台風第
26 号に対する国土地理院の対応
Correspondence of the Geospatial Information Authority of Japan to Typhoon Wipha(1326)
企画部 防災推進室
Planning Department Disaster Management Office
要 旨 国土地理院は,大規模自然災害発生時において救 助活動及び復興に寄与するため,関係機関へ地理空 間情報の提供を行っており,台風第26 号での災害に ついても,国土交通本省(以下,「本省」という.) を始めとする関係行政機関からの要請に応じた地理 空間情報の提供を実施した.本稿では,初動時の活 動を中心に上記の取り組みについて報告する. 1. 台風 26 号の概要 10 月 11 日にマリアナ諸島付近で発生した台風第 26 号は,発達しながら日本の南海上を北上し,大型で 強い勢力のまま,16 日明け方に暴風域を伴って関東 沿岸に接近した(図-1).東京都大島での 14 日から 16 日までの総雨量は,824 ミリとなり,大規模な土 砂災害(写真-1)が発生し,30 名を超す死者・行方 不明者を出す結果となった. 図-1 台風第 26 号の進路図(気象庁 HP より) 写真-1 台風第 26 号による土砂災害(元町地区) 2. 国土地理院の対応 2.1 全体の対応 この土砂災害に対し、航空機「くにかぜⅢ」によ る撮影を決定し,被災状況の把握に努め,16 日には 斜め写真(写真-2)を撮影するとともに,土砂流出 範囲を判読し同日中にホームページで公開するに至 った. 写真-2 10 月 16 日撮影の斜め写真(元町地区) この斜め写真と土砂流出範囲は,いち早く現地の 被災状況を把握するための資料として多くの機関に 利用された. 翌17 日には「くにかぜⅢ」により本省等の関係機 関からの要請に応じ,空中写真(垂直写真)を撮影 し,情報の収集に努めた. 撮影した空中写真等は大島町を始めとする東京都 や関係機関に提供するとともに,ホームページ上で 公開し現地における被災箇所把握に利用された. 2.2 各部の対応 本災害時における各部の主な対応は以下のとおり となる. 1) 基本図情報部 くにかぜⅢによる空中写真の撮影及び提供す る画像データの作成 2) 応用地理部 被災箇所の抽出と被災データの作成 3) 地理空間情報部 作成したデータのホームページ上での提供 4) 関東地方測量部 災害対策図等の提供 なお,詳細な対応を次頁以降で各部から報告する.
3. まとめ 国土地理院は,災害対策基本法の指定行政機関と しての責務を果たすべく,今回の風水害はもとより 今後発生が予想される東海地震やそれと連動して起 こると想定される東南海・南海地震をはじめ,火山 動に対して万全な体制を備える所存である. 最後に本災害において被災された皆様方に心から お見舞い申し上げる. (公開日:平成26 年 3 月 3 日)
台風第
26 号に対する空中写真の撮影
Aerial photography of Typhoon Wipha(1326)
基本図情報部 測量調査班
National Mapping Department
Surveying Investigation Team
要 旨 平成25年(2013年)10月16日に日本列島(特に伊 豆大島)に被害をもたらした台風第26号における被 災発生直後からの国土地理院基本図情報部(以下, 「当部」という.)の災害対応について報告する. 1. はじめに 基本図情報部は被災地における現地の状況を迅速 に把握するため,空中写真の撮影を実施し,正射写 真地図等の地理空間情報の提供を実施する.本災害 では,空中写真の緊急撮影を実施した.16 日に斜め 写真撮影,17 日及び 28 日に空中写真撮影を行い, 垂直写真・正射写真(簡易オルソ画像)・正射写真地 図を関係機関に提供し,ホームページ上で公開を行 った. くにかぜⅢは,災害発生時の16 日は北九州空港に 測量作業で進出中であった.台風26 号により伊豆大 島が被災している情報を受け,急遽調布飛行場(本 拠飛行場)へ帰投を決定した.なお,帰投時におい て,大規模な土砂災害が発生したとの情報をもとに, 急遽飛行コースを変更し,伊豆大島経由とした.被 災地上空で災害状況を確認し,大島町元町地区等の 斜め写真撮影(写真-1)を実施した.北九州空港か らの帰投のため,残燃料の関係で短い滞空時間だっ たが,被災直後の現地の状態を撮影した.帰投後, ただちに国土地理院本院(以下,「本院」という.) に画像データを移送し,関係機関への提供及びホー ムページで公開した. 写真-1 10 月 16 日撮影の斜め写真(元町地区) また,今回の土砂災害では,被災状況の情報が少 ないなか,関係機関の要望及び帰投中にくにかぜⅢ から得た被災情報により,撮影範囲を決定し撮影準 備にはいった.翌17 日は,伊豆大島上空の天候調査 を実施し撮影に良好な情報を得たため,調布飛行場 を10 時 6 分に離陸し,10 コース 241 枚の撮影を実 施した.空中写真の情報を迅速に提供するため,撮 影後ただちに茨城空港に着陸(12 時 42 分)し,画 像データを本院に移送し後続作業を開始した. 3. 垂直写真及び正射写真(簡易オルソ画像)の作成 被災地の状況を迅速に提供するため,当部では災 害対策の測量調査班が編成されており,各情報提供 に必要な画像成果の作成を各チームが対応した. 3.1 垂直写真の作成 くにかぜⅢに搭載されている測量用デジタル航空 カメラで撮影された空中写真の画像データを,専用 のハードディスクに入れ,17 日 14 時に本院に到着 した.到着後ただちに,垂直写真の画像処理・標定 図作成を開始し,21 時に終了し関係機関に画像デー タを提供した. また,ホームページ(地理院地図)による垂直写 真画像の公開に向け,主点位置座標等を記したマッ プシートの作成及び災害サーバーへの画像格納を同 日23 時 5 分に終了し,地理空間情報部に公開処理を 引き継いだ. 測量用デジタル航空カメラの空中写真画像は膨大 なデータ量であるため,最初の作業である写真処理 に時間が掛かるが,早急に対応するため,作業の最 適化を図り撮影当日の提供を実施することができた. 3.2 正射写真(簡易オルソ画像)の作成 写真処理された画像に,簡易オルソ作業を実施し て正射写真を作成した.翌18 日 00 時 20 分に終了し, 翌18 日 9 時に関係機関用の画像データを提供した. また,ホームページ(地理院地図)による正射写真 (簡易オルソ画像)の公開に向け,マップシート作 成及び災害サーバーへの画像格納を同日12 時 00 分 に終了し,地理空間情報部に公開処理を引き継いだ. 正射写真は,地図と重なるように歪みを補正した空 中写真画像であり,被災地の状況把握に有効なため, 当部では空中写真と合わせ,迅速に作成するよう努 2. 空中写真の緊急撮影の対応(10 月 16~17 日)
