓越した理論は色あせることなく引き継がれている。彼の提 唱した主要な考えは,JunctionやNexus,Three Ranksなどがあり,また国際補助語や外国語 教育などその分野は幅広い。 本論文は,彼の冠詞の捉え方を概観することによって,冠詞と文の関わり,ひいては英語本 来の構造の一旦を捉えようとするものである。よって,英語を学習する方や英語を教えようと する方々に少しでも役に立てばと考える。 本論文では以下の点について詳しく考察する。
②Jespersenの固有名詞と抽象名詞の捉え方の再考と,冠詞の関わりについて議論する。 本論文は,Jespersenが英語の文法理論をどのように位置づけ,どのように精査していった のかについて,冠詞を足がかりにその一端を分析するものだが,その進め方としては, Jespersen (1924) The Philosophy of Grammar(以下より,PGとする)とJespersen (1961) A Modern English Grammar on Historical Principles: part VII(以下より,MEG VIIとする)を中 心にして,彼の英語における冠詞の位置づけと役割について考察していく。また,適宜 Jespersen (1979) Essentials of English Grammar(以下より,Essentialsとする)やその他の文 献を挙げながら考察していく。なぜ,この二つを中心に取り上げるかというと,MEG VIIと PG,そしてEssentialsには関係性があるからである。JespersenのMEG VIとPG,Essentialsの 関係性を見てみると,PGで展開した理論を実証的に説明したものが MEGであり,さらにそれ を要約したものがEssentialsである。本論文ではこの3つの関係性と理論について,特に冠詞に ついて詳しく考察していく。
1.Jespersen (1961) A Modern English Grammar: part VII
では,MEG VIIにおける冠詞の役割と機能について詳しく考察する前に,MEG VIIの著者に ついて言及しておくと,MEG VIIがJespersen自身の集大成とも言える壮大な文法書であり, 彼が人生をかけて取り組んだ文法書であることは言うまでもない。しかし彼はMEG VIIを彼 自身の手で書き上げることは出来なかった。実際MEG の第5巻までは直接執筆したものの, 第6巻は3人の助っ人,P. Christophersen, N, Haisland, K, Schibsbyeが協力執筆している。ま た,彼の没後に完成した第 7 巻においては,初めの 11 章は彼自身が執筆したもの,及び N, Haislandが執筆したものを補正したものから成っている。冠詞の部分である第12章から第16 章においてもJespersenがN, Haislandに助言しそれに基づいてN, Haislandが完成させたもの である。よってMEG自体はJespersenが執筆したものの,その一部(特に今回扱う冠詞の部 分)は必ずしも Jespersen の捉え方が反映されたものではないはずである。このことから, MEG VIIから冠詞の枠組みについて考察する場合,Jespersenの他の文献と異なることが見込 まれ,注意が必要である。
MEG VIIは18章からなり,冠詞の取り扱いは,第12章から第16章で取り扱われている。 以下は目次の構成である。
I. Word-Classes
II. Sentence-Structure and Word-Order III. Sentence-Structure. Concluded IV. Person
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V. Sex and Gender VI. Case
VII. Case in Pronouns (Continued) VIII. Case in Nouns
IX. Case (Continued) X. Comparison
XI. Comparison (Continued)
XII. Determination and Indetermination (The Articles) XIII. Articles before Junctions
XIV. Stage Two. The Definite Article XV. Stage Three. Zero
XVI. Proper Names XVII. Quantifiers XVIII. Mood
目次の構成から,MEG VIIでは統語における彼の1つの枠組みが見て取れる。冠詞について みてみると,目次I. のWord-Classesには冠詞の言及はなく,Substantives, Adjectives, Verbs, Adverbsの枠組みのみである。一方で冠詞については,目次のXIIからXVIという長い章にわ たって言及しているのも特徴の1つである。これはEssentialsにおける冠詞の捉え方と違った 枠組みをしている。このことについては後ほど詳しく述べるとする。
ではMEG VIIの冠詞の取り扱いについて詳しく考察する。ここでの観点としては,MEG VII ではどのような枠組みの中で冠詞を捉えているか,そしてその役割と機能をどのように提示し ているかの2点について特に詳しく考察する。
1.1. Jespersen (1961) A Modern English Grammar: part VII の冠詞の捉え方
MEG VIIにおける冠詞の捉え方の特徴として,DeterminationとIndeterminationに分け,さ らに冠詞をDefinite Articles, Indefinite Articles, Zeroと3つのステージに分けて説明している ことである。そして固有名詞と冠詞の関係について詳しく言及している。この捉え方から MEG VIIでは冠詞を統語論的枠組みで捉え,冠詞自体の個別の役割について詳しく言及してい ることが分かる。そして冠詞に独立した枠組みを設けて言及していることも分かる。
