H. C. サイモンズの包括的所得税案の再構築
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(2) 税率構造の下でのより大きい所得再分効果を期待できると同時に, 資源配分 への中立性といういま一つ重要な租税の要件をより良く満たすことになる。 しかも, より包括的であるごとは, 所与の税収を確保するのに, より低い平 均, 限界税率で可能となり, 所得税のもつ労働意欲, 事業意欲への阻害効果 を小さくする(これも中立性の要件)他, 貯蓄性向の高い高所得階層への税 負担軽減は経済の貯蓄, 資本蓄積への促進効果を持つのである(注l)o 次に包括的課税標準を採るにしても, 納税単位を個人とするのか家族とす るのかという選択の仕方によって, 税負担の公平性のみでなく, 人々の労働 意欲をはじめとする種々な意思決定に異なった効果を持つ。 さらに所得の種 類によって比較的安定的なものか変動的なものかという性格の差があり, 累 進税率の下では納税者の所得構成の差による税負担の差が生ずるとともに所 得種類間での負担率の差が資源配分への歪曲効果を持つ。 それゆえ本稿ではヘイグとサイモンズ等を出発点とする, 包括的課税所得 の採用による税制改革の立場から(注2), 課税所得の規範概念とそれに含まれ る諸項目のうち特に問題の多い所得項目の実際における取扱い方, 納税単位 の選択の在り方, 不規則, 変動所得の平均化が税率構造との関係において如 何にあるべきかを, 主に税負担の公平性, 税務行政上の実行可能性, 資源配 分への中立性, 所得と富の再分配効果に焦点を当てて検討し, 所得税改革の 方向を示してみる。. . 1. 包括的課税所得の検討 ヘイグ・ サイモンズの税負担能力の指標は個人の効用とか経済的厚生とか (注 1). 最近公表されたレ ー ガン大統領のアメリカ税制改革案はまさに, このようなこ とを意図して所得税の課税標準包括化を主張した。 The President's Tax Proposals to the Congress for Fairness, Growth and Simplicity, May 1985, p. 1 を参照。 (注 2) この立場での税制改革擁護論は,J. G. Head, "The Comprehensive Tax Base Revisited", Finanzarchiv, Neue Falge, Band 40 Heft. 2 1982. pp. 193-210 に なされている。本稿ではこの問題の検討を目的としない。 -2. (232)-.
(3) いったものでなく, 所与の期間内での個人の欲望充足力の増加分であり, そ れは貨幣自体か貨幣タ ー ムで評価できるあらゆる物からなる欲望充足力の増 加分である(注 3)o サイモンズはこの所得概念を次の如く表現している(注 4)o 「①納税単位が全く消費しなければ期末,期首の間において増加したであろ う財産権の価値増加額あるいは ②財産価値の変化なくして消費に行使でき たであろう権利の価値。」 また別のペ ー ジでは, 「①消費の中に行使された権利の市場価値と ②問 題となっている期間の期首と期末の問における財産全体の価値変化分. の代 数学的合計」であり, これは一 定期間の消費と期末の資産に合計し, そこか ら期首の資産を控除することによって得られるとする。 この所得概念は社会の稀少資源に対する個人の支配力の増加分であり, そ の使途つまり, その支配力の行使を延期するか否かにかかわらず, その増加 分のすべてが税負担能力の適正な尺度となるのである(注 S)o しかも「カ ー タ ー 報告」によれば, この支配力の増加分は労働,事業経営, 財産所有, 財産の売却あるいは他の個人からの相続, 贈与によるのかという 源泉に関係なく, かつそれが現金によるか現物によるか, それが期待された ものか期待されなかったものかに関係なく, かつ一度限りのものか経常的に 続くものかあるいはそれは自からの努力によるものか「棚からボタ餅」式の ものかという性質による差異に関係なく全く同一 に取扱かわれる(注6) 0 (注 3) R. Haig, "The Concept of Income-Economical and Legal Aspects" R.. Musgrave and C. S. Shoup (ed) Readings of Economics of Taxation, A.E.A. , (注 4) (注 5). p. 59を参照のこと。 H. C. Simons, Personal Income Taxation, The Difinition of Income as a Problem of Fiscal Policy, 1938. p. 49およびp. 50. 稀少資源に対する支配力の行使が延期されたからといって税負担能力は小さく なるわけでないという根拠より消費税より所得税の優位が示される。R. Goode, "The Economic Difinition of Income," J. Pechman(ed.) Comprehensive liた come Taxation, Studies of Government Finance, 1977, p. 10 を参照のこと。. -3. (233)-.
(4) このような所得定義によれば, 賃金, 俸給. 地代, 利子. 帰属所得. 資本 利得, 富くじやギャンブルによる利得はもとより, 特徴的であるのは相続, 贈与によって受け取った財産も課税所得項目の中に含まれるのである。 ただサイモンズに おいては.. 所得税は 個人の 収入を基礎にした人税であ. り, 個人間での公平性は保持されなければならないとしながら, 収入の種類 間での公平性の保持は必ずしも相続. 贈与による受け取りについて必要とし ないことを述べ. 累進所得税下の受け取り時期の調整による税負担の軽減化 には厳しい態度を示している(注 7)o 以下ではこれらの所得項目の中で特に重要な問願を含んでいると思われる 帰属所得, 中でも居住者所有住宅の帰属家賃, 資本利得(および資本損失), 相続. 贈与による受取り財産の課税の在り方について. サイモンズを出発点 とする 「カ ー タ ー 報告」やオプライエン委員会の報告(以下「アイルランド の報告」とよぶ) における勧告と対比しながら考察しておく。. 1). 資本利得課税. 資本利得課税の根拠. ヘイグ・サイモンズの包括的所得概念においては,. 稀少資源に対する支配力の増加分を構成する資本利得は当然課税所得の中に 含められることを要求される。 しかしこの資本利得または資本損失を課税所 得に含めることに対して必ずしも反対論がなかったわけでない。 その1つは 所得の2重課税論である。 つまり, 現在の資本利得の発生源 が, 背後にある資本から期待される将来収益のフロ ー の増加にある時, その フロ ー が将来において所得税の課税標準に算入される上に, その収益のフロ ーを反映した形の 現在の資本 利得も 発生時または 実現時に課税されるなら ば, いわば同 一所得の2重課税になるという考え方である。 しかし, 将来において発生する所得はその時点で財貨・ サ ー ビスヘの支配 (注6) The Report of the Royal Commission on Taxation, 1966. Vol. 1. pp. 9-10. (注7) H. C. Simons., op. cit., p. 128を参照のこと。. -4. (234)-.
(5) カの増分を構成すると同時に, この所得のフロ ー を反映する有価証券の資本 利得自体が別個の支配力の増分を構成する。 そこで. この両者をそれぞれの 発生時又は実現時に課税所得の中に算入することは不合理でないと考えられ ている(注 8)0 第2の論点は 「ミ. ー. ド 報告」によるものである。 包括的課税標準案よりも. 恒常所得に対する課税の方が公平であり, しかし後者は事前概念であるため 実行困難である。 そこで人々の消費は恒常所得を基礎に行うと考えれば包括 的課税標準による所得税よりも消費支出税がより公平を実現すると主張した 同報告の論拠となったものがそれである。 いま, 市場利子率が上昇して有価証券の市場価格が低下したと考える。 そ の有価証券に支払われる確定利子所得を有価証券の市場価格の低下による資 本損失が相殺される時, 包括的所得概念の下では課税所得はゼロ となる。 こ の場合, 有価証券所有者はなおも確定利子所得を受け取り続けながら税負担 がゼロであるのは不合理であるというのが同報告の批判点である(注 9)o しかし有価証券の市場価格低下の原因如何にかかわらず, 個人の財貨・ サ ー ビスに対する支配力は市場価格低下以前に比べれば減少している。 また市 場利子率上昇以前にある金額を投資した個人とそれ以後に同一金額を投資し た個人と比較すれば明らかに前者は財貨・ サ ー ビスヘの支配力において相涙 的に小さくなる。 それゆえ, この資本損失分を税負担能力の指標として課税 所得の中へ算入することに不合理は存しないと言えよう(注10) 。 つまり包括的 課税標準案では, それぞれの期間において納税単位の財貨・ サ ー ビスヘの支 配力の増加またば減少要因となるか否かのみが問題なのである。 実現基準の問題点 このようにして資本利得または資本損失は包括的課税 標準の中に算入されるべきとしても, それは課税の公平という観点から発生 (注 8) R. Goode, op. cit., p. 11. (注 9) The Institute for Fiscal Studies, The Structure and Reform of Direct Ta. xation, 1978, pp, 31-32. N. カルドアの資本利得課税批判に対するR. グードの反批判を参照のこと。 市場利子等の低下の場合にも同様の議論が成立する。R. Goode, op. cit., p. 140.. (注10). -5. (235)-.
