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介護保険制度改正に伴う,自立支援・重度化防止に向けた取り組みに関する研究(1): 沖縄地域学リポジトリ

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(1)

Title

介護保険制度改正に伴う,自立支援・重度化防止に向け

た取り組みに関する研究(1)

Author(s)

見城, 育夫

Citation

沖縄大学人文学部紀要(22): 51-59

Issue Date

2019-03

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/23889

Rights

沖縄大学人文学部

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〈研究ノート〉

介護保険制度改正に伴う,自立支援・重度化防止に向けた

取り組みに関する研究(1)

 

見城 育夫

要 約  2018 年度介護保険制度改正に伴う自立支援・重度化防止に向けた取り組みについ ては,ここに至る過程において様々な議論が行われてきた。今改正のこれまでの議 論の整理及び改正の論点と今後の課題について文献分析を基に考察することにした い。 キーワード:介護保険制度,自立支援・重度化防止,インセンティブ,尊厳の保持  はじめに  政府は 2017 年 2 月 7 日,「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正 する法律案」を閣議決定し国会に提出した。狙いは,高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防 止,地域共生社会の実現を図るとともに,制度の持続可能性を確保することに配慮し,サービ スを必要とする方に必要なサービスが提供されるようにすることである。同法案は,(1) 保険者 機能の強化,(2)「介護医療院」の創設, (3) 地域共生社会の実現への取り組み,(4) 利用者負担 3 割の導入,(5) 介護納付金への総報酬割の導入が柱であり,介護療養病床の経過措置は 6 年間延 長され 2023 年度末までとされた。同法案の施行は一部を除き 2018 年 4 月からとなっている。  本稿においては,特に上記の (1) 保険者機能の強化に含まれる「自立支援・重度化防止に向け た取り組み」について着目し,要介護度等の改善に対するインセンティブの付与に関する議論 を整理し,また,そこに関与する「自立支援」,「自立」の捉え方について,文献分析を基に考 察を試みたいと思う 1,介護保険制度改正のポイント (1) 保険者機能の強化  全市町村が保険者機能を発揮し,自立支援・重度化防止に向けた取り組みを制度化すること とされた。具体的に市町村はデータに基づき地域課題を分析し,介護保険事業計画を策定する。 計画には介護予防・重度化防止等の取り組みと目標を記載する。市町村はリハビリ職と連携し て効果的な介護予防を実施するなど取り組む。また,都道府県は市町村を支援する。さらに要 介護状態の維持・改善の度合いなど指標による実績評価を単年度ごとに行うとともに財政面で のインセンティブを付与ものとする。

