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<論説>「被侵害利益の公共化」のすべてを不法行為法が受け止めるべきか

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Academic year: 2021

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(1)「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. 「 被 侵 害 利 益 の公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか*. 1.は. 俊. 澤. 召 田. 宮. じめ に. ll.国 立 景 観 訴 訟 最 高 裁 判 決 の 検 討 皿.被 侵 害 利 益 の 公 共 化 と不 法 行 為 法 IV.民 法 学 は どの よ う に被 侵 害 利 益 の 公 共 化 に向 き合 うべ きか. 1.は. じ め. に. 潮 見 佳 男 は,2009年. に発 行 され た 『不 法 行 為 法1(第2版)』. の は しが. きの 冒頭 で,次 の よ う に述 べ て い る。 「本 書 初 版 を1999年 に公 表 して か ら, 10年 あ ま りが 経 過 した。 不 法 行 為 法 に お け る この10年 間 の 動 き は,教 科 書 レベ ル で は 『静 』(た だ し,法 科 大 学 院 制 度 発 足 の影 響 か らか,多. くの 「教. 科 書 」 が 刊 行 され た と い う意 味 で は 『動 』),研 究 レベ ル で は 「動 』 と も い うべ き もの で あ っ た(1)」 。 こ こで 示 され る研 究 レベ ル で の 「動 」 の 重 要 な 要 素 の 一 つ に,公 共 的 利 益 と不 法 行 為 法 の 関 係 につ いて の 問 題 が 含 まれ る こ と に異 論 はな い もの と 思 わ れ る(2)。 吉 田克 己 は,現 代 不 法行 為 法 学 が 直 面 す る問 題 状 況 を 「法 益 侵 *本 稿 は,科 学 研 究 費 補 助 金(研 究 課 題 番 号:20730082)に. よ る研 究 成 果 で あ る。. また,本 稿 にお いて は敬 称 を 略 させ て い た だ き ま した 。 (1)潮 見 佳 男 「不 法 行 為 法1(第2版)」i頁(信 (2)日 本 私 法 学 会 第74回(2010年. 山 社,2009年)。. 度)大 会 シ ンポ ジウ ム 「 新 しい 法益 と不 法 行 為. 法 の 課 題 」 にお いて も,重 要 な 論 点 の 一 つ と して 扱 わ れ た(能 見 善 久 「総 論 一/ 425.

(2) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. 害 の 大 量 化 ・事 故 化 」と 「被 侵 害 利 益 の 変 容 」の 二 つ に ま と めて い る(3)。こ の う ち後 者 につ いて は,具 体 的 に,現 代 社 会 に お いて 古 典 的 な 人 身 侵 害 や 所 有 権 侵 害 に加 え て,「 被 侵 害 利 益 の 主 観 化 」 と 「被 侵 害 利 益 の公 共 化 」 と い う二 つ の 方 向 で の 被 侵 害 利 益 の 拡 大 ・変 容 を 指 摘 す る。 そ して,「 被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の 典 型 例 と して 国 立 景 観 訴 訟 を 示 した うえ で 次 の よ う に述 べ る。 「そ こで 問題 に な った の は,地 域 景 観 の擁 護 で あ った が,こ の 利 益 は,単 に個 人 の 私 的 利 益 に還 元 され る もの で はな い。 それ は,基 本 的 に は公 共 的 性 格 を 有 す るの で あ る。 その よ うな 法 益 侵 害 に対 して,民 法 な い し民 事 訴 訟 は どの よ う に対 処 す る こ とが で き るの か 。 これ は,も っぱ ら個 人 的 権 利 あ る い は個 人 的 利 益 を 対 象 に して き た伝 統 的 実 定 法 学 の パ ラ ダ イ ム に と って,解 決 が 難 しい問 題 で あ る。 現 代 の 不 法 行 為 法 学 は,こ の 問 題 に どの よ う に対 応 す るか が 問 わ れ て い る鞠 。 本 稿 の 目的 は,こ の 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 と不 法 行 為 法 との 関 係 を 明 らか に す る こ と で あ る。 ま た,本 稿 の 考 察 を 通 じて,公 共 的 利 益 と民 法 (学)と の 関係 に つ い て の示 唆 を得 る こ と も 目指 す(5)。 以 下II.に. お いて,吉. 田が 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の 典 型 的 な 例 とす る. \ 本 シ ン ポ ジ ウ ムの 目的 と視 点 」NBL936号15-16頁(2010年),大. 塚 直 「公 害 ・. 環 境,医 療 分 野 にお け る権 利 利 益 侵 害 要 件 」NBL936号44-47頁(2010年)参. 照)。. (3)以 下 の 問 題 整 理 につ い て は,吉 田克 己 「 現代不法行為 法学の課題一被侵害利 益 の 公 共 化 を あ ぐって 」 法 科35号143-144頁(2005年)参 (4)吉. 照。. 田 ・前 掲 注(3)144頁 。. (5)な お 筆 者(宮 澤)は,別. 稿 に お い て,集 合 的 ・公 共 的 利益 に 対 す る私 法 上 の. 権 利 の 法 的 構 成 につ いて 考 察 を加 え た。 そ して,独 立 した私 法 上 の 権 利 と して 構 成 す る こ とが 民 法 理 論 と して正 当化 さ れ,さ. らに 憲法 理 論,行. 政 法 理 論,民. 事 訴 訟 法 理 論 と も抵 触 す る こ と はな い,と の結 論 を導 い た(宮 澤俊 昭 「集 合 的 ・ 公 共 的 利 益 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 につ い て の 一 考 察(1)∼(5・. 完)」. 近 法54巻3号326-248頁,同4号59-126頁,56巻3号39-115頁,57巻1号31-91 頁,57巻2号51-107頁(2006-2009年))。. 本 稿 にお け る考 察 は,こ の 研 究 と既 存. の 民 法 体 系 との 関 係 を 明 らか にす る試 み の 一 つ に位 置 付 け られ る。. 426.

(3) 「被侵害利益の公共化」のすべてを不法行為法が受 け止め るべ きか 国 立 景 観 事 件 に対 す る最 高 裁 判 決(6)(以下 「国 立 景 観 訴 訟 最 高 裁 判 決 」 と 表 記)に 関 して,こ の 判 決 が 景 観 利 益 を 「法 律 上 保 護 に値 す る」 と した こ と につ いて の 議 論 を 検 討 す る。 この 検 討 を 基 礎 と して,皿1.に. お いて,公. 共 的利 益 と不 法 行 為 法 の 関 係 に つ い て 検 討 す る。 こ れ ら の検 討 を 踏 ま え て,IV.に. お いて,公 共 的 利 益 と民 法(学)と. の 関 係 を 考 え る。. 皿.国 立 景 観 訴 訟 最 高 裁 判 決 の 検 討. (1)国 立 景 観 訴 訟 最 高 裁 判 決 の 判 旨 国 立 景 観 訴 訟 最 高 裁 判 決(以 下 「本 判 決 」 と記 述)は,次. の よ う に述 べ. て 景 観 利 益(「良 好 な景 観 に近 接 す る地 域 内 に居 住 し,そ の 恵 沢 を 日常 的 に 享 受 して い る者 」 が 有 す る 「良 好 な景 観 の 恵 沢 を享 受 す る利 益 」)を,法 律 上 保 護 に値 す る利 益 と して 認 め た(な お,番 号 は筆 者(宮 澤)が 付 した もの で あ る)。. ① 都 市 の 景 観 は,良 好 な 風 景 と して,人. 々の 歴 史 的 又 は文 化 的 環 境 を 形. 作 り,豊 か な 生 活 環 境 を 構 成 す る場 合 に は,客 観 的 価 値 を 有 す る もの と い うべ きで あ る。 ② 被 上 告 人Y1が. 本 件 建 物 の建 築 に 着 手 した平 成12年1月5日. の時点 に. お いて,国 立 市 の 景 観 条 例 と 同様 に,都 市 の 良 好 な 景 観 を 形 成 し,保 全 す る こ とを 目的 とす る条 例 を 制 定 して い た地 方 公 共 団 体 は少 な くな い状 況 に あ り,東 京 都 も,東 京 都 景 観 条 例(… …)を 既 に制 定 し,景 観 作 り(良 好. (6)最. 判2006(平. 吉 田克 己 昭. 成18)年3月30日. 民 集60巻3号948頁. 「判 批 」 民 法 判 例 百 選]1(ジ. 「判 解 」 松 本 恒 雄=潮. (信 山 社,2010年)を. 見佳 男編. 。 事 案 の 概 要 に つ い て は,. ュ リ増 刊196号)156頁(2009年),宮 『判 例 プ ラ ク テ ィ ス 民 法H(債. 参照。. 427. 澤俊 権)」326頁.