1.2. MEG VII における 3 つの冠詞の性質と機能
MEG VIIでは,冠詞についてDefinite Articles, Indefinite Articles, Zeroに分類しているが, 実際Jespersen自身は,zeroという語は用いず,the bare wordとしていたようだ。しかし執筆 したN, Haislandは,言語学者の多くが用いているzeroという語を用いると説明書きがある。 MEG VIIでは,冠詞についての捉え方として以下のように言及を行ってから考察している
The use of the articles presents a great many intricate problems, and it is impossible to give a small number of settled rules available for all cases; idiomatic usage very often runs counter to logic or fixed rules. (MEG VII: 404)
上記のように,冠詞は全ての状況でいくつかの決まったルールを与えることは不可能である とし,慣用的な表現もしばしばその規則に合わないことがあるとしている。
この章では,上記の前置きをしてから,冠詞の形について発音とともに詳しく言及し,用法 について以下のように順序立てて言及している。
Stage I Complete UnFamiliarity (or Ignorance) (1) The Indefinite Article
Stage Two
The Definite Article Stage Three Zero Jespersenの冠詞の捉え方として最も特徴的な部分は,親しみ(Familiarity)を軸として冠詞の 性質を捉えようとしている点である。 石橋 他 (1964)の言及を示すと,Jespersenは以下のように説明している。 ①全く親しみがない場合。
i) 単位語(Unit word)。不定冠詞。an apple.
ii) 質量語(Mass-word)。無冠詞。He drinks milk every morning iii) 単位語の複数形。無冠詞。He eats apples every morning. ②だいたい十分な親しみがある場合。定冠詞をとる。
a) Once there lived an old tailor in the village. The tailor was generally known in the village as the crook.
b) The school was an old and famous one. c) the government of the time
③十分な親しみがある場合。無冠詞。
i) 直接の呼びかけ。Come along boy, but quilk. ii) 固有名詞
iii) 神
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v) ‘dinner’ その他正規の食事名
vi) ‘church,’ ‘prison,’ ‘town’ など(主として ‘go to college, to sea’ などの前置詞句で)。 (石橋 他(1964: 131–132)) 上記のように,Jespersenは3つの冠詞の機能の区別を親しみ(Familiarity)で示した。この 方法は独創的であり,統語論が話者の心情と深く結びついていることを暗示しているに他なら ない。
また,彼は3つの冠詞の機能と用法について詳しく順序立てて言及しているのだが,その言 及から,Indefinite Article, Definite Article, Zero Articleを以下のように示すことが出来る。
Indef. Def. Zero Unit-word × × Mass-word × × Proper name × (MEG VII: 437) ×印が,その語と共起できる冠詞を示している。そして,Unit-wordはcountable,Mass-word はuncountableと一致し,Proper nameはこの二つと区別されるという。この説明から,MEG VIIでは,3つの冠詞が後続する名詞によって,あるいは名詞の形態を示す標識として冠詞が選 ばれることがわかる。
彼の研究で目を引くのはProper nameの取り扱いである。これは PGでも同様にしてProper nameとZero Articleが共起する理由について詳しく述べている。このことは,後ほど述べるこ ととする。 以上のように,MEG VIIにおいては,冠詞の性質を詳しく述べるために,その用法を事細か に説明していることが分かる。MEG VIIの論点において冠詞を切り出して説明しているのだが, 一方で,先に述べたEssentialsにおいては,MEG VIIとはその枠組みを異にしている。Essentials では,冠詞について定冠詞を定代名詞(Definite pronoun)に,不定冠詞を不定代名詞 (Indefinite pronoun)の中に入れ,冠詞を代名詞的な役割と位置づけている。このことは,彼 の冠詞の捉え方の枠組みとして特徴的な部分といえるが,MEG VIIと,その縮約版とも言われ るEssentialsの枠組みが異なっている点については,今後の研究課題とする。
2.PG における冠詞の分類
PGでは,冠詞をどのように取り扱っているのか。ここではまず,品詞について考えてみる が,イェスペルセン・安藤 (2006)を適宜参照しながら見ていくこととする。 PGでは品詞は5つに大別し,それだけで文法的に弁別的であるとしている。以下がその5つ(1) Substantives (including proper names). (2) Adjectives.