(6) 段階で算入するのが本来の姿である。実現段階の課税は資本利得の実現をで きる限り延期し, 逆に資本損失の実現を早くすることによって実効税率の低 下を図ることができるからである。しかも, 長期間にわたって蓄積した発生 資本利得がある年に売却等による実現をした時, 実現した年の課税所得が大 幅に大きくなり, 累進税率の下では, 発生分について年々課税されるよりも 過重な税負担が 生ずる 形で不公平が生じ, これが 実現段階での課税に伴う 「封鎖効果」を強める形で資本市場の機能を阻害することが考えられる。 それゆえ, このような不公平と「封鎖効果」の緩和のためには, 実現資本 利得を保有期間にわたって均等に生じたものと看倣して過去の所得税の再計 算をするか, あるいは後節で示す所得の平均化の必要性が生ずるのである。 また実現 基準によるならば, 個人が 保有する 資産に資本利得が発生して も, それを売却等による実現をしない状態で, 他の個人に相続または贈与の 形で移転することによっで, 一生涯資本利得に対する課税を逃れ得るという 不公平が生ずる。 それゆえ, このような不公平に対処するためには資産保有者が他の個人に 贈与したり,死亡に伴い,相続という形で移転させる時, その時点で資本利得 が実現したものと看倣すという方法の採用がサイモンズによって示された。 このような方法は上述の「封鎖効果」を減じる効果も期待され得るが, 少 なくとも納税延期に伴う不公平は完全に排除されない点で発生基準よりも劣 っている。 そこで, サイモンズは, 将来においては, 納税者が10年ごとにそ の年の推定された市場価値で, 自からの財産を処分したが如く資本価値増減 分を報告するように制度化し, 究極的には資産の評価を年々なされるように するのみでなく, 純資産に対するゆるやかな累進課税による補足をも良いと している(注ll)o (注11) H. C. Simons, op. cit., pp. 167-168. このような提案の背後には.サイモンズ の富の蓄積による経済力の偏在を回避するという意図がある。 H. J. Kiesling, "Henry Simons, Equality and The Personal Income Tax" National Tax Journal, Vol. 34-2 June 1981. pp. 258-259を参照されたい。 -6. (236)-.
(7) しかし, 発生基準による資本利得課税には以下の如き 2 つの問題点を持つ ことから. その実行は不可能である。 発生段階の課税は有価証券所有者が資本利得の発生ゆえに. 納税資金の調 達のため資産の流動化を強いられる形で人々の資産選択に中立的でない。 さ らに現実の有価証券の価値変化額を確定することが困難である。 特に非公開 法人の株式評価がその良い例である。 それゆえ. 実現基準での課税がなされ ざるを得ない。 事実資本利得 や資本損失の完全課税, 完全控除を 主張する 「カ ー タ ー 報告」や「アイルランドの報告」においては実現基準に立ち. しか もその欠点を対処するため相続. 贈与時の看倣し実現課税と所得の平均化の 勧告をしている。 ただ. これらの報告で実現基準を採用しているとしても,「カ ー タ ー 報告」 の所得税制では発生資本利得の1部を経常的に課税されるメカニズムを内蔵 している点に注目する必要がある。 これは同報告の提案する法人税と所得税 の統合方法の中に存するのである。 「カ ー タ. ー. 報告」の提案する統合では, 法人のオプションによって, 年々. の社内留保分を株 主に配分計算し. その配分計算された社内留保分に対して 法人段階で支払った法人税額とともに所得税の課税標準に算入し, その算出 税額から上の法人段階での支払額を税額控除する。 そこでこの株 主に配分計 算された社内留保分については. 株式の実現利得を算出する場合のコスト. ・. ベ ー スと引き上げる形で, それへの 2 重課税を回避させる。 つまり社内留保 分を反映する長期資本利得は実質的には発生段階で経常的に課税されるので ある。 しかも, 同報告では所得税の最高税率 50 彩で法人税率が決定されてい るゆえに, 最高税率より低い限界税率の株 主から社内留保の配分計算法を採 るように法人へ圧力がかかるのである。 このような統合方法は, 資本利得が社内留保分を反映する部分と「意外の 利得」(windfall gain) の部分を同時に実現段階で課税するよりも, 少なく とも前の部分について経常的に課税する点および「封鎖効果」 が後の部分に. -7. (237)-.
(8) ついてのみ発生する点から(注12), 実現資本利得0)完全課税による統合方式を 考える サイモンズやインビュテ ー ション方式を採用する「アイルランドの報 告」よりも公平性と中立性の観点から優れていると言えよう。 資本利得課税と物価上昇 インフレ過程において株式や実物資産の名目上 の資本利得が大きくなり, それに累進税率を課税することは, いわば擬制的 利得に重課する結果になり, 実質資本の削減をもたらす形で不公平であるか ら実質的な資本利得に課税することが要求される。 しかし, サイモンズはイ ンフレ過程において債権, 住宅抵当権, 年金の形で財産を保有する人々の実 質資産を侵食する形で生活を苦しくしているのであるから, このような人々 との相対的経済力において公平性を保持するには「擬制的利得」課税に特別 な救済を必要としないとする。 ところが「アイルランドの報告」では各年の 消費者物価指数を基礎にして, 実質的な資本利得または資本損失を算出する ことによって課税することを要求している(注13)o インフレ過程での相対的経済力の変化を所得税のわく内で調整しようとす れば, 株式等の名目利得の実質額への調整はもとより, 上の債権, 抵当権あ るいは年金といった形の資産保有者に対して生ずるインフレによる実質価値 の低下つまり 「インフレ税」を所得税の課税標準を算出する場合の控除項目 とし, 逆にインフレによる債務者利得をその中に加算項目として認められな ければならない。 しかし, このような調整は税務行政を極度に複雑にするとすれば, むしろ インフレ過程において特定の所得つまり資本利得のみに税負担調整を行うよ りも, むしろ サイモンズの主張のように, すべてに救済措置をとらない方が 公平な相対的経済力の保持が可能であるかも知れない。 (注12). G. Break and J. A. Pechman, "Relationship Between Corporation and In dividual Income Taxes" , National Tax Journal, Vol. 28-3. Sept, 1975, p. 348. を参照のこと。 H. C. Simons, op. cit., p. 156およびFirst Report of the Commission on Taxation, Direct Taxation, July 1982, p. 20 6を参照のこと。. (注13). -8. (238)-.
(9) 2). 帰属所得の課税. 本来包括的課税所得に含めるべき種々 な帰属所得のうち実際に どこまで含 めるべきか。 その判 断の困難なものも多 い 。 現実に レ ジ ャ. ー. を課税所得に算. 入されな いのと同様に どこかでその境界線を画しなけれ ばならな い 。 ここで 看過 し 得ないのは居住者所有住宅の帰属家賃の取扱 い である。 ここではこの 問題を考察する。 帰属家賃の課税根拠. 個人が 自 から所有する住宅を他人に賃貸すればその. 賃貸料は彼の収入として純所得分に対する所得税が賦課される。 それゆえ, 住宅にその所有者が住む場合, 本来, 所有者が 自 からに賃貸すると見なすべ きもので, その賃貸料に相当する金額のうちのネ ッ ト の部分には所得税の課 税がなされね ばならな い 。 この課税根拠をマスグ レイ プ夫妻は次の如き例を 用いて説 明している(注l4) o いま 3 人の個人 R , O , M はそれぞれ30 , 000ドルの資産を保有して いる時, すべ ての投下資本に 3 %の収益率が得られ, それに30%の所得税が課される とする。 個人 R は 自 からの 資産30 , 000ドルを株式保有に向け住居は賃貸料1 , 500ド ルで借りるならば彼は配当所得1 , 500ドルから賃貸料を支払うことになる。 0 は30 , 000ドルを 自 から住む住居購入に向け, 一方, Mは30 , 000ドルを株 式投資に向け, 反面それを抵当に借り入れて住宅を賭入する。 住宅の帰属家賃には課税されず, 借り入れ利子は課税所得から控除するア メ リ カの現行制度の下では, 自 からの資本30 , 000ドルを株式投資に向け, 住 宅を賃借する個人は不利となる。 逆に資金を借り入れて住宅購入する個人は 優遇される。 そこで, この 3 人が資産の運用方法にかかわらず等し い税負担をするには (注14) R. M. Musgrave and P. Musgrave, Public Finance in Theory and Practice, 3rd. ed. p. 360 類似の 例 は , First Report of the Commission on Taxation, p. 131 に も あ り , 公平な課税の あ り 方が検討さ れている。. -9. C 239 ) -.