(4) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. な 景 観 を 保 全 し,修 復 し又 は創 造 す る こ と。2条1号)に. 関 す る必 要 な 事. 項 と して,都 の 責 務,都 民 の 責 務,事 業 者 の 責 務,知 事 が 行 うべ き行 為 な ど を定 めて い た。 ま た,平 成16年6月18日 「良 好 な 景 観 は,美. に公 布 さ れ た景 観 法(… …)は,. し く風 格 の あ る 国土 の 形 成 と潤 い の あ る豊 か な生 活 環. 境 の 創 造 に不 可 欠 な もの で あ る こ と にか ん が み,国 民 共 通 の 資 産 と して, 現 在 及 び将 来 の 国 民 が その 恵 沢 を 享 受 で き る よ う,そ の 整 備 及 び保 全 が 図 られ な けれ ばな らな い。」 と規 定(2条1項)し 事 業 者 及 び住 民 の 有 す る責 務(3条 る行 政 上 の 施 策(8条. 以 下)並. に関 す る都 市 計 画(61条),そ 条),市. た上,国,地. 方 公 共 団体,. か ら6条 まで),景 観 行 政 団 体 が と り得. び に市 町 村 が 定 め る こ とが で き る景 観 地 区 の 内容 と して の建 築 物 の形 態 意 匠 の制 限(62. 町村 長 の違 反 建 築 物 に対 す る措 置(64条),地. お け る建 築 物 等 の 形 態 意 匠 の 条 例 に よ る制 限(76条)等. 区計画等の区域 内に を規 定 して い る が,. こ れ も,良 好 な景 観 が有 す る価 値 を保 護 す る こ と を 目的 とす る もの で あ る。 ③ そ うす る と,良 好 な 景 観 に近 接 す る地 域 内 に居 住 し,そ の 恵 沢 を 日常 的 に享 受 して い る者 は,良 好 な 景 観 が 有 す る客 観 的 な 価 値 の 侵 害 に対 して 密 接 な 利 害 関 係 を 有 す る もの と い うべ きで あ り,こ れ らの 者 が 有 す る良 好 な 景 観 の 恵 沢 を享 受 す る利 益(以. 下 「景 観 利 益 」 とい う。)は,法. 律上 保. 護 に値 す る もの と解 す るの が 相 当で あ る。 ④ も っ と も,こ の 景 観 利 益 の 内容 は,景 観 の 性 質,態 様 等 に よ って 異 な り得 る もの で あ る し,社 会 の 変 化 に伴 って 変 化 す る可 能 性 の あ る もの で も あ る と こ ろ,現 時 点 に お いて は,私 法 上 の 権 利 と い い得 る よ うな 明 確 な 実 体 を有 す る もの と は認 め られ ず,景 観 利 益 を 超 え て 「景 観 権 」 と い う権 利 性 を有 す る もの を 認 め る こ と はで きな い。 ⑤ と こ ろで,民 法 上 の 不 法 行 為 は,私 法 上 の 権 利 が 侵 害 され た場 合 だ け で はな く,法 律 上 保 護 され る利 益 が 侵 害 され た場 合 に も成 立 し得 る もの で 428.

(5) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. あ る(民 法709条)が,本. 件 に お け る よ うに 建 物 の 建 築 が 第 三 者 に対 す る. 関 係 に お いて 景 観 利 益 の 違 法 な 侵 害 とな るか ど うか は,被 侵 害 利 益 で あ る 景 観 利 益 の 性 質 と 内容,当 該 景 観 の 所 在 地 の 地 域 環 境,侵 害 行 為 の 態 様, 程 度,侵 害 の 経 過 等 を 総 合 的 に考 察 して 判 断 す べ きで あ る。 そ して,景 観 利 益 は,こ れ が 侵 害 され た場 合 に被 侵 害 者 の 生 活 妨 害 や 健 康 被 害 を 生 じさ せ る と い う性 質 の もの で はな い こ と,景 観 利 益 の 保 護 は,一 方 にお いて 当 該 地 域 に お け る土 地 ・建 物 の財 産 権 に 制 限 を 加 え る こ と とな り,そ の 範 囲 ・内容 等 を め ぐって 周 辺 の 住 民 相 互 間 や 財 産 権 者 との 間 で 意 見 の 対 立 が 生 ず る こ と も予 想 され るの で あ るか ら,景 観 利 益 の 保 護 と これ に伴 う財 産 権 等 の 規 制 は,第 一一 次 的 に は,民 主 的 手 続 に よ り定 め られ た 行 政 法 規 や 当 該 地 域 の 条 例 等 に よ って な され る こ とが 予 定 され て い る もの と い う こ とが で き る こ とな どか らす れ ば,あ る行 為 が 景 観 利 益 に対 す る違 法 な 侵 害 に当 た る と いえ る た め に は,少 な くと も,そ の 侵 害 行 為 が 刑 罰 法 規 や 行 政 法 規 の 規 制 に違 反 す る もの で あ っ た り,公 序 良 俗 違 反 や 権 利 の 濫 用 に該 当 す る もの で あ るな ど,侵 害 行 為 の 態 様 や 程 度 の 面 に お いて 社 会 的 に容 認 され た 行 為 と して の 相 当性 を 欠 くこ とが 求 め られ る と解 す るの が 相 当 で あ る。. (2)本 判 決 にお け る景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 (a)議 論 の 概 観 学 説 に お いて は,本 判 決 が,景 観 利 益 を個 人 の私 的利 益 と して捉 え て 「法 律 上 保 護 され る利 益 」 と位 置 づ け た こ と,す な わ ち,景 観 利 益 を 公 共 的 利 益 と して の み 位 置 づ け た わ け で は な い と い う こ と に つ い て は 一 致 して い る。 問 題 は,そ の 私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 関 係 で あ る。 この 関 係 につ いて は,次 の二 つ の立 場 が 示 され て い る(7)。 第 一 の 立 場 は,景 観 利 益 を 「公 共 (7)以 下 に示 す 第 一 の 立 場 は,公 法 の規 律 課 題 と私 法 の規 律 課 題 を 峻 別 す る考 え 方(公 私 峻 別 論)に,第. 二 の 立 場 は,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 承 認 す/. 429.

(6) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. 的 利 益 」 と は断 ち切 られ た 「私 的 利 益 」 と理 解 して 「法 律 上 保 護 され る利 益 」 と した もの とす る立 場 で あ る。 第 二 の立 場 は,本 判 決 が 「公 共 的利 益 」 と 「私 的 利 益 」 の 「二 重 性 」 な い し 「オ ーバ ー ラ ップ」 を 承 認 した うえ で 景 観 利 益 を 「法 律 上 保 護 され る利 益 」 と した もの とす る立 場 で あ る。 この 問 題 につ いて は,本 判 決 につ いて 前 田陽 一一 の 指 摘 す る次 の よ うな 論 理 展 開 の飛 躍 が 重 要 と な る(8>。 過 去 の 下 級 審 判 決(9)には,景 観 に つ い て の 条 例 を含 む 関 係 法 令 の な か に景 観 を 住 民 の 個 別 的 ・具 体 的 な 利 益 と して 保 護 して い る規 定 が 見 られ な い とす る もの が あ り,ま た景 観 利 益 を 特 定 の 個 人 が 享 受 す る利 益 と して 理 解 す べ き もの で は な い と した 本 件 原 審 判 決(1① も,景 観 法 を 含 めて 「現 行 法 上,個 人 につ いて 良 好 な 景 観 を 享 受 す る権 利 等 を認 め た法 令 は見 当 た ら」な い とす る。 に もか か わ らず,本 判 決 は,「景 観 の 客 観 的 な 価 値 を 保 護 す る こ とを 目的 とす る条 例 ・法 律 が 存 在 す る(上 述 判 旨②)」 → 「良 好 な景 観 に近 接 す る地 域 内 の居 住 者 は 密 接 な利 害 関 係 が あ るか ら,法 的 保 護 に値 す る利 益 を 有 す る(上 述 判 旨③)」 → 「民 法709 条 は私 法 上 の 権 利 だ けで はな く法 律 上 保 護 され る利 益 も保 護 法 益 と して い る(上 述 判 旨⑤)」 と い う理 由で 景 観 利 益 を 保 護 法 益 と認 め て お り,判 旨 ② → 判 旨③ に も,判 旨③ → 判 旨⑤ に も,そ れ ぞ れ(特. に後 者 に)論 理 展 開. の 飛 躍 が あ る と前 田陽 一一は指 摘 す る。 この 論 理 の 飛 躍 につ いて,潮 見 佳 男 は,本 判 決 が 次 の よ うな 評 価 を した と み る べ き とす る⑪。 す な わ ち,本 判 決 で は,引 用 され た各 種 の公 法 上 の 規 律 の な か に 「良 好 な 景 観 が 有 す る価 値 」 と い う個 人 の 権 利 ・利 益 の 保 護. \ る 考 え 方(公. 私 協 働 論)に,そ. れ ぞ れ つ な げ て 捉 え う る(潮. 見 ・前 掲 注(1)248-. 249頁)。 (8)以. 下,前. (9)東. 京 高 判2001(平. ⑩ qD以. 田陽 一. 東 京 高 判2004(平 下,潮. 「判 批 」 法 の 支 配143号101頁(2006年)参. 照。. 成13)年6月7日. 判 時1758頁46頁. 。. 成16)年10月27日. 判 時1877号40頁. 。. 見 ・前 掲 注(1)249頁. 参照。. 430.

(7) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. と い う性 質 が 盛 り込 ま れ て い て,こ れ を 私 法 上 の利 益 と して 民 法709条 に い う 「法 律 上 保 護 され る利 益 」 に あ た る もの と評 価 され た,と み るべ き と す る。 そ して,最 高 裁 判 所 と して 民 法709条 の 「法 律 上 保 護 さ れ る利 益 」 に公 共 的 利 益 も含 まれ る もの とみ た,あ る い は公 私 峻 別 論 を 否 定 した,と い うわ けで はな い とす る⑫。 これ に対 して,吉. 田克 己 は,ま ず,本 判 決 が,景 観 の 客 観 的 価 値 を 明 確. に承 認 して い る こ と に着 目す る(③ 。 そ して,本 判 決 が 景 観 の客 観 的価 値 を 承 認 す る に際 して 示 す 各 種 の 景 観 条 例 と景 観 法 は,個 人 の 景 観 利 益 を 直 接 の 対 象 にす る もの で はな く,公 共 的 利 益 と して の 景 観 の 保 護 を 目的 とす る た め,本 判 決 の 述 べ る景 観 の 客 観 的 価 値 と は,ま ず も って 公 共 の 次 元 に属 す る価 値 だ と理 解 す べ き とす る。 ま た,上 述 判 旨③ の 判 示 を,景 観 は公 共 的 性 格 を 有 す る に もか か わ らず,あ. る い は そ うで あ るが ゆえ に,私 人 の 利. 害 に も関 わ り,そ れ を 享 受 す る利 益(人 格 的 利 益)が 私 人 に も帰 属 す る, と い う 内容 と して 理 解 す る。 その うえ で,本 判 決 が,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 承 認 す る もの と評 価 す る。 吉 村 良 一一も,景 観 利 益 が,地 域 住 民 の 生 活 と密 接 に関 係 はす るが,同 時 に,個 々の 住 民 の 利 益 に は解 消 しきれ な い公 共 的 性 格 を 有 す る利 益 で あ る こ と を指 摘 す るω。 そ して,本 判 決 の特 徴 と して,都 市 の 景 観 は客 観 的 価 値 を 有 す る と明 示 した こ と,さ. らに,そ れ らが 景 観 条 例 や 景 観 法 で 保 護 さ. れ る価 値 で あ る と して,土 地 の 付 加 価 値 と い う論 理 を と る こ と もな く,ま た景 観 利 益 の 公 共 性 に触 れ る こ とな く直 戯 に,そ. して 「い と も簡 単 に⑮」. 民 法709条 の 「法 律 上 保 護 され る利 益 」 と して 不 法 行 為 法 に よ る保 護 可 能 ⑰. そ う で な け れ ば 前 田 陽 一・の 示 す よ う に す る(潮. 見 ・前 掲 注(1)249頁. 「論 理 の 飛 躍 」 の そ し り を 免 れ な い と. 注 ㈹)。. ⑬. 以 下,吉. 田克 己. 「判 批 」 ジ ュ リ1332号83-84頁(2007年)参. ω. 以 下,吉. 村良一. 「判 批 」 法 時79巻1号143頁(2007年)参. ㈲. 大塚直. 「判 批 」NBL834号4頁(2006年)の. 照。 照。. 表 現 が 引 用 され て い る。. 431.

