農業経営の組織変革とそのインパクト 法人化を対象に
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(2) 20 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号) 第1表 パネルデータの構造(稲作単一経営). 注1)たとえば,法人経営体に関するまとまった事 例研究として,伊藤・八巻(1993)や迫田(2004) がある。また,本学会の農業法人に関するシン ポジウム報告として,たとえば,斎藤(2000) は農業法人の事業展開の経路を示すとともに, 事業展開の進展が必ずしも経営の成功を約束す るとは限らないことを指摘している。また,岩 元(2013)は,企業的家族経営には,借地,雇 用労働力,外部委託等をつうじて地域社会に貢 献している面があるとし,企業的家族経営のポ ジティブな側面を評価している。さらに,八木 (2018)は,経営戦略論における実証的課題とし て,農業分野において経営成果に関する研究が 限られていることを指摘するとともに,成果の 把握や因果関係の問題など,方法論上の課題は 多く存在することを前提としながらも,実証的 知見の蓄積が求められるとする。 注2)たとえば,『農林業センサス』(2015年)によ れば,農産物販売金額1位の部門別経営体数は 多 い 順 に, 稲 作(714,870経 営 体 ), 果 樹 類 (152,949経営体),露地野菜(131,307経営体),施 設野菜(71,093経営体)であり,稲作が最も高い 割合を占めている。. Ⅱ データ 本稿では,稲作単一経営を対象に, 『農林業セ ンサス』 (以下,センサス)の個票データとして, 2005年から2015年までのパネルデータ注3)ならび に2015年のクロスセクションデータを用いる。な お,センサスは5年ごとに実施される調査である ため,本稿が用いるパネルデータは2005年・2010 年・2015年の3期パネルデータである。センサス には,経営耕地面積や作目など,営農に関わる基 本属性の他に,農業生産関連事業への取組,法人. 存在パターン 2005年. 2010年. 2015年. ○ ○ ○ × × × ○. ○ × ○ ○ ○ × ×. ○ × × ○ × ○ ○. 計. 経営体数. 割合(%). 423,122 (1,269,366) 249,086 (249,086) 186,184 (372,368) 85,395 (170,790) 77,514 (77,514) 69,018 (69,018) 42,421 (84,842). 37.35 21.99 16.44 7.54 6.84 6.09 3.74. 1,132,740 (2,292,984). 100. 注:○ はサンプルが存在することを,×はサンプルが存在しない ことを示す。 ( )内は,のべ経営体数を表す。. 37.4%にあたる。2005年・2010年,2010年・2015 年や2005年・2015年の2期で存在する経営体数は そ れ ぞ れ186,184,85,395,42,421で あ る。 ま た, 1期のみ存在する経営体はあわせて約35%存在す る。このように,2期や1期のみのパターンで存 在するデータが多くを占めるのは,たとえば, 2005年に稲作単一経営であった経営体が,2010年 には他の営農類型に分類され,2015年には再び稲 作単一経営に分類されるなど,営農類型の変更が 相当数存在するためである注4)。 注3)パネルデータは農家固有番号を用いて作成し た。また,パネルデータには集落営農のデータ も含まれるが,集落営農が全農業経営体に占め る割合は1%程度であることから,ここでは集 落営農のデータを含めて,分析を行う。 注4)たとえば,2005年に稲作単一経営であった経 営体のうち,2010年に稲作単一経営以外の営農 類型へと移行した経営体の割合は約16%であっ た。. Ⅲ 農業経営の組織変革. 化の有無や法人形態などに関する質問項目があ り,農業経営体の基本的な情報を把握可能であ. 1 農業経営の組織変革としての法人化. る。. 本項では,法人化の動向や法人経営の特徴を整. 分析に用いるパネルデータの構造を第1表に示 す。2005年から2015年の10年間に,離農などが生 じているため,パネルデータの形式は不完全(unbalanced)パネルデータである。表より,2005年 から2015年にかけて3期ともに稲作単一経営とし て 存 在 す る 経 営 体 数 は423,122で あ り, 全 体 の. 理する。まず,第1図に販売目的の組織形態別法 人経営体数の推移を示す。図より,法人経営体数 は2005年から2015年までの過去10年間に2倍以上 に増加しており,農事組合法人の増加スピードが 他の形態と比べて大きかったことがわかる。また, 地域別の法人化率の推移を整理した第2表をみる.
(3) 農業経営の組織変革とそのインパクト 21 経営体. 第3表 稲作単一経営体数と法人経営体割合の推移. 18,857. 14,000. 農事組合法人 会社 各種団体 その他. 12,000. 8,700. 10,000. 378. 8,000. 643. 20,000 18,000 16,000. 769 810 12,511 387 652. 12,115. 2,000. 5,163. 3,077. 1,663. 0. 2005年. 2010年. 法人経営体割合(%). 1,265 (353) 2,447 (336) 3,048 (364). 0.14 0.32 0.49. 地域で法人化のスピードが速いことがわかる。さ. 2015年. らに,本稿で対象とする稲作単一経営体数の推移 とその法人経営体の割合を示したのが第3表であ. 資料:農林水産省編(2016,p.92). 第2表 法人化率の推移. る。表より,稲作単一経営の法人経営体数は,. (単位:%). (地域別) 北海道 都府県 東北 北陸 関東・東山 東海 近畿 中国 四国 九州. 法人経営体数. (2015年)へと高まっており,東北,北陸,中国. 第1図 販売目的の組織形態別法人経営体数の推移. 全国. 900,813 772,171 619,860. と,法人化率は全体で1.0%(2005年)から2.0%. 6,016. 4,000. 経営体数. 注: ( )内は一戸一法人の経営体数を表し,内数である。なお, 本稿における一戸一法人とは,家族による経営であり,かつ法 人化している経営体をさす。. 8,395. 6,000. 年 2005 2010 2015. 2005年. 2010年. 2015年. 1.0. 1.3. 2.0. 4.9 0.8 0.6 0.9 0.9 0.9 0.6 0.7 0.8 1.2. 6.5 1.1 0.9 1.6 1.1 1.2 0.7 1.0 1.1 1.6. 8.8 1.8 1.5 2.4 1.6 1.8 1.2 1.8 1.5 2.3. 1,265(2005年)から3,048(2015年)へと過去10 年間で2.5倍程度に増加する一方で,一戸一法人 の経営体数は,ほとんど増加していないことがわ かる。また,稲作単一経営に占める法人経営体の 割合は0.14%から0.49%へと高まっている。