(10) ①帰属家賃も他所得と同 様に課税す る 一方. 住宅購入のために借り入れた資 本に対す る 支払利子は その帰限所得を得 る ための費用 で あ る か ら 課税所得か ら 控除す る という方法か ②帰属家賃は課税しないが借り入資本の支払利子 および賃貸住宅の賃貸料は課税所得か ら 控除す る という方法が考 え ら れ る 。 こ の第 2 の方法は. 政府にとっては大 き な税収減少とな る 以外に公正の観 点か ら 次の 2 点で好 ま しくない。 第 1 点は. 賃貸料を課税所得か ら 控除す る こ とは大所得者 そ れ ゆ え 限界税 率の高い個人 ほど 支払う賃貸料が実質的に安くな る という不公平が生ず る 点 で あ る 。 特に住宅を購入す る 資力のない課税最低限以下の所得層にとって, 賃借住宅の支払家賃は全額彼の負担とな る 点か ら 控除が無意味で あ る。 第 2 点は マ ス グ レイブが指摘して い る こ とで あ る が. 住宅 サ ー ビスの購入 という消費の側か ら 見れ ば , 人 々 は自か ら の所得を種 々 な項 目 に配分す る 中 で, 住宅サ ー ビスの消費支出 には課税所得か ら 控除が認め ら れ る 形で . 消費 項目間で所得税制度上の不公平が生じ, 同時に こ れは人 々 の消費者選択を歪 曲 す る 形で, 資源配分への中 立性を保持で き ない。 かくして, 上述の如 < ' 帰属家賃は課税所得に算入す る とともに住宅購入 に伴う借入れ資本の支払利子は控除され る という方法が残された公平な方法 で あ る 。 こ の場合. 課税所得に算入す る 金額はその住宅が他人に貸与されし かもそのすべての修理が家主によ っ てなされ る 場合に支払われ る べ き 賃貸料 か ら , その住宅の減価償却費, 修理費, 保険料, 支払利子等諸経費を控除し た残額とな る 。 実際 に お け る 取扱い. こ のように帰属家賃を課税所得に算入す る こ とは国. 家にと っ て税収増加と税負担公平化という メ リ ッ ト をもた ら し, 一方で生ず る 徴税費の増加を考 えても好 ま しい。 そ こ で実 際 には帰属家賃や減価償却費 の算定とい っ た納税協力や 税務行政上の諸困難を考慮すれば, 現在の地方税 に お け る 固 定資産税の評価を基礎に帰属家賃なり収益を推定して . それを諜 税標準に算入すれば完全な免税よりもより公平になる というのがサイ モ ン ズ. -10. ( 240 ) -.
(11) の主張であ る (注lS)o それでは 「カ ー タ ー 報告」 や 「アイルラ ン ド の報告」 において こ の問題を どのように勧告してい る のであろ うか。 「カ ー タ ー 報告」 では住宅の帰属家賃を 適切かつ公平に決定す る こ とか ら く る 税務行政上の困難ゆえに課税標準か ら 従来通り除外すべき と し , しかも それを除外した上に支払利子をも課税所得か ら 控除する のは持家に対する 過 度の優遇であり, 特に賃借をす る 個人に比べれば過度に有利な立場に置かれ る 。 それゆえ 少なく と も 支払 利子の 控除を 廃止 すべき こ と を勧告してい る (注16) o 「アイルラン ド の報告」 で はイ ン フ レ 過程におけ る 税負担の 歪に強い関心 を寄せてい る こ と か ら , 課税標準に算入す る 帰属家賃も借入資本の利子控除 も物価上昇分を調整した実質価値でなされなければな ら ない と と を示してい る 。 同報告では こ の様に帰属家賃を課税すれば従来の課税か ら 除外されてい た場合に比べて住宅所有の有利性は小さくな る が, それによって 自 己居住用 住宅の賭入に対す る 阻害効果は大きくない と してい る 。 しかし こ れも課税す る こ と が 一般に 受け入れ ら れないで あ ろ うゆえに, 実行に 大きな困難を伴 う。 さ ら に住宅の再 評価を正確に行う こ と は こ の10年で達成困難であ る こ と を理由に 個人のセ カ ン ド ハ ウ スを除いては 採用 す る こ と を勧告しない と す る 。 そして住宅抵当 権利子の控除も制限を加わえて, 住宅を初めて購入する 場合で, 最初の 5 年間にのみ限定すべき と 勧告してい る (注17)o こ のような 自 己居住用 住宅の帰属純所得の課税所得か ら の除外は. その保 有促進のための優遇措置 と しての政策目標がある 場合を別 と して税負担の公 平性を保持す る と いう観点か ら は好ましくない。 しかし各居住用 住宅の純家 賃を評価す る こ と が困難であ る こ と が課税所得か ら の除外の根拠であ る な ら (注15). H. C. Simons, op. cit., p. 118.. (注16). The Report of The Royol Commission on Taxation. Vol. 3. pp. 49-56.. (注17). First Report, pp. 137-138.. -11. ( 241 ) -.
(12) ば上述のサイモンズの方法が次善の措置として採用するのが好ましい 。 現実に地方税として固 定資産に課税されていることから, その評価方法が 各地方で異なる場合には不公平をもたらすであろうけれども, 共通の評価方 法を採用している場合には, その評価額を基礎として一 定率(例えばその土 地家屋から得られる全国の平均的純収益率) をもって各居住用住宅の純収益 を推定し, 一方で住宅購入資金の借入れ利子を控除する形で課税する方法が 考えられる 。 例え固 定資産に対する評価が実際の市場価格と大きく乖離して いるとしても, それを基準に収益を推定して課税することは少なくとも完全 な免税よりも公平化の方向に税制を改めることが出来るであろう。. 3). 相続, 受贈財産 の課税. 相続, 受贈財産の課税根拠 何んらかの用役の供給なり危険負担によって 得られる所得と異なり, 無償か つ 臨時的な相続または贈与によって受取る財 産は課税されるにしても, ・ 通常は所得税のわく内でなく, 相続, 贈与税ある いは遺産税という形で課税される。 ところが, ヘイグ ・ サイモンズの所得概 念によればこのような財産も財貨, サ ー ビスに対する支配力の増加分の一 部 を構成するがゆえに課税所得の中に算入される点で伝統的な取扱い方と異な っている。 所得税は納税単位間の公平を保持しなければならないゆえに, そ の経済力の増加分を構成する要因は源泉とは関係なく, その課税標準に算入 されなければならないのである。 しかし個人が自からの所得に所得税を課税され, 税引後所得の一 部が蓄積 されて他の個人へ相続, 贈与という形で移転した段階で再び所得税として課 税されるならば同一所得に対する2重課税の問題が発生する。. ヘ イグ ・. サイ. モンズによれば贈与者にとって自からの資産を他の個人に贈与することが彼 の消費行為,. つ まりそのことから効用を得ていると看倣され,. それゆえ受取. り手の側において再び課税されるとしても贈与者の所得からその贈与分を控 除する形で 2 重課税の回 避をする必要を認めない 。. -12. ( 242 ) -.