(8) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. 性 を認 め た こ と,を それ ぞ れ 示 す 。 ただ し,景 観 利 益 の よ うな 公 共 的 性 格 を(も)有. す る利 益 の 私 法 上 の 保 護 可 能 性 につ いて,本 判 決 の 論 理 だ けで. 十 分 か につ いて は疑 問 を 投 げか けて,次 の よ うな 検 討 を 行 う。 まず,景 観 利 益 は特 定 の 個 人 に排 他 的 に帰 属 す る もの で はな いが,形 成 され た良 好 な 景 観 は,一 一 定 地 域 の 住 民 が 自 己の 生 活 の ア メニ テ ィ に関 わ って 個 人 と して 享 受 しう る,そ の 意 味 で は私 的 な 利 益 で も あ る。 す な わ ち,そ れ は公 益 と して の 側 面 と私 益 と して の 側 面 を 併 せ 持 って お り,公 私 の オ ーバ ー ラ ップ が み られ る。 この よ うな 立 場 に立 て ば,景 観 の私 益 と して の側 面 に お い て,形 成 され 維 持 され て い る客 観 的 価 値 と して の 景 観 利 益 の 享 受 を 妨 害 さ れ た住 民 が 不 法 行 為 法 その 他 の 手 段 に よ り救 済 を 求 め る こ と は十 分 に あ り 得 る,と す る⑯。 大 塚 直 は,本 判 決 が,裁 判 例 上 従 来 公 益 と され る こ との 多 か っ た景 観 に つ い て,「 第 一 次 的 に は 民 主 的手 続 … … に よ る」 と しつ つ,そ れ 以 外 の 違 法 な 場 合 に お け る(不 法 行 為 的)救 済 の 可 能 性 を 認 め た こ と,す な わ ち, 私 益 と公 益 を 峻 別 せ ず,両 者 の重 な る領 域 を明 確 に認 め た,と 評 価 す る(1の 。 ま た,個 別 的 利 益 と は言 い難 く公 益 で も あ る 「環 境 」 上 の 利 益 を,景 観 利 ㈲. な お,景 観 が 公 共 的 側 面 を持 っ て い る こ とか ら,違 法 性 の 判 断 に お い て 当 該 景 観 に関 す る公 法 的 ル ール の有 り様 が考 慮 さ れ る必 要 が あ り,こ の 点 で,景 観 利 益 の 公 益 性 は私 益 と して の保 護 を考 え る うえ で重 要 な意 味 を 持 つ が,そ の こ とは あ くまで 公 私 の オ ーバ ー ラ ップ領 域 に お け る公 法 と私 法 の調 整 と協 働 の 問 題 で あ り,景 観 利 益 の私 法 上 の保 護 を否 定 す る こ とに は つ な が らな い と もす る (吉村 ・前 掲 注 ω143頁)。. ⑰. 大 塚 直 「国立 景 観 訴 訟 最 高 裁判 決 の意 義 と課 題 」ジ ュ リ1323号73頁(2006年)。 さ ら に,本 判 決 につ いて,不 法 行 為 に基 づ く差 止 め を認 め るか 否 か を 判 断 して お らず,場 合 に よ っ て は不 法 行 為 に基 づ く差 止 め を認 め る とい う立 場 を と った もの と判 断 した 場 合 で,原 告 の 景 観 利 益 に 「公 共 的 性 格 」が 認 め られ る と きは, 違 法 性 の 判 断 に際 し,原 告 の利 益 を強 化 す る要 素 と して考 量 され るべ き とす る (前掲 大 塚80頁 参 照)。 この 問 題 につ いて は,後 述 皿.(2)(a)(イ)i)を 参 照 。 な お, 大 塚 直 は,私 的 利 益 と公 共 的利 益 の二 重 性 な い しオ ー バ ー ラ ッ プ とい う言 葉 は 用 い て いな い。. 432.

(9) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. 益 に限 って で は あ るが,い. と も簡 単 に これ を 「法 律 上 保 護 され た 利 益 」 と. して 扱 う一般 論 を 採 用 した本 判 決 は,環 境 利 益 を 個 別 具 体 的 な 個 人 の 利 益 と して い る と指 摘 す る⑱。 さ らに,大 塚 は,環 境 利 益 に関 して,次 の よ うな 分 析 を 示 す ⑲。 公 益 で も あ る環 境 利 益 は,「 環 境 関 連 の 公 私 複 合 利 益(良 好 な 景 観 享 受,入 浜,森 林 浴 等)」 と 「純 粋 環 境 利 益(環 境 自体 に対 す る客 観 的 侵 害 に対 応 す る利 益,汚 染 に よ る一般 環 境 へ の 侵 害 に対 応 す る利 益 。 公 益)」 と に分 け られ る⑳。 この 両 者 の 区 別 は,法 益 の 客 観 性,明 確 性,主 体 の 限定 の有 無 に よ って 決 ま る⑳。 そ して,最 高 裁 判 所 は,国 立 景 観 訴 訟 で,良 好 な景 観 に つ い て客 観 性 を打 ち 出 し,さ らに,「 日常 的 に享 受 して い る近 隣 居 住 者 」 と して 主 体 を 限 定 し,良 好 な 景 観 につ いて の 利 益 が 「環 境 関 連 の 公 私 複 合 利 益 」 で あ る こ とを 認 め た もの と評 価 す る⑳。. ㈹ ⑲. 大 塚 ・前 掲 注 ⑰80頁 。 以 下 の 記 述 につ いて は,大 塚 直 「 公 害 ・環 境,医 療 分 野 に お け る権 利 利 益 侵 害 要 件 」NBL936号39-41頁(2010年)を. ⑳. 参照。. な お,環 境 保 護 の 視 点 か ら環 境 訴 訟 を展 開 して い く場 合 に は,個 別 的 利 益 性 を 拡 大 す る方 向 以 外 に,公 共 的利 益 の部 分 に つ い て 団体 訴 訟 立 法 等 を 推 進 す る 方 向 が あ り,環 境 保 護 推 進 の た め に は い ず れ の方 向 も等 し く検 討 され な けれ ば な らな い と され る(大 塚 ・前 掲 注 ⑲40頁)。. ⑳. この 区 別 は,行 政 訴 訟 に お け る原 告 適 格 に つ い て,一 般 的 利 益 に吸 収 され る も の か 否 か の 基 準 と類 似 して い る(大 塚 ・前 掲 注 ⑲41頁)。 な お,利 益 の 客 観 性,主 体 の 限定 の他 の方 法 と して,「 享 受」 「関 係 性 」 「関与 」 に基 づ い て 個 別 的 利 益 を 設 定 す る こ とが 可 能 とな る,と す る(大 塚 ・前 掲 注 ⑲40頁)。. ⑳. な お,本 判 決 の判 旨⑧ の 冒頭 が 「そ うす る と」 か ら始 ま って い る こ とか ら, 公 法 の 規 定 か ら私 法 上 の利 益 で あ る と ころ の 「 法 律 上 保 護 に 値 す る利 益 」 が 導 きだ され る よ う に論 述 され て い る とこ ろ が 問題 視 され て い る。 この 点 につ い て は,む. しろ,私 法 上 の利 益 は,社 会 に お け る利 益 の必 要 性 とそ の(あ. る程 度 明. 確 な)承 認 な どか ら,新 た に形 成 され る もの で あ り,行 政 法 規 や 条 例 の 規 定 は, 私 法 上 の 利 益 を 補 強 す る もの と して捉 え る べ き と も述 べ られ て い る(以 上 本 注 の 内 容 につ いて は大 塚 ・前 掲 注 ⑰80頁 参 照)。. 433.

(10) 近畿大学法学. (b)検. 第58巻 第2・3号. 討. (ア)論 理 の 不 十 分 さの 理 由 学 説 に お いて 指 摘 され て い る本 判 決 の 論 理 の 不 十 分 さの 原 因 と して,本 判 決 が,景 観 利 益 の 内容 につ いて は 「良 好 な 景 観 に近 接 す る地 域 内 に居 住 し,そ の 恵 沢 を 日常 的 に享 受 して い る者 」 が 有 す る 「良 好 な 景 観 の 恵 沢 を 享 受 す る利 益 」 と判 示 して い る一一 方,そ の よ うな 内容 を 持 つ 景 観 利 益 の 私 法 上 の性 質 につ い て何 ら明示 して いな い こ とを あ げ る こ とが で き よ う㈱。 この 点 につ いて,奥. 田 昌道 が 示 す よ うな 最 高 裁 判 所 に お け る判 断 の 形 成. 過 程 ⑳ を踏 まえ るな らば,最 高 裁 判 所 が この よ うな 本 判 決 にお け る論 理 の 不 十 分 性 に気 付 いて いな が らも私 法 上 の 性 質 につ いて の 明 示 を 避 け た,と い う前 提 で 検 討 を 進 め る必 要 が あ る。 とな れ ば,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 に触 れ る こ とな く,公 法 上 の 規 定 か ら,私 法 上 の 利 益 を 導 きだ す か の よ う な 記 述 を した(せ ざ るを 得 な か っ た)理 由が 問 題 とな る。 まず 考 え られ る こ と は,従 来 の 議 論 に お いて 既 に指 摘 され て い る通 り, 最 高 裁 判 所 が 法 律 審 で あ るが ゆえ に,原 審 の 事 実 認 定 に よ らな けれ ばな ら な か っ た こ とで あ る㈱。 原 審 に お い て は,地 権 者 らの 相 互 の積 極 的 な 自 己 規 制 ・努 力 に よ る経 験 の 形 成 ・維 持 と い う事 実 が 認 定 され な か っ た。 その た め,こ の 要 素 を 含 め た形 で の 景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 を 提 示 す る こ とが 困 難 で あ っ た こ とが,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 を 明 示 しえ な か っ た理 由で あ る,と い う理 解 もで き よ う。 しか し,原 審 の事 実 認 定 に拠 ら ざ るを得 な い と して も,「法 律 上 保 護 に値. ⑳. な お,学 説 に お い て は,こ れ を人 格 的利 益 と位 置 づ け る もの が 多 い(大 塚 ・ 前 掲 注 ⑰73頁,吉. 田 ・前 掲 注 ⑬84頁 な ど)。 こ の ほ か調 査 官 解 説 も人 格 的 利 益. との 認 識 を 示 す(高 橋 譲 「判 解 」 曹 時61巻3号1004頁(2009年))。 ⑳. 奥 田 昌道 『紛 争 解 決 と規 範 創 造. 最 高 裁 判 所 で 学 ん だ こ と,感 じた こ と」220. 頁(有 斐 閣,2009年)。 ⑳. 大 塚 ・前 掲 注 ⑰75頁 。. 434.