In some respects (1) and (2) may be classed together as “Nouns.” (3) Pronouns (including numerals and pronominal adverbs).
(4) Verbs (with doubts as to the inclusion of “Verbids”). (5) Particles (comprising what are generally called adverbs,
prepositions, conjunctions-coordinating and and interjections). This fifth class may be negatively characterized as made up of all those words that cannot find any place in any of the first four classes.
(Jespersen (1924: 91)) Jespersen (1924)は,品詞を上記のように弁別することで文法は説明できるとしている。ま たJespersen (1924)は冠詞について,数詞oneの弱系が不定冠詞であるから,その相対語であ る定冠詞も代名詞に含まれると言及している。
One besides being a numeral is, in English as well as in some other languages, an indefinite pronoun ( “one never knows” ), cf. also the combination oneself. Its weak form is the so-called” indefinite article,” and if its counterpart the “definite article” is justly reckoned among pronouns, the same should be the case with a, an, Fr. un, etc. To establish a separate “part of speech” for the two” articles,” as is done in some grammars, is irrational.
(Jespersen (1924: 85)) 加えて彼は,上記のように,「この二つの『冠詞』のために別の『品詞』を設けることは不合 理である(イェスペルセン・安藤 2006: 199)」とまで言及している。彼は,数詞自体が代名詞 の下位分類として扱ったほうが良いとし,冠詞はその中に含まれるとしている。 2.1. Three Ranks ここでPGに示される三つのランクについて言及する。これは冠詞が文の構成要素であると する場合,PGではそれをどのように扱っているのかを考察することで冠詞の捉え方が示せる からである。 PGは従属関係について3つのランクで説明している。これは語と語の結合を考えた場合,実 詞は常に実詞,形容詞は常に形容詞だが,連続した言葉にはある従属の仕組みがあることに気 づくとし,その関係を三つのランクにわけたのである。
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a furiously barking dog(激しくほえたてる犬) (イェスペルセン・安藤(2006: 235)) If now we compare the combination furiously barking dog (a dog barking furiously), in which dog is primary, barking secondary, and furiously tertiary, with the dog barks furiously, it is evident that the same subordination obtains in the latter as in the former combination. (Jespersen (1924: 97)) 上記のように,最後のdogが主要な概念であるから,dogが「一次語」(primary),barking は「二次語」(secondary),barkingを規定する語furiouslyは「三次語」(tertiary)と呼ぶことが できるという。
このランクにおいてPGでは冠詞のランクが何処に含まれるのか言及していない。