めている.(図-1). 図-1 10 月 17 日撮影の正射写真の作成範囲 3.3 記者発表 伊豆大島上空のくにかぜⅢから,天候等の撮影状 況が良好で,また,画像処理も順調であるとの報告 を受け,迅速に情報を一般に知らせるため,17 日 17 時に記者発表を行い,国土地理院が本日17 日に伊豆 大島の地域における空中写真を実施し,国土地理院 のホームページで21 時に公開する旨を発表した(図 -2). 国土地理院 別添図 撮影区域 位置図 図-2 記者発表の別添図(空中写真の撮影区域) 4. 空中写真の緊急撮影の対応(10 月 28 日) 伊豆大島に甚大な被害をもたらした台風第26号の 後,24~26日にかけて台風第27・28号が伊豆大島に 暴風雨をもたらした.27日に当部では再撮影の決定 を受け,撮影の準備,くにかぜⅢの飛行準備及び気 象調査を実施し,翌日には大島の天候が回復すると 判断した. 翌28日天気予報通り,大島の撮影良好の情報を得 たため,調布飛行場を9時40分に離陸し,前回同様に 南北10コース241枚と新たに東西9コース188枚の撮 影を実施し,13時に着陸した. 5. 垂直写真及び正射写真(簡易オルソ画像)の作成 撮影された空中写真の画像データが,28 日 15 時 に本院に到着した.到着後,垂直写真の画像処理・ 標定図作成を開始し,翌29 日 11 時に作業を終了し ホームページ作成作業に引き継いだ.ホームページ (地理院地図)による垂直写真画像の公開に向け, データの作成及び災害サーバーへの画像格納を同日 20 時 00 分に終了し,地理空間情報部に公開処理を 引き継いだ.正射写真(簡易オルソ画像)の作成も, 同29 日 11 時に終了し関係機関用の画像データを提 供した(図-3).ホームページ(地理院地図)によ る正射写真(簡易オルソ画像)の公開に向け,デー タの作成及び災害サーバーへの画像格納を同日 13 時20 分に終了し,地理空間情報部に公開処理を引き 継いだ.なお,今回の災害では正射写真地図(正射 写真に地図情報(主に注記)を重ねたもの)は,地 理院地図上で重ね合わせが可能となったため作成し なかった. 図-3 10 月 28 日撮影の正射写真の作成範囲
6. 記者発表 30 日に,台風第 27・28 号通過後の 28 日に撮影し た正射画像を国土地理院のホームページで公開する ことを記者発表した. 7. まとめ 当部では,今回の災害対応において,垂直写真及 び正射写真等を関係機関に提供するとともに,ホー ムページ上で一般に公開した.今回の対応は,防災訓 練時の対応に即して実施でき,小規模の面積なら当 日に提供することができるようになった.今後もさ らに迅速に高精度の画像情報を公開できるように検 討し,災害対応緊急撮影に活かしていく予定である. (公開日:平成26 年 3 月 3 日)
台風第
26 号に関する被害情報集約
Damage Information Aggregation of Typhoon Wipha(1326)
応用地理部 災害対策班
Geocartographic Department Disaster Countermeasures Group
要 旨 応用地理部は,台風第26 号被災状況の把握のため 大島町元町地区ほかの土砂流出範囲の空中写真判読 を行い災害情報の共有に資するとともに,大島地区 のデジタル標高地形図の作成や被災状況調査等を行 った. 1. はじめに 応用地理部では災害対策班会議を開催し,土砂流 出範囲の空中写真判読やデジタル標高地形図作成等 のための災害対策班を設置し,被害の実態を明らか にすべく活動を行った. 2. 土砂流出範囲の判読 10 月 16 日撮影の斜め写真を用いた写真判読によ る速報版を16 日に作成し,「災害情報共有マップ」 として地理院地図で公開した.さらに,17 日,28 日撮影の空中写真についても翌日には写真判読を行 い,「災害情報共有マップ」の更新をおこなった.判 読結果は,火山基本図「伊豆大島Ⅰ」を基図として 土砂流流出範囲を表した写真判読素図(図-1)を元 にGIS データを作成した. 3. 写真判読により判明したこと 3.1 土砂災害の形態 表層崩壊が引き金となりスコリアや火山灰を主体 とした土砂流が発生した.土砂流は流下する過程で 多数の樹木を巻き込み,破壊力を増して被害が大き くなった. 3.2 崩壊地の地形と土砂流発生のメカニズム 過去の火山活動によって形成された地形や噴出 物の分布等を表示した火山土地条件図に今回の土砂 流出範囲を重ねた結果,崩壊は1338 年と推定される Y5 噴火によって形成されたスコリア丘下部の急斜 面で発生したことが分かった(図-2).このスコリ ア丘の表層は固結度の低いスコリアや火山灰からな るが,形成時期が比較的新しいため侵食谷がほとん ど見られない.崩壊はこの比較的平滑な斜面で広く 面的に発生している.このことは,大量の降雨によ り布状に面として流れる布状洪水の発生が,未固結 のスコリアや火山灰を巻き込んで表層崩壊に直結し た可能性を示唆している. 図-2 火山土地条件図と土砂流流出範囲を重ねた図 4. デジタル標高地形図の作成 被災地域の地形形状を明らかにするため,平成24 年度に航空レーザ測量によって整備した高精度標高 データを使用して,1:25,000 デジタル標高地形図「伊 豆大島」を作成した(図-3). また,平成24 年度の航空レーザ測量計測時に撮影 した大島全域のオルソ画像を「災害情報共有マップ」 で公開した.これにより,被災後に別途撮影,作成 されたオルソ画像と合わせることで被災前後の状況 の比較が可能となった(図-4). 図-1 写真判読素図 紫色が崩壊地,水色は土砂流流下域
図-3 1:25,000 デジタル標高地形図「伊豆大島」 図-4 被災後と被災前(平成 24 年)のオルソ写真 5. 斜め写真の公開 図-5 斜め写真の公開 6. 政府調査団による現地調査写真の公開 10 月 19 日に実施された,政府調査団による被災 現地写真の公開用 KML ファイルを作成し,関係機 関向け「災害情報共有マップ」で公開した(図-6). 図-6 政府調査団による現地写真 7. まとめ 応用地理部では,土砂流出により大きな被害を受 けた地域の空中写真を判読し,すみやかに公開した. また,その結果をデジタル標高地形図などと合わせ て,災害復旧・復興に役立てていただくための緊急 情報提供資料として公開した. (公開日:平成26 年 3 月 3 日) 参 考 文 献 国土地理院(2006):火山土地条件図「伊豆大島」 国土地理院(2006):火山基本図「伊豆大島Ⅰ」 10 月 16 日撮影の斜め写真を地形図の位置や方向 を特定して「災害情報共有マップ」で公開した(図 -5).災害発生直後の斜め写真の公開により,迅速な 被害状況の把握のための資料とすることができた.
