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階層構造アクティブラーニングによる大学初年次生への創造性教育法の開発

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- 39 -

階層構造アクティブラーニングによる大学初年次生への

創造性教育法の開発

Development of Creativity Education Method for First-year University Students with Hierarchical

Active Learning

三枝省三

1

樋口健夫

2

Shozo SAEGUSA

1

Takeo HIGUCHI

2

[要旨]

100 名の初年次生向け発想法の科目にアイデアマラソン(IMS)を組み入れ、通常授業と

IMS の階層型アクティブラーニング(HAL)授業を開発する。その目的は、IMS との相乗

作用を活用し、学生の思考力と創造性を向上させることである。本報告では、この方法

論を開発し評価をする。学生たちの思考とその書き留めを習慣化するには、最低

3 か月

間は必要とされる。この実践には、現場での内部講師(ISI)と外部講師(OSI)との連携を

図る。IMS の継続支援システム(ECSS

3

)を開発し、内外講師が連携して行った。これ

をアクティブティーチング(AT)と称する。毎週の授業の課題は IMS の思考の一部となる

ように配慮し、

IMS の継続と発想数の増加を図る。授業効果は、授業の前後で実施した

創造性テストや社会人基礎力評価などで確認する。その結果、途中で

IMS を止めた学生

は皆無であり、

AL と AT の共創した階層構造型授業方法は創造性の向上に大きな効果を

もたらすと考える。

[Abstract]

A hierarchy active learning (HAL) between conventional lecture and IMS of continuous thinking

into writing for the first-year students is proposed here. We planned to make IMS as the habit for

students to think and write, which takes at least three months for students. Written idea numbers

had been self-declared by students every week for 4 months. For this practice, we prepared both

internal instructors (ISI) and external instructors (OSI). Both instructors support students to

continue daily IMS and encourage students to continue IMS using e-mails, actual meeting and

video meeting as Encouragement & Continuity Support System (ECSS). We named this active

teaching (AT). As a result, all students in class achieved every year recording their ideas as

expected. Creativity effects for students were proven by creative tests and students’ positive

comments. This teaching method combining AL and AT is useful for creativity growth.

1 就実大学経営学部 〒703-8516 岡山市中区西川原 1-6-1

Shujitsu University, Faculty of Business Administration, 1-6-1 Nishigawara Naka-ku Okayama 703-8516, Japan

2 アイデアマラソン研究所 〒108-0072 東京都港区白金 2-1-1-306

Idea-Marathon Institute, Room306 2chome-1-1 Shirokane, Minato-ku, Tokyo, 108.-0073, Japan

(2)

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キーワード

: 創造性,アイデアマラソン,アクティブラーニング,アクティブティーチング,継続

支援システム

Keywords: Creativity, Idea-Marathon System (IMS), Active Learning, Active Teaching,

Encouragement & Continuity Support System (ECSS)

1.緒言

アクティブラーニング(AL)の必要性が取り上げられてその深化と普及が急速に進んでいる [1]。 そして、AL の手法が様々な形で提案され実行されている。実施された AL においては、その効果の評 価が重要であり、松下ら [2]は具体事例も含めて開示している。しかも直接/間接、量的/質的な視 点で分類をして考え方を整理している。しかし授業の内容と目的に合わせて、AL の実行方法や評価 方法 [3]の検討が必要となるのは自然である。特に大人数の授業における AL の実施例の多くは新入生 に大学教育ガイダンスに展開している [4]。しかし、100 名規模の受講生を対象とする通常授業での創 造性教育の AL 実施報告 [5]はあっても個別の目的でその内容が違っていれば新たに開発が必要であ る。 即ち、AL にも目的と規模さらに程度を考えると多くの種類がありその特徴的な活動に応じた進め 方と評価方法が必要となる。それらは独自に開発する以外にない。2016 年より、我々は通常科目「思 考発想法入門」の中にアイデアマラソン発想システム(IMS)を組み込み、創造性を伸ばす階層構造 の方法を試行し [6]、毎年工夫を重ねることで AL の効果が顕著になってきた。本科目においては、4 か月間の学習期間を通して、学生が自ら毎日様々な設問を課し、それらの解決策をノートに毎日書き 留めることを推進した。毎日の思考を自主的に書き留めることを継続していく手法はIMS として 2004 年来提案されており、すでに幾つかの企業や大学、研究所、研究室にて実績が残っている [7] [8]。た だそこでは比較的少人数であった。 またIMS は、本講座の様な授業課題と並行して活用し、互いに補完しあえる関係にできることを共 同研究者は示している [9]。しかし、思い付きをノートに書き留めることを知的習慣化には最低 3 カ 月間毎日の継続が必要とされる [10]。そこで、科目設計の中に、IMS をインストールし、授業期間中、 日常の生活の中でも、学生たちが毎日、思考を書き留めることを習慣にすることを目標とした。通常 の授業がIMS の発想書き留めを促進すると同時に、IMS の発想探索が通常の授業の内容を考える効果 を持たせる。お互いにシナジー効果を出すことを期待した。このようにして、IMS に関しては本授業 4 か月間を貫く知的トレーニングの機会とした。強制しないで、提案や考える課題を毎週提示し、知 的習慣化を狙った。そのために様々な継続支援策を考え、実践する方法が必要となった。 授業開催の期間中、グループ化によって毎週学生たち全員のノートの発想数の確認計数を続け、学 生相互間の切磋琢磨の心を鍛え、グループ内の相互影響や情報交換などで、学生たちに落伍者が出な いAL の実践を目指した。特に途中までは思考が低調な学生が思考に目覚めるには、どのような刺激 が必要であるかなど、Prochaska [11]の推奨する方法がここでも活きているかを検証し、それを定量的 な可視化に持ち込む必要があると感じた。このようにして教師にとっては創造性のある教授法の構築 が計れ、学生も創造性を向上する知的手段を得ることとなる。このプロセスは高橋の提唱する 5P モ デル [12]に対する具体的プロセスの提案になると考えている。 IMS を実行することは自己研鑽のプロセスと継続力の有効性を教えることにもなる。教師から見る と、「学生自身が問題解決者である」と理解することを支援することに他ならない [13] [14]。その実 践方法を探索する試みでもある。同時に安心できる環境の提示 [15]と適切な報酬・刺激・振り返りの