野菜 作や畜産に比べるとその割合は低いものの,稲作 単一経営においても,法人化が着実に進展してい る注5)。 次に,法人経営体の特徴を検討するために,法 人経営体と非法人経営体の土地利用,雇用導入や. 資料:農林水産省『農林業センサス』各年版. 第4表 法人・非法人経営体の特徴(稲作単一経営) 2005年 法人 標本数 総経営耕地面積(a) 借入農地率(%) 常雇実人数(男女計) 常雇従事日数 臨時雇実人数(男女計) 臨時雇従事日数 認定農業者率(%) 農産物加工の実施(%) 農業生産関連事業の実施(%) 農産物販売金額(万円) 都市的地域(%) 平地農業地域(%) 中間農業地域(%) 山間農業地域(%). 1,265 1,863.3 67.9 1.0 171.9 5.6 128.3 56.8 16.1 57.6 2,317.9 17.2 39.7 29.2 13.9. 2010年. 非法人 899,548 132.6 9.7 0.0 0.2 0.6 6.1 3.1 0.4 17.9 105.6 19.5 38.7 30.5 11.3. 法人 2,447 2,243.3 79.3 1.2 204.5 7.3 151.2 64.8 13.6 19.2 2,533.0 15.4 39.6 30.4 14.6. 2015年. 非法人 769,768 150.3 11.6 0.0 0.5 0.7 6.0 5.2 0.7 1.1 111.0 20.3 36.3 31.4 12.1. 法人 3,048 2,567.4 77.6 1.6 273.2 6.0 163.2 68.4 13.0 16.2 2,421.7 14.0 42.2 30.0 13.8. 非法人 616,908 166.6 12.9 0.0 1.6 0.5 3.9 6.8 0.5 0.8 109.9 19.8 36.2 31.9 12.2. 注: 『農林業センサス』における農産物販売金額は,2005年では回答値,2010年と2015年では販売額のレンジで把握 されている。このため,ここではレンジの中央値を用いた。具体的には,販売額15万円未満=7.5万円,15~50万 円未満=32.5万円,50~100万円未満=75万円,100~200万円未満=150万円,200~300万円未満=250万円,300 ~500万円未満=400万円,500~700万円未満=600万円,700~1,000万円未満=850万円,1,000~1,500万円未満= 1,250万円,1,500~2,000万円未満=1,750万円,2,000~3,000万円未満=2,500万円,3,000~5,000万円未満=4,000万 円,5,000万円~1億円未満=7,500万円,1~3億円未満=2億円,3~5億円未満=4億円,5億円以上=5億 円とした。なお,2005年については,レンジに変換の上,その中央値を用いることで,2010年・2015年の結果と 比較可能にした。.
(4) 22 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). 農業生産関連事業への取組などを比較したのが第. 法人経営には,農事組合法人や株式会社など,. 4表である。表をみると,まず土地利用について,. 複数の組織形態が存在する。そこで次に,組織形. 法人経営は非法人経営と比べて,総経営耕地面積. 態の変化について,2005年から2010年にかけてと. は15倍前後の規模であり,借入農地率が高い。稲. 2010年から2015年にかけての変化をそれぞれ第5. 作単一経営に関して,法人経営は借地を中心とし. 表のパネル A とパネル B に示す。いずれのパネ. た大規模経営体である。次に,常雇や臨時雇につ. ルからも,法人化は主に,非法人から農事組合法. いて,法人経営体は常雇実人数がいずれの年でも. 人や株式会社への変化として生じていることがわ. 1名を上回っており,常雇の存在が法人化の背景. かる。パネル A では,非法人から農事組合法人. となっていることがうかがわれる。また,認定農. や株式会社へと法人化した経営体数はそれぞれ. 業者率や農業生産関連事業の実施率は,法人経営. 163と158であり,ほぼ同数であったが,パネル B. が非法人経営をはるかに上回っている注6). ではそれぞれ417と150である。2010年から2015年. 人経営に比べ,法人経営には認定農業者が存在し,. にかけて,農事組合法人を選択する形での法人化. 六次産業化に積極的に取り組む経営体が多い。ゆ. がより進んだことがわかる注8)。なお,パネル A. えに,法人経営の農産物販売金額は,非法人経営. では,2006年の会社法制定に伴う有限会社の廃止. の20倍以上に達しており,2015年では約2,400万. を背景として,有限会社から非法人や株式会社へ. 円である。一方で,農業地域類型の分布には法人. の形態変更がみられる。. 。非法. 経営と非法人経営の間に明瞭な差異はみられず,. また,第5表では,法人形態間の変化も検討で. 経営体の立地に大きな違いは生じていない。以上. きる。たとえば,パネル A では,農事組合法人. の結果は,2005年から2015年のいずれの年につい. から株式会社へと形態変更した法人が3経営体と. ても,同様である。なお,同表から集落営農の. 少数ながら存在する一方で,株式会社から農事組. データを除いても,類似の結果が得られた注7)。. 合法人への形態変更はみられなかったことがわか. 第5表 組織形態の変化(稲作単一経営) (単位:経営体). 組織形態(2010年) [パネル A]. (2005年) 組織形態. 非法人 農事組合法人 株式会社 有限会社 合名・合資会社 農協 その他各種団体 その他の法人 計. 非法人. 農事組合 合名・合資 株式会社 有限会社 会社 法人 . 608,104 70 4 62 0 0 5 3. 163 262 0 2 0 0 1 1. 158 3 9 398 0 0 1 0. 608,248. 429. 569. その他各 その他 種団体 の法人. 農協. 計. 4 0 0 1 4 0 0 0. 5 0 0 0 0 0 0 0. 2 1 0 0 0 5 0 0. 21 0 0 0 0 0 1 0. 3 608,460 0 336 0 13 0 463 0 4 0 5 1 9 11 15. 9. 5. 8. 22. 15 609,305. 組織形態(2015年) [パネル B] (2010年) 組織形態. 非法人 農事組合法人 株式会社 有限会社 合名・合資会社 農協 その他各種団体 その他の法人 計. 非法人. 農事組合 合名・合資 株式会社 有限会社 法人 会社 . その他各 その他 種団体 の法人. 農協. 計. 506,250 53 46 4 0 1 19 8. 417 795 21 0 0 0 2 1. 150 11 626 1 0 1 0 0. 1 0 1 4 0 0 0 0. 14 0 0 0 10 0 0 0. 5 0 0 0 0 4 0 0. 31 2 0 0 0 0 8 1. 13 506,881 0 861 5 699 0 9 0 10 0 6 0 29 11 21. 506,381. 1,236. 789. 6. 24. 9. 42. 29 508,516. 注:地方公共団体・財産区の法人を表すサンプルについては,除外して集計した。.