(11) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. す る利 益 」 と判 断 され る景 観 利 益 の 性 質 ・態 様 を 明 示 した うえ で,原 審 で 認 定 され た事 実 を あて は め,判 断 す る こ と も可 能 で あ った はず で あ る。 最 高 裁 判 所 に よ る法 解 釈 の 重 要 性 か らす れ ば,む. しろそ う あ るべ き とす ら い. え るの で はな いか 。 も しこの よ うな 重 要 性 を 認 識 した うえ で な お,あ え て 不 十 分 な 論 理 を 提 示 した と い う理 解 に立 て ば,最 高 裁 判 所 と して,現 在 の 議 論 の 状 況 で は,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 を 未 だ 明 確 に示 す こ とが で きな い と判 断 した,と い う こ とが で き よ う。 公 共 的 利 益 につ いて は行 政 法 規 に 依 存 した理 解 を せ ざ る を え な い と い う立 場 か ら出発 す る場 合 に は,「 公 法 私 法 峻 別 論 を 採 用 しな い」 あ る い は 「私 的 利 益 と公 共 的 利 益 が 二 重 性 を 持 つ 」 と述 べ るだ けで はな く,民 法 法 理 と は異 質 な 公 法 法 理 の 相 互 関 係 とそ の 境 界 を 理 論 的 に明 示 しな けれ ば,公 共 的 利 益 と して の 側 面 も持 つ 景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 を 示 す こ と はで きな い。 他 方,公 共 的 利 益 につ いて 民 法 法 理 が 直 接 に対 象 とす る と い う立 場 か ら出発 す るの で あれ ば,そ の 民 法 法 理 を 明 示 す る必 要 が あ る。 この よ うな 考 慮 に基 づ け ば,本 判 決 は,景 観 利 益 を 含 め た環 境 利 益 につ いて,未 だ 現 在 の 議 論 が そ の 性 質 を 示 しきれ て い な い と,最 高 裁 判 所 と して 判 断 した結 果 と理 解 す る こ と もで き よ う⑳。 (イ)学 説 の 解 釈 に よ る意 味 の 充 填 の あ り方 本 判 決 に関 して 学 説 が 指 摘 す る論 理 の 不 十 分 さが,前 述(ア)に 示 した よ う な 理 由 に基 づ くにせ よ,そ うで な い に せ よ,現 時 点 に お いて は,本 判 決 が, 景 観 利 益 にか か わ る先 例 と して の 位 置 を 占 め る。 そ の た め,景 観 利 益 にか ②③ 大 塚 直 は,本 判 決 の 違 法 性 の 判 断 が 行 政 法 規 にか な り依 存 した か た ち で示 さ れ て お り,そ れ が た ま た ま この よ うな 形 で 景 観 利 益 の 法 的 保 護 性 の判 断 に現 れ た もの と もみ る こ とが で き る と指 摘 す る(大 塚 ・前 掲 注q7)80頁)。 こ の よ うに理 解 す る場 合 に は,同 種 の事 件 へ の 影 響 も考 え た 結 果 と して 違 法 性 の判 断 基 準 を 示 す こ とを優 先 さ せ た とみ る こ と もで き るが,そ. もそ も こ の よ う な形 で景 観 利. 益 の私 法 上 の利 益 の性 質 を 示 さ ざ るを 得 な か った こ と それ 自体,本 文 に述 べ た よ うな理 解 に結 びつ くの で は な い か。 な お,大 塚 ・前 掲 注(19)39-41頁は,本 文 に 述 べ た よ うな現 在 の議 論 の足 りな い部 分 を埋 め る重 要 な考 察 で あ る。. 435.

(12) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. か わ る先 例 と して の 本 判 決 の 位 置 づ けを 明 らか にす る た め に は,解 釈 論 と して,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 につ いて,本 判 決 が 明 示 して いな い部 分 に どの よ うな 意 味 を 充 填 す べ きか,と 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性(オ. い う こ とが 問 題 とな る。 本 判 決 を 私 的. ーバ ー ラ ップ)を 認 め た判 決 と理 解 す るか. 否 か は,ま さ に本 判 決 が 明 示 して いな い部 分 に どの よ うな 意 味 を 充 填 す る の か,と. い う問 題 と して 捉 え られ る。. 公 共 的 利 益 と断 ち切 られ た私 的 利 益 と して 景 観 利 益 を 捉 え て い るの が 本 判 決 の 理 解 で あ るす る立 場 は,不 法 行 為 法 制 度 の 理 解,特. に不 法 行 為 法 の. 目的 を起 点 と して,こ の 部 分 の 意 味 を 充 填 して い る と考 え られ る。 例 え ば潮 見 佳 男 は,不 法 行 為 を,私 的 生 活 関 係 に お いて 他 人 の 権 利 を 侵 害 す る行 為 で あ って,法 秩 序 が その 権 利 を 保 護 す る た め に,行 為 者 の 権 利 に も配 慮 しつ つ 設 定 した禁 止 ・命 令 規 範 に違 反 す る と評 価 され る もの と定 義 づ け る伽。 ま た不 法 行 為 法 を,被 害 者 と加 害 者 双 方 の 権 利 の保 護 とそ の 限 界(制 約)と. い う観 点 か ら捉 え る㈱。 そ して,こ. こで い う 「権 利 」 を,. 憲 法 の も とで 国 家 に よ り個 人 へ の 帰 属 が 承 認 され,保 護 され て い る地 位 と 理 解 す る㈲。 ま た,公 共 性 ・公 益 性 に あ らわ れ る公 共 的 価 値 は,被 害 者 と 加 害者 の権 利 相 互 の衡 量 過程 の なか で考 慮 され る こ とが示 唆 されて い る⑳。 以 上 の よ うな 不 法 行 為 法 制 度 の 理 解 に基 づ け ば,景 観 利 益 が 「法 的 に保 護 に値 す る利 益 」 に あ た るか 否 か は,そ れ が 憲 法 の も とで 国 家 に よ り個 人 へ の 帰 属 が 承 認 され,保 護 され て い る地 位 に あ た るか 否 か と い う問 題 に帰 着 す る こ と にな る。 この 立 場 に立 て ば,憲 法 上,公 共 的 利 益 が 個 人 に帰 属 す る こ とを 正 当化 しな い限 り,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 認 め る こ. ⑳. 潮 見 ・前 掲 注(1)2頁. 。. ⑳. 潮 見 ・前 掲 注(1)9頁. 。. ⑳. 潮 見 ・前 掲 注(1)10頁 。. e①. 潮 見 ・前 掲 注(1)12頁 。. 436.

(13) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. と はで きな い。 この よ う に,個 人 に帰 属 す る権 利 ・利 益 の 救 済 と い う不 法 行 為 法 制 度 の 理 解 か ら出発 す る と,本 判 決 が 判 旨① にお いて,景 観 の 客 観 的 価 値 を認 め た こ と に もそれ ほ ど関心 を 払 う必 要 が な くな る⑳。 また,従 来 の 下 級 審 判 決 及 び本 件 原 審 判 決 に お いて,景 観 法 そ の 他 の 法 令 が 公 共 的 利 益 を 目的 と して お り個 人 の 私 的 利 益 の 実 現 を 対 象 と して いな い と され て き た こ とを 考 慮 せ ず に,そ れ らの 法 令 に個 人 の 権 利 ・利 益 の 保 護 と い う性 質 が 盛 り込 まれ る と い う評 価 を 直 戯 に導 いて い る こ と も,前 述 の 不 法 行 為 法 制 度 の 理 解 か ら出発 す る た めで あ る とす れ ば理 解 で き よ う。 この よ うな 憲 法 を 基 底 とす る学 説 に立 たな い と して も,不 法 行 為 法 制 度 を,個 人 に帰 属 す る権 利 ・利 益 の 侵 害 を 救 済 す る制 度 と理 解 す る こ とか ら 出発 す るの で あれ ば,同. じ帰 結 に た ど り着 くこ と にな る。 そ して この 帰 結. は,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 本 判 決 が 明 示 的 に正 当 化 して いな い 以 上,景 観 利 益 を 純 粋 な 私 的 利 益 と して 捉 え た もの とせ ざ るを え な い こ と を 意 味 す る。 これ に対 して,本 判 決 を 私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 認 めた 判 決 と 理 解 す る立 場 は,景 観 利 益 を 含 め た環 境 利 益 に関 す る従 来 の 議 論 を 起 点 と して,本 判 決 の 論 理 の 足 りな い部 分 の 意 味 を 充 填 して い る。 す な わ ち,こ の 立 場 か らは,景 観 利 益 が 公 共 的 利 益 と して の 性 質 を 備 え て い る こ とを 当 然 の前 提 と して 議 論 を 出発 させ る。 そ の た め,明 示 的 な 正 当化 が な くと も,景 観 利 益 を 「法 律 上 保 護 され る利 益 」に含 む こ とを示 す とい う こ とは, 当然 に 私 的 利 益 と公 共 的 利 益 と の二 重 性 を認 め た もの と捉 え る こ とに な る。 以 上 の よ う に,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 につ いて 本 判 決 を どの よ う に理 解 す るの か,と. el)潮. い う問 題 に対 して 提 示 され て い る二 つ の 異 な る立 場 は,異. 見 ・前 掲 注(1)248頁. で は,こ. の 部 分 の 判 旨が 引 用 され て い な い。. 437.