しかし,a nice young ladyの場合, a, nice, youngの各語が等しくladyを限定しているのです べて二次語である(イェスペルセン・安藤 2006: 237)と説明があることから,冠詞が二次語で あることを示している。一方でこの従属関係においては,主要語に近いところから二次語,三 次語と規定していくのだが,冠詞の場合,冠詞と名詞の間に形容詞や副詞が挟まれる場合があ る。上記で示したa furiously barking dogのような場合である。a dogの二次語は冠詞のaであ るが,a furiously barking dogの場合,barkingが二次語,fruriouslyが三次語,で一番遠い冠 詞がまた二次語となるのである。その点についての言及はしていない。Three Ranksは語の構 成要素がどのような関わり合いをもって共起しているのかについて示すには好都合であるが, その中で冠詞の役割が明確にされていないことは,検討が必要であると思われる。 2.2. PG の普通名詞と固有名詞の定義 1.2.で述べたように,Jespersenは固有名詞の扱いについて詳しく言及している。ここでは PGでの固有名詞の扱いについて,普通名詞との区別についても考えながら考察していく。そ して,MEG VIIの言う ‘Familiarity’ と固有名詞はどのように関わってくるのか,また冠詞の観 点からみた場合の,彼の主張の問題点を挙げ,固有名詞と冠詞の取り扱いの再考を試みる。 普通名詞(Common Noun)は,ある個々に対して共通の要素を持つものをひとまとめにし て表すものである。例えば,赤くて丸く,果物であるものを我々は「りんご」という名前で呼 んでいる。しかし,りんごには少し青みがかったものや,丸くないものなどすべてが全く同じ ではない。そこで,言語はそれを平均化し,共通の要素を見出し,それらに1つの名前をつけ るのである。個々の共通性をまとまりにすることから,Common Nounという術語になったの である。では固有名詞はどうであろうか。例えばJohnという人物には,男性で大学2年生で髭 が生え,背が高い,などという要素があり,それらの要素にマッチしたのがJohnである。しか し,これは先に示した普通名詞の作られ方となんら代わりの無いように思われる。ここで, Jespersenの考察からこの2つの間を分かつ方法について探ってみたい。
普通名詞と固有名詞の内部にある×印はそれらを構成する要素を表す。Jespersenは固有名 詞と普通名詞について以下のように言及している。
Our inquiry, therefore, has reached this conclusion, that no sharp line can be drawn between proper and common names, The difference being one of degree rather than of
kind. (Jespersen (1924: 70–71)) 「固有名と普通名との差異は,種類というよりも程度の差異であるから,両者にははっきり とした線引きをすることはできない(イェスペルセン・安藤(2006: 165))」と結論付けている。 つまり上記の図のように,ある物質を表す個々の要素を内包するのが普通名詞であり,その普 通名詞よりも,さらに大量の要素を内包するのが固有名詞であると説明している。この差異は 「内包する程度」を示すものであって,例えば普通名詞が内包できるのが200個でそれ以上は固 有名詞の範疇になる,などという線引きは出来ないとしている。そして,内包する程度の差異 を区別するのが冠詞であると言える。言い換えると,先に述べた言葉を用いるとするならば, ある物質を表す個々の要素を内包する場合は不定冠詞を用いて,それが普通名詞として扱う。 そしてその普通名詞よりもさらに大量の要素を内包する場合,無冠詞(1)を用いて固有名詞と して扱うということである。普通名詞と固有名詞には性質上大きな違いが認められるものの, その構成要素はあまりにも類似性がありそれらはその要素の程度でどちらかになると言える。 しかし,それらの差異は,冠詞によって明確に示されているのである。実際,冠詞の存在によ って普通名詞が固有名詞になり得るし,反対に普通名詞が固有名詞化する場合も認められるか らである。
一方で,JespersenがMEG VIIで述べたZero Articleが「十分な親しみがある場合」に用いら れるという説明をしている反面,まったく親しみが無い場合にもZero Articleが用いられると している部分はどう解釈すればよいだろうか。さらに,Zero Articleという概念はいったい何 なのであろうかという疑問が湧く。
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ここで,ゼロ冠詞について整理するために以下を参照されたい。
Zero Article... The Zero Article is the normal way of expressing indefinite meaning before
(a) a non-count noun, or (b) before a plural count count, for example water, trees.