(13) 実 際 の 取扱い法. 「 カ ー タ ー 報告」 で は 慈善的 な 性格を持 っ た贈与, 相続. に よ る 移転 で は 一 定 の 制限条件 に 従 っ て贈与者, 遺贈者の課税所得か ら 控除 さ れ る が, そ の他 の場合で は上 の サ イ モ ン ズ の考え方を受 け 継い で い る 。 「 カ ー タ ー 報告」 や 「 ア イ ル ラ ン ド の報告」 で は 後 に 詳述す る よ. た だ し,. う に 納税 単位を個人 で は な く ,. 家族 単位 と し て い る こ と か ら ,. 親か ら 子供. ヘ, あ る い は 夫婦間 と い う 同一家族 メ ン バ ー 間 で の 相 続, 贈 与 に よ る 財産移 転 に は所得税の 課税対象外 と な り , 子供が独立 し て他 の 納 税単位を形成 し た 時, 課税の対象 と な る 。 つ ま り 納税単位の外部か ら の相続, 贈与 に よ る 受取 の みが課税の 対象 と な り 得 る 。 し か し , 受取 り 財産 に つ い て の 上記の. 2 重課. 税問 題 と は 別 の 意味 に お け る 2 重課税へ の 対処 お よ び税務行政上 の 簡 素 化 目 的 の た め に, 「カ. ー. タ. ー. 2 つ の報告は異な っ た 取扱い を勧告 し て い る (注lB) o 報告」 で は 税務行政上 の観点か ら 納 税単位間 の 小額の財産移転. が あ っ て も そ れを 免税 に す る こ と が提案 さ れて い る 。 ま ず納税単位の う ち , 成人で独立 し た 納税単位を形成す る 個人や 納税単位 の構成員の う ち 夫婦 に つ い て は 1 人 当 た り 年250 ド ル, そ の 被扶養者 に つ い て は 1 人 当 た り 年 100 ド ル ま で は 他納税単位 よ り の相続,. 贈 与 に よ る 財産の. 移 転 は 免税 と な る 。 そ れ ゆ え夫婦, 子供 2 人 の 場合で は そ れぞれの免税額を 合計 し て 利用 で き ,. 年700 ド ル ま で の 財産移転 は 免税 と な り , そ れ を 超過 し. た分が課税所得に算入さ れ る 。 さ ら に 同報告で は 税務行政上 と 社会的配慮 に よ っ て, 子供が 家族か ら 離 れ 独立 し た納税単位を形成す る 時, 他納税主体か ら 移転 さ れ る 財産は 一生涯の 合計 に お い て 5 , 000 ド ル ま で を 免税 と さ れ る 。. し か も こ の 免税 は上記年 々 の. 免税額 を 超 え た 金額 に つ い て の累積額 と な り , そ の 免税 の 権 利 は 一生涯利用 し尽 く さ れ る ま で有効で繰越 し 利用 で き る 。 そ れ ゆ え, 子供が家族か ら 離れて (注18). 1 個人 と し て 別 の納税単位を形成す る な. The Report of The Royal Commission on Taxation. Vol. 3, pp. 125-136 お よ び pp. 477-498. First Report, p. 426 をそれぞれ参照。. -13 ( 243 ) -.
(14) らば, 以前に親または他の納税単位から受取った財産に課税されるのである が, 1 人 50 , 000ド ルまでは免税として全額手許に残ることになる。 子供が独 立して結婚すれば 2 人の生涯累積免税額は合計して 10 , 000ド ルとなる。 それ ゆえこの免税によって生活に必要な基本財産を形成することができる。 しか し大きい金額の財産が被扶挫者である子供に課税単位の外部から贈与あるい は遺贈の形で移転された時, 年 々 の免税額を超えた分はその子供の属する納 税単位の所得として課税され, さらに子供が独立して納税単位から離れる時 に課税されるという2重課程の問題が生ずる。 「カ ー タ ー 報告」 ではこのような受取財産はその受取った子供の 名義の預 金にすれば その子供が属する納税単位の受取所得から除外される形で課税か ら逃れる途を設けている。 しかもこの預金利子は それが引き出される時のみ 支払われるようにする。 そして預金者である子供がその親の家族の構成員で ある間でも, もし預金が引き出されたならば その時点で当該家族の所得中に 算入される。 そして, この子供が家族から独立して1つの新しい納税単位を 形成する時に, この預金は引き出されて新しい納税単位の所得とみなされ, 上の諸免税額を超過した分に課税される。 「アイルラン ド の報告」 では他納税 単位からの贈与による財産の移転に つ いて年 500 ボ ンド までは 免除とされる。 また被扶養者である子供が他 納税単 位から贈与を受ける時は, その受取時点で家族の所得に上の免除額超過分を 算入し所得税額を計算する。 そしてその子供が親の納税単位を離れて新しい 納税単位を形成する時に前の納税単位から財産を引 き出すことによって生ず る所得税債務額から, 前に受贈した時点で親または本人が支払った所得税額 のう ち その財産の受贈分について生じた所得税負担増加分を税額控除する形 で2重課税の回避がなされるよう勧告している。 「カ ー タ ー 報告」 での受贈財産に対する子供への 課税の回避はその財産を 預金として保持する時のみ可能である。 それゆえ, 人 々 は貨幣形態で相続, 受贈するか それ以外の形態ならば流動 化しなければならないため, 人 々 の資 -14. (244 ) -.
(15) 産選択に中立的でない。. 一. 方 「アイルラ ン ド の報告」の場合では受贈する資. 産形態は特に制限されない点で, 資産保有形態の選択に中立的であると言 え る。 相続, 贈与税との 関 係. 「カ ー タ ー 報告」 にしろ 「アイルランドの報告」. にしろ納税単位特にその中の子供が他の納税単位か ら 財産を受取った時, 程 度の差こそあれ年々の免税額を利用することによって多年に分割してそれを 受取れば税負担の回避がなされ得る 。 さ ら に累進税率の下では上の免税とは 別に受取り財産を長年にわたって分割すれば税負担の軽減が可能である。 そ して, 一方これ ら の報告では相続, 贈与税の廃止を勧告している。 ところがサイモンズでは, 相続, 贈与といった形で受取る財産は他の稼得 所得または危険負担に対する報酬としての所得よりも重く課税されることが 支持されるとする。 彼によれば, 所得税は個人の事情に従って課税される人 税であるか ら個人間の公平は保持されなけ ればな ら ない 。 しかし所得種類間 での同一税負担を必ずしも必要としないと考える 。 そこで, 贈与による長期にわたる分割によって税負担を軽減することを回 避するために, 彼は所得税の補完税として累積的相続税の採用を勧告して い る(注19) o つまり個人は他か ら 相続, 贈与によって財産を受取れば, その時点までの 生涯累積受取額を基礎に算出された税額か ら それまでに支払った相続税額を 控除した残額を当該時の相続税とする。 そこで, その受取財産には所得税を も支払っているのであるか ら , 当該年の相続税か ら この受取財産にかかわる 所得税を税額控除してその残高を実際に支払うべき相続税額とする。 このよ うにすれば, 長期間にわたって贈与の分散をすることによる所得税の軽減化 を実現しても, 一方で相続税が補完的に賦課されるがゆえ, その利益を受け ら れないのである。 「カ ー タ ー 報告」 と 「アイルラン ド の報告」では累進税率の下での長期間分 (注1 9). H. C. Simons, op. cit., p. 144を参照。. -15. C 245 ) -.