(14) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. な る視 点 か らの 解 釈 を 行 って い る。 それ で は,本 判 決 の 先 例 と して の 位 置 づ け を考 え る に あ た って,い ず れ の 立 場 か らの 解 釈 を 採 用 す べ きな の で あ ろ うか 。 景 観 利 益 に関 す る これ まで の 議 論 を 踏 まえ た うえ で,景 観 利 益 を 含 め た 環 境 利 益 の 議 論 の 更 な る展 開 を 本 判 決 以 降 の 判 例 ・学 説 に促 す た め に は, 景 観 利 益 は公 共 的 利 益 と され て き た こ とか ら出発 す る後 者 の 立 場 に立 って 本 判 決 の 論 理 の 不 十 分 な 部 分 を 充 填 す る こ とが 望 ま しい。 しか し,民 事 法 に お け る先 例 と して の 本 判 決 の 位 置 づ けを 論 じるの で あれ ば,前 者 の 立 場 を と らざ る を 得 な いの で は な か ろ うか 勧。 と りわ け,本 判 決 の射 程 を,不 法 行 為 に基 づ く損 害 賠 償 請 求 の場 面 に 限定 す る㈱ の で あれ ば,や は り不 法 行 為 法 制 度 の 理 解 を 起 点 と した解 釈 を 行 わ な けれ ばな る ま い。 ま た,前 述 (ア)で の 検 討 で 示 した よ う に,議 論 が 未 だ に未 成 熟 で あ る との 判 断 を 最 高 裁 判 所 が 行 っ た と い う理 解 を 受 け入 れ る場 合 に は,な お さ ら後 者 の 立 場 を と る こ と は難 し くな る。 以 上 の 検 討 か ら,本 判 決 は,景 観 利 益 の 私 法 上 の 性 質 につ いて,そ れ を 純 粋 な 私 的 利 益 と して 捉 え た うえ で,そ の 景 観 利 益 を 不 法 行 為 法 に お いて 「法 律 上 保 護 に値 す る利 益 」と位 置 づ け うる こ と を認 め た の み で あ り,環 境 利 益 な どの 公 共 的 利 益 が 私 法 上 どの よ う に位 置 づ け られ るの か,と. い う問. 題 につ いて は,最 高 裁 判 所 と して の 判 断 を 何 も示 して いな い と解 さ ざ ろ う え な い,と い うの が 本 稿 の 立 場 で あ る剛。 ㊨2)な お,こ. の結 論 は,あ. くま で の本 判 決 を どの よ うに理 解 す るの か,と い う問. 題 意 識 に よ る もので あ る。 私 的利 益 と公 共 的利 益 が二 重 性(オ. ー バ ー ラ ッ プ). の 関 係 に立 つ こ と を理 論 的 に否 定 す る趣 旨 で は な い。 な お,不 法 行 為 法 の 目的 を 損 害 の 填 補 と捉 え た場 合 の,私 的利 益 と二 重 性 の 関係 に立 つ 公 共 的 利 益 の 取 り扱 い につ いて の 検 討 は,後 述 皿.(2)で 行 う。 ⑬ ㈲. 高 橋 ・前 掲 注 ㈱1012頁 。 また 大 塚 ・前 掲 注q7)78-79頁 も参 照 。 な お,こ. の よ う に解 した か らと言 って,公 共 的利 益 を 民法 法理 が 取 り扱 うべ. きで はな い,と の 結 論 に結 びつ くわ けで はな い 。 あ くまで も,本 判 決 の 判 例 と/. 438.

(15) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. (3)小 活 一 さ らな る考 察 の 対 象 と視 角 (a)考 察 の 対 象 以 上(2)にお け る検 討 か ら,判 例 と して の 理 解 を す る に あた って は,本 判 決 の 示 した 「景 観 利 益 」 は,純 粋 な 私 的 利 益 と捉 え ざ るを 得 な い,と い う 結 論 を 導 い た。 しか し,こ の 結 論 は,あ. くまで も論 理 に不 十 分 さが 存 在 す る本 判 決 につ. いて,そ の 判 例 と して の 位 置 づ けを 明 らか にす るた めの 検 討 か ら導 いた も の で あ る。 これ まで の 議 論 を 踏 まえ,か つ 前 田陽 一 の 指 摘 す る論 理 の 不 十 分 さを 残 さず に判 決 理 由を 示 せ る よ うな 論 理 構 成 を 提 示 す る こ と は,喫 緊 の 課 題 と いえ よ う。 この 論 理 の 不 十 分 さを,今 後 の 議 論 の な か で 明 確 な 理 論 の 提 示 に よ って 埋 めて いか な けれ ばな らな い。 そ の た め に は,不 法 行 為 法 との 関 係 に お いて,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 につ いて ヨ リ踏 み 込 ん だ 考 察 が 必 要 とな る。 それ で は,具 体 的 に どの よ うな 考 察 が 必 要 とな る の で あ ろ うか 。 この 考 察 の 対 象 を 考 え る に あ た って は,私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 認 め た場 合,二 重 性 が 認 め られ た部 分 は,私 的 利 益 と して の 性 質 だ けで な く,公 共 的 利 益 と して の 性 質 も もつ,と. い う こ とが 重 要 と. な る。 私 的 利 益 を 専 ら対 象 と して き た伝 統 的 民 法 学 の 従 来 の 議 論 で は,不 法 行 為 法 が 公 共 的 利 益 その もの を 規 律 の 対 象 とす る こ と はで きな い こ とを,自 明 の こ と と して 当然 の 前 提 と して き た よ う に思 わ れ る。 私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 肯 定 す る見 解 も,私 的 利 益 と して の 側 面 が 不 法 行 為 法 にお い て どの よ う に取 り扱 わ れ るの か,と い う点 に 主 張 の 焦 点 が お か れ て い. \ して の 理 解 をす る う え で は,こ の よ うな結 論 に な らざ るを え な い,と い うだ け で あ る。IV.で. 後 述 す る通 り,公 共 的利 益 を民 法 法 理 が どの よ う に受 け止 め る. の か と い う問 題 は,そ れ と して独 立 の 問題 と して取 り扱 う こ とが で き る し,そ う あ るべ きな の だ,と. い うの が 本 稿 の 主 張 で あ る。. 439.

(16) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. る。 しか し,公 共 的 利 益 と二 重 性 の 関 係 に あ る私 的 利 益 の 存 在 を 認 め,そ れ を不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 とす る,と い う こ と は,公 共 的 利 益 と して の 側 面 も不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 に 入 り込 ん で く る こ と を意 味 す る。 しか し,こ の 公 共 的 利 益 と して の 側 面 が,不 法 行 為 法 に お いて どの よ うな 意 味 を持 つ の か,と. い う こ と につ いて は,明 示 的 な 検 討 が な され て い る よ う に. は見 え な い。 これ は前 述 した 当然 の 前 提 と され て き た こ との な か で 暗 黙 の う ち に 処 理 され た こ と に な って しま っ て い る た め な の で は な い か。 しか し,こ れ で は私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 を 片 面 的 に しか 捉 え て いな い と いわ ざ るを え な い。 この よ う に考 え れ ば,な ぜ 公 共 的 利 益 その もの を 不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 とす る こ とが セ きな いの か,と. い う問 題 の 考 察 が,不 法 行 為 法 に お け る. 私 的 利 益 と公 共 的 利 益 の 二 重 性 の 問 題 を 明 らか にす る た め に必 要 とな る と いえ よ う。 公 共 的 利 益 を 不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 とで きな い根 拠 ・理 由を 明 確 に示 した うえ で,そ れ を 私 的 利 益 の 側 面 か らの ア プ ロ ー チ と合 わ せ て 考 察 す る こ と に よ って 初 めて,不 法 行 為 制 度 に お いて,公 共 的 利 益 と二 重 性 を もつ 私 的 利 益 が,そ の 公 共 的 利 益 と して の 側 面 を 含 めて,ど の よ う に 取 り扱 わ れ るの か を 明 確 に示 す こ とが で き よ う。. (b)考 察 の 視 角 それ で は,ど の よ うな 視 角 か ら,こ の よ うな 考 察 を 行 え ば よ いの で あ ろ うか 。 こ こで 注 目 され るの は,前 述(2)(b)(イ)に お いて 行 っ た本 判 決 に対 す る 学 説 の 議 論 の 分 析 に お いて,不 法 行 為 法 制 度 その もの の 理 解,そ の 中で も 特 に 「不 法 行 為 法 の 目的」が,重 要 な分 岐 点 と して現 れ て い る こ とで あ る。 従 来 取 り扱 わ れ て こな か っ た新 たな 問 題 に,あ る制 度 を 通 じて 対 処 す る こ とが で き るの か ど うか,と. い う問 題 を 考 察 す る に あ た って は,そ も そ も. その 制 度 の 目的 が いか な る もの で あ るか が,極 440. めて 重 要 な 意 味 を 持 つ こ と.