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- 41 - バランス [16]を提供することで、創造的思考と書きとめを高めるように学生自身の挑戦を激励した。 即ち、創造性を自らトレーニングし、自ら学ぶこともできる [16] [17]。これらの考え方を 100 名規模 の新人にどう展開して行くかという挑戦である。 一方、100 人規模の AL に対する研究はその多くが新入生に対するガイダンス的な事例 [18]や一斉 キャリア教育 [19]に展開しているが AL の深堀りはこれからである。本研究はこうしたガイダンス目 的というよりは目標を決め、思考力を一定期間を通して段階的に向上させるという視点が強く、ライ ティング [20]や PBL で e-ラーニング教材作成 [5]がそれぞれの工夫で、成功しており、基本構成は同 じでもプログラムに固有な挑戦が必須である。 まず3 ステップ型の科目の設計 [21]をした。次いで IMS との連携試行 [21]とその実施方法の最新 条件 [22]を発表した。IMS による大人数授業の AL の方法とその効果に関しては、国際会議で報告し た [23] [24]。本報告ではまとめとして、IMS の実践方法とその効果について述べる。 即ち、本報告への課題設定としてまとめると、下記のリサーチクエスチョンとなる。 (1) 学生たちの創造性を涵養する IMS を活用する実践方法とは何か。内外からの激励支援者の存在 は学習者である学生たちにどのような影響を及ぼすのか。 (2) IMS の活用は学生たちの創造性にどの様な影響を及ぼし AL・AT の学習効果はどの様なものと なるか。 以下、第2 章では階層化 AL の構成と研究方法について、第 3 章では IMS 発想数を得て集計分析 した情報から発想を激励するプロセスについて、第4 章ではこれからから得られる創造性の向上につ いて評価と考察を述べる。

2. 階層化 AL の構成と研究方法

本研究の対象は学部の一年生全員で100 名規模である。彼らの創造性をどの様に活性化するか、ま た活性化した創造性を授業の中でどう活用し、保持するかという問題を解かなければならない。そこ で、我々は下記のプロセスを開発した [21]。 まず(1) 6-7 名のグループ作り、グループの自主性を歓迎する。グループの活動については分類と指 針 [25]が必要であり、本報告では事前教育と教員の指示を受けた SA (Student Assistant) を通じたファ シリテーション支援を受ける。本項目は大人数におけるAL 推進の [5]と同様の構成である。 (2) 各 ステップに応じて、目標の設定、SA の対応をより高いものとする。 (3) IMS の進捗はすべて発想数 で把握し、この数を学生と教員との活動媒体とする。 (4) IMS に関しては、授業主体の学内教員(ISI) とIMS 主体の学外指導員(OSI)がインターネット利用などで内外連携をする。 (5) OSI は、学生た ちの発想を刺激するためのヒントを定期的にメールで配布すると同時に IMS の数値をもとに個別の 学生に激励を送る。

これらを4 か月間ほぼ毎週実施し、この間の活動を主に IMS 数として集計と分析をし、誰をどのよ うに激励するといいのか、それらの効果はどこに現れるかを明確にする。

研究のプロセスを明確にするため、本章では3 ステップ方式の授業構成と IMS との階層化 AL の構 造を説明する。IMS の累計値を主要活動指数(Key Performance Indicator: KPI)として週次トレースす る。これらを実施するに際して、支援システムが大切で、SA の配置、IMS 継続支援方法、創造性試 験を準備する。階層化したAL ではあるが、科目の中の学習時間としてとしては通常プログラムが 90% 以上費やされており、IMS は課外活動の一つとして位置付けられ。しかし学習活動の可視化という視 点では圧倒的にIMS の方が有効であることを意識して、研究の方法を説明する。

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- 42 - 開発した3 つのステップ方式授業の構造を図 1 に示す。それぞれのステップの入り口はそのステッ プの最終目標を付与するとともに、それを遂行するための基礎知識を提示し、同時に関連の資料など を提供する。そして、グループで討議し、最後にグループ対抗の競技会となる。3 つのステップは学 習内容とそれに伴う負荷のレベル難易度を定性的ではあるが、段階的ステップアップするよう設計し ている。 (1) 第 1 ステップ(第 1 授業から第 5 授業):基本的な発想法 発散思考としてブレインストーミング(BS)、マインドマップ(MM)法を学習し、収束思考として KJ 法などを学習する。第1 ステップの学習のまとめとして発散・収束思考の学習を総括し、グループ単 位で大学グッズの開発提案をする。そして、プロモーション用コマーシャルを考え、白板でプレゼン をし、学生間で評価をして優勝者を決める。学生が自ら参画意識と一方では競争意識の高揚を狙った 構成としている。さらに、評価も学生らが実施できるよう評価シートで実行し投票する。 第1 ステップの第 2 授業でアイデアマラソン(IMS)の開始をする。大学グッズ開発に関連し、IMS のヒントはグッズに関するものが多くなる。そうすることでIMS と本科目のシナジーが生じることを 期待できる。そして、学生たちはアイデアマラソンをどのように使えばよいかが分かってくる。 図 1: 階層型 AL の構成(思考発想プログラムと IMS) (2) 第 2 ステップ(第 6 授業~第 10 授業):論理の基本 論理を構築するときである。IMS を日々継続しつつ、問題解決を指導し、展開する構成である。こ こでは3 つの思考パターンの内、推論(帰納法、演繹法など)、問題解決(仮説思考、ゼロベース思考、 論理思考に対する批判思考)、意思決定の基本的な考え方と手法を学習する。グループの統一課題に対 しては第 1 ステップ終了時点で、問題提起(問題点の課題化)をレポートとして付与する。その共通度 の高い課題がそのグループの共通テーマとなる。そして、グループでアプローチし、パワーポイント でのプレゼンテーションとなる。ここでもルーブリックで示された評価基準に従って、相互評価をす る。問題解決に、IMS の発想が使われることを期待した。ヒントも関連したものを提示する。