台風第
26 号による地理空間情報の公開
Public presentation of the Geospatial information by Typhoon Wipha(1326)
地理空間情報部 災害対策班
Geospatial
information Department Disaster Countermeasures Group
1. 地理空間情報部の主な対応 地理空間情報部では,被災地区における既存の空 中写真を関係機関提供用として準備し,合わせて, 地理院地図から災害情報共有マップとして撮影した 空中写真等の地理空間情報を公開した. 2. 既存空中写真を関係機関に提供 国土地理院が,これまでに撮影した大島町の既存 空中写真309 枚を準備し,防災推進室から関係機関 に提供した. 3. 災害情報共有マップによる地理空間情報の公開 10 月 16 日に,地理院地図において災害情報共有 マップを構築し,関連情報を公開するためのサイト を準備した. 3.1 10 月 16 日に公開した地理空間情報 3.1.1 10 月 16 日に撮影した斜め空中写真 12 枚 撮影した地点をカメラ方向のアイコンで表示し, そのアイコンをクリックすることにより斜め空中写 真が表示される.(図-1) 図-1 10 月 16 日に撮影した斜め空中写真の公開 3.1.2 土砂流失箇所 10 月 16 日に撮影した斜め写真から判読した土砂 流失箇所(速報暫定版).なお,土砂流失箇所につい ては,応用地理部にて判読し,その都度更新し,常 に最新の情報を配信した.(図-2) 図-2 土砂流失箇所(赤で囲まれた範囲)10/31 3.2 10 月 17 日に公開した地理空間情報 3.2.1 10 月 17 日に撮影した空中写真 241 枚 垂直写真の主点(航空機が撮影した場所)情報を 表示させ,そのアイコンをクリックすることにより 垂直写真が表示される.(図-3) 図-3 10 月 17 日に撮影した垂直空中写真の公開ページ3.2.2 火山基本図「伊豆大島Ⅰ・Ⅱ」(平成 18 年測 量)の地理院タイル 火山基本図の地理院タイルと合わせ,背景を透過 させたタイルも作成した.この透過させた火山基本 図を上載せした際に下層のデータが透過し閲覧でき る.(図-4 及び図-5) ※地理院タイルとは以下のサイトを参照 http://portal.cyberjapan.jp/help/termsofuse.html 図-4 火山基本図(背景色白版) 図-5 火山基本図(背景色透過版) 図-6 火山土地条件図 3.2.4 平成 24 年 4 月に撮影した正射画像の地理院タ イル(図-7) 図-7 平成 24 年 4 月撮影の正射画像 3.3 10 月 18 日に公開した地理空間情報 3.3.1 10 月 17 日に撮影した正射画像_図郭版 98 面 (図-8) 図-8 10 月 17 日撮影の正射画像_図郭版 3.3.2 10 月 17 日に撮影した正射画像の地理院タイ ル(図-9) 図-9 10 月 17 日撮影の正射画像 3.2.3 火山土地条件図「伊豆大島」(平成17 年測量) の地理院タイル(図-6)
3.3.3 色別標高図(図-10) 図-10 色別標高図 3.4 10 月 22 日に公開した地理空間情報 3.4.1 土砂流失箇所の地形断面図(図-11) 図-11 土砂流出箇所地形断面図 3.5 10 月 30 日に公開した地理空間情報 3.5.1 10 月 28 日に撮影した,正射画像_図郭版 150 面と正射画像の地理院タイル(図-12) 図-12 10 月 28 日撮影の正射画像_図郭版 4. 関係機関との情報共有 関係機関との災害情報の共有を図るため,行政機 関サイトを構築し,「3.」と合わせ,以下の情報も掲 載した. 1) 3 月 10 日に政府調査団が撮影した現地写真 2) 10 月 18 日に関東地方整備局が撮影した動画 と現地写真 3) 10 月 28 日に撮影した垂直写真 5.その他 地理院地図からの災害情報共有マップにより,災 害に関連する様々な地理空間情報を公開した. その結果,地理院地図へのアクセス数は平常時の 1.5 倍に増加した. また,地理院地図での公開により,被災害前と被 災害後の正射画像を重ね合わせ,透過機能で比較す ることにより被害状況の把握等に役立っている.な お,地理院地図での使用方法については「平成 25 年(2013 年)台風第 26 号及び第 27 号による大雨に 関する情報」ページに掲載した. (公開日:平成26 年 3 月 3 日)
台風第
26 号に対する関東地方測量部の対応
Responses of the Kanto Regional Survey Department of GSI to the Typhoon Wipha(1326)
関東地方測量部
Kanto Regional Survey Department
要 旨 関東地方測量部は,東京都大島町にて大規模な土 石流を発生させた台風第 26 号に伴う記録的な大雨 による被災に対応するため,体制を確保し,関係行 政機関へ各種地理空間情報を提供すると共に,政府 調査団に参加し現地調査を実施した. 1. 関東地方測量部の体制 関東地方測量部では,台風第26 号の動きと被害の 状況に合わせて,次のとおり体制を確保し災害に対 応した. 10 月 15 日(火) 14:15 注意体制 10 月 16 日(水) 11:05 警戒体制 11:15 非常体制 地方災害対策本部の設置 10 月 31 日(木) 15:30 警戒体制 11 月 8 日(金) 10:00 体制解除 2. 情報収集 注意体制と同時に関東地方整備局との連絡体制を 確保し,空中写真撮影時のニーズ調査のほか,随時 情報収集を実施した.特に,TEC-FORCE の現地写 真やヘリによる上空からの映像を関東地方整備局か ら入手し,地理院マップシートや映像等から場所を 特定し,位置情報を付与することにより,災害情報 共有マップに反映させた. 3. 情報提供 3.1 斜め写真 16 日に基本図情報部にて撮影された斜め写真に, クレジット及び施設地名等の注記を追記し位置と被 害状況をより把握できる資料に加工し,関係機関(関 東地方整備局,東京都及び大島町)へ提供した.(図 -1) 図-1 神達地区の斜め写真 3.2 オルソ地図 基本図情報部にて作成した被災前後の正射写真を 基に地理院地図と重ね合わせた地図(以下,「オルソ 地図」という)を作成し,10 月 18 日に関係機関へ 電子ファイルを送付すると共に印刷物を提供(A0・ A1 及び A2 サイズ)した.(図-2 及び図-3) さらに,土石流危険渓流箇所の元町地区及び泉津 地区を拡大したオルソ地図を作成し,関係機関へ提 供した.(図-4 及び図-5) オルソ地図の作成にあたって,これまでの災害対 応の経験を生かし,事前準備(GIS ソフトによる作 成方法のマニュアル化や資料様式の準備等)するこ とにより,正射写真完成後に迅速な提供が可能とな った.なお,オルソ地図は,以下の2 点のメリット がある. ① 被害の全体像を容易に把握できる ② 地名情報を入れることで,現地に精通してい ない者でも位置の特定が容易となる.