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(2)「介護医療院」の創設  経過措置が 6 年間延長され 2023 年度末までとなった介護療養病床等の受け皿となるべく「介 護医療院」を創設することとした。長期療養のための医療と,介護とを一体的に提供する。医療 提供施設として医療法上にも位置付ける。開設主体は地方自治体・医療法人・社会福祉法人・そ の他の非営利法人等が該当するものとされている。 (3) 地域共生社会の実現への取り組み  地域共生社会の実現に向け,地域福祉を推進する理念を規定するとともに,市町村による地域 住民と行政等との協働による支援体制づくりに努める旨を社会福祉法に規定するものとされた。 市町村の地域福祉計画の策定を努力義務とするとともに,介護や障害などの計画の上位計画に位 置付ける。また,高齢者と障害児・者が同一の事業所サービスを受けやすくするため,介護保険 と障害者福祉制度の新たに「共生型サービス」を位置づける。ホームヘルプ,デイサービス,ショー トステイを想定したものである。 (4) 利用者負担 3 割の導入  利用者負担で 2 割負担の人のうち特に所得の高い層の負担を 3 割にすることとした。3 割負担 の導入は 2018 年 8 月を予定。対象は①給与収入等から給与所得控除等を行った「合計所得金額」 で 220 万円以上,かつ②年金収入及び合計所得金額 ( 年金以外 ) の合計で 340 万円以上とする 想定である。これは単身のケースによる想定で,尚,年金収入のみの場合の 344 万円に相当す ると考えている。 (5) 介護納付金への総報酬割の導入  40 歳~ 64 歳の第 2 号被保険者が納める介護納付金について総報酬割を段階的に実施する。 26 年ベースでの試算で,総報酬割による負担増となるのは約 1300 万人,負担減となるのは約 1700 万人とされている。 2,自立支援に向けた事業者へのインセンティブ付与に関する議論ついて  自立支援に関する事業者の取り組みの評価については,これまでも社会保障審議会介護給付分 科会において介護サービスの質の評価の在り方として議論が行われてきた。中でも特に,より効 果的・効率的な介護サービスの提供に向けた取り組みを促すには,利用者の状態改善等のアウト カム ( 結果 ) に着目した観点からの評価を活用することが適切ではないかとの議論から,実際に, 2006 年度改正では介護予防通所介護等においての事業所加算が導入,2012 年度改正では介護 老人保健施設の在宅復帰等に関する事業所加算が導入されるなど,アウトカム評価が順次導入さ れてきている。  一方で,アウトカム評価を導入する際の課題として,サービス利用者は様々な介護保険サービ スを組み合わせて利用している場合が多く,要介護度や自立度等の指標が改善したとしても,提 供されている介護サービスのうちのどのサービスがどの程度効果的だったかを判断するのが困難 であること,事業者がアウトカム評価を意識するがあまり,改善が見込まれる高齢者を選別して いく危険性についても指摘されてきた。  2012 年度介護報酬改正に関する審議報告では,要介護度等の変化を介護報酬上評価すること について要介護度等は様々な要因が複合的に関連した指標であり,その変化には時間がかかると ともに,利用者個人の要因による影響が大きいとの指摘がなされた一方で,しかしながら介護サー ビスの質を向上させることは大変重要な課題であるため,まずは,要介護認定データと介護報酬 沖縄大学人文学部紀要 第 22 号 2019

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明細書データを突き合せたデータベースの構築を図るなどの手段を講じることにより具体的な評 価手法の確立を図る事が基本的な考えとしてあげられた。  2015 年度介護報酬改定に関する審議報告では,介護保険制度におけるサービスの質について は,統一的な視点で,定期的に,利用者の状態把握を行い,状態の維持・改善を図れたかどうか 評価することが必要であること,各サービス提供主体で把握すべきアセスメント項目,その評価 手法及び評価のためのデータ収集の方策等の確立に向けた取り組みを行う事が指摘された。  2016 年 11 月未来投資会議においては,現行の介護報酬においては,要介護度の改善に伴っ て報酬単価が低くなることがあり,要介護者の状態を改善させることで事業所の収入が減少する ことがあるため,その取り組みに対するディスインセンティブが生じているとの指摘があり,自 立支援によって要介護度を改善させた事業所に対してインセンティブ措置を導入すべきとの意見 が出された。  2017 年 6 月 9 日閣議決定された「未来投資戦略 2017」においては,次期介護報酬改定にお いて,「効果のある自立支援について評価を行う。」とされ,また,同閣議決定で,「自立支援に 向けた介護サービス事業者に対するインセンティブ付与のためのアウトカム等に応じた介護報酬 のメリハリ付けについて,具体的内容を検討し,2018 年度介護報酬改定で対応する。」とされた。 しかし一方で,利用者の意に反して身体的な自立を強いるような自立支援については懸念する声 があげられている。( 厚生労働省 2017) 3,自立支援に向けた事業者へのインセンティブ付与に関する取り組み事例について (1) 品川区の取り組み事例  品川区では,2013 年度より,要介護度の改善に対しての報奨金を交付する「品川区要介護度 改善ケア奨励事業」を開始した。「入所・入居施設における良質な介護サービスの提供により, 当該施設に入所し,または入居する品川区被保険者の要介護度の軽減が図られた場合に対して, その軽減に至るサービスの質を評価し,当該施設職員の意欲向上を図る」ことを目的とした事業 である。奨励金は,①要介護度が 1 段階改善された場合は月額 2 万円,② 2 段階改善された場 合は月額 4 万円,③ 3 段階改善された場合は月額 6 万円,④ 4 段階改善された場合は月額 8 万 円が,最大で 12 カ月間,人数分交付されることになっている。つまり,要介護度が 1 段階改善 された入所者が 10 名で,その 10 名全員が 6 カ月間当該介護度を維持した場合,2 万円× 10 名 × 6 ヶ月という計算になり,事業所には 120 万円の報奨金が交付されることになる。本事業へ の参加は,「品川区施設サービス向上研究会」に加入していることが条件となっているが,事業 開始初年度 10 施設であった参加施設も,2016 年度には 15 施設となっている。交付実績とし ては,① 2013 年度交付対象者 47 名,奨励金交付額 680 万円,② 2014 年度交付対象者 86 名, 奨励金交付額 1246 万円,③ 2015 年度交付対象者 98 名,奨励金交付額 1438 万円と,増加傾 向にあることが報告されている。また,参加施設からは,「職員の利用者に対する姿勢にも変化 がでてきた。」,「職員の気持ちが前向きになり,入所者にもよい影響を与えている。」,「ケアの質 が評価され,やりがいにつながっている。」等の意見もあげられていることが報告されている。( 品 川区 2015) (2) 川崎市の取り組みについて  独自の指標に基づき,要介護度,ADL,IADL または QOL の維持・改善の取組に応じて報奨 金 5 万円を支給。2 年間のモデル事業を経て,2016 年 7 月より第 1 期「かわさき健幸福寿プロ

