震災以降のファシリティマネジメント -- 東北大学
附属図書館本館の事例 (特集 災害と図書館)
著者
米澤 誠
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
210
ページ
5-8
発行年
2013-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003743
一.震災による被害状況
⑴ 図書館ファシリティ全般 二〇一一年三月一一日の東日本 大震災の日から八〇日後の五月三 〇日、仙台市は早朝から、三時間 に八〇ミリメートルという記録的 な大雨が降り続いていた。地震に よ る 落 下 書 籍 の 配 架 も 概 ね 完 了 し、ほぼ通常のサービスを開始し て い た 東 北 大 学 附 属 図 書 館 本 館 ( 以 下「 本 館 」 と い う ) は、 震 災 の影響で新たな被害を受けること となった。 開館直後の九時頃、一号館地下 二階書庫の南側天井・壁面に、大 規 模 な 漏 水 が 発 生 し た の で あ る。 出勤していた職員は総出で地下書 庫に向かい、水濡れから守るため に書籍を移動させるとともに、書 架上にブルーシートをかぶせ、バ ケツや段ボールで雨水をかき集め た。各人は誰の指示を仰ぐでもな く、それぞれがなすべき事に必死 に取り組んだ結果、書籍には大き な被害がなかったのが、不幸中の 幸いであった。同じく地下一階書 庫 の 西 側 天 井 か ら も 漏 水 が あ り、 その後もこれらの漏水は、いく度 か続くこととなった。 この漏水の原因については、被 災調査を行っていた建設業者およ び大学の施設部を交えて何度も調 査・探索したのであるが、なかな か 解 明 す る こ と が で き な か っ た。 地下書庫という性格上、どの地点 からどのようなルートで雨水が浸 入したかを特定するのが、非常に 困難だったのである。 今回の東日本大震災では、書籍 の落下や書架の倒壊などが取り上 げられることが多かったが、本館 の場合は、建物の天井や壁、床な どの建物に関する被害も、看過で きないものであった。この地下書 庫の漏水だけではなく、二階閲覧 室・事務室への漏水もたびたび発 生したのである。これらの漏水へ の対策は、二〇一二年二月から本 格的に開始した災害復旧改修工事 のなかで、ようやく実施されるこ ととなった。 また、建物とは別に、空調やエ レベータなどの設備の被害も大き く、いずれも使用できなくなって し ま っ た。 建 物 や 設 備 は 図 書 館 フ ァ シ リ テ ィ( 施 設 と そ の 環 境 ) のなかの重要な要素であり、それ ら総体がそろってはじめて良好な 図書館サービスが実現できるもの である。本稿では、これらの図書 館ファシリティの復旧という観点 から、震災以降の本館のファシリ テ ィ マ ネ ジ メ ン ト を 顧 み て み た い。 ⑵ 書籍と書架 本 館 で 書 架 か ら 落 下 し た 書 籍 は、推定約八七万冊であった。こ れは、蔵書冊数の約四〇%にあた る。比較的割合が少ないように見 えるが、これは、地下書庫に一〇 〇万冊ある閉架図書全体の半分の 地下書庫の漏水 一部落下したコンクリート壁特 集
災 害 と 図 書 館
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エリアが電動集密書架であり、そ のエリアの落下の割合が約二五% と低かったからである。地上階に あ る 書 籍 に つ い て は、 七 〇 〜 九 〇%の割合で落下している。 落下により破損し、修理・買い 換えが必要となったのは、一般図 書約一〇〇〇冊、製本雑誌一二〇 〇冊、 貴重図書三一〇冊であった。 これらについては、二〇一一年か ら二〇一二年末にかけて、復旧予 算により修復を実施している。 スチール製の固定書架について は、上部を天つなぎで連結してい た た め、 転 倒 は 免 れ た。 し か し、 重量のある製本雑誌を配架してい た 本 館 二 号 館 の ス チ ー ル 書 架 は、 連結していたブロック全体の書架 が数センチずれ、一部柱が歪んで しまった。また、一号館地下書庫 にある電動集密書架も、一部歪ん だり動作不能となった。被害の詳 細については、小陳の文献を参照 されたい(参考文献②) 。
二.ファシリティ復旧の歩み
⑴ サービス再開 震 災 の 翌 週 か ら 、 被 害 状 況 調 査 を 行 う と と も に 、 通 勤 可 能 な 図 書 館 職 員 に よ る書 架 の 復 旧 作 業 を 開 始 し た 。 二 〇 一 一 年 三 月 末 か ら は 、 こ の 作 業 に 学 生 ボ ラ ン テ ィ ア が 加 わ り 、 四 月 二 五 日 に は 一 号 館 に 限 定 し て 開 館 す る こ と が で き た 。 新 学 期 の は じ ま る 五 月 の 連 休 明 け に は 、 一 七 時 以 降の 時 間 外 開 館 も 開 始 し 、 五 月 一 六 日 に は 二号 館 を 含 めて 全 面 開 館 で き た 。 こ の 間 、 ボ ラ ン テ ィ ア に 参 加 し た 学 生 は 延 べ 一 〇 〇 〇 名 近 く に も の ぼ っ て い る 。 ⑵ 電力削減計画の実施 サービスを再開したものの、建 物自体の復旧計画のめどが立たな かったため、空調設備についてだ けは、復旧予算を待たずに二〇一 一年六月から修理に着手した。本 館の空調設備は、一号館が竣工し た 一 九 七 二 年 当 時 の も の で あ り、 老朽化も進んでいることから、設 備全体のいたるところが破損して しまっていた。そのため修理工事 は長期間にわたり、ようやく冷房 運転を開始できたのは七月下旬で あった。 そのような状況のなか、二〇一 一年の夏季は震災の影響による電 力需給の問題から、大学としても 厳しい電力削減が求められた。本 館としても、照明および各種電機 機器の使用制限を計画するととも に、冷房運転のガイドラインを定 めることとし、計画的な電力節減 に努めた。そのために、各閲覧室 の照明および冷房に必要な電力を 測定・把握したのち、本館全体の 使用電力量を常時監視するという ファシリティマネジメントを実施 した。 本館の冷房設備は吸収式冷凍機 によるもので、その冷凍機の運転 のための熱源はボイラーによる高 温水となっている。そのため、冷 房の節約自体はさほどの電力削減 にならないのであるが、全体的な 運転経費の削減の観点から、過剰 な冷房とならないよう、各閲覧室 の室温を監視しつつ運転を行った のである。そのため空調に関して は、例年以上に適切な、夏季期間 のファシリティマネジメントを実 施できたと考えている。 ⑶ 災害復旧工事 平成二三年度第三次補正予算に 本館の吸収式冷凍機 復旧作業中の閲覧室の書架 書架と床の間に挟まった書籍 学生ボランティアに感謝する館長 配架が終わりヒモで抑えた書架よ る 災 害 復 旧 工 事 が 本 格 的 に 始 まったのは、二〇一二年二月から であった。最初に着工したのは二 号館のスチール書架であった。配 架した製本雑誌をいったん運び出 し、書架全体の歪みやずれを調整 するとともに、書架全体に対して 床止めと補強プレートを取り付け ることで、耐震性を増したファシ リティを実現できた。 そ し て 、 建 物 自 体 の 復 旧 工事 も 同 年 二 月 の 施 工 の た め の 再 調 査 か ら 開 始 し た 。 一 号 館 ・ 二 号 館 全 体 の 天 井 ・ 梁 ・ 壁 面 ・ 床 面 に つ い て 、 ク ラ ッ ク ( 亀 裂 ) に 充 填 剤 を 注 入 す る と と も に 、 必 要 な 場 所 に は 塗 装 を 行 っ た 。 そ の た め に 、 建 物 内 外 に 足 場 を 組 む と い う 工 事 現 場 状 態 が 、 六 月 末 ま で 続 く こ と と な っ た 。 それと平行し二〇一二年の四月 から五月にかけて、地下書庫の漏 水対策工事を実施した。地下書庫 の内壁を撤去するという大工事の 末、地上からの漏水箇所を発見し た結果、抜本的な対策を施すこと ができた。最後に完成したのが一 号館のエレベータ設備であり、そ の完成をもって、本館の災害復旧 工事は完了したのである。
三.震災対策
⑴ 耐震工事 施 設・ 設 備 と も に 満 身 創 痍 と なった本館(特に一号館)であっ たが、幸い建物の構造には問題が な く 安 全 で あ る こ と が 確 認 さ れ た。約四〇年前の一九七二年に竣 工した一号館は、二〇〇八年度に 耐震補強工事を実施していたので ある。 この耐震補強工事では、ガラス 繊維強化プラスチックブロックに よる耐震壁を設け、二階の広い開 架閲覧室を補強した。また、建物 の外周および二階の屋内には枠付 き鋼管ブレースを取り付け、建物 全体を補強している。 柱と柱の間が約一一メートルと いう、通常よりも長大なスパンを もつこの図書館は、その広い空間 が魅力となっているが、もし耐震 補 強 工 事 を 実 施 し て い な か っ た ら、天井や梁が崩落していた可能 性もあるという。大地震からわず か数年前に、補正予算により堅牢 な図書館に生まれ変わっていたこ とは、 本当に 僥 ぎょう 倖 こう としか思えない。 地 震 が 多 発 す る こ の 国 に お い て、 図書館建物構造体の耐震性の確保 は、何よりも重要なファシリティ マネジメントであると考える。 二号館の製本雑誌移動作業 外壁補修のための足場組み 壁に注入する充填剤 書架を補強するプレート 館内での足場組み 漏水対策工事 書架の補強作業 天井・壁の補修作業 漏水工事が完了した地下書庫上部震災以降の ファシリティマネジメント
―東北大学附属図書館本館の事例―⑵ 書架対策 一方、書架および什器類につい ては、 耐震固定や免震対応により、 転倒のないよう対策を講じること が重要である。本館の場合は、一 九七八年の宮城県沖地震の際の教 訓を生かし、書架を極力固定する という方策をとっていたため、書 架 が 転 倒 す る と い う こ と は 少 な かった。 図書館の場合、まず、書架上部 の連結と床への固定というファシ リ テ ィ 対 策 を と る 必 要 が あ ろ う。 そしてその次に、書籍の落下によ るけがを防ぐために、書架上部へ の書籍配架の抑制などを行うべき である。それらの対策を実施した うえで、書籍に関する各種落下防 止策を講ずる必要があろう。