図-2 被災前のオルソ地図 (平成24 年 4 月撮影) 図-3 被災後のオルソ地図 (平成25 年 10 月 17 日撮影) 図-4 元町地区のオルソ地図 図-5 泉津地区のオルソ地図 3.3 その他の地理空間情報 基本図情報部にて作成した垂直写真についても, 10 月 17 日に関係機関へ提供した.さらに,東京都 及び大島町には,垂直写真が東日本大震災等の災害 復旧にあたって罹災証明書の参考資料として活用さ れた旨の情報提供を行った. その他,内閣府や防衛省に対しても火山基本図や 火山土地条件図等の印刷物を提供した. 4. 政府調査団 10 月 19 日,古屋内閣府特命担当大臣を団長とし, 内閣府・内閣官房・警察庁・総務省・消防庁・厚生 労働省・林野庁・経済産業省・国土交通省・海上保 安庁・国土地理院・気象庁・環境省・防衛省(政府 調査団名簿記載順)にて構成された調査団に,当部 防災課長が参加した.調査団は自衛隊ヘリによる上 空からの視察や大島町役場において被害状況の聴取, 意見交換等及び現地調査を実施した. 意見交換の場において,国土地理院から大島町に 対して印刷した被災前後のオルソ地図を提供した. これらはその後設置された「政府現地災害対策室」 において救助活動や応急復旧等に活用された.
現地調査については,元町地区周辺(図-6)につ いて被害状況を調査した. 図-6 政府調査団における現地調査 5. まとめ 関東地方測量部では,管内で発生した今回の災害 対応において関東地方整備局や被災自治体へ各種地 理空間情報を提供すると共に,中央省庁へ印刷物の 配布を実施した.オルソ地図については,日頃の業 務や訓練の経験を活かし,迅速に作成し提供するこ とができた.また,政府調査団へ参加し意見交換及 び現地調査を実施した.今後とも関係機関の利用者 にとって必要な地理空間情報を迅速に提供できるよ う努めていく. (公開日:平成26 年 3 月 3 日)
平成
25 年(2013 年)台風第 26 号に伴い伊豆大島で発生した
大規模土砂災害に関連した地形解析
Analysis of Topography Related to Large Scale Landslides Disaster
Triggered by Typhoon Wipha (1326) in Izu-Oshima Island, Tokyo
地理地殻活動研究センター 中埜貴元・岩橋純子・小荒井 衛
Geography and Crustal Dynamics Research Center
Takayuki NAKANO, Junko IWAHASHI and Mamoru KOARAI
要 旨 伊豆大島では,平成25 年(2013 年)10 月 16 日に, 台風第 26 号に伴う豪雨によって大規模な土砂災害 が発生し,多くの死者・行方不明者が出た.その数 日後,台風第27 号の襲来が予報されたため,基盤地 図情報の 5m メッシュ標高データや火山地質図デー タ,火山土地条件図データ等を用い,台風第26 号に 伴い発生した斜面崩壊の源頭部と類似した形態をも つ斜面や,崩壊が集中したスコリア丘及びそこから 水が流下する谷筋の経路を GIS 解析により抽出し, それらをまとめた危険斜面分類図を作成して,10 月 25 日に災害対策部局に送付した. 1. はじめに 平成 25 年(2013 年)10 月に発生した台風第 26 号(以下,「台風26 号」という.)は,伊豆大島を中 心に大きな被害をもたらした.伊豆大島では,10 月 16 日に島の西斜面を中心に大規模な土砂災害が発 生し,多くの死者・行方不明者が出た.発災後の10 月16,17 日に,国土地理院が上空から撮影した斜め 写真や空中写真を判読し,1:25,000 火山土地条件図 「伊豆大島」(国土地理院,2006)や伊豆大島火山地 質図(川辺,1998)と比較した結果,大規模な崩壊 を起こした箇所は主にスコリア丘(多孔質の黒色の 火山砕屑物であるスコリアが火口の周りに降り積も ってできた円錐形の丘状の地形)の範囲であると推 定された. この土砂災害が発生した数日後,台風第27 号(以 下,「台風27 号」という.)の襲来が予報され,再び 土砂災害が発生することが懸念されたため,基盤地 図情報の5m メッシュ標高データ(以下,「5mDEM」 という.)を用いてArcGIS で地形解析を行い,台風 26 号に伴い発生した斜面崩壊の源頭部と類似した 形態をもつ斜面(すなわち,斜面崩壊を起こす可能 性のある危険斜面)や,斜面を水が流下する谷筋の 経路(以下,「流路データ」という.)を抽出するこ ととした.併せて,火山地質図データや火山土地条 件図データと重ね合わせることで,斜面崩壊が集中 したスコリア丘の範囲とそこを通過する流路データ も抽出することとした.これらの情報から,斜面崩 壊の危険性が高いと推定される斜面を図示した斜面 分類図(以下,「危険斜面分類図」という.)を作成 し,台風27 号が伊豆大島に襲来する前に,注意喚起 の参考情報として災害対応部局に提供することを目 指した.なお,台風27 号による新たな土砂災害は発 生しなかった. 2. 使用したデータと危険斜面分類図の作成手法 2.1 使用したデータ 地形データは,基盤地図情報の航空レーザ測量に よる 5mDEM(H24 年計測)を,地図データは基盤 地図情報の縮尺レベル 2500 データを利用した. 5mDEM データから陰影起伏図を作成し,地図デー タと合わせて背景図とした.スコリア丘の分布につ いては,主に伊豆大島火山地質図のポリゴンデータ (産業技術総合研究所提供)を利用し,火山土地条 件図のGIS データも併用した.また,国土地理院が 空中写真判読により作成した,土砂流出箇所データ を利用した.なお,5mDEM は発災前のデータであ り,後述の解析においては,流路の埋没や地形の変 化は考慮していない.また,対策工の有無も考慮し ていない. 2.2 危険斜面分類の作成手法 斜面崩壊の危険性が高いと推定される斜面分類の 作成方法と分類結果の解釈を図-1 に示す.斜面分類 は,5mDEM を用い,ArcGIS により傾斜度,湿潤指 数(地表流水の溜まりやすさを指標化したもの; Topographic Wetness Index; Moore et al., 1993),テクス チャ(地形の平滑度;Iwahashi and Pike, 2007)の 3 つの地形量を求め,それらの閾値処理で行った.具 体的にはまず,斜面傾斜度と湿潤指数をそれぞれ計 算し,それらを5×5 メッシュの範囲で平均化した後, [斜面傾斜度≧27 度]かつ[5≦湿潤指数≦8]の斜 面(本ケースでは急斜面の集水地形に相当)を抽出 し,そのうち,テクスチャがその平均値より小さい 斜面を「急斜面1」,大きい斜面を「急斜面 2」とし た.傾斜度の閾値は,当初,「急傾斜地の崩壊による 災害の防止に関する法律」(急傾斜地法)で急傾斜地 崩壊危険区域を指定する際の基準である 30 度以上