(5) 農業経営の組織変革とそのインパクト 23. る。会社法制定による有限会社の株式会社化を除. の選択に,常雇の状況が関与していることがうか. くと,形態を変更した経営体数はパネル A より. がわれる。また,農産物加工や農業生産関連事業. もパネル B の方が多く,組織形態変更の動きは,. の実施率も,株式会社は農事組合法人よりも高く,. 2010年から2015年にかけて強まっている。たとえ. 農産物販売金額も株式会社は農事組合法人を. ば,パネル B では株式会社から農事組合法人へ. 1,000万円程度上回っている。法人化の際の組織. と形態変更した経営体数は21である一方,農事組. 形態の選択には,経営内の常雇人数や六次産業化. 合法人から株式会社へと形態変更した経営体数は. への取組,さらに農産物販売金額で代理される,. 11である。また,法人経営から非法人への動きも. 経営体のビジネスサイズが関係していると考えら. 把握できる。パネル A では,農事組合法人を解. れる。. 散した経営体が70あり,株式会社の非法人化も4 つの経営体で生じている。同様の動きはパネル B. 2 法人化のインパクトに関する先行研究. でもみられ,農事組合法人から非法人へと変更し. 本稿の課題の一つである法人化のインパクトに. た経営体数は53,株式会社から非法人への変更は. ついては,先行研究において事例研究を中心に検. 46経営体で生じている。株式会社を解散する動き. 討されている。たとえば,梅本(2014)は,同一. は,近年増加していることがわかる注9). 規模層の経営概要や経営収支を比較し,法人経営. 。. 次に,組織形態として農事組合法人を選択する. で多角化の効果が発現していることを指摘すると. 経営体と株式会社を選択する経営体の違いを検討. ともに,法人化の機能を「販売活動や多角化の促. するために,第6表を示す。表には,2005年から. 進」とした。他方で,「法人化をしたから売上が. 2010年ならびに2010年から2015年にかけて法人化. 多いのか,あるいは多角化を図って売上高が多く. し,農事組合法人や株式会社になった経営体と組. なっている経営が法人格を取得しているのか,そ. 織形態に変化のなかった非法人経営体の属性を示. の規定関係はわからない」 (梅本,2014:p.9)とし,. している。表より,農事組合法人を選択した経営. 法人化の効果把握における因果関係の問題を指摘. 体と株式会社を選択した経営体の間で,総経営耕. している。また,法人化後も経営継承の問題は残. 地面積に大きな違いはみられない。また,株式会. されることや,法人化には雇用型経営の形成の意. 社の常雇実人数は農事組合法人のそれを約1名上. 味合いが含まれることもあわせて指摘している。. 回っている。一方,臨時雇の実人数と従事日数は,. 次に,迫田(2014)は,法人化のインパクトと. 農事組合法人と株式会社の間にそれほど大きな差. して,稲作組織法人の事例分析から,法人経営に. はみられない。これより,法人化の際の組織形態. よる雇用が就業の場を創出したことや,青壮年従. 第6表 組織形態の変化と経営体の属性(稲作単一経営) 2005-2010年. 2010-2015年. 非法人→農事組合法人 非法人→株式会社 非法人のまま 非法人→農事組合法人 非法人→株式会社 非法人のまま 総経営耕地面積(a) 借入農地率(%) 常雇実人数(男女計) 常雇従事日数 臨時雇実人数(男女計) 臨時雇従事日数 認定農業者率(%) 農産物加工の実施(%) 農業生産関連事業の実施(%) 農産物販売金額(万円) 都市的地域(%) 平地農業地域(%) 中間農業地域(%) 山間農業地域(%) 注:第4表に同じ。. 2,314.8 83.4 0.8 104.7 7.7 149.0 67.4 6.6 9.6 2,209.5 12.2 38.3 34.0 15.5. 2,322.8 74.7 1.7 321.0 6.6 156.1 68.9 22.7 30.8 2,970.7 18.9 42.7 25.3 13.1. 150.3 11.6 0.0 0.5 0.7 6.0 5.2 0.7 1.1 111.0 20.3 36.3 31.4 12.1. 2,546.4 80.7 1.3 166.7 6.1 153.0 68.9 7.9 10.3 2,066.4 10.7 42.8 31.8 14.8. 2,731.6 73.1 2.2 453.3 5.8 176.3 74.1 21.2 26.2 3,072.0 18.4 42.5 27.3 11.8. 166.6 12.9 0.0 1.6 0.5 3.9 6.8 0.5 0.8 109.9 19.8 36.2 31.9 12.2.