(17) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. に異 論 はな い もの と思 わ れ る。 その 新 たな 問 題 が,そ の 制 度 の 目的 の 範 囲 に含 まれ,か つ 従 来 取 り扱 わ れ て き た問 題 の 取 り扱 い との 間 に齪 齪 を 来 さ な いの で あれ ば,そ の 新 たな 問 題 は,そ の 制 度 を 通 じて 対 処 す る こ とが 認 め られ よ う 。 ま た,ど. の よ う に 取 り扱 わ れ る の か も,そ. 断 さ れ る こ と に な る 。 も し,制 ㈲. の 目 的 に 即 して 判. 度 の 目 的 の 範 囲 に 含 ま れ な い の で あ れ ば,. な お,現 在 の 議 論 にお いて は,不 法 行 為 法 の 「目 的」 で は な く,不 法 行 為法 の 「機 能 」 が 論 じ られ る場 合 が 多 い。 た しか に,社 会 に生 起 す る 問題 へ の 対応 を 考 慮 す るに あ た って は,機 能 を 論 じる こ と が必 要 で あ る。 しか し,本 稿 で考 察 対 象 とす る問 題 を考 察 す るに あ た って は,「 目的 」を 考察 の視 角 の 中 心 に 位 置 づ け る。 不 法 行 為 法 の 機 能 を 考 察 の 視 角 と して設 定 す る場 合,具 体 的 に は,現 実 に 果 た して い る機 能 を 新 た な 課 題 に適 応 させ て 対 処 が可 能 と な る こ とを示 す こ とは 可 能 で あ るか ど うか,と. い う視 角 を設 定 す る こ と に な ろ う。 こ こ で の 「 機能」. に つ い て は,不 法 行 為 法 が 「現 実 に果 た して い る機 能 」 な の か,そ れ と も不法 行 為 法 が 「果 た す べ き 機 能」 な の か,と い う二 つ の 理解 が可 能 とな る。 前者 の理 解,す な わ ち,「現実 に 果 た して い る 機能 」 を考 察 の 視 角 とす る場合 に は,機 能 を 視 角 と して 設 定 す る こ とは,具 体 的 に,「現 在 の不 法 行為 法 制 度 の も とで 認 め られ て い る機 能 に よ って,新. た な課 題 に対 処 す る こ とが可 能 で あ る. か 」と い う視 角 の 設 定 を意 味 す る。 しか し,対 処 す る こ とが 可能 で あ る こ とは, 対 処 す る こ との 正 当 化 根 拠 と はな りえ ま い。 あ くま で も,本 稿 の 問題 関心 は, 公 共 的 利 益 を 不 法 行 為 の 規 律 の対 象 とす る こ と が正 当化 さ れ る の か否 か,と い う点 に あ る。 他 方,後 者 の 理 解,す な わ ち 「果 たす べ き機 能 」 を考 察 の視 角 とす る場 合 に は,対 処 す る こ とを 正 当 化 しう る。 しか し,不 法 行 為 法 の機 能 と して 果 た す べ き か 否 か は,不 法 行 為 法 の 主 た る 目的(の 一 つ)か. ら制 度 的 に 当該 機 能 の 発揮. を 積 極 的 に根 拠 づ け る こ とが 必 要 とな ろ う。 ま た,そ. もそ もそ の よ うな機 能 が. 目的 とな って い る場 合 に加 え て,目 的 達 成 の た あ の手 段 と して そ の よ うな機 能 が 位 置 づ け られ る場 合 も あ ろ う。 いず れ にせ よ,目 的 を直 載 に考 察 の視 角 とす る 方 が よ い。 この よ う に,新 た な 課 題 に対 して,そ れ が 不 法 行 為 法 に よ って対 処 さ れ る べ き 課 題 か を論 じ るに あ た って は,「 機 能 」で はな く 「目的」 を視 角 とす る必 要 が あ る。 た だ し,仮 に被 侵 害 利 益 の 公 共 化 が 不 法 行 為 法 の 目的 の範 囲 か ら外 れ る との 考 察 結 果 が 出 た 場 合,不 法 行 為 法 の 「果 た して い る」 機 能 が,不 法 行 為法 の 目的 と矛 盾 しな い範 囲 で 被 侵 害 利 益 の公 共 化 と ど の よ うに 関 わ る の か,と い う問 題 が 別 個 に論 じ る必 要 が 出て くる。 こ の点 につ い て は,必 要 に応 じて考 察 の 対 象 とす る。. 441.

(18) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. 少 な くと も その 制 度 で は対 処 す る こ とが で きな い こ と とな り,別 の 制 度 に 振 り向 け るか,あ る い は新 た な制 度 を構 築 す る必 要 が あ る こ とに な ろ う㈹。 以 上 の 理 由か ら,以 下 皿.に お いて は,(1)に お いて 現 在 の 議 論 に お いて 主 張 され て い る不 法 行 為 法 の 目的 を 概 観 したの ち,(2)に お いて,そ の 不 法 行 為 法 の 目的 を 視 角 と して,公 共 的 利 益 を 不 法 行 為 法 制 度 が 受 け止 め られ るの か,受. け止 め られ る とす れ ば どの よ う に受 け止 め るの か,と. い う問 題. に検 討 を 加 え,そ の 検 討 を 基 礎 に お いて,公 共 的 利 益 と二 重 性 の 関 係 に あ る私 的 利 益 が 不 法 行 為 法 制 度 の な か で どの よ う に取 り扱 わ れ るの か につ い て,考 察 を 加 え る。 な お,以 上 の よ う な考 察 を 行 うに あ た っ て は,「 公 益 」 な い し 「公 共 的 利 益 」 を そ も そ も どの よ う に捉 え るの か,と. い う点 を 明 らか にす る必 要 が. あ る。 この 問 題 につ いて は,公 益 を その 規 律 の 目的 とす る行 政 法 領 域 に お け る議 論 が 先 行 して い る鮒。 そ こで は,「 公 益 」 は,私 益 の 集 合 と して 私 益 間 の 関 係 に分 析 す る こ との で き る公 益(私 益 の 集 合 と して の 公 益)と,そ の よ う に私 益 間 の 関 係 に分 析 す る こ とが で きな い公 益(純 然 た る公 益)に 分 け て考 え る こ とが で き る,と さ れ る⑳。 以 下 の 考 察 に お い て も,こ の よ うな 公 益 の 捉 え 方 を 基 礎 に お いて 考 察 を 進 め る鮒。. ㈹. 以 下 の 記 述 は,宮 澤 俊 昭 「国家 に よ る権 利 実 現 の基 礎 理 論 」87-93頁(勤 房,2008年)に. ⑳. 山本 隆 司 「行 政 上 の主 観 法 と法 関 係」246-330頁(有. 斐 閣,2000年),阿. 隆 「基 本 科 目 と して の行 政 法 ・行 政 救 済 法 の意 義(一)」 (2001年),亘. 草書. お け る検 討 を ま とめ た もの で あ る。 部泰. 自研77巻3号3-25頁. 理 格 「行 政 訴 訟 の理 念 と 目的」 ジ ュ リ1234号11-14頁(2002年),. 同 「公 私 機 能 分 担 の 変 容 と行 政 法 理 論 」 公 法65号189-192頁(2003年)を. 参照。. な お,そ れ ぞれ の見 解 を本 文 の よ うに共 通 して 捉 え る こ とが で き る こ と につ い て,宮 澤 ・前 掲 注 ㈹90-93頁 を 参 照 。 劔. な お,大 塚 ・前 掲 注qg)46-47頁 にお い て,環 境 利 益 を 「環 境 関 連 の 公 私 複 合 利 益 」 と 「純 粋 環 境 利 益 」 に分 け られ て い る の は,以 上 の 行政 法 学 に お け る議 論 と も整 合 的 で あ る と いえ よ う。. 442.

(19) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. 皿.被 侵 害 利 益 の 公 共 化 と不 法 行 為 法. (1)考 察 の 視 角 と して の 不 法 行 為 法 の 目的 (a)不 法 行 為 法 の 目的 につ いて の 議 論 の 現 状 Oり 損 害 の 填 補 に よ る個 別 被 害 者 の 救 済 現 在 の 不 法 行 為 法 の 目的 に関 す る議 論 の な か で,「損 害 の填 補 」に よ る個 別 被 害 者 の救 済 を 主 た る 目的 とす るの が 通 説 と い え る㈹。 この立 場 の 根 拠 と して は,ロ ー マ法,ゲ ル マ ン法 に お いて は未 分 化 で あ った 刑 事 責 任 ・民 事 責 任 が,近 代 法 の 理 念 と して 分 化 され た,と い う歴 史 的 な 視 点 が 示 され て い る㈹。 具 体 的 に は,犯 罪 の 抑 止 や 加 害 者 に 対 す る 制 裁 は 刑 事 責 任 に よ って 担 わ れ,そ れ とは 民 事 責 任 は 分 離 ・峻 別 され,損 害 の填 補 に よ って, 過 去 の 害 悪 の 結 果 を 回 復 し,加 害 者 ・被 害 者 間 の 負 担 の 公 平 を 図 る もの と して 捉 え られ るω。 最 高 裁 判 所 も,傍 論 で は あ るが,不 法 行 為 法 の 損 害 賠 償 制 度 は,「被 害 者 が被 った不 利 益 を補 て ん して,不 法 行 為 が な か った と き の 状 態 に 回復 させ る こ と を 目的 とす る もの で あ り,加 害 者 に 対 す る制 裁 や,将 来 に お け る 同様 の 行 為 の 抑 止,す な わ ち一一 般 予 防 を 目的 とす る もの. 働. 最 近 発 刊 され た教 科 書 ・体 系 書 の うち,損 害 の填 補 が主 た る 目的 で あ る とす る もの と して,近 江 幸 治 『民 法 講 義IV事 頁(成 文 堂,2005年),内. 務 管 理 ・不 当 利 得 ・不 法 行 為 」89-91. 田 貴 『民 法H債. 権各論. 会,2007年),窪. 田 充 見 『不 法 行 為 法 」18-22頁(有. 『民 法 総 合6不. 法行為法 〔 第2版 〕」8頁(信. 各 論II不 法 行 為 法 〔 第2版 〕」3-4頁(2010年),吉 版 〕」16-19頁(有. 斐 閣,2010年)が. 〔 第2版 〕」(東 京 大 学 出 版 斐 閣,2007年),平. 山社,2009年),前. 野裕 之. 田 陽一 『債 権. 村 良 一 『不 法 行 為 法 〔 第4. あ る。 ま た機 能 に着 目 した 記述 で あ るが,. 損 害 填 補 機 能 が 主 た る機 能 で あ る とす る もの と して,加 藤雅 信 『新 民 法 大 系V 事 務 管 理 ・不 当利 得 ・不 法 行 為 」378-381頁(有. 斐 閣,2005年),円. 行 為 法 ・事 務 管 理 ・不 当 利 得 〔 第2版 〕」(成 文 堂,2010年)が ω. 加 藤 一・ 郎 「不 法 行 為 〔 増 補 版 〕」1-3頁(有. ω. 加 藤 ・前 掲 注 ㈲3頁 。 443. 斐 閣,1974年)。. 谷 峻 「不 法. あ る。.