としたが,10 月 16 日の土砂流出範囲と比較したと ころ,過少評価となったため,実際の土砂流出範囲 を概ねカバーする条件で設定し直した.湿潤指数の 閾値は,湿潤指数の正規分布のヒストグラムから, 概ね±1σの範囲で設定したもので,陰影起伏図上で 概ね谷頭部に相当していることを確認した.テクス チャは尾根と谷の密度であり,半径50m の範囲で計 算されており,平均値より大きい箇所は凹凸が多い 地形であり,平均値より小さい箇所は平滑な地形で あることを示している.すなわち,「急斜面1」は平 滑な急斜面で,一般にまだ浸食されていない(堆積 したばかりの)斜面,「急斜面2」は凹凸の多い急斜 面で,一般に浸食が盛んに進んでいる斜面に該当す る.これらの地域で起こる斜面崩壊は,前者では「頻 度は低いが規模(面積)が大きい」,後者では「頻度 は高いが規模(面積)が小さい」と予想される. 2.3 流路データの作成手法 流路データは,5mDEM を用いて,ArcGIS の水文 解析ツールを利用して作成した.水文解析の流れを 図-2 に示す.この解析では,5mDEM を平滑化した 後,各セルから最も急な降下傾斜となる近接セルへ の流れ方向を示す「流向ラスタ」を作成し,それら を累積することで各セルに流れ込むすべてのセルの 数を示す「累積流量ラスタ」を求め,そこから今回 の斜面崩壊の源頭部付近において谷筋が認識される 累積流量(≧500 セル)のセルのみを抽出し,その セルを繋いだベクトルデータを生成した.今回は, スコリア丘での斜面崩壊が懸念されたことから,生 成した流路データのうち,伊豆大島火山地質図に表 示されているスコリア丘を横切るデータのみを抽出 することとした. 3. 危険斜面分類図とその解釈 上記 2.の手順に基づき作成した危険斜面分類図 を図-3 に示す.この図を,台風 27 号襲来前の 10 月 25 日に国土交通省災害対策室に提供した.この図で は,台風26 号に伴い発生した斜面崩壊の源頭部と形 態が類似しており,斜面崩壊を起こす可能性のある 危険斜面(「急斜面1」,「急斜面2」)のほか,伊豆 大島火山地質図に表示されているスコリア丘の範囲, スコリア丘を横切る経路データ,基盤地図情報の水 涯線(河川)データ・道路縁データ・建築物データ・ 町字名等を,陰影起伏図を背景にして表示した.ま た,被害の大きかった大島町元町地区周辺を拡大し たものを図-4 に示す.この図では,国土地理院が判 読した10 月 16 日の土砂流出箇所も表示している. 結果として,「急斜面1」は,大島町元町地区で広 範囲に流下した崩壊の源頭部(図-5(a))などに相 当する比較的新しいスコリア丘上の急斜面に,「急斜 面2」はその他の崩壊地(図-5(b))に該当する斜 面に多く現れた.これらは,先述 2.2 節で予想した 斜面崩壊の規模と調和的であり,この分類は概ね妥 当と考えられた.したがって,図の凡例においては, 専門家でなくても理解しやすいように,「急斜面1」 には「主として元町地区に流下した崩壊地と似た形 態を示すもの」,「急斜面2」には「一般的な崩壊地 の形態を示すもの」という説明を付した.なお,現 地調査に基づく報告(例えば,櫻井,2014;稲垣, 2014 など)によれば,元町地区の広範囲にわたる崩 壊は,谷地形が未発達な比較的平滑な斜面地形が素 因のひとつであり(すなわち,谷が浅いことで土砂 基盤地図情報(5mメッシュ標高) 投影変換(経緯度→平面直角座標系) ↓ TIN生成 ↓ 5mDEM テクスチャ (地形の平滑度 (尾根・谷の密度)) 湿潤指数 (Topographic Wetness Index) ↓ 5×5メッシュの範囲 で平均化 傾斜度 ↓ 5×5メッシュの範囲 で平均化 急斜面の集水地形 斜面傾斜≧27度 5≦湿潤指数≦8 急斜面1 (平滑な急斜面) 急斜面2 (凹凸の多い急斜面) テクスチャ<平均値 テクスチャ≧平均値 一般に、まだ浸食されていな い(堆積したばかりの)斜面、 あるいは透水性の高い斜面 一般に、浸食が盛んに進 む斜面 【予想される崩壊】 頻度低・大規模 【予想される崩壊】 頻度高・小規模 図-1 斜面分類の方法と分類結果の解釈 図-2 水文解析のフロー図
が溢れ出し,土砂の流路が定まらなかった),「急斜 面1」の地形的解釈と一致する.また,図-3 を見る と,今回大規模な斜面崩壊が発生した島の西側斜面 以外にも,南側斜面などで危険性が高いと推定され る箇所(「急斜面1」に該当するスコリア丘)が分布 することが分かった.一方,流路データでは,地形 から推定される水の流路は示すことができたが,谷 筋から溢れ出す流れは表現できないことから,元町 地区で発生した谷筋以外の平滑斜面への土砂流路は 表現することができなかった. 図-4 の範囲において,伊豆大島火山地質図のスコ リア丘の代わりに,火山土地条件図の火砕丘の範囲 を示したものを図-6 に示す.火山土地条件図「伊豆 大島」では,スコリア丘やマールに相当する地形が 図-5(a) 図-5(b) 図-4 大島町元町地区付近の危険斜面分類図及び 10 月 16 日の土砂流出箇所.土砂流出箇所以外の凡例は図-3 を参照. 黒破線枠は図-5 の範囲.