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- 43 - (3) 第 3 ステップ(第 11 授業~第 14 授業):応用(ディベート) すでに 2 か月以上、IMS を継続してきて、書き留められた発想数が増え、発想に多少の自信が付い てきた頃である。IMS を通じて瞬間的な発想にも慣れてきている。今までの発想、論理構築、批判思 考の総合力をここでは発揮することになる。ディベートに移る。クラスで統一テーマを投票で決め、 是側、非側、司会班、審判班と別れて論理を競うばかりでなく進行と判定力も養うこととなる。ディ ベートは単なる論理の競争だけでなく、客観的に物事を見て、そして、第三者に有益な解決策を提供 する使命も持っていることを徹底させる。フローシートの記載と審判票は評価基準を与えている。 これらを推進するに当たって大切なことは、教室の中では<「勇気」、「礼節」、「寛容」 [26]を常に 意識せよ>と、事ある毎に何度も学生に伝える。 2.2. IMS インストールと階層化構造、実践方法 前述のように第1 ステップでアイデアマラソン(IMS)を本科目にインストールし、本科目と連携する [9] ことで、階層化 AL を構成している。それぞれのステップでは連動した発想のヒントを提供したり、 授業では実際に演習をして発想を記載することを奨励したりする。 アイデアマラソンの方法は至って簡単である。 まずは、(1)ノートを 1 冊手に入れて、いつも持ち歩く。 (2)少なくとも 1 つの発想を毎日考え、ノ ートに書き留める。 (3)可能な限り、絵を書き入れる、場合によっては色分け色付けも効果的である。 (4)発想をまわりに説明する。グループ内、SA、同級生、友人、家族と発想を話す。 (5) 蓄えた発想 の中から、最善の発想を実際に実行実現する努力をする。 前記の(5)は本科目の中ではフォローしない。(4)に関しては、グループ内での議論のネタとで きる。グループ内での紹介を奨励する。その時、SA のファシリテーション関与がある。 発想では、それまでに触れたことの無い様な案の創出力、質問への即時回答力、可能性を沢山提案 できる力、別な視点を持つことのできる力などを鍛錬することが必要である[7]。これらを思考継続の 努力により修得するのがIMS である。IMSでは、日々の思考で発想を創り出すことを期待しているが、 IMS の初期では、何に関して思考すればよいのかという基本的なところで迷うことが多い。したがっ て、IMS 初期の段階では、考えるヒントの集中的、定期的供給が有効であったり、学生に興味の高い 質問をぶつけたり、次週の通常の授業の事前課題の考案をIMS で活用できる内容にする。 本科目では第2 授業時に「思考発想法入門」の授業一つとして IMS を開始するために、学生たちに IMS 遂行のために必要なアイデアマラソンノートを配布する。共著者の一人が、IMS の考え方、事例、 必要性、目的、目標を授業に参加して直接説明・提示・推奨する。その第1 ページ目には、「これより アイデアマラソンを開始する。」と開始宣言を記す。毎日少なくとも1 件の発想を記録することに挑戦 を開始する。毎日記録した発想を1 週間ごとにグループ内にて発想数を報告し、グループリーダーが 全員の発想数を指導教員もしくはSA に報告する。 学生の自主性を信頼し、教員がノートの中身や発想の質のチェックはしない。学生間では見せ合い ながら、そして自覚しながら数多くの発想着想し、書き留め続ければ、やがて多くの発想が蓄積され 自然と品質が上がってくると仮説を持っている。学生の一人にボランティアとなってもらいサンプル 提示をしてもらった。その例は後の図3 でもある。また創造性試験でも検証する。 2.3. 支援システム その 1 (SA の配置とコミュニケーションカード) 授業を潤滑に進めるため、そして学生と教員の意思疎通を確保するため、SA と C-カードの支援シ