(6) 24 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). 業員を基幹とした経営へと変質したことを指摘す るとともに,法人化後に他の作目導入が検討され ていることなどを述べている。同様に,椿(2014) は,秋田県における大規模法人経営の事例分析か ら,法人化により規模拡大のペースが拡大したこ とや,労働力の有効活用を目的に,新規作目が導 入されたことなどを指摘している。 さらに,田代(2014)は,法人経営の方が労働 生産性が高く,規模の経済がみられることを指摘 するものの, 「法人になったからパフォーマンス が高いのか,パフォーマンスの高い組織が法人化 したのかは不明だが,おそらく後者だろう」 (田代, 2014:p.23)とし,法人化のインパクト把握にお ける自己選択問題を指摘し,法人化の労働生産性 や規模の経済に対するインパクトに懐疑的な見解 を示している。 一方,澤田(2018)は,センサスの個票データ を用いて,農産物販売金額が1,500万円以上の農 業経営体を対象とした分析を行い,家族経営と非 家族経営(会社法人)との間に,労働生産性の差 はほとんどみられないことや,規模拡大とともに 家族経営において雇用労働への依存が強まり,雇 用型家族経営,さらには会社法人へと経営形態が 変化していることを示している。 以上より,先行研究では,法人化のインパクト として,新規作目の導入,多角化の促進,雇用創 出や規模拡大の効果に加えて,インパクト把握に 際しての自己選択の問題が指摘されている。また, 大規模経営体における労働生産性に相違はみられ ないことや,法人経営にいたる経営形態の変遷プ ロセスなどが明らかにされている。ただし,先行 研究の多くは,特定の事例に依拠した研究であり, 得られた知見がわが国の農業経営に普遍的にあて はまるものであるかは不明である。また,法人化 のインパクトの把握には,対照群としての非法人 経営との比較が必要とされる。しかし,先行研究 では,比較対象を設けることなく,インパクトを 把握したものや,非法人経営との単純比較によっ て法人化のインパクトの把握を試みたものがみら れる。さらに,梅本(2014)や田代(2014)が指 摘する,因果関係や自己選択の問題に対処した研 究はみられない。. 注5)たとえば,センサス(2015年)によれば,野 菜類と肉用牛の法人経営体割合はそれぞれ1.9% と3.3%である。 注6)第4表において,農業生産関連事業の実施に 関わる数値が2005年から2010年にかけて大きく 変化している。これは,センサスにおける農業 生産関連事業に関する定義が,2005年から2010 年にかけて変更されたことによる。 注7)なお,集落営農の特定にあたっては,経営体 名称でのマッチングのほか,重複確認,目視に より,2015年センサスと平成27年度集落営農実 態調査とのマッチングを試みた。ただし,特定 し た 集 落 営 農 数 は, 同 様 の 取 組 を 行 っ た 鈴 村 (2019)の7割程度にとどまっている点に留意を 要する。 注8)ただし,集落営農のサンプルを除くと,農事 組合法人を選択した経営体は188,株式会社を選 択した経営体は150であり,大きな差はみられな い。このことから,近年における非法人から農 事組合法人への形態変更の多くは,集落営農の 法人化によるものであったことがわかる。 注9)紙幅の制約上,表掲を省略するが,非法人化 した経営体の特徴も整理した。その結果,農事 組合法人や株式会社から非法人化した経営体の 総経営耕地面積,常雇実人数や農産物加工の実 施は,いずれも農事組合法人や株式会社の平均 値を大きく下回っており,法人経営として相対 的に小規模な経営体が非法人化したことなどが 示唆された。. Ⅳ 分析結果 1 法人化の決定要因 まず本項では,本稿の第1の課題に対応して, いかなる経営体が法人化(組織変革)を行ったの か を 検 討 す る。 検 討 に は,2005/2010年 と 2010/2015年それぞれの二期パネルデータを用い, プロビットモデルによる推定を行う。なお,被説 明変数として法人化の有無を,説明変数として総 経営耕地面積や常雇実人数などの経営体属性に加 えて,農業地域類型ダミーを用いた。また,内生 性を一定程度コントロールするために,説明変数 には被説明変数の一期前の変数を用いた注10)。た.
(7) 農業経営の組織変革とそのインパクト 25. とえば,2005/2010年の二期パネルデータを用い. 産業化の取組が法人化を後押ししたと考えられ. る場合には,被説明変数に2010年のデータを,説. る。垂直的な展開を図った経営体が法人化を進め. 明変数に2005年のデータを用いた。2005/2010年. ている。一方,先行研究で指摘される法人化の契. と2010/2015年の二期パネルデータを用いた推定. 機としての雇用導入については,北海道から東海. 結果をそれぞれ第7表パネル Aとパネル B に示す。. までの地域では常雇実人数が正で統計的に有意で. まず,パネル A をみると,総経営耕地面積や. ある一方,近畿から四国にかけての西日本地域で. 借入農地率は大半の地域で統計的に正で有意であ. は統計的に有意ではない。このことは,常雇の導. る。これより,借地に依存した大規模経営が法人. 入を法人化の契機とする事例研究での観察が,必. 化を行う傾向にあることがわかる。また,農産物. ずしも全ての地域にあてはまるわけではないこと. 加工や農業生産関連事業の実施についても,大半. を示している。また,四国は他地域と異なり,借. の地域で統計的に正で有意であることから,六次. 入農地率を除く全ての説明変数が統計的に有意で. 第7表 法人化の決定要因 [パネル A] 総経営耕地面積 借入農地率 常雇実人数 臨時雇実人数 認定農業者の有無 農産物加工の実施 農業生産関連事業の実施 定数項 農業地域類型ダミー 標本数 対数尤度 Pseudo R2 [パネル B] 総経営耕地面積 借入農地率 常雇実人数 臨時雇実人数 認定農業者の有無 農産物加工の実施 農業生産関連事業の実施 定数項 農業地域類型ダミー 標本数 対数尤度 Pseudo R2. 北海道 係数 5.770E-05** (2.910E-05) 0.867 *** (0.252) 0.183 * (0.096) 0.002 (0.002) 0.049 (0.132) 0.328 (0.268) 0.549 *** (0.118) -2.875 *** (0.184) Yes 5,102 -240.10 0.159. 東北 係数 6.409E-04*** (3.670E-05) 0.461 *** (0.150) 0.387 *** (0.062) 0.004 ** (0.002) -0.047 (0.091) 0.817 *** (0.084) 0.307 *** (0.065) -3.486 *** (0.093) Yes 143,507 -681.61 0.415. 