(a)
(b)
図-5 抽出した危険斜面における実際の崩壊例.(a)「急斜面1」を源頭部として発生した大規模斜面崩壊,(b)「急斜 面2」で発生した一般的な斜面崩壊.国土地理院が2013 年 10 月 17 日撮影した空中写真から作成されたオルソ 画像を使用.橙色線は国土地理院が作成した土砂流出範囲.「火砕丘」としてまとめられているが,開析が進ん で地形的に明瞭でない古いスコリア丘は含まれてい ない.図-4 と比較すると,図-5 の南側のスコリア丘 (火砕丘)が表示されていないことが分かる.これ は,この範囲が,地質的にはスコリア丘として分類 されるが,地形的にはスコリア丘と認識されないこ とを示している.大規模崩壊の可能性のある「急斜 面1」だけを見ると,火山土地条件図の火砕丘の範 囲を中心に分布しており,今回の大規模土砂流出の 源頭部は,比較的新しいスコリア丘(火砕丘)に分 布していることが分かる. 4. まとめと課題 台風 26 号に伴い大規模な土砂災害が発生した伊 豆大島において, 5mDEM や火山地質図,火山土地 条件図等のデータを用いて,10 月 16 日に発生した 斜面崩壊と形態が類似した危険斜面を抽出した危険 斜面分類図を作成し,台風27 号襲来前に災害対策部 局に注意喚起情報として提供した.今回は,航空レ ーザ測量による5mDEM が存在したため,高精度な 地形データによる解析が比較的短時間で行うことが できたが,作業期間がほぼ1 日に限られたため,危 険斜面分類は時間のかかる多変量解析等は行わず, 閾値処理とした.また,斜面崩壊危険箇所を推定す る研究では,崩壊源頭部の斜面抽出が一般的である が,防災という観点では,崩土の流出範囲の推定情 報や被災する可能性のある地区を町字レベルで推定 した情報が求められる.今回は水文解析を併用する ことで,土砂の流路データも表示したが,土石流堆 積物はしばしば沖積錐状に広がって堆積するため, 谷筋の流路だけでは不十分である.これを解決する ためには,土石流シミュレーション等を簡便に行う 必要があり,今後の課題である.最後に,被害に遭 われた方々に心からお見舞い申し上げるとともに, 一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます. 謝 辞 危険斜面分類図を作成するにあたって使用した伊 豆大島火山地質図のポリゴンデータは,産業技術総 合研究所地質情報研究部門シームレス地質情報研究 グループの斎藤眞グループ長及び情報地質研究グル ープの川畑大作主任研究員にご提供頂いた.また, 危険斜面分類図の表現方法については,国土地理院 企画部防災推進室の方々から有益なご意見を賜った. ここに記して御礼申し上げます. (公開日:平成26 年 3 月 3 日) 火砕丘(火山土地条件図) 図-6 火山土地条件図の火砕丘の範囲を示した大島町元町地区付近の危険斜面分類図及び 10 月 16 日の土砂流出箇所. 火砕丘以外の凡例は図-3 を参照.
参 考 文 献
稲垣秀輝(2014):土砂災害の軽減に向けて―斜面崩壊―,土木学会・地盤工学会・日本応用地質学会・日本
地すべり学会 平成 25 年 10 月台風 26 号による伊豆大島豪雨災害緊急調査団報告会資料,81-86.
Iwahashi, J. and Pike, R. J. (2007): Automated classifications of topography from DEMs by an unsupervised nested-means algorithm and a three-part geometric signature, Geomorphology, 86, 409-440.
川辺禎久(1998):伊豆大島火山地質図,地質調査所.
国土地理院(2006):1:25,000 火山土地条件図「伊豆大島」.
Moore, I. D., Gessler, P. E., Nielsen, G. A., and Peterson, G. A. (1993): Soil attribute prediction using terrain analysis, SSSAJ, 57, 443-452.0.
櫻井正明(2014):表層崩壊の発生状況,土木学会・地盤工学会・日本応用地質学会・日本地すべり学会 平
地理空間情報の平面位置正確度の評価
Estimation of the Horizontal Positional Accuracy of Geospatial Data
測地部 小清水寛・村上真幸
Geodetic Department Hiroshi KOSHIMIZU and Masaki MURAKAMI
要 旨 測位情報精度の更なる向上への期待を背景として,測位情報を用いたサービスの更なる高度化へ向けた取 り組みが活発になっている.例えば ITS(高度道路交通システム)サービス分野では,誰もが共通に利用で きる高精度地図(オーソリティマップ)を利用した各種運転支援サービスが検討されている(ITS Japan, 2013). 今後,測位情報とペアとなるべき地図の平面位置正確度に関する情報開示が,今まで以上の詳細さで求めら れると予想される. 地図を描画するための幾何情報が収録されている地理空間情報の位置正確度については,公共測量の作業 規程の準則(国土交通省, 2013)において標準偏差と呼ばれる指標の制限値が設定されている.縮尺が 1/2500 に相当する地図表現精度を有する数値地形図データに対する平面位置の標準偏差は,新規測量の場合には 1.75m 以内,修正測量の場合には 2.50m 以内と規定されている. しかしながら,この規定値をそのまま地理空間情報の位置正確度とするには問題がある.まず,標準偏差 と呼ばれる指標の従う確率分布が明示されていない.さらに,上記制限値は公共測量の実態や他国の制限値 と比べて大きすぎるのではないかという問題提起がなされている(村上ほか, 2010). そこで,米国連邦地理データ委員会(FGDC)の位置正確度策定基準(FGDC, 1998)に影響を与えた Greenwalt-Shultz(1968)による二次元正規分布の考察結果を用いて,指標の明示的な定義を与える.さらに, 縮尺1/2500 相当の数値地形図データのサンプル集合を対象として,指標の実勢値(平均値や実質的な制限値) を大まかに見積もる調査を実施する. 1. 指標の明示的な定義 1.1 全体の流れ 地理空間情報のサンプルをひとつ指定して,検証点残差の成分値を実現値にもつような確率変数を設定し, それら確率変数の間に相関がない場合の正確度指標をGreenwalt-Shultz(1968)の手法に従って導入する.導
入された正確度指標はCircular Standard Error(以下,「CSE」と略する.)と呼ばれる.本調査では,正確度