(16) 散贈与による税負担軽減化には寛大な態度を示すのに対し, サイモン ズでは それを容認しない。 この態度の差は富と所得の偏在に対する考え方の差に帰するものと考えら れる。 つまりサイモンズは邪悪で醜い所得と富の偏在を是正することが倫理 的, 美学的判断から強く必要と考え(注20), 累進的所得税によって各年の所得 格差を是正すると同時に, 累積的移転税の補完によって, 相続, 贈与を通し てなされる世代間での富の移転によるその偏在の発生, 継続を出来る限り小 さい程度に抑えるべく意図したものと解釈できる。. 2 . 納税単位 の 選 択. 包括的課税所得の採用をするにしても. それが個人のものか家族のものか という納税単位の選択によって, 税負担の公平性のみでな < . 個人の種々な 意思決定に異なった影響を与える。 現実には我が国のように個人を納税単位 とする国もあれば. 家族を納税単位としてその構成員の所得合計を課税所得 に選ぶ国やアメ リ カ の如く家族構成員の合計所得とそれを基礎とした 2 分 2 乗の制度の選択を認める国等. 各国において異なっている。 ここでは納税単 位のあり方について考察しよう。 納税単位選択の意義 成人男 女 2 人が独立して生計をたてる場合と 2 人が 結婚によって協同生活をする場合とでは2人の合計所得が同一であれば後の 場合の方が 自 由 裁量的所得が大きい。 個人を納税単位とする場合, 2人の男 女がそれぞれ独立に生計をたてる場 合と結婚する場合とでは同一 税負担となる。 当然結婚後において大きい 自 由 裁量的所得が生ずるにもかかわらず税負担が不変であるのは不合理である。 (注2 0) W. Hettich, "Henry Simons on Taxation and the Economic System", Na tional Tax Journal. Vol. 32-1. March 1979, p. 4, 及びH. J. Kiesling, op. cit.,. pp. 257-258 を参照。 ま た H. C. Simons. op. cit. p. 19 を 参照のことo -16. C246 ) -.
(17) その点, 家族を単位とする場合では. 結婚によって夫婦の所得が合計され, 累進税率が適用されるゆえ税負担率が高まり, 公平性の観点から好ましい。 また1つの家族において夫がある額の給与所得を受取る場合と給与所得の 他に財産所得を得る場合を考えれば, 合計所得が同一 であっても, 個人を納 税単位とするならば. 後の場合では財産を家族の他の成員の名義に変更して 所得分割による税負担の軽減を図ることができる。 家族を納税単位とすれば 所得源泉の差による単位間での税負担差は生じない(注21) さらに夫婦二人がそれぞれ給与所得を受取る場合と農業や零細家内工業に 二人が従事する場合を考えると. 個人単位であれば給与所得者はそれぞれ別 個に課税されるが 後の場合では夫婦2人の 間の所得 分割は 認められないゆ ぇ, 同一所得の家族であっても税負担が重くなる。 わが国において個人企業 の「青色申 告」が促進されるのは家族の所得の分割手段に利用できることが 1つの理由 であろう。 しか し . この分割は恣意的となる。 かくして税負担能力に応じた所得税負担という観点からすれば納税単位を 個人よりも家族に選ぶのが正しいことが分かる。 しかし, 納税単位を公平性 のみで決定できない幾つかの理由がある。 「アイルランド の報告」 では納税単位の 選択に当たって次の 4 つの要件を 考慮に入れるべきとしている(注22) o (イ). 同一の総計所得を持っ た , 同 一事情にある家族は等しく課税されなけ. ればならない。 (口) 結婚すべきか否かの意思決定は租税を考慮することによって影響を受 けない。 Vヽ). 租 税制度は納税者にとって理解し易く, 税務当局にとっても管理し易. (注21). わが国で も 家族単位にすれば 申告書の数が減少するに加えて, 利子, 配当の総 合課税を行 っ て も , 名 義変更に よる税負担の回避がな く なり, 現行個人単位より も 適切である。 (注22) First Report, p. 228.. -17. ( 247)-.
(18) い よ う に 程 よ く 簡素 で あ る 。 (二). 制度 は 男 女 に よ る 差別を す る も の で あ っ て は な ら な い 。. こ の 基準 の う ち 特 に (イ), (口) に 従 っ て 納 税 単 位 の 選 択 を 考察 し て み よ う 。 個 人 を 納 税単位 と す れ ば上述 の 如 く (イ ) の 要 件 は 満 た さ れ な い が (口) の 要 件 は 満 た さ れ る 。 家族を納 税単位 と す れ ば(イ) の 要件 は 満 た さ れ る が(口) の 要件 は 満 た さ れ な い 。 し か も 既婚者で あ っ て も 夫婦共働 き を す る か否 か の 意思決定 に 中 立 的 で な い 。 何 故 な ら ば夫婦の 一方 が 新 た に所得稼得す る 時, 個 人 を 納 税単位 と す る 場合 に 比 べ て そ の 追加所得 に対す る 限界税率が高 い ゆ え , 労働 と レ ジ ャ. ー. に 対す る 代替効果を通 し て 労働意欲阻害効果が強 く 生 ず る か ら で あ る 。. 特 に 家族の う ち 従 た る 稼得者 に は こ の 効 果が大 き い と 考 え ら れ る 。 第 3 の 方 法 と し て 家族を納税単位 と し な が ら 夫婦 に つ い て 2 分 2 乗 の 制度を 認 め る 場 合 で あ る 。 こ の方 法 の 下 で は 夫婦 の 一方が稼得す る 場合 と 双方が稼得す る 場 合 に , 家族 と し て 同 一 所得で あ れ ば 同 一 税負担 と な る た め , (イ) の 要件 は 満 た さ れ る が , 独身稼得者 の 場合 に 自 分 よ り 少 な い 所得を稼得す る 人 と 結婚す る こ と に よ っ て 所 得 に 対 す る 税負担率が軽減 さ れ , 上 の 場合 と は 逆 に 結婚促進 効果を持 ち (口) の 要件 を 満 た さ な い 。 し か し , 家族の合計所得を課税対象 と す る 場合 に 比べ て 夫婦共働 き の 場 合 の 追 加 的 所得 に対す る 限界税率が 低 く な る た め 労 働意欲阻害効果 は よ り 小 さ い点で優れて い る 。 し か し こ の 方 法 の 決定 的 な欠点 は , 夫婦の 一方 が死亡等 に よ り ,. 一. 人 の 親が子供を扶旋 し な け れ ば. な ら な い 場合 に 2 分 2 乗 の 恩 恵 を 受 け る こ と が 出 来な い反 面, 親 は 子供 の 餐 育 の た め に両親が い る 場合 よ り も 多 く の 追 加 的 費 用 を要 し , 税負担が過重に な る と い う 不利 に 直面す る こ と に あ る (注23)o か く し て , (イ)(口) の 2 つ の 要件の双方 と も 満足す る 納 税単位の 選択法が存在 し ない こ と にな る 。 (注23). J. F. Due and A. F. Friedlender, Government Finance, Economics of the Puか. Zic Sector, 1977. p. 252 を参照。 ま た 2 分 2 乗の 問題点 と 対比 し て, フ ラ ン ス の 家族状況 に対応 し た 除数の採用 に つ いての 問題点は p. 253 を参照 さ れた い。. -18. ( 248 ) -.
(19) 実 際 に採 る ぺ き 納税単位. 「カ ー タ ー 報告」 では家族を 納税単位とし, そ. の合計所得を基礎に税額算定する方法を選択するが, その根拠は. ①個人を. 単位として選ぶ時に生ずる諸問 題を解決出来ること, およびより強力な論拠 として ②家族は長い世紀にわたって社会における基本的経済単位であった ことに求めている。 結婚がなされれば通常主要な関心事は家族構成員個々の資金 ポ ジ ションと か所得ではなく家族の資金 ポ ジ ションや所得である。 そして西洋諸国では, 結婚した夫婦による家族の所得について経常支出と資本支出の間に予算が組 まれる時, これらの意思決定は夫婦によって一 緒になされる。 また子供が追 加されて家族が大きくなれば一 層重要な金融的, 経済的意思決定単位として の家族の中でかつ家族ベ ー スで所得の処分についての意思決定がなされる。 それゆえ家族構成員個々の所得ではなく, 家族全体の所得を基礎に税負担能 力を見るのが適切と考えるのである(注24) o 「ア イ ルランドの報告」 においても, 憲法で家族を社会の基本単位として いること及び家族の所得を総計す る 原則が確立されていることから, すべて の租税にとって基本単位として家族を採るのが妥協点であるとしている。 た だ同報告では家族を納税単位とすることから来る, 共に稼得する男 女の結婚 に対する阻害効果や夫婦共働きに対する労働意欲阻害効果を緩和するために 次のような妥協策を提示している。 つまり法律上は結婚していないが(しばしば子供のある形で) 同棲してい る男 女は所得税の目的のために家族と見なされて課税される。 また結婚した 共稼 ぎ家族においては, 夫婦を個人として別々に課税されることを選択する 余地を認めるべきである。 その場合家族の構成員である子供に所得があれば 夫婦に等分して, それぞれの所得に合計されるべきことを提案している。 このように家族の所得を総計して課税するにしても, あるいは2分2乗の (注24) Report of the Royal Commission on Taxation, Vol. 3, pp. 123-124. (注25) First Report, p. 230.. -19. (249 )-.
