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数学教育と理科教育との関係についての一考察(7)-薬の効果に関するグラフ表現に着目して-

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Academic year: 2021

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数学教育と理科教育との関係についての一考察(7)-薬の効果に関するグラフ表現に着目して-

A Study of the Relation between Mathematics Education and Science Education (7) :

Focusing on the Graphic Expression in the Effects of Drugs

○久保良宏*1,安藤秀俊*2

KUBO Yoshihiro*1,ANDOH Hidetoshi*2

*1元北海道教育大学旭川校数学教育教室 *2北海道教育大学旭川校理科教育教室 *1

Former Hokkaido University of Education, Asahikawa Campus, Department of Mathematics Education

*2

Hokkaido University of Education, Asahikawa Campus, Department of Science Education

[要約]本稿は,中学校の数学と理科との関係をグラフ表現に着目して検討するものである.数学における関数 のグラフの指導は,式表現との関係から系統的になされるが,理科における化学などの指導では,実験値などか ら経験や感覚にも目を向けて 2 変量の変化を解釈させる場面がある.社会的文脈におけるグラフ表現の解釈では, 後者のような指導が重要であると考えた.この点を踏まえ,本稿では薬(医薬品)の効果や特徴についてのグラ フ表現から,グラフのイメージ的解釈も含めて,理数教育におけるグラフ表現の学習場面について提案する. [キーワード]数学教育と理科教育,理数教育,グラフ表現,イメージ的解釈,薬の効果 Ⅰ.はじめに 中学校数学科における関数のグラフの指導では, 「正比例」から「2 乗に比例する関数」に至る一連 の学習において,関数的な見方として「対応する変 数の発見」,「対応する規則の発見」,「変化の仕方の 発見」などの視点(久保,1998 など)から,表や式 をもとにグラフが系統的に指導される. 一方,理科(特に化学)におけるグラフでは,表 から点をプロットする場面はあるが,式と関連づけ ることなくグラフについて検討される場面がある. それは,考察の対象の特性から,近似的であっても 数式化することが困難な場面が多いからであると思 われる.このようなグラフでは,横軸に変化させた 量,縦軸に変化した量をとることは数学と共通する 点があるものの,測定値(実験値)を直線や曲線で 結ぶといった活動が重視され,これは数学の中心的 な指導とは異なる. ところで,このような“式”を介さないグラフは 私たちの生活の中に多く見られ,さらにこのような グラフをどのように解釈するかは,数学と理科とを 関係づける学習場面であると考えた.グラフ表現は, 事象の関係を視覚的に捉える上で価値があるが,特 に社会的文脈におけるグラフの解釈は重要である. このような点に関して,本稿では薬(医薬品)の 効果や特徴を示したグラフ表現を例に検討する. Ⅱ.理科の教科書にみられる「グラフ表現」の例 中学校第 1 学年の理科の教科書(大日本図書平成 26 年度版,有馬,2014)には,次のグラフ表現があ る(p.130). 図 1 水とエタノールの混合物の加熱 図 1 は,章末問題の記述の一部であるが,実験装 置の図を示し,エタノールと水の混合物(1:1)を 加熱する実験において,エタノールの沸点が 78℃, 水が 100℃であることを示した上で,混合した液体 が沸騰し始める点(A~D)を答えさせるものである. ここでは,物質の性質や現象の理解を踏まえつつ も,経験などにも目を向けたグラフの解釈が求めら れると考える. Ⅲ.薬(医薬品)の効果とイメージ的な「グラフ表現」 数学と理科におけるグラフの学習を踏まえた上で, 本稿では薬(医薬品)の効果や特徴に着目する. それは,“薬”についての知識は医療従事者の専門 的な領域と捉えられるが,社会や環境の変化,健康 管理や病状の複雑化,また,それに対応するための

日本科学教育学会第44回年会論文集(2020)

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薬(医薬品)の多様性等々を考えると,これに対す る薬(医薬品)の選択が,批判的思考に照らしてな される必要があると考えるからである(久保,2019). ただし,薬を選択する場合,服用に対してのリス クの検討は重要であるが,我が国の医療システムで は,市販されている薬ではない場合,薬は医師によ って処方され,薬剤師によって投薬がなされ,これ を患者が服用(服薬)することになる.したがって, 調剤薬局で手にする薬は,患者の意思によって選択 されたものではないことの認識は重要である.しか し,投薬された薬に対して,自身の体質や特性に照 らして医師や薬剤師に要望を述べることは大切であ ろう.医療に対する関心が高まっている現代におい て,このような態度は,医療従事者が患者に求める ものでもあると考えられる. ところで,薬には症状を和らげる薬,効果を持続 させる薬,疾病を起こす原因をたたく薬(抗菌薬) などがあるが,それぞれに対応する薬は多様であり, 患者は薬の効果や特徴について認識しておく必要が ある.このような認識を深める上で,感覚やイメー ジに目を向けたグラフ表現は有効である. 「症状を和らげる薬」に着目すると,その代表的 な薬として「ロキソプロフェンナトリウム」と「セ レコキシブ」が挙げられる.児島(2018)は,この 2 つの薬の効果や特徴について,「ロキソニン」と「セ レコックス」を例に図 2 を示している(p.110). 図 2 「症状を和らげるための薬」と特徴 このグラフが何を示しているのか,そしてこの 2 つの薬の特徴は何かを知るには,このグラフ表現の 解釈が必要である.これは先に述べたように,薬剤 師などの医療従事者だけでなく,様々な疾病に直面 すると思われる“私たち”にとっても重要である. この点を踏まえた上で,図 2 について考えてみる と,横軸の「朝,昼,夕」は薬を服用する時刻(主 に,朝食後,昼食後,夕食後)を示していると想定 できる.また,縦軸は「鎮痛効果」となっているこ とから,薬の効果が表れている度合い(薬の血中濃 度)を示していると考えられる.そして,「ロキソニ ン」は「朝」,「昼」,「夕」と 1 日 3 回の服用が必要 であるが「セレコックス」はその必要はないこと. また,「ロキソニン」は比較的速く,「セレコックス」 は長く効く薬であると解釈することができる. このようなグラフ表現では,表や式を介していな いことから,経験的,感覚的に解釈する力が求めら れるであろう. ところで児島(2018)は,鎮痛薬について説明す る中で,頭痛に関して図 3 を示している(p.295). 図 3 「痛みのイメージ」のグラフ表現 このようなグラフ表現は,医療側と患者側の両者 において痛みの説明で有効であると思われるが,経 験や感覚に加えてイメージ的に解釈するこのような グラフを数学や理科の学習で目にすることは少ない. Ⅳ.おわりに 本稿では,数学や理科におけるグラフ表現につい て検討した上で,薬(医薬品)の効果や特徴を例に, グラフ表現における経験的,感覚的,そしてイメー ジ的な解釈の場面について述べた.特に,式を介さ ないグラフ表現は私たちの身のまわりに多く見られ ることから,このようなグラフ表現を解釈する学習 場面を,理数教育の観点から検討する必要があると 考える.このような“解釈する力”は,すべての人 が身につけなければならないリテラシーと捉えるこ ともできよう. 文献 有馬朗人ほか(2014):理科の世界 1 年,大日本図書. 児島悠史(2018):薬の比較と使い方 100,羊土社. 久保良宏(1998):関数的な考えを身につけさせるた めには,教育科学 数学教育,№498,明治図書出 版,5-12. 久保良宏(2019):薬(医薬品)に関するグラフ表現 と批判的思考に照らしたその解釈についての一考 察,科研中間報告書(代表:松元新一郎),130-135.

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