指標CSE の定義を,確率変数の間に相関がある場合にまで拡張し,検証点数に応じた指標の推定値の誤差を 把握する.最後に,実際に地理空間情報の検証点残差を計算する上での障害となるバイアスの処理方法に関 する指針を与える. 1.2 議論の出発点 地理空間情報のサンプルからn 個の検証点 p1,…, pn をランダムに抽出し,各検証点 pi における水平座標 成果値を (sxi, syi) とおく.更に,地理空間情報の作成(写真測量)とは独立でより正確度の高い測定方法 (GNSS 測量機を用いた現地測量)によって得られた各検証点 pi の水平座標値を (exi, eyi) とする.検証点 pi における水平座標値の残差を xi = sxi - exi,yi = syi - eyiで定める.また残差の平均値 < x >,< y > を以後バイ アスと呼び,< x > = 0,< y > = 0 が成立するとき,残差にはバイアスが含まれないということにする.地理 情報標準(国土地理院,2007)によれば,「位置正確度-絶対正確度(外部正確度)」は「測定された座標値 と真又は真とみなす座標値との近さ」と定義される.本調査では,「測定された座標」を (sxi, syi) に,「真又 は真とみなす座標値」を (exi, eyi) に対応付け,この条件のもとで「位置正確度-絶対正確度(外部正確度)」 を残差 (xi, yi) に対応付ける.残差 xi,yi を実現値にもつ確率変数を各々 X,Y とする. X は母平均 mX = 0, 母分散σX2 を有する正規分布 fX に従い,Y は母平均 mY = 0, 母分散σY2 を有する正規分布 fY に従うものと する:
, 2 exp 2 1 , 0 ; ~ 2 2 2 X X X X X x m x f X
2 22 2 exp 2 1 , 0 ; ~ Y Y Y Y Y y m y f Y ・・・ (1.2.1). 更に fX,fY を周辺分布に有する二次元分布を fXY,X と Y の相関係数 σXY /σXσY をρと記す.1.3 正確度指標(CSE)の導入
本節では確率変数X と Y の間に相関がない(ρ= 0 )ことを仮定し,Greenwalt-Shultz(1968)による CSE (Circular Standard Error,再掲)の概念を導入する.相関がない場合の二次元分布は fXY (x, y) = fX (x) fY (y) で あり,これを極座標表示する:
x y dxdy g
r drd fXY , ,
. 2 2 2 2 2 cos sin 2 exp 2 sin , cos , Y X Y X XY r r r r rf r g 極座標表示 g (r,θ)を用いて任意に取得した検証点が原点 (0,0) を中心とした半径 R の閉円板内に収まる確 率 P (R) を構成することができる:
R r x v dv kv I e a a drd r g R P 0 20 1 2 0 0 2 , ・・・ (1.3.1). ( aX Y , 22 1 22 4 a a R x Y , 22 1 22 4 a a r v Y , 2 2 1 1 a a k , I0(・): 0 次の第一種変形ベッセル関数) 上式において二番目の等号の証明は命題5.1 において与えられる.X と Y の分散が等しい(σX=σY)場合に は,この等しい値をσC として,
2 22 2 exp 2 , C C r r r g ,P
R 1exp
R2/2C2
・・・ (1.3.2) である. X と Y の分散が等しい(σC =σX=σY)場合に P(σC) ≒ 0.3935 となることを利用して,分散が等しくな い(σX≠σY)場合にも,P (σC ) = 0.3935 を満たす σC を二次元正規分布 fXY の標準偏差と定義し,CSE と名付けることにする.確率変数の従う正規分布に関する仮定(mX = 0,mY = 0)は,確率変数の実現値と しての検証点残差にバイアスがないことを意味しているので,σCの推定値は平面位置の正確度に関する指 標と考えることができる. σCを(分散が等しいとは限らない場合にも)具体的に与えるには,σCとσX,σYの関係を数学的に記述 する必要がある.Greenwalt-Shultz(1968)はこの記述を数値解析的な手法を用いて与えている.σY ≧σX (換言するとa≦1)と仮定して,命題 5.2 を P (R) = F (R /σY, a)に対して適用すると,P (R) = 0.3935 ⇒ R/ σY≒0.5+0.5a,すなわち, σC =(σX+σY) / 2 ・・・ (1.3.3) が得られる.上式はσXとσYに関する対称式であるから,X と Y の役割を入れ替えてσCの関係式を求めて も結果は同じである.つまり,σCの表現式(1.3.3)は任意の (σX, σY) に対して成立する式である. 以上により,σXの不偏推定値uX = {Σxi2 / (n - 1)}1/2,σYの不偏推定値uY = {Σyi2 / (n - 1)}1/2 から,σCの 推定値u を以下に定める: u = ( uX + uY ) / 2 ・・・(1.3.4). 1.4 相関がある場合への CSE の拡張 本節では,確率変数X と Y の間に相関がある(ρ≠ 0 )ことを仮定して,前節 1.3 で導入した CSE の概 念を拡張する.相関がある場合の二次元分布 fXY は,
, 2 1 exp 1 2 1 , 2 y x M y x y x f Y X XY 2 2 2 1 1 1 1 Y Y X Y X X M と表現される.第1.3 節と同様な枠組みのもとで正確度指標を定義するために,座標変換:
x,y x,y
r, (x rcos, y rsin) を考える.第一の矢印(変換)は,
y x M y x By Hxy Ax 2 1 2 2 2 に対して,命題 5.3 によって定められる直交変換である.この変換により,二次元分布 fXY は以下のように 極座標表示される:
x ydxdy g
r drd fXY , ,
. 2 2 22 exp 2 cos sin
1 2 sin , cos , rf r r r r r g Y X XY 変換 (x, y) → (x’, y’) が直交的であることは x2 + y2 = x’2 + y’2 = r2 を意味する.従って,任意に取得した検証 点が原点 (0,0) を中心とした半径 R の閉円板内に収まる確率 P (R) は,やはり第 1.3 節と同様に,
R
r g r drd R P 0 20 , で表現される.第1.3 節の場合との対応関係: X 1 , Y 1 , X Y a: に留意しつつ命題5.1 を適用することにより,
rR xe v I kvdv a a drd r g R P 0 20 1 2 0 0 2 , (a , 2 1 22 4 a a R x , 2 1 22 4 a a r v , 2 2 1 1 a a k ) が導かれる.従って,さらに α≧β>0 を仮定して命題 5.2 を
R F
R a
P , (a とおく) に対して適用すると,P(σC) ≒ 0.3935 を満たす σC は近似的に以下のように特徴付けられる:
X Y X Y C 2 2 2 1 2 2 1 2 1 1 ・・・ (1.4.1). なお、上式において第二の等号は命題5.3 の二次方程式に対する解と係数の関係にもとづいて得られる.第 1.3 節と同様に,式の対称性を勘案してα≧β という仮定を外しても一般性を失わない.そこで,相関のあ る二次元分布 fXY に対するCSE を(1.4.1)で表現されるσC によって定義する.明らかに,相関がない場合 (ρ≠0 )のσC は第1.3 節の(1.3.3)に一致するので,本節で定義した CSE は相関がない場合の定義の自 然な拡張となっている. また,σXの不偏推定値uX = {Σxi2 / (n - 1)}1/2,σYの不偏推定値uY = {Σyi2 / (n - 1)}1/2,およびσXY の不偏 推定量uXY = Σxi yi / (n - 1) を用いて,σCの推定値u を以下のように定める: , 1 2 2 1 2 2 2 Y X Y X u u u u u uXY uXuY ・・・ (1.4.2). 1.5 検証点数に応じた CSE 推定値の誤差 前節までの議論により,正確度指標CSE の推定値 u を(1.4.2)によって定めることができた.しかしなが ら,地理空間情報のサンプルにおいて得られる検証点数n は一定ではなく,検証点数 n が小さいと推定値の誤差Δu が大きくなると予想される.従って,CSE 推定値の制限値(上限値)は u ではなく,ucor(ucor = u +