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ジェクト 要介護度等改善・維持評価事業」を実施している。要綱には,「介護サービス事業所 の要介護度等改善・維持のための取組の適正な評価及び成果に応じたインセンティブの付与」, 「無理なく安心して介護サービスを利用でき,いつまでもお元気でいていただけるよう,介護サー ビス事業所の要介護度等改善・維持のための取組を評価するとともに,プロジェクトの推進によ り,国による介護保険制度にサービスの質を評価する新たな仕組みの導入を目指すことを目的と する」ことが規定されている。報奨金は,要介護度を 1 段階改善するごとに,または,要介護 度の改善に至らなくとも,独自の指標に基づいた評価で ADL が合計 5 項目以上向上していた場 合に,改善した事業所に対象者 1 人当たり 5 万円を付与する仕組みとなっている。報奨金の付 与以外にも,市長による表彰,認証シールの交付,市ホームページへの掲載,記念キーホルダー の進呈なども行っている。本事業への参加は,介護サービスを行っている全ての事業所が対象と なり,参加希望事業所は,市の募集に応募する形で参加する。モデル事業開始時には 137 事業 所であったが,2017 年度第 2 期の募集では,401 事業所まで参加施設が増えている。  第 1 期の結果報告によると,応募があったのは 246 事業所で,対象となった参加利用者は 214 名。要介護度が 1 段階以上改善された利用者は 17 事業所,34 名であった。34 名の内,要 介護度が 2 段階以上改善された利用者は 8 名いた。また,要介護度の改善には至らなかったも のの,ADL の向上項目が合計 5 項目以上あった利用者が 4 名いた。改善の 34 名,ADL 項目向 上の 4 名の計 38 名が報奨金付与の対象と評価された。  プロジェクトに参加した事業所へのアンケート調査結果によると,①事業所の意識変化と具体 的な行動の変化では,80%を超える事業所で職員の意欲の向上等のプラス面での良い効果が生 じていることがわかった。また,職員の意識が変わる事で,日常実施しているケアに対する姿勢 や取り組み方などに対する変化が少しずつ生まれ,利用者,家族にも良い影響を与える相互作用 が生じていることも確認できた。②利用者やその家族の意識変化と具体的な行動の変化では,プ ロジェクト参加にあたり,利用者本人に本プロジェクトの趣旨説明等が不十分であった点があげ られた。利用者及び家族への説明と同意を丁寧に行っていく事が今後の課題とされた。③インセ ンティブの効果では,インセンティブは取り組みへの満足感や,参加した証としての実感が得ら れたという評価があった一方で,本プロジェクトの利用方法や内容についての検討が指摘された。 また,報奨金以外の,市長表彰,認証シールの進呈なども概ね高評価であった。( 川崎市 2018) 4,介護保険制度における自立支援の捉え方に関する議論について  介護保険法においての「自立支援」の概念については,法の第 1 条において,介護等を要す る状態にある者が,「尊厳を保持し,その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことがで きるよう,必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う」と規定され,また,法 の第 2 条においては,「要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう」,また,「要介護状態 になった場合においても,可能な限り,その居宅において,その有する能力に応じ自立した日常 生活を営むことができるよう」配慮しなければならない点について規定している。  これらの介護保険法における「自立支援」の概念を踏まえた時,法の概念と,要介護等の改善 が見られた事業所にはインセンティブを付与するとの規定における「自立支援」の捉え方との間 に齟齬が生じるのではないかとの懸念から、職能団体等からの意見が表明されているところであ る。 (1) 全国老人福祉施設協議会「いわゆる『自立支援介護』について ( 意見 )」 沖縄大学人文学部紀要 第 22 号 2019