(20) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. で は な い。 も っ と も,加 害 者 に対 して 損 害 賠 償 義 務 を課 す る こ と に よ っ て,結 果 的 に加 害 者 に対 す る制 裁 な い し一般 予 防 の 効 果 を 生 ず る こ とが あ る と して も,そ れ は被 害 者 が 被 っ た不 利 益 を 回 復 す る た め に加 害 者 に対 し 損 害 賠 償 義 務 を 負 わ せ た こ との 反 射 的,副 次 的 な 効 果 にす ぎ」 な い,と す る幽。 な お,こ の 立 場 に立 っ た場 合,公 共 的 利 益 を 不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 と しう るか と い う問 題 は,公 共 的 利 益 に損 害 が 発 生 した と き に不 法 行 為 法 に 基 づ いて その 損 害 を 填 補 す る こ とが で き るか,と. い うか た ちで 現 れ る。. (イ)権 利(基 本 権)保 障 以 上 の よ うな 通 説 的 見 解 に対 して,不 法 行 為 法 の 目的 を,憲 法 に基 礎 を お い た権 利(基 本 権)保 障 とす る見 解 が 有 力 に主 張 され て い る。 これ らの 立 場 は,「憲 法 基 底 的重 層 論 」と呼 ば れ る民 法 の理 解 を基 礎 に お い て い る⑬。 潮 見 佳 男 に よれ ば,不 法 行 為 と は,私 的 生 活 関 係 に お いて 他 人 の 権 利 を 侵 害 す る行 為 で あ って,法 秩 序 が その 権 利 を 保 護 す る た め に,行 為 者 の 権 利 に も配 慮 しつ つ 設 定 した禁 止 ・命 令 規 範 に違 反 す る と評 価 され る もの と され る幽。 こ こで い う権 利 と は,憲 法 の も とで 国 家 に よ る個 人 へ の 帰 属 が 幽. 最 判1997(平. 成9)年7月11日. 体 系 書 の 多 くが,こ. 民 集51巻6号2573頁. 。 な お,最 近 の 教 科 書 ・. の(傍 論 で は あ る が)判 例 の立 場 と通説 が 同 じ立 場 を 取 っ. て い る と して い る。 しか し,後 述 ③ に示 す通 り,最 近 の 教 科 書 ・体 系 書 の ほ と ん ど は,損 害 の 填 補 に よ る被 害 者 救 済 を主 た る 目的 と しな が ら も,抑 止 ・制 裁 の 両 方 な い しいず れ か 一 方 を,何. らか の意 味 に お い て 目的 の 一 つ と位 置 づ け る. か,少 な くと も一 定 の 場 合 にそ れ らの 要 素 を 考 慮 す る こ とを 肯 定 して い る。 ⑬. 憲 法 基 底 的 重 層 論 とは,憲 法 と民 法 の 関係 に つ い て,憲 法 を 基 礎 にお きつ つ, 互 い に共 同 しな が ら,国 家 ・社 会 の基 本 法 を重 層 的 に構 成 して い る と見 る立 場 で あ る(山 本 敬 三 「憲 法 ・民 法 関 係 論 の 展 開 とそ の 意 義(1)民 法 セ ミ646号19-20頁(2008年),山. 法 学 の 視 点 か ら」. 本 自身 の 見 解 と して 述 べ られ て い る)。 潮 見 ・. 前 掲 注(1)10頁 も,自 らの 立 場 を この 憲 法 基 底 的 重 層 論 と位 置 づ けて い る。 ω. 以 下,潮 見 佳 男 の 見 解 につ いて は,潮 見 ・前 掲 注(1)2頁,同10-11頁 お,筆 者(宮 澤)は,憲. 参照。な. 法 を根 拠 とす る構 成 と して は,後 述 の 山 本 敬 三 の 見 解. と同 じ評 価(宮 澤 ・前 掲 注e③29-49頁)を. 444. な し得 る と考 え て い る。.

(21) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. 承 認 され,保 護 され て い る地 位 で あ る。 この よ うな 個 人 の 権 利 は,憲 法 の 定 め る基 本 権 と して 位 置 づ け られ る もの で あ り,そ の 権 利 性 は,憲 法 に よ り正 当化 され る。 この 個 人 の 権 利 が 他 者 に よ り侵 害 され,ま た は侵 害 され る危 険 に さ らされ て い る場 合 に は,そ の 権 利 が 自 由権 ・平 等 権 ・社 会 権 の いず れ に属 す る もの で あれ,そ の 権 利 性 が 憲 法 に よ り個 人 に保 障 され て い る以 上,そ の 個 人(被 害 者)は,国. 家 に対 し保 護 を 求 め る こ とが で き る。. 他 方 で,国 家 は,個 人(被 害 者)の 保 護 を 考 え る に あた って は,こ の 者 の 権 利 を 保 護 す る こ と に よ って 制 約 を 受 け る こ と に よ る他 者(加 害 者 ほか) の 権 利 に も配 慮 しな けれ ば な らな い㈲。 この よ うに,不 法 行 為 法 は,個 人 間 の 権 利 が 衝 突 す る私 的 生 活 関 係 の 局 面 に お いて,一 権 利 者 の 権 利 が 侵 害 され,ま. た は侵 害 され る お それ が あ る と き に,国 家 が 個 人 の 権 利 の 保 護 と. 権 利 の 制 約 を 実 現 す る こ とを 目的 と して 設 け た制 度 の 一 つ と して 捉 え られ る。 そ して,自. 由主 義 的 な 国 家 間 と社 会 国 家 ・福 祉 国 家 的 な 国 家 間 を 権 利. 論 の 平 面 で どの よ う に調 整 して い くか と い う視 点 を 入 れ つ つ,憲 法 の も と で 承 認 され た各 種 の 権 利 の 内実 の 確 定 と,同 質 また は異 質 の 権 利 相 互 間 で の 衝 突 の 調 整 を 一 不 法 行 為 が 問 題 とな る様 々な 局 面 で の 具 体 的 な 解 釈 論 の 提 示 を も試 み な が ら一 実 践 して い く必 要 が あ る,と され る。 山本 敬 三 は,不 法 行 為 法 を,国 家 が 基 本 権 保 護 義 務 を 果 た す た め に用 意 した保 護 制 度 の 一 つ と して 位 置 づ け る㈹。 国 家 の 基 本 権 保 護 義 務 と は,国 家 は,個 人 の 基 本 権 を 他 人 に よ る侵 害 か ら保 護 す るた め に積 極 的 な 措 置 を. ㈹ ㈹. 平 等 原 則 か らの 当 然 の 帰 結 と され る(潮 見 ・前 掲 注(1)10頁)参 照 。 以 下,不 法 行 為 法 に 関す る 山本 敬 三 の見 解 に つ い て は,山 本 敬 三 「基 本 権 の 保 護 と不 法 行 為 法 の 役 割 」民 法 研 究5号87-95頁(2008年)を. 参 照 。 山本 敬 三 の. 基 本 権 保 護 義 務 を基 礎 と した民 法 の理 解 に つ い て は,前 掲 山 本88頁 注⑳ に 記 載 され て い る文 献 参 照 。 な お,基 本 権 保 護 義 務 を 基礎 と して民 法 の 理 解 につ い て の 筆 者(宮 澤)の 整 理 と評 価 につ い て は,宮 澤 ・前 掲 注 ㈹29-49頁 を 参 照 。. 445.

(22) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. と らな け れ ば な らな い と い う義 務 を意 味 す る㈲。 この 基 本 権 保 護 義 務 の も とで,一 一 方 当事 者(X)の い る場 合,国 家 は,Xの. 基 本 権 が 他 方 当事 者(Y)に. よ って 侵 害 され て. 基 本 権 をYに よ る侵 害 か ら保 護 す る義 務 を 負 うが,. Yの 基 本 権 を 侵 害 しな い よ う に も しな け れ ば な ら な い。 す な わ ち,国 家 は,Xに. 対 して 少 な くと も憲 法 上 要 請 され る最 低 限 の 保 護 を 与 え な けれ ば. な らな い(過 少 保 護 の 禁 止)が,Yの. 基 本 権 に対 して 過 度 に介 入 す る こ と. に な って は な らな い(過 剰 介 入 の禁 止)。 こ の構 造 を 基 礎 に お い て,民 法 709条 の要 件 を理 解 す る こ とは可 能 で あ る,と. され る姻。. な お これ らの 立 場 に立 っ た場 合 に は,公 共 的 利 益 を 不 法 行 為 法 の 規 律 の 対 象 と しう るか と い う問 題 は,公 共 的 利 益 が 基 本 権 の 保 護 範 囲 に含 まれ る と き,不 法 行 為 法 に基 づ い た基 本 権 の 保 障 を 通 じて 公 共 的 利 益 が 実 現 され う るか,と. い うか た ちで 現 れ る。. (ウ)抑 止 ・制 裁 前 述Oりに示 した通 り,現 在 の 最 高 裁 判 所 の 立 場 は,損 害 の 填 補 に よ る被 害 者 救 済 が 不 法 行 為 の 目的 で あ り,抑 止 ・制 裁 は,反 射 的 ・副 次 的 な 効 果 にす ぎな い と して い る。 か つ て の 通 説 は,こ れ と同 じ立 場 を取 って い た働。 しか し,損 害 の填 補 を不 法 行 為 法 の主 た る 目的 と位 置 づ け る最 近 の教 科 書 ・体 系 書 に お いて は,抑 止 ・制 裁 の いず れ か,な ㈲. い し両 方 と も,何. らか. この 基 本 権 保 護 義 務 の 根 拠 は,基 本 権 を,憲 法 学 の 伝 統 的 な 理 解 にそ って 「国 家 か らの 自 由」 と捉 え る と,究 極 的 に は 国家 不 要論 に行 き着 く との 立 場 か ら, 国 家 に 存 在 意 義 を 認 め るの で あ れ ば,憲 法 で 基 本 権 の 保 障 を 国 家 に命 ず る以 上,個 人 の 基 本 権 を他 人 に よ る侵 害 か ら保 護 す る こ とは,国 家 の 最 低 限 の 任 務 に属 す る と い うべ き,と い う もの で あ る(山 本 ・前 掲 注 ㈹90頁)。 な お,こ の よ うな 基 本 権 保 護 義 務 の根 拠 づ け につ い て の筆 者(宮. 澤)の 評 価 に つ い て は,宮. 澤 ・前 掲 注 ㈹38-43頁 参 照 。 ㈹. 山本 ・前 掲 注 ㈹127-140頁 で は,さ ら に,従 来 の 支 配 権 的 権 利 観 か ら,決 定 権 的 権 利 観 へ の転 換 を 図 る こ と が主 張 さ れ て い る。 この権 利観 に つ い て は,後 述 (2)(b)(イ)i)① にお け る考 察 を 参 照 。. qg例. え ば,我 妻 ・前 掲 注 働95頁,加. 藤 ・前 掲 注 ω1-4頁 446. な ど。.