関東 係数 2.144E-04*** (5.730E-05) 0.582 *** (0.104) 0.430 *** (0.082) 0.009 *** (0.001) 0.541 *** (0.100) 0.754 *** (0.129) 0.209 *** (0.067) -3.534 *** (0.088) Yes 114,056 -457.20 0.351. 北海道 係数 2.473E-04*** (5.300E-05) 0.933 *** (0.243) 0.202 *** (0.052) -0.001 (0.005) -0.385 *** (0.136) 0.077 (0.253) 0.800 *** (0.205) -2.816 *** (0.224) Yes 4,615 -272.91 0.303. 東北 係数 4.110E-05** (2.010E-05) 1.151 *** (0.092) 0.164 ** (0.064) 0.013 *** (0.002) 0.532 *** (0.067) 0.112 (0.145) 0.909 *** (0.111) -3.524 *** (0.085) Yes 110,215 -1064.20 0.352. 関東 係数 1.860E-04*** (4.900E-05) 1.442 *** (0.175) 0.253 *** (0.039) 0.006 (0.007) 0.442 *** (0.119) -0.298 (0.189) 0.769 *** (0.190) -3.783 *** (0.110) Yes 97,003 -520.24 0.471. 2005/2010年二期パネル 北陸 東海 近畿 係数 係数 係数 4.833E-04*** 2.207E-04*** 3.781E-04*** (9.080E-05) (2.800E-05) (1.118E-04) 1.168 *** 1.289 *** 0.298 (0.251) (0.180) (0.189) *** *** 0.270 0.197 0.160 (0.038) (0.040) (0.122) *** *** 0.013 0.022 0.014 ** (0.004) (0.007) (0.007) 0.329 *** 0.484 *** 0.778 *** (0.072) (0.170) (0.136) 0.684 *** 0.948 *** 0.912 *** (0.146) (0.224) (0.149) 0.191 *** 0.178 * 0.132 * (0.050) (0.096) (0.078) -3.898 *** -3.943 *** -3.329 *** (0.152) (0.173) (0.070) Yes Yes Yes 93,717 43,507 59,352 -791.29 -219.50 -268.23 0.576 0.511 0.347 2010/2015年二期パネル 北陸 東海 近畿 係数 係数 係数 5.147E-04*** 1.958E-04** 4.747E-04*** (4.400E-05) (4.730E-05) (5.070E-05) 1.154 *** 1.182 *** 0.734 *** (0.113) (0.229) (0.223) 0.098 *** 0.090 *** 0.163 *** (0.010) (0.025) (0.042) 0.001 0.014 *** 0.016 *** (0.003) (0.004) (0.005) 0.816 *** 0.621 *** 0.776 *** (0.055) (0.104) (0.125) -0.134 -0.138 -0.252 (0.179) (0.264) (0.279) *** *** 0.672 0.842 0.742 *** (0.119) (0.275) (0.187) -3.896 *** -3.686 *** -3.464 *** (0.100) (0.118) (0.112) Yes Yes Yes 75,424 36,784 52,685 -1610.20 -309.92 -373.46 0.584 0.462 0.486. 中国 係数 7.005E-04*** (8.930E-05) 0.638 *** (0.146) 0.026 (0.091) 0.010 *** (0.003) 0.939 *** (0.148) 0.532 *** (0.143) 0.184 *** (0.048) -4.180 *** (0.267) Yes 73,871 -401.71 0.552. 四国 係数 2.093E-04 (4.061E-04) 1.185 *** (0.434) 0.248 (0.159) 0.014 (0.013) 0.446 (0.314) 0.559 (0.356) 0.175 (0.175) -3.558 *** (0.233) Yes 26,004 -86.09 0.230. 九州 係数 4.865E-04 *** (1.367E-04) 0.345 ** (0.172) 0.364 *** (0.096) 0.004 (0.011) 0.497 *** (0.129) 0.741 *** (0.243) 0.148 * (0.085) -3.370 *** (0.102) Yes 50,139 -250.51 0.262. 中国 係数 6.982E-04*** (8.950E-05) 1.413 *** (0.133) 0.133 *** (0.037) 0.003 (0.005) 0.584 *** (0.093) 0.766 ** (0.343) -0.148 (0.330) -4.393 *** (0.187) Yes 63,158 -621.46 0.615. 四国 係数 9.310E-05*** (5.210E-05) 1.711 *** (0.340) 0.352 ** (0.141) 0.016 * (0.010) 0.741 *** (0.258) -0.497 (0.711) 0.926 ** (0.451) -3.900 *** (0.216) Yes 22,753 -73.80 0.442. 九州 係数 7.170E-05*** (1.640E-05) 1.185 *** (0.130) 0.321 *** (0.060) 0.022 *** (0.007) 0.965 *** (0.073) 0.016 (0.349) 0.547 * (0.290) -3.715 *** (0.121) Yes 45,778 -341.58 0.413. 注:1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%水準で統計的に有意であることを示す。 2)農業地域類型ダミーは,都市的地域をレファレンスとする平地農業地域,中間農業地域,山間農業地域を表すダミー変数である。 3) ( )内は標準誤差を表す。なお,標準誤差には,農業集落でクラスタリングした頑健標準誤差を用いた。.