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 自然の摂理をありのままに受入,社会で支え合うなかで,「今できることを,できるだけの間, できるままいてもらう」ことにも,「次第にできることが限られていく中にも,そのひとらしく 暮らしていける環境をつくる」ことにも,大いに価値があります。それらを実現するための入浴 や排泄等日常生活の支援を評価せず,要介護度が軽度になることだけを尺度とすることは,自然 の摂理を無視し,生活の質を軽んずるものであり,介護保険制度の歴史に逆行するものです。仮 にいわゆる「自立支援介護」が敷かれた場合,特養において利用者の意に反して栄養を投与し, リハビリを重ね,歩行器で歩かせることを強いるような「QOL の向上を伴わない ADL 回復の 目的化」が促進されるリスクが危惧されます。( 全国老人福祉施設協議会 2016) (2) 日本社会福祉士会「高齢者の自立支援・重度化防止に向けた取組の推進に対する声明」  加齢に伴う身体的機能の低下は誰もが避けることができない現象であるにも関わらず,要介護 度の改善や要介護認定率を評価尺度としたインセンティブあるいはディスインセンティブ措置 は,要介護状態を悪とする偏見を助長するとともに,適正なサービス利用を阻害し,安心して介 護サービスを利用できなくなる恐れがあります。また,高齢者本人の意思に基づかない身体的自 立に偏重した自立支援は,介護保険法の目的である高齢者の「尊厳の保持」に反することになり, 制度の根幹を揺るがすことになりかねません。( 日本社会福祉士会 2017) 5,「自立支援」,「自立」に関する概念整理について  「自立支援」,或いは「自立」の定義づけ等の概念整理の議論は重要な論点である。介護保険法 が掲げる「自立支援」の捉え方として,「尊厳を保持し,その有する能力に応じて自立した日常 生活を営むことができるよう」,「可能な限り,その居宅において,その有する能力に応じ自立し た日常生活を営むことができるよう」に配慮することが規定されているが,「自立」の概念整理 までの規定はされていない。  歴史的観点,職能団体の倫理綱領での規定,先行研究からの知見等から概念整理について考察 してみたい。 (1)「IL(independent living 自立生活 ) 運動」における自立支援について  1970 年代からアメリカの重度身体障害者の人たちによって唱えられた「IL(independent living 自立生活 ) 運動」によって,従来の自立観とは異なった新たな自立の概念が生み出された とされる。従来の「自立観」では,「自分でできる」ことを自立の意味としてとらえていたものを, 新たな自立観として,たとえどのような障害があったとしても,また,労働などが出来なかった としても,或いは 24 時間,365 日全面的な介護に支えられていたとしても「自立」はあり得る という立場で唱えたものであった。「自分でできる」ことを指す「自立」から,「主体的に生きる」 ことを指す「自律」へと,「じりつ」の概念を新たな自立観へと変換したものだったと言える。「自 己選択・自己決定・自己責任」の原則に則った「自立」ととらえたものである。この概念は障害 者福祉だけに留まらず,高齢者福祉,その他の領域にも広まりをみせている。 (2) 日本社会福祉士倫理綱領における自立支援について  日本社会福祉士倫理綱領の倫理基準 1)利用者に対する倫理責任「5. 利用者の自己決定の尊重」 には,「社会福祉士は,利用者の自己決定を尊重し,利用者がその権利を十分に理解し,活用し ていけるように援助する。」,また、「6. 利用者の意思決定能力への対応」には,「社会福祉士は, 意思決定能力の不十分な利用者に対して,常に最善の方法を用いて利益と権利を擁護する。」と 規定されている。

