台湾における研究体制の整備とコア・ジャーナル (
特集 アジア地域研究と雑誌 -- 「コア・ジャーナ
ル」を語る)
著者
佐藤 幸人
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
198
ページ
12-13
発行年
2012-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004032
●等級制度とTSSCI
台 湾 で は 一 九 九 〇 年 代 末 か ら、 研究体制にかかわる三つの制度の 整備が進められてきた。三つの制 度 と は 学 術 誌 の 等 級 を 定 め る こ と、学術誌のデータベースを構築 すること、研究者の評価を研究成 果によって客観的に行うことであ る。それぞれの制度の整備は一定 程度独立していたが、同時に半ば 意図的な、半ば意図せざる連動を ともなっていた。 学術誌の等級( 「期刊排序」 )を 定める調査は一九九八年に第一回 が行われ、その後、現在まで二回 行われている。等級の判定は引用 件数などの客観的な指標と、研究 者に対するアンケート調査や専門 家による審議を総合して行ってい る。 デ ー タ ベ ー ス( 「 台 湾 社 会 科 学 引 文 索 引 資 料 庫 」、 TaiwanSo-cial Sciences Citat
ion Index 。以下、 TSSCI)は一九九八年から開 放 さ れ、 そ の 後 毎 年 基 準 に し た がって改訂されている。TSSC Iに収録されるためには、定期的 な刊行といった形式的な基準のほ か、学術的なクォリティも満たさ なければならない。 表 1に社会学 の学術誌について等級制度とTS SCIを統合的に示した。 同 じ く 二 〇 〇 〇 年 前 後 から 、 研 究 者 の 採 用 や昇 進 お よ び 研 究 費 に か か わる 審 査にお い て 、 客 観 的 な 基 準 を と り 入 れよ う と い う 動 き が 活 発 に な っ て い っ た 。 な か で も 重 視 さ れ る よ う に な っ た の が 、 学 術 誌 に 掲 載 さ れ た 論 文 の 本 数 で あ る 。 と り わ け S S C I ( So cia l Sc ien ce s C ita tio n I nd ex) に 収 め ら れ て い る 英 文 の学 術 誌に論 文 が 掲 載 さ れ れ ば 、 高 い 評 価 が 得 ら れ る よ う に な っ た 。 こ の こと に 関 して は 既 に 書 い た も の が あ る の で 、 詳 し くは そ ち らを 参 照 さ れ た い (「 台 北 便 り 」 h tt p :/ /j at s.g r.j p /a r-ch ive s/ sa to .h tm l# 00 1 お よ び 「『 知 』 の 共 有 促 す 制 度 を 」 htt p:/ /w w w . as ah i.c om /in te rn ati on al/ a a n / h a t s u / h a t -su 04 03 03 b.h tm l )。 ま た 、 こ の よ う な 制 度 の 変 化 に よ っ て日 本 留 学 組 が い か に 不 利 な 状 況 に 陥 っ た か は 、 本 誌 第 一 七 九 号 ( 二 〇 一 〇 年 七月 ) の劉 仁 傑 「 台 湾 に お け る 英 文 ジ ャ ー ナ ル論 文 中 心 主 義 の 興 隆 と そ の 影 響 ︱ 「日 本 留 学 組 」 の苦 悩 ︱ 」 を 参 照 さ れ た い 。 このような評価制度の下 、中国 語の学術誌の「格付け」も重要性 を 増 す こ と に な っ た。 と こ ろ が、 そ の 際 に 奇 妙 な ね じ れ が 生 ま れ た。等級制度があるにもかかわら ず、実際にはTSSCIに収録さ れているか否かが、デファクトの 基準として普及してしまったので ある。 恐らく原因は複合的である。 第 一 に、 T S S C I 自 身 が 当 初、 表1 社会学の学術誌(2006~2007年の調査) TSSCIに収められている学術誌 TSSCIに収められていない学術誌 第1等級 台湾社会学、台湾社会学刊 第2等級 台湾社会研究季刊*、台大社会 工作学刊、社会政策與社会工作 学刊、人文及社会科学集刊*、 人口学刊*、中華心理衛生学刊* 調査研究:方法與応用 第3等級 政治與社会哲学評論*、台湾教 育社会学研究* 台湾社会福利学刊、台湾社会工作学刊、国立政治大学社会学報、 東呉社会工作学報、女学学誌: 婦女與性別研究** 第4等級 教育與社会研究、東呉社会学報、 思與言:人文與社会科学雑誌、 資訊社会研究 (出所) TSSCIウェブサイト(http://db1n.sinica.edu.tw/textdb/tssci/searchindex.php)お よび行政院国家科学委員会ウェブサイト(http://www.nsc.gov.tw/hum/lp.asp?ct Node=1144&CtUnit=813&BaseDSD=7)より作成。 (注) メディア研究は除いている。 * TSSCIでは社会学以外の分野に分類されている。 ** THCIに収録されている。 なお、現在TSSCIに収められている『文化研究』は、2005年刊行のため、調査の 対象外になっている。
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アジ研ワールド・トレンド No.198 (2012. 3)学術誌の格付けも目的としていた ことである。第二に、TSSCI の方が幾つかの理由からわかりや すかったことである。まず等級制 度自体が必ずしも広く知られてい なかった。また、TSSCIか否 か と い う 基 準 は 単 純 明 快 で あ る。 そして、英文論文の基準であるS SCIと対応している。 しかし、このねじれは弊害を生 み出している。TSSCIが二重 の 目 的 を 持 っ た た め に、 デ ー タ ベ ー ス と し て は 収 録 誌 が 少 な く、 学術誌の格付けとしては十分に適 切かつ慎重な審査に基づいていな いという中途半端なものになって しまった。しかも、TSSCIか 否かという単純なわかりやすさは 乱 暴 な 二 分 化 と 裏 腹 と な っ て い る。このような弊害を是正するた め、科学技術政策を担当する行政 院 国 家 科 学 委 員 会 が 中 心 と な っ て、データベースと等級制度を明 確に分ける改革を進めている。す なわち、将来的にはTSSCIと 人 文 科 学 の T H C I( 「 台 湾 人 文 学引文索引」 。 Taiwan Humanit ies Citat ion Index ) を 統 合 す る と と もに、基準を緩めて収録誌を大幅 に増やし、データベースとしての 機能を強化する。同時に直接的な 格付けの機能は弱める。一方、等 級制度の整備と普及を進める。