(8) 26 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). はない。このことは,四国では,表で示した説明. く利用される手法である注11)。たとえば,法人化. 変数以外の要因が法人化の契機となっていたこと. のインパクトを把握する際に,法人経営(処置群). がうかがわれ,法人化の背景が他地域と異なって. と非法人経営(対照群)の指標を単純比較し,法. いたことを示唆している。. 人経営と非法人経営の指標の差を法人化のインパ. 次に,パネル B をみると,パネル A と同様に,. クトとみなすと,法人化のインパクトを過大評価. 総経営耕地面積,借入農地率,認定農業者の有無. することになりうる。これは,法人経営にはそも. や農業生産関連事業の実施は,ほとんど全ての地. そも非法人経営よりも高い経営能力や技術水準を. 域で正で統計的に有意であり,法人化を後押しす. 有する者が多く含まれており,たとえ法人化して. る共通の要因であることがわかる。興味深いのは,. いなかったとしても,法人経営に匹敵する高いパ. 2005/2010年の二期パネルデータを対象としたパ. フォーマンスを示すことがあるためである。こう. ネル A の推定結果と異なり,パネル B に示した. したことから,PSM では,法人経営と類似の特. 2010/2015年の二期パネルデータを用いた結果で. 徴を有する非法人経営をマッチングし,その指標. は,常雇実人数が全ての地域で正で有意となって. を比較することによって,法人化のインパクトを. おり,常雇の存在が法人化の契機となる傾向が近. 把握する。これによって,単純比較によってもた. 年になって明確になった点である。一方で,臨時. らされる自己選択バイアスに対処することができ. 雇実人数については,地域によって結果が異なり,. る。具体的には,法人化のインパクトは,処置群. パネル A の結果と同様に,地域性がみられた。. に対する平均処置効果(Average Treatment Ef-. また,パネル A では大半の説明変数が非有意で. fect on the Treated ; ATT)と呼ばれ,⑴式で表. あった四国は,パネル B では農産物加工の実施. せる。. を除く全ての説明変数が統計的に有意であること. ATT=E(Y1-Y0│X,D=1). から,2010年以降には,他地域と共通する要因が. =E(Y1│X,D=1)-E(Y0│X,D=1). ⑴. 法人化の契機となったことがわかる。さらに,農. なお,Y1は法人経営の成果指標を,Y0は非法. 産物加工の実施については,中国を除く全ての地. 人経営の成果指標を,D は法人経営を1,非法人. 域で統計的に有意ではなく,パネル A とは異な. 経営を0とするダミー変数を表す。しかしながら,. る結果が得られた。このことは,近年では,農産. E(Y0│X,D=1)は法人経営が法人化していな. 物加工の実施が法人化の契機になり得ていないこ. かった場合の成果を表しており,現実には観察で. とを示唆している。. きない注12)。そこで PSM では,対象者の観察可. 以上より,法人化の契機として,各地域に共通. 能な属性等から算出した傾向スコア(法人化確率). する普遍的な要因として,総経営耕地面積や借入. を利用し,法人経営と類似の特徴をもつ非法人経. 農地率といった土地条件や農業生産関連事業と. 営をマッチングする。そして,マッチングされた. いった六次産業化への取組があることや,地域性. グ ル ー プ 間 の 成 果 指 標(outcome) を 比 較 し,. はあるものの,常雇の存在が関係していたことな. ATT を得る。マッチングの方法として,先行研. どがわかった。 2 法人化のインパクト. 究では主に nearest neighbor matching や kernel matching といった方法が用いられており,本稿 でも先行研究に従い,nearest neighbor matching. 本項では,本稿の第2の課題に対応して,傾向. を用いることとする。なお,対象とするデータで. スコアマッチング(propensity score matching ;. は,法人経営(処置群)に比して非法人経営(対. PSM)と呼ばれるインパクト評価法を用いて,. 照群)のサンプル数が大きいことから,法人経営. 法人化が農業経営にもたらすインパクトを検討す. に最も近い傾向スコアを有する非法人経営から順. る。PSM とは,川崎(2010)や藤栄(2016)な. に10戸をマッチングさせる,ten to one matching. どで用いられているように,技術の採用や政策へ. を用いることとする。また,マッチングの成功を. の参加などの効果を計測する手法として,近年広. 判断する指標として,Rosenbaum and Rubin(1985).
(9) 農業経営の組織変革とそのインパクト 27. によって提案された mean standardized bias(以. 臨時雇実人数,臨時雇従事日数とした注14)。また,. 下,MSB)を用いる。多くの研究では MSB が. 傾向スコアを算出するための共変量として,総経. 5.0%以下であれば,マッチングが成功したとみ. 営耕地面積,雇用労働の導入有無ダミー,売上1. なされており(Caliendo and Kopeinig, 2008) ,本. 位の出荷先を表すダミー変数(農協,卸売市場,. 稿もこれに従うこととする注13). 小売業者) ,農作業受託作業の有無,農産物の販. 。. 法人化のインパクトを明らかにするために, 2015年のセンサス個票データを用いて,処置群を. 売経路数,借入農地率,農業地域類型ダミー,環 境保全型農業の実施ダミーを用いた注15)。. 法人経営,対照群を非法人経営とする傾向スコア. 傾向スコアマッチングの結果を第8表に示す。. マッチングを行う。先行研究では,法人化のイン. 表より,まず,農産物販売金額の ATT をみると,. パクトとして,規模拡大の効果,雇用創出,新規. 東海と四国を除く全ての地域で,法人化は農産物. 作目の導入や多角化の導入などが指摘されている. 販売金額を増加させる効果をもたらしたことがわ. ことから,本稿では対象とする成果指標を農産物. かる。特に,北陸の ATT は1,768万円であり,他. 販売金額,農産物加工の実施,農業生産関連事業. 地域と比べて大きい。北陸地域の稲作単一経営で. の実施,常雇実人数,取組作目数,常雇従事日数,. は,法人化が販売金額を高める効果が顕著であっ. 第8表 法人化が農業経営にもたらすインパクト. 農産物販売 北海道 金額 東北 (万円) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 農産物加工 北海道 の実施 東北 (%) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 農業生産関 北海道 連事業の実 東北 施 関東 (%) 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 取組作目数 北海道 東北 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州. 法人化の有無 mean ATT 法人経営体 非法人経営体 (平均処置効果) standardized bias(%) (処置群) (対照群) 3,112.79 2,601.80 511.00 * (2.39) 4.9 3.7 2,306.27 1,668.21 638.06 * (4.00) 2,349.93 1,760.82 589.11 * (3.01) 5.0 4.1 2,842.11 1,073.28 1,768.28 * (16.36) 1,235.08 1,365.56 -130.47 (-1.06) 4.6 1,340.65 1,085.95 254.69 * (2.29) 4.9 4.6 1,393.73 1,098.56 295.18 * (3.02) 560.50 454.42 106.31 (1.02) 4.0 * 1,117.31 535.44 581.87 (2.51) 4.7 10.97 3.42 7.55 * (2.85) 4.9 3.7 11.94 2.89 9.05 * (7.24) * 5.0 13.99 5.14 8.85 (4.64) * 11.96 3.27 8.70 (7.28) 4.1 * 4.6 12.09 3.26 8.83 (4.26) * 4.9 13.96 5.68 8.28 (3.93) 13.17 5.23 7.93 * (4.54) 4.6 4.0 15.71 1.57 14.14 * (3.17) 11.40 4.45 6.95 * (3.35) 4.7 12.26 8.39 3.87 (1.29) 4.9 * 15.52 4.51 11.01 (7.82) 3.7 5.0 18.07 7.18 10.89 * (5.04) 4.1 15.20 4.82 10.38 * (7.70) 16.85 5.09 11.76 * (4.94) 4.6 4.9 19.48 7.27 12.21 * (5.03) * 15.50 6.05 9.45 (5.09) 4.6 * 4.0 17.14 2.00 15.14 (3.27) * 4.7 14.71 5.48 9.23 (3.99) 2.63 2.69 -0.07 (-0.56) 4.9 3.7 2.03 1.86 0.18 * (3.74) 2.04 1.97 0.06 (0.80) 5.0 * 4.1 2.33 1.74 0.59 (11.11) 1.93 1.84 0.08 (1.12) 4.6 * 4.9 2.46 2.11 0.35 (4.01) 4.6 2.37 1.95 0.43 * (5.66) 1.67 1.51 0.17 (1.33) 4.0 1.69 1.58 0.11 (1.70) 4.7. 