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(3) 日本介護福祉士倫理綱領における自立支援について 介護福祉士倫理綱領「1. 利用者本位,自立支援」には,「介護福祉士はすべての人々の基本的人 権を擁護し,一人ひとりの住民が心豊かな暮らしと老後が送れるよう利用者本位の立場から自己 決定を最大限尊重し,自立に向けた介護福祉サービスを提供していきます。」と規定されており, 「自分でできる」という意味だけでなく,自己決定を最大限に尊重したうえでのサービス提供に 努めるよう求めている。要介護者が生活してきた時代や文化的背景を十分に尊重しながら,この 「自立」という概念をとらえていく必要がある。また,医学モデルの視点に立った「機能的・能 力的向上」に偏重した自立観でのアプローチとならぬよう十分配慮が必要であると考えるところ である。 (4) 自立支援について先行研究からの示唆について  遠藤ら (2003) がデイサービス利用者の自立支援に関する研究の中で①「自分に自信が持てる ようになり,地域の中での役割が持てるようになった事例」,②「自分の趣味を再発見し,地域 でのボランティア活動を始め意欲的に生活できるようになった事例」,③「障害の受容ができず に閉じこもりがちだったが,自分の気の合う仲間ができたことで介護保険サービス以外のサーク ル活動にも積極的に参加するようになった事例」を報告している。  ここでは必ずしも要介護度等の改善に着目した評価ではないが,介護保険法が規定する,「尊 厳を保持し,その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができる」,「要介護状態になっ た場合においても,可能な限り,その居宅において,その有する能力に応じ自立した日常生活を 営むことができる」や、介護福祉士倫理綱領が規定する,「一人ひとりの住民が心豊かな暮らし と老後が送れる」などの概念に照らした時,様々な働きかけによって「自立支援」につながった 事例として報告されたものである。  渡部 (2007) が,介護支援専門員が自立支援の概念をどのようにとらえているかを調査した研 究によると,①「利用者の身体的自立」ととらえた回答が 28.2%,②「決定の自立」が 23.0%, ③「自分らしく生きる」が 20.2%,④「前向きに生きる」が 12.7%,⑤「利用者の力を引き出す」 が 1.9%との結果が報告されている。自立支援の捉え方が同じ専門職間でも多様であること,また, 自由記述のコメントによると,いわゆる従来型の「自分でできる」という意味で「自立支援」を とらえている回答が多くあったこともわかっている。  八田 (2005) は,『「自立」という概念が,軽度要介護者を中心に「サービスからの自立」を求 めるものであったり,「サービスへの依存」という捉え方による,「サービス利用は悪」というよ うな偏見へとつながるものであったりしてはならない。そもそも「自立支援」とは,要介護者の 生活を多面的にとらえて,個人の「自己決定」,「自由意志」を尊重しながらそれぞれの状況に応 じた支援を行うことではなかっただろうか。「サービスからの自立」という捉え方の対局にある といってよい,「サービスに支えられた自立」という視点での捉え方も「自立」の概念には合致 する。』と述べている。 6,考察  これまで,「サービス利用者は様々な介護保険サービスを組み合わせて利用している場合が多 く,要介護度や自立度等の指標が改善したとしても,提供されている介護サービスのうちのどの サービスがどの程度効果的だったかを判断するのが困難」,「事業者がアウトカム評価を意識す るがあまり,改善が見込まれる高齢者を選別していく危険性」( 社会保障審議会介護給付分科会 沖縄大学人文学部紀要 第 22 号 2019