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- 44 - ステムを準備している。 (1) スチューデントアシスタント(SA): 学生の授業補助者SA を複数名配置する。SA の役割は学生の立場に立って、教員と学生をつなぐ役 目である。100 人規模の学生に質問の対応は時間的に難しくまた、理解の程度もばらばらである。そ こで、教員には質問できない事柄を学生の目線に立って回答することもその役目である。SA は授業 の内容を知っておく必要があり、過年度授業を受講した学生から指名で決める。そこで、授業のシリ ーズが始まる前にSA に対しては「ファシリテーション入門」を特別授業として実施する。SA はグル ープ活動をどう上手くリードするかのトレーニングをすることになる。彼らはまた今後の学園生活の みならず、就職してもなお、このスキルは大いに役に立つものとなる。 (2) コミュニケーションカード (C-カード): 学生と教員のコミュニケーションをどう確保するかは、常に大きな課題である [27]。授業を理解し たか、どの箇所が具体的に分からないか、関連してどんなことに興味を持ったかを教員が理解するこ とに役に立つ。同時に、その情報をどう活用するかが大切である。学生にいかにフィードバックする かも学生の意欲を向上するのに貴重である。これらを加味して、①日付、②本日の授業タイトル(約 20 字)、③授業内容の要約(3 行以内)、④質問を記載するような様式とする。備考欄を右側に設け、 教員からの⑤理解度の評価とワンポイント回答が可能としている。 表 1: コミュニケーションカード(C-カード) 番号 内容 備考(評価/コメント) 1。 ①月 ②タイトル: ① 概要: ② ③ 質問: ⑤ 2 ~以下14 授業まで続く~ 表1 はその例示をしている。表の大きさは A4版の表裏を活用し、授業はこの一枚で完結することにしている。 多くを書く必要はなく要点を自分の言葉で記載するよう指導している。評価はルーブリックを開示しており、そ れに従って実施している。通常のミニッツペーパーとの違い、この科目の講座の開始から最終回までが 1 枚 で完結している点、互いに評価基準を明確にしており、互いの理解を深める点であり、この意味でコミュニケ ーションカード(C-カード)と呼称した。 本表からは、色々な視点でフィードバック可能である。授業の理解度、不明点、学生の授業参加度、グル ープ活動の様子などである。模範的な概要記載と共通的な質問には全員が理解できるようフィードバック資 料(1 ページ以内)を作成する。チーム内の様子や、下記の IMS についての質問/回答等もここに書かれてい る。それを毎回授業開始時に開示し復習の機会とする。

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- 45 - 2.4. 継続支援システム その 2(IMS の継続のために)

IMS を進める上で大切な項目がある。それは継続性を確保するための方法論である。下記はその様 子を図示している。

図2a は受講生が何らもサポートを受けていない場合、図 2b は講師から継続のための激励のある場 合である。ここで継続支援システム(

Encouragement & Continuity Support System : ECSS)

とは、 IMS の開始宣言をしてから継続への激励をする方法である。これらは同じ内容の研修であり開始時期 が違うだけである。二つの違いは一目瞭然であり、継続のための支援は必要であることが分かる。 具体的にはどのような手順と役割が必要かを示す。このプロセスは担当を内部の講師(ISI)と外部 の講師(OSI)に分けている。 図 2a: 継続支援システム無いときの 図 2b: 継続支援システムの有るときの IMS 実行者数と発想数 IMS 実行者数と発想数

出所)Saegusa, S. & Higuchi. T (KICSS2017) [23]

(1) 毎週個人のアイデアの総数をグループ(Gr)毎にリーダーから SA を通して報告を受ける(ISI)。 (2) 適時発想に関するヒントやコメント等を授業の中で全学生に知らせる(ISI)。次週の講義までの思 考課題で、IMS を活用できるように配慮する。OSI にコメントや通知などのコピーを送付する (3) 学生はその週に学んだことを授業の終りに C-カードに書き込み提出し、それを ISI は読んでコメ ントを記載するとともに回答集を作成する。 (4) 内部講師 ISI は(1)をさらに分析し、OSI と協議する。

(5) 一方、発想数を KPI の分析に掛け、その結果を ISI と OSI がインターネットやビデオ会議システ ムにて共有し、全員への定期的コメントの配布を行う。そして OSI は電子メールを使って、発想 を中断している学生、中断徴候の出ている学生、発想数の急激な低下を示している学生への励ま しと説得をする。また素晴らしい数の発想を記録している学生、急に発想数が伸びた学生には、 称賛の言葉を伝えて思考を激励する。それに呼応して ISI も授業で、伸びた状況報告をする。ISI は、中断や低調な学生に対面アドバイスをすることもある。 (6) OSI の全学生へのコメントメールのコピーは、すべて ISI にも配布され、学生たちもそれを知っ ている。 (7) 同時に、OSI は、週刊ニュースレターと考えるヒントを全学生に送付し、発想をより刺激する。 これらの活動は主にメールを活用するが、それでも指導の基本方針の軌道修正があり、ISI と OSI の 間のコミュニケーション不足が発生する可能性が高く、これを回避するために、電話とかビデオ会議 は夜中まで頻繁に実施した。 0 50 100 150 200 250 300 350 2011/5/14 2011/6/14 2011/7/14 2011/8/14 0 50 100 150 200 250 2013/5/18 2013/6/18 2013/7/18 2013/8/18

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- 46 - 2.5. 創造性試験について これらの階層構造の AL/AT の講義の効果をより定量的に評価する手段として創造性テストが有効 と考え、それを実施することとした。本研究では、創造性のアセスメントを定量的に評価可能なRunco のrCAB [28] [29]試験を活用することにした。これは一般的に言われている – 滑らかさ (Fluency: より多くの発想を出すことが可能か?) – 独創性 (Originality: その発想は斬新で他に例はないか?) – 柔軟性 (Flexibility: その発想は多様性に富んでいるか?) と 3 つのスキルを測るものである。 さて、これの結果の活用として以下の 3 つを考えている。 (1) 各学生の創造性(前記 3 つの個性も含めて)の把握、(2) 創造性と IMS や C-カードなどとの相 関性の評価、(3) より高い可能性へ学生をどう激励するかという方法探索用に活用。 ここで、大切な活用は(3)の可能性を見出す作業である。