Δu)によって見積もることが望ましいと考えられる. つぎにΔu を求める(推定する)方法について考える.直接的に求めることは困難であると思われるので, ΔuXとΔuYを何らかの方法で求め,誤差伝播公式を用いてΔu を定める方針を採用する:
h uX
uX
h uY
uY u ここで,u の定義式(1.4.2)の右辺を uXとuYの関数とみなした: u = h( uX, uY ) . 本調査では,ΔuXとΔuYとして,一次元正規分布に関する命題5.4 を参考にして得られる値:ΔuX = κn uX, ΔuY = κn uY をあてはめる.ここでκn は命題 5.4 で導入される定数 1/√{2(n-1)} である. 簡単な計算により, Δu =κnu, ucor = u +Δu = (1 +κn) u ・・・ (1.5.1) であることが分かる.κnの値はn = 10 で約 0.2,n > 50 では高々0.1 程度である. 1.6 バイアスの処理 残差成分値 xi = sxi - exi,yi = syi - eyiを実現値として持つ確率変数 X,Y を出発点として,正確度指標 CSE を導入・拡張し,CSE の推定値とその誤差の計算方法を提案してきた.ここで留意しなければならないのは, 確率変数 X,Y に対して条件(1.2.1)が仮定されていることである.他方,地理空間情報の現実のサンプル における残差成分値 xi,yiには,一般的に異常値や系統的なずれ等に伴うバイアスが含まれ,< x > = 0,< y > = 0 が満たされるとは限らない.正確度の指標である CSE の推定値を計算するためには,正確度を推定する という前提を保ちつつ,バイアスを除去する方法を前処理として与えなければならない.現実には,バイア スの原因を完全に特定し,合理的に除去することは必ずしも容易ではないため,バイアスの原因に関して大 まかな仮定をおいたうえでバイアスの影響を極力除去し,正確度指標CSE を推定する必要がある. まず,バイアスが生じる原因を,以下の(a)(b)いずれかであるものと仮定する:検証点の成果値集合 { (sxi, syi) },もしくは基準値集合 { (exi, eyi) } について,(a)異常値が含まれる,もしくは,(b)真値からの系統 的なずれが生じている.とくに,(a)の異常値が含まれる背景としては,経年変化による成果値と基準値の ずれや、基準値の測定の異常が考えられる. つぎに,バイアスの処理方法について,以下の二段階の処理を施す. 第一段階は異常値に対する処理である.理想的には,異常値をもつ検証点を抽出して除去し,残った検証 点の配置が偏っている場合には全検証点を取得しなおす必要がある.しかしながら,予算の制約などにより, そのような作業を実践することが困難である場合が多い.本調査で用いた地理空間情報サンプルの検証点も, 残念ながら合理的に異常値を除去できる状態にはなかった.代替案として,調査対象とする地理空間情報の サンプルの集合のうち,検証点数が十分に大きいサンプルのみを抽出して正確度調査の対象とする.検証点 数の大きさにより,< x > , < y > の値をノイズレベルに低減することが期待されるからである.
第二段階はCSE の推定値の設定処理である.(xi^, yi^) = (xi - <x>, yi - <y>) とおくと,(<xi^>, <yi^>) = (0, 0) が 成立するから,xi^, yi^ に対して(1.4.2)によって CSE 推定値 u = u^ を定めることができる.この値 u^ は,
uXb = {Σ(xi - <x>)2 / (n - 1)}1/2,uYb = {Σ(yi - <y>)2 / (n - 1)}1/2,および uXYb= Σ(xi - <x>) (yi - <y>) / (n - 1) を用い て定められる値 ub : , 1 2 2 1 2 2 2 b Y b X b Y b X b u u u u u ubXY uXbuYb ・・・ (1.5.1) と一致する.つまり,(1.5.1)で定まる値 ubは,(1.4.2)で定まる値 u = u^ を,バイアスがある場合へ自然 に延長したものである.さらに,バイアスに関する仮定と第一段階の処理により,(<x>, <y>) はほぼ系統的 なずれを表すものと見なせるから,これを差し引いて定まる ub は残差 xi,yi の正確度を表現する指標であ ると解釈できる. 以上により,(1.5.1)で定義される ubを(バイアスがある検証点残差に対する)CSE の推定値と定め,記 号としては添え字b を省略して u に統一する.記号 uXb,uYb,uXYb についても,各々 uX,uY,uXYに統一す る. 2. 指標の実勢値の調査 2.1 数値地形図サンプルの抽出 本節では,第1 章で定めた CSE 推定値を用いて,地理空間情報のサンプルの集合から CSE の実勢値(推 定値の平均値や実質的な制限値)を見積もる.地理空間情報の全サンプルは,平成14 年~平成 19 年に整備 され,その後検証点が取得された縮尺1/2500 相当の基盤地図情報合計 229 サンプルである. 但し,検証点の異常値が適正に抽出・除去されていないため,異常値の影響を極力除去できるよう検証点 数n が 50 以上である 26 サンプルのみを抽出した.この 26 サンプルのうち 24 サンプルはバイアスの絶対値 Rm := { <x>2 + <y>2 }1/2 が0.0m~0.2m の範囲に連続的に分布しているが,残りの 2 サンプルは 0.2m を大きく 超えて孤立的に分布している(図-1 の左). この24 サンプルについては,相関係数ρの推定値 uXY/uXuY は理想的な値 0 の近傍で-0.3~0.2 と連続的に
分布しており,標準偏差比率 σmin /σmax の推定値 umin / umax も理想的な値1 の下方近傍で 0.7~1.0 と連続的 に分布している(図-1 の中・右)ことから,座標成分間に強い相関は見られない. そこで,バイアスの影響が小さい24 サンプルを調査対象として CSE の実勢値を見積もることにする. 2.2 CSE 推定値の計算 第1 章の議論により,相関やバイアスを含む検証点残差に対する CSE の推定値,およびその誤差を考慮し た補正値(上限値)は各々: CSE 推定値: 2 1 , 2 1 2 2 2 Y X Y X u u u u u uXY uXuY ( u2
xx
2 n1
i X , uY2
yi y
2 n1
, uXY
xix
yiy
n1
) CSE 推定補正値(上限値):ucor
1n
u, n1 2
n1
で与えられた.これらの式に基づき,第2.1 節で抽出された 24 サンプルに対して計算をすると,CSE 推定値 は0.3~0.4m を平均値にもち,補正値(上限値)は概ね 0.8m 以下に収まった(図-2). 図-1 バイアス(左)・相関係数(中)・標準偏差比率(右)図-2 CSE の推定値:u(左)・ucor(右) 3. 指標の定義と実勢値に関する議論 3.1 FGDC の定める指標値(RMSE)と CSE の関係 米国連邦地理データ委員会(FGDC)では,地理空間情報の平面位置正確度を表現する指標値として,平 均二乗誤差(以下「RMSE」と呼ぶ)を採用している.数値地形図サンプルに対して第 1.2 節で得られた検証 点残差xi,yiに対して,RMSE の定義は,