(20) 方法を採用するに し ても, 同一額の所得を稼得 し, 同一 税負担をする家族で あ り ながら. 夫婦共働 き かその一方のみが働くかの差異に よって税負担の公 平性を保持出来ない。 なぜならば, 家族の中で主婦が家事に専従 し ている場 合にはその労働対価は課税所得に算入 さ れな い が共働 き の場合, 双方の所得 は算入 さ れる一 方で追加的支出を必要と し, それだけ 自 由 裁量的所得が小さ くなる た めである。 それゆえ同一所得の上の 2 家族で税負担の公平性を保持する た めに, 少な くとも, 共 働 き に よって生ずる, そ う でない場合 よ り も大 き くなる支出分を 納税額の算出にお い て配慮 しなければならない。 このよ う な配慮と, 共 働 き によ る追 加所得に対する限界税率が高いことか ら生ずる労働意欲阻害効果を緩和する た め. 一定限度を設定 し た形での特別 控除または特別な税額控除の採用が プ レイ ク とペ ッ ク マ ンに よって提案 さ れ て いる(注26) 。 それは以下の如くである。 夫婦の稼得額の う ち少ない 方の2596を2 , 500ドルを 限度に 特別控除をする かまたは低い稼得額の1096を 100ドルを限度と し て 税額控除するとい う もの である。 この控除限度額の設定は夫婦の稼得所得が大 き くなる ほ ど 追加的生 活費用 や失なわ れ た 家事労働の価値が無限に大 き くなるとは言えないゆえ, 高 い稼得所得を持つ納税者にはある限度におい てその控除の大 き さ を止 め る のが妥当と考え た 故である。 プ レイ ク 等に よ れ ば, このよ う に寛大な所得控 除 や税額 控除によって, 夫婦が 各人におい て 20 , 000ドル位まで稼得 し ても 「結婚のペ ナルテ ィ 」 が生 じ な い と予 測 し て いる。 プ レイ ク 等の上の 提案の 中で所得 控除の方法は 税負担の不公平をも たら す。 何故ならば夫婦の稼得額の う ち. 低 い 方の稼得額を同一とする 2 組の家 族において, 他方の稼得額が異なる時. 双方の控除さ れる額は同一となる。 しか し 同一所得控除であっても夫婦の合計所得が大 き く. それゆえ限界税率 (注26) G. F. Break and J. A. Pechman, Federal Tax Reform, The Impossible Dream ?, 1975, pp. 34-36. -20. ( 250 ) -.
(21) の 高い家族は大 き い額の税負担軽減を受 け る 。 この 2 組の 家族において, 共 働 き か ら 生ず る 追 加的生活費が, 夫婦の合計所得 の 大 き い方に於いて実質的 に大きく必要 と す る 理 由 はない。. 一. 方, 共働 き か ら 生ず る 追加的生活費を考. 慮す る べ き 税額控除額が, 従 た る 稼得所得額 と と も に増加する の も 不合理で あ る 。 それゆえ, 稼得所得 と 独立 し た 額で税額控除す る 方が適切 で あ る と 言 え る。 も う1つの問題点は, こ の提案では共働 き の 背後に あ る 事情, 例え ば子供 が あ る か否 か と いう点が追 加的経費に差を も た ら し, それゆえ税負担能力に 差が生ず る はずで あ る 。 こ の よ うな要因を考慮せずに, 稼得所得の 一定割合 を も って控除額 と す る のは必ずし も 公平でない。 「 カ ー タ ー 報告」 では, 共働き家庭の 追 加的生活費用の発生を認めなが ら , 子供のない家庭では, その追加的費用の大 き な部分は非裁量的な も の と 言 え ない と し, 子供を も つ家庭では明 ら かに非裁量的な追加的経費が生ず る と す る 。 そこで,この子供のい る 共働 き 家庭についてのみ,そ の 追加的経費を納税 額計算において配慮す る 。 し か も , こ の 追加的経費は低所得家族 ほ ど 税負担 能力に大きな影響を与え る こ と か ら , その よ うな家族 の税負担軽減がなされ る ように税額控除の採用をすべ き こ と , お よび子供 の年令によ り つま り 学令 期未満の 子供に大 き な非裁量的費用が生ず る ゆえ, こ の点を も 税額控除額に 配慮すべ き こ と が 勧告されてい る (注27) 。 その税額控除案は次 の 如くで あ る 。 1 夫婦 と も 1年に120 日 以上 被用者 と し て, あ る いは共同で行う事業で働 く家族で, 家族控除 (Family allowance) を受 け てい る , 1人 あ る いはそれ 以上の子供 の あ る 場合, 80ドルの税額控除を認め る 。 2. 但 し, 7 オ未満の 子供を も つ共働 き 家族では, 120ドルの割増税額控除. を認め る 。 こ の報告で は, 子供がい る か否かに よ って, 追 加的経費の配慮がなされて (注27) The Report of the Royal Commission on Taxation. Vol. 3. p. 193. -21 ( 251) -.
(22) い る 。 しかし子供のない共働 き 家族と, 子供がなくかつ主婦の家事専業家族 とで, 前者にお け る 追加的経費が非裁量的でないか否かは別にして, 同等の 取り扱いをす る ことに疑問が残 る 。 このような 「カ ー タ ー 報告」 にしろ, プレイク 等の提案にしろ, 最大の問 題はその実行可能性にあ る 。 共働 き 家庭に税負担面での配慮をすべ < ' 税額 控除を認め る にしても, 夫婦共働 き であ る か否かの判定をどのようにす る か がまず問題であ る 。 夫婦の一 方又は双方が被用者であ る 場合には問題が生じ ない。 特にわが国の農業や中小零細企業の如く, 家族全体の共同作業で経営 が成り立ってい る 時, 例えば, 主婦がその事業に参加してい る のか否かの判 定が困難であ る 。 たとえ主婦が家事に専念していても, その事業で共同作業 をしてい る かの 如く申 告 さ れ る かも知れず, ここに 税負担の 不公平が生ず る 。 それゆえ, この判定基準は重要であ る 。 また,. ペ. ッ ク マ ン等の提案の如. く, 税額控除額が稼得所得に依存す る 時, このような農業や中小零細企業で の夫婦の稼得所得をどのように分割 さ れ る について税務行政面での判断が困 難であろう。 それゆえ, この点か ら しても税額控除は稼得所得と独立なもの とす る 「カ ー タ ー 報告」の方がより実行可能であろう。 かくして, 夫婦共働 き 家庭に生ず る 追加的経費は稼得所得と独立した金額 の税額控除によって調整 さ れ る べ き こと, しかも 「カ ー タ ー 報告」の提案し た子供についての税額控除に加えて, 子供のない場合にも生ず る 追加的経費 に つ いての税額控除をさ ら に考慮すべき ことが分か る 。 次に, 家庭を納税単 位とす る ことか ら く る 結婚への抑圧効果, 共働 き , さ ら には子供が自 ら の労 働で稼得す る ことか ら 生ず る 所得は家族所得に追加 さ れ る ゆえに, その子供 の労働意欲阻害効果をとり除く, あ る いは緩和す る ためにはど のような方法 が適切か。 プレイク ,. ペ. ッ ク マ ンの上の提案では, 共働 き によ る 追加的費用. の配慮と, 結婚あ る いは夫婦共働 き への労働意欲阻害効果の緩和を寛大な所 得控除や税額控除によって同時に達成しようとしたが, これは上述の問題を もつため, 二つの目的はそれぞれに適切な別個の方法で調整す る のがよい。. -22 (252)-.