3.IMS 発想数結果と創造性試験を用いた激励方法

前章で記載したIMS 発想数をモニターしながらどのように学生を支援(激励)すれば良いかを考察 し、まとめる。IMS 発想数はグループリーダー、SA を通して回収するので、累積値をチェックしな がら支援方法を決めていく。データ分析からは日々の発想結果に基づく分類とそれに応じた激励方法、 創造性試験結果を活用し激励した方がいいと判断した学生群の抽出と激励方法を記す。IMS は基本的 に累計値(総発想数)を使うが、これだけだと前の週にどれくらい頑張ったが分かり辛いこともあり、 週次(微分)型での分析結果も場合によって併用する。 3.1. IMS 累積発想数の状況 使っているノートと使用例を図3a と 3b に示している。A5 版で多孔型のルーズリーフノートである。 また外表紙は荒っぽい移動などにも耐えるように、プラスチックで保護している。A5 としている理由 は左面と右面を合わせて印刷するとそれでA4の報告書にすることも可能であることを考慮している。 図 3a: IMS 用特性ノート 図 3b: 使用例 図4 には IMS の総発想数の推移を示している。図中には目標ライン(1 日 1 件)と、その上側には 目標の2 倍のライン(1 日 2 件)を示している。この図を標準として用いるのは積み重ねの努力が右 上がりのラインとして可視化されるからである。一方週次型は先週の頑張りが分かるので、直近のや

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- 47 - る気を感じとる情報とした。 また、図4 での授業番号は IMS を開始した週を第 1 授業日としており、図 1 がこの科目での授業番 号であるので、1 番ずつ若い番号となっている。よって、図 4 とか図 5 の第 1 講義は第 1-IMS 授業と いう表現をする、授業全体の中では第2 講義となる。 図 4:IMS 累計発想数の推移(2018 年度学生 104 名) 3.2. ゾーン分割での累積発想数の分析と継続発想への激励 図4 の累計発案件数を一日の目標である 1 件を中心に据えてその倍率で層別に分け、累積表現をし たものが図5 である。nn が発想数で、赤は発想を止めている学生数、橙色(2 点鎖線)は発想数が 1 件 未満(nn<1)、黄色(細い 2 点鎖線)が目標の 1 件、薄緑(破線)は 1 件~1.4 件(1=<nn<1.4)、緑(実線)は 1.4 件~2 件、青は 2 件以上(2=<nn)としている。図から読み取れることは、授業の回数が増すにつれ多く の発想数層(深緑層(実線)、青層である図の右上方)が増えていることである。これには以下の理由 が考えられる。 (1) 学生は授業回数が増えるにつれ、次第に発想のプロセスに慣れてくる。 (2) 3 つあるイベント(2 つのプレゼンとディベート)に相応して発想を出している。検証例として、第3-IMS 授業での発想数 が確認できる、第4-IMS 授業で大学グッズの開発をせよという大きな命題とともに、IMS に記述して くることと宿題を出した。これに呼応したのである。これは微分値(毎週の発想数)を示す後図 11 で鮮 明に表れている。同時に第8-IMS 授業でも同様である。 (3) ISI(内部講師)自身が IMS を活発に続けて いることを講義内で繰り返し発言する。 (4) 内外の講師の両方に挟まれた激励と考えるヒントのなか で、「やろう、できる」という気持ちになること。 (5) やみくもな激励でなく、発想数の状況、創造 性試験結果や発想数の相関をとることで、抽出すべき学生を把握し、一般メールではなく、個人宛て メールをだす。これは効果が上がり「親展メール指導効果」と名付けた。更に、ISI か OSI かのどち らかから特定の学生に親展メールが出されると、コピーが、送られていることから、OSI や ISI から も、重ねての激励のメールが入る。これを「内外ステレオ説得効果」と名付けた。これは次節で具体 的に提示する。

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- 48 - 図 5: 発想数の層別積み上げ図 3.3. 創造性試験を活用した発想の激励 前節の第4) 項の方法論がどの程度有効なのかを具体的に提示する。図 6 は創造性試験の 3 つの項 目の平均を取ったものとIMS 数の相関を調べたものである。余り高い相関とは言えない。本来なら創 造性が高い学生はIMS 数も多いと期待する。しかしながら、創造性は高いが IMS 数が低い学生もい る。図中の右下の領域である。別な視点で表現すると「IMS は少ないのに創造性が高い」とか「やる 気を出してIMS に打ち込めば、更にはるかに高い創造性を期待できる」、「潜在的創造性」と言い換え てもいい。これは本人も気がついていないことが多い。創造性試験結果では、多くの学生が目標の1.3 倍(140 個前後)の IMS 数発想数の周辺に固まっている。学生諸君はその程度の数を出していれば「や った気」になって自己満足していると考えている。 図 6: 創造性試験(平均)と IMS18-07-12 の発想数の相関

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- 49 - 図6 から rCAB スコアの高い学生はさらに IMS 数を出す可能性があるという仮説を立てる。それに 当てはまる学生を13 名抽出し、彼等に対して個人別に 13 通の激励文を出すように OSI に要請した。 まずOSI が激励メール出し、そして、ISI も即追従した。 その事例として下記する; 経営学部 xx様 アイデアマラソン研究所の所長の XXXX です。 私の研究所の分析と担当教員の考察によると、あなたは、もっともっと発想数が出るはずだ、もともとす ごい創造性を能力の中に秘めているはずだと、明らかに示しています。(一部省略) このメールは誰にでも出しているわけではありません。私の研究所の分析が示しているあなたの可能性を 担当教員と話し合った結果だということです。(一部省略)アイデアマラソンを毎日 1 個ずつでも続けて欲し いと思います。これが実現されれば、あなたは発想能力の発現を生涯活用できようになるかもしれません。(一 部省略) 考えるヒントは、今までに送ったものを見直してください。しかし、自分で考える課題を考える能力もお 持ちのはずです。(全 544 文字) XXXX(送信者名) その結果、次の週にIMS 数で 8 名はいずれも 30 ポイント以上発想していた。残りの 5 名は 10 ポイ ント程度を出した。図7 の右端(第 13-IMS 講義)では線が第 12-IMS 授業の時点で上側へ折れ曲がり、 第13-IMS 授業で急激な増加を示しているのがそれである。 全体平均と抽出した13 名の平均の推移を図 8 に示している。明らかに、今までの様子とは違う傾向 を示している。期間の途中で、筆者らは着眼する学生を、毎回の1 ポイント未満に集中しすぎて、ポ テンシャルのある中間層の激励をおろそかにしていたことに気が付いた。それは創造試験結果を併用 することで初めて気が付いた。 図 7: 13 名への個別激励と発想数の急増