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2017) や,「利用者の意に反した QOL の向上を伴わない ADL 回復の目的化が促進されるリスク へ」( 全国老人福祉施設協議会 2016),「介護保険法の目的である高齢者の尊厳の保持に反するこ とになり,制度の根幹を揺るがすことになりかねない」( 日本社会福祉士会 2017) などの危惧が 指摘されてきた。しかしながら,介護サービスの質を向上させ,科学的根拠に基づいた介護サー ビスを提供することは今後の為にも大変重要であるし、結果としては自立支援・重度化防止に向 けた取り組みが評価された事業所に対してインセンティブを付与することは,従業員の介護への 意欲を高める効果も期待でき、より良い介護サービスの提供に寄与するものであるとの観点も議 論され、本制度改正に至ったことになる。  現在の介護保険総合データベースでは,サービス種別はわかっても,提供されたケアの内容ま では記録されていない。例えば同じ通所介護でも,本人ができる部分はしてもらい,できない部 分は介助しつつ残存機能を活かしながら機能訓練を行うような介護を行う場合と,本人ができる 部分についても介助をしてしまう介護でも,データベース上ではどちらも「通所介護」を利用し ているという記録になり,ケアの内容が把握できない為,データベースを分析してもどのような ケアが自立につながっているのかを科学的根拠に基づいて判断することができないのが現状であ る。  今後の取り組みとしては,提供されたケアの内容までデータベース化し,同じサービス種別の 利用であっても,ケアの内容までもが区別できるようにすることによって,そのデータベースを 分析する事で「科学的根拠に基づいた介護」の普及,実現を目指すというものである。  具体的に例をあげると,例えば何らかの要因により半側に麻痺のある高齢者がいたとする。現 状における自力での歩行限界距離は 3 メートル程度であったものが,3 か月後には杖を使用すれ ば 20 メートル程度までは自力歩行が可能なレベルまでになったというケース。20 メートル程 度まで自力歩行が可能になった背景には,どのような要因が関与していたのかという分析を行う ということである。単に「通所介護を週に 3 回利用」というデータに留まらず,そこでの提供 されたサービス内容を分析することで,科学的根拠に基づいて状態の改善が見られたことを証明 できるというものである。  2018 年度からデータベースの構築を行い,2019 年度から試行運用,2020 年度から本格運用 を目指すものとされ,要介護度等の改善が,どのような介護サービスがどのように実践されるこ とで得られた結果であるのかを科学的に裏付けられた根拠として,国民に可視化していこうとい う動きである。要介護度等の改善に寄与した場合のインセンティブ付与を行う際の公平性を担保 する科学的な指標となるものであり,場当たり的な,何となく行われる介護ではなく,科学的な 根拠を持った介護の普及・実現が期待できるものである。  しかし,これまでの議論,先行研究からの示唆にもあるように,「自立」或いは「自立支援」 に対する概念整理が必ずしも成熟し,統一した合意を得られていない現状にあることも確かであ り,医学モデルの視点に立った「機能的・能力的向上」に偏重した自立観,或いは「サービス利 用を悪」とするような自立観に傾倒しないよう心を配っていくことが必要であると考える。  また,介護福祉士養成課程のカリキュラムにおいては,求められる介護福祉士像として「尊厳 と自立を支えるケア」が掲げられ,ここでもまた「自立支援」が強調されている。しかし,同時に,「心 理的・社会的支援の展開」,「QOL( 生活の質 ) の維持・向上」などの,対象者を人間総体として とらえた概念,生活者そのものしてとらえた概念が重要視されていることから,対象者の一側面 だけではなく,生活そのものに関わる専門職であることが求められていることがわかる。現在,