(23) すなわち, 後の問題の解決には税率構造の調整が 1 つの方法と考えられる。 「アイルラ ンドの報告」 では, 究極的には単一税率の採用を主張するため それを実現した場合には家族を単位とする場合の結婚 や夫婦共働き, さ らに は子供(税務行政上の簡素化のために16才以下では 150 ドルまで非課税) に 対する労働意欲阻害効果は生 じ ない。 しかし,. 「カ ー タ ー 報告」 のよ う に累. 進税率の採用を提案するならば, 複数税率表ではな く 単一 税率表で, 家族の 合計所得の相当に大きい金額(被扶養者である子供のアルバイト 収入等には 相当額まで免税にした上で少な く とも成人男 女それぞれの平均的稼得額の合 計) までは, 最低税率が適用 さ れる形で税率区分を設定するよ う にすれ ばこ のよ う な人々の意思決定を歪める効果が是正または緩和 さ れるであろ う 。. 3 . 不規 則 . 変 動 所 得 の 平 均 化. 不規則, 変動所得の平均化の 必要性. 納税単位を個人にしても家族にして. も, その発生から終局(個人であれば一生涯) までの期間に同一 所得(他の 事情も同一) は同一税負担とするのが水平的公平の条件である。 累進税率の下では,. 一. 生涯の所得の大きな部分が短期間に集中すれば, そ. れが長期間にわたって平準化した形で入るよりも税負担が重 く なる。 このよ う な所得税の側 面を考える時, 人々が恒常所得を基礎に消 費するとするなら ば消費支出税の方が所得税よりも公平な課税がな さ れ得るとい う 議論が成立 する。 累進税率の下での所得税では. このよ う な不公平を回避するため. 人々は 資本利得の実現時期 や(包括的課税標準案が採用 さ れれば) 贈与の時期を変 更することによって税負担の軽減化を図 ろ う とする。 このよ う な行為がすで に述ぺた 「封鎖効果」 の弊害を生ぜしめ. かつ所得税による所得と富の再分 配効果を減 じるのである。 そこで累進税率の下でのこのよ う な問題を回避するために, そして種々な. -23. ( 253 ) -.
(24) 性格を持つ所得種類を異なった構成で得る納税単位の生涯 (あるいは納税単 位の発生か ら 終局までの期間) 所得の大きさのみによって税負担が左右され るような課税方法が必要となる。 そして , そのようなことを可能にあるいは そのような状態に近づくことを可能にするのが不規則, 変動所得の平均化と いう対策である。 種 々 な平均法 均法は ヴ ィ カ リ. 上の目的を実現し得る理論的に理想的である変動所得の平 ー. によって示された累積平均法である(注28) 。 それは以下の如. き 内 容を持つ。 いま 2 人の個人 A と B を考え. 双方とも同 一資本, 同 一 資本収益率それゆ え所与の期間にわたって同 一資本所得を得て いると考える。 この 2 人の差は Aがその期間中に自 ら の所得に対して租税を支払っているが B は彼の所得の 実現と租税支払をその期間の終りまでなん ら かの方法で延期 し て いるところ にある。 そこでA がその期間中に租税債務として 支払った分は, B において 支払を逃れることができたのであるか ら , それを投資に向けることができ, それに対する複利計算した利子分だけ A より総所得が大きくなる。 このよう に, 所与の期間 内での A の所得と彼がその期間の終わりまでに所得税として 支払った金額に対する複利計算した利子額を合計したものを「調整後総所得 (adjusted total income) 」とよばれる。 この 「調整後総所得」は上の所与の. 期間 内で各年に所得をどのように配分しても同額である。 それゆえこの期間 内 における租税負担総額は各年の所得配分の仕方とは独立に累積所得額であ る「調整後総所得」の大きさにのみ依存するのである。 そこで各年において個人に課される租税債務額は. 生涯におけるその年ま での「調整後総所得」に対して算出される仮払税額か ら , 当該年までにすで に支払った所得税額の現在価値額を控除した残額となる。 そして, この「調 整後総所得」に対する税額の算出は. 所得の稼得が始まってか ら 当該年まで (注28) W. Vickrey, Agenda for Progressive T,匹ation, 1947, pp. 172-176. -24. ( 254 ) -.
(25) の経過年数と「調整後総所得」 の双方に従って異なった税率を示す税率表が 作成され, その表を基礎になされることになる。 このような累積平均法は実行できれば完全に公平性を保持出来る理想的平 均法である 。 しかし各人は 「調整後総所得」という累積額の算出や当該年ま でに支払った税額の現在価値を求める必要があり, 納税協力, 税務行政面で の困難を伴う。 H. C. サ イ モンズは資本利得の実現基準による課税を主張するに際して , 実現した時に課税所得が集中することから生ずる税負担の不公平を救済する ため 5 年間の所得を平均する方法を次の如く提案している(注29)o 各納税者に例 えば1940年に1935年から1939年の各年(課税) 所得を平均さ せ, この平均所得がこの 5 年間に毎年生じた場合にあるべき総税額を算出す る 。 この算出した仮の総税額と 5 年間に実際に支払った総税額を比較し, 後 者が大きけ ればその差額を1940年に税額控除ま たは戻し税をする。 しかしこ の差額の生ずる全納税者に戻し税することは件数が膨大になり過 ぎ税務行政 上の費用も大きくなるため, 上の差額が実際に支払った税額の10%を超 える 時のみ. その超過分を税額控除ま たは戻し税するよう制約条件を付 け る。(も ち ろん10彩という数字は. この制度に伴う税務行政上の費用との関係で決定 されるべきものである 。) ま たこの平均 期間の 5 年という年数であるが. ぁ ま り長過 ぎると変動所得に対する救済が 遅くなり過 ぎるし, その期間が 短い と平均化の意味が 薄れると同時に戻し税の件数が多くなり過 ぎるという問 題 が生ずるため.. 5 年を妥当な期間と考え て いる 。 さらに税務行政上の簡素化. のために, この平均 化期間をすぺ ての納税者に対して 固 定し, 例では 5 年 ご とに同時的, 定期的に戻し税の請求機会を認めるよう提案している。 この サイ モンズの平均法には以下の2つの問 題点が考えられる。 ま ず 1 つは. (注29). 5 年間の実際の納税額の10%という一 定率を超過する金額が. H. C. Simons, op. cit., p. 154.. -25. (255 ) -.
(26) 平均化による租税債務額の軽減額でなければ戻し税の権利を与えられないと いう条件は. 高額所得者それゆえに大きい額の納税者 ほどその10形に相当す る額が大きくなるゆぇ. 平均化による税負担軽減額はそれだ け 大きくなけれ ば戻し税の権利を得ないし, 所与の税負担軽減額に対する戻し税される金額 も小さくなる。 それゆえ, 戻し税に伴う税務行政上の費用増加を節約するた めに設定された制限条件から, 大所得者 ほど. 平均化に伴う税負担のある軽 減額から小さい恩恵しか受け られない。 第2の問題点は平均化という機能を十分果 たし得ないという重要な問題点 である。 つまり, 税務行政上の簡素化のために.. 5 年の平均期間をすべての. 納税者に固 定すれば. ある 5 年という期間の全部または一 部の年に大きな所 得が集中し, 他の前後の 5 年では大幅に所得が低下するといった場合, 累進 税率の下では. この大きい 所得の 集中する 期間に大幅な税負担を生ぜしめ る。 それゆえ, 高額の 所得の 年と 前後の 低所得の 年とを 適当 炉 i昆合した 形で 5 年の 期間を 選んで 平均化 するよりも税負担の軽減の程度が小さくな る(注30) o このような第2の問題点を考慮する時. 一定の条件の下で平均化期間の選 択 を納税者の 裁量にゆだ ねる 「カ ー タ ー 報告」 の提示した プロ ッ ク 平均法 (block averaging) がより優れている。 それは以下の如きものである(注3l)o 所得の平均化期間は所得のビー ク 時を効果 的に平均化するに十分長く, か つその年に先立つ各年の 申 告書を基に税額を再計算する場合の税務行政上の 負担が 過度に大きくならない程度に短かくなければならない点. およびカ ナ ダではすでに農業や漁業所得に 5 年間のプロ ッ ク 平均法の利用が認められて いることから, これらの人々の立場を不利にしないよう考えると最長 5 年の (注 30). 一般の納税者は平均化の制度に無知であった か 平均期間の最善の選択方法を 知 らないため その権利をう ま く 利用 出 来ない。 あるいはそ のために専門家の指導 を受けなければならないために 費用増加が生ずる。 この問題点については . w. Vickrey, op. cit., pp. 171-172 を参照のこと。 (注 31) The Report of the Royal Commission on Taxation, Vol. 3, pp. 262-26 7. -26. (256 ) -.