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- 50 - 図8: 激励メール文を出した学生と全体の平均発想数の差異 3.4. 日々の活動の評価(微分型) 累計とは別に微分値をモニターしている。毎日の積み重ね(累積値)で皆が安心感を持つ。と同時に 毎週の軌跡(微分値)では先週頑張ったか、いつ頑張ったかが分かる。図9 では累計ではなく毎週の 変動を示した。先の累計から週間発想数に変換したものである。非常に変動が大きいのが分かる。学 生は何かの刺激で多くなったり少なくなったりしている。累計での特徴分析を述べたが、本図の第 3-IMS 授業、第 8-IMS 授業では急激に発想数が増えており、特に第 3-IMS 授業では顕著に分かる。

図9: 毎日の変動追跡(微分型)

それだけではない。前述の第12-IMS 授業から 13-IMS 授業ではディベートがあり、その中身はほと んどロジック構築に時間が費やされてIMS を実践できているかどうかは不明であったが、前述の個別 激励メールを出した効果があることは上向き線が乱立している様子でよく分かる。

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- 51 - 図 10: 週次発想数(微分系)での層別積み上げ図 図4 の累積値を層状に分析した図 5 と同様に、微分値(週次発想数)図 9 も層状に分割して表示して いるのが、図10 である。毎週の発想者数の推移が一目でわかる。これで講師側にヒントなど激励文を いつどのように出せばいいかが分かる。と同時にプログラムのイベントとの関連を評価できる。特に 第2-IMS 授業では第 4-IMS 授業の準備のためにグッズを案出せよという課題を出したら、発想数 2 以 上の発想者数がこのように大きく伸びている。 3.5. 激励方法のまとめとアクティブティーチング(AT) 課題の出し方を具体的なフィードバックのかかるヒントとして提示することに対して、学生は鋭敏 に反応していることが分かる。有効なヒントは活動力を増すことになる。以上のタイミングと内容を まとめると以下の表2 の様にまとめることが可能である。創造性試験の活用は分類 c を対象としても いいが、本表にはこのように記載していない。通常の発想活動とそれをどう評価し、激励活動をする かである。簡便な創造性試験とその活用は今後の課題としたい。 一方ISI や OSI の連携などから、アクティブラーニングは単に学生側が実践すれば良いということ だけでなく、教える側にも様々な分析、行動、相互相談など、状況の変化に合わせた調整と工夫が必 要であり、それはアクティブティーチング(AT)4と名付けた。AL については、多くの教育機関にて、 実施されているが、AT は、本研究にて始まったばかりと考える。継続支援システム、コメントシステ ム、SA 活用システム、C カード利用分析システムなど、さらには 2 階層化に必要な全体構成の設計、 AL と AT を結びつけるための IMS の実施などは、AT として考慮すべき内容であり、AL とのバラン スを取って、講義を進めていく必要があるだろう。今後更に研究を進めていきたい。

4 佐久間勝彦は「アクティブラーニングへ~アクティブティーチングから」、一莖書房(2016)p158、

の中でこの言葉AT を使っているが、一般論として 2 行に説明しているだけで、具体的な記載はない。 多くの教員は既に実践していると推定するが、実践行為を示す言葉としても定義した。

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- 52 - 表 2: IMS 数の推移と激励方法のまとめ 分類 程度 開始時期 激励方法 (授業と連動した設問、ヒント集) S どんどん伸びている、トップ ゾーン 随時 トップのゾーンへの称賛メール、 急上昇学生への個別メール a 軽度:1~2 回程度の不実施 適時 (内)教室で書くことを奨励する。 (外)一斉メール b 報告の累計数が 3 週間に渡っ て目標数を割っている場合 第 3 講以 降、 (激励メール 1)外部の講師と連携し、複数の学生 にメールで執筆を激励する。BCC とする。その際、 作文はあくまで激励に徹する。 c 目標割れが 4 週間になったら 第 6 回以 降 (激励メール 2)(外)個人宛先(To)で激励を出す。 (内)フォローアップメールを一人ずつ出す。 d 書くことを躊躇している学 生、書かなくてはと考えてい るが、中々前に進みにくい学 生と判断、最下位ゾーン 第 6 回授 業以降適 時 (面談)ただ書くことを奨励するのではなく、面談 をし、その中でヒントと同時にちょっとしたロー ルプレーを実施し、臨場感を持って、発案のプロ アセスを体験させる。