(23) 「被 侵 害 利 益 の 公 共 化 」 の す べ て を 不 法 行 為 法 が 受 け止 め るべ きか. の 意 味 で の 目的 と して 掲 げ る もの が ほ とん どで あ る6① 。 さ らに,抑 止 につ いて は,損 害 の 填 補 に代 わ る主 た る 目的 と して 位 置 づ け るべ き とす る見 解 が 示 され て い る61)。 森 田 果 と小 塚 荘 一 郎 は,そ. もそ も. 損 害 填 補 か ら出発 したの で は,不 法 行 為 法 の 合 理 的 な 制 度 設 計 は難 しいの で はな いか と い う根 本 的 な 疑 問 を 提 起 し,「最 適 な 抑止 鞠 を 主 た る制 度 目 的 とす べ き とす る。 この よ うな 最 適 な 抑 止 を 実 現 す るた めの 基 本 的 な 考 え 方 は,次 の よ うな もの と され る。 あ る行 為 に よ って 発 生 す る不 利 益(損 害 が 確 率 的 に発 生 す る場 合 に は期 待 値 と して の 不 利 益)と,そ. う した 行 為 を. 抑 制 す る た め に必 要 な 負 担(機 会 費 用 を 含 む 広 い 意 味 で の 費 用)と の和 が, 社 会 全 体 と して み た と きの コ ス トで あ る。 その コ ス トを,そ の 行 為 が 社 会 全 体 に対 して も た らす 利 益 と比 較 す る。 この 社 会 的 な 利 益 と社 会 的 な コ ス トとの 差 を 最 大 にす る よ うな 行 為 が,「社 会 的 に望 ま しい レベ ル の行 為 」で あ る㈹。 こ の よ うに 「最 適 な 抑 止 」 を不 法 行 為 法 の 目的 とす る根 拠 と して ⑳. 制 裁 を第 二 の 目的 と位 置 づ け る もの と して近 江 ・前掲 注eg91頁,抑. 止を損害. の 填 補 と並 ぶ 主 た る 目的 の 一 つ とす る も の と して 内 田 ・前 掲 注eg303-304頁, 抑 止 と制 裁 の双 方 を二 次 的 な 目的 な い し機 能 とす る もの と して 窪 田 ・前 掲 注 ㈱ 22頁,平 野 ・前 掲 注 働8頁,吉 あ る。 また,窪. 村 ・前 掲 注eg19頁,加. 藤 ・前 掲 注eg381頁 な どが. 田充 見 「不 法 行 為 法 と制 裁 」 石 田古 稀 「 民 法 学 の 課 題 と展 望 」. 667頁(成 文 堂,2000年)が. この 問 題 につ いて の 基 本 文 献 と位 置 づ け られ て い る。. な お,権 利(基 本 権)保 障 を 目 的 とす る立 場 に お い て は,抑 止 は,損 害 の 填 補 と並 ん で,そ. の 目的 を達 成 す る た め の 「手 段 」 と位 置 づ け られ る こ と に な る. (潮見 ・前 掲 注(1)49頁注 ㈲ 参 照)。 ⑳. 以 下,森. 田果=小 塚 荘 一 郎 「不 法 行 為 法 の 目的. 目的 か 」NBL874号10頁(2008年)参 働. 『 損 害填 補 」 は 主 要 な 制 度. 照。. こ こで い う 「最 適 な抑 止 」 と は,加 害 行 為 を単 純 に減 少 させ る こ とを 目指 す もの で はな い,と され る。 加 害 行 為 も何 らか の 利益 を もた ら して い る場 合,そ れ らの 行 為 を抑 制 す る こ と は機 会 費 用 とい う不 利 益 を発 生 させ る。 そ の た め, この よ うな 不 利 益 と,被 害 者 に発 生 す る損 害 とい う不 利 益 とを 総 合 的 に考 慮 し た 上 で,「社 会 的 に望 ま しい レベ ル の行 為 」を 惹 起 させ る こ とを 目指 す よ うな イ ンセ ンテ ィ ヴを 設 定 し よ う とす る こ とが,「 最 適 な 抑 止 」の 意 味 と され る(以 上 につ い て,森. 働. 田=小 塚 ・前 掲 注 ⑳13頁)。. 社 会 的 な 利 益 は一 定 で あ る と仮 定 す るな らば,社 会 的 な コ ス トが 最 小 にな る/ 447.

(24) 近畿大学法学. 第58巻 第2・3号. は,① 比 較 法 的 に も近 年 は 損 害 の 填 補 が 強 調 され な くな っ て き て い る こ と,② 理 論 的 に も損 害 の 填 補 に よ って は不 法 行 為 制 度 を 合 理 的 に説 明 で き ず 融,む し ろ 抑 止 効 果 ㈲ か ら の 方 が 合 理 的 に 説 明 で き る こ と6⑤,③ 日 本 で も. \場 合 が 「最 適 な 抑 止 」 で あ る と い って もよ い,と. され る。 ま た,最 適 な 抑 止 の. 視 点 は,必 ず し も 「加 害者 」 につ いて の み 妥 当す る ので はな く,「被 害 者 」 につ いて も妥 当 す る こ と にな る(以 上 につ き森 田=小 塚 ・前 掲 注6D13頁)。 励. 具 体 的 に は,① そ も そ も現 行 不 法 行 為 法 は,被 害 者 の 損害 の填 補 とい う理 由 に よ って は説 明 不 可 能 な構 造 を多 く採 用 して い る こ と,お よ び,② 損 害 填 補 を 目的 と設 定 す る ので あれ ば,不 法 行 為 法 を用 意 す る必 要 は な く,他 の 制 度(私 的 保 険 や 社 会 保 障 法)に よ った方 が,よ り望 ま しい損 害 填 補 を 実 現 で き る こ と, が そ れ ぞ れ 示 され る(森 田=小 塚 ・前 掲 注 ⑳14頁)。 この う ち② の 視 点 に関 して は,「 仮 に被 害 者 の 損 害 填 補 を 目的 と して ゼ ロか ら制 度 設 計 を 使 用 とす る の で あれ ば,不 法 行 為 法 は そ もそ も不 要 で あ る。 私 的保 険 メカ ニ ズ ム や 社 会 保 障 法 が 存 在 して いれ ば足 りる」 と述 べ られ,さ. らに 「…,私 的保 険 メカ ニ ズ ム も社. 会 保 障 法 も,被 害 者 の損 害 填 補 と い う 目的 を実 現 す る た め の ツ ー ル と して は, 不 法 行 為 法 よ りも遥 か に優 れ て い る」 と も述 べ られ る(森 田=小 塚 ・前 掲 注 ⑳ 14頁)。 岡. な お,こ. こで い う抑 止 効 果 は,単 に加 害 者 に よ る加害 行為 を 防 止 す る と い う. だ けで な く,被 害 者 を含 め たす べ て の行 為 者 に 対 して望 ま しい 行 為 を 惹 起 せ し め るた あの 適 切 な イ ンセ ンテ ィヴ を設 定 す る こ とを意 味 す る もの と され る(森 田=小 塚 ・前 掲 注61)10頁)。 6③ 具 体 的 に は,① 不 法 行 為 法 は,加 害 者 に対 して,被 害 者 に 発生 した コス トの 内 部 化 を要 求 して い る の で,こ れ に よ って加 害 者 が 不法 行 為 を 惹 起 しな い よ う に行 動 を修 正 す る イ ンセ ンテ ィヴ を設 定 す る こ とを 目的 と して い る と説 明 す る 方 が 合 理 的 で あ る こ と,② す べ て の不 法 行 為 を訴 追 す るイ ンセ ンテ ィ ヴを もた な い 検 察 官(=国. 家)が 担 当す る刑 法 だ け に頼 った の で は十 分 な 抑 止 が 達 成 で. きな い こ と,③ 抑 止 の観 点 か ら も現 行 不 法 行 為 法 の個 別 の規 定 が 説 明 で き る こ と,が 示 され て い る(森 田=小 塚 ・前 掲 注61)16-18頁)。 この うち① の 視 点 に関 して は,次 の よ う に述 べ られ て い る。 「この こ と(本 注 前 記 ① … 筆 者 注)は, 『不 法 行 為 法 しか 存 在 しな い社 会 」 と 『私 的 保 険 メ カニ ズ ム また は社 会 保 障 法 し か 存 在 しな い社 会 」とを 想 定 して み れ ば よ りよ く実 感 で き よ う。 『私 的 保 険 メカ ニ ズ ム また は社 会 保 障 法 しか存 在 しな い社 会 』 で は,各 人 の 行 動 が もた らす コ ス トは,自 らが 負 担 す る の で は な くて社 会 全 体 で平 等 に 負 担 す る こ と にな るか ら,モ ラル ハ ザ ー ドが 発 生 す る。 各 人 は,充 分 な 注意 を 払 わ ず,行 動 水 準 を 制 約 す る こ と もな い。 そ の 結 果,『不 法 行 為 法 しか存 在 しな い社 会 」 に比 べ て 遥 か/ 448.

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