(27) 平均化期間を適当と考える。 しかも平均化期間の選択に際して次の条件を満 たすものとされる。 (1). 5 年は連続した 5 年である。 つまり, ある年を除外した不連続な年か. らなる平均化期間であってはならない。 2 ( ) 平均化期間に選べる年は. 死亡による納税単位の消滅あるいはカ ナ ダ の国籍を離れる場合を除いて, 1 度のみ使用される。 つまり同じ年が2つ の平均化期間に属さない。 (3). 平均化期間は最長 5 年とするが, これよりも短い期間でも平均化する. ことが認められる。 (4). 所得の平均化は. 経常年からみて. 過去に逆のぼって. あるいは将来. にわたって行い得る。 このような条件の下で 平均化 期間を選べば, その 期間が終了 した次の年 に. 平均化期間の各年に課税所得が均等になった場合に負うべき所得税債務 額の期間合計とその期間に実際に支払った税額とを比較し, 後者が大きい時 に. その差額について, 当該年に支払われるべき租税債務額から税額控除あ るいは戻し税をするという仕組である。 しかし. この戻し税より税額控除の件数が多くなり過 ぎると税務行政上好 ましくないという配慮から, 変動所得の救済に次の如く制限を加えている。 (1)選ばれた平均化期間の各年の所得の中で最小の所得額が最大のそれの75 彩より小さい時のみ平均を認める。 2 ( )さらに平均化の手続によって生ずる租 税節約が50ドルを超過する場合のみその超過額について救済が認められる。 次に納税者が死亡(または国籍を離れる) するに従って な される看倣し実 現した資本利得の平均化は以下の如く取扱われる。 個人の死亡によって 納税単位の存在が終了した時, その年を含めて 過去に 渕る平均化が 5 年にわたって なされ得る。 しかも 5 年の期間は, 過去におい てすでに平均化期間に含められた 1 年またはそれ以上の年をも重複して用い ることが出来る。 この場合, 過去の平均化期間に含まれた各年について, 再. -27. (257 )-.
(28) び平均化のために算入される所得額は前回に算出された平均所得とし, しか も当該平均期間での税額控除や戻し税の算出においても前回の平均所得に関 して算出された税額を実際に支払った税額と看倣して用いる。 このような「カ ー タ ー 報告」のプ ロ ッ ク 平均法には以下の問題点がある。 その 1 つは. 一生涯のう ち の 5 - 6 年といったかなり短期間に高い所得を 得るが, その前後の各年では大幅に低い所得しか得られない個人は, 平掏的 に長年にわたって所得を得る個人よりも税負担が大きくなる点で, より改善 されたとはいえサイモンズの 5 年平均の場合と同様の批判を受けることにな る。 しか し 同報告では生涯にわたっての平均化の必要はないと明言してい る如く, 制度の実行面での諸 困難とのバランスにおいて, ある程度の不公平 を許容せ ざるを得ない。 次の問題点は 5 年間のプロ ッ ク 平均法の下では. 実際に各年において所得 税を支払い, 後に平均化して税の払い戻しを受けるまでの期間が最長 5 年に なる点である。 この問題点を考慮して, 払い戻す必要のある支払税額を生ぜ しめない形で平均化する方法が「アイルランド の報告」で提示された(注32) o これは以下の如き移動平均法である。 ア イルランド では1981年より専業農家の利潤に 3 年間の移動平均法による 課税で税負担の調整が認められている。 同報告はこの農業所得に関する平均 化の方法を. 適用範囲や平均期問について改める形で採用するよう勧告して いる。 移動平均を選択する時, あるいはそれを止める時の条件を示しているが. 上の移動平均による課税とは基本的に次の如くである。 各年における課税 所得とそれに 先立つ 2年の それぞれの課税所得を平均 し, その平均所得をもって当該年の課税所得と看倣し, それに対して税額0) 計算をするという 手続を逐次くり返していく方法である。 「アイルラン ド の. (注32) First Report, pp. 280-284. -28 ( 258 ) -.
(29) 報告」 はこのような平均法を農業利潤に限定せず, すべての種類の所得につ いて認めること, および移動平均の平均期間が長い程, 実際の課税所得の変 動に対する平均化がより良くな され, 公平化の点では好ましいが, 一方で税 務行政上の問題を考慮して 6 年に改めることを妥当とした。 そして, もう1 つの 改善点はインフレ過程での名 目 所得を物価指数によって調整した上で平 均化を行うよう勧告している点である。 このような移動平均法の下では, 確かに上のブロ ッ ク 平均法の下での第2 の問題点を生ぜしめな いにしても次 のような重大な難点を持つ。 つまり若干の変動はあっても所得が急速に増加しつつあるような 納税者に とっては過去の低い所得とともに平均化されることか ら , 税負担の急激な増 加を回避できる形で有利である反面, 課税所得が趨勢的に減少している納税 者にとって, 過去の高い所得と平均化されるため税負担の 低下は小さく なり 不利となる。 この点を考えれば, 移動平均法は所得の 上昇傾 向にある人には 税負担を軽減するが逆の 傾 向にある人には平均化の恩恵を与えないという非 対照性をもつ。 かくして, 例え 5 年間(この期間をより長くしてもよい) という期間であ っても, その間の所得の上昇, 減少傾 向にある納税者双方に平均化による税 負担の調整がなされ得る プロ ッ ク 平均法の方が優れていると考え ら れる。. 結 · 語 所得税が 財政資金 調達手段として 納税単位間の 負担公平性を保持し なが ら , 課税の 中立性. さ ら には サイモン ズ によって考え ら れたように資本主義 の某盤を侵すことなく経済力ないし所得と富の偏在是正をする理想的手段と なるためには. 課税所得は出来る限り包括的で な ければな ら ない。 一方で包 括的であるべきと言っても, そ の中に含まれるべきか否かの判断 の境界線を どこに置くかによってその包括性の程度が異なる。 ここに一 部 の不公平の存. -29. ( 259 ) -.
(30) 在と資源 配分への中立性の犠牲を余儀なくされる。 しかし資本利得の実現基準による課税, 相続, 贈与による受取財産を累積 的相続税で補完した形で課税所得に含めることおよび持家の帰属家賃の課税 は上のような諸目的実現のために必要である。 帰属家賃の算定が税務行政上困難であるとすれ ば, 地方の固定資産税にお いて用いられる全国共通の土地, 家屋への 評価額を基準に, 適切な純収益率 をもって課税所得を算定すれば次善の策となり, 帰属家賃を完全に非課税と する場合よりも所得税の種々な側 面からの改善になる。 納税単位の選択, 変動所得平均化を必要とさせ, その方法を決定するのを 困難にする根源は累進税率にあるゆえ, この点を考えれば所得税は比例税が 望ましい。 しかし, 比例税は垂 直的公平を侵し, 所得 や富の再分配効果を弱 める(さらには ビル ト イ ン ス タ ビライザ ー 効果を弱める) ことを考えれば累 進税率を必要とする。 そこで納税単位を税負担の公平性の配慮から家族とす る時, それから生ずる, 所得を稼得する男 女への結婚に対する ベ ナルテ ィ 効 果 や既婚者の共働きへの阻害効果を排除な いし緩和するため, 少なくとも成 人男 女それぞれの平均的稼得額の合計までを最低税率で課税されるよう税率 区分に配慮することが必要である。 また不規則, 変動所得の平均化は, ヴ ィ カリ. ー. の累積平均法が理想的で ある。 しかし, 実際にはブ ロ ッ ク 平均法が変. 動所得の平均化機能にお い て劣るとしても実行可能性を配慮すれば妥当な方 (60 . 9 . 21). 法であろう。. -30. C 260 ) -.
(31)
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