4. 階層型 AL・AT の評価と考察

以上の結果を踏まえながら総合的に階層型AL・AT にすることで学習効果が有ったのかを評価し考 察する。階層型AL・TL は目標を持つ通常プログラムと IMS の連携であるので、連携した効果の評価 を主眼に考察する。そこで、(1)IMS と総合成績および C-カードとの相互関連性を評価する。(2)IMS と創造性試験結果との関連を評価する。 (3) これらを踏まえて、学生は IMS をどう感じていたかを評 価する。(4)また総合的な視点でどう感じているかを自己評価の社会人基礎力の分析結果から考察をす る。 4.1. IMS と C-カードの関連性 表1 に示した 「C-カード」に関して、教員は毎回確認し、個人には短いコメントとその記載の評 価を記して次週に返却する。一方これらの実施概要全部をまとめ、最良の事例を紹介し、質問回答集 を作成し、学生へ開示する。この方式は教員(ISI)から見ると、学生がどこまで分かって、授業を聞 いているかもしくは進めているかを確認することができる。一方、学生から見ると自分の分かったレ ベルは適切なのか足りないのかが次の週に直ぐに分かることになるので、ホットな状態で、授業に参 加が可能となる。ここではIMS との関係も記述しているので、発想の状況を知ることができる。 実際には、図11 と 12 で示す。まずは、図 11 では IMS 数(総発想数)と C-カードの成績の相関を 示している。相関計数は0.335 (R2 = 0.1124, p < 0.05) であった。程良い相関を示している。即ち、「毎 回の理解度の高い学生は発想数も多く、総合成績もいい」こととなる。本件は当然のこととは思うが、 それがC-カードでは毎回の記録として残っている、さらに学生はカードで全体を見渡すことができる。

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- 53 - 図 11: IMS 数と C-カード成績の関係 IMS 数と総合成績の関係は図 12 に示している。目標 99 件の 1~2 倍の間に多くの学生が位置して おり、その相関は0.46(R2=0.211, p 値<0.05)で両者は高くは無いが、程よい相関を示していることが 分かる。即ち、発想することで、どんどん頭を活性化することが可能であること示唆していると考え る。 目標を1 日 1 件即ち 99 件が目標である。そうすると結果的に目標の 1.3 倍程度が全体の平均値とな ってしまう。それでもIMS の推進目標は実現できているが、さらに日々の発想を加速するには、目標 をより高い数値に提示することも必要と考える。本件は次へ向けた課題とする。 図 12: IMS 数と総合成績の関係 4.2. IMS と創造性試験相関性と成長性の評価 学生らの思考活動がどの程度創造性を成長させているか、図13 を用いて評価する。科目の総合成 績とrCAB(絶対値)の相関性を提示している。同図は独創性に関しての事前試験(本授業の第 2 回 目4/19 実施、pre 赤●、相関係数R=0.100)と事後試験(第 14 回目 7/19 実施、post 青◆R=0.125)を 実施した。両者に強い相関はないが、ある程度の相関があり、その相関係数も伸びていることが分か る。 独創性ばかりでなく、滑らかさや柔軟性も一覧表にし、どの程度変化したかを表3 に示している。 数値はそれぞれの3 つの評価項目に対して受講者全員の平均値を計算し、その数値を表 3 に示してい

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- 54 - る。ここでの絶対値はデータの積み上げも分析もないので、議論の対象外としたい。大切なところは 同じ試験を授業前後で実施しその差異を吟味したところと考える。即ち学生の創造性は成長したかと いうことになる。表3 では、3 つの指標のいずれの値も 1.7-1.8 倍の伸びを示している。この要因は 3 点考えられる。 (1)IMS を含めたアクティブラーニングを押し通した「思考発想法入門」科目の結果である。(2) 初 年次のために、入学当初時期であるので緊張感が強くあり自由な発想がむずかしかった。(3) 終了時 に同様な試験をしたが、試験そのものに慣れてきた。 要因の(2)と(3)を否定するものではないが、それ以上に(1)の成果があると考える。 図 13: 総合成績とオリジナリティーの相関 注記)p 値=1.23E-12 で有意差が見られる 表3:事前事後の比較(絶対値の平均) 事前試験 事後試験 成長度(%) 独創性 6.44 11.03 71.3 滑らかさ 7.9 13.5 70.9 柔軟性 2.48 4.56 83.9 注記)*1-3)p 値<0.05 で有意差が見られる、 なお*1)、に関してはそれぞれ図16 に示している 4.3. IMS の学生アンケート評価と考察 以上は、IMS とか創造性試験を用いた評価であったが、ここでは、学生はどう考えているのか、5 点評価法のアンケートを用いて評価した。学生からの回答について、各々の項目の平均値を図14 に示 している。①機会(考える機会の増加)、②思考頻度の増加、③習慣化したか、④書く意識は向上した か、⑤充実感を覚えたか、⑥将来性(役に立つか)、⑦有用性(大学生として役に立つか)、⑧ノート 活用は今後あるか、⑨継続性は今後あるか、⑩Gr 内刺激(グループ内で相互の刺激)をやったか、⑪考 えるヒントの供給は有効だったか、⑫連携(内なる講師と外の講師)の連携は役に立ったか、の項目 について聞いている。