(Leech (2006: 128)) ゼロ冠詞が表れる条件として,後続する名詞が,(1)複数形である場合,(2)不可算名詞で ある場合であり,加えてLeech (2006)は言及していないが,Alexander (1988)は(3)固有名 詞にも用いられると説明している。そして,Leech(2006)が言及しているように,ゼロ冠詞 は不定の概念を持った冠詞である。そして,ゼロ冠詞が示す意味とは,「形状の定まらないも の」,「複数あるがその数が定まらないもの」,そして「総称的意味」である。 このように,ゼロ冠詞には3つの意味があるが,MEG VIIの冠詞の分類方法では,ゼロ冠詞 (MEG VIIでは無冠詞となっている)の用法に矛盾が生じるのである。それは「全く親しみが ない場合」と「十分に親しみがある場合」という部分である。MEG VIIでは ‘Familiarity’ という 独創的な分類方法を用いて冠詞を分けたが,ゼロ冠詞にとっては明らかに統一性のないものと なっている。もし ‘Familiarity’ という分類方法をそのまま用いるのならば,ゼロ冠詞と無冠詞 という用語を分けて用いる必要があると考える。詳しく述べると,無冠詞は上述のように,固 有名詞などに用いる冠詞であり,ゼロ冠詞は抽象名詞,あるいは普通名詞の複数形に用いる冠 詞である,という分け方である。MEG VIIの矛盾を解消するためには,その方法が妥当だと考 える。実際,Jespersen本人は,Zeroという言葉は用いず,Bare Articleとしていたという言及 があるように,N, Haislandはその二つは区別すべきだったと考える。 また,Quirk et al. (1985)は,英語にはゼロ冠詞と無冠詞が存在すると言及している。 Although in sentences such as I like music, I like Sid, the two nouns look superficially alike in terms of article usage, we will say that music has ZERO ARTICLE but Sid has NO ARTICLE. (Quirk et all (1985: 246)) つまり,抽象名詞はゼロ冠詞であるが,固有名詞は無冠詞であると主張しているのである。 先に述べたゼロ冠詞と無冠詞の用法から,この2つを分けて考えることが必要であると考える。 また,固有名詞が無冠詞であることに関しては,Jespersenの内包する情報量を考慮して,普 通名詞よりも大量の要素を持ったものが固有名詞であるとするならば,冠詞のような限定詞は 必要なくなると考えることが出来る。それは,限定する必要がなく,固有名詞それ自体で限定 性を必要としないものとなるということである。
おわりに
本論文では,Jespersenの冠詞の捉え方について考察した。その結果,彼は3つの冠詞の区別問題に対しても有効であり,冠詞を理解しようとする場合,その大まかな性質について一通り 言及することが出来ると思われる。しかし,ゼロ冠詞と名詞とのかかわりに関しては, ‘Familiarity’ では矛盾が生じるため,ゼロ冠詞と無冠詞の使い分けが必要ではないかという議 論をした。 Jespersenは冠詞に特化して研究を行った人物ではないが,彼の言語研究の中から冠詞につ いて考察することで,言語の中で冠詞がどのような位置を占めるのかということについて,少 なからず見ることが出来たのではないかと思う。しかし,本論文では,Essentialsについては深 く掘り下げて言及することは出来なかった。そこで,これからの課題として,MEG VII と Essentialsの冠詞の取り扱い方の違いについてより詳しく考察し,Jespersenが冠詞をどのよう に捉え,我々日本人英語学習者はどのように冠詞を捉えるべきかについて考えたい。
注
(1) ここで無冠詞という表現にしたのは,後ほどゼロ冠詞と無冠詞の関係について考察する時に述べ るとする。引用文献一覧
イェスペルセン著,安藤貞雄訳.2006.『文法の原理(上・中・下)』東京:岩波書店. 石黒昭博(監).2002.『総合英語Forest』(4th edition) 東京:桐原書店. 石橋幸太郎,桃沢力,五島忠久,山川喜久男.1964. (不死鳥英文法ライブラリ 第10巻 『O. イェ スペルセン』) 東京:南雲堂. ピーターセン,マーク.2005.『日本人の英語』(岩波新書)東京:岩波書店. Alexander, L. G. 1988. Longman English Grammar. London and New York: Longman.Huddleston, Rodney and K. G. Pullum. 2002. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: Cambridge University Press.
Jespersen, Otto. 1924. The Philosophy of Grammar. London: George Allen & Unwin.
Jespersen, Otto. 1954. A Modern English Grammar on Historical Principles, PartVII Syntax. London: London: George Allen & Unwin.
Jespersen, Otto. 1933. Essentials of English Grammar. London: George Allen & Unwin. Leech, Geoffrey. 2006. A Glossary of English Grammar. Edinburgh: Edinburgh University Press. Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech and Jan Svartvik 1985. A Comprehensive