常雇実人数 北海道 男女計 東北 (人) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 常雇従事日 北海道 数男女計 東北 (日) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 臨時雇実人 北海道 数男女計 東北 (人) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州 臨時雇従事 北海道 日数男女計 東北 (日) 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州. 法人化の有無 mean ATT 法人経営体 非法人経営体 (平均処置効果) standardized bias(%) (処置群) (対照群) 0.87 0.89 -0.02 (-0.08) 4.9 1.17 0.97 0.20 (1.91) 3.7 1.90 1.02 0.89 * (4.71) 5.0 1.95 0.35 1.60 * (11.23) 4.1 1.95 1.56 0.39 (1.44) 4.6 0.79 0.44 0.35 * (3.47) 4.9 * 1.04 0.67 0.37 (2.10) 4.6 1.07 0.57 0.51 (1.15) 4.0 * 1.28 0.74 0.54 (2.71) 4.7 171.97 134.68 37.30 (1.41) 4.9 232.61 148.08 84.53 * (4.01) 3.7 * 316.47 183.28 133.19 (4.18) 5.0 301.77 37.47 264.30 * (9.60) 4.1 * 250.61 150.95 99.66 (3.26) 4.6 * 162.83 93.82 69.01 (3.19) 4.9 138.44 95.38 43.06 * (2.82) 4.6 201.74 66.37 135.37 (1.33) 4.0 176.97 72.83 104.14 * (3.52) 4.7 5.81 5.86 -0.05 (-0.05) 4.9 * 5.31 3.96 1.35 (3.56) 3.7 5.14 2.75 2.39 * (3.08) 5.0 6.59 2.94 3.65 * (5.02) 4.1 5.44 2.18 3.26 * (2.63) 4.6 7.46 2.86 4.60 * (3.99) 4.9 * 5.43 7.26 -1.84 (-2.30) 4.6 * 3.33 1.14 2.19 (3.50) 4.0 3.90 2.01 1.89 * (3.62) 4.7 132.61 96.25 36.35 (0.91) 4.9 146.03 87.24 58.80 * (4.42) 3.7 * 127.96 57.49 70.48 (4.82) 5.0 164.02 39.70 124.32 * (11.34) 4.1 * 108.75 54.18 54.57 (2.60) 4.6 183.46 48.59 134.86 * (2.86) 4.9 137.89 62.54 75.35 * (4.86) 4.6 96.86 24.49 72.36 * (2.97) 4.0 4.7 79.15 30.68 48.47 * (4.24). 注:1)( )内は t 値を表す。また,*は5%水準で統計的に有意であることを示す。 2)取組作目数には「水稲・陸稲」, 「麦類」, 「雑穀」, 「いも類」, 「豆類」 , 「工芸作物」 , 「野菜類」 , 「果樹類」 , 「花き・花木」 , 「その他の作物」 への取組数を用いた。.
(10) 28 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). たことがわかる。. 法人化という組織変革が,雇用創出や六次産業化. 次に,農産物加工の実施や農業生産関連事業の. の展開といった形で地域経済に貢献する,波及効. 実施についてみると,農産物加工実施の ATT は. 果を有していることを示唆している。また,法人. 四国を除いて,約7~9%程度であり,法人化が. 化のインパクトの大きさは地域間で一様ではな. 農産物加工の実施率を数%高める効果をもたらし. く,異質性を有することもわかった。法人化のイ. たことがわかる。また,農業生産関連事業につい. ンパクトの小さい地域においては,経営体育成の. ても同様に,ATT が非有意であった北海道を除. 手段として,法人化に偏重することなく,その他. き,ATT はおおよそ9~12%程度であり,法人. の施策もあわせて実施することが求められよう。. 化が事業実施率を高める効果をもたらしていた。 劇的な効果とは言い難いものの,法人化が農産物 加工や農業生産関連事業といった,六次産業化の 取組を促進するインパクトをもたらしたことがわ かる。 取組作目数をみると,インパクトの大きさは地 域によって異なる。具体的には,東北,北陸,近 畿や中国で正で有意な ATT が示されているもの の,その大きさは0.18~0.59にとどまっている。 法人化は,地域によっては取組作目数を増やすイ ンパクトをもたらしているものの,その大きさは 平均的には1未満であり,新規作目の導入に顕著 な効果をもたらしたとはいえないだろう。 さ ら に, 雇 用 創 出 に つ い て, 常 雇 実 人 数 の ATT をみると,統計的に有意な結果を示してい ない地域が多く,有意である地域についてみると, 北陸が1.6人と他地域に比べて大きな値を示して いるものの,その他の地域は0.4~0.9人と1名に 満たない効果である。一方で,臨時雇実人数をみ ると,その ATT は非有意である北海道と負の ATT を示している中国を除いて,おおよそ1.4~ 4.6人であり,大半の地域で法人化が臨時雇を増 やすインパクトをもたらしたことがわかる。これ らより,法人化は常雇を増やす効果を有するとは 言い難いものの,臨時雇を増加させる効果を有し ている。このことから,法人化は雇用労働の創出 を通じて,地域社会に貢献している可能性を指摘 できる。また,そのインパクトは地域によって異 なるが,北陸でその効果は相対的に大きいことが わかる。 以上,PSM による法人化のインパクト評価の 結果から,稲作単一経営に関して,法人化は多く の地域で販売額の増加,六次産業化の展開や雇用 創出に寄与していることがわかった。このことは,. 注10)ただし,分析対象には,2005年以前から法人 化している経営体も含まれるため,内生性を完 全にコントロールできているわけではない点に 留意を要する。 注11)藤栄(2017)は,わが国の農業・農村を対象 とした PSM の近年の適用事例を整理している。 注12)E (Y0|X,D= 1) を E (Y0|X,D= 0) に 置き換えることで,ATT を算出できるが,上述 のとおり,法人化はランダムには行われないた め,E (Y0|X,D=1)を現実に観察することは できない。 注13)法人経営体と似通った属性を持つ非法人経営 体が少数の場合,マッチングが失敗する可能性 もある。本稿ではバランス検定を行うことで, マッチングに成功したと考えられる結果のみを 示している。 注14)ただし,規模拡大の効果については,法人化 が規模拡大のインパクトをもたらしていないこ とが指摘されていることから(藤栄,2016) ,成 果指標として総経営耕地面積を用いなかった。 注15)なお,紙幅の制約上,傾向スコアの推定結果 については割愛した。. Ⅴ おわりに 本稿では,組織変革の一手段としての法人化に 着目し,稲作単一経営を対象に, 『農林業センサス』 の個票パネルデータなどを用いて,一つ目として, いかなる経営体が組織変革としての法人化を行っ たのかを検討した。また,二つ目として,組織変 革の効果を明らかにするために,傾向スコアマッ チングの適用を通じて,法人化のインパクト評価 を行った。 その結果,第一に,法人化の契機となる要因と して,借入農地率や総経営耕地面積といった土地.