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- 55 - 図 14: IMS への学生評価(’16-’17-’18 年度) ここでは '16 年から '17 年との比較も示している。②の「思考頻度」は増えた。それが③の「習慣 化」に寄与したことは大きな成果である。さらに⑥の「将来性」も人生に役立つ、⑦の「有用性」も 学生生活にも役に立つと感じていて、非常に好ましい。⑪の書くための「ヒント」提供も、科目との 連動の中で有効であり、内外の講師の連携も学生はよく評価していることが分かる。 一方、④の「書く意識」と⑤の「充実感」はまだ改善の余地がある。これらは授業運営の内、負荷 の平準化、書くことをもっと楽しいものであるということを意識した運営方法の改善が必要と思う。 本講座終了後の⑨の「継続性」に対する不安があり、グループ内での刺激とともに、次年度への課題 としたい。 学生たちが 2016 年から平均的にどのよう発想数を発案・記載してきたかを調べると、平均値(一 人当たり、毎日の発想数)の推移をみると、1.3 個 (2016 年) から 1.5 個 (2017 年) へ、そして 2.1 個 (2018) へと増えており、公式に目標とした値(毎日 1 個)を大きく上まってきた。図 5 や図 10 と、 図14 のアンケート結果とさらにこれらの数値の推移を合わせて、学生状況を推察すると以下の状況が 考えられる。 (1) いまだ仕方なく毎日 1 件を記載している学生がいる。(2) 毎日 1.5 件以上記載している学生が半 数を越している。(3) 楽しく 10 件近く記載している学生も多い。即ち、発想数の多い学生と少ない学 生の差異が際立ってきたことを示すものと考えられる。IMS の少ない学生(上記の 1)への激励を表 2 に従って実行し、辛うじて効いていたため中断学生がいなかったと推察する。このことは、次への 課題でもある。 4.4. 社会人基礎力による評価 最後にこの科目の評価を別な視点で評価・考察する。それは当初より計画していた社会人基礎力 [30] をさらに学生の自覚として振り返ることである。この評価は第 1 授業でこの試験の趣旨と項目を 一つ一つ説明し、自己評価を10 点満点で同時に付けてもらう。そして、最後の第 15 授業で同様な自 己評価を(第1 回目のスコアは開示しないで)付けてもらい、開示した後に、その前後差を計算し、 平均を取ったものである(図15 参照)。

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- 56 - 図 15: 社会人基礎力の自己評価( 2018 年度) 各自は最終講義分を評価した後に第1 講義のスコアを入手可能で、初めて自分はこの項目が良くな ったというのを自覚することになる。それぞれの10 点満点での数値は感覚的なものであることは否め ないが、最後から最初の数値の差分を計算した時に初めて様子が分かる。学生には振り返りとしてど の項目がどのように成長したか、そしてそれをどうとらえたかを記載する。これは、自己評価をどう しているかということと、その結果自分は何が成長したと感じているかを自覚することになる。勿論 学生の中には当初より減った(マイナス成長)項目もある。 評価項目は全部で12 項目であり、(1)前に踏み出す力(左側から 1-3)、(2)考え抜く力(左から 4-6)、 (3)チームで働く力(7-12)である。その中でも(2)の考え抜く力(④課題発見力、⑤計画力、⑥創造力) が高い伸びを示しており創造性が一番高く伸びていると学生は自覚していることが分かる。定量的と はいい難いところはあるが、当初の目的や創造性の試験結果と一致しており、創造性の成長がなされ たと考える。

5. 結論

4 か月間の 3 ステップ型の「思考発想法入門」の授業を設計し、その中にアイデアマラソン(IMS) を階層的に組み込んだ。これらの両者は非常に互いに良いシナジー効果を持ち、受講生の思考を3 つ の方向に強化できたと考える。思考の滑らかさ、独創性、柔軟性である。それらをより定量的に評価 するために創造性試験を試み、IMS と連動して、学生への激励をするシステムとすることができたと 考える。結果としてIMS と連動した授業を階層型 AL・AT の一つとして提示できたと考える。 これらをまとめるために、アカデミッククエスチョンを再掲すると、 (1) 学生たちの創造性を涵養する IMS を活用する実践方法とは何か。内外からの激励支援者の存在 は学習者である学生たちにどのような影響を及ぼすのか。 (2) IMS の活用は学生たちの創造性にどの様な影響を及ぼし AL・AT の学習効果はどの様なものと なるか。

(1)では IMS を有効活用する階層型 AL・AT の実践方法を提示した。その主点は内部(ISI)と外 部(OSI)の連携であり継続への励ましの支援システムである。これをアクティブティーチング(AT) と称し、非常に有効であることが分かった。ヒントの提供や宿題との連携質問・激励メールなどを実 施することで、IMS をやらない学生がいなくなり平均発想数で一気に 20%近く上昇するという効果も 得た。学習者に素直なやる気を引き出すという好影響が出たと考えている。(2)では、 IMS を活用す

(19)

- 57 - ることで、学生らは発想し書くという行為が非常に大切であると認識することになり、アンケートよ り創造性が向上したことを自覚したことが分かった。即ち創造性向上の一因となったと考える。実際 に、階層型AL・AT の学習効果は創造性試験結果も合わせて、発想の滑らかさ、独創性、柔軟性を 70% 以上も押し上げるものとなった。 また、創造性試験は単に結果よりも、それから授業へのフィードバックや激励への方法、さらに学 生の可能性を見出す方向へ活用できることを示した。 残された課題 学生は科目が済むと全ての過程が済んだと思い、毎日発想を出していたことを忘れる可能性がある。 科目終了後にも継続して発想発案記録をする方法を考えて置く必要がある。学生相互で刺激し合いを 続け、科目の中でもっと慣習化させたり、ヒントを出し発想を促すという方法も必要であろう。一方、 教員の負担軽減策、支援学生(SA)自身の成長を促すファシリテーション能力の向上も今後の課題で ある。本論文では科目「思考発想法入門」とIMS の相性が良く、シナジー効果も大きかった。著者ら は、このIMS を基盤とした階層的 AL・AT のプロセスを活用し、理系・文系を問わず、様々な大学に て活用できると考え、今後の課題としたい。

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[29] Runco M. A.: Creativity Testing Services. https://www.creativitytestingservices.com/. (最終閲覧日 2020 年 7 月 27 日)

[30] 経済産業省 (2004) 『社会人基礎力』経済産業省.

(2020 年 06 月 30 日受付) (2020 年 10 月 13 日採録)

図 2a は受講生が何らもサポートを受けていない場合、図 2b は講師から継続のための激励のある場 合である。ここで継続支援システム ( Encouragement &amp; Continuity Support System : ECSS) とは、
図 9:  毎日の変動追跡(微分型)

参照

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