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介護の現場においては,従来型の「自立」の概念と,自己決定などの意味も含んだ「自律」の概 念の両方を含めた意味合いで,「自立」ととらえることが多いが、欧米の文化で育まれた「自己選択・ 自己決定・自己責任」の概念を,そのまま何の文化的配慮もなく我が国で受け入れたわけではな いだろう。つまり,欧米には,幼少の頃より「自分で決める」,「自分で責任をとる」という文化 が根付いていると思われる一方,我が国では,どちらかというと,「親や先生の言う事を聞く」,「周 囲に合わせる」,「他人に迷惑をかけない」等の教育も含めた文化が色濃いと思われ,特に今の時 代の高齢者には当てはまる部分が多いとも思われる。また,重度の知的障害や,重度の認知症な どの当事者に対して,「自己選択・自己決定・自己責任」を強いること自体が本来の概念にそぐ わないであろう。  福祉現場の眼差しとして大切にされるキーワードとして,「尊厳の保持」「自立支援」「生活の 豊かさ」「本人の望む生活」などがあげられる。今回の介護保険制度改正による要介護度等の改 善によるインセンティブの付与が,偏った意味での「自立支援」にならぬよう望みたい。  今後も公のデータ、先行の科学論文の分析及び福祉現場の介護職員等への聞き取り等の調査を 通じて,本制度改正に伴う自立支援・重度化防止に向けた取り組みに関する研究を更に進めてい きたいと考えている。 【謝辞】  本稿執筆にあたり,助言・激励をいただいた多くの先生方,また,日頃の懇談の中で現場での 悲喜こもごもについて生き生きとしたお話をお聞かせいただいた多くの福祉現場職員の皆さまに この場をお借りして,改めて心よりの感謝をお伝えいたします。 【文献】 介護保険情報 (2017.3) 社会保険研究所 pp.16-33 厚生労働省 (2017.8.29)「介護サービスの質の評価・自立支援に向けた事業者へのインセンティブ」社会保障 審議会第 145 回介護給付費分科会資料 厚生労働省 (2016.11.25)「介護保険制度の見直しに関する意見」社会保障審議会介護保険部会第 69 回資料 厚生労働省 (2018)「平成 30 年度介護報酬改定の主な事項について」 品川区 (2015.3) 品川区要介護度改善ケア推奨事業実施要綱平成 27 年 3 月 6 日区長決定要項第 68 号 川崎市 (2018.3) かわさき健幸福寿プロジェクト第 1 期参加事業所アンケート調査結果について 川崎市健康 福祉局長寿社会部高齢者事業推進課 全国老人福祉施設協議会 (2016)「いわゆる『自立支援介護』について ( 意見 )」 日本社会福祉士会 (2017)「高齢者の自立支援・重度化防止に向けた取組の推進に対する声明」 日本社会福祉士会ホームページ 社会福祉士の倫理綱領 日本介護福祉士会ホームページ 介護福祉士会倫理綱領 人間の尊厳と自立 実務者研修テキスト第 1 版 日本医療企画 pp.3-10 遠藤慶子他 (2003)「デイサービス利用者の自立支援と評価」田園調布学園大学『人間福祉研究』pp.63-80 渡部律子 (2007)「介護支援専門員における職業倫理「自立支援」の理解度と実践度合い」関西学院大学『研 究紀要』2007 pp.49-63 八田和子 (2005)「介護保険制度改革における「自立支援」の政策的含意」大阪府立大学『研究紀要』2005  pp.63-76 厚生労働省 (2018) 第 13 回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会参考資料 沖縄大学人文学部紀要 第 22 号 2019

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Research on independence support and efforts to prevent severity accompanying

long-term care insurance system (1)

参照

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