(11) 農業経営の組織変革とそのインパクト 29. 条件や農業生産関連事業の実施といった六次産業 化への取組があることがわかった。また,地域性 はあるものの,常雇の存在も法人化の契機となっ ていることなどがわかった。第二に,インパクト 評価の結果から,法人化は多くの地域で農産物販 売金額の増加,六次産業化の展開や雇用創出に寄 与していることがわかった。このことから,農業 経営の組織変革には,組織内部の変革にとどまら ないインパクトがあり,雇用創出や六次産業化の 展開といった形で地域経済に貢献する,波及効果 を伴うことが示唆された。 [付記]本稿は,JSPS 科研費(JP17H03881,JP18 K19247) ,農林水産政策科学研究委託事業および 京都大学学術情報メディアセンター「農林水産統 計の高度利用に関する研究専門委員会」による研 究成果の一部である。 [引用文献] Caliendo, M. and Kopeinig, S. (2008) Some Practical Guidance for the Implementation of Propensity Score Matching, Journal of Economic Surveys 22(1) : 31-72. https://doi.org/10.1111/j.1467-6419. 2007.00527.x. 藤栄剛(2016)「農地・構造政策と農地集積」『農業 経 済 研 究 』88⑴:67-82.https://doi.org/10.11472/ nokei.88.67. 藤栄剛(2017)「農林業センサスによる政策評価とミ クロデータの利活用」 『農業と経済』83⑸:61-70. 伊藤忠雄・八巻正編(1993)『農業経営の法人化と経 営戦略』農林統計協会. 岩元泉(2013)「現代農業における家族経営の論理」 『 農 業 経 営 研 究 』50⑷:9-19.https://doi.org/10. 11300/fmsj.50.4_9.. 川崎賢太郎(2010) 「水稲直播栽培技術の採択要因と その効果」 『農業経済研究』82⑴:11-22.https:// doi.org/10.11472/nokei.82.11. 日本農業法人協会編(2017) 『農業経営法人化ガイド ブック』 . 農林水産省編(2016) 『食料・農業・農村白書 平成 28年版』日経印刷. 農林水産省(2019) 『平成31年集落営農実態調査(平 成31年2月1日現在) 』 . Rosenbaum, P.R. and Rubin, D.B. (1985) Constructing a Control Group Using Multivariate Matched Sampling Methods that Incorporate the Propensity Score, The American Statistician 39(1) : 33-38. https://doi.org/10.1080/00031305.1985.10479383. 斎藤潔(2000) 「農業法人の新しい経営展開とその評価」 『 農 業 経 営 研 究 』37⑷:29-37.https://doi.org/10. 11300/fmsj1963.37.4_29. 迫田登稔(2004) 『稲作法人の経営展開と人材育成』 農林統計協会. 迫田登稔(2014) 「法人による地域資源の結合と事業 運営(組織法人) 」 『農業と経済』80⑹:36-42. 澤田守(2018) 「日本における家族農業経営の変容と 展望」日本農業経営学会編『家族農業経営の変容 と展望』農林統計出版:25-47. 鈴村源太郎(2019) 「水田農業における組織経営体の 構造変化-2015年センサスによる水田農業構造の分 析-」八木宏典・李哉玄編『変貌する水田農業の課 題』日本経済評論社:9-28. 田代洋一(2014) 「法人化推進政策の功罪」 『農業と 経済』80⑹:14-24. 椿真一(2014) 「法人による規模拡大と地域資源(個 別経営体) 」 『農業と経済』80⑹:43-50. 梅本雅(2014) 「農業における法人化の意義と機能」 『農 業と経済』80⑹:5-13. 八木洋憲(2018) 「農業経営学における経営戦略論適 用の課題と展望」 『農業経営研究』56⑴:19-32. https://doi.org/10.11300/fmsj.56.1_19..
(12) 30 農業経営研究 第58巻第1号(通巻184号). Impact of Farm Management Incorporation in Japan Takeshi FUJIE (Meiji University) Farm management incorporation has been a major innovation in Japan. Several case studies have examined the current status and organizational structure of farm management incorporation in Japan. However, few studies have examined how the decision to incorporate is made or how incorporation impacts farm management. Using household-level panel data from the agricultural census, we use propensity score matching to examine the determinants of incorporation and the impacts of incorporation on farm management. We find that farm size and the adoption of farming-related business were correlated with incorporation. Furthermore, the results of the propensity score matching analysis suggest that incorporation has led to increased sales of farm products, the development of farming-related businesses, and job creation in rural areas. These findings suggest that incorporation not only improves the organizational structure of farm management, but that it also has positive external effects on the regional economy via job creation